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過労自殺はなくなるか 〜自殺総合対策大綱〜

先進7カ国のなかで最も高いとされる日本の自殺率。政府は7月、「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して」をテーマとした自殺総合対策大綱を公表し、自殺死亡率を2026年までに2015年比で30%以上減少させる目標を打ち立てました。

自殺者は2012年以降、7年連続で減少しているものの、年間自殺者数も依然として2万人を超えています。大綱では現在の自殺死亡率(10万人あたりの死者数)18.5人を、アメリカやドイツ水準の13.0人にまで引き下げる目標を明記しました。

このほか、勤務問題による自殺対策を推進すべく、長時間労働の是正や職場におけるメンタルヘルス対策の推進を図り、民間団体との連携を強化しながら取り組む方針です。

自殺対策にようやく重い腰を上げた政府。果たして日本の自殺率は改善するのでしょうか。

自殺者は7年連続の減少も依然として高い

厚生労働省によれば、2016年における自殺者数は2万1897人で、前年比2128人減少(8.9%減)となりました。

男性が全体の約7割

性別では、男性が1万5121人と圧倒的に多く、全体の69.1%を閉めました
自殺者数は男性で7年連続、女性で5年連続で減少しているものの、男性の自殺者は女性の2.2倍となっています。

・ 自殺者数の推移

男性 女性
1996 16416 7975 24391
2000 23013 9850 32863
2004 24963 9464 34427
2008 23472 9373 32845
2012 19273 8585 27858
2016 15121 6776 21897

(厚生労働省公表資料より作成)

また、自殺死亡率(人口10万人あたりの自殺者数)を見ると、2009年以降低下が続いており、昨年は17.3人となりました。

・ 自殺死亡率の推移

男性 女性
1996 26.6 12.4 19.3
2000 37.1 15.3 26.0
2004 40.0 14.5 27.0
2008 37.6 14.3 25.7
2012 31.1 13.1 21.8
2016 24.5 10.4 17.3

 

 

年齢別では40代が最も多い

年齢階級別に見ると、「40代」が3,739人で全体の17.1%を占めて最も多くなります。次いで「50代」(3,631人、16.6%)、「60代」(3626人、16.6%)、「70歳代」(2,983人、13.6%)と続きました。このほか、30代2824人、80代2262人、20代2235人、10代520人となります。

前年との比較して、30代は8年連続、40代、50代及び60代は7年連続で減少し、全ての年齢階級で減少しました。

 

10代 20代 30代 40代 50代 60代 70代 80代
2011 622 3304 4455 5053 5375 5547 3685 2429
2012 587 3000 3781 4616 4668 4976 3661 2411
2013 547 2801 3705 4589 4484 4716 3785 2533
2014 538 2684 3413 4234 4181 4325 3508 2457
2015 554 2352 3087 4069 3979 3973 3451 2459
2016 520 2235 2824 3739 3631 3626 2983 2262

(厚生労働省公表資料より作成)

無職者による自殺が圧倒的多数

次に、職業別に自殺者数をみると、「無職者」が12,874人で全体の58.8%を占めて最も多くなります。次いで「被雇用者・勤め人」(6,324人、28.9%)、「自営業・家族従業者」(1,538人、7.0%)、「学生・生徒等」(791人、3.6%)と続きました。

無職者の自殺数は前年より1448人減少し、職業別にみると最も大きい減少幅となります。このほか、自営業・家族従業者は9年連続、被雇用者・勤め人及び無職者は7年連続、学生・生徒等は5年連続で減少しました。

無職者 学生 被雇用者 自営業
2011 18074 1029 8207 2689
2012 16651 971 7421 2299
2013 16465 918 7272 2129
2014 15163 874 7164 1840
2015 14322 835 6782 1697
2016 12874 791 6324 1538

「誰も自殺に追い込まれることのない社会」を実現

今年7月に閣議決定された自殺総合対策大綱は、社会における「生きることの阻害要因(自殺のリスク要因)」を減らし、「生きることの促進要因(自殺に対する保護要因)」を増やすことで、「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」を目指すものとされます。

 

PDCAサイクルで自殺対策を推進

自殺対策を推進するのにあたり、政府は、地域社会と綿密な連携を取りながら取り組む方針を示しています。

昨年4月に施行された改正自殺対策基本法では、地方自治体は、大綱と地域の実情等を勘案して、地域自殺対策計画を策定することが義務付けられました。自殺の特徴を地域ごとに類型化し、各都道府県にあった自殺対策の政策を実施します。

また、地方自治体はその政策の成果を分析し、改善を図るというPDCAサイクルを通じて、より精度の高い政策を地方公共団体に還元することができるとしています。

 

自殺死亡率を3割減少させる

大綱では、自殺対策の数値目標として、先進諸国の現在の水準まで減少させることを目指し、2026年までに、自殺死亡率(現在18.5)を2015年と比べて30%以上減少(13.0以下)にすることを掲げました

日本の自殺死亡率は先進7カ国のなかでもっとも高い18.5人で、そのほかはフランス15.1人、アメリカ13.4人、ドイツ12.6人、カナダ11.3人、イギリス7.5人、イタリア7.2人となっています。

・ 先進諸国の自殺死亡率(日本は2015年時のデータ)

自殺死亡率
フランス 15.1人
アメリカ 13.4人
ドイツ 12.6人
カナダ 11.3人
イギリス 7.5人
イタリア 7.2人
日本 18.5人

(厚生労働省公表資料より作成)

具体的な取り組み

また、自殺総合対策における当面の重点施策として、次のような内容に取り組むとしています。

心の健康を支援する環境づくり ・ 職場、地域、学校におけるメンタルヘルス対策の推進体制の整備
・ 大規模災害における被災者の心のケア、生活再建等の推進
子ども·若者の自殺対策の推進 ・ いじめを苦にした子どもの自殺の予防
・ 学生・生徒への支援充実
・ SOSの出し方に関する教育の推進
・ 若者の特性に応じた支援の充実
遺された人への支援充実 ・ 遺族の自助グループ等の運営支援
・ 学校、職場等での事後対応の促進
・ 遺族等の総合的な支援ニーズに対する情報提供の推進など

国立社会保障・人口問題研究所によれば2026年には国内人口は約1億2300万人になると予測されており、目標を達成するためには自殺者数は年間約1万6000人以下になる必要があります。

高齢化や少子化によって人口減少社会となっている日本にとって、自殺死亡率の高水準はさらなる労働力低下につながると指摘されます。政府は早期に目標を達成できるよう努めるとしており、今後の動向に注目が集まります。

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