社員提案権と評議員提案権
社団法人の社員は、社員総会で話し合う議題・議案を提案することができます。これを社員提案権といいます。一方、財団法人の評議員は評議員会で話し合う議題・議案を提案することができます。こちらは評議員提案権と呼ばれています。社員提案権と評議員提案権は、社員および評議員の経営への参加を促す制度となっているのです。
横綱の暴力問題で揺れている財団法人日本相撲協会でも、今後の方針についてさまざまな議題・議案が提案されていることでしょう。
では、そもそも議題と議案の違いとは何か。評議員提案権と社員提案権はそれぞれどのような制度となっているのか、具体的に見ていきましょう。
目次
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議題と議案の違い
一般法人、公益法人を問わず社団法人の社員は社員総会の議題と議案を提出する権利を持ちます。これは財団法人の評議員も同じです。議題と議案は明確に異なるものですが、混同して使用するなど間違った使い方も目立ちます。
「会議の目的」か「決議事項か」
議題とは、会議(例:社員総会、評議員会)の目的そのものであり、議案とは議題のなかの決議事項のことです。例えば、役員選任の件を「議題」とすると、「Aさんを理事に選任する」というのが「議案」となります。定款変更の件を「議題」とすると、「主たる事務所の住所を東京都◯区◯町1-1」から「主たる事務所の住所を千葉県◯市◯町2-2」に変更するのが議案となります。
会社法でも同じ
会社法303条、304条では議題と議案の違いを次のように定めています。
303条 |
株主は、取締役に対し、一定の事項(=議題)を株主総会の目的とすることを請求することができる |
304条 |
株主は、株主総会において、株主総会の目的である事項(=議題)につき議案を提出することができる |
会社の株主は株主総会の議題(=開催する目的)を提出する権利を持ち、決議事項である議案を提出する権利も持っています。
つまり、議題にない事項を議案とすることはできません。議題に含まれる事項についてのみ決議可能となるわけです。
社団法人の社員提案権とは?
一般社団法人と公益社団法人の社員は、理事に対して社員総会の目的である議題と決議事項である議案を提出することができる「社員提案権」を持ちます(一般社団法人および一般財団法人法43条、以下一般法と呼ぶ)。
議題・議案はそもそも理事(理事会を設置している場合は理事会)の決議事項ですが(一般法38条)、社員提案権は社員が社団法人の運営に積極的に参加できるように定めた権利となります。社員による議題の請求があったにも関わらず、理事等がこれを社員総会の議題としなかった場合、100万円以下の過料に罰せられます(同342条10号)。
社員提案権には、一定の事項について社員総会の目的とする「議題提案権」(同43条)、社員総会で決議事項となる「議案提案権」(同44条)、議案の要領を社員に通知する「議案要領の通知請求権」(同45条)があります。
それぞれを見ていきましょう。
- 社団法人の社員提案権
議題提案権 |
一定の事項について社員総会の開催の目的とすることができる |
議案提案権 |
社員総会で議題提案権の範囲内で決議事項とすることができる |
議案要領の通知請求権 |
議案の要領を他の社員に通知するよう請求することができる |
議題提案権(43条)
社員は、理事に対して一定の事項を社員総会の目的として請求することがでます。ただし、「理事会を設置していない社団法人」と「理事会を設置している社団法人」と条件は異なります。
理事会非設置の社団法人の場合、社員一人ひとりが理事に対して議題を提案できます。また、提案期限もなくいつでもその権利を行使することができます。
一方、理事会設置の社団法人では、総社員の議決権の30分の1以上の議決権を持つ社員に限り、一定の事項を社員総会の議題として提案することができます(※定款で30分の1を下回る割合に定めることも可能)。また、提出期限にも制限があります。社員総会の日の6週間前(※定款で6週間を下回る期間を定めている場合にはその期間)までに提案しなければなりません(同43条2項)。
なお、議題の内容は「理事の選任」「定款の変更」などとなります。
議案提案権(44条)
社員は、社員総会で、その目的である事項(=議題)に関する議案を提出することができます。具体的な決議事項であり、「理事選任」を議題とするなら、「A氏を理事とする」とするのが議案です。
ただし、議案が法律や定款に違反する場合、提出することはできません。また、過去に提出したのと実質的に同一の議案で、社員総会で総社員の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合も、提出することができません(同44条但書)。
議案要領の通知請求権(45条)
社員は、理事に対して、社員総会の日の6週間前までに社員総会の目的である事項(=議題)について、提出しようとしている議案要領を他の社員に通知するよう請求することができます。
ただし、「理事会を設置していない社団法人」と「理事会を設置している社団法人」と条件は異なります。
理事会非設置の社団法人の場合、社員一人ひとりが理事に対して議題要領を他社員にも通知するよう提案できます。(同45条)
一方、理事会設置の社団法人では、総社員の議決権の30分の1以上の議決権を持つ社員に限り、議題要領を他社員にも通知するよう提案(※定款で30分の1を下回る割合に定めることも可能)。また、提出期限の制限は同じです。(同45条但書)
ただし、議案が法律もしくは定款に違反する場合は提案できません。また過去に提出したのと実質的に同一の議案で、社員総会で総社員の議決権の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合も、提出することができません(同45条2項)。
財団法人の評議員提案権とは?
一般財団法人と公益財団法人の評議員は、評議員会の目的である議題と決議事項である議案を提出することができる「評議員提案権」を持ちます。
議題・議案が理事会の決議事項である点は社団法人と同じです。評議員会を開くには理事会の決議が必要ですが(同181条)、評議員は自ら評議員会を開くよう理事に請求することができます(同180条)。
評議員提案権は評議員が財団法人の運営に積極的に参加できるように定められた権利です。したがって、評議員による議題の請求があったにも関わらず、理事がこれを評議員会の議題としなかった場合、100万円以下の過料に罰せられます(同342条10号)。
評議員提案権には、一定の事項について評議員会の目的とする「議題提案権」(同184条)、評議員会で決議事項となる「議案提案権」(同185条)、議案の要領を評議員に通知する「議案要領の通知請求権」(同186条)があります。
それぞれを見ていきましょう。
- 財団法人の評議員提案権
議題提案権 |
一定の事項について評議員会を開催する目的とすることができる |
議案提案権 |
評議員会で議題提案権の範囲内で決議事項とすることができる |
議案要領の通知請求権 |
議案の要領を他の評議員に通知するよう請求することができる |
議題提案権(184条)
評議員は、理事に対して一定の事項を評議員会の目的として請求することがでます。評議員一人ひとりが理事に対して議題を提案できます。なお、提案は評議員会の日の4週間前(※定款でこれを下回る期間を定めている場合、その期間)までにしなければなりません。
また、議題の内容は「理事の選任」「定款の変更」などとなります。
議案提案権(185条)
評議員は、評議員会で、その目的である事項(=議題)に関する議案を提出することができます。具体的な決議事項であり、「理事選任」を議題とするなら、「B氏を理事とする」とするのが議案です。
ただし、議案が法律や定款に違反する場合、提出することはできません。また、過去に提出したのと実質的に同一の議案で、評議員会で議決に加わることができる評議員の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合も、提出することができません(同185条但書)。
議案要領の通知請求権(186条)
評議員は、理事に対して、評議員会の日の4週間前(※定款でこれを下回る期間を定めている場合、その期間)までに評議員会の目的である事項(=議題)について、提出しようとしている議案要領を他の評議員に通知するよう請求することができます。
ただし、議案が法律や定款に違反する場合、提出することはできません。また、過去に提出したのと実質的に同一の議案で、評議員会で議決に加わることができる評議員の10分の1以上の賛成を得られなかった日から3年(※定款でこれを下回る期間を定めている場合、その期間)を経過していない場合も、提出することができません(同186条2項)。
このほか、議案要領の通知請求権の規定は会社法でも見られます。305条では、株主は、取締役に対し、株主総会の日の8週間前までに、株主総会の目的である事項について提出しようとする議案要領をほかの株主に通知するよう請求することができます。
- 会社法の株主提案権
議案要領の通知請求権 |
株主は、取締役に対して株主総会の8週間前までに議案の要領を他の株主にも通知するよう請求することができる。ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の一以上の議決権又は三百個以上の議決権を6ヶ月前から引き続き持つ株主に限る |