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会社設立後は社会保険に未加入のままでも大丈夫?

会社を設立して、いよいよ事業を開始しようとする中で、社会保険の知識や手続きが追い付いていない企業がいます。知識が不十分であるため、会社設立をしても「従業員がいなければ社会保険に未加入でよい」という誤解や、「保険料負担を懸念して加入を後回しにしたい」という想いをもつ企業も少数ですがいます。

実際に厚生労働省が調査*した結果、未加入事業者は『保険料の負担が困難』『加入要件を知らなかった』『加入にメリットを感じない』という順番で加入手続きを行っていませんでした。しかし、社会保険に加入義務があるのにもかかわらず未加入の状況を続けると、最悪の場合過去にさかのぼって保険料の徴収を受ける事もあります(平成29年厚生労働省『社会保険の適用促進対策について』より)。

今回の記事では、会社設立をした後に必須になる社会保険と、フリーランスが加入するべき社会保険について詳しく解説します。社会保険の基本的な事項と制度の仕組み、社会保険の未加入の場合の対応や加入手続きについてご紹介するので、経営者・個人事業主の方は参考にしてください。

1 社会保険とは

社会保険とは

保険には公的保険と民間保険の2種類があります。

保険には公的保険と民間保険の2種類

公的保険は広義の「社会保険」と呼ばれているものです。国民皆保険制度を採る日本では、原則として国民全員が公的保険に加入していることになります。公的保険の保険料は、フリーランスか会社員か、そして住んでいる地域や収入によって異なります。

一方、民間保険は公的保険をより手厚くするための、あるいはカバーできない部分を補うための、民間会社による任意加入の保険です。民間保険には様々な種類があり、保険の種類によって保険料も様々となります。

社会保険は、会社を設立したのちに加入する事が健康保険法第3条と厚生年金保険法第9条の法律上で義務付けられています。これは資本金額や従業員の人数等は関係がなく、たとえ従業員を雇わず社長一人の会社であっても加入義務が発生します。

社会保険は日本の社会保障制度の1つで、国民の生活を保障するためにある公的な保険制度になります。国民がお互いに支えあう『相互ふじょ』の考えを根本に持つ制度で、国民が全員給付を受ける事ができるとともに、保険料を支払いする事になります。

社会保険とは、以下の5つの保険の総称になります。

5つの保険

  1. ① 健康保険
  2. ② 厚生年金保険
  3. ③ 雇用保険
  4. ④ 労災保険
  5. ⑤ 介護保険

また、社会保険は広義と狭義の2つの使われ方をします。広義の社会保険は、上記5つの保険の総称になります。

一方で、狭義の社会保険は『医療保険*』と『年金保険』と『介護保険』の3つのことを指します。

さらに、上記③雇用保険と④労災保険を総称して、『労働保険』といいます。労災保険料は全額会社負担です。雇用保険料は会社と本人がそれぞれ負担をしますが、会社の方が高い負担割合となります。

≪社会保険一覧≫

社会保険(広義) 社会保険(狭義) 健康保険
年金保険
介護保険
労働保険 雇用保険
労災保険

*医療保険とは、病気やケガや出産や死亡に対する保障です。会社員とその家族が加入する『健康保険』と、自営業者や無職の人が加入する『国民健康保険』があります。

1-1 健康保険

身近で利用する機会が多いのが、健康保険になります。医療に関する保険のことで、病気または怪我などによって生じた医療費に対する保険となります。健康保険に加入していれば、けがや病気の治療で病院に行った際にかかる医療費などの保障を受けられます。

医療費の自己負担は3割(小学生以上70歳未満の場合)、それ以外は自己負担2割です。自己負担以外の7割あるいは8割は、健康保険によって賄われることになります。また、病気や怪我等によって休業することになり十分な給料が出なくなった際に支給される「傷病手当金」も、健康保険の保障となります。

健康保険を運営している組織は様々あります。企業の規模が大きく、加入する従業員が多い場合には企業独自の組合を立ち上げる事もあります。同様に、同一業種で働く従業員が加入する保険組合もあります。愛知県自動車販売健康保険組合石油製品販売健康保険組合など様々な組合があります。自社の業種にどんな組合があるかを調べたい場合、企業が設立する健康保険組合の連合組織である健康保険組合総合会(通称:けんぽれん)の組合検索が活用できます。

また、中小企業の従業員やその家族の多くは『通称:協会けんぽ(正式名称:全国健康保険協会)』に加入しています。中小企業向けの健康保険はかつて社会保険庁が運営していましたが、平成20年10月1日に設立された全国健康保険協会に運営が移りました。

1-2 厚生年金保険

老後や障がい者となったときの生活を保障するための保険です。基礎年金といわれる国民年金とは別に給付される年金になります。厚生年金は法人や中規模な個人事業主*で働く従業員が加入します。厚生年金保険に加入する事で、65歳から老齢厚生年金を受給できます。受給する年金の金額は、納めてきた保険料によって異なってきます。

厚生年金の保険料は、企業と加入者=従業員がそれぞれ50%ずつを負担します。保険料の算出方法は、標準報酬月額**と賞与に保険料率を掛けることで算出されます。

なお、2017年(平成29年)4月1日より健康保険と厚生年金保険の加入対象が拡大しています。短時間労働者の方が対象となる要件は厚生労働省のホームページで詳細を確認する事ができます。

≪短時間労働者が社会保険加入の対象となる5要件≫

短時間労働者が社会保険加入の対象となる5要件

  1. ① 1週間の所定労働時間***が20時間以上の勤務をする事
  2. ② 1ヶ月の所定内賃金****が88,000円以上である事
  3. ③ 雇用期間が1年以上である事が見込まれる事
  4. (雇用期間が1年未満でも、雇用契約書等に契約更新の旨が記載ある場合等も含みます)
  5. ④ 学生ではない事
  6.  (夜間、通信、定時制の学生は対象となります。)
  7. ⑤ 以下のどちらかの条件に該当する事
    ・従業員が501名以上いる企業で働いている
    ・社会保険加入を労使で合意している、従業員が500名以下の企業で働いている

なお、労使の合意は厚生年金保険の被保険者と上記①~④の要件を満たしている労働者の1/2以上の同意を得て、事業主が管轄する年金事務所に申し出を行う事が必要です。

*そのほか、飲食店を除外する常時勤務する従業員が5名以上いる個人事業も含まれます。また、従業員が4名以下であっても申請をする事で任意加入する事ができます。
**毎年の4月から6月に払出しされる給与をベースに計算する金額をいいます。
***所定労働時間とは、労働条件等で予め決まっている労働時間をいい、残業時間は含みません。
****所定内賃金とは、労働条件等で予め決まっている賃金をいい、賞与や残業代や通勤手当などは含みません。

この厚生年金保険による老後用の年金は、現行制度では65歳を支給開始年齢としていますが、度々開始年齢の引き上げや引き上げ検討がなされています。

1-3 雇用保険

雇用保険は、仕事が無くなって所得が無くなっても生活を送るための失業給付金や、再就職支援を行うため教育訓練給付金や、高齢者の雇用を促進するための『高年齢雇用継続給付』や育児や介護のための休業を支える『育児休業給付金』や『介護休業給付金』を支える保険になります。休業または失業によって給料が無くなる場合に、この保険により手当が給付されることになります。また雇用保険には、就業中であっても教育訓練を受けた際に給付される保険金もあります。

雇用保険の対象となるのは一定時間以上を働く労働者になります。一定時間を満たす条件は以下の3つの要件になります。以下の条件を満たす場合には、正規雇用や非正規雇用に関わらず加入の対象になるため注意が必要です。

≪雇用保険の対象となる3要件≫

雇用保険の対象となる3要件

  1. ①初めて働く日から31日間以上を勤務する見込みがある事
  2. ②1週間の所定労働時間が20時間以上の勤務をする事
  3. ③学生ではない事(夜間、通信、定時制の学生は対象となります。)

なお、1週間の所定労働時間が20時間未満になるなどの理由から、雇用保険の加入対象者から外れる事も実務上発生します。そのような場合には、継続して同一企業で勤務する場合でも、勤務条件が変更になる前日から退職した事と同様の扱いになり、被保険者資格喪失手続きを行う事が可能です。

被保険者資格喪失手続きを行うと、離職票の発行と給付金額や受け取り日数が決定します。所定勤務時間が20時間未満の状態で勤務をしながら求職活動を行う事が条件になりますが、雇用保険の給付を受ける事ができます。雇用保険の給付期間は、離職日の翌日から1年間を原則とします。

1-4 労災保険

労災保険は、正式名称は労働者災害補償保険といい、通称“労災”をいいます。雇用されて働いている労働者が仕事中の「業務災害」と通勤中の「通勤災害」といわれるケガや病気などになり障害や死亡した場合を保障するための保険になります。最近ではうつ病も、業務に起因すると認められることによって、労災保険が適用される事例もあります。

健康保険も同様にケガや病気を保障しますが、対象の範囲が限定されている点と補償の厚さが変わってきます。まず、対象が勤務中や通勤中と限定されます。対象者も勤務者に限定され、家族などは対象となりません。その分、療養にかかる費用に自己負担は発生せず、休職した場合の手当ても健康保険の傷病手当より手厚くなっています。

補償内容については、複数の種類に分かれています。主だったものとしては、療養の補償である『療養補償給付』や障害に対する補償である「障害補償給付」、働くことができなくなった場合の『休業補償給付』や死亡した際の遺族への補償である『遺族補償給付』などがあります。

労災保険は、従業員が1名でも雇用する事務所には加入が義務付けられます。労災保険の対象となる従業員は正規・非正規等の雇用形態は問いません。派遣労働者を含めた全ての従業員が対象となります。一方で、請負契約を基に働く場合や代表取締役などの賃金を受け取っていない役員は対象外になります。但し、中小企業の代表となる事業主には特別加入制度が適用できます。

労災保険は事業所・企業単位が加入します。また保険料も企業が支払いします。保険料の計算方法は、従業員への給与や賞与などを含んだ賃金総額に労災保険料率を乗じて算出します。労災保険料率は業種ごとに異なります。業種ごとの保険料率など詳細は厚生労働省のホームページで確認する事ができます。

1-5 介護保険

介護保険とは、介護サービスを受けるための保険です。介護保険料は社会保険加入者の内40歳以上が納付義務対象となり、健康保険に上乗せをする形で納付することになります。
要支援者や要介護者などの介護が必要な人に介護費用の一部を補償する制度であり、市区町村が保険者となって、40歳以上の者が被保険者となって介護保険料を支払いします。介護保険の費用負担は50%が保険料になり、残り50%は税金になります。税金の内訳は50%が国になり、残りの25%ずつは都道府県と市区町村になります。

介護保険の加入者は65歳以上になって要支援や要介護の状態になった際には、介護保険サービスを自己負担1割で受ける事ができます。また、40歳以上65歳未満であっても特定疾患と診断された場合には介護保険サービスを自己負担1割で受ける事ができます。特定疾患の詳細は厚生労働省のホームページで確認できます。

1-6 社会保険に加入する意味

社会保険の種類と内容が理解できると、加入すると保険料の支払いの負担が増える以上に企業としてのプラス要素が大きい事が理解できるのではないでしょうか。

就職先を決めようとする場合、社会保険の完備の有無は選択に決定的な影響を与えます。つまり、他の企業と採用を競うような場面においては、社会保険は必須になります。また、事業規模が小さい企業であっても、建設業などの企業から仕事を受注する場合には仕事の依頼先の選定が決まる要素にもなっています。

社会保険に加入する意味として最も大きいものは、従業員の安心が得られるという事です。少子高齢化が進んでいく日本社会においては、従業員が安心して能力を発揮できる環境を用意するのが、会社経営の上で必須な事になります。

健康保険がなければ自分自身や扶養家族である家族までケガや治療を受ける事自体を困難にしてしまいます。労災保険に加入していなければ、従業員が仕事中の事故でケガを負い障害が残る場合には企業側の補償は非常に高額になります。その補償額が原因で倒産という事もありえます。

さらに、厚生年金や介護保険は高齢者になってからの安心や安定のための保険であり、雇用保険は万が一の失業に対する補償になります。
これらの安心を提供する社会保険に加入している事は、加入していない企業と比較して従業員の会社に対する安心感やロイヤリティは大きく変わってきます

加えて、社会保険に未加入の場合は中小企業が求人に利用する機会の多いハローワークが利用できません。また、厚生労働省の助成金などの欠格事由に該当します。

2 会社設立後に社会保険に未加入の対応策

会社設立後に社会保険に未加入の対応策

前述のとおり、社会保険への加入が会社設立後は必須です。ただし、加入義務が発生しない例外は以下の場合のみになります。

社長一人で会社を運営している場合でかつ役員報酬がゼロ、または役員報酬が約12,000円前後の毎月の保険料を下回る場合などの物理的に社会保険料を支払いする事ができない場合、社会保険に加入する事ができません。保険料を納める事ができない事が明らかな場合は保険運用者側が断る場合があります。その場合が唯一の例外になります。

社会保険に未加入の企業のパターンは、以下の2つになります。

  1. ① 社会保険に加入を希望するが加入できていない企業
  2. ② 社会保険に加入できるが、まだ加入していない企業

それぞれ詳しく見ていきましょう。

2-1 社会保険に加入を希望するが加入できていない企業

事業を立ち上げたばかりの頃で自分自身の給与を捻出できない状況だと、社会保険の加入ができなくなります。その場合でも、健康保険と年金保険については代替策が用意されています。

・健康保険

健康保険は以下の2つの代替案があります。

  1. ① 国民健康保険への加入
  2. ② 協会けんぽでの任意継続

・国民健康保険への加入

国民健康保険は、他の保険制度を利用していない場合には原則誰でも加入できます。勤めていた企業の退職時受取書類の一つである『社会保険の資格喪失証明書』があれば、市区町村の自治体で加入手続きを行う事ができます。

国民健康保険は各市区町村によって保険料が異なってきます。また、扶養家族がいる場合には家族の一人一人に保険料が掛かってきます。保険料の仕組みは管轄する市区町村に確認する事をお勧めします。

・協会けんぽでの任意継続

起業する前に勤めていた会社で協会けんぽに加入していた場合、任意継続を選択できる場合があります。扶養家族がある場合には、協会けんぽであれば扶養者の加入で家族分の保険が賄えるため、費用面でのメリットが発生します。

ただし、任意継続できるための要件や、任意継続被保険者の資格喪失要件などがあります。

≪任意継続のための2要件≫

  1. ① 資格喪失日前日までから数えて、2ヶ月以上継続した被保険者期間がある
  2. ② 資格を喪失した日から20日*以内に申請する

*申請先である自宅住所地を管轄している全国健康保険協会都道府県支部が営業日ではない日が20日目にあたる場合は、翌営業日までとなります。

≪任意継続の資格喪失になる5要件≫

  1. ① 任意継続が開始されてから2年を経過した場合
  2. ② 保険料の支払いが納付期限を超過した場合
  3. ③ 就職などにより健康保険や共済組合などの被保険者資格を取得した場合*
  4. ④ 後期高齢者医療のための被保険者資格を取得した場合*
  5. ⑤ 被保険者が死亡した場合

*被保険者資格を取得した場合には、『資格喪失申出書』を提出しなければなりません。任意継続における申請に必要な書類や納付方法については全国健康保険協会のホームページで確認できます。

・年金保険

企業に勤務している場合に加入している厚生年金保険は、退職と同時に被保険者資格は喪失します。厚生年金保険の資格喪失後、20歳から60歳未満の場合は基本的には国民年金に切り替えを行う事になります。切り替えには手続きが必要になります。手続きを行わず、年金の未加入期間が発生してしまうと、将来の年金受領額が下がってしまう場合があるので注意が必要です。

切り替えの手続きは、自宅住所地を管轄している市区町村の国民年金担当窓口で実施できます。実際の手続きを行おうとする前には事前に必要書類等を確認しておくことをお勧めします。
また、配偶者の被扶養者となる事も可能です。その場合には、手続きは配偶者の勤務先が行います。

また、国民年金だけであると将来的に受け取る年金額が不安だと思う方もいます。その場合には、国民年金の保険料に月々400円をプラスして支払いする事で将来の年金額を増やす『付加年金』制度を利用する事も可能です。その他にも国民年金基金や小規模事業共済などの制度でも将来の年金額を増やす事が可能です。

2-2 社会保険に加入できるが、まだ加入していない企業

社会保険に加入できるが加入していないという状況は、いわゆる未加入の状態となります。

2015年から厚生労働省は社会保険の未加入事務所調査を強化しています。この年から国税庁と情報連携を開始し、従業員へ給与を支払いしている事業所を把握できるようになり、調査が格段と効率的になりました。その結果、加入指導によって適用となった事業所の数が2010年には年間4,808件だったのに対して、2015年は92,550件と19.2倍に増加しています*。

*平成29年厚生労働省『社会保険の適用促進対策について』より

〇社会保険未加入事務所への手続き

年金事務局は未加入事業者に対して、社会保険加入要請の通知書をまずは送付します。
もし、社会保険に未加入の場合にはこの通知書が到着した段階で加入の手続きを開始すべきです。この通知書を受けて加入手続きを行う事業者を年金事務局は自主的な加入と判断されるためです。

自主的な加入については、ペナルティがありません。年金事務局は加入の申請があった日から加入として、過去の未加入期間があったとしてもその分の加入や保険料の請求は実施していません。

しかし、通知書を受け取ってなお未加入のままでいると、立入検査の前段階として年金事務所への呼び出し文書通知が行われます。この段階で応じて加入手続きを行っても加入日以降の保険料を支払いする事が可能です。

しかし、呼び出しにも応じない場合には事業所への立入調査が行われ、強制加入の手続きが開始されます。強制加入の段階になると、2種類のペナルティが発生する可能性があります。

  1. ① 追徴金
  2. ② 罰金

・追徴金

追徴金は最大で、保険料の徴収の時効期間である2年までさかのぼって発生します。2年さかのぼって支払いとなると場合によっては一括で支払するのが困難になるケースもあります。また、すでに従業員が退職している場合でも支払い義務が事業者にはあるため、事業主の負担が増えるケースもあります。

社長と従業員が3名いて、社長の保険料が15万円で社員1名分が5万円だとしても、2年間の追徴金合計では720万円になります。この720万円を事業者と被保険者で50%ずつ負担する事になります。社長は180万円になり、社員は60万円になります。

[追徴金合計計算](社長分15万円+社員分5万円×3人)×24ヶ月
[社長・社員負担計算](社長分)15万円×24×50%(社員分)5万円×24×50%

毎月の給与からの天引きであれば社員分であれば2.5万円になりますが、それが2年分一括でとなると支払いに窮してしまいます。そのため、結局事業主が肩代わりする事が多くなります。そのため、事業主の資金繰りが非常に困難になり、最悪の場合社会保険料倒産といった事になりかねません。

なお、通知の到着の有無に関わらず、年金事務所から追徴の指導がなされるケースもあります。それは未加入の事業所で働く従業員が社会保険の未加入を直接年金事務所へ相談してきた場合に発生します。昨今、社会保険加入の義務化は一般的に認知されています。そのため、社会保険に加入していないことに不満を持つ従業員が年金事務所に相談するケースも発生しています。

このような場合、追徴金が発生するかは従業員の希望が優先されます。そうなると、従業員は社会保険に遡りを選択した方が得な場合が多くあります。遡った期間の本人負担の保険料の支払い義務が発生しますが、同期間に支払いしていた国民年金保険料や国民健康保険料は還付される金額が支払金額を上回る場合です。

・罰則

罰則は6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金になります(健康保険法第208条)。罰則は正当な理由がなく、立入検査において求められた文書やその他の物件の提出や提示をしない。または、立入検査職員の質問に答えない、または虚偽の答えを行う。あるいは立入検査の実施を拒否や妨害行為を行う、といった場合に適用されます。

3 社会保険の加入手続きの方法・手順・必要書類

社会保険の加入手続きの方法・手順・必要書類

社会保険の加入手続きの方法をそれぞれ解説していきます。まず、各種保険別の加入要件と期限、届出先を整理します。

健康保険と厚生年金保険と介護保険は会社設立後5日以内に届出が必要ですが、年金事務局にて一度に実施する事ができます。健康保険と厚生年金保険の届出書類を両方もって、会社設立後にはすみやかに年金事務局に行けるように準備をしておく事が必要です。

また、雇用保険と労災保険は従業員を雇用してから届出が必要になる点は同じですが、届出先が異なります。但し、両方ともに加入要件が発生後10日以内という期限は変わらないため、従業員の雇用を決めた時点から届出の計画と用意が必要です。

設立当初から従業員の雇用を行う場合もあります。その場合、健康保険・厚生年金保険の加入を済ませたのちに、雇用保険と労災保険の各保険の加入をする事になります。その場合、4つの加入手続きを10日間の中で実施する必要があり、会社設立時の比較的忙しい中ではタイトなスケジュールになります。そのため、設立準備段階から準備を進める必要があります。

なお、労災保険と雇用保険の届出の順番は、労災保険を先に実施します。なぜならば、雇用保険の届出の際の必須書類に労災保険届出にて労働基準監督署の受理済みの『労働保険の保険関係成立届』の事業所控えが必要になるからです。

《各種保険の加入要件と届出先》

保険名称 加入要件と期限 届出先
健康保険 会社設立した日から5日以内 年金事務所
厚生年金保険 会社設立した日から5日以内 年金事務所
介護保険 健康保険加入時に自動的に加入 年金事務所
労災保険 従業員雇用の翌日から10日以内 労働基準監督署
雇用保険 従業員雇用の翌日から10日以内 公共職業安定所(ハローワーク)

3-1 健康保険と厚生年金保険の加入手続き

健康保険と厚生年金保険の届出は同じタイミングで、年金保険事務所に届出します。そのため、届出書類等も同じ書類を利用します。また、健康保険に加入する事で、介護保険の加入も完了します。

必要書類は以下の書類になります。なお、全ての書類はダウンロードが可能です。また、届出は事業所在地を管轄している年金事務所の窓口持参と郵送対応と電子申請も可能です。なお、電子申請について詳細は日本年金機構のホームページで確認できます。

⦅健康保険 必要書類と添付書類⦆

① 健康保険・厚生年金保険新規適用届
必須添付書類:法人登記簿謄本原本(原本取得後90日以内の発行に限ります)
条件付添付書類:会社所在地確認書類(現在の会社住所が登記住所と異なる場合) 

② 健康保険・厚生年金保険被保険者取得届

③ 健康保険被扶養者(異動)届
必須添付書類:被扶養者各自の健康保険被保険者証
条件付添付書類:課税(非課税)証明書(扶養者の前年度年間所得が103万円以上130万円未満となる場合)

基本的に必要な書類は①健康保険・厚生年金保険新規適用届と②健康保険・厚生年金保険被保険者取得届になりますが、その企業の役員や従業員に扶養家族がいる場合に③健康保険被扶養者(異動)届の提出も必要になります。また、それぞれに必須の添付書類と条件付きの添付書類があります。

〇健康保険・厚生年金保険新規適用届(以下「適用届」という)

適用届は、会社が健康保険と厚生年金保険に初めて加入するための届です。

条件付き添付書類は、鄭州する謄本の登記住所から移転等をして住所が変更されている場合に現在の会社所在地を確認できる書面が必要です。具体的には、現在の会社事務所の賃貸借契約書の写しや会社契約を行っている公共料金の領収書などがあります。詳細は年金事務局の窓口に問い合わせすることが可能です。

年金事務局は、事業所在地を管轄している年金事務所になります。基本的なことではありますが、管轄外の年金事務所では受付できません。管轄している事務所は日本年金機構のホームページで確認できます。

〇健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届(以下「資格取得届」という)

資格取得届は、役員や従業員などが健康保険と厚生年金保険に加入するための届です。
資格取得届には添付書類は必要ありません。但し、以下の場合のみ添付書類が必要になります。

①60歳以上で、前職の退職日当日に再雇用された場合
必要書類は、以下のAとBまたはCになります。
A:就業規則と退職日が記載された退職辞令(写し)
B:再雇用の雇用契約書(写し)
C:退職と再雇用のそれぞれの日付に対する事業主の捺印がされている証明書

②国民健康保険組合に継続して加入し、一定の要件に該当する場合で、国保組合の理事長が認めた場合
必要書類は、健康保険被保険者適用除外承認申請書になります。

〇健康保険被扶養者(異動)届

役員や従業員の扶養家族が健康保険に加入するための届けになります。扶養家族とは、被保険者の収入で養っている家族をいいます。被扶養者は、被保険者が健康保険に加入する事で健康保険の給付を受ける事ができます

被保険者が家族である被扶養者を経済的に養っている事が条件になります。被扶養者に該当するのは、通常『配偶者』と『18歳以下の子供』『60歳以上の家族』など、被扶養者の範囲と認定条件に合致した人になります。

≪被扶養者範囲≫

  1. ① 内縁の関係である事も含んだ配偶者である*
  2. ② 養子も含んだ子や孫や兄弟姉妹の関係、また養父母を含んだ父母等の直系尊属である*
  3. ③ ①と②以外の3親等以内の義父母等の親族である**
  4. ④ 内縁の関係にある配偶者の父母と子供(連れ子)**

*同居でなかった場合も含みます。
**同居である場合に含みます。また、内縁の配偶者の死亡後も含みます。

被扶養者には上記の範囲に含まれている上で以下のような認定条件を満たしている必要があります。主だった条件は以下になります。

  • ・後期高齢者に該当しない
  • ・被保険者がその家族の生活を経済的に負担している
  • ・被扶養者の年収が家族の年収の2倍以上である
  • ・家族の年収が130万円*未満である

*60歳以上の家族または障害年金を受給している家族は年間180万円未満となります。

3-2 労災保険の加入手続き

雇用保険の届出は、会社所在地を管轄している労働基準監督署に届出します。従業員を雇用した日の翌日から10日以内に届出を行う必要があります。

届出に必要な書類は以下になります。書類は事前に労働基準監督署で受け取る事もできますし、ダウンロードも可能です。また、届出の方法は窓口対応と電子申請と郵送対応の3種類になります。電子申請は厚生労働省のホームページから実施できます。また、郵送対応を行い控えが必要な場合には、原本および写しと返送用切手や封筒が必要となります。

⦅労災保険 必要書類と添付書類⦆

保険関係成立届
必須添付書類:法人の登記事項証明書(原本)
労働保険概算保険料申告書

保険関係成立届は、労災保険の加入を行います。労働保険概算保険料申告書は、概算保険料の申告と納税を行うための申請になります。概算保険料は、保険に加入した日から年度末日までの従業員に支払う給与や賞与などの賃金総額見込みに保険料率を掛けて計算した概算の保険料になります。

〇保険関係成立届

保険関係成立届は、『一元適用事業』と『二次元適用事業』に企業が行う事業によって分類されます(詳細は後述します)。一元適用事業と二元適用事業では労災保険と雇用保険の納付方法が異なり、保険料納付を行うために付与される労働保険番号の付与のされ方が異なってきます。

なお、保険関係成立届に関しては一元適用も二元適用も従業員が入社した日の翌日から10日以内に労働基準監督署で届出を行う事は共通しています。

・一元適用事業と二元適用事業とは

一元適用事業とは、労災保険と雇用保険の2つの保険料を1つにして一元的に納付する事業者となります。一元適用事業は“二元適用事業以外の”全ての事業者が該当します。二元適用事業は、労災保険と雇用保険の2つの保険料をそれぞれ個別に納付する事業者となります。二元的適用事業となる業種は以下になります。

≪二元的適用事業となる業種とその理由≫

①都道府県及び市区町村、これらに準ずるものが行う事業
労災は適用されず、公災が適用となります。

②港湾労働法適用をうける港湾運送業
従業員が従事する業務内容によって、労災保険料率が異なってくるためです。

③農林・畜産・養蚕・水産業
労災保険と雇用保険の双方の保険が以下の要件に合致する場合、任意適用事業となります。

(労災保険の任意適用事業)

  • ・個人経営で5名未満の従業員が従事していて、特定の危険や有害な作業を主に行う事業ではない農業を営む場合
  • ・個人経営で従業員は常時雇用しておらず、年間延べ300人未満の労働者使用数となる林業を営む場合
  • ・個人経営で5名未満の従業員が従事する畜産、養蚕または水産を営む場合
  • (雇用保険の任意適用事業)
  • ・個人事業主で5名未満の従業員が従事している場合

④建設業
下請けの現場作業員の労災保険は、元請の労災保険が適用されます。そのため、請負金額をベースに保険料を算出する必要があるためです。

〇労働保険概算保険料申告書

労働保険概算保険料申告書には、労働保険料として、労災保険と雇用保険の両方の概算保険料を記載します。

労災保険料は、従業員が労働災害にあった際の補償です。そのため、企業が加入し保険料を支払いします。従業員の給与から労災保険料を天引きすることは違法行為になります。
一方で雇用保険料は、事業主負担分と労働者負担分の双方があります。但し、負担比率は事業主の方が大きくなっています。

労災保険料の計算は、賃金総額に労災保険料率を掛けて計算できます。労災保険料率は、労災リスクの大きさによって異なってくるため事業種別に決まっています。事業種別の料率詳細は厚生労働省作成の労災保険料率表で確認できます。

雇用保険料の計算方法は、給与額または賞与額に雇用保険料率を掛けて算出します。なお、雇用保険の対象となる賃金の詳細は厚生労働省の資料で確認できます。雇用保険料率も事業所別に決まって、0.3%~1.2%の幅になっています。こちらも厚生労働省の資料で詳細が確認できます。

3-3 雇用保険の加入手続き

雇用保険の届出は、会社所在地を管轄している公共職業安定所(以下「ハローワーク」という)に届出します。会社設立時点で従業員の雇用を決定している場合、または設立後に雇用が決定した場合には、それぞれ設立日や雇用した日の翌日から10日以内に届出を行う必要があります。

届出に必要書類は以下の書類になります。書類は事前にハローワークで受け取る事もできますが、全てダウンロードが可能です。また、届出の方法は窓口対応と電子申請の2種類となります。電子申請については電子政府の総合窓口イーガブから実施できます。

⦅雇用保険 必要書類と添付書類⦆

① 雇用保険適用事務所設置届
必須添付書類:会社の登記事項証明書(原本)/事業証明書/工事契約書/不動産契約書/源泉徴収簿のいずれか
必須添付書類:労働保険保険関係成立届の事業主控
必須添付書類:労働者の雇用実態と賃金支払いの実態を証明する書類

② 雇用保険被保険者資格取得届

企業として雇用保険適用事務所となるための届出が、①雇用保険適用事務所設置届になります。そして、雇用した従業員が雇用保険に加入するための届出が②雇用保険被保険者資格届出になります。

〇雇用保険適用事務所設置届

雇用保険を適用される事務所の会社名や事務所住所や代表者名や事業内容について記入します。添付書類は事業所が実際に存在する事を確認する書類として、法人としては『事業種類』『事業を開始した日付』『事業経営の状況』『他の社会保険への加入状況』を証明する書類が必要になります。

その他の添付書類として、雇用保険加入時に労働基準監督署受理済みの労働保険保険関係成立届の事業所控えの提出が必要になります。
また、労働者の雇用実態と賃金支払いの実態を証明する書類が必要です。具体的には、『労働者名簿』『雇用開始から現在までの賃金台帳』『雇用から現在までのタイムカードなどの出勤状況が分かるもの』『雇用契約書』のいずれか必要になります。

〇雇用保険被保険者資格取得届

雇用保険の加入対象となる従業員を雇用した場合、雇用保険被保険者資格取得届(以下「資格届」という)を提出します。

資格届を行うと、雇用保険被保険証と被保険者に通知する事を目的とする雇用保険資格取得等確認通知書(以下「資格確認通知書」と呼ぶ)が交付されます。この資格確認通知書は、雇用された従業員の雇用保険加入手続きが完了した事を通知する事が目的となります。そのため、会社としては対象となる従業員に資格確認通知書に交付しなければいけません。

資格届は1回提出すれば終わりではなく、雇用保険の適応となる従業員を雇用する毎に届出が必要になります。具体的には入社日などが被保険者になった日になりますが、この日から翌月10日迄にハローワークで届出を行わなければなりません。そのため、どのような場合に被保険者になるのか、理解をしておく必要があります。

≪被保険者になる場合≫

①新規雇用
一般的な採用方法である『新卒採用』と『中途採用』に加えて、取締役等の役員だった者が除外されて新たな雇用関係で就労を開始した場合を含みます。

②日雇いからの切り替え
同じ事業主に雇用されることが、2ヶ月にわたって18日以上又は継続して31日以上発生した場合

③出向元への復帰等
65歳以上の者で出向元へ復帰した場合等

④その他、以下に該当する場合
・新たな適用事業となった事業で、従業員が雇用している場合
・出向を行った被保険者が出向先において新しく被保険者資格を取得した場合で、かつ出向が終了し出向元にて被保険者資格を再度取得するとき
・同じ事業主での雇用は継続しており、船員と陸上勤務などの船員ではない労働者との異動が発生した場合

3-4 脱退が発生した場合

社会保険は、従業員の退職などが発生した場合などに社会保険を脱退手続きが必要になります。そして、社会保険の脱退手続きにも期限があります。期限は退職した日から5日以内となっています。広義の社会保険の脱退手続きは狭義の社会保険と雇用保険の脱退手続きが必要です。

・社会保険脱退手続き

社会保険の脱退手続きは、会社所在地を管轄している年金事務所に必要書類を提出します。

≪社会保険脱退必要書類≫

健康保険・厚生年金被保険者資格喪失届
必須添付:退職者本人ならびにその扶養親族分の健康保険証

・雇用保険の脱退手続き

雇用保険の脱退手続きは、退職日から10日以内に会社所在地を管轄しているハローワークに必要書類を提出します。

≪雇用保険脱退必要書類≫

雇用保険被保険者資格喪失届
②雇用保険被保険者離職証明書
条件付き添付書類:(離職票の交付が必要な場合)出勤簿/賃金台帳/退職届など

雇用保険被保険者離職証明書は、失業給付金額を決定するための書類となります。そのため、離職後新たな就職先が決定している場合は、提出が必要なくなります。ただし、59歳以上の退職の場合には、提出が必須となります。また、本証明書は3枚つづりになっているため、ハローワークで事前に受け取っておくことが必要です。

また、退職時に従業員へ渡すものと受け取らなければならないものがあります。

従業員へ渡すものは、源泉徴収票と離職票になります。源泉徴収票は、退職者が退職したその月までに支払いをした給与・賞与と、社会保険料などを記載して退職後1ヶ月以内に渡す事が必要です。源泉徴収票は、その退職者がその年の年末調整(年内に再就職した場合)や確定申告(年内に再就職しなかった場合)に必要になります。

雇用保険脱退手続き完了後に、離職票‐1とあわせて従業員が希望する場合は離職票‐2を送付します。

退職する従業員から受け取るものは、健康保険証の他に名刺などの貸与しているものや社員証などになります。なお、健康保険を任意継続する場合でも健康保険証は変更となりますので、健康保険証を受け取る事は問題ありません。

4 フリーランスの公的保険とは

フリーランスの公的保険とは

フリーランスの公的保険には「国民健康保険」や「国民年金」があります。国民健康保険と国民年金も広義の社会保険の1つですが、社会保険には狭義の意味合いもあり、狭義の社会保険には国民健康保険と国民年金は含まれません。

狭義の社会保険とは、会社に属する人が加入する公的保険を表しているからです。そして狭義の社会保険にも、フリーランスにとっての国民健康保険と国民年金に対応するものがあり、それらは国民健康保険と国民年金よりも手厚い保障内容となっています。

社会保険には大別すると、「医療」「介護」「老後」「勤務中の怪我や病気」「休業や失業」に対しての保険がありました。それではフリーランスの公的保険には何があるのでしょうか。

一方、フリーランスにも医療と介護に関する公的保険があります。「国民健康保険」と呼ばれているものです。国民健康保険の医療費の自己負担は社会保険の健康保険と同様に、小学生以上70歳未満の場合は3割、それ以外は2割です。

国民健康保険の保険料は「世帯人数」と「前年度の1月1日から12月31日までの収入」に応じて決まります。一方、社会保険の場合の保険料は通常、4月から6月までの給料(報酬)額を元に決まります。

国民健康保険と社会保険の健康保険の保険料はそれぞれ算出基準が異なるため、一概にどちらが安いとはいえません。

フリーランスの介護保険も社会保険のそれと同じ内容であり、保険料も同様に40歳以上を対象に国民健康保険料に上乗せする形で納付を行うことになります。

国民健康保険と社会保険の健康保険を比べた際の最も大きな違いは、国民健康保険には「傷病手当金」が無い、ということです。

会社員の場合、会社の中には規定によって傷病時でも一定額の給料を保障されている場合がありますが、フリーランスにはもちろんそのような保障はありません。かつ、公的保険による保障がない、すなわち傷病手当金がありませんので、傷病時には収入が即途絶える恐れがあります。

次に、フリーランスの老後を保障する保険は「国民年金」となります。この国民年金ですが、社会保険の厚生年金保険と別物ということではありません。厚生年金保険とは国民年金が基礎になっているものです。

国民年金の保険料の支払者は本人のみですが、厚生年金保険は国民年金に会社が更に保険料を支払っています。その分、保険内容も国民年金より手厚くなっており、厚生年金保険の保険料支払者が本人と会社の2者であることの理由と結果がここにあります。

このことは、65歳以上で受け取る「老齢年金」が、国民年金の場合は国民年金部分にあたる「老齢基礎年金」だけであるのに対して、厚生年金保険の場合は「老齢基礎年金」+「老齢厚生年金」の2段構えとなることに表れます。

国民年金・厚生年金保険には、ともに65歳以上の「老齢年金」と、本人死亡時に家族に給付される「遺族年金」、そして障がい者となったときの「障害年金」の3種類があります。しかし、フリーランスの国民年金のその何れもは、厚生年金保険のそれに比べて前述の理由で少なくなる恐れがある、ということになります。

なおかつ、国民年金の遺族年金は子どもがいる家庭が対象になるものですので、子どもがいない家庭は支給対象外ということになります。また、障害年金に関しても、国民年金の方が厚生年金保険よりも対象となる範囲が狭いという特徴があります。

そして、社会保険における労災保険、すなわち勤務中の怪我や病気、休業や失業を対象とする公的保険は、フリーランスにはありません。労災保険とは、被雇用者すなわち会社員が対象となる保険だからです。

したがって、フリーランスがもし取引先を失ったり怪我や病気になったりするなどして仕事がなくなった場合には、公的保険から手当が出ることはありません。怪我や病気の際にフリーランスが公的保険で保障されていることは、国民健康保険で医療費の負担を減らすことのみです。

ただし、一部の運送業や建設業などの、保険で保護する必要があると認められる業種に関しては労災保険に「特別加入制度」を用いて加入することが認められています。

以上のように、フリーランスにとっての公的保険とは、社会保険に比べると遥かに心許ないものといえます。そのため、フリーランスは民間保険に加入して自分の身を自分で守る必要があります。これこそが、フリーランスが保険や年金に入るべき理由です。

5 フリーランスが入るべき保険や年金とは

フリーランスが入るべき保険や年金とは

それでは、フリーランスが入るべき保険や年金にはどのようなものがあるのでしょうか。まず1つには、医療保障を厚くするための「医療保険」があります。

医療保険は公的保険の(国民)健康保険に当たるもので、病気や怪我等により入院や手術を受ける際に支給される保険です。医療保険には、がんや三大疾病(がん、心筋梗塞、脳卒中)に特化したものなど、様々な種類があります。

また、フリーランスには就業不能時の公的保険というものはありませんが、民間保険には「就業不能保険」「所得補償保険」「収入補償保険」という保険があります。

この内の就業不能保険と所得補償保険は、病気や怪我で入院するなどして働けなくなった際に支給される保険です。収入補償保険とは、本人が死亡した際に家族に支給される保険となります。これらの3つの保険は、毎月保険金を受け取るタイプの保険となります。

本人が死亡した際の保険には、他にも「定期保険」と呼ばれるものがあります。こちらは死亡した際に一括して保険金を受け取るタイプの保険です。

毎月受け取るタイプと一括タイプとでは、例えば子どもがこれから受験を控えており、保険金をまとめて受け取っておいた方が良い場合には一括タイプ、というように、自身のライフプランに適した方を選ぶのが良いでしょう。

また、生涯に渡る死亡保障が付いており、途中解約した場合には解約返戻金という形でお金を受け取ることができるものとして「終身保険」という保険があります。解約返戻金には、子どもの受験時や働くのを止めたとき等の人生の様々な局面で活かすことで出来る貯蓄性を有する、という特徴があります。

特に家族がいるフリーランスの場合は、それぞれの保険の特徴と自身のライフプランとを勘案した保険に加入しておくことで、自分だけではなく家族を守ることに繋げることができます。

老後の保障となる年金保険ですが、フリーランスの公的年金である国民年金は、前述の通り厚生年金保険と比べて保障内容の薄いものとなります。その問題を解決する選択肢の1つが「個人型確定拠出年金(iDeCo)」です。

iDeCoとは、積み立てる掛金や運用する商品、60歳以降の受け取り方を自分で設定することが出来る年金制度です。フリーランスの掛金は毎月5,000円から上限68,000円までの1,000円単位となり、運用する商品には定期預金、保険、そして投資信託があります。

iDeCoには年金という特徴以外に税制面でも3つのメリットを持っています。1つ目は掛金が全額所得控除となること、2つ目は運用期間中の投資による運用益は非課税になることです。これは、通常の投資利益には20.315%の税金が発生することを考えると見過ごすことのできないものです。

そして3つ目のメリットは、一時金として受け取る際には「退職所得控除」を、年金形式で受け取る際には「公的年金等掛金控除」をそれぞれ適用することができるということです。

ただし、年金の受取額は運用商品によって変動するため掛金より多くなることもあれば少なくなることもあり得ます。また、加入時と毎月の手数料、そして加入先金融機関の口座管理料が発生し、かつ口座管理料は加入先の金融機関によって幅があるところは注意ポイントです。

年金保険を厚くするための方法には「国民年金基金」という選択肢もあります。iDeCoが私的年金であったことに対して、国民年金基金は公的な年金制度となります。

国民年金基金は従来の国民年金に上乗せする形となりますので、厚生年金保険が本人と会社の2段構えであったのと同じように、フリーランスも国民年金基金に加入することで、年金を2段構えとすることができます。

国民年金基金の掛金はiDeCoの場合と同様に、全額所得控除の扱いとなります。掛金は選択した給付の型、加入口数、加入時の年齢、性別によって異なります。

国民年金基金には、フリーランスであれば職種を問わずに加入できる「全国国民年金基金」と、事業による「職能型国民年金基金」の2種類がありますが、加入できるのはどちらか一方のみです。

安心して働くためには保険や年金は不可欠です。特にフリーランスは保険や年金を能動的かつ戦略的な運用することが、今後の人生を左右するものとなります。民間保険には保険内容や保険料、保険の受け取り方など様々な種類があります。自分が望んでいるものや、自分に合った保険はどれなのかをよく考えて保険を選ぶことが大切です。

6 まとめ

まとめ

今回は社会保険について、基本的な知識ならびに加入方法について、また万が一にも加入しない場合にはどうなるかについてなどを中心に解説しました。社会保険には「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「労働保険」の4つがあります。この内、健康保険、介護保険、厚生年金保険の保険料は、会社と本人が折半をして納付をすることになっています。

社会保険は安心して生活を送るための基盤ともいえる制度です。その制度の中で、企業が果たす役割の大きさや重要性もご理解頂けたはずです。納税者や加入者は従業員ですが、加入の手続きや納税は企業が行います。企業がその重責を果たしているからこそ、機能している制度・システムともいえます。

納税の負担を小さくする事はむずかしいですが、処理の負担を小さくする事は可能です。具体的には、正しく理解して計画的に時間をとって手戻りをなくす事や、専門家へ外部委託することも可能です。

逆に手間を増やしてしまうのは、正しく理解せずに間違えや手戻りを時間がない中で繰り返す事や、最悪なのは放置した結果強制加入となってしまう事です。
強制加入となって追徴金や罰則を受けた場合、当然資金繰りも悪化しますがそれ以上に従業員や取引先の信用を失います。そうなってしまうと、いよいよ事業継続が難しくなります。

一時的な忙しさや納税の負担はありますが、社会保険は正しく理解して加入する事をお勧めします。

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