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社団法人の実質的支配者とは?

令和4年1月31日から実質的支配者リスト制度が開始されています。実質的支配者リスト制度とは、株式会社の実質的支配者リストを商業登記所に申し出を行い、登録・利用できる制度です。

実質的支配者リスト制度は、株式会社(特例有限会社を含む)を対象とした制度になりますが、この利用は銀行などの資金提供を行う金融機関などを対象としています。

金融機関の審査などの必要書類に実質的支配者リストが組み込まれた場合、株式会社以外の社団法人なども実質的支配者を証明する書類などが求められる可能性が高くなります。

株式会社では株式の保有状況によって実質的支配者を決定していくため、株式の保有がない社団法人の実質的支配者の決定方法では大きく異なっています。

そこで今回の記事では、社団法人の実質的支配者とは誰になるのかについて解説します。実質的支配者と実質的支配者リスト制度の概要、実質的支配者が誰であるかを明確にする重要性や背景なども詳しく紹介するので、参考にしてみてください。

1 実質的支配者について

実質的支配者について

実質的支配者は、法人において経営や事業運営において実質的に支配できる人を指します。

株式会社などは保有する株式のシェアによって明確に実質的支配者であることが明確です。しかし、出資などの仕組みがない非営利法人では実質的支配者が分かりにくい実態がありました。

実質的支配者が反社会的団体の構成員などの場合には、社会的な影響を考慮して会社設立や存続ができなくなるケースもあります。そのため、実質的支配者の概要と求められることを理解することは一般社団法人を含めた会社設立上で必須です。

実質的支配者とは、法人の事業経営を実質的に支配する人になります。具体的な定義は、資本多数決法人とそれ以外に分けられます。実質的支配者になれる人は『自然人』になります。自然人は、国や地方公共団体や株式会社における上場会社とその子会社などの営利法人や社団法人などの非営利法人も含みます(犯罪による収益の移転防止に関する法律第4条第5項、同胞施行令第14条、同法施行規則第11条第2項第1号、同条第4項)。親会社が上場している子会社の大半は、親会社が実質的支配者に該当します。

1-1 資本多数決法人の定義

資本多数決法人とは、株式会社と有限会社と投資法人や特定目的会社などが該当します。資本多数決法人は、当該法人の議決権総数の4分の1を超える議決権を持っている全員が実質的支配者に該当します。ただし、議決権の50%超の議決権を持つ個人がいる場合には1名のみが実質的支配者になります。

具体的に、株式会社における実質的支配者は以下の通りです。

<株式会社の実質的支配者>

  1. ①株式の50%超を保有する個人
  2. ②株式の25%超を保有する個人(上記①に該当する個人がいない場合)
  3. ③事業活動に支配的な影響力を持つ個人(上記①②に該当する個人がいない場合)
  4. ④代表取締役(上記①〜③に該当する個人がいない場合)

2018年11月30日から、「実質的支配者の申告」が必要になっています。公証役場で定款認証を行う際に手続きを行います。定款認証は、定款が正当に作成されていることの証明です。定款認証は会社設立において必須事項になります。そのため、2018年11月30日以降に法人設立した場合には実質的支配者の申告が必要です。

●実質的支配者と株式

株式会社において50%超の株式を保有すると、他の株主と異なる権限が認められます。

例えば、株主総会における普通決議の単独可決権限です(会社法309条1項)。普通決議は、株主の過半数の出席とその議決権の過半数の賛成によって決議が成立します。できる決議は、『決算の承認』『取締役や監査役の選任・解任や報酬額の決定』『株主への配当』などがあります。

そのため、株式会社において50%超の株式を保有する株主は、取締役の選任や報酬額を決定することを通じて株式会社の重要事項を決定できます。そのため、株式を50%超を保有する個人は、実質的支配者と言えます。

次に、株式を25%超保有する株主の権利は3%以上の株主の権限と同じです。50%超の株式保有の場合には明確な権利の違いが出てきますが、25%超の場合にはそれがありません。ただし、1/3超の株式を所有すると、新たな権利が付与されます。

<持株比率>

3%以上

  • ・主な総会を招集できる
  • ・法人の帳簿など経営資料が閲覧できる
  • ・株主総会での議決案が提出できる(1%で可能

株式の1/3超

  • ・特別決議**を単独で阻止できる

*『犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則11条2項』に定義されています。

**特別決議は、議決権の過半数を有する株主が出席して、出席した議決権の2/3以上の賛成によって可決されます。特別決議には、『定款変更』『事業譲渡の承認』『吸収合併や新設合併など』『解散』などがあります。

●事業活動に支配的な影響力を持つ個人

株式会社における事業活動に支配的な影響力を持つ個人は、創業者や会長や大口の債権者などが該当します。出資や融資や取引などを通じて、事業活動に支配的な影響力を有する個人が対象です。

1-2 一般社団法人(資本多数決法人以外)の実質的支配者の定義

一般社団法人は、資本多数決法人以外に含まれます。資本多数決法人以外の法人は、一般社団法人以外に合名会社・合資会社・合同会社・一般財団法人・学校法人・宗教法人・医療法人などがあります。

●収益配当や財産分配を受ける権利で決める場合

資本多数決法人以外の法人では、収益配当や財産分配を受ける権利によって実質的支配者を決定していきます。具体的には以下の通りです。

<収益配当や財産分配を受ける権利>

  1. ①収益配当や財産分配を受ける権利が50%超となる個人1名
  2. ②収益配当や財産分配を受ける権利が25%超から50%となる個人の全員
  3. ③出資や融資や取引などを通じて、事業活動に支配的な影響力を持つ個人
  4. ④代表社員などの法人の代表として、業務を執行する個人

●それ以外で決定する場合

一般社団法人や一般財団法人は、非営利法人になります。非営利法人は、利益の分配ができません。そのために、一般社団法人や一般財団法人において、収益配当や財産分配の権利がありません。

一般社団法人の実質的支配者には、代表する権限を有する個人が該当します。社団法人の実質的支配者は、以下の2つのいずれかが該当します。

  • ・出資や融資や取引などを通じて、事業活動に支配的な影響力を有する個人
  • ・代表理事

社団法人は、株式会社などにある出資者という概念がありません。そのため、株式の保有状況などから実質的支配者の判断ができません。

そのため、社団法人の実質的支配者は『事業活動に支配的な影響力を有する個人』と定義されています。この支配的な影響力を有する個人がいない場合には、代表理事が社団法人の実質的支配者になります。

●社団法人における事業活動に支配的な影響力を有する個人とは

社団法人における支配的な影響力は、出資や融資や取引などを通じて影響を有します。具体的には、社団法人に対して事業活動に多大な影響を与えるだけの貸付を行なっている個人などが該当します。金融機関などから事業資金を賄うための融資を受けた場合や、取引の大半を独占的に実施している卸先企業などの事業者は該当しません。社団法人の実質的支配者は『個人』であると定義されています。

支配権を実質的に持っている個人の有無で、実質的支配者が決定していきます。多くの場合には、代表理事が実質的支配者に該当しています。

1-3 実質的支配者リスト制度とは

実質的支配者リスト制度は、令和4年1月31日から開始されます。実質的支配者リスト制度は、株式会社や特例有限会社などの対象の法人の申し出によって、実質的支配者リストを商業登記所がその写しを発行する制度です。実質的支配者リスト制度は、無料で利用できます。

例えば、金融機関に融資を依頼する際に金融機関側の審査申込時点で実質的支配者リストの写しが提出物として求められます。融資を申込する利用者は商業登記所に実質的支配者リストの写しの交付申請を行います。商業登記所は申請に則って、実質的支配者リストの写しを交付します。

●実質的支配者リスト制度の目的

実質的支配者リスト制度は、マネーロンダリングやテロ組織や反社会的組織へ資金援助などの法人制度と資金が悪用されることを防止する目的で開始されました。具体的には、法務局が株式会社の実質的支配者を把握するために行われます。

法人の実質的支配者の情報を法務局が管理し、金融機関などがその情報を必要とする際には法務局が書面として発行します。そのため、法人の実質的支配者の情報からマネーロンダリングやテロ資金供与の防止に金融機関などが実質的支配者の情報を活用することを求められています。

銀行などの金融機関は、なりすましや偽りなどの不正取引がないかを確認する手段として実質的支配者と顧客の関係性を調査する義務があります(犯罪による有責に移転防止に関する法第4条第2項)。

この実質的支配者と顧客との関係性を確認する方法が、各金融機関で統一されていなかったため、実質的支配者リスト制度によってその確認方法が統一されていくことが期待されています。

銀行などの金融機関が実質的支配者と顧客の関係性を調査する上で、実質的支配者リスト制度を活用する流れができれば、営利法人と非営利法人の共に金融機関との取引は資金調達上必要不可決な現実があるためより制度への参加が促進されます。

2 実質的支配者の申告

実質的支配者の申告

実施的支配者リスト制度の対象は、令和4年11月時点では株式会社と特例有限会社のみになります。また、実質的支配者に該当する者がいない場合には制度の利用ができません。

前述の通り、2018年11月以降は定款認証の際に実質的支配者を登録することが必須で求められています。法人の設立時には定款認証が全ての法人で必要になるため、実質的には2018年11月以降に設立された法人において実質的支配者がいないケースはありません。

実質的支配者リスト制度を2018年11月以前に設立した法人が利用したいと思うときには、まず自社の実質的支配者の申請が必要です。

2-1 実質的支配者の申請方法

実質的支配者の申請は、法務局で申請を行います。申請の手続きは以下のようになります。

<実質的支配者の申請手続き>

  1. ①実質的支配者リストを作成します。
  2. ②実質的支配者の申出書類と申請の添付書類を作成・準備します。
  3. ③法人の本店所在地を管轄する法務局にて申請を行います。
  4. ④登記官が申請内容を確認します。
  5. ⑤実質的支配者リストが登記所にて保管されます。

ここでは、実施的支配者の申出手続きの中の、必要書類の作成・準備と法務局での申請までを解説します。

●実質的支配者リストの作成

実質的支配者リストには、大きく法人情報と実質的支配者情報の2つを記載します。実質的支配者リストに記載する法人情報は、『商号』『会社法人等番号』『本店住所』『代表者名』などがあります。

実質的支配者情報は、『住所』『氏名』『国籍』『生年月日』『議決権割合』などの情報に加えて実質的支配者の『該当性の添付書類』と『本人確認書類』の内容を記載します。なお、実質的支配者が複数いる場合には、該当する全員の情報を記載します。

加えて、別紙に支配関係図を記載します。支配関係図とは株式の保有方法が直接と間接保有がある場合などのその実質的支配者がどのような関係性を持っているかを簡易的に示す図になります。

●実質的支配者の申出書類の作成

実質的支配者の申出書類は、正式には『実質的支配者情報一覧の保管及び写し交付申請書』と言います。実施的支配者の申請書類は各法務局のWebサイトでダウンロードができます。また、申出書(みほん)もあります。

申出書類に記入する事項は以下の通りになります。

記入事項 記入事項の説明
申出年月日 申出を行った日付を記入します。
会社法人等番号 会社法人等番号を記入します。
商号 法人の名称を記入します。
本店 法人の本店住所を記入します。
申出人の表示 申出を行う者の住所と資格(役職になるので、例えば代表取締役など)と氏名と連絡先を記入します。
代理人の表示 行政書士などの申出を手続きを代理する者がいる場合には、その者の住所・氏名・連絡先を記入します。
必要な写の通数・交付方法 実質的支配者情報の一覧写しを取得する場合に、必要な通数と受け取り方法を法務局窓口ないしは郵送のいずれかから選択します。
利用目的 実質的支払い者情報の一覧の写しを利用する目的を記入します。
申出 窓口で実質的支配者情報の一覧写しを受け取りすることを選択しながら、申出書を提出してから1ヶ月以内に受け取りをしない場合には破棄しても問題ないことを確認し、登記所(法務局)の情報を記入します。

●申出の添付書類の準備

実質的支配者の申出についての添付書類には、必須書類と任意書類があります。

必須書類は、実質的支配者一覧の登録申出を行なう日付時点の株主構成を明確にするための『株主名簿』の提出が必須になります。株主名簿の代わりとして、『申告受理及び認証証明書*』もしくは『法人税確定申告書別表2の明細書の写し**』のいずれかを提出することも可能です。

なお、添付書類として提出する株主名簿の一覧と実質的支配者一覧の内容が相違する場合があります。前述の直接と間接的な保有によって実質的支配者がグループのホールディングスカンパニーになっている場合や25%以上の株式を保有しながらもその法人を支配する意思や能力が明らかにない場合などです。これらの場合には、その説明を代表者が作成の上で添付が必要です。

その他の提出書類は任意書類になります。実質的支配者の本人確認書類(運転免許証の両面の写しや健康保険証の写しなど)があります。

また、代理人が申出をする場合には『代理権限を証する書面』が必要です。代理権限を証する書面は、委任状になります。委任状は、代理人の住所と氏名並びに委任者の本店住所と商号と代表者の住所と資格と氏名を記入します。その上で、申出に必要となる以下の3つの権限を委任する旨を記載します。

<委任状に記載する委任する権限>

  1. ①実質的支配者リストの保管と写しの交付を申出すること
  2. ②実質的支配者リストの保管と写しの交付の申出をすることに関わる全ての権限
  3. ③原本還付請求と受領に関わる全ての権限

●法務局での申請

法務局での申請をする前に、事前の確認を行うことを推奨します。法務局で不備の多い書類は、進捗を遅らせる原因となります。経営や法人設立のタイミングなどは特に1つずつ正確に段取りよく完了させていくことが必要になります。

法務局の窓口に行って申出が完了しないことがないよう、事前に申出書類や添付書類の確認は必須で行います。主な確認事項は以下のようになります。

<確認事項>

①申出する法人について 申し出をする会社が、実質的支配者リスト制度の対象である「株式会社」もしくは「特例有限会社」である。
②申出人について 申出人は、申出を行う法人の代表者である。
③申出先について 申出を行う法務局は、申出の法人の本店所在地を管轄している法務局になっている。管轄する法務局の確認はこちらの法務局Webサイトで確認できます。
④申出書類について 申出書類並びに添付書類は、全て揃ってかつ不備がない状態になっている。
⑤実質的支配者リストについて 実質的支配者リストについては以下の3点を確認します。
・申出を行う日から1ヶ月以内における実質的支配者リストを添付する
・記入すべき事項は全て抜けもれなく正しく記入されている
・実質的支配者リストに記入されている情報と、登記情報や添付書面の情報と合致している(本人確認書面の住所と書面に記載されている住所の相違などには注意してください。)

2-2 実質的支配者リストの交付

法務局に申出された実質的支配者リストは、登記官が申出内容を確認します。申出内容に問題がない場合には、実質的支配者リストは法務局に保管されます。保管が完了すると、認証文がついた実質的支配者リストの写しの交付が受けられます。

法務局から交付された実質的支配者リストの写しには、以下の特徴があります。

<実質的支配者リストの写しの特徴>

実質的支配者情報番号が付与 法務局が交付する実質的支配者情報リストには情報番号が付与されています。実質的支配者情報番号は、登記所で保管・管理されている個別の番号になります。
専用紙で作成 実質的支配者リストの写しは、偽造防止措置が施された専門紙によって作成されています。
登記所情報の印字 登記所が作成した実質的支配者情報リストの写しになるため、『一覧の写し発行日』と『登記所名』と『登記官印』が印字されています。また、注意事項*が記載されています。

*注意事項とは、申出人の会社が作成した実質的支配者情報リストについて、登記官が申出書類との整合性を確認して保管しているものの、記載内容が事実である証明にはならないことになります。つまり、申出人が事実と異なる実質的支配者情報リストとそれに合致させるために申出書類を提出した場合には、登記所で保管しまた申出に応じて発行する実質的支配者リストの写しも事実と異なる可能性がある点に注意してください。なお、実質的支配者リストの写し見本は法務局のWebサイトから確認できます。

●実質的支配者リストの写しの利用

申出人は、認証文のついた実質的支配者リストを求めている金融機関などの取引先に提出できます。また、金融機関が複数ある場合などの複数の取引先に実質的支配者リストの写しを求められた際には実質的支配者リストの再発行が可能です。

●再交付申請のやり方

再交付を受けるためには、以下の書類によって申請が必要です。

  • ・再交付申出書
  • ・申出会社の代表者の本人確認書類
  • ・委任状(代理人が申請をする場合)

再交付申出書には、以下の記載事項があります。

申出年月日 再交付申出を行った年月日を記入します。
実質的支配者情報番号 実質的支配者リストの写しに記載されていた法人の実質的支配者情報番号を記入します。
商号 再交付申出を行う法人の商号を記入します。
本店 再交付申出を行う法人の本店所在地を記入します。
申出人の表示 再交付申出を行う者の住所・資格・氏名・連絡先を記入します。
代理人の表示 再交付申出を代理人が実施する場合に記入が必要です。代理人を利用する場合には、代理人の住所・氏名・連絡先を記入します。
必要な写しの通数・交付方法 再交付の必要な通数と、受取方法を『窓口*』と『郵送』から選択します。郵送の場合には、宛先**が予め記載された返信用封筒と郵便切手が必要になります。

*窓口で受け取ることを選択できるのは下記の2つの条件に該当する場合になります。

  • ・申出書に記載されている申出法人代表者の氏名と住所と同じ氏名と住所が記載された証明書(市町村その他の公務員が職務上作成したもの)の添付がある場合。
  • ・申出書(委任による代理人が申出を行う場合、委任状)に申出をした法人の代表者が登記所に提出した印鑑の捺印がある場合。

** 郵送の宛先は、上記窓口で受け取ることができる2つの条件に該当する場合には、会社の本店または申出人(もしくは代理人)の欄に記入された住所でかつ希望する住所に送付できます。該当しない場合には、会社宛への送付になります。返信用封筒へは、送付可能でかつ希望する送付先住所を記載しておきます。

●代表者の変更時の再交付

実質的支配者登録の変更は、改めて申出ができます。初めて実質的支配者リストの申出を行った場合と手続きは同じになります。最新の情報を記載した実質的支配者リストを再度作成して、申出を行います。

なお、実質的支配者の写しを再交付の依頼をする場合には、登録された代表者から代表者変更があった場合でも現任の代表者であれば再発行の申出が可能です。

一方で、実質的支配者として登録されていた代表社員が死亡した場合などに相続人が再交付の申出を行っても交付を受けることはできません。代表社員の変更手続きを実施して、現任の代表社員が再交付の申出をする必要があります。

実質的支配者リストを登録した後に、登録していた商号や本店住所などの情報が変わる場合も代表者の変更と同様です。実質的支配者リストの登録情報と異なる登記になっている場合には、再交付は受けられません。

実質的支配者リストを変更された情報を更新して再申出を行います。その後に、実質的支配者リストの交付申請を行わなければなりません。

2-3 一般社団法人の実質的支配者の申告

一般社団法人は、定款認証時に実質的支配者となるべき者が公証役場の担当公証人に申告する形を取ります。一般社団法人の実質的支配者は、『本人特定事項など』及び『暴力団員など』の該当性を申告します。そのため、以下の2つの該当事由が求められます。

<一般社団法人の実質的支配者に求められる該当事由>

  1. ①出資、融資、取引その他の関係を通じて、設立する法人の事業活動に支配的な影響力を有する自然人となるべき者*
  2. ②上記基準に該当しない場合には、設立する法人を代表して業務執行する自然人となるべき者*

*犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則11条第2項3号ロ/同11条2項4号に該当する自然人になります。(詳しくは、前述の『1−2 一般社団法人(資本多数決法人以外)の実質的支配者の定義』をご確認ください。)

記載する事項としては、実質的支配者となるべきものの本人特定事項などになります。具体的には以下の事項を記載します。なお、実質的支配者となるべき人の情報は三人まで1枚に記載できます。三人を超える場合には別の申告書に記入します。

<実質的支配者本人特定事項>

住居 実質的支配者の住所を記入します。
氏名 実質的支配者の氏名とフリガナを記入します。
国籍など* 実質的支配者の国籍が日本の場合には「日本」を選択します。日本国籍以外の場合には「その他」を選択して、()内に具体的な国籍名称を記入します。
性別* 実質的支配者の性別を「男」と「女」から選択します。
生年月日* 実質的支配者の生年月日を記入します。
実質的支配者該当性の根拠資料 実質的支配者の根拠書類がある場合には、「定款」と「定款以外の書類」の該当するものに○を付けます。ない場合には、「なし」を選択します。**
暴力団員等該当性*** 実質的支配者が暴力団員などに該当する場合には「該当」を選択し、該当しない場合には「非該当」を選択します。

*実質的支配者が法人の場合には、選択や記入が不要です。

**実質的支配者の本人特定事項などが明らかになる資料の添付も必要です。本人特定書類は、運転免許証・パスポート・マイナンバーカード・在留カードなどの写しになります。上場会社やその子会社が実質的支配者の場合には、全部事項証明書と印鑑証明書の原本が必要です。

***実質的支配者となる者が暴力団員や国際テロリストのいずれかに該当該当する場合には、該当を選択します。また、該当を選択する代替として実質的支配者になる者が作成した表明保証書を提出することもできます。

なお、暴力団員と国際テロリストの定義はそれぞれ「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号」と「国際テロリストの財産の凍結等に関する特別措置法第3条第1項の規定により公告されている者と同法第4条第1項の規定による指定された者」を指します。

●実質的支配者の変更

長い会社運営の中で所有者や代表者の変更は、必ずと言っていいほど発生します。所有者や代表者の変更に伴い、実質的支配者も変更になるケースも発生します。

実質的支配者の変更が発生した場合の、実質的支配者リストの変更は任意になります。そのため、株式会社や一般社団法人側が変更を申し出するかどうかを決めることができます。

ただし、実質的支配者リストの写しが求められるケースは、銀行などの金融機関の融資などの申込審査や事業者と新規取引を開始する上での提出添付書類などが想定されます。過去の代表社員が実質的支配者登録されていた場合などは、その説明をすれば良いのかもしれませんが、書類内容に事実と異なる状況なのは明らかです。金融機関の融資の申込審査を行う際に実質的支配者が明らかに異なるのは、マイナスな心象を与えかねません。

そのため、任意ではあるものの実質的支配者が変更された場合には変更の申出を行うことを推奨します。

●代表者の変更時の再交付

実質的支配者登録の変更は、改めて申出ができます。初めて実質的支配者リストの申出を行った場合と手続きは同じになります。最新の情報を記載した実質的支配者リストを再度作成して、申出を行います。

なお、実質的支配者の写しの再交付を依頼する場合には、登録された代表者から代表者変更があった場合でも現任の代表者であれば再発行の申出が可能です。

一方で、実質的支配者として登録されていた代表社員が死亡した場合などに相続人が再交付の申出を行っても交付を受けることはできません。代表社員の変更手続きを実施して、現任の代表社員が再交付の申出をする必要があります。

3 一般社団法人にとっての実質的支配者の申告

一般社団法人にとっての実質的支配者の申告

実質的支配者リスト制度については、現状では一般社団法人は対象ではありません。そのため、実質的支配者リストに登録ができません。

あくまで、公証役場に申告をして調査を受けて実質的支配者が「暴力団員の構成員」や「国際テロリスト」ではないこと、もしくは「暴力団員の構成員」であった場合には公証人が求める質問に回答をしなければなりません。

3−1 実質的支配者の認証ができない場合

一般社団法人を設立する場合、「実質的支配者の申告」が必要であり、公証人が実質的支配者の認証をします。認証は、実質的支配者が適切な存在であることを公証人が証明することです。この実質的支配者の申告を行い、その結果公証人の認証が一般社団法人の設立には不可欠になっています。

そのため、実質的支配者の認証ができないと現在では一般社団法人を設立することができません。これは、犯罪による収益の移転を防ぐ目的があります。

●公証人と定款

公証人は、国の公務である交渉作用を担っている実質的な公務員になります。実質的な公務員と言うのは、実際には国家公務員法上の公務員ではありません。そのため、国や都道府県などの地方公共団体からは給与や補助金などの給付は受けずに、国によって定められた手数料収入のみで運営を行なっています。

公証人は、裁判官や検察官や弁護士などの経験を通じて法律実務に携わった人の中で、法務大臣からの任命を受けた人になります。

公証人は日本全国に約500名いて、その公証人が執務する公証役場は約300箇所あります。

公証人の役割は、公証事務の実施になります。公証事務は、国民の権利と義務に関係して私的紛争の予防実現を目的としています。公証人の具体的な主たる業務は、以下の通り大きく3つになります。

  • ・公正証書の作成
  • ・確定日付の付与
  • ・認証

公正証書の作成は、公証人の業務の中で最も一般的に知られている業務と言えます。公正証書には、土地や建物売買や金銭消費貸借などの契約に関する公正証書や公正証書遺言などに多く利用されます。

確定日付の付与は、作成した文章に公証人が確定日日付印を押す行為を言います。確定日付を文章に付与することでその文章が確定日付時点では確実に存在していた事実を証明できます。

認証は、法人の定款や実質的支配者の認証や私署証書認証や宣言認証などがあります。定款は、法人設立の上で必須です。定款とは、法人の基本原則や規則などが記載されたいわゆる会社のルールブックとも言われるもので、定款に記載されるものは絶対的記載事項と相対的記載事項と任意的記載事項に分けられます。

絶対的記載事項とは、事業の目的や商号や本社所在地などの法律上で必ず記載しなければなりません。絶対的記載事項が抜けている定款は成立しません。

相対的記載事項は法的には記載する必要はないものの記載があれば効力が認められる事項になります。「株主総会や取締役会などの招集通知期間の短縮」や「取締役や監査役や執行役及び会計監査人などの責任免除(会社法426条)」などは相対的記載事項に該当します。

任意的記載事項は、絶対的記載事項にも相対的記載事項にも該当しない、記載することで効力を発揮するものではないものの記載することに違法性がない事項を言います。

定款を作成して公証人に認証を受けることは法人設立の上で必須事項になります。そのため、現状では実質的支配者の申出の認証をしてから定款の認証に進むプロセスになっているため、実質的支配者の申出は会社設立の上で必須化しています。

3−2 犯罪収益移転防止法とは

犯罪収益移転防止法は、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」の略称であり、犯罪行為によって得た収益の移転を防ぐことを目的としています。犯罪行為によって得た収益の移転は、マネーロンダリング「資金洗浄」で移転されます。マネーロンダリングは、犯罪行為による収益がどこから生まれたのか(出所)または誰が行ったか(帰属)を隠蔽する行為を言います。

具体的には、犯罪行為によって得た1,000万円がそのまま市場に出回ると、何から得たお金かを辿るとそのまま犯罪行為に辿り着くことが簡単にできます。

そのため、マネーロンダリングを行う組織に影響下にある法人を介して犯罪行為で得た1000万円でゴールドを購入します。そして、一定期間経過後にそのゴールドを1000万円で売却します。また、その後に事業活動の資金として1000万円を使用して、事業活動によって1000万円を得た場合には元々の資金1000万円がどこから得たのか辿るのが困難になります。

また、グローバルな資金移動や従来の銀行などの金融機関を介さない仮想通貨などの新しい資金活用方法も生まれています。そのため、犯罪収益の移転を取り締まる方法も常に変化が求められています。

マネーロンダリングが行われると、資金の潜在性が高くなり、犯罪行為解明が難しくなります。それだけでなく、犯罪収益が次の犯罪行為や組織維持や強化に利用されるリスクが生まれます。また、犯罪収益を資金として合法的な経済への介入などの影響が拡大するリスクもあります。

これらのリスクを防ぐために、犯罪行為を取り締まることと同様に、犯罪による収益の移転を防ぐことが求められています。逆を言えば犯罪収益が利用できなければ、犯罪行為自体の減少や犯罪組織の維持を困難にすることができます。

具体的には、犯罪収益で得た資金の移転は主に銀行やクレジット会社などの金融機関を介して行われます。犯罪収益移転防止法の対象となる事業者を、特定事業者といいます。特定事業者の業種は以下のようになっています。

<犯罪収益移転防止法の特定事業者>

  1. ①銀行などの金融機関
  2. ②金融機関以外の金融事業者
    具体的には、消費者金融事業者・クレジット事業者・リース事業者・宅地建物取引事業者・貴金属など取扱事業者
  3. ③士業者
    司法書士・行政書士・公認会計士・税理士・弁護士
  4. ④その他サービス事業者
    電話受付代行事業者・電話転送サービス事業者・郵便物受取サービス事業者

元々、犯罪収益移転防止法の対象企業は金融機関などの一部事業者に限定されていました。しかし、現状ではより対象事業者の範囲が広げられています。

上記のその他サービス事業者に含まれる電話受付や郵便物受取の代行業者は身元などを偽る犯罪行為に利用されることが多いため、規制の対象が拡大された事業者になります。

同様に、士業者も法律などの専門知識や行政機関などとのやりとりを通じてマネーロンダリング行為の一部に関与する可能性が高いため規制対象となっています。

これらの規制は、グローバルなマネーロンダリング防止に対応するための金融活動部会(FATF)による世界で統一されて基準に基づいています。

●特定事業者の義務と実質的支配者の特定

犯罪収益移転防止法では特定事業者に複数の義務を課しています。しかし、その義務は特定事業者のすべての事業に対してではなく、幾つかの特定の業務(「特定業務」と言います)に対してのみ義務を課しています。

特定事業者の義務は、以下のようになっています。

<特定事業者の義務>

義務 内容
取引時確認(犯罪収益移転防止法第4条) 特定事業者が特定事業取引を実施する場合、以下の項目の確認をしなければなりません。
①本人特定
・自然人:氏名と住居と生年月日
・法人 :商号と本店所在地
②取引目的
③職業(法人の場合、事業内容)
④実質的支配者(法人との取引のみ必要)
記録作成と保存(同法第6条) 特定事業者が実施した特定事業における取引確認ならびに取引記録などを7年間保管する義務があります。
疑わしい取引の届出(同法第8条) 特定事業者が、「犯罪による収益」や「犯罪による収益の隠蔽」などの疑いがある行為や財産を収受した場合には『疑わしい取引』*の届出を行う義務があります。届出は、所管の行政官庁に行います。

*疑わしい取引の事例には、以下のようなものがあります。

  • ・契約締結の過程において、取引をしようとする法人が自社の利益のための活動を行なっているかの疑義が発生した。そのため、本来のサービス利用者が誰であるのかの説明を求めたが回答を拒まれた。
  • ・契約締結の事務手続きの中で、顧客である法人やその法人の実質的支配者である法人がペーパーカンパニーのように実態がない疑いがある契約。
  • ・警察やその他公的機関などから、犯罪収益に関係している可能性があるため照会依頼や通報があった契約

●犯罪収益移転防止法の義務違反に対する措置

犯罪収益移転防止法について特定事業者がその義務について違反が発覚する場合があります。国家公安員会や警察庁は、犯罪行為に対する調査の過程で犯罪収益移転防止法における取引時確認義務などの義務違反が認められた場合には所管行政庁に対して「特定事業者の犯罪収益移転防止法違反を是正するために必要な措置をとるべき」として意見陳述や是正命令を行います。

警視庁のホームページでは、国家公安委員会や警察庁による報告徴収などの実施状況が掲載されています。それによると、令和3年は報告徴収実施件数が12件(前年が7件)、所管行政庁に対する意見陳述の実施件数14件(前年が7件)と増加した年になっています。

また、意見陳述に基づく是正命令一覧も報道報告資料として掲載されています。そこには、電話転送サービス業や郵便物受取サービス業が主に是正命令が出されていることが分かります。

報告報道資料には、商号や個人事業主の場合にはその事業者の氏名なども公表されています。そのため、犯罪収益移転防止法を違反した場合には罰金や懲役刑などはないものの事業を継続する上で不可欠な信用は失われてしまいます。

例えば、郵便物受取サービス事業者が、法律第18条の取引時確認義務及び確認記録作成と保存義務の違反に問われます。うっかり、取引時の確認義務について違反をすると確認記録も作成していないため保存義務も違反することになります。

1社員のうっかりが原因で法人名や商号が特定できる形で掲載されるのは非常にリスクが高いと言えます。そのため、該当事業者になる事業者は常日頃犯罪収益移転防止法について学習し、日々の業務の中に義務の遵守と併せて義務の履行確認を盛り込んでおく必要があります。

4 まとめ

一般社団法人にとっての実質的支配者とは

社団法人にとっての実質的支配者の申告は、法人の設立には必須の定款認証につながるため、必須事項です。実質的支配者には誰が該当するのかをそのロジックを理解して、申告を行わなければなりません。

また、申告した実質的支配者が犯罪収益移転防止法に違反することが無いようにしなければなりません。加えて、会社設立の際に行政書士や司法書士などを利用する際には士業が犯罪収益移転防止法の特定事業者に該当しているため、特定取引の中で疑わしい取引の可能性があれば先に進みません。

マネーロンダリングなどは当然違法行為になるため、そのような行為を実施しないことはもちろんとして疑われることが無いように適切な実質的支配者の選定をすることが必要です。

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