退社、会社設立、IPO等はいつ行うべき?その適切なタイミングを徹底解説!
起業して会社を設立し将来は世界的に有名な会社へと発展させてやる!といった夢を描いている方も少なからずいらっしゃるでしょう。しかし、起業前から事業を発展していく過程では様々な困難が存在しています。特に、いつ勤務先から退職するか、いつ起業してどのタイミングで会社を設立するかなどの時期に関する意思決定は悩ましいです。
起業して会社を大きく成長させるまでには、会社設立、法人化や株式上場など重要な意思決定に迫られる時期があります。これらのタイミングを適切にとれるか、誤ってとってしまうかでその後の事業や会社の発展に大きな影響が及ぶことも少なくありません。
今回は会社設立前後からの創業者・経営者が直面する重要な意思決定のタイミング、あわせて女性起業家の事業内容と会社設立時の事業目的の決め方について紹介します。各々のイベントを適切な時期に行わなかった場合の影響、適切な時期に行った場合のメリットのほか、各イベントをいつ、どのような状況で意思決定すべきかについて解説します。近い将来起業して会社を大きくさせていきたいと思い描いている方は是非参考にしてください。
目次
退職、起業、会社設立(法人化)等に関する「いつ行うか」の意思決定のタイミング
ビジネスを開始する上で創業者や経営者は事業等に関する様々な意思決定を行うことになります。この意思決定を「いつ」にするかが事業の成否に影響することも少なくないため、当事者はそのタイミングを意識して備えておかねばなりません。
今回取り上げる「意思決定のタイミング」の対象となるイベントとしては、退職時期、創業時期、開業時期、会社設立時期(法人化時期)、株式上場時期、M&Aの時期になります。
退職時期は、現在勤めている会社等をいつ辞めるかというタイミングについての説明です。創業時期は個人事業者や法人としての設立時期で、開業日は事業をいつからスタートするかという時期になります。
会社設立日は、登記上の会社設立日をいつにするかという点の説明で、法人化は個人事業から法人化する場合に適した時期がいつになるかという点についての説明です。
そして、会社が発展して事業規模が大きくなれば検討することもあり得る「いつ株式上場するか」、或は「いつM&Aをすればよいか」といった時期についても取り上げます。
以上のような起業前後から会社設立時や事業の成長後の創業者が行う重要な意思決定のタイミングに関する様々な内容をこれから確認していきましょう。
意思決定のタイミングで生じる経営上の問題と効果(影響やメリット)
退職時期、創業時期、開業日、会社設立時期(法人化時期)、株式上場時期、M&Aの時期についての意思決定のタイミングを誤ると、どのような問題が生じるのか、逆に適切なタイミングが取れればどのようなメリットが得られるかなどについて説明します。
退職日や創業日の時期をいつにするかによる影響
①退職時期
会社等に勤めている方はその勤務先を辞める時期を明確に定めて辞表を提出しないと自分が希望する時期に退職できなくなり、その後の起業や会社設立の時期を遅らせかねないため注意が必要です。
会社等で働いている場合、民法上の規定だけでなく従業員には各々重要な業務を担当しているため辞表を提出しても明日からなど直ぐに退職できるとは限りません。有能な人材であれば会社側から強い慰留の申出があったり、退職日の延期の依頼があったりして希望の時期を退職日とすることは意外と難しいです。
また、担当業務の引継ぎもあり後任の担当者を用意するのに時間がかかるケースも多いため、それが原因で希望の退職日を変更せざるを得ないケースも少なくありません。また、給料の支払いの締め日の関係で希望日の予定を多少変更するケースも珍しくないです。
上記のような理由から退職日を大幅に変更することになれば、当然起業の準備に影響が出る可能性が生じるわけです。会社側の都合で2~3カ月といった期間も退職日を遅らせることになれば、起業の準備や事業開始などもその変更に伴い再設定しなければなりません。
そうなれば今後の事業に関する許認可の取得、資金調達、事業上の取引、人材確保など起業後の事業活動に影響が出る恐れが生じます。行政からの許認可取得や事業の開始が遅れることで大きなビジネス機会を逃すことになれば、計画していた事業展開が困難となり事業はいきなりつまずいてしまうかもしれません。
逆に退職の時期を適切に決めて実施できれば、上記のようなマイナスの影響を受けなくて済みます。会社側から納得が得やすい退職日を事前に想定し申しでることで起業の準備を予定通りに進め創業計画に沿った思い通りの経営を展開しやすくなるはずです。
②創業時期
業種や経営環境などにより創業時期を適切に選択しないと創業後の経営リスクを高めることになるため、創業時期は慎重に検討し決定しなければなりません。
これから起業しようとする事業にとって好ましくない経済や事業環境等である場合に無理をして創業しても売上や利益が確保できず事業の拡大どころか、維持するのも困難になるケースは少なくないです。
たとえば、半導体関連事業では通信インフラや情報システム等の市場動向により需要が大きく影響され、好不況の時期が明確に分かれるケースがあります。こうした事業における不況期に突入する前後の時期での新規参入は経営リスクを高めることになるため回避するのが妥当です。
しかし、こうした経営環境を無視して勢いで創業してしまうと思うような業績を残せず短期間で廃業を迫られることになりかねません。逆に不況の底が見えて好況へと転換する時期や転換直後の時期などでは起業後の事業も比較的順調に事業を拡大させやすくなります。
もちろん創業には経営環境以外の経営資源や許認可等の関係から創業時期を決めざるを得ない要素も少なくないため、総合的に判断することが求められます。しかし、少なくとも自社の事業にとって不利な環境で起業するのは危険な賭けになり得ることを理解しておくべきです。
会社設立日の時期をいつにするかによる影響
最初から法人する場合も個人事業から法人化する場合も登記上の会社設立日をいつにするかで事業上の影響や税金等の負担に違いが生じるケースもあるため慎重に検討しましょう。
会社の設立日は法務局に設立登記申請を行った日が「会社設立日」になり、その日によって様々な影響が生じることがあります。たとえば、業務開始に関して特定の許認可を取得する必要がある場合、その許認可が求められる時期までに設立登記を終えないと許認可が得られないこともあるわけです。
また、法人に課さされる法人住民税や消費税では設立日をいつにするかによって税金の負担が重くなったり軽くなったりすることがあります。自社にとって有利な時期を会社設立日にすれば、余計な税金を納めなくて済むというメリットが得られる一方、時期を誤れば払わなくて済んだ税金を納めることになるのです。
会社設立日の決定の仕方は各創業者の考えや置かれた状況などで異なってきますが、事業上の影響や税金等の損得などから適切に決める必要もあります。
法人化の時期をいつにするかによる影響
株式会社等の会社形態にするという法人化には様々なメリットがある一方、デメリットも少なからず存在するため、自社の状況に適した時期を選ぶことが重要です。
たとえば、個人事業を行っている場合、事業上の収入に対する税金は主に所得税として納付することになりますが、所得税は累進税率であるため所得が多くなるほど納税額も多くなります。
他方、法人化すれば事業収入は会社の法人税と経営者の所得税として支払うことになりますが、所得税率よりも法人税率が低い場合では大きな節税も不可能ではありません。つまり、事業収入の少ない間は個人事業のままで営業し、所得がある水準を超えるようになってから法人化すれば税金負担が軽減できます。
また法人化したほうが税金負担以上に取引や融資において有利になるケースもあるため、その有利な状況が望める時期に設定することも重要です。ただし、法人化には一定の費用がかかり、株式総会の開催等の手間も生じます。
このように法人化・会社設立の実施は様々な影響が生じるため、単に多くの人が法人を選択するから、なんとなく聞こえがいいから などの安易な理由から決定するのは避けるべきでしょう。
株式上場やM&Aの時期をいつにするかによる影響
会社設立後事業が順調に成長していき企業規模が大きくなっていけば、株式を証券取引所に上場したり、M&Aを行ったりできる可能性が高まります。しかし、その時期を見誤ると経営リスクを高めることになりかねません。
株式上場を実現できれば保有株式の売却で大きな創業者利益を得られるため起業家にとってはIPO(新規株式公開≒株式上場)が経営上の1つのゴールにされるケースも多いです。
また、IPOにより証券市場から直接金融による資金調達ができるというメリットのほか会社の知名度も上がり自社ビジネスが有利に働きます。一方、不特定多数の第三者に自社株式が買われることになるため、対応の仕方によっては会社の乗っ取りや経営への圧力などを受けるといったデメリットも生じます。
こうしたメリット・デメリットはその会社の社歴やその時の状態などで左右されるため、時期と状況によってはメリットが少なくデメリットが大きくなることも少なくありません。
たとえば、会社設立から時間が経ちすぎ事業の成長の天井が見え始めた段階でIPOを行っても自社株式の評価が高まらず、初値が思いのほか低くなってしまうこともあります。そうなれば創業者利益で大きな資産を作りたいというような夢も実現するのは困難になってしまうでしょう。
或はM&Aで自社を売却しようとしても良い条件で買手を見つけるのが難しくなることも予想されます。
IPOもM&Aも様々な要素を踏まえて総合的に実施の是非を検討すべきイベントですが、実施のタイミングも検討の1つに加えなくてはなりません。
適切な意思決定のタイミングと考慮すべきポイント
上記で確認した各イベントの時期をいつ行うかべきかの点とともに、判断にあたり重要となるポイントについて説明していきましょう。
退職時期と創業時期の重要ポイント
①退職時期で考慮するポイント
A 勤務先の会社における辞表提出から退職までの平均日数の確認
勤務先において、辞表を提出してから退職できるまでにどの程度の日数がかかるかを事前に確認した上でそれをもとに希望退職日を申し出るようにしましょう。
先に説明した通り、辞表を出せばその直後の日や希望の日に退職できるとは限りません。民法など法律によって退職の申出から退職日までの期間の定めもありますが、勤務先を円満退職したい場合は後任者の準備や業務の引継ぎなどの対応に協力する必要もあります。
また、法律や雇用契約の形態などにより退職までの期間が何カ月とかかったり、会社との合意が必要となったりするケースもあるのです。そのため自分と同じ雇用形態の人が平均的にどの程度の日数で退職できているかを事前に把握してその日数から辞表の提出日や希望退職日を決めたほうが良いでしょう。
もし法律で規定された期間よりも短い期間で退職した場合、損害賠償を求められるケースもあるため注意が必要です。
参考:民法第627条の規定(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
1項
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2項
期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3項
六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。
ほかにも民法第628条では「やむを得ない事由による雇用の解除」について規定されています。
②創業時期で考慮するポイント
創業時期のタイミングを考える上での重要ポイントとしては、事業を順調に展開していけるだけの経営環境であるかどうかと、事業を適切に遂行できるための経営資源が備わっているか、という2点になるでしょう。
一般的に創業時点においてはどの企業も経営資源が不足がちであるため、経営環境が自社にとって有利な環境であることが重要です。資金などの経営資源が豊富な企業なら創業後から一定期間の業績が赤字であっても事業を継続することは難しくないでしょう。
しかし、資金が少なく融資も期待できない企業などの場合は創業時から売上と利益を伸ばしていかないと、赤字となり直ぐにキャッシュが枯渇することになります。そのような状態になれば何か問題が生じれば即事業の継続が困難になってしまうのです。
そのため資金や取引先などに不安のある企業ではできるだけ自社事業が順調に成長軌道に乗れるような経営環境下でスタートするのが定石と言えるでしょう。
また、資金以外の他の経営資源の点でも同様のことが言え、従業員や生産設備等の経営資源が十分に確保できない段階で創業すれば、やはり事業の継続は難しくなってしまうのです。
創業当初での必要資金や創業後から半年といった期間での運転資金が事業計画の内容に対応して適切に確保できている、従業員も事業展開に対応した人数が採用できている、機械・設備等が計画の事業活動に見合った能力を有している、という状態でないと少しのトラブルで事業が停滞しかねません。
これらの経営環境や経営資源の準備の点も考慮して創業時期を絞っていきましょう。
会社設立時期と開業時期の重要ポイント
①会社設立日で考慮するポイント
まず、会社設立日がいつの時点になるかを正確に把握しておくべきです。既に説明しましたが、会社設立日は法務局へ「会社設立の登記を申請し受理された日」になります。
通常、土日祝日は法務局が休みであるため、特定の日を設立日にしたい場合は休日の点を考慮して申請しなければなりません。また、申請する方法によって受理される日が異なるため、それを認識して行うべきです。
たとえば、法務局の窓口申請、郵送申請、オンライン申請の場合、受理される時点は下記のようになります。
- 窓口:申請書が受理される日
- 郵送:法務局に到着した申請書が受理される日
- オンライン:送信した申請書のデータが受理される日
郵送の場合は事前に到着日や受理される日が正確に把握しにくいケースもあるため注意が必要です(書類の到着日イコール受理日とならないこともあり得る)。
なお、登記が完了するのに要する時間は申請後数日~2週間ほどになると言われていますが、その時の混み具合などにより変わってきます。また、申請内容に不備があると修正や再提出が要求されるため、登記の完了を急ぐ場合などは司法書士などの専門家に依頼することも必要です(専門家に依頼するケースは多い)。
上記の会社設立日の時点を把握した上で、以下の点には特に注意して会社設立日のタイミングを検討したほうがよいでしょう。
A 許認可
飲食店、医療法人・社会福祉法人等や建設業など業種によっては会社設立日と前後して関係する所轄官庁での各種の許認可を取る必要が生じます。そうした許認可の日程に対応した会社設立を行わないと事業が開始できないこともあるため注意が必要なのです。
たとえば、社会福祉法人などの場合、許認可(都道府県等)を得るには2・3カ月~6カ月ほどかかる(事業内容による)と言われています。都道府県知事等に設立認可の申請を行い認可された場合それを証明する書類が送付されますが、その到達日から2週間以内に管轄法務局で設立登記申請を行わねばなりません。
なお、他の業種では許認可を取る場合謄本が必要となるケースが少なくないですが、設立登記が完了するまで謄本は入手できないためその点も考慮しておくべきです。
このように許認可が必要な業種では会社の設立登記が必要となるため、許認可の審査期間などを考慮して会社設立日をいつにするか、いつ登記申請するかを考えておく必要があります。
B 税金
先に説明したとおり、会社設立日によって法人住民税と消費税の負担に違いが生じるため、その点を考慮して設定するべきです。
1)法人住民税
法人住民税の一種である均等割(都道府県及び市町村に事務所や事業等を設置することで徴収される)において、会社設立日の違いにより税額が変わってきます。
たとえば、東京都の特別区に会社を設立して事務所等を構えた場合、その均等割は(特別区内に事務所、事業所、寮や保養所等を有していた月数/12)×税率(年額)です。
*月数は暦で計算、事務所等を設置していた期間のうち1月未満の端数は切り捨て、事務所等が設置されていた期間がその事業年度を通じて1月未満の場合は1月とされる
一般法人・資本金1,000万円以下・従業員数50人以下の企業の場合、その均等割は年額70,000円です。この場合に20XX年4月1日に会社を設立し事務所を中野区に設置し、翌年の20XY年3月31日を決算日としている場合の均等割額は 12月/12月×70,000円=70,000円 になります。
ところがその会社が20XX年4月2日に設立した場合(決算日は同様)、均等割額は 11月/12月×70,000円=64,100円(100円未満切り捨て) です。たった1日の違いで1カ月分少ない11月分で計算されることから均等割は 70,000円-64,100円=5,900円も税負担が軽減されます。
2)消費税
消費税には「課税期間に係る基準期間*の課税売上高が1,000万円以下の事業者は原則としてその課税期間の納税義務が免除される」という免除特例制度が設けられています。
*基準期間:個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度
新設法人の場合基準期間が存在しないため、設立1期目及び2期目は原則として消費税の課税免除事業者となり消費税の負担が原則免除されますが、会社設立日によって税負担が変わってくるのです。
たとえば、設立日が10月1日で決算日を3月31日とした場合、設立1期目の期間は6カ月間になります。しかし、設立日を早めて4月1日にした場合では設立1期目の期間は12カ月間となり1期目の消費税免除期間は6カ月間も長くなるのです。
消費税額の大きさは各企業によって異なりますが、事業規模が大きく売上が多いほど消費税額も多くなりやすいため、その点も踏まえて会社設立日を検討したほうがよいでしょう。
②開業日で考慮するポイント
ここで扱う開業日とは、法務局へ登記申請し受理された会社設立日となる日ではなく、実質的に会社としての事業を開始する日のことです。たとえば、製品・サービスの提供を行うための活動等が開始される日であり、端的に言うと営業開始日などが該当します。
具体的には、飲食店が店をオープンしてお客を迎えられる日などが該当するでしょう。会社設立登記を済ましてもお店を設置し(お店を借りる等)必要な設備・機器、材料や従業員などが準備できなければ営業を開始することができません。
また、店内のオペレーションがスムーズに流れるように設備等を試しつつメニューを試作したり、従業員の訓練をしたりする必要もあります。このように業種によって営業開始までには様々な準備や取り組みが必要となるため、経営者は事前にそれらの内容を把握して完結させておかねばなりません。
会社設立日をいつにするかも重要ですが、実際の業務を行い顧客に製品・サービスを提供できるという開業時期の設定はより慎重に検討する必要があります。上記のような各種の準備期間を正確に把握して開業時期を判断するようにしましょう。
法人化の時期の重要ポイント
①法人化で考慮するポイント
ここでは法人化する時期をいつにするかを決定する上で考慮すべき重要な点を確認していきます。
まず、法人化するかどうか、いつするかを適切に判断するためには法人化のメリット・デメリットを認識しておくべきです。主なメリットとしては以下のような点が挙げられます。
・有限責任の確保(経営者の無限責任から有限責任へ)
・節税対策(低い法人税率の適用、経営者の給与所得控除の適用等)
・信用力の向上(株式会社等は個人事業者に比べ社会的信用度が高い)
・2年間消費税の免除(新設会社は2年間の消費税の納税免除が受けられる)
他方、主なデメリットは以下の通りです。
・赤字でも納税義務(赤字でも法人住民税の納税が必要)有り
・社会保険への加入義務(社長1人でも社会保険への加入が必要、会社と従業員で費用を折半)
・会計手続等の煩雑化(決算業務等での会計業務などで負担が増大)
・会社設立費用の発生(株式会社などでは25万円程度の費用が必要)
会社を設立することによって以上のようなメリット・デメリットが生じる可能性があるため、いつ設立すればどのようなことが生じ影響するかを予想して最も有利となる時期を探る必要があります。
なお、上記の点の中でもとりわけ税負担の軽減とコストの増大については十分に考慮しなければなりません。
①法人化による税負担の軽減
個人事業者の場合、事業者に係る所得税は売上から経費を控除した残りの利益に課税され累進税率が適用されます。一方、法人の場合事業収入から費用を控除した残りの利益に法人税が課税されますが、その法人税率は会社形態等で異なるものの20%程度です。
税金負担の大きさを個人事業と法人とで比較する場合、前者の経営者に対する所得税と後者の「法人税+経営者の所得税」の大きさで検討する必要があります。一見すると前者の税負担が軽いように見えますが、個人事業者の所得が多くなると累進税率のため後者よりも重くなるケースが少なくないのです。
加えて法人の場合、経営者は一般の会社員のように給与所得控除が適用されるため個人としての税負担が大幅に軽減されます。
その企業の収益と費用の構造にもよりますが、一般的に個人事業で所得が900万円を超えるようになってきた場合に法人化したほうが税負担は軽くなりやすいと言われています。
自社の構造・状況を分析して所得がいくら以上になれば法人化で税負担が個人事業よりも大幅に軽減できるという水準を把握できれば、それが法人化のタイミングを計る判断材料の1つになるはずです。
なお、消費税については先に説明した免除特例が新設会社に適用されます。国税庁のHP・タックスアンサーでは「個人事業者又は法人のその課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合には、消費税の納税義務が免除されます」と示されているのです。
従って、個人事業者としての消費税納税額が大幅に増加しそうな時期などで法人化すれば、2年間の免除特例が利用でき納税上有利になります。
*国税庁HP タックスアンサー 「No.2260 所得税の税率」より
*国税庁HP タックスアンサー 「No.5759 法人税の税率」より
②法人化によるコスト増大
上記のデメリットにもあるように会社設立費用、社会保険料のほか、株主総会開催費用、決算対策費用など法人化により個人事業では生じない費用が発生します。収入に対して費用が多い時期などキャッシュフローが悪い状況での法人化はさらに支出を増加させ経営を圧迫することに繋がるため、回避するべきです。
もちろん費用だけではなく、各種の手続を行う手間が生じるため経営者や従業員の多くの時間が割かれるという大きな負担になることもあります。各手続に関する専門家との打ち合わせなどが増え、そのための業務も多くなるためルーチンワークや戦略業務に支障が出ないとも限りません。
また、株主を多くすれば経営への圧力が増すため、株主総会対策にも力を注ぐ必要性も出てきます。法人化でこうしたコストと手間が生じ得るため、それらに十分対処し得るための準備や体制を整えて法人化のタイミングを図りましょう。
3-4 株式上場時期とM&Aの時期の重要ポイント
①株式上場(IPO)の時期で考慮するポイント
株式公開を実現することで資金調達面など多くのメリットを享受できる一方、コストの増大や経営リスクの上昇等のデメリットも生じるため、これらの内容を把握し影響力を評価した上でIPOの時期を模索する必要があります。
IPOのメリットとしては下記の内容が代表的です。
・証券市場からの資金調達(返済義務のない資金を不特定多数から調達可能)
・信用度・知名度の向上(証券取引所の審査を通過する必要があるため、上場企業として信用度が増す⇒ビジネスで有利に)
・創業者利益の獲得(保有株式の売却によるキャピタルゲイン⇒自己資産の形成)
・従業員のモチベーション向上(会社の知名度の上昇などにより)
他方、IPOのデメリットには以下の点などが挙げられます。
・IPOの準備や審査に伴うよる手間やコストの負担(専門家に準備を依頼するなどによるコストの増大、審査対策の社内システムの改革や資料の準備、既存業務への悪影響 等)
・IPO後のコストの増大(上場維持費用の発生、株主総会費用の増大等)
・経営の不安定化(大株主等からの経営に対する圧力など)
・買収リスクの可能性(流通株式を多くし過ぎると買収される可能性が発生)
このようなメリット・デメリットがあるため、特定のメリットを得るという明確な目的を持たずデメリットを考慮しないでIPOを進めると業績・財務の悪化や経営リスクの上昇等を招くことになりかねません。
そのため何のためにIPOを行い、どう自社を発展させるのかという目的を明確にすることが不可欠です。一般的には証券市場から資金調達した資金で新たな事業へ進出したり、既存事業を強化・再構築したりするケースがよく見られます。
また、新興企業などの場合は既存事業の拡大のための資金を確保するために実施されるケースも少なくありません。IPOを実現することで、企業としての信頼度を高めて有利な融資が受けられやすくなります。また、知名度の上昇により新規顧客の開拓が促進される可能性も高くなるのです。
ただし、IPOの実現には証券取引所の審査に合格するための準備に決して小さくない手間もコストもかかるため、目的を明確にしてその実現に最も適した時期を選ばなくてはなりません。また、上場の準備から実際に上場できるまでには相当の時間が必要です。
たとえば、東京証券取引所の第1部や2部市場では3~4年、マザーズ市場などでは3年程度かかると言われています。このように準備に長期間を要するため、経営戦略の観点からIPOの準備やその実現時期を経営計画に反映させて進めなければなりません。
②M&Aの時期で考慮するポイント
M&Aについては、自社が他社を買収する場合と他社に自社を売却する場合に分かれますが、ここでは後者の方について説明していきます。
会社設立後からの自社を売却する代表的なケースとしては、株式上場も可能となるような成長を実現した状態や、長期間事業を継続した後の後継者の不在という問題を抱えた状態の2つが挙げられるでしょう。
両方のケースとも売却か継続かについて相当悩むことになりますが、売却する場合のタイミングを誤ると望ましいM&Aの実現は期待できません。つまり、M&Aの意思決定のタイミングを誤るとM&Aは失敗するわけです。
A 成長後のM&Aのポイント
自社において今後も成長が期待できる場合自社の企業価値が高く評価されることに繋がり,買手が見つけやすくなる、高く売却できるという有利な状況が生じます。しかし、その評価が低ければ買手は見つけにくく、高く売却できないという状況になり、そのM&Aは失敗になる可能性が高くなるのです。
そのため売却する場合、自社が一定以上の評価が得られるような成長が可能である、今後における企業価値が買手の満足できる水準以上ある、という状態で売却の意思決定をしなければなりません。
表現を換えると売却のタイミングとしては、自社が今後も一定の成長を実現でき買手にとって魅力的な企業価値を示せる時点までが候補となるでしょう。
これらの時期を検討するにあたり、自社が株式上場も可能となりそうなほどの成長を遂げているか、近い将来上場が可能となりそうな成長は期待できるか、などの状態を分析するとともに、その状態での企業価値を算定するとよいでしょう。
自社で売却時期の判断がつかない場合はM&Aを支援する事業者等に相談して売却時期を探る必要があります。コストがかかりますが、専門家に依頼すれば高く売却できそうな買手候補を早めに見つけてもらうことも可能です。
こうした売却への準備や行動を適切にとっていくことで満足できる売却の意思決定ができるはずです。
B 後継者対策のM&Aでのポイント
後継者問題の対策として自社の売却を選択する場合、最も避けるべきは売却のタイミングを遅らせないことです。特に事業が衰退期に入っている場合、買手を見出すのがより困難となるため時期を遅らせるほど買手が現れにくくなってしまいます。
もう一つ注意すべき点は現経営者の健康状態や年齢です。高齢で病気がちであるような場合、急に症状が悪化して経営から離れざるを得ない状況に陥るとも限りません。
以上の点から後継者問題が気になり始めた場合、事業が衰退期に入る前、経営者の健康が維持できている時に売却の検討を始める必要があります。自社事業の限界や経営者の健康不安を感じ始めたら売却の準備を進める意思決定が必要となるのです。
会社設立など各イベントに対する意思決定のタイミングで注意すべき点
様々な意思決定においてそのタイミングを遅らせると不利な状況に陥ることもあります。ここではそうならないための特に注意しておきたい点を説明しましょう。
退職日を遅らせないための注意点
①勤務先の慰留に迷わない
勤務先にとって現在懸命に業務に従事している人材が退職してしまうのは大きな損失となるため、引き留めにかかるケースが多く見られます。企業としては一定のコストをかけて採用し、教育訓練やOJTなどにより育成してきた人材に会社を辞められると、大きな痛手となるのです。
従って、有能な人材であるほど企業は退職希望者をあの手この手で引き留めにかかる傾向があります。給料のアップや昇進などをチラつかせて慰留するケースも少なくありません。また、「今まで業務を共に苦労してきた」というような仲間意識などの情に訴える引き留めもあるでしょう。
こうした引き留めは確かに心に響くものですが、起業を決意したのなら簡単に応じるべきではありません。また、一旦退職の意思表示をした者に対しては評価や処遇が悪くなるケースも少なくないです(辞める可能性の高い者への評価は悪くなりがち)。
会社に留まった結果、その後の扱いが悪くなるようでは後悔することになります。こうした可能性も考慮して、辞表を提出したら退職を貫徹するように努めましょう。
②退職日の長期の引き延ばしには応じない
また、慰留ではなく退職日を引き延ばすという依頼も多いです。会社としては後任者の準備や引継ぎをできるだけ余裕をもって行いため、何カ月といった期間の引き延ばしを求めてくるケースも少なくありません。
退職でできるだけ会社に迷惑をかけたくないという気持ちになるのは自然ですが、起業における限度もあるため一定期間で目途をつけるべきです。その会社における一般的な引継期間を調べておき、その期間よりも異常に長くなる場合は応じないようにしましょう。
会社側の希望を尊重することは円満退社には不可欠ですが、かといって言いなりになり会社設立等のスケジュールを狂わせるべきではありません。
会社設立日・開業日を遅らせないための注意点
会社設立と同時に事業を開始したい場合などは以下の点に注意すべきです。
①開業資金等の内容を正確に把握する
開業資金等がなければ事業を始めることができないですが、必要資金を準備するには開業資金の内容を漏れなく把握した上で適正な金額を見積もらねばなりません。
各業種によって開業に必要な費用・支出の内容は異なるため、自分が始める事業で必要な費用はすべて把握する必要があります。そして、費用の項目ごとに仕入先等から見積りをとり、必要資金の合計を掴んでおくべきです。
もし自己資金だけでその合計額に足りなければ、親族や金融機関からの融資も検討する必要があり、そのための交渉等も進めて行かねばなりません。こうした行動が遅れると必要な時期に資金が準備できず結果として開業の時期も遅れるのです。そうならないためには早めに必要資金を正確に把握できるようにしましょう。
②開業資金等を会社設立日までに準備する
上記の通り開業資金の正確な費用を把握できれば(見積ることができれば)、次はその資金を確保していかねばなりません。また、開業に必要な設備・機器、原材料・部品などのほか業務を担当する人材の確保も必要です。
資金確保に必要な時間及び設備・資材等のほか人材を確保するための時間を十分にとり準備を進めるようにしましょう。そして、これらに必要な時間をもとに開業日から逆算して準備を開始する日を決めるとよいのです。
この意思決定のタイミングを遅らせないためには上記の準備に関する計画を適切に立案しておくことが重要になります。資金、設備・機器、材料等や人材をいつまでに確保するか、そのために必要な発注や採用活動はいつ行うか、などをスケジュール化して管理・実行するようにしましょう。
法人化を遅らせないための注意点
個人事業から会社設立する場合の法人化のタイミングが適切にとれるための注意点を確認していきましょう。
法人化を検討する場合、税負担の軽減や事業の拡大などが理由として挙げられますが、法人化の目的によってそのタイミングも異なってきます。特に注視すべきは事業の拡大を図り近い将来には株式上場や業界トップクラスの地位を目指す場合、法人化への決意が遅れるほどその目標も遅れてしまう点です。
事業を拡大させ企業を発展させるためには、ビジネスチャンスを捉えられる経営資源の確保が重要になります。たとえば、チャンスに対応して事業を加速させるための資金、人材、生産設備、営業拠点などの経営資源の補強や新たな確保が求められます。
こうしたお金や人材等の確保には企業の信用度が重要であり、株式会社などの会社形態のほうが有利です。個人事業でも金融機関から融資は受けられますが、株式会社等の形態の方が借りられやすいでしょう。また、人材も集まりやすくなります。
そのため将来の事業拡大を決意し各種資源の増大等が必要となったと判断した時が法人化のタイミングの1つになるはずです。
なお、法人化しても会社の業績が悪く財務状況が芳しくない場合、融資や人材の確保は困難となるため個人事業者の間に業績等を改善しなければなりません。
株式上場を遅らせないための注意点
株式上場の時期を遅らせないためには、IPOの意志を明確にしてその実現時期を設定することが不可欠です。
「会社がある程度成長したらその時はIPOを進めよう」といった漠然とした考えよりも、「○年後にはIPOを実現する」というような明確な目標を設定するほうが実現の可能性は高くなります。
前者のような考えでは会社が成長したとしてもIPOに取り組む意欲が会社全体に生じるとは限らず、費用や手間のかかるIPOを進めようという雰囲気になりにくいのです。
会社側が「△△の目的のためにIPOを実現する」「証券市場から資金を調達して□□事業に参入する」といった明確な目標を従業員に提示すれば、IPOに向けた積極的な取り組みが従業員に期待できます。
○年後にIPOを実現すると社内で宣言し、IPOに向けて専門家等に相談して準備に掛かることで具体的にIPOの達成が見えてきます。そのため起業してから事業が順調に成長軌道へと乗れたと判断できれば、その時に目的を定めてIPOの意志を固め社内でその挑戦を宣言しても良いのではないでしょうか。
女性起業家の事業内容とその傾向
近年、女性の社会進出に伴って女性による起業が増加しています。事業内容の決め方は人によって様々ですが、ある人は経験やスキルを活かした事業内容とし、またある人は培ってきたコネクションを有効に活用した事業内容とします。
女性起業家を見てみると、事業内容にはある傾向があることが分かります。それは、男性起業家と比べると、家事・育児・介護と両立ができる事業であることや、社会に貢献できることを事業内容としていることです。具体的には、医療や福祉、教育関連の分野を事業内容としている割合が多い傾向にあります。
また、女性の起業時の年齢別割合では40代が最も高くなっています。その理由としてはその年代が、子どもが手を離れて自分の自由な時間を持つことができるようになることや、経験的にまた経済的に独立することを実行に移すのに適していることが考えられます。
結婚や育児を経た女性であれば、事業内容を自身の経験してきた育児、教育、家事そして介護といった分野とすることで、以後の自身の家庭での役割と両立を図ることもできるということも、これらを事業内容として選択する理由の1つと考えられます。
キャリアを築いてきた女性であれば、従業員という立場から経営者へと転身して、自身の経験と暖めてきたアイデアを実行に移す環境を整えることも理由の1つと考えられます。
事業目的とは
事業目的とは会社の事業内容のことです。会社を設立する際に作成する、会社の憲法と言われる「定款」において事業内容を記載することになりますが、その定款上の事業内容の呼び方が「事業目的」ということになります。
事業目的は、事業内容をただ思いついた言葉で記載しただけでは不適当になることがあります。また、事業の内容によっては事業目的とは見なされないこともあります。というのも、事業目的には「営利性」、「適法性」、「明確性」という3要件が必要だからです。
営利性とは、営業活動によって利益を得ることを目的とした事業であることを指しますので、ボランティアや政治活動は事業目的とするには不適当な活動内容です。
適法性とは法に則っているか、ということです。詐欺やネズミ講のような犯罪行為は違法ですので事業目的とは見なされません。そして明確性とは、営業活動内容を具体的に、かつ専門用語や業界用語を使わずに一般の人が見ても何の事業をやっているかよく分かるように書く、ということです。
事業目的は履歴事項全部証明書、いわゆる登記簿謄本にも記載されます。登記簿謄本は、第三者も閲覧することができますので、会社の事業内容は社会への公開情報ということになります。
その会社が何の事業を行っているかは登記簿謄本を見ると分かりますが、必ずしも会社の絶対的な基準として事業目的がある訳ではありません。会社の中には事業目的に記載されていない事業を行っているところもありますし、また事業目的にない事業を行ったとしても罰則等はありません。
これは、会社の営業活動を柔軟にして、会社にとって最も大事な売上を出すという使命を全うさせるためです。仮に事業目的を絶対的な基準にしたとして、事業目的を遵守することが足かせとなって会社の営業活動に支障が出た場合に、悪影響となるのはその会社だけではなく取引先や顧客にとっても同様です。
このため事業目的は柔軟に運用されることが通例となっており、事業目的に無い営業活動であっても売上を出すことに繋がるのであれば、会社の運営において必要な営業行為、と見なされることになっています。
ただし、いくら売上を出すためといって、事業目的に記載していない営業活動の方が事業目的に記載している事業内容よりも売上を上回るという状況となった場合には、事業目的を修正(追加)した方が良いでしょう。
会社は信用が第一ですので、事業目的が形骸化しては信用を得ることもままならず、取引先だけではなく融資の際にも支障をきたすことになります。会社は社会の一員であり、社会のルールに則ってこその会社ということです。
事業目的の記載数に上限はないため、予定している事業や、考えられる事業はあらかじめ事業目的としておくのが良いでしょう。
上場企業の中にも、現在の事業からは思いもつかない事業を事業目的としている会社もあります。そして、事業目的を見れば、その会社が将来どのような分野に進出することを考えているかが分かる、という側面もあります。
ただし、あまりにも手を広げすぎて主要な事業内容が分からないような事業目的は逆に信用をなくしますので、会社設立時の事業目的は10個程度を目安とすると良いでしょう。
そして、事業目的の最後には「前各号に付帯関連する一切の事業」を入れておくようにしてください。この事業目的によって柔軟性が増して事業の幅が広がります。
また、具体例は後述しますが、事業によっては官公庁等の許認可が必要となるものがあります。事業目的の存在意義の一つに、許認可を必要とする事業であるかどうかが分かるように記載する、ということがあります。
もし、許認可を得る際にその事業が事業目的に含まれていない場合には許認可が下りませんし、また許認可を得ずにその事業を行うと営業停止等の罰則を受けることになります。
会社設立時にはその事業に許認可が必要かどうか調べて、そして許認可を必要とする場合には、事業目的に許認可が必要な事業と分かるような記述とすることが事業目的のポイントの1つです。
事業の種類と事業目的記載例
事業目的は定款において次のように記載します。
「(目的)第○条 当会社は、次の事業を営むことを目的とする。
1.○○○
2.△△△
︙」
総務省が告示している事業内容を一覧化した「日本標準産業分類」によると、事業は「A.農業,林業」から「T.分類不能の産業」までの20種類に分類されます。
ここではその内の「建設業」、「製造業」、「販売業(卸売業,小売業)」、「金融業、保険業」、「不動産業」、「サービス業」、「教育、学習支援業」を取り上げて、それぞれの事業のポイントと事業目的の記載例(上記の「1.○○○」や「2.△△△」にあたるもの)を見ていきます。
建設業の事業のポイントと事業目的記載例
建設業を営む場合、原則として建設業許可を申請し取得しなければいけません。建設業法における建設業許可業種には「土木工事業」、「建築工事業」、「解体工事業」等の29種類があり、建設業の許可は国土交通大臣または都道府県知事が行うことになっています。
ただし、木造住宅工事1件の請負代金が1500万円未満等の場合の「軽微な建設工事」のみを事業内容とする等の場合には、必ずしも許可を必要としません。このように許認可にも条件がありますので、よく注意するようにしましょう。
事業目的の記載例は、例えば住宅メーカーの場合には、建築工事だけではなく保守や管理も行うことから「建築工事の設計、施工、管理、保守、請負」や「住宅の増改築やリフォーム、電気工事、塗装工事」等となります。
製造業の事業のポイントと事業目的記載例
製造業は食品や機械製品、コンピューター関係と多岐に渡る事業分野です。その中には許認可を必要とする品目もあります。
例えば、乳製品の場合には厚生労働省を所轄官庁とする食品衛生法の許認可が必要です。酒類においては国税局の管轄となっており、酒税法に基づいて酒類の製造免許を取得する必要があります。
酒類の免許の取得期間は、審査を経て2ヶ月ほど掛かりますので、このように会社設立時には許認可が下りるまでの期間も考えるようにしましょう。
製造業の事業目的例は「乳製品の製造並びに販売」や「酒類の製造、販売業」、「電子機器の製造並びに販売」、「コンピューターの周辺機器並びにコンピュータシステムの開発、販売」等となります。
販売業(卸売業、小売業)の事業のポイントと事業目的記載例
販売業は大きく「卸売業」と「小売業」の2つに分かれます。卸売業とは商品を会社(業者)に販売する事業です。商品を購入したその会社は、その商品を販売しようとする会社や最終消費者(個人)に販売します。小売業とは商品を最終消費者に販売する事業です。
許認可は販売する商品に応じたものとなっています。商品が医療機器や医療品の場合は、厚生労働大臣または都道府県知事から「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」という法律に基づいた許認可を得る必要があります。
また、酒類の場合には小売業の場合「酒類小売業免許」が必要となります。卸売業の場合には「酒類卸売業免許」が必要です。これら酒類の免許は、製造業の場合の酒類製造と同じく、国税庁が管轄をしています。
販売業の事業目的例には「衣料品の卸売及び小売」、「洋菓子及び和菓子の卸売並びに小売業」「古物営業法による古物商」等といったものがあります。
金融業、保険業の事業のポイントと事業目的記載例
日本標準産業分類では金融業と保険業は一つの分類に括られており、事業目的例として「金融業及び保険業」、「貸金業及び各種保険代理業」等があります。
金融業の内の貸金事業では、貸金業法に基づいて「貸金業務取扱主任者」という内閣総理大臣の指定を受けた資格を取得する必要があります。この資格はかつて民間資格だったのですが、現在では貸金業を事業とするために必須の国家資格となっています。
保険業で保険代理店を営む場合には、保険業法に基づいて「代理店登録・届出」を財務局にて審査し登録する必要があります。
不動産業の事業のポイントと事業目的記載例
不動産業とは、不動産の賃貸や管理、売買等の営業活動です。
不動産業では、自身の所有するアパート等の賃貸の場合には免許は必要ありませんが、不動産を売買したり賃貸の仲立ちを営んだりする場合には「宅地建物取引業」(通称「宅建業」)に基づいた国土交通大臣または都道府県知事から免許を取得する必要があります。
不動産業の事業目的例には「マンション、駐車場の不動産の賃貸借及び管理」、「不動産の仲介、分譲、管理、売買及び賃貸」等があります。
サービス業の事業のポイントと事業目的記載例
サービス業とは人の手を介して様々なサービスを提供する事業です。実体のある商品を販売するのではなく、各種情報であったり、快適な時間・空間・移動手段等を提供したり、様々な便利なサービスを提供したりします。
情報サービスの1例にはインターネットプロバイダー業があります。快適な時間や空間を提供する事業にはマッサージ店やネットカフェ等があり、移動手段のサービス業にはタクシー業等があります。
レストラン等の飲食業もサービス業です。飲食店を営む場合には、保健所の許可と防火対象物使用開始のための消防署への届出が必要となります。また、夜間に酒類を提供する場合には、警察署へ届出をして許可を得る必要があります。
介護業もサービス業の1種で、介護事業所を開設するためには介護保険法に基づいて市区町村に届けが必要となります。また、介護業の場合にも消防署へ消防法を元にした申請を必要とし、また近隣住民への説明も必要となります。
サービス業で他に許認可を必要とする事業には、ホテル業や旅行代理店等があります。サービス業の事業目的例には「インターネットを利用した各種情報提供サービス」、「カフェ、レストラン、居酒屋等の飲食店の経営」等があります。
教育、学習支援業の事業のポイントと事業目的記載例
この事業には、各種学校法人や、学習塾・音楽教室・英会話教室の文化系の教育機関、そしてスイミングスクールやダンススクール等の運動系の教育機関があります。
「学校」という名称を用いる場合には学校教育法に基づいた認可を受ける必要がありますが、学校という名称を用いない場合には認可は必要ありません。この認可を得ていない教育機関のことを「無認可校」といいます。この事業の事業目的例には「教育事業」、「人材育成のための教育事業」、「音楽に関する教育事業」等があります。
会社設立時には自分の考えている事業の業界の状況を知り、また許認可を得る必要のある事業であるかというところを含めて、先輩や知人、専門家に助言を貰いながら進めていくのが良いでしょう。
まとめ
企業経営では様々な意思決定が断続して必要となることから、タイミングが経営、すなわち企業の業績や発展に大きく影響します。つまり、意思決定のタイミングが悪い、遅れてしまう、ということになれば業績は悪化し経営リスクを高めることもあるわけです。
逆に適切なタイミングで実施できれば、ビジネスチャンスを掴み経営資源を効率的に使って良い業績を達成して事業を成長・発展させることも可能です。起業前から創業後における経営での意思決定は多種多様ですが、特に勤務先での退職、創業、会社設立や開業、法人化、IPOやM&Aなどのタイミングは重要になります。
これらの時期は企業の成長段階での節目となることからその行動に関する意思決定がその後の企業の発展に大きく影響するため、慎重に各タイミングを計らなければなりません。
意思決定の内容の善し悪しは当然重要ですが、意思決定を適切な時期に行うということも経営者としての重要な責務として認識し取り組んでください。