経営分析とは 経営分析の基礎知識と経営分析に使えるツールを紹介!
製品・サービス寿命の短命化や国内人口の減少などの要因により、やる気や根性などの精神論だけでは、競争が激化している市場で勝ち残ることが難しくなっています。良好な業績を維持する為には、定期的な経営の見直しや方向転換が必要になります。
経営の見直しや方向転換に役立つのが「経営分析」です。会社を経営している方にとって、経営分析の方法は知っておいて損はありません。そこで今回は経営分析の概要や分析に役立つツールを詳しくご紹介します。業績向上に苦慮している経営者の方は必見です。
目次
経営分析とは
まず初めに、経営分析の概要から見ていきましょう。
経営分析に必要な基礎知識
経営分析について理解する為には、会計や財務に関して最低限知っておく必要があります。
経営分析を実施する為には、「財務諸表」と呼ばれる資料が必要になります。財務諸表とは、ある一定期間の経営成績や財務状態などを表す資料です。経営分析では、主に下記2つの財務諸表を使用します。
① 貸借対照表
貸借対照表とは、ある時点で会社が持つ資産・負債・純資産の項目と金額が記された財務諸表です。つまり、会社に関わるお金の流れのうち「ストック」の部分を示します。経営分析では、現金や棚卸資産、固定資産などの「資産」や、借入金などの「負債」、資本金などの「純資産」を使用します。
② 損益計算書
損益計算書とは、会社のある会計期間内における収益と費用の項目と金額が記された財務諸表です。貸借対照表がストックを表す一方で、損益計算書は「フロー」の部分を表します。経営分析では、売上高や受取利息などの「収益」、買掛金や支払利息などの「費用」を使用します。
経営分析の意味と目的
経営分析とは、会社が今どうなっているのかを様々な観点から分析する行為です。つまり簡単に言うと、経営分析とは「会社の健康診断」と言えます。
経営分析は、業績改善や経営戦略の見直し・再構築などを目的に実施されるのが一般的です。一見分かりにくい自社内の課題も、経営分析を実行すれば可視化できます。
経営分析には、主に「収益性」「安全性」「効率性」「生産性」「成長性」の観点から、対象会社の現状を分析します。また計5つの観点の中でも、複数の分析手法に細分化されます。分析する目的(着眼点)や分析する側が重視するポイントなどによって、採用すべき観点や手法は異なります。
経営分析では、目的に応じた算式を使って経営指標を算出します。算出された経営指標を元に、自社の現状(強みや課題など)を抽出します。現状を認識したら、指標を改善する為の施策を打たなくてはいけません。課題が解決されて初めて、経営分析を実施した意味があると言えるでしょう。
経営分析のメリット
経営分析には、主に以下3つのメリットがあります。
① 客観的に自社の強み・弱みを把握可能
自社の強み・弱みを頭の中で考えても、主観的で定性的なものしか洗い出せません。洗い出したとしても、それが本当に自社の強み・弱みであるとは限りません。一方で経営分析によって算出された指標は、非常に客観性が高いです。たとえば収益性の指標が高ければ強みと判断できますし、安全性が低ければ弱みと判断できます。
② 経営計画の策定や見直しに役立つ
①に関連しますが、自社の強み・弱みを客観的に把握できたら、それを基に経営計画の策定や見直しを実施しやすくなります。たとえば安全性の指標が悪ければ、その弱みを解決する方向性で経営計画を見直せます。
③ 投資可否の判断に役立つ
一方で金融機関や投資家には、投資可否の判断に役立つというメリットがあります。銀行は確実に融資した金額を返してもらう事を重視するため、安全性の指標が投資可否の判断に役立つでしょう。一方で投資家はより多くの利益獲得を重視するため、収益性や成長性の指標が投資可否の判断に役に立ちます。
経営分析の手法・指標(収益性分析)
収益性分析とは、企業の稼ぐ力(収益性)を測る経営分析の方法です。具体的には、資本や売上のうち、どの程度の利益を得られているかを経営分析します。収益性分析には主に6種類の指標があり、それぞれ意味合いが異なります。絶対額としての利益ではなく比率を用いて経営分析することで、異なる規模の企業間で業績を比較できます。
売上高総利益率
売上高総利益率とは、売上高のうち売上総利益(売上高−売上原価)がどの程度占めているかを表す指標です。
売上原価とは、ある商品・サービスを生み出すために直接必要となる費用であり、業種によって具体的な内容は異なります。分かりやすい例で言えば、小売業の仕入に要した費用となります。
つまり売上総利益(粗利益)とは、自社の取り扱う商品・サービスそのものが生み出す利益を表します。この商品・サービス自体の利益が売上高に占める割合を、売上高総利益率と言います。
当然ながら売上高総利益率は高い方が良いです。この指標が高いほど、自社製品・サービス自体の稼ぐ力が大きいと判断できます。逆にこの指標が低いと、商品・サービス自体の稼ぐ力が弱いと言えます。その場合には、仕入原価を下げるなどの対策が必要になります。
売上高総利益率は、以下の計算式で算出します。
▪ 売上高総利益率(%)=売上総利益÷売上高×100
例)売上高1000万円、売上原価300万円
▪ 売上高総利益率(%)=(1000万円−300万円)÷1000万円×100=70%
売上高営業利益率
売上高営業利益率とは、売上高のうち営業利益(売上総利益−販売費・一般管理費)がどの程度占めているかを表す指標です。
販売費・一般管理費とは、事業を営む上で必要な諸経費を意味しており、社員の給与やオフィスの家賃、宣伝広告費などが該当します。
つまり営業利益とは、売上高から仕入費用や必要経費を差し引いた、会社が本業で稼いだ利益を表します。この会社が本業で稼いだ利益が売上高に占める割合を、売上高営業利益率と言います。
売上高営業利益率も高ければ高いほど良いでしょう。この指標が高いほど、本業の稼ぐ力が大きいと判断できます。
一方で売上高総利益率が良好であるにもかかわらず、売上高営業利益率が著しく悪い場合、販売費・一般管理費に問題があると特定できます。その場合には、人件費や宣伝広告費の削減が有効です。
売上高営業利益率は、以下の計算式で算出します。
▪ 売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
例)売上高1000万円、売上総利益700万円、販売費・一般管理費200万円
▪ 売上高営業利益率(%)=(700万円−200万円)÷1000万円×100=50%
売上高経常利益率
売上高経常利益率とは、売上高のうち経常利益(営業利益+営業外収益−営業外費用)がどの程度占めているかを表す指標です。
営業外収益とは、会社の本業以外で発生する継続的な収益を指し、受取利息や受取配当金などが該当します。一方で営業外費用とは、会社の本業以外で発生する継続的な費用を指し、支払利息や社債利息などが該当します。
つまり経常利益とは、会社全体の稼ぐ力を表す利益です。この会社全体で稼いだ利益が売上高に占める割合を、売上高経常利益率と言います。
売上高経常利益率は高い方が良いとされ、この指標が高いほど、会社全体の稼ぐ力が高いと言えます。
売上高営業利益率が高い一方で、この指標が著しく低い場合には、営業外費用が過大である疑いがあります。その際は、有利子負債を削減するなどして、営業外費用を削減する施策が有効です。
売上高経常利益率は、以下の計算式で算出します。
▪ 売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
例)売上高1000万円、営業利益500万円、営業外収益100万円、営業外費用200万円
▪ 売上高経常利益率(%)=(500万円+100万円−200万円)÷1000万円×100=40%
自己資本利益率(ROE)
自己資本利益率(ROE)とは、自己資本のうち当期純利益(税引き前当期純利益−法人税等)がどの程度占めているかを表す指標です。
自己資本とは、総資本のうち返済が必要ないものを指し、資本金や内部留保などで構成されます。株主(出資者)に帰属する資本であることから、「株主資本」とも呼ばれます。
一方で当期純利益とは、売上高から原価や販管費、法人税など、あらゆる支出を差し引いた「最終的に企業に残る純粋な利益」を指します。当期純利益は、株主への配当金の源泉となります。
つまり自己資本利益率(ROE)とは、株主の出資分でどの程度配当金の源泉を稼いだかを表す指標です。これまでご紹介したものとは異なり、株主の投資可否判断で用いられる経営分析の手法です。
ROEが高いほど、出資によりより多くの利益を生み出していると判断できます。この指標が高ければ、投資対象としての魅力度も高いと言えるでしょう。
自己資本利益率(ROE)は、以下の計算式で算出します。
▪ 自己資本利益率(%)=当期純利益÷自己資本×100
例)当期純利益100万円、自己資本1000万円
▪ 自己資本利益率(%)=100万円÷1000万円×100=10%
総資本経常利益率(ROA)
総資本経常利益率(ROA)とは、総資本(純資産+他人資本)のうち経常利益がどの程度占めているかを表す指標です。
総資本とは、純資産に返済義務のある負債を足した値を指し、貸借対照表の右側の金額合計になります。一方で経常利益とは、先ほどお伝えした通り、経営活動により獲得した利益を表します。
つまり総資本経常利益率(ROA)とは、全ての元手を用いて、経営活動(本業+財務的な活動)でどの程度の利益を得られたかを表す指標です。全社的な視点で経営分析する際は、この指標を用いるのが一般的です。
ROAが高いほど収益性があると判断できます。目安としては10%以上で超優良企業、5%以上で良好と判断できます。逆にこの指標が2%を切る場合、収益性が低いと経営分析できます。
総資本経常利益率(ROA)は、以下の計算式で算出します。
▪ 総資本経常利益率(%)=経常利益÷総資本×100
例)総資本 1000万円、経常利益80万円
▪ 総資本経常利益率(%)=80万円÷1000万円×=8%
売上高販管費率
これまでは利益に着眼した経営分析の指標をお伝えしましたが、こちらは「費用」の観点から収益性を表す指標です。
売上高販管費率とは、売上高のうち販管費(販売費・一般管理費)がどの程度占めているかを表す指標です。
収益性を表す他の経営分析指標とは異なり、売上高販管費率は低いほど良いです。この指標が低いほど、費用をかけずに多くの利益を獲得できています。
一方でこの指標が高い場合は、過大な費用がかかっている状況を表します。状況に応じて販管費の削減に努める必要があります。
売上高販管費率は、以下の計算式で算出します。
▪ 売上高販管費率 (%)=販管費÷売上高×100
例)売上高1000万円、販管費300万円
▪ 売上高販管費率(%)=300万円÷1000万円×100=30%
経営分析の手法・指標(安全性分析)
安全性分析とは、会社の支払い能力や財務面の安全性を測る経営分析の方法です。安全性が低い企業は、支払い能力に不安があり、倒産するリスクが高いと言えます。安全性に関しては、基本的に貸借対照表の資産と負債(純資産)を用いて経営分析します。
安全性に関する経営分析は、流動比率や当座比率を用いる「短期安全性分析」、固定比率や固定長期適合率を用いる「長期安全性分析」、自己資本比率や負債比率を見る「資本調達構造分析」の3種類に大別されます。
流動比率
流動比率とは、一年以内に返済しなくてはいけない「流動負債」に対して、一年以内に現金化できる「流動資産」をどの程度確保できているかを表す指標です。
流動負債には、買掛金や支払手形、短期借入金などが該当します。一方で流動資産には、現金・預金や売掛金、受取手形、棚卸資産が含まれます。
流動比率が高いほど、短期的な安全性は高いです。流動比率は200%であるのが理想とされており、最低でも100%を上回らないと資金繰りが悪化する恐れがあります。流動比率が100%を下回っている状態は「流動資産<流動負債」を意味しているため、新たな資金調達などの対策が必要になります。
流動比率は、以下の計算式で算出します。
▪ 流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100
例)流動資産1500万円、流動負債1000万円
▪ 流動比率=1500万円÷1000万円×100=150%
当座比率
当座比率とは、一年以内に返済義務のある流動負債に対して、当座資産をどの程度確保できているかを表す指標です。
当座資産とは、流動資産の中でも特に現金化しやすいものを指し、現預金に受取手形や売掛金、有価証券を足し合わせた金額となります。流動比率と比べて、当座比率はより厳密に会社の短期的な安全性を経営分析できます。
当座比率も高い方が良い指標であり、一般的には100%以上が好ましいとされています。流動資産が良好であるにもかかわらず当座資産は悪い場合は、在庫(棚卸資産)が過剰に存在するのが原因と考えられます。在庫が売れ残った際には、資金繰りが悪化する恐れがあるので注意が必要です。
当座比率は、以下の計算式で算出します。
▪ 当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100
例)当座資産1200万円、流動負債1000万円
▪ 当座比率=1200万円÷1000万円×100=120%
固定比率
固定比率とは、返済義務のない自己資本に対して、長期的に使用する固定資産がどの程度あるのかを表す指標であり、長期的な安全性を経営分析する際に用いられます。
長期的に運用する固定資産は、一年以内には現金化されません。つまり当分は資金源として使用できないので、長期的に安全性を確保するためには、返済義務のない自己資本でカバーする必要が出てきます。
固定比率は低いほど良いとされ、この指標が低い=安定的な設備投資が行われている、と分析できます。逆に固定比率が高い(固定資産>自己資本)の場合には、リスクの高い設備投資を実施しているため、長期的な安全性に不安が残ると言えるでしょう。
固定比率は、以下の計算式で算出します。
▪ 固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100
例)固定資産500万円、自己資本1000万円
▪ 固定比率=500万円÷1000万円×100=50%
固定長期適合率
長期安全性の経営分析に役立つ固定長期適合率とは、固定資産が長期資本(自己資本+固定負債)によってどの程度カバーされているかを示す指標です。
多くの中小企業では、自己資本に加えて長期的に運用する固定負債も取り入れています。固定負債を活用している会社の長期安定性を分析する際には、この経営分析指標の方が向いていると言えます。
固定長期適合率は低い方が良い指標であり、最低でも100%以下でなくてはいけません。この指標が高い場合には、「固定資産を減らす」もしくは「長期資本を増やす」のいずれかの施策を行いましょう。
固定長期適合率は、以下の計算式で算出します。
▪ 固定長期適合率 (%)=固定資産÷長期資本×100
例)固定資産500万円、長期資本2000万円
▪ 固定長期適合率=500万円÷2000万円×100=25%
自己資本比率
自己資本比率とは、自己資本が総資本(負債+純資産)に占める割合であり、資本調達構造の経営分析に用いられます。
返済義務のない自己資本の割合が大きい方が当然良いので、自己資本比率は高い方がリスクの小さい資本構造となります。自己資本比率を高める(自己資本を増やす)ためには、会社が儲かる(純資産が増加する)か、増資等を行う必要があります。
自己資本比率は、以下の計算式で算出します。
▪ 自己資本比率 (%)=自己資本÷総資本×100
例)自己資本400万円、総資本500万円
▪ 自己資本比率=400万円÷500万円×100=80%
3-6 負債比率
負債比率とは、他人資本(負債)と自己資本の比率を表す指標であり、こちらも資本調達構造の経営分析で用いられます。負債を自己資本で割ることで、負債比率を求められます。
他人資本(負債)は定期的に支払利息が発生する上に返済義務があるため、過大に保有することは回避すべきです。一方で自己資本は返済義務も支払利息もないため、リスクの小さい資金調達手段です。
つまり負債比率が低いほど、財務的なリスクが小さい資金調達構造と分析できます。負債比率が過度に大きいと、倒産するリスクも大きくなります。
安全性の面から見ると負債比率は低い方が良いですが、収益面で見ると必ずしも低い方が良いとは言えません。たとえば大規模な投資が必要な事業では、自己資本のみでは十分な利益を得られない可能性があります。確実に勝てる見込みがあるならば、負債比率を高める(レバレッジをかける)ことで大きな利益を得るのも一つの手です。
自己資本比率も同様ですが、負債の大小だけでは不十分な経営分析となるのでご注意ください。
負債比率は、以下の計算式で算出します。
▪ 負債比率(%)=負債÷自己資本×100
例)負債200万円、自己資本400万円
▪ 負債比率=200万円÷400万円×100=50%
経営分析の手法・指標(効率性分析)
効率性分析とは、資本をどの程度効率的に使用できているかを測る経営分析の方法であり、「回転率」と呼ばれる指標により経営分析を実施します。「回転」とは、資金を仕入や設備投資に用いてから、売上高として手元に戻るまでのサイクルを意味します。
効率性の経営分析では、貸借対照表に記載された資産・負債の金額と、損益計算書に記載された売上高の金額を使用します。少ない資本で多くの売上高を獲得できれば、回転率が上昇し、効率性が高くなります。
なお効率性の経営分析では、率(%)ではなく「回」を単位として用います。
総資本回転率
総資本回転率とは、会社が持っている全ての資本(総資本)を用いて、どの程度効率的に売上高を生み出したかを示す指標です。一般的には、総資本には期中平均値{例.(期首+期末)÷2}を用います。
総資本回転率が高いほど、効率的に資本を活用できていると言えます。たとえば総資本回転率が1回であれば、総資本(1000万円)を1回用いて、総資本と同額(1000万円)の売上高を獲得した、となります。一方でこの指標が3回であれば、1000万円の総資本で、3000万円の売上高を生み出したことを表します。総資本の額が同じであれば、当然売上高の多い方が効率性は高いと判断されます。
総資本回転率は、以下の計算式で算出します。
▪ 総資本回転率(回)=売上高÷総資本
例)売上高3000万円、総資本1000万円
▪ 総資本回転率(回)=3000万円÷1000万円=3回
固定資産回転率
固定資産回転率とは、建物などの固定資産を用いて、どの程度効率的に売上高を生み出したかを示す指標です。有名のものに限定する場合は、「有名固定資産回転率」と呼ばれます。
固定資産回転率の数値が高いほど、効率的に売上高を得ていると判断できます。一方で数値が低い場合は、固定資産が売上高の創出に役立っていないことを表しており、無駄な固定資産を保有している可能性が考えられます。固定資産回転率を改善する際は、無駄な固定資産を売却などの手段により手放す必要があるでしょう。
固定資産回転率は、以下の計算式で算出します。
▪ 固定資産回転率(回)=売上高÷総資本
例)売上高3000万円、固定資産1500万円
▪ 固定資産回転率(回)=3000万円÷1500万円=2回
棚卸資産回転率
棚卸資産回転率とは、棚卸資産の使用により、効率的に売上高を生み出せているかを示す指標です。棚卸資産には、在庫商品だけでなく仕掛品や原材料を用いることも可能です。棚卸資産回転率は、棚卸資産の販売(消化)スピードを表しており、この指標が高いほどスピードが速いと言えます。
ただし他の経営分析の指標とは異なり、回転率が高いほど良いとは限りません。棚卸資産回転率が高い場合、棚卸資産が少ないために、急な需要増加に対応できない可能性があります。需要増加に対応できないと、得られるはずの売上高を得られなかったり、顧客満足の低下などが生じるリスクがあります。
棚卸資産回転率だけでなく、他の指標を併用した上で経営分析するのがベターです。
棚卸資産回転率は、以下の計算式で算出します。
▪ 棚卸資産回転率(回)=売上高÷棚卸資産
例)売上高3000万円、棚卸資産500万円
▪ 棚卸資産回転率(回)=3000万円÷500万円=6回
売上債権回転率
売上債権回転率とは、売上債権を用いて、どの程度効率的に売上高を得ているかを測る指標です。またこの指標は、売上債権の回収状況を分析する際にも活用されます。
売上債権とは、営業で生じた未回収の収入(売掛金や受取手形)を指します。大抵のビジネスでは、その場で現金払いするケースはあまりなく、一般的には売上債権という形で後ほど現金を受け取ります。
売上債権の割合が高すぎると、売上高は多いのにキャッシュが無いという状況に陥ります。しばらくその状況が続くと、黒字倒産などのリスクが高まります。よって基本的には、売上債権はできるだけ早く回収するのがベストと言われています。
売上債権回転率は高い方が良いとされており、この指標が高いほど売上債権の回収状況が良好であると分析できます。売上債権回転率が低いと前述したリスクが高まるので、交渉により早期に売上債権を回収するように努めましょう。
売上債権回転率は、以下の計算式で算出します。
▪ 売上債権回転率(回)=売上高÷売上債権
例)売上高3000万円、売上債権600万円
▪ 売上債権回転率(回)=3000万円÷600万円=5回
仕入債務回転率
仕入債務回転率は、これまでご紹介した効率性の指標とは異なります。こちらの指標は、仕入債務の支払速度に関する経営分析で用います。
仕入債務とは、仕入の費用に関する未払い金額を指します。具体的には、買掛金や支払手形が仕入債務に該当します。仕入債務が多いほど、現金の支出は大きくなります。
仕入債務回転率は高い方が良いのか、それとも低い方が良いのか、一概には言えません。仕入債務回転率が高ければ仕入費用の支払速度が早く、低ければ遅いことを示します。経営分析の際には、売上債権回転率とのバランスを見て、資金繰りに問題が生じないように対策することが重要になります。
仕入債務回転率は、以下の計算式で算出します。他の経営分析の指標とは異なり、分子には「当期商品仕入高」を使用するので注意が必要です。
▪ 仕入債務回転率(回)=当期商品仕入高÷仕入債務
例)当期商品仕入高2000万円、仕入債務1000万円
▪ 仕入債務回転率(回)=2000万円÷1000万円=2回
経営分析の手法・指標(生産性分析)
生産性分析とは、資本や労働力、原材料などの経営資源の投入量と、生産量や生産額などの産出量との比率を測る経営分析の方法です。つまり、経営資源を効率的に投入できているかを分析する訳です。
生産性の経営分析には様々な指標があるものの、概ね「産出量÷投入量」という式に集約されます。つまり生産性を高める為には、投入量を増やさずに産出量を増やすか、産出量を減らさずに投入量を減らす必要があります。
生産性の経営分析では、一般的に「付加価値」という概念が用いられます。付加価値とは、外部から取得・購入した原材料などを用いて、その企業が「新たに」生み出した価値です。付加価値には様々な算出方法がありますが、基本的には売上総利益とほぼ同額となります。
労働生産性
労働生産性とは、労働力(従業員)を用いてどの程度付加価値を生み出したかを表す経営分析の指標であり、割合ではなく金額で表します。基本的には、付加価値額を従業員数(年間平均)で割ることで労働生産性を算出します。つまり労働生産性は、従業員一人当たりの付加価値額を表します。
労働生産性は大きい方が良いとされており、生産性が大きいほど従業員一人一人がより多くの価値を生み出していると言えます。
同業他社や自社の過去データと比べて労働生産性が低い場合は、生産設備やモチベーション管理、販売方法などを見直す必要があります。
労働生産性は、以下の計算式で算出します。
▪ 労働生産性(円/人)=付加価値額÷従業員数
例)付加価値額1000万円、従業員数10人
▪ 労働生産性 (円/人)=1000万円÷10人=100万円
資本生産性
資本生産性とは、資本を用いてどの程度付加価値を生み出したかを表す経営分析の指標です。労働生産性と同様に、金額の大きさで表すのが一般的です。
分母には総資本を用いるのが一般的ですが、生産設備を用いる場合もあります。分母に生産設備を用いたものを「設備生産性(設備投資効率)と言います、生産設備には、有形固定資産から建設仮勘定を差し引いた金額を使用します。
資本生産性(設備生産性)は大きい方が良いと言われており、この指標が大きいほど投下した資本がより多くの付加価値を生み出していることを表します。
資本生産性は、以下の計算式で算出します。
▪ 資本生産性(円)=付加価値額÷総資本
例)付加価値額1000万円、総資本500万円
▪ 資本生産性 (円)=1000万円÷500万円=2万円
なお、設備生産性は以下の計算式で算出します。
▪ 設備生産性(円)=付加価値額÷(有形固定資産−建設仮勘定)
例)付加価値額1000万円、有形固定資産300万円、建設仮勘定100万円
▪ 設備生産性 (円)=1000万円÷(300万円−100万円)=5万円
労働分配率
労働分配率とは、生み出された付加価値のうち労働者に対する人件費がどの程度あるかを測る経営分析の指標です。他の生産性の経営分析指標とは異なり、労働分配率は金額ではなく「割合」で表します。
経営分析で用いる人件費は、給与に社会保険料や雇用保険料などの「法定福利費」を合計した金額となります。労働分配率を算出することで、人件費の支払い額に問題がないかを分析できます。
労働分配率が低いほど、労働力を効率的に活用できていると判断されます。つまり労働分配率は低い方が良い指標であり、高すぎると人件費の総額に問題がある可能性があります。業種や企業規模などによって異なりますが、労働分配率は40%~60%程度が平均値となります。
労働分配率は、以下の計算式で算出します。
▪ 労働分配率(%)=人件費÷付加価値額×100
例)人件費3000万円、付加価値額6000万円
▪ 労働分配率 (%)=3000万円÷6000万円×100=50%
経営分析の手法・指標(成長性分析)
成長性分析とは、企業の成長度合いや今後の成長可能性を測る経営分析の方法です。つまり成長性分析では、企業の「伸びしろ」や「勢い」の観点から経営分析を行います。
成長性の経営分析では、市場全体の成長度合いと自社を比較することがポイントになります。たとえば自社の売上高が前年比30%成長していたとしても、市場全体が40%成長していれば、市場シェア自体は低下している可能性があります。成長性の観点から経営分析する際は、競合他社との比較という観点を持ちましょう。
また急激な成長率の増加も、長期的に見ると好ましい事態ではない可能性があります。たとえば売上高の成長率が前年比300%の場合、急激な売上増加に伴い人材育成に手が回っていない恐れがあります。また、多額の借入金増加に伴い、安全性が低下している可能性もあります。会社を長期的に継続するためには、成長以外の側面にも注意を払う必要があります。
では、成長性を表す各指標についてご説明します。
売上高増加率
売上高増加率とは、前期と比べてどの程度売上高が増加したかを表す経営分析の指標です。
企業の勢いを表す指標であるため、成熟した大手企業ほど売上高増加率は小さくなる傾向があります。一方で革新的な技術やアイデアを持つベンチャー企業は、売上高増加率は大きくなる傾向があります。
先ほど述べた通り、市場の成長率や自社の過去実績との比較により、成長性を経営分析するのがベストです。
売上高増加率は、以下の計算式で算出します。
▪ 売上高増加率(%)=(当期売上高−前期売上高)÷前期売上高×100
例)当期売上高5000万円、前期売上高2500万円
▪ 売上高増加率 (%)=(5000万円−2500万円)÷2500万円×100=100%
利益増加率
利益増加率とは、前期と比べてどの程度利益が増加したかを表す経営分析の指標です。売上高ではなく「利益」を用いることで、費用増加の影響も考慮した成長率を測ることができます。
使用する利益の種類によって、測定できる成長率は異なります。本業の成長性であれば「営業利益」、経営活動全体の成長性であれば「経常利益」、株主の取り分や長期的な視点から見た成長性であれば「当期純利益」を使用します。
利益増加率は、以下の計算式で算出します。
▪ 利益増加率(%)=(当期利益−前期利益)÷前期利益×100
例)当期利益1000万円、前期利益200万円
▪ 利益増加率 (%)=(1000万円−200万円)÷200万円×100=400%
総資産増加率
総資産増加率とは、前期と比べてどの程度総資産が増加したかを表す経営分析の指標です。
上記2つの指標とは異なり、企業規模がどれほど拡大したかを表す指標です。企業規模の拡大と企業の稼ぐ力の増大は、必ず一致するとは限りません。
たとえば企業規模が拡大(総資産増加率の上昇)していても、稼ぐ力がそれほど高まっていない(利益増加率がほとんど増加していない)ケースがあります。その場合には、変動費の過度な増加や不良在庫の増加により、投資(企業規模の拡大)の割に十分なキャッシュフローを得られていない可能性が高いです。
以上の通り、総資産増加率のみでは、企業の成長性を正確に把握しづらいです。経営分析の質を高めるためには、総資産増加率と利益増加率を併用した方が良いでしょう。
総資産増加率は、以下の計算式で算出します。
▪ 総資産増加率(%)=(当期総資産−前期総資産)÷前期総資産×100
例)当期総資産1億円、前期総資産8000万円
▪ 総資産増加率 (%)=(1億円−8000万円)÷8000万円×100=25%
純資産増加率
純資産増加率とは、前期と比べてどの程度純資産が増加したかを表す経営分析の指標です。
基本的に純資産は、返済義務のない自己資本から構成されています。つまり純資産増加率とは、返済義務のない資本がどの程度増えたかを表す指標であるため、増加率が高いほど安定性が増していると判断できます。
極端な話、多額の負債を借り入れる方法で企業規模を拡大することは可能です。しかし負債額が多すぎると、倒産リスクが高まります。一方で、純資産増加率がどれほど高まろうとも安定性が低下することは原則ありません。
安全性も踏まえて成長性を経営分析したい際は、純資産成長率を活用するのがベターです。
純資産増加率は、以下の計算式で算出します。
▪ 純資産増加率(%)=(当期純資産−前期純資産)÷前期純資産×100
例)当期純資産5000万円、前期純資産2000万円
▪ 純資産増加率 (%)=(5000万円−2000万円)÷2000万円×100=150%
従業員増加率
従業員増加率とは、前期と比べてどの程度従業員数が増加したかを表す経営分析の指標です。
従業員数の増減により、企業規模が拡大しているかを分析します。基本的には従業員増加率が高いほど、会社の規模は拡大していると言えます。ただし設備投資により業績を向上させている企業は、従業員増加率が実績の割に低いケースもあります。
従業員増加率は、以下の計算式で算出します。
▪ 従業員増加率(%)=(当期純資産−前期純資産)÷前期純資産×100
例)当期従業員数100人、前期従業員数25人
▪ 従業員増加率 (%)=(100人−25人)÷25人×100=300%
経営分析に役立つツール5選
最後に、経営分析に役立つツールを5つご紹介します。今回ご紹介するツールを活用すれば、経営分析の負担軽減や精度の高い経営分析を実現できるでしょう。
弥生会計オンライン
経営分析を実施するためには、売上高や利益額などが記載された財務諸表が必要です。弥生会計オンラインは、そんな財務諸表を簡単に作成できるツールです。
貸借対照表や損益計算書は、簿記や会計の知識がなければ自力で作成することは困難です。知識があったとしても、一から記帳や財務諸表作成を行うのは手間がかかります。ですが弥生会計オンラインを活用すれば、会計や簿記の知識がない方でも、オンライン上で簡単に帳簿や財務諸表を作成できます。
このツールには、「かんたん取引入力」という機能が搭載されています。この機能を用いれば、日付や金額を入力するだけで、かんたんに複式簿記に基づく帳簿を作成可能です。また、「スマート取引取込」の機能を使えば、スマホでレシートを撮影することで、簡単にデータを自動仕訳してくれます。
以上の要領で取り入れたデータを用いれば、簡単に財務諸表を作成できます。画面に表示されるステップに従うだけで、簿記・会計の知識に疎い方でも手軽に作成できるでしょう。
他にも日々の取引をグラフなどで閲覧できる機能も搭載されているため、経営分析の際には非常に役立つツールです。
freee
財務諸表の作成などに役立つツールとしてもう一つオススメなのが、「freee」です。弥生会計オンラインと同様に、オンライン上で簡単に帳簿や財務諸表を作成できます。
また、見積書や請求書などを簡単に作成できるので、経理に要する手間や時間を大幅に削減できます。ツールの使用方法が分からない方向けには、チャットや電話による親身なサポートが用意されています。またこのツールには、経営分析に役立つ多種多様な経営レポートを作成できる機能も搭載されているので、起業したての方にもオススメです。
法人向けには3種類のプランが用意されています。無料で使えるお試しプランでは、決算書のプレビュー表示のみが可能となります。月額2,380円で使用できるミニマムプランでは、決算書と請求書の作成機能を利用可能です。経営分析に必要な基本機能のみを使いたい方は、このプランで十分でしょう。
そして、月額4,780円で使用できるベーシックプランでは、上記に加えて経費精算やインターネットバンキングへの振込依頼などの機能も活用できます。値段は高いですが、経理の効率化や資金状況の可視化を実現できるため、本格的に経営分析を行いたい方にはオススメです。
ZAC
ZAC(ザック)は、経営と業務双方の効率化を図れる経営分析のツールです。
プロジェクトごとの収支をリアルタイムで把握・予実対比できる「プロジェクト収支管理」機能や、ガントチャートによる複数プロジェクトの進捗管理などを行える「プロジェクト工程管理」機能、経営分析に役立つセグメント別の予算実績対比表などを利用できる「管理会計レポート」機能、リアルタイムで経営上の異常を知らせてくれる「経営モニタリング」機能などにより、経営管理の効率化を図れます。
一方でこのツールでは、業務管理の効率化に役立つ機能も利用できます。具体的には、旅費や仮払経費などをまとめて管理できる「経費申請・精算」機能や、システム内で出退勤の登録や作業工数の入力を一元的に行える「勤怠・工数管理」機能、自動的に面倒な原価計算を実施する「原価計算・仕掛計算」機能などが搭載されています、
経営と業務という二面的なアプローチにより、精度の高い経営分析を実施できるでしょう。
Reforma PSA
「Reforma PSA」は、ZACの機能をITや広告、コンサルティングなど、クリエイティブな業界に特化させた経営分析ツールです。経営分析以外にも、販売管理や購買管理、勤怠管理、経費管理など、クリエイティブな事業を行う会社に役立つ機能が豊富に搭載されています。
経営分析の機能では、グラフツールを用いた売上高や利益分析、売上高や利益の着地予測分析、生産性分析などを実行できます。プロジェクト別に予算実績対比を行えるため、プロジェクトの赤字化をあらかじめ防止できる可能性が高まります。
またこのツールでは、導入前後で豊富なサポートを受けられます。導入前には、ビデオチャットツールを用いてどのように「Reforma PSA」を活用するかをあらかじめ把握できます。一方で導入後は、無料セミナーでツールの使い方を学べたり、チャットで不明点を気軽に相談できます。
SHARES
上記4つのツールとは異なり、「SHARES」は経営分析を専門家に任せることができるツールです。このツールでは、単純な経営分析のみならず、決算書の作成や商標登録、創業支援など、経営に関する様々な事柄を税理士や弁護士などの専門家に相談・依頼できます。
具体的には、依頼内容を入力→専門家から見積もりが届く→仕事を依頼→完了という流れとなります。自社が抱える経営上の課題の解決に最適の専門家と、最短一時間でマッチングできる点がこのツールの魅力です。
会計や簿記の知識がない方にとって、質の高い経営分析を実施するのは困難です。ですがこのツールを活用すれば、知識を持つ専門家に課題を解決してもらえます。単なる経営分析だけではなく、経営上の課題を包括的に解決したいとお考えの方には、非常にオススメのツールです。