全国対応電話相談受付中!0120-698-250メール相談はコチラから
社団法人設立が全国一律27,800円!KiND行政書士事務所:東京

農業法人を設立するメリット・デメリット、会社設立の流れや方法、設立費用についても詳細解説!

世界人口の増加が顕著となり、近い将来の食糧不足が懸念される中、農業生産力の増強は、今や世界的な関心事となっています。離農者の増加や、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)並びにEPA(経済連携協定)への対応という課題を背負う日本は、農業経営のあり方を再構築する必要に迫られています。2009年の農地法の改正を皮切りに、政府は、一般法人の農業参入規制を緩和するなど、日本農業の成長産業化へ舵を切りました。今回、農業の法人化を目指す新規就農者や一般企業、また、既存の農家が法人成りを目指すにあたり、知っておくべきメリット・デメリット及び法人化に必要な手続き等について解説します。農業参入並びに農業の法人化をお考えの方は是非ご一読下さい。

1 農業法人とは

農業法人とは

公益社団法人日本農業法人協会によれば、「農業法人」とは、「法人形態によって農業を営む法人の総称」と整理されています。

農業法人の形態

農業法人の形態は、「農事組合法人」と「会社法人」に分けられ、農地法第2条第3項に掲げる全ての要件に適合し、「農業経営を行うために農地を取得できる農業法人(農事組合法人、株式会社又は持分会社)」のことを「農地所有適格法人」と言います。

以下、農事組合法人並びに会社法人について解説します。なお、農地所有適格法人となるための要件は下表のとおりです。

(表1)農地所有適格法人

要件項目 内容
法人形態要件 非公開会社である株式会社、持分会社(合名・合資・合同会社)又は農事組合法人
事業要件 主たる事業が農業であること(その行う農業に関連する事業であって、農畜産物を原料又は材料として使用する製造・加工事業等を含む)。
構成員の議決権要件
  1. 1)農業関係者
    ・常時従事者(注1)、農地の所有権若しくは使用収益権を法人に移転した者、地方公共団体、農協等の議決権が総議決権の過半(2分の1超)を占めていること。
    ・農地中間管理機構(注2)又は農地利用集積円滑化団体(注3)を通じて法人に農地を貸し付けている個人)
  2. 2)農業関係者以外の構成員
    ・保有できる議決権は総議決権の2分の1未満(農業従事者が2分の1超)
役員
  • ・法人の常時従事者たる構成員が理事等の数の過半を占めていること。
  • ・法人の常時従事者である理事又は農林水産省令で定める使用人のうち、一人以上が農作業に従事していること(このときの従事日数は、原則年間60日以上)

(注1)常時従事者:原則、年間150日以上農業に従事している者
(注2)農地中間管理機構
農地中間管理機構とは、農地の荒廃を防ぎ、農業生産力の維持・向上を図るため、法人を含む意欲のある農業者に農地を集積する役目を負った組織です。2013年に成立した農地中間管理事業推進法及び改正農地法等に基づき、2014年度に各都道府県は既存の農業公社を農地中間管理機構に指定しました。この機構の主な機能を整理すると以下の通りとなります。

(表2)農地中間管理機構の主な機能

  • 〇個人が所有する農地・耕作放棄地を借り受ける。
  • 〇借手がみつかるまで農地を維持・管理し、必要に応じて大規模化などの基盤整備を実施する(実際は、借手が決まっていないと引き受けないとも言われています)。
  • 〇大規模農家、農業法人へ貸し出す。
  • 〇農地貸出先の農業者から賃料を受け取り、農地の所有者へ支払う。

(注3)農地利用集積円滑化団体
農地等の効率的な利用に向け、農地の集積を促進するために2009年12月に施行された改正農地法によって創設された「農地集積円滑化事業」の実施主体たる組織(当該事業自体は、改正農地法本体ではなく「農業経営基盤強化促進法」に措置されています)です。この事業の実施主体及び事業概要は以下のとおりです。

(表3)農地集積円滑化団体が行う事業

事業名 内容 実施主体
1)農地所有者代理事業 農地等の所有者から委任を受けて、その者を代理し、農地等について売渡しや貸付け等を行う事業。
  • 〇市町村、農協、農業公社、営利を目的としない法人
  • 〇法人格を有しない非営利団体
2)農地売買等事業 農地等の所有者から、農地等の買い入れや借り入れを行い、その農地等の売渡しや貸付け等を行う事業。
  • 〇市町村、農協、農業公社
3)研修等事業 農地売買等事業により、一時的に保有する農地等を活用して、新規就農希望者に対して農業の技術、経営の方法等に関する実地研修を行う事業

※農地中間管理機構が創設されて以降、農地利用集積円滑化事業の活動は減少傾向にあります。

1-1 農事組合法人

農事組合法人とは、農業協同組合法(以下、「農協法」と言います。)に規定された法人で、「組合員の農業生産についての協業を図ることにより、その共同の利益を増進すること」を目的としています(農協法第72条の4)。この法人の組合員資格や事業等については以下のとおりです。

(表4)農事組合法人の概要

項目 内容
構成員(組合員) 農事組合法人の組合員資格を有する者は、次のとおりです。

  1. 1)農民
  2. 2)農業協同組合、農業協同組合連合会
  3. 3)農事組合法人に農業経営基盤促進法第7条第3号に掲げる事業に係る現物出資(農地の提供)を行った農地中間管理機構
  4. 4)農事組合法人からその事業に係る物資の供給若しくは役務の提供を受ける者又はその事業の円滑化に寄与する者
組合の分類 ※農事組合法人は、出資の有無、事業形態によっていくつかに分類されます。
出資による分類 組合員の責任によって以下の二つに分類されます。

  1. 1)出資農事組合法人
    • ・組合員の出資は1口以上。
    • ・組合員の組合に対する責任は、出資額を限度とする有限責任。
    • ・剰余金は、出資額等に応じた配当が受けられます。
    • ・農業の経営を行うことができます。
  2. 2)非出資農事組合法人
    • ・組合への出資義務なし。
    • ・配当を受ける権利なし。
    • ・農業に係る共同利用施設の設置及び農作業の共同化に関する事業のみで、農業の経営を行うことはできません。
事業による分類1号法人と2号法人 農協法が規定している、農事組合法人が行うことができる事業の範囲は以下の二つに分類されますが、いずれか一方を行うか両方を行うかの選択は自由となっています。なお、2)の事業(農業の経営)については、出資農事組合法人についてのみ認められる点に注意が必要です(農協法第72条の10第2項)。

  1. 1)農業に係る共同利用施設の設置(当該施設を利用して行う組合員の生産する物資の運搬、加工又は貯蔵の事業を含む。)または農作業の共同化に関する事業。
  2. 2)農業の経営(農事組合法人の行う農業に関連する事業であって、農畜産物を原料又は材料として使用する製造または加工その他農林水産省令で定めるもの)。なお、農畜産物の貯蔵、運搬または販売、農業生産に必要な資材の製造、農作業の受託及び農業と併せて行う林業の経営を含みます。
1)の事業を行う農事組合法人を1号法人、2)の事業を行う農事組合法人を2号法人と言い、2号法人については、以下の要件を備えなければなりません。

  1. ア 出資農事組合法人であること(農協法第72条の10第2項)。
  2. イ 農業経営に常時従事する者のうち、組合員及び組合員と同一の世帯に属する者以外の者の数は、その常時従事する者の数の3分の2を超えることはできません(農協法第72条の12)。
  3. ウ 農地や採草放牧地の所有権、地上権、永小作権、使用貸借による権利、賃借権を取得するときは、農地法上の「農地所有適格法人」の要件を満たす必要があります。
税法上の分類と課税の特例 農業経営を行う農事組合法人は、法人税法上、次の二つに分類されます。

  1. 1)普通法人
    組合員に確定賃金を支給している農事組合法人は、法人税法上、普通法人扱いとなり、軽減税率の適用はありません。
  2. 2)特別法人
    組合員に確定賃金を支給しない法人は、特別法人として、利用分量配当金、従事分量配当金が損金として認められ、法人税は、協同組合等の軽減税率が適用されます。出資者に対しては従事分量配当し、その家族等の労務提供に対しては労務費として処理するのが一般的です。

〔留意事項〕

  • ・利用分量配当金と従事分量配当金は、消費税の経理において、「課税仕入れ」となります。
  • ・農事組合法人が行う農業経営に関する事業税(地方税)は非課税扱いとなります。

1-2 会社法人

農事組合法人に対する区分(一般法人)では、会社法上の会社とNPO法人が該当します。会社法上の会社とは、「株式会社」、持分会社である「合名会社」、「合資会社」、「合同会社」、及び、「特例有限会社」を指します。以下、これら会社法人の農業参入に係る動向を確認しておきましょう。

1-3 農業経営体数の推移と一般法人の農業参入の動向

2019年2月1日現在の、直近5年間における家族経営を含む農業経営体数は下表のとおりとなっています。全国の農業経営体数は、118万8,800経営体となり、前年対比で2.6%減少しています。このうち、組織経営体数は3万6,000経営体で、前年対比1.4%の増加となり、農産物の生産を行う法人組織経営体は2万3,400経営体で、前年対比3.1%増加しています。個人経営が減少し、法人経営への移行が進んでいることが分かります。

(表5)全国の農業経営体数の推移(単位:千経営体)

区 分 農 業
経営体
①+②
家 族
経営体
組 織
経営体
1)農産物の生産を行う法人組織経営体
2015年 1,377.3 1,344.3 33.0 18.9
2016年 1,318.4 1,284.4 34.0 20.8
2017年 1,258.0 1,223.1 34.9 21.8
2018年 1,220.5 1,185.0 35.5 22.7
2019年 1,188.8 1,152.8 36.0 23.4
増減率(%)
2019年対2018年
▲2.6 ▲2.7 1.4 3.1

(農林水産省:平成31年(2019年2月1日現在)農業構造動態調査より)
※ 1)は、「農産物の生産のみを行う法人組織経営体」及び「農産物の生産と農作業の受託を行う法人組織経営体」の計で記載しています。

また、一般法人の農業参入の動向を見ると、2018年12月末現在、農地を利用して農業経営を行う一般法人は3,286法人であり、2009年の農地法の改正によって、リース方式による農業参入が全面自由化されたことで、農地法改正前の約5倍のペースで増加しています。過去15年間において農業に参入した一般法人の法人区分別推移は下表のとおりです。

(表6)農業に参入した法人区分別の一般法人数の推移(単位:経営体)

各年の
12月末現在
一般法人数
①+②+③
株式会社
特例有限会社
NPO法人等
備   考
2003年 10 6 2 2 特区法による特例で参入を容認(注4)
2004年 44 18 12 14
2005年 105 55 25 25 特区の全国展開(注5)
2006年 149 81 35 33 会社法施行(有限会社法廃止)で、有限会社は特例有限会社となりました。
2007年 237 124 65 48
2008年 311 172 78 61
2009年 427 249 97 81 リース方式による農業参入が全面自由化され、一般法人の農業参入が活発化する契機となりました。
2010年 761 470 152 139
2011年 1,052 655 191 206
2012年 1,426 880 224 322
2013年 1,734 1,059 258 417
2014年 2,029 1,249 286 494
2015年 2,344 1,454 317 573
2016年 2,676 1,677 348 651
2017年 3,030 1,904 378 748
2018年 3,286 2,089 403 794

(以上、農水省調査データをもとに作成)
(注4)2003年4月、構造改革特区制度により、遊休農地が相当程度存在する地域について、市町村等と協定を締結し、協定違反の場合には農地の貸付契約を解除するとの条件で、当時の「農業生産法人」以外の法人のリースによる参入が可能となりました。この時点では、あくまでも特区制度による「農地法の特例」という位置づけです。
(注5)特区制度の対象を全国に拡大し、耕作放棄地が多い区域において、市町村を介してリースによる農業参入が容認されました。

2 農業を法人化するメリット・デメリット

農業を法人化するメリット・デメリット

現状認識が曖昧なまま、やみくもに農業法人を設立して農業に参入しても、高い成果を得ることはできません。このため、まず、農政の現状と農業ビジネスの方向性について明らかにし、その上で農業法人化の長短について解説します。

2-1 日本再興戦略における農業改革とは

日本再興戦略は、2013年6月14日、第2次安倍内閣における成長戦略として閣議決定され、以降、随時改訂されて今日に至っています。農業分野においては様々な施策が掲げられており、そのキーワードは、「地域で頑張る農業者の所得を増やす」となっています。そのための目標を「攻めの農林水産業の展開と輸出力の強化」において、具体的な重要業績評価指標(KPI)を設けており、その進捗状況は下表の通りとなっています。

(表7)2013年設定時のKPIの進捗状況

政策分野 KPIテーマと直近の実績 摘要
生産効率化 農地集積 1)2023年までに全農地面積の8割を担い手に集積する(2013年度末実績:48.7%、2015年度末実績52.3%)※2017年度実績:集積率55% (注6)担い手への集積は遅れ気味。
生産コスト削減 2)2023年までに、担い手の主食用米の生産コストを現状全国平均比4割削減する(2011年産全国平均の米の生産コストは16,001円/60㎏)。※2017年度実績:個別経営で31%削減、組織法人経営で26%削減 *削減目標
個人経営、法人経営ともに遅れ気味。
3)2025年までに担い手による飼料用米の生産コストを2013年全国平均比で50%削減する。※2017年度実績:32%削減 *削減目標
遅れ気味。
スマート農業(注7) 4)2025年までに、ほぼすべての担い手がデータを活用した農業を実践する。 調査は2020年以降の予定です。
5)2020年までに遠隔監視による農機の無人自動走行システムを実現する。※2018年実績:現場監視による農機の無人自動走行システムが実現。 目標達成済み
新市場開拓 輸出 6)2020年の農林水産物・食品の輸出額1兆円目標を前倒しで達成する(2012年:4,497億円、2015年:7,451億円)※2018年実績:9,068億円 順調に推移している。
6次産業化(注8) 7)6次産業化の市場規模を2020年に10兆円とする(2014年度:5.1兆円)食料・農業・農村政策審議会において6次産業化の市場規模として整理された、加工・直売、輸出、都市と農山漁村の交流等の市場規模の合計額です。※2016年度実績:6.3兆円 *市場規模目標
遅れ気味。
8)酪農について、2020年までに6次産業化の取組件数を500件にする(2014年:236件、2015年:284件)※2017年度実績:307件 *取組件数
かなり遅れている。
経営 法人化 9)今後10年間(2023年まで)で法人経営体数を2010年比約4倍の5万法人とする(2010年:1万2,511法人)※2018年度実績:22,700法人 *大幅に遅れている。

(以上、農水省の調査データをもとに作成)

-(注6)~(注8)の説明 -

(注6)担い手(担い手農家)
担い手農家は、認定農業者とも呼ばれ、農業経営基盤強化促進法という法律に基づいて、農業経営改善計画を市町村に提出し認定を受けた「個人の農業経営者」又は「農業生産法人」を言います。また、担い手になるためには市町村の認定を受けるだけでなく、地域別に設けられた所要の条件を満たす必要があります。

(注7)スマート農業
スマート農業とは、ロボット技術やICT(情報通信技術)を活用して、作業の省力化や精密化を図り、高品質な農産物生産を実現することを目的とした新たな農業モデルを言い、新規就農者の確保や栽培技術の継承等が期待されます。具体例としては、「AI(人工知能)を活用した複雑な作業のロボット化」、「農機具の遠隔操作による作業の精密化、GPS自動走行システムによる農機具の夜間走行、複数走行、自動走行等による稼働時間拡大」等があげられます。

(注8)6次産業化(正式には農林漁業の6次産業化)
東京大学名誉教授で農業経済学者の故今村奈良臣氏が、農林漁業の収益性を高め、農村地域における経済面の活性化を目的として提唱した農業経営の多角化モデルです。農村を中心とした豊かな地域資源を活用し、第1次産業(農林漁業)、2次産業(製造業)、3次産業(小売業等)に一体的に取り組むことで、新たな付加価値を生み出し、その地域に新しい雇用機会を創出し、農村等地域全体の所得向上を目指すというものです。

具体的な取り組み例としては、地域内で生産した農産物と、その農産物を使用した加工食品等を自ら製造・販売する事業や、自ら経営する農家レストランで提供するといったケースが多く見受けられます。6次産業という言葉の由来については、今村教授自身が、「1次産業×2次産業×3次産業=6次産業」という掛け算のビジネスモデルであると語っています。

(表7)の内容から、総じてKPIの進捗度が遅いことがわかります。中でも、この記事のテーマとなっている「農業の法人化」は、(表5)及び(表6)のデータを見ると順調に進んでいるように見えますが、日本再興戦略で目指す目標年度での達成を考えれば、決して良い状況ではありません。このような点も踏まえ、以下、農業の法人化のメリット・デメリットについて解説を進めます。

2-2 個人農家が法人化する場合のメリット・デメリット

個人農家が法人化する場合の、メリットとデメリットは下表のとおり整理することができます。

(表8)個人農家が法人化するメリット・デメリット

メリット デメリット
1.経営管理面
家計と事業との分離により、厳格な経営管理が可能となります。
2.信用力の向上と資金調達手段の拡大
法人化による経営管理の厳格化により、信用力が高まり、利用できる各種補助事業や制度資金(注9)の幅が広がって資金調達が容易になります。
3.生産性向上
経営規模の拡大が進み、作業効率が向上して生産性の向上が見込まれます。
4.事業承継の円滑化
個人経営の農業の場合、後継者問題のほか、相続による農地の分散で農業経営が行き詰まることもありますが、利益を生み出す「耕作地」として法人が預かる、又は取得することが可能となり、円滑な事業承継につながります。
5.人材確保面での優位性
法人化による信用力の向上と組織機構の整備は、働く場としての農業のブランディングにつながり、優秀な人材を確保することが可能となります。これにより、事業としての農業の多角化及び規模拡大、また、生産技術の伝承が円滑に行われるなど、安定した農業経営が可能となります。
6.意思決定の高度化
厳しい事業環境のもと、職人気質の農業者意識から組織的な意思決定に進化することで、的確な「経営判断」が可能となります。
7.6次産業化推進による収益率向上
企業組織としての機構を備えることで、農産物の生産にとどまらず、農産物の加工、小売りまでの事業化が実現しやすくなり、法人としての収益力の向上が期待できます。
8.輸出取引による攻めの経営が可能
6次産業化への取り組みを進めることで、ブランド力を備えた生産物や食品の開発を促進することにつながり、国の成長戦略のKPIの一つとなっている輸出取引への道を拓くことが可能となります。
9.税制面でのメリットを享受できる
税制面では、個人の所得税率より法人税率が相対的に低くなる課税所得のラインがあります。事業が順調で、収益が一定水準を超えると、適用税率が下がるとともに、経営者やその他役員等に対する報酬が経費となって課税所得の減少につながるため、総合的な節税につながります。

たとえば、個人経営から法人成りした経営者は、配偶者を役員にして役員報酬を支払うと所得分散効果で、法人税率と個人の所得税率を押さえる効果が期待できます。

また、損失が発生した場合、個人経営の場合は、青色申告による純損失(赤字)の繰り越しは3年が限度であるのに対して、青色申告法人の場合は、欠損金を10年間繰り越すことができる点も税制面での大きな特徴です。

1.経営管理面
会社法第431条(株式会社の計算)及び614条(持分会社の計算)において「会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」と規定され、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行とは、通常、企業会計原則を指します。
このため、企業会計原則に従って会計処理をすることが求められることになり、会計が複雑化し、経理事務の負担が増えます。また、会計事務や法人税等の申告事務を専門家に依頼した場合、経費の負担が発生します。
2.税制面
1)所得税・法人税
所得がない場合、個人経営なら所得税は課税されませんが、法人経営ではたとえ赤字でも、課税される地方税があります。「法人住民税」という地方税には、「都道府県民税」と「市町村民税」があり、それぞれ「法人税割」と「均等割」があります。法人税割は、法人税がゼロの場合は課税されませんが、「均等割」の計算根拠は、事業所の数や従業員数であるため、例え赤字であっても課税されます。
3.社会保険負担の発生
社会保険の担当範囲は、健康保険、介護保険、厚生年金保険で、雇用形態にかかわらず、従業員が以下の条件に該当することとなった場合、社会保険への加入が義務付けられます。
常勤の会社役員の場合は、労働基準法上の労働者には該当しないため、保険料を払い込めるだけの報酬があれば、原則として加入義務が生じます。
従業員として正社員、パート、アルバイト等が考えられますが、雇用形態の違いに関わらず、以下の条件に該当すると加入が義務付けられます。

  1. 1) 1日当たり又は1週間当たりの労働時間が、一般社員の4分の3以上
  2. 2) 1か月間の労働日数が一般社員の4分の3以上
4.労働保険負担の発生
労働保険は、雇用保険と労働者災害補償保険等の総称です。目的が労働者保護のための制度で、従業員は加入必須ですが、労働者ではない会社役員(使用者)は加入できません。
5.その他
事業が不調で、法人を解散・廃止する場合、法人財産の「清算」が必要となります。解散・廃止から「清算」が完了し、清算結了登記が完了するまでには、最低でも3カ月以上の期間が必要で、いくつもの機関決定が必要となることから、専門家などから助言を得るか、清算事務を委託することも想定されます。撤退の場合も、費用と手間がかかります。

(注9)制度資金
日本政策金融公庫で、目的別に様々な条件(融資限度額や利率、償還年限等)の農業制度資金が用意されています。個人と法人で条件等が異なりますので、詳細は公庫のサイトでご確認ください。

2-3 一般企業の農業法人設立によるメリット・デメリット

(表9)企業が農業法人を設立するメリット・デメリット・・・(表8)に記載したもの以外

メリット デメリット
1.農業参入の手法が広がる
農地法上の農地所有適格法人の要件を満たせば、農地を所有して農業経営を行うことができます。農業委員会の許可を受けてリース方式で行うことができる「施設型農業」や「畜産関係」にとどまらず、より幅広い農業経営が可能となります。
2.農地所有適格法人特有の税制特典
  1. 1)農用地区域内の農地を農業委員会のあっせんによって取得する場合は、譲渡所得特別控除の800万円適用を受けることができます。この場合、不動産取得税や農地等の登録免許税の軽減措置等の特例を受けることができます。
  2. 2)農業経営基盤強化準備金(注10)の適用が受けられます。
  3. 3)農業経営改善計画の認定を受けて認定農業者になることで、一定の規模拡大の場合には機械、施設等の割増償却が可能です。
3.他企業との共同参入が可能
ノウハウのない状態からの農業参入にはリスクがつきまといます。1企業単独で参入するよりも、複数企業で農業法人を設立することで、多角的な視野による新しい発想を取り入れることが可能になるとともに、リスク分散にも役立ちます。
1.農地所有適格法人の資格要件の維持

1)農地所有適格法人となるためには、(表1)で示した要件を満たさなければなりませんが、これは土地を取得するときだけでなく、土地の権利を有している間は満たし続けなければならないという厳格な要件となっています。

2)毎事業年度の終了後3カ月以内に農業委員会へ事業状況等の報告を義務付けられており、毎年の報告をせず、または虚偽の申告をした場合は過料が課されます。
※この報告書に記載すべき事項は以下のとおりです。

  • ・法人の概要(会社形態)
  • ・事業の種類(生産している農産物及び関連事業の内容、農業に関連しない事業の内容)
  • ・売上高(農業、農業関連事業の売上高)
  • ・農業関係者、農業関係者以外の状況(議決権を有している者全員について、「議決権の数」、「提供した農地の面積」、「農業への年間従事日数」、「農業関係者とそれ以外の議決権の合計及び保有割合」を記載)
  • ・役員、重要な使用人及び代表権を持っている者の農業への従事状況

3)会社の維持管理コスト
新規で会社を設立するため、設立コストとともに維持管理コストが新たに発生します。

(注10)農業経営基盤強化準備金

この制度の具体的な特典は、次の2点です。

  1. ア.経営所得安定対策等の交付金を農業経営改善計画などに従い、準備金として積み立てた場合、これを法人税の計算上損金に算入できます。
  2. イ.この計画によって積み立てた準備金や、受領した交付金をそのまま用いて、農用地や農業用の建物・機械等を取得した場合に、損金に算入(圧縮記帳)することができます。
《農業経営改善計画》
農業経営基盤強化準備金制度を活用する場合には、農業経営の規模の拡大に関する目標等を記載した「農業経営改善計画」を作成し、予め市町村の認定を受ける必要があります。また、取得予定の農地や農業用の機械・施設に変更がある場合は、あらかじめ変更の認定を受ける必要があります。

3 会社設立の手順・方法・必要書類

会社設立の手順・方法・必要書類

農業法人の設立につき、農事組合法人と、一般法人のうち株式会社と合同会社で設立する際の手順等について解説します。なお、持分会社のうち合同会社のみを解説の対象としたのは、て株式会社に次いで会社設立数が多いことによります。

3-1 農事組合法人の設立

まず、農事組合法人を設立する際の流れを把握し、個々の手続きのポイントを解説します。

3-1-1 農事組合法人設立の流れ

(表10)農事組合法人設立の流れ

手続項目 期日 摘要
発起人 1 発起人会の開催 計画に基づく任意の日 3人以上の農民が発起人となること
2 事業計画書作成 名称、事業目的、事業計画、資金計画、収支計画、出資に関する事項等記載
3 定款の作成 農水省の模範定款例を参考に
4 設立同意の申出 組合員になろうとする者から、設立同意書の提出を受ける
5 役員の選任 協議による
理事が行う 6 設立事務引継ぎ 理事選任後遅滞なく 発起人から理事へ手続き事務をバトンタッチ
7 設立総会 設立事務引継後遅滞なく 定款内容の確認、事業及び収支計画、出資及び役員選任案等の総会議案を作成し、総会開催通知を発送
8 出資の払込 設立総会終了後直ちに 払込確認・領収書発行
9 設立登記 出資払込完了日から2週間以内 設立登記申請書類
10 登記簿謄本、印鑑証明書の申請・取得 設立登記と同時に申請・取得
11 行政庁への設立届出 設立登記から2週間以内 都道府県知事への届出
12 税務関係機関への届出 設立登記から2カ月以内 税務署、都道府県、市町村へ

3-1-2 農事組合法人設立の具体的な手続き

(表11)主な手続き内容

手続項目 内容
事業計画書 事業計画は事業の継続性を担保できるだけの内容としなければなりません。このため、収支計画及び資金計画は5年以上のものを立案することが望ましいとされています。計画として網羅すべき主な事項は以下のとおりです。

  1. 1)法人化の目的
  2. 2)事業内容
  3. 3)法人名および組織内容(地区や組合員の数等)
  4. 4)構成員の範囲(組合員資格要件や将来の参加農家の範囲を考慮)
  5. 5)役員体制(役員の人数、役割分担等。※資格要件に注意)
  6. 6)資産の状況(農機具、生産施設、既存の組織等からの引継ぎ内容を含む)
  7. 8)資金計画については、調達方法を明確にする
  8. 9)利益分配の方法
  9. 10)剰余金の処分方法
定款の作成
  1. 1)定款には、どのような組織でも、必ず「絶対的記載事項」、「相対的記載事項」、「任意的記載事項」があります。絶対的記載事項は所要事項が記載されていないと定款としての効力を生じません。相対的記載事項は、定款に記載しないと効力を生じない事項です。任意的記載事項は、民法その他の法令上の制限の下で、組織の事情に合わせて自由に設定できます。事前に記載事項を把握しておかなければなりません。農水省の模範定款例を参考に作成できます。
  2. 2)定款は、「原本」のほか、会社設立時、会社設立後の「税務署」、「都道府県」、「市町村」、「金融機関」等への提出も必要となります。
  3. 3)農事組合法人の場合は、公証人による定款の認証は不要です。
役員の選任
  1. 1)役員は、理事1人以上を設置する必要があります。監事の設置は任意で、組合員外からの登用も可です。なお、役員の人数については定款で定めることになります。
  2. 2)役員の任期:3年以内の期間で、定款で定めることになります。
発起人から理事への事務引継ぎ 理事が選任されたら、直ちに事務を理事に引き継ぎます。主な内容は、「定款」、「事業計画書」、「組合員名簿」、「出資引受明細」等法人設立に必要な事項です。
設立総会 理事は、設立準備が整い次第設立総会を開催し、定款、出資引受を確定させます。総会の開催要領と提出議案は以下のとおりです。

  1. 1)開催要領
    日程を決め、総会議案を作成して加入予定者に開催通知を送付します。
  2. 2)総会の提出議案
    「定款の承認について」、「出資の引き受けについて」、「役員選任議案」、「事業計画並びに収支計画の承認について」など。総会の議事録を作成します。

なお、設立総会の開催自体は必須事項ではありませんが、法人の設立を内外の関係者に周知する意味で必要な手続きであると言えます。

出資の払込
  1. 1)総会終了後直ちに出資引受け者に出資引受書を送付して出資実行を促します。
  2. 2)出資の実行を確認し、出資金に係る領収書を発行します。なお、出資引受書と出資金領収書は設立登記の際に、登記申請書に添付しなければなりませんので注意して下さい。
設立登記 主たる事務所を管轄する法務局に申請し、登記手続きを行います。登記事項と主な添付書類は以下の通りです。
行政庁への届出 法人設立届を提出します。
税務署への届出 法人設立届出書ほか税務関係書類を、税務署、都道府県税事務所、市町村に提出します。
設立費用 定款の認証が不要で登録免許税も非課税であり、事務手続きを司法書士等に委託しなければ、数千円の実費で手続きは完了します。株式会社で最低15万円、合同会社でも5万円程度必要ですので、費用面では最も安く済みます。

3-2 会社方式による設立

次に、会社方式による設立までの手順と主な手続き内容について解説します。株式会社と合同会社の設立までの流れは下表の通りです。なお、表中で使用する会社法の条項については、「法〇条〇項」としますのでご留意ください。

3-2-1 会社方式による設立登記までの流れ

(表12)株式会社及び合同会社の設立登記までの手順

株式会社 合同会社
手順 手続項目 会社法の根拠条項 手続項目 会社法の根拠条項
1 発起人及び会社の基本事項を決める(商号調査含む) 会社の定款記載事項について決める。(商号調査含む)
2 定款を作成する 法26条・27条 定款を作成する。(公証人の認証不要) 法575条
3 公証人による定款の認証 法30条 代表社員の選任 法599条
4 必要な場合、検査役を選任する(定款認証後遅滞なく) (法33条)現物出資等所定の事情に該当する場合。 出資の履行 法578条
定款作成後、設立登記までに履行する。
5 設立時発行株式に関する事項の決定 (法32条)発起人の引受株式・資本金・資本準備金の額等。 業務執行社員が法人の場合、職務を行う者を選任する。 法598条
業務執行社員に法人が含まれるとき。
6 発起人の出資の履行 (法34条)出資引受け後遅滞なく履行。 設立登記。 法579条
7 設立時役員の選任 (法38条)出資の履行完了後遅滞なく設立時取締役を選任。
8 設立時取締役等による調査 (法46条)選任後遅滞なく、設立手続きが法令・定款に適合しているか調査。
9 設立時代表取締役の選任 (法47条)取締役会設置会社は、設立時代表取締役を選任する。
10 設立登記 (法49条)

農地所有適格法人の要件を備える手続きを除けば、設立登記までの流れは、農事組合法人と会社方式とではほとんど変わりません。また、法人の設立にあたっては、定款の作成が必須となりますが、定款の記載事項については、組織特性による違いは見られるものの、文書の建付けとしての基本的な部分に大きな違いはありません。

会社設立時に作成する定款は「原始定款」と言い、株式会社の場合は、会社設立を計画した者が作成し、発起人が署名又は記名押印し、公証人の認証を経て初めて定款としての要件を満たすことになります。農事組合法人についても発起人が作成する点は同様です。

合同会社の場合は、社員(出資者)になろうとする者が定款を作成し、その全員がこれに署名又は記名押印することで効力を持つことになります。合同会社の定款は、法定事項であっても定款で別の定めをすることができる項目が非常に多く、定款自治の範囲が広いのが特徴です。以下、定款の記載事項について説明します。

3-2-2 定款の記載事項

株式会社及び合同会社並びに農事組合法人の定款記載事項は以下の通りです。

(表13)法人形態別定款記載事項の概要

株式会社 合同会社 農事組合法人
《絶対的記載事項》

  1. 1)目的
  2. 2)商号
  3. 3)本店の所在地
  4. 4)設立に際して出資すべき額(又はその下限額・・・下限制限はないため、理屈の上では1円でも可)
  5. 5)発起人の氏名・名称及び住所
《絶対的記載事項》

  1. 1)目的
  2. 2)商号
  3. 3)本店の所在地
  4. 4)社員の氏名又は名称及び住所
  5. 5)社員の全部が有限責任社員であること
  6. 6)社員の出資の目的及びその価額又は評価の標準
《絶対的記載事項》

  1. 1)事業(法人の事業内容)
  2. 2)名称(法人の名称)
  3. 3)地区(法人事業区域)
  4. 4)事務所の所在地
  5. 5)組合員たる資格並びに組合員の加入及び脱退に関する規定
  6. 6)出資一口の金額及びその払込方法並びに一組合員の有することのできる出資口数の最高限度
  7. 7)剰余金の処分及び損失の処理に関する規定
  8. 8)準備金の額及びその積立の方法
  9. 9)役員の定数、職務の分担及び任免に関する規定
  10. 10)事業年度
  11. 11)公告の方法
(相対的記載事項)

  1. 1)設立に際して発行する株式の種類、数およびその割り当てに関する事項
  2. 2)会社が発行する株式の総数
  3. 3)設立時の取締役等
  4. 4)法第28条に規定された事項

(変態設立事項)

  • 〇現物出資(金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、その財産及び価額並びに割り当てる設立時発行株式の数。会社が種類株式発行会社である場合は、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。)
  • 〇財産の引受(会社成立後に譲り受けることを約した財産と価額及び譲渡人の氏名又は名称)
  • 〇発起人の報酬(会社の設立によって発起人が受け取る報酬その他の利益及びその発起人の氏名又は名称)
  • 〇設立費用(会社が負担する設立費用。但し、定款の認証手数料その他会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令を定める者を除く)
  1. 5)株式の内容
  2. 6)株券の発行
  3. 7)取締役会を設置しない株式譲渡制限会社における総会の招集期間のさらなる短縮
  4. 8)取締役の任期伸長
  5. 9)監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する場合、その旨
  6. 10)公告の方法を官報と違うものにするとき、その内容
  7. 11)株主権行使の基準日を特定の日に設定するとき
(相対的記載事項)
※合同会社の場合は、株式会社と違い、会社法で規定されている事項でも、定款の相対的記載事項として、法定事項とは異なる定めをすることができる項目が30項目を超え、定款自治の範囲が広いのが特徴です。
ここでは、その一部を紹介します。

  1. 1) 業務執行社員が、その持分の全部または一部を他人に譲渡することにつき定める、法定外の「別段の定め」
  2. 2) 業務執行社員でない社員の持分譲渡につき定める、法定外の「別段の定め」
  3. 3) 業務執行社員でない社員の持分譲渡に伴い定款の変更が生じるときの処理につき定める、法定外の「別段の定め」
  4. 4) 社員は全員業務執行権を有するという法定事項と「異なる別段の定め」をするときの、その「別段の定め」
  5. 5) 業務を執行する社員が二人以上ある場合の業務執行について定める、法定事項と「異なる別段の定め」
  6. 6) 業務を執行する社員を定款で定めた場合で、その執行社員が二人以上あるときの業務の決定について定める、法定事項と「異なる別段の定め」
  7. 7)業務執行社員を定款で定めた場合でも、支配人の選・解任は社員の過半数をもって決定するという法定事項と「異なる別段の定め」

-等々-

(相対的記載事項)

  1. 1)現物出資の定め
  2. 2)出資組合とすること
  3. 3)存立時期の定め
(任意的記載事項)

  1. 1)事業年度、決算期
  2. 2)役付取締役の名称・役割
  3. 3)議決権の代理行使を株主に限定するとき
(任意的記載事項)

  1. 1)事業年度
  2. 2)社員総会を置く定め
  3. 3)社員総会を置く場合の招集手続等
(任意的記載事項)

  1. 1)事業に関する事項(員外利用)
  2. 2)組合員の持分譲渡等
  3. 3)役員の責任、任期、代表理事の選任に関する事項等
  4. 4)総会に関する事項(招集手続、議決事項、特別議決等々)
  5. 5)会計に関する事項(資本準備金、任意積立金、配当、損失処理等)

4 法人設立後の提出書類等

法人設立後の提出書類等

農業法人に限らず、法人を設立すると税務署等に提出すべき書類が数多くあります。これらの書類は、法人設立準備の段階から念頭におき、設立手続きと並行して提出準備をしておくことが肝要です。以下、主な届出書類等を整理しておきます。

(表14)法人設立で共通のもの

税務署 その他官庁
  1. 1.法人設立届出書(都道府県及び市町村提出分がセットになっていることが多い)。
  2. 2.青色申告承認申請書
  3. 3.給与支払事務所等の開設届出書
  4. 4.源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
  5. 5.消費税課税事業者届出書
  6. 6.消費税課税事業者選択届出書
  7. 7.消費税簡易課税制度選択届出書
  8. 8.棚卸資産の評価方法の届出書
  9. 9.減価償却資産の償却方法の届出書
(労基署又はハローワーク)

  1. 1.労働保険関係成立届
  2. 2.雇用保険適用事業所設置届、雇用保険被保険者資格取得届

(日本年金機構の各地域事務センター)

  1. 1.健康保険・厚生年金保険新規適用届
  2. 2.健康保険・厚生年金保険被保険者資格届
  3. 3.健康保険被扶養者(異動)届

5 会社設立にかかる費用の整理

会社設立にかかる費用の整理

2006年の会社法施行で、最低資本金の規制がなくなり、会社を設立しやすくなりました。とりわけ、株式会社は最低資本金額1,000万円規制がなくなったことで、若い起業家にとっては夢を実現する機会が増えました。また、会社法の施行で創設された「合同会社」も、設立手順が株式会社に比べて簡略化されるとともに、設立費用も安く済むため、近年は合同会社設立による起業が増加傾向にあります。

なお、会社を設立するには相応の費用が必要となります。この設立費用とはどのようなものがあるかを明確にするとともに、設立する会社の種類や手続きの方法によってどのような違いが出るのかを整理していきます。

一口に会社設立費用といっても、会社設立登記の前後で会計上の捉え方が異なり、これに従えば、設立登記までに必要な「創立費」と、会社成立から営業開始に至るまでの「開業費」という分類となります。設立費用の説明の便宜上、この「創立費」と「開業費」という分類を使用しながら、「設立登記に直接関係する費用」と「見落としがちなその他の費用」に区分した上で、設立登記に直接関連する費用を中心に解説します。

5-1 設立登記に直接関係する費用

設立登記に直接関わる費用としては以下のものを挙げることができます。

(表1)創立費に該当

  1. 1)登録免許税
  2. 2)定款印紙代
  3. 3)定款認証手数料(公証人による認証)
  4. 4)定款謄本手数料
  5. 5)発起人印鑑証明書交付手数料

5-2 見落としがちなその他の費用

設立登記をするには定款の作成が必須となりますが、その他の規程類についても、事業計画が作成され、営業開始日が決まっている以上、会社の機関を円滑に機能させるために必要なツールとなりますので、定款作成と並行して作成しておくのが賢明です。このため、このような規程類の整備や、つい見落としてしまうような費用についても、計画段階で想定しておく必要があります。これらを「創立費」と「開業費」の分類して整理すると以下のとおりとなります。

(表2)その他の設立関連費用

その他の創立費にあたるもの 開業費にあたるもの
  1. 1)定款を始めとした各種規程類(就業規則、給与規程、人事規程等々)の作成費用
  2. 2)募集設立する場合の株式会社の株式募集のために要する広告費
  3. 3)目論見書や株券等の印刷費
  4. 4)設立までに使用する事務所の賃借料
  5. 5)設立事務に要する人件費
  6. 6)証券会社の取扱手数料
  7. 7)創立総会に要する費用
  8. 8)発起人が受ける報酬で定款に記載して創立総会の承認を受けた金額
  9. 9)印鑑作製費用(会社実印、認印、ゴム印、銀行取引印等)
  10. 10)その他会社設立事務に関する必要な費用(士業等への事務委託費等)

※なお、これらについては、起業家本人若しくは使用人が作成することで不要となるものを含んでいます。

  1. 1)新設会社の土地、建物等の賃貸借契約にかかる費用
  2. 2)新設会社の営業開始にかかる広告宣伝費
  3. 3)営業を開始するにあたって必要となる消耗品費等の費用
  4. 4)電気・ガス・水道料等事務所のインフラ契約のために必要な費用等

以上のような費用の発生が見込まれることを念頭に置いた上で、会社設立登記に係る費用について解説します。

6 会社の種類と手続きの方法による費用の違い

会社の種類と手続きの方法による費用の違い

(表1)の設立登記に直接関係する費用について、設立する会社の種類別に整理すると以下のとおりとなります。

6-1 会社種類別の主な設立費用

(表3)印鑑証明書の取得を除く主な設立費用の比較(会社法上の会社以外の法人を含む。)

会社区分
費用項目
株式会社 合同会社 一般社団法人
一般財団法人
合名会社
合資会社
NPO法人
1)登録免許税 150,000円 60,000円 60,000円 60,000円 0円
2)定款印紙代 40,000円 40,000円 0円 40,000円 0円
3)定款認証手数料 50,000円 0円 50,000円 0円 0円
4)定款謄本手数料 2,000円 0円 2,000円 0円 0円
合計 1)~4)の合計 242,000円 100,000円 112,000円 100,000円 0円
2)不要の場合 202,000円 60,000円 112,000円 60,000円 0円

《費用項目の説明》

  1. 1)登録免許税は、登録免許税法で、会社によって最低額が定められており、株式会社15万円、合同会社6万円となっています。基本は、株式会社・合同会社ともに資本金の0.7%で算出した額となりますが、計算した額がそれぞれの最低額に満たないときは、最低額が適用されます。ちなみに、合名会社及び合資会社は、一律60,000円となっています。
  2. 2) 定款認証印紙代は、電子定款を利用すると不要となります。紙の定款の場合は、印紙税法により、株式会社・合同会社ともに4万円が必要となります。なお、印紙税が課される定款は、株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、相互会社のものに限られています。
  3. 3)公証人による定款認証が必要となる法人は、株式会社、一般社団法人、一般財団法人、特定目的会社、相互会社、弁護士法人、監査法人等で、持分会社(合名・合資・合同会社)は対象外です。
  4. 4)定款の謄本は、会社設立登記の際に添付しなければなりません。会社設立時の定款は「原始定款」といい、公証人が20年間保管することになっています。このため、会社設立登記の際は、公証人に定款謄本を発行してもらうことになりますが、その手数料は、公証人手数料令において1枚250円と定められており、一般的な定款ではおおよそ2,000円程度となります。

※ この表では、全て自分で手続きを行うことを前提としており、専門家等に委託しない場合の金額を示しています。この条件下では、合同会社等の持分会社の設立費用が最も安いと言えます。

6-2 電子定款と利用方法

電子定款というのは、定款を紙で提出するのではなく、PDF化したデータで提出する方式です。紙に印刷した定款は「課税文書」として扱われるため、(表3)にある通り4万円の収入印紙が必要となりますが、電子定款は課税文書扱いではないため、収入印紙が不要です。

6-2-1 電子署名と電子証明書

電子定款には「電子署名」が必要となりますが、電子署名には以下のいずれかの「電子証明書」が必要となります(国税局が公表しているe-taxで使用できる電子証明書発行機関は10社ありますが、ここでは4社を掲載しておきます)。

(表4)主な電子証明書の発行機関

発行機関名 説明
公的個人認証サービス 地方公共団体情報システム機構の認証業務に関する法律に基づいて、地方公共団体情報システム機構が発行し、市区町村が交付するものです。「公的個人認証サービス」に係る電子証明書を取得するためには、住民票のある市区町村にマイナンバーカード(個人番号カード)の交付申請を行い、マイナンバーカード(電子証明書が標準的に組み込まれています。)の交付を受けます。なお、カードに対応するICカードリーダーを購入しなければなりませんが、家電量販店で、3,000円程度で購入可能です。その他詳細は、住民票のある市区町村の窓口で確認できます。
商業登記認証局 法務省が運営する「商業登記認証局」が発行する証明書です。電子証明書の申請受付・発行等は、法人等の登記を管轄する全国の登記所のうち、指定を受けた登記所で行われていますので、事前に確認が必要です。
株式会社NTTネオメイト e-probatio ps2サービスにかかる認証局が作成する電子証明書です。
セコムトラストシステムズ株式会社 セコムパスポートfor G-IDに係る認証局が作成する電子証明書です。

《留意事項》

1)電子証明書の有効期間
電子証明書には有効期間(証明期間)があります。この期間は、各認証機関で定められることになっているため、各認証機関に確認が必要ですが、「商業登記認証局」の場合、3カ月から27カ月まで3カ月単位で利用者が指定できることになっています。
2)電子証明書の取得費用
電子証明書の取得費用は、各認証機関で定められるため、発行機関によって異なります。「公的個人認証サービス」におけるマイナンバーカードの交付申請に係る手数料は、当面は無料です。「商業登記認証局」の場合は、2019年4月末現在、以下の通りとなっています。

証明期間 3カ月 6カ月 9か月 12か月 ~3カ月刻みで27カ月まで証明可能
発行手数料 2,500円 4,300円 6,100円 7,900円 3カ月毎に1,800円増加で16,900円まで

3)マイナンバーカードの場合、ICカードに組み込まれた電子証明書を利用する際、表中に記載のとおりICカードリーダーが必要となりますが、マイナンバーカード以外の電子証明書を利用する場合は、電子証明書を使用するための専用ソフトが必要となりますので注意が必要です。

6-2-2 電子定款作成から認証まで

4万円の定款印紙代を浮かせるために電子定款を利用する場合、どのような手続きが必要かを確認しておく必要があります。その流れを示すと以下のとおりとなります。

(表5)電子定款の認証までの流れ(株式会社の場合)

  1. ステップ1:電子定款の作成・認証に必要なものを用意する。
  2. ステップ2:法務省のオンライン申請システムに登録し、利用の準備をする。
  3. ステップ3:定款案を作成して公証役場で内容のチェックを受けるとともに認証日を決める。
  4. ステップ4:定款をPDF化して電子署名を付し、認証日に法務省のオンライン申請システムから電子定款の認証の申請をする。
  5. ステップ5:公証役場で認証手数料を支払うとともに、定款の謄本の交付を受ける。

株式会社の場合は、紙の定款・電子定款を問わず公証人の認証が必要なことから、定款の事前チェックは自然な流れです。一方、合同会社や一般社団・財団法人などの場合は、そもそも公証人の認証が不要ですから、専門家に手数料を払ってまでチェックを受ける必要があるのかという疑問が生じます。ただ、定款の内容に不備があると手続きをやり直さなければならないことを考えれば、費用の抑制と、正確性と円滑な手続きのどちらを選択するかについては、各自の判断に委ねられるところです。

また、ここで見落としがちなのが、ステップ1の用意すべき「必要なもの」が何かということです。ざっくりと見ても以下のようなものが必要となります。

(表6)電子定款作成・認証に必要なもの

  1. 1)インターネットの接続できるパソコン(OSはウインドウズで、適合バージョンは法務省のHPで確認が必要です)
  2. 2)文書作成用ソフト(一般的には「word」)
  3. 3)PDF作成ソフトのAdobe Acrobat(Standard又はProfessional)。法務省はこの「Adobe Acrobat」のみ電子定款に利用できるとしています。なお、価格はProfessionalが約57,000円、Standardが約36,000円となっています。
  4. 4)電子証明書・・・(表4)に記載のとおり。
  5. 5)PDF文書に電子署名し、認証済み文書を確認できるソフトが必要です。これは、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」からダウンロード可能です。

このように、場合によっては有料ソフトの取得も必要となりますので、利用者によっては準備段階で必要な費用額が印紙代の4万円を上回るケースもでてきます。そうなると電子定款を利用する意味が薄れてしまいますので、準備段階で、PCのスペックやインストール済みアプリ等を確認しておかなければなりません。

7 自分で設立or専門家に依頼

自分で設立or専門家に依頼

2の「会社の種類と手続きの方法による費用の違い」で確認したように、前提条件によって設立費用は異なりますが、全ての手続きを起業家が自分で行う場合と、士業等の専門家に依頼する場合ではどのような違いが出るかについても見ておきましょう。

(表5)株式会社の場合

自分で手続きを行う 専門家に委託
(電子定款利用)
紙の定款 電子定款
公証人手数料 50,000円 50,000円 50,000円
定款の印紙代 40,000円 0円 0円
機器等の購入費 0円 39,000円 0円
電子証明書の取得費用 0円 0円 0円
登録免許税 150,000円 150,000円 150,000円
委託手数料 0円 0円 30,000~70,000円
240,000円 239,000円 230,000円~270,000円

(表5)の説明
自分で電子定款を作成する際の機器の購入については、Adobe AcrobatのStandardの金額としていますが、PCに装備されていれば、36,000円が不要となり、費用はICカードリーダー購入費用の3,000円のみとなります。また、電子証明書の取得費用は、「公的個人認証サービス」におけるマイナンバーカードに組み込まれた電子証明書を利用するケースで想定していますが、「商業登記認証局」の証明期間3カ月の証明書を取得すると2,500円ですので、カードリーダー購入費用と大差ないと言う点に注目すれば、利用する電子証明書発行機関を選ぶ参考となります。

一方、専門家に委託した場合は、委託先によって30,000円~70,000円程度の手数料が必要ですが、新たな機器の購入や電子証明書の取得などの費用と手間がかかりませんので、サービス内容と手数料の見合いで総合的に判断し、専門家に委託するという方法も十分検討に値すると言えます。

ここまで見てきたように、設立登記に直接関わる費用という点では、株式会社の場合は、公証人の定款認証という手続きが大きな負担となります。一方、電子定款の利用を前提に、専門家に手続きを委託して合同会社を設立する方法なら、定款認証手数料の5万円と定款印紙代4万円を節約できますので、設立費用は総額8万円程度から12万円程度に抑えることが可能だという点は注目に値します。

会社設立に係る費用は、印鑑の作製費用から事務用品の購入費用、場合によってはPCの購入など個々の事情によってある程度の幅がありますので、細大漏らさず想定しようとすると入念な準備が必要です。一方で、今回解説した設立登記に係る費用の節約だけに注目すると、本来の起業目的から逸れてしまうおそれがあります。節約手法を知った上で、あくまでも、設立する会社の将来構想や起業家ご自身の夢の実現を念頭に置くことが肝要です。

8 まとめ

農業の法人経営体数は、2009年の農地法改正以降増加しているものの、日本再興戦略における目標達成は困難な状況となっています。これは、企業が、事業の多角化の一環という位置づけのもと、準備が不十分なまま農業に参入し、経営が頓挫して撤退するというケースが多いことも要因の一つと言われています。収益性の高い農業ビジネスを確立するためには、事業地域の行政や農業委員会と密接に連携するとともに、農家や営農集団との共生を図り、生産ノウハウの共有とイノベーションを絡めた新たなビジネスモデルの創出が不可欠です。農業法人設立にあたっては、このような点を踏まえつつ、農業分野の制度面の特徴等を把握するための一助として、この記事をご参考ください。

社団法人設立が全国一律27,800円!KiND行政書士事務所:東京