決算書を活用して経営を改善しよう
決算書は企業の通知表とも例えられることがあるように、その企業の業績を如実に反映しています。決算書は税務署に税務申告をしたり、銀行に融資を依頼したりするときに見せるだけではなく、経営者が経営改善のために使用することもできます。
今回は決算書の内容から経営状況の何が分かるのか、それを見てどのように経営改善すれば良いのかについて説明します。
目次
銀行はなぜ融資先の決算書をチェックするのか
銀行は融資先を審査する際に必ず決算書をチェックします。事業計画書をもとに将来性に投資してくれることはほとんどありません。銀行にとって決算書とは融資先の信用力を審査する唯一無二と言っても良い資料なのです。なぜ、銀行はここまで決算書を重視するのでしょうか。
決算書は客観的に会社の状況を測る指標である
決算書はその会社の状況を測る客観的な指標となります。決算書を見ないとその会社が収益を上げているのか、財務的に安定しているのかということはわかりません。
例えば、一見したところ調子の良さそうな企業でも、実は運転資金が足りなくなるような強引な事業展開を行っていて、ある日突然黒字倒産してしまうかもしれません。
また、景気よくCMを流したり、安売りをしているので勢いのある会社だと思っていれば、実は赤字覚悟で販促をしている場合もあります。
このように、企業の外から見る調子が良さそうや成長している企業だという感覚はあてになりません。
本当に、その企業に勢いがあるのか、財務的に安定しているかどうかは決算書を見ないとわからないのです。
意外と思うかも知れませんが、実は経営者自身も自社の経営状況がわからなくなる時があります。いわゆるイケイケの経営者が資金ショートに気づかずに会社を倒産させてしまうケースは少なくありません。
会社を知らず知らずのうちに倒産させてしまうケースは、経営者が世の中の評判や、組織の雰囲気から勝手に会社の業績を予想して、それが実情とミスマッチしているときに発生します。
つまり、経営者が決算書をチェックして客観的に自社の経営状況を把握できていれば、意図しない倒産を防ぐことができるのです。
営業や技術職出身であったとしても、経営者は苦手意識から毛嫌いするのではなく、決算書を読んで自社の状況を把握できる最低限の財務リテラシーが必要になります。
決算書を見ればその会社の長所や短所がわかる
色々な会社の決算書を見比べて行くと、それぞれの企業の決算書に特徴があることがわかります。
同業者と比較して資本効率が高い企業、キャッシュリッチの状態でそう簡単に倒産しない企業、本業で得た利益をうまく新規事業への投資に使っている企業など、決算書にはその企業の強みや弱み、経営方針が如実に現れます。
決算書をよむ事ができれば、競合企業の強みや弱みを分析できますし、自社の決算書と比較して強みや弱みが見えてきます。この決算書を比べたときの違いは経営を改善する上での大きな手掛かりになります。
例えば、自社の粗利率はなぜ同業他社と比較してもこんなに安いのだろうか、売上に対して在庫を抱えすぎていないだろうかなど、改善すべき点は同業他社との比較から発見することができます。
決算書はただの数値に過ぎませんが、経営者がその数値を解釈することによって、ただの数値は経営改善の糸口になりますので、経営者は決算書を読み解く能力を身につけるべきです。
経営者、幹部が知っておくべき「決算書」とは?
ところで、先ほどから決算書と何の説明もせずに使用していますが、経営者が読み解く決算書とは何なのかをここで明確にします。
まず、決算書とは通称で、これが決算書という書類は存在しません。法人が業績や税務申告するときに提出する書類のことを全て決算書と言います。特に決算書の中でも特に貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つを財務三表と呼び、上場企業は財務三表の公開が義務付けられています。
経営者もこの財務三表についてはきちんと読みこなせた方が良いでしょう。また、財務三表と同じ位重要になるのが資金繰り表です。資金繰り表とは会社の資金繰りを管理する書類のことを指します。
名前だけ見れば、キャッシュフロー計算書と資金繰り表は似通っています。そして実際に掲載されている内容も似通っていますが若干役割が異なります。
どちらも会社の現金の増減に着目した書類であることには変わりはないのですが、キャッシュフローは決算期に投資家などに見せるために作成する書類で、資金繰り表は経営者や経理担当者が会社の資金繰りを監視するために使用する書類です。
決算書を活用して経営改善するのがメインテーマとなるため、貸借対照表、損益計算書、資金繰り表の3書類を決算書と定義して経営の改善にどのように活かすことができるのかについて説明します。
決算書を活用して経営を改善しよう
本記事ではオーソドックスな経営改善方法について説明しますが、優れた経営者は王道の決算書とはかけ離れたビジネスモデルを作ることによって、ビジネスの差別化を図り、成功を収めることがあります。
例えば、飲食業界ではFL比率という指標が重要だと言われています。FL比率とは売上に占める食材原価(Food)と人件費(Labor)の合計のことを指します。食材の原価は30%程度が目安でFL比率が60%を超えるとどの様な業態でも経営が厳しくなるというのが常識でした。
この常識に挑戦したのが「俺のイタリアン」や「俺のフレンチ」などの運営を行っている俺の株式会社です。俺のイタリアンは食材の原価率40%、俺のフレンチは食材の原価率が60%に達すると言われており、常識的には成立しない業態です。
しかし、俺の株式会社の飲食店はどこも一定の成果を収めています。これは俺の株式会社が業界の経営数値に関する常識に挑戦したからにほかなりません。
このように、決算書を活用して経営改善をする場合は、あえて原則から外すという手法が行われることもあります。
本記事に書いてあることはどれもオーソドックスな改善方法ですが、以降で説明する改善方法が絶対の正解ではありません。ユニークなビジネスモデルを作り出したい場合はあえて原則から外すということにも挑戦してみてください。
決算書を使った経営改善の目標
経営を改善するということは何らかの目標とする形があって、それに現状を近づける作業が発生するはずです。まずは、決算書はどのような形を目指すべきなのか、3つ決算書のそれぞれの理想のパターンについて説明します。
貸借対照表編
まずは貸借対照表の目指すべき形について説明します。貸借対象表とは会社の資産と借金、会社が持っている純粋な資本について表した書類です。貸借対照表について経営者が目標にすべきなのは会社の財務的な基盤を安定させることです。
いくら順調に業績を上げている会社でも、単年度だけを切り出せば、市場環境の変化や人材の大量離職など、何らかの要因によって一時的に業績が悪化する場合があります。しかし、業績が悪化したとしても、その時期を耐えきる資産が会社に存在したり、担保を元に銀行から融資を引き出したりすることができれば会社は危機を乗り越えることができます。
貸借対照表で目指すべきはちょっとやそっとの危機では倒産しない財務体質です。例えば、手元現金を潤沢に保有していること、負債に対して自己資本の割合が高いこと、無駄な資産や負債を抱えないことが財務的に安定している会社の条件です。逆に自己資本率が低かったり無駄な資産や負債を抱えていたり、手元に資金が少ないとその会社は財務的なリスクを抱えている経営改善するべき会社だと考えられます。
自社の貸借対照表を元に改善点を検討する場合は、もし経営の失敗によって多額の現金が必要になったとき工面できるだろうか、銀行は融資してくれるだろうかという眼で貸借対照表をチェックしてください。
損益計算書編
続いて損益計算書の見方です。損益計算書とは会社が作った売上が回収的に利益として手元に残るようになっているかを確認する書類です。法人税などは損益計算書をベースに税額計算のルールを適用して課税される利益を算出して、それに対する課税額を算出します。
損益計算書を見る際に重要なのはきちんと利益を生み出せる体質ができているかということです。「生み出せる体質ができている」であって「生み出せている」ではないことに注意してください。先ほど説明したとおり税金は損益計算書をベースに算出されるので、会社としては課税される利益を最小限にするというのがベーシックな経営者の戦略です。これについては後述します。
理想の損益計算書とはきちんと効率的に収益を上げられる事業があるにも関わらず、新規事業への投資などによってきちんと損を作れている状態のことを指します。
ちなみに、損益計算書を使って経営を改善する際に重要なのは、事業毎に損益計算書をすることです。全体の損益を見ても複数事業の複数経費が損益に影響を与えているはずなので経営者は具体的な対策を考えることができません。
経営改善というレベルに落とし込むためには事業毎にきちんと損益を把握できるような、税務署に提出するのとは別の管理用の損益計算書を作成する必要があります。
資金繰り表編
資金繰り表を使った経営改善のときにどのような着眼点で見れば良いのかについて説明します。資金繰り表において重要なのは、資金ショートが発生しそうなタイミングを作らないということです。
会社は唯一手元の現金がなくなった時に支払いができなくなって倒産してしまいます。つまり、資金ショートは会社経営にとって絶対悪なのです。しかし、期の途中で貸借対照表や損益計算書を作ってみても将来の資金ショートは予想することはできません。
貸借対照表も損益計算書も現金が経営でどのように循環しているのかは示していないからです。例えば、貸借対照表にはそのタイミングの現金や買掛金、借入金、売掛金の保有高は書かれていますが、その買掛金はいつ現金として入金されるのか、借入金や売掛金はいつ返済、支払いをしなければならないのかということは書かれていません。
また、損益計算書に出ている利益は数値上の利益で実際の利益額が会社の銀行口座から増えたり減ったりするわけではありません。例えば、損益計算書には減価償却費がありますが、本当にその金額分会社の現金が減るわけではありません。減価償却費は計算上の経費でいくら計上しても実際に現金が減ることはないのです。
このように、貸借対照表や損益計算書を見ても実際のお金の流れを把握することができないので、資金繰り表という専用の表が必要になります。
上場企業と非公開企業では目標が違う?
決算書を見る際にどのような決算書を目指すべきなのかについて説明してきましたが、もちろん企業が置かれている状況によっても目指すべき決算書の状況は異なります。上の基準は非公開のオーナー企業を想定して説明しましたが、上場企業の場合は目指すべき決算書の形が若干異なります。本章は最後に上場企業が目指すべき決算書の形について説明します。
上で説明したことは、会社の財務が安定するように現金を多く持ち自己資本比率を高めつつも、税金による会社からの資金流出を減らして、資金がショートしないだけの現金は常に確保してくださいということです。より端的に説明すると会社が現金を手厚く持っていればこの条件は突破することができます。
非公開のオーナー企業においてはこの方針は正しいです。会社に現金をおいても、自分で資産を持っても結局は経営者自身の資産です。そして、自分に会社の資産を移すと所得税がかかります。所得税の税率は法人税よりも高くなることが多いので会社にお金を残しておいた方がトータルの税金の支払いは少なくて済みます。
税金によるキャッシュの流出を少なくして、会社のいざというときの危機に備えるためには会社に現金を残しておく方が良いでしょう。
ただし、上場企業はそうはいきません。上場企業は特定個人の所有物ではないので、会社に余分な資産が貯まっている場合は、配当金という形で株主にきちんと還元する必要があります。また、資金が必要な場合は上場しているのだから新規株式を発行したりして市場から調達するのが筋です。
よって、上場企業はオーナー企業のように資産を貯め込むべきではありません。これは単なる倫理的な話ではなく、合理的にも説明します。
投資において一つの重要な判断基準がROEです。ROEとはどれだけ少ない資本で効率的に収益を生み出すかということです。無駄に内部留保を貯めこんでいる株主に還元しない企業は、投資先として魅力が薄く、企業の評価額が低くなってしまいます。
また、貯め込んでいる資産を吐き出させようとする投資家に狙われて経営が混乱する可能性があります。2002年には実際に東京スタイルという必要以上に資産を貯め込んだ企業がファンドに狙われて一時経営が混乱しました。
よって上場企業の決算書を活用した経営改善ではROEを高めて、きちんと利益を還元できるような体質を構築することを目標にすべきです。
貸借対照表をもとに経営を改善する
以上のような決算書に関する方針をもとに、具体的にどのように経営改善をしていけば良いのかについて説明します。まずは貸借対照表をベースにした経営改善です。
キャッシュリッチの経営にする
先ほども説明したとおり、オーナー企業における貸借対照表の改善とはすなわち現金をたくさん保有するようにするということです。これをキャッシュリッチの経営と呼びます。基本的にはこの体質を目指すのが良く、貸借対照表による経営改善について説明する以下のポイントも基本的にそのような体質になるためのチェックポイントになっています。
ただし、はじめに説明しておきたいのがキャッシュリッチの経営にもリスクがあるということです。キャッシュリッチの経営とはすなわち保守的な経営です。現金はただ保有しているだけでは収益を生みません。例えば、今の事業でコツコツ会社に資産を積み立てて、今の事業で収益を出せなくなったら、資産を取り崩して給料を払っていこう、会社をたたんで精算してしまおうというのなら、どこまでもキャッシュを貯め続けても良いですが、一部の老経営者を除きこのような経営判断は行わないはずです。
会社をもっと大きくしたい、今の事業で儲けられなくなったときに会社を支える次の事業の柱を作りたいと思っている経営者がおそらく大半だと考えられます。そのような経営者はキャッシュリッチにしつつも、その余ったキャッシュを使ってきちんと先行投資を行う必要があります。
経営者のほとんどの悩みは会社の資金繰りに由来するので現金を持っておくことは非常に大切ですが、現金だけたくさん保有しておいても仕方がありません。会社を成長させたい、永続的な企業にしたい場合は、キャッシュリッチにしつつも事業や組織に対する投資も行ってください。
貸借対照表をスリム化する
では、キャッシュリッチになるための経営改善のポイントについて説明していきますが、まず気をつけることは貸借対照表をスリム化することです。スリムな貸借対照表は経営上のリスクを減らすとともに、銀行からの評価も高くなります。
貸借対照表をスリム化するということはすなわち、現金以外の余計な資産や負債を持たないということです。例えば、余計な資産の中に「繰越在庫」が挙げられます。もちろん、小売業にとっては、在庫は重要で一般的に在庫が増えれば増えるほど売上があがるようになります。
しかし、在庫を持つということは非常に危険です。在庫は貸借対照表の流動資産に分類されるので、在庫がたくさんあってもいざとなったら売れるので別に良いと思われるかもしれませんが、実際には在庫は経営上のリスクになります。
在庫を抱えているということは、それだけ会社の現金を塩漬けにしているということですし、その在庫が狙っている価格で売れる保証はありません。場合によっては在庫を消化することができずにずっと塩漬けのままになるかもしれません。
例えば、2018年にブランドのバーバーリーが130億円分の売れ残りを焼却処分したことが話題になりました。ブランドの場合、二束三文で商品をたたき売りするとブランド価値が下がるのでたたき売りより焼却を選んだわけですが、130億円分の在庫は商品原価に換算しても数十億円分の価値があるはずなので、これによって会社の流動資産が数十億円分消えたことになります。
このように現金以外の資産や負債にはリスクが伴います。よって、経営上のリスクになるようなものをあまり持たないようにするのが経営上の鉄則です。
ただし、1つ注意しておきたいのが、負債は必ずしも悪いものではないということです。対銀行だけで貸借対照表のあり方を考えると、貸借対照表をスリム化して評価を高くして、条件が良いうちに借りられるだけ借りておくのがベーシックな方針です。
資産・負債のバランスに気をつける
貸借対照表のスリム化にあたって気を付けたいのが資産と負債のバランスです。
まず資産内のバランスについて説明します。資産は流動資産と固定資産に分類することができます。流動資産とは商品在庫や現金、売掛金のようなすぐに換金できる資産、固定資産とは土地や機械のようにすぐに換金できない資産のことを指します。
流動資産は先ほど説明した商品在庫のように一部不良化してしまうリスクはありますが、保有していてもほとんど危険はありません。
リスクになりやすいのが固定資産です。固定資産は製造で使う機械や店舗の建物などのようにビジネスに使うために必要な資産が含まれていますが、無駄な資産も含まれています。
例えば、いずれ工場を建てようと思って購入したけど計画がご破算になっても、売らずにおいて固定資産税だけ取られている土地や、入居者が埋まらなくて毎月赤字になっている投資用物件、バブル時代に値上がりを購入したけど、相場が暴落して売れに売れない絵画など、長年活動してきた大きな規模の会社にはそれだけなぜ持っているのかよくわからない固定資産が眠っています。このような資産は儲かっているうちに損をしてでも売却して現金化した方が良いです。
続いて負債内のバランスについて説明します。流動負債とは1年以内に返済しなければならない債務、固定負債とは返済まで1年以上期間がある債務のことを指します。もちろん、固定負債の方が流動負債よりも持っていてもリスクは低いです。
流動負債の割合が会社はせっかくお金を儲けても、返済に利益が回されてしまう自転車操業の会社になりがちです。銀行との交渉の仕方にもよりますが、できれば長期の借り入れができるように交渉して流動負債の金額が少ない財務体質を目指すべきです。
更に資産と負債のバランスについて説明します。もちろん、資産に対して負債が過剰に多い会社は危険です。
特に手元にある現金に対して、直近で支払わなければならない買掛金や銀行への返済の方が多いとすると、売掛金がどこか一社でも回収できなければ、銀行や取引先にお金を支払えないという状態に陥ります。
このような事態に陥らないために現金・預金をたくさん保有する会社を目指すべきですが、その過程で気をつけるべきなのか、流動資産と流動負債のバランスです。このバランスが良くないのならば、真っ先に経営改善すべきでしょう。
例えば、銀行から融資を受けて、現金を増やして長期負債も増えるけれども、流動資産と流動資産のバランス自体は良くする。固定資産を売却して流動資産を増やすなどの取り組みが必要です。
自己資本を厚くする
自己資本についても厚くする必要があります。負債と純資産の合計に対して純資産が占める割合を自己資本比率と言います。自己資本比率が40%を越えていれば安全圏内と言われていて、いざ融資が必要になっても追加の融資が受けられる可能性が高いです。
オーナー経営者の場合は、自分に給料として支払うか、会社に残しておくかどちらを選択しても自分の財産であることに変わりはありませんが、自己資本比率が低いうちは、自分の給料を上げるのではなく、会社に残して自己資本比率を高めるようにした方が良いです。
また、一歩踏み込んで株式の持ち分比率にも気をつけてください。例えば株式の2/3以上を保有している株主たちが同意すれば取締役を解任したり、会社を合併させたり吸収させたりする判断ができますし、3%以上を保有していれば株主総会で意見を言えたり、帳簿を閲覧することが可能になります。
よって、オーナー以外の第三者が株式を保有しているということは経営上大きなリスクになります。創業したての会社の場合、ほぼオーナーが株式を保有していますが、長く経営されてきて、従業員に株式を渡したり、相続などで創業者の株式が親族に分配されたりすると、株式は色々な所にばらばらになります。
そして、会社とはほとんど関係のない株主にある日突然経営に口をだされる可能性もあります。このような危険を回避するために株式の中身についてもきちんと経営改善するようにしてください。
損益計算書をもとに経営を改善する
続いて損益計算書を使ってどのように経営改善をすれば良いのかについて説明します。
適正な粗利を獲得する
損益計算書で最も気をつけるべき項目が、粗利率です。粗利率とは、売上から売上原価を惹いて残る粗利が売上に占める割合になります。
粗利率は経営改善において最も注目すべき指標です。粗利率の低いビジネスほど利益を出すために大量の資金が必要になりますし、価格競争によって利益率が低下したり、不意のトラブルで現金が必要になったときに経営危機に直結しやすくなります。
粗利率は業種・業態によって相場があります。例えば、先ほど説明した通り、飲食店は食品の原価を30%、つまり粗利率70%に押さえるのが基本戦略です。更に飲食店の中でも粗利率を細かく見ていくと、バーは粗利80%程度、回転ずしは粗利40%などというように業態によっても粗利率が異なります。
一部の薄利多売でも利益をだせる資本力のあるチェーン店を除けば、中小企業は相場よりも高い粗利率の会社を目指すのが鉄則です。粗利率の高い会社ほど、ビジネスに何か問題は発生した場合でも乗り越えられる可能性が高いです。
ただし、粗利率が高くなるように経営改善をしようという発想自体は簡単ですが、実際に粗利率を改善するためには、日々の経営努力の積み重ねが大切です。例えば、仕入れ先と交渉したり発注量を増やして仕入れ値を抑えるようにしたり、技術力や接客力を磨いて付加価値の高い商品やサービスを提供して、他の企業よりも高価格でも顧客が認めてくれるようにしたりと、日々の努力や工夫の結晶が粗利率の改善につながるのです。
販管費を減らす
粗利から販管費を差し引くと営業利益になります。もちろん、会社の売上と粗利率が同じならば、販管費の少ない会社の方が残る利益は大きくなります。よって、販管費を減らすことによって経営改善ができます。また、販管費には必ず払わなければならないお金といざとなったら払わなくても良いお金があります。必ず払わなければならないお金を減らすことによって経営上のリスクは軽減します。
販管費における経営改善を考えるにあたっては、コストカット及び固定費の変動費化が重要なテーマとなります。
まず、コストカットに関して、これは比較的誰でも思いつく手法です。無駄な経費を削減するだけで会社の利益は増えます。ただし、いたずらなコストカットがかえって経営を悪化させる場合があります。
例えば、見込み客を集めるのに使っていた広告費を何も考えずにカットしてしまえば集客が出来なくなって売上が下がってしまうかもしれません。また、外注先をただ安い外注先に変えてしまえば、変更先の外注先の業務レベルが低くて、仕事がしにくくなるかもしれません。
一方で読まないのにとりあえず契約している新聞や、誰もいかないジムの法人会員料金など、コストカットしても経営に影響を与えないと思われるコストもあります。
このようにコストと一口に言っても、カットして良いコストとカットしてはいけないコストがあります。
損益計算書を見て何かのコストが高い場合でも、それをすぐに改善しようとするのではなく、まずはなぜそのコストが高いのかを分析して、不合理なコストの高さだけを改善するべきです。
次に固定費の変動費化について説明します。固定費の変動費化の例としてよく挙げられるのが従業員の給料です。日本の法律では経営者が勝手に従業員を解雇することはできません。解雇のルールは法律によって厳格に定められており、従業員の雇用は法律によってしっかりと守られています。例えば、経営状況の悪化によって仕事が減り、経費を減らすために従業員を減らしたいと思っても簡単には解雇できません。このように一度発生すると毎月固定で必要になって、カットできなくなる経費を固定費と呼びます。
この固定費を変動費化することによって経営上のリスクは軽減します。変動費とは会社の業績や都合によって増やしたり減らしたりコントロールできる経費のことを指します。例えば、先ほどの従業員の例で説明すると、この会社員が派遣社員ならば簡単にコストカットすることができます。業績が悪化して人件費を削減したくなったら、派遣元の会社との契約を切れば、その社員分のコストを減らすことができるのです。一般的に従業員を直接雇うよりも派遣社員を使った方がコストは上がりますが、リスクは下がります。
他にも、建物を建ててローンを支払う位だったら、必要に応じて引越しできる賃貸の方がコストをコントロールできますし、機械を買うのではなくリースにした方がリスクは軽減します。
コストカットと固定費の変動費化を上手く利用することによって、経営改善を行ってください。
正しく「損」をしているか
貸借対照表を使った経営改善では正しい「損」の仕方を考えることが重要です。後の項目で詳しく説明しますが会社は黒字を出すと、利益のうち何割かは税金で持っていかれてしまいます。もちろん、利益を生み出せるうちに生み出すというのも経営方針ですが、継続的に利益を生み出せるような仕組みを整えるということも重要です。つまり、事業や組織に対して投資をするべきだということです。これがここで言う正しい損です。
一般的にビジネスのライフサイクルは短くなっていると言われています。今儲かっているビジネスがあったとしても、儲かるビジネスには当然新規参入者が現れます。そして競争が発生することによって、値下げをして価格競争をしたり、集客のためのコストが高くなってだんだん儲からなくなってしまいます。ときに近年はこの儲かってから儲からなくなるまでのサイクルがどんどん短くなってきていると言います。
よって、継続的に収益を発生させるためには、今は儲けられている事業がダメになった時の新しい収益の柱を作る、競争に勝つような商圏内で圧倒的なNo.1の会社を作りあげるしかありません。
ただし、そのためにはお金がかかります。新規事業にはイニシャルコストもかかりますし、事業をし始めてからしばらくは赤字が発生するのが当然です。また、競争に勝てるようなNo.1企業になろうとすれば人材なシステムなどのインフラにも惜しみない投資を行う必要があります。
経営改善をするときは、いたずらに利益を積み重ねるのではなく、一定の未来のための損も認めるべきです。
決算書は赤字が良い
会社はどれだけ赤字を出したとしても、現金さえあれば経営を続けることができます。むしろ、利益を出してしまうと法人税や法人住民税などさまざまな税金が高くなってしまいます。
上場企業の場合はしっかり利益を出して株主に還元しなければならないので仕方ないですが、オーナー経営者の場合は合法な範囲内で支払う税金を少なくするために節税方法も考えるべきです。つまり、利益を出せる体質にする必要はあるけれども、本当に利益を出す必要はないのです。
赤字の作り方としては、上で説明したような事業投資によって未来のための正しい損を作る方法もありますが、赤字になるけれども会社の現金は増えるという方法が理想的です。
赤字になるけれども会社の現金は増える手法としては、例えば塩漬けになっている固定資産の売却が考えられます。貸借対照表の部分で、事業規模が大きくて、経歴の長い会社ほど、毎年損失を生み出す資産を保有している場合があるということは説明したとおりです。
そして、このような資産は売却すると買値より低くなって売却損を発生させてしまいます。この売却損が怖くて、毎年赤字を垂れ流している固定資産をうかつに販売できないという場合がありますが、このような固定資産は利益が出ているうちに売却してしまった方が良いです。
売却して発生する損失は所詮帳簿上の損失です。例えば4000万円で購入した土地を3500万円で売却すると差引500万円の損失が発生しますが会社から現金500万円が無くなるわけではありません。
4000万円は既に土地を購入した時に支払ったときに会社から無くなっているので、500万円損をして売却しても3500万円の現金が得られるだけです。しかも、毎月支払っていた固定資産税を支払う必要が無くなります。よって、帳簿上はマイナスになるけれども、キャッシュはプラスになります。
このように利益を生み出せているうちにこそ、過去の遺物を精算する経営改善を行うチャンスです。さらにこのように発生した損失は営業外損失として扱われます。
営業利益がプラスになっていれば営業外損失によって経常利益が赤字になっていても銀行には合理的な説明をすることができますし、支払う税金を少なくすることができます。更に不良債権を処分して、キャッシュも増えます。
資金繰り表を元に経営を改善する
最後に資金繰り表を使用した経営改善の方法について説明します。
キャッシュフローはプラスを心がける
まず、資本となるのがキャッシュフローはプラスにしなければならないということです。貸借対照表や損益計算書の所でも重ね重ね説明していますが、現金は経営にとって最も重要な指標です。持ちすぎると未来への投資が不十分にもなりかねませんが、会社のキャッシュはだんだん増加していくような経営を心掛けるべきです。
キャッシュフロー計算書では、キャッシュを営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの3つに分類してそれぞれのキャッシュの収支について説明します。
営業キャッシュフローとは事業によって得られる現金の収支のことを指します。投資キャッシュフローとは固定資産によって得られる現金の収支のことを指します。投資キャッシュフローとは資金調達によって得られるキャッシュの収支のことを指します。
資金繰り表は決められたフォーマットが存在しないので、その現金がどのように調達されたのかを意識することは少ないですが、経営者はきちんと、営業、投資、財務のお金のバランスを考えて経営改善した方が良いでしょう。
例えば、融資をもう受けられなくなりそうならば、事業や投資によってキャッシュを作るしかありません。逆に資金調達ができるならば本業で大幅な赤字を出してでも急速に市場でのシェアを獲得しにくいという経営の仕方も考えられます。いわゆるスタートアップやベンチャー企業と呼ばれる企業はこの手法によって成長しています。
キャッシュフローは年々プラスになる様に経営した方が良いですが、何によってキャッシュフローをプラスにするのかは、営業、投資、財務のバランスを見極めてください。
運転資金は少ない方が良い
経営改善を行う上で重要なテーマになるのが運転資金です。運転資金は事業規模によって異なりますが、同じ運転資金であっても必要な運転資金は異なる場合があります。
例えば毎月売上500万円、売上原価(仕入れ)200万円、販管費300万円のビジネスがあったとします。
パターンAでは売上は売掛金として1か月後、仕入れは現金決済で仕入れてから商品は2か月で売れる、販管費は当月中に支払わなければならないとします。
パターンBでは売上は当月中に現金払い、仕入れは現金決済で仕入れた当月で商品が売れる、販管費は当月中に支払わなければならないとします。
両者に必要な運転資金を計算します。
パターンAの場合は、1か月目は仕入れ+販管費で合計500万円、2か月目も500万円、3か月目で商品は売れるけどお金はまだ入ってこないので500万円、4か月目からやっと現金500万円が入ってくるけれども、仕入れと販管費で500万円支払ってプラスマイナスゼロ円となります。つまり、必要な運転資金は1~3か月目までを耐える1500万円です。
一方でパターンBに場合は、1か月目に仕入れた商品がすぐに売れて500万円入ってきますし、販管費も仕入れ代もその月中に支払えば良いので、商品が売れて現金が入ってくるまで必要な運転資金は0円となります。
もちろん、運転資金が1500万円必要な企業と運転資金0円で良い企業では資金繰りの難易度が全然違います。
上は極端な例ですが、企業の資金繰りにも同じことが言えて、支払うお金はできるだけ遅く、受け取るお金はできるだけ早くが原則です。
資金繰り表を分析して、支払いが滞りやすい企業については与信の額を少なくしたり、営業担当にマメに催促させる必要がありますし、仕入れから買掛金を支払うスパンが短い場合は問屋やメーカーと買掛金の支払いサイクルを伸ばせないか交渉するべきです。
このような経営改善によって損益計算書の中身は変わらなくても、少ない運転資金で運営できる会社になることができ、多少の困難も切り抜けられるようになります。
決算書が改善することによってもたらされる効果
これまで決算書を活用した経営改善について説明してきましたが、上のような方法で決算書の内容を改善すること自体が決算改善の効果を持っています。
銀行から融資を引き出しやすくなる
まず、決算書の内容を良くすることによってもたらされる経営改善効果が、銀行からの融資を引き出しやすくなるということです。銀行は特に貸借対照表を重視すると言われていますが、上のような方法でスリム化された自己資本比率の高い貸借対照表になると、銀行からの評価もあがります。
よって、新事業に挑戦したり、一時的な不調で追加の資金が必要になった場合でも銀行から追加の資金調達ができる可能性は高まります。
もちろん、無借金経営というのも経営の正しいスタイルではありますが、大抵の場合自己資金だけで行えることは限られています。現在は銀行からの資金調達コストも安いので、ぜひ銀行を上手に活用するようにしてください。
企業価値が高まる
もう1つのメリットは企業価値が高まるということです。オーナー経営者にとって引退というのは大きな転機になります。基本的に、①経営者には退職金が存在しないので、経営している間に老後の資金を貯める、②会社は部下や親族に任せて顧問のような形で籍だけ残して年金代わりに顧問料などを貰う、③会社を売却してそのお金で老後を過ごすという3つの引退方法が考えられます。
特に最終的に会社を売却することを考えている場合は会社の企業価値を高めることが重要です。会社の企業価値は事業の内容によっても上下しますが、特に中小企業の場合は会社の資産や毎年発生するキャッシュをベースに企業価値を算定されがちです。
つまり、資産があって負債が少ない、資産の中に塩漬けになりそうな危険な資産が少ない、安定して営業利益を生み出せる会社の方が、企業価値は高く評価されるのです。
上場企業においては企業価値を高めるということは利益を出して株主に配当を渡すのと同じ位重要なテーマですが、オーナー企業においても一定の重要性を持っています。
まとめ
以上のように決算書を活用した経営改善の方法について説明してきました。上の説明を参考にして、貸借対照表、損益計算書、資金繰り表を分析してどうすれば会社をもっと良くできるかを考えてください。
ちなみに本記事では決算書を用いた経営改善について説明しているので、内容も資産の内容のチェックや運転資金の削減、固定費の変動費化など財務に関する内容が中心でした。
しかし、これ以外にも経営改善にはさまざまなテーマがあります。決算書だけを分析しても売り上げをどう増やせば良いのかというアイデアは生み出すことはできませんし、理想の組織に対して今の組織に何が不足しているのかを分析することもできません。
つまり、決算書を用いた経営改善は経営改善の1つの手法にしか過ぎずに、他にも経営改善のために考えるべきテーマはたくさん存在するのです。
決算書は冒頭で説明した通り、企業の通知表のようなもので過去の経営の結果はすべて決算書に現れています。しかし、会社の未来を作るのは決算書ではなく経営者自身です。決算書によって過去を反省し、経営を改善しながらぜひとも会社の明るい未来を作ってください。