一般社団法人の税制優遇措置とはなに?
「一般社団法人」という法人の名称については、2006年の公益法人制度改革から14年近く経っていることもあり、名前自体は幅広く認知されています。以前は一般社団法人・公益社団法人という区別はなく、「社団法人」というくくりでしたが、制度改革により公益を主とする「公益社団法人」、公益を問わない「一般社団法人」の2つに分けられました。
公益社団法人は、設立許可に関し「公益性」が厳しく問われる一方、社団法人の場合は手続き・登記を行えば、管轄官庁の許可を得ることなく誰でも設立ができます。
この記事では、一般社団法人の特徴や、公益法人との違い、一般社団法人が受けられる税制優遇措置などについて詳しくご紹介するので、参考にしてみてください。
目次
1 そもそも一般社団法人とは?
一般社団法人は、平成18年に初めて公布された、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき設立された組織です。一般社団法人の最大の特徴として、「非営利性」が挙げられます。
ただし、「非営利性」とは、利益を上げていけないという意味ではなく、利益の余った分を再分配することは好ましくないという意味合いです。
また、通常の法人は1人でも設立ができる一方、一般社団法人は、2人以上の社員(ここで言う社員とは、会社で言う「取締役」に当たるポジション)が必要です。
ちなみに、設立後何らかの事情で社員が1人になった場合でも、一般社団法人は解散しません。(ただし、0人となった場合は解散します)
それでは、具体的に一般社団法人の設立の流れを見ていきましょう。
1-1 一般社団法人の設立の流れ・要件
一般社団法人の設立に関して、まず設立に関する大まかな流れを説明します。
一般社団法人設立にかかる定款を作成する | 一般社団法人を設立する際は、法人の決まりを定めた定款の作成が必要 |
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定款を必要に応じて電子定款にする | 行政書士等に依頼し、定款に電子署名を付与することで、電子定款を作成してもらう(電子定款化することで印紙税の4万円が不要になる) |
公証人役場で公証人の定款認証を受ける | 定款作成後、公証人役場で公証人の定款認証手続きを行う。事前の定款の文面確認・修正は必須。予約して公証人役場に行き定款認証を受ける。費用はおおむね5万2千円前後 |
設立時理事等の選任を行う | 定款で予め理事・監事などを定めている場合は不要。未選任の場合は、選任決議を行う |
設立時理事等が、設立手続きに関して調査を行う | 設立時理事(監事等が存在する場合は監事等も)は、選任後遅滞なく、設立の手続きが法令に違反していないか、また定款と異なることがないかを調査する必要あり。設立時理事等が調査を行う中で、問題があるとわかった場合は設立時社員に問題を通知する必要がある |
設立時代表理事の選定 | 一般社団法人は2名以上の社員(理事等)で構成されるため、代表理事を選任する必要がある。設立時理事の過半数を持って決定、設立時代表理事は定款で予め定めることも可能 |
基金の募集・拠出 | 株式会社では株式の募集、資本金の拠出という形になっていますが、一般社団法人の場合は、運営資金として基金を募ることになります。(募集せず、寄付や借入金を活用することもできる) |
法人代表者(設立時代表理事・説理事理事)が、法務局に設立登記を行う | 設立時理事の調査完了か、設立時社員が定めた期日より2週間以内に、主たる事務所の所在地を管轄する法務局に対し登記申請を行う。登記費用は6万円 |
登記が完了し、全部事項証明書・印鑑カード・印鑑証明書などを受け取る | 登記完了後、一般社団法人を設立したことが証明できるよう、全部事項証明書を発行してもらい、印鑑カード、印鑑証明書も受け取る |
以上の通り、株式会社の場合、法務局に支払う登録免許税は15万円からとなりますが、一般社団法人の場合は合同会社と同じ6万円の登録免許税で設立できます。
次に、一般社団法人を設立するための主な要件を確認してみましょう。
設立時に2人以上の社員がいること | 言い換えると、通常の株式会社や合同会社と異なり、一般社団法人の設立を1人で行うことはできません |
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公証人役場での定款認証・法局での登記を受けている | 手続でも書いた、公証人役場での定款認証・法務局での登記は必須要件です |
最低限、社員総会と理事の存在が必要 | 一般社団法人運営においては、社員総会と理事という機関設計が要されます。社員総会を行う上では、社員2名、理事1名が要されますが、社員と理事の兼任は可能です。社員に関しては、家族等でも構いません |
理事・監事が下記の条件に該当しないこと |
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基本的な部分では、上記の要件を満たす必要があります。
1-2 一般社団法人の特徴
一般社団法人の特徴について株式会社やNPO法人と比較してみましょう。
一般社団法人 | 株式会社等事業会社 | NPO法人 | |
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営利・非営利 | 非営利 | 営利 | 非営利 |
必要人数 | 2名以上 | 1名以上 | 10人以上 |
決算公告・報告義務 | 官報・日刊紙・インターネット公告・掲示板 | 官報・日刊紙・インターネット公告 | 官報・インターネット公告・掲示板への公告義務に加え、所轄官庁へ事業報告書・活動計画書・財産目録・年間役員名簿・前事業年度末日における社員のうち10人以上の者の名簿を3ヶ月以内に提出する義務3年以上提出がされない場合は、認証取り消しも |
法務局への登録免許税 | 6万円 | 株式会社 15万円~合同会社 6万円~ | 登録免許税非課税(無料) |
剰余金・残余財産・配当などに関する役員・社員等の受け取りの可否 | 不可 | 可 | 不可 |
設立の容易さ | 容易 | 容易 | 主務官庁の許可が必要 |
設立機関 | 10日~1ヶ月 | 10日~1ヶ月 | 3ヶ月~半年近く |
業務内容 | 制限なし | 制限なし | 20種の特定非営利活動に限られる |
なお、よくある誤解として、NPO法人・一般社団法人は非営利だから、給与をもらってはいけないのか、少なくしないといけないのかという認識を持たれる場合があります。
NPO法人に関しては、所轄官庁への報告もありますので、事業規模や収益構造に比べあまりに給与が多いと問題になる可能性は、ゼロではありません。
ただ、原則として一般社団法人・NPO法人とも、事業で利益を出してはいけないということはありません。「あくまで余った分を出資者や構成員に配分するのではなく、次年度に回してね」というニュアンスです。
NPO法人は1998年、一般社団法人は2006年から制度が開始されました。NPO法人は極めて知名度が高い分、設立時や、毎年の事業報告に関して、手続きの煩雑さがあります。
また、真面目に活動しているNPO法人が多い一方、NPO法人を隠れ蓑に、不正な活動をしている団体もわずかながら存在すると言われています。
代表者らが詐欺容疑で逮捕された、マルチまがい商法・預託販売等を行っていたジャパンライフも、資産のある高齢者を探すための隠れ蓑として、NPO法人を設立していました。
このように、NPO法人を悪用した事件が起こることで、NPOだから無条件に信頼される、ということは少なくなっています。
もちろん、一般社団法人であっても、問題のある行為を行う団体がゼロと言うことは考えにくいです。一般社団法人に対する世間の大まかなイメージとして、「公益寄りの活動を行う法人なのかな」という印象を与える可能性はあります。
一般社団法人でも、無条件に信頼されるとは限らないので注意しましょう。
1-3 一般社団法人と公益社団法人
一般社団法人と公益社団法人の違いは、以下の通りです。
一般社団法人 | 公益財団法人 | |
---|---|---|
公益認定を受けている | 受けていない | 受けている |
行える事業 | 適法であれば、特に制限はなし | 適法であれば、特に制限はなし。ただし、費用を基準として50%以上は公益目的事業を実施する必要がある |
官庁などの監督 | 特になし | 問題行為があると、所管の行政庁による報告徴収、立ち入り検査、勧告、命令や、場合によっては認定の取消しもある |
遵守事項 | 一般社団法人の規律のみ | 一般社団法人の切りに加え、公益目的事業が50%以上であること、理事等の報酬に関して支給基準を公表すること、財産目録等の行政庁への提出など、厳しい遵守事項がある |
このように、公益社団法人は、一般社団法人よりも認定基準が非常に厳しいのが特徴です。ただし、公益社団法人は、その名の通り「公共の利益のための法人」です。そのため、事業や寄付に対する税制面での優遇など、特別な措置が取られています。
1-4 一般社団法人の活用事例
一般社団法人は、株式会社などと違い、営利を主目的にする訳ではありません。しかし営利を目的としない組織形態なら、既にNPO法人が既に存在します。そこで、一般社団法人はどのようなケースで活用されるのかを考えてみましょう。
教育事業を行ったり、資格認定制度を設立する際に活用する | 様々な公的・民間の資格があるが、資格認定やインストラクター育成などの教育ビジネスを行う際に、一般社団法人が活用されるケースが多い |
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同地域・多業種で集まり、協業モデルを作る | 地域の事業者間で協力して、地域振興事業を行う場合や、他業種と共同で事業を行う場合に、一般社団法人を設立するケースもある |
同窓会など、メンバーを限定した団体を作る | 特定の大学・高校の卒業生に入会を限定することで、同窓会などの共通項がある物のみ入会できる団体を設立する |
特定の有資格者などで限定した団体を設立したい場合 | 定款で、特定の資格を有する者のみに入会を限定することで、資格者のみの団体が設立できる |
NPO法人ほどではないが、社会性・収益性両方を求めた事業を行う | 社会性がある事業だが、NPO法人にまですると、報告事項なども多いため、報告業務に時間を取られてしまう。そのため、報告義務がなく、事業の縛りがなく、より機動性の高い一般社団法人を活用する |
公益社団法人へのステップアップのための最初の一歩として | 当初は一般社団法人として設立し、実績を積み、公益社団法人認定を狙う |
以上のようなケースでの活用が想定されます。
1-5 公益認定のメリット・デメリット
一般社団法人が公益認定を受けることは、税制や名称による信頼性を始めとするメリットも多いですが、一方でデメリットもあります。
当記事ではあくまで、一般社団法人の税制優遇措置が主体ではありますが、一般社団法人から公益法人にすると、以下のようなメリット・デメリットが生じることを把握しておくと良いです。
公益法人のメリット | 公益法人のデメリット |
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名称に「公益社団法人」が付加されるため、公共の利益に関わる団体だと思ってもらえる | 事業が制約を受ける。公益目的事業を支出ベースで50%以上行わないといけない。(遵守しないと報告徴収・立入検査・認定取消処分も) |
税制上の様々なメリットがあり、後ほど述べる税制上の類型では一番有利 | 事業内容を変更する場合、変更の認定手続きが必要 |
公益認定を受け続けるために、公益認定基準を遵守する必要があり、事務負担が重くなる |
以上の点を踏まえると、全ての一般社団法人が公益社団法人を目指すのが良いとは限りません。公益社団法人を目指したほうがいい法人の特徴は次の通りです。
- ・寄付金が主要な財源である
- ・公益性を強調できることがプラスに働く法人
- ・税制優遇措置のメリットが大きい法人
- ・行政機関の要請や、様々な関与があり、公益認定を受けた方が何かと捗る法人
- ・収益事業を持っており、その収益を公益事業に一部回す法人
1-6 社団法人が公益認定を受ける基準
一般社団法人が公益社団法人にステップアップするための公益認定基準は、18にものぼります。
以下の基準を全て満たすことで、公益認定を受けることが可能になります。
(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 第五条より)
認定基準 | 具体的内容 |
---|---|
1 主目的事業 | 公益目的事業を行うことを主たる目的としていること |
2 公益目的事業の能力担保 | 事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有すること |
3 特別に利益を与えてはならない者の制限 | 事業を行うに当たり、社員、評議員、理事、監事、使用人その他の政令で定める当該法人の関係者に対し特別の利益を与えないこと |
4 特別な利益を超えた行為の制限 | 株式会社等の営利事業者に対し、寄付・利益供与を行わないこと |
5 行ってはいけない事業 | 公益法人として、社会的信用を維持する上でふさわしくない事業または公序良俗に反する事業をしないこと |
6 収益相償であること | 公益目的事業に用する事業費の額が、事業実施に関する適切な費用を償う額を超えないと見込まれること |
7 収益事業との関係性 | 収益行頭が公益事業の実施に支障を及ぼす恐れがないこと |
8 公益目的事業の比率 | 公益事業目的に用する事業費の額が、法人全体の事業費・管理費の合計額に占める割合の50%を越えないと見込まれること |
9 遊休資産の保有制限 | 純資産のうち、具体的な使途の定まっていない財産額が、1年分の公益目的事業費相当額を超えないと見込まれること |
10 役員に関する、親族等の制限 | 同一親族等で占めることができる理事または監事の人数が、理事または監事の総数の3分の1を越えないこと(公益財団法人の私物化の防止) |
11 役員に関する、同一団体の関係者グループにかかる制限 | 同一団体の関係者グループで占めることができる理事または監事の人数に関しても、それぞれ総数の3分の1を越えないこと |
12 会計監査人の設置 | 会計監査人の設置が義務ではないが、収益・費用及び損失その他の勘定額が。いずれも一定基準に達しない場合を除き会計監査人を設置すること |
13 役員報酬等支給基準の明確化 | 民間事業など、他の役員報酬や社員の給与、公益社団法人の経理状況その他を考慮し、不当に高額とならないような支給基準を定めていること |
14 社団法人に関する条件 | 社員の資格の得喪(なくすこと)に関し、不当に差別的な取り扱いをする条件をつけないこと |
15 株式等保有制限 | 他の団体の意志決定に対し、関与することができる株式を保有しないこと |
16 不可欠特定財産の維持及び処分制限 | 公益目的事業の遂行において不可欠な特定の財産がある場合、その維持及び処分制限等につき、前もって定款で必要事項を定めていること |
17 公益認定取消時の財産分与 | 公益認定取消し等の場合に、公益目的取得財産残額に相当する財産を、「同じような事業を目的とする公益社団法人等に贈与しますよ」と、取消し時に関係者ではなく別法人に贈与すると定款で定めていること |
18 精算時の財産の帰属 | 公益社団法人を生産する場合、残余財産を類似の事業に帰属させることを定めていること |
2 一般社団法人の税制優遇措置について
一般社団法人の税制優遇措置に関しては、「どういうケースで優遇が受けられるのか」という点を考えていく必要があります。
また、より税制優遇措置の手厚い、「一般社団法人の中の非営利型法人」「公益社団法人」とも対比した上で制度を考えていくことや、「一般社団法人の中の非営利型法人」「公益社団法人へのステップアップ(公益社団認定)」も考えて行く必要があります。
「事業」という観点から、税制優遇措置を見ていく前に、そもそも税法上における「収益事業」とは何かの定義を押さえておく必要があります。
税法における収益事業の定義を3点に絞ると、
- ・政令で定める事業であること
- ・反復継続して行われるものであること
- ・事業場を設けて行われるものであること
という定義ができます(具体論に関しては後ほど説明します)。
2-1 政令で定める事業とは
先ほど述べた3要件に関しては、実務以外にも、税務調査などでも着目される観点と言えます。事業が収益事業か否かを判断する上では、「事業が利益を挙げることに重きを置いた、対価性のある事業かどうか」が問われます。
いくら売上を出そうとも、ボランティア・社会貢献の要素が存在し、支出も多く、結果として赤字や収益トントンになる事業に関しては収益事業と定義されない可能性があります。
加えて、明確な資金の出し手に対するリターンのないこと、例えば会費・寄付金・助成金・補助金なども、基本的には収益事業とは定義されません。
ちなみに、事業というのは政令で業種が定まっております。
法人税法施行令第五条には、34の業種が収益事業として列挙されています。
事業名のみを列挙すると、
- 1 物品販売業
- 2 不動産販売業
- 3 金銭貸付業
- 4 物品貸付業
- 5 不動産貸付業
- 6 製造業
- 7 通信業(IT関係は通信業に入る)
- 8 運送業
- 9 倉庫業
- 10 請負業
- 11 印刷業
- 12 出版業
- 13 写真業
- 14 席貸業(有償で施設の一部などを時間や期間などを区切って貸付ける事業)
- 15 旅館業
- 16 料理店その他の飲食店業
- 17 あっせん業(ハローワークや職業紹介業など、当事者の間に入る業務)
- 18 代理業
- 19 仲立業
- 20 問屋業
- 21 鉱業
- 22 土木採集業
- 23 浴場業
- 24 理容業
- 25 美容業
- 26 興行業
- 27 遊技場業(ぱちんこ・麻雀店など)
- 28 遊覧所業(展望台・遊園地・動物園・海中公園など)
- 29 医療保険業
- 30 技芸教授業
- 31 駐車場業
- 32 信用保証業(各都道府県の信用保証協会や家賃保証業など)
- 33 無体財産権提供業(特許権や著作権の使用料・印税収入)
- 34 労働者派遣業
最初の法律成立は昭和40年ですので、現代においては違和感のある表現もありますが、上記の34業種は「収益業種」としてカテゴライズされることになります。
また、反復継続して行われる業務に関しても、毎年・毎日だけでなく、屋台の物販や、夏の海の家など不定期の反復業務も含みます。
事業所を設けて行われるということについても、上記店舗を設営して年中行う者の他、移動販売、コンサート・サーカスなど場所を転々と変えながら行う者についても該当することになります。
これだけ多くの業種があると、ほとんどの業種が収益事業に該当するように見えますが、下記の事業に関しては、34業種に該当しても、「収益事業としては」除外されます。
具体的には、
- 1 公益社団・財団法人が行う公益目的事業に該当するもの
- 2 身体障害等が半数以上を占める公益法人等が行う事業
- 3 母子福祉団体が行う一定の事業
- 4 保険契約者保護機構が行う事業
- 5 国等に対する一定の事業
が該当します。
2-2 社団法人の形態による税制優遇措置の違い
社団法人は、公益社団法人と一般社団法人に加え、「公益法人ではないが、非営利型法人に当たる法人」が存在します。
公益社団法人 | 一般社団法人で非営利型法人に該当する法人 | 通常の一般社団法人 | |
---|---|---|---|
税法上の扱い | 公益法人等として扱われる | 公益社団等として扱われる | 普通法人として扱われる |
非課税対象 | 税法上収益事業とされる部分から生じた所得であっても、外と事業が公益目的事業の認定を受けていれば非課税。非収益事業に関しても非課税 | 非収益事業には非課税。また会費・寄付金も非課税。収益事業から生じた所得は課税対象 | 株式会社・合同会社などの持分会社と同様、全ての所得が課税対象。会費・寄付金も課税対象 |
以上のように、公益法人・公益法人ではないが、非営利型法人に当たる法人、一般社団法人の間では、税制優遇措置に大きな違いがあります。
それでは、社団法人とよく並べて検討される、NPO法人の税制優遇措置も含めて考えてみると良いでしょう。(参考:内閣府:公益法人制度とNPO法人制度の税制上の優遇措置の比較について)
法人そのものの税制優遇措置についての比較
公益社団法人 | 一般社団法人(非営利型) | 一般社団法人 | 認定・特例認定NPO法人 | NPO法人 | |
---|---|---|---|---|---|
収益事業に対する課税(法人税) | 公益認定法上の公益目的事業として認定された事業であれば、収益事業に該当する場合でも非課税。 | 税制優遇あり | なし | 税制優遇あり | 税制優遇あり |
利子・配当等に関わる源泉所得税の非課税(所得税) | 税制優遇あり | なし | なし | なし | なし |
みなし寄付(法人税) | 税制優遇あり | なし | なし | 認定NPO法人はあり、特例認定NPO法人はなし | なし |
法人に対する寄付税制
公益社団法人 | 一般社団法人(非営利型) | 一般社団法人 | 認定・特例認定NPO法人 | NPO法人 | |
---|---|---|---|---|---|
個人の所得控除 (所得税)・法人の損金算入に係る別枠措置 (法人税) | 税制優遇あり | なし | なし | 税制優遇あり | なし |
個人の税額控除(所得税) | 税制優遇あり、ただし法人がPST(パブリックサポートテスト)要件を受けていることが必要。PSTとは、・総収入に占める寄附金収入の割合が5分の1以上・各事業年度に3,000円以上の寄附金を平均100人以上から受ける・事務所所在地の自治体の条例で個別指定を受けていること | なし | なし | 税制優遇あり | なし |
個人が財産を寄附した場合の譲渡所得税の非課税対象 (所得税・国税庁長官の承認が必要) | 税制優遇あり | 税制優遇あり | なし | 税制優遇あり | 税制優遇あり |
個人相続財産を寄付した場合の相続税寄付対象(一定の要件あり) | 税制優遇あり | なし | なし | 税制優遇あり、ただし特例認定NPO法人は対象外 | なし |
上記の通り、法人格の内容により、法人自体の税制も変わり、個人・法人が寄付を行う際の税制も大きく変わります。税制優遇の順番としては、公益法人>認定・認定特例NPO法人>一般社団法人(非営利型法人)=NPO法人>通常の一般社団法人、となります。
2-3 非営利型一般社団法人の認定について
一般社団法人の税制については、通常の一般社団法人であれば、株式会社などと同様、全ての所得が課税対象となります。一方、非営利型一般社団法人の認定を受けた場合は、収益事業外は非課税となります。
非営利型一般社団法人として認定を受けるためには、どのような手続き・条件が要されるのかについては、大別して、非営利性が徹底された法人と、共益的活動を目的とする法人の2パターンがあります。
非営利性が徹底された法人は、「事業で利益を得ることや得た利益を分配することを目的としない」「業運営において、組織の構成が適切であること」が求められます。
具体的には、下記の4要件を満たすことが条件です。
1 | 定款に剰余金の分配を行わない旨の定めがあること。 |
---|---|
2 | 定款に、解散時の残余財産が公益社団等、「一定の公益的な団体」に帰属する旨の定めがあること。 |
3 | これまでに上記の要件にある定款の定めに違反した行為を行ったことがないこと。 |
4 | 理事・その親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること(理事が親族主体で構成されていないこと)。 |
以上の全てを満たし、認定を受ける必要があります。
共益的活動を目的とする法人の場合は、「会員から会費を受け入れた上で、会員間で共通する利益を図る活動を行うこと」が認定の条件になります。
具体的には、下記の7要件を満たす必要があります。
1 | 何らかの形で、会員間に共通する利益を図る活動を行うことを主目的としていること。 |
---|---|
2 | 定款等に、明確な形で、会員負担の会費に関する定めがあること。 |
3 | 収益事業を主として行っていないこと。 |
4 | 定款に、特定の個人又は団体に剰余金の分配を受ける権利を与えるという定めがないこと |
5 | 定款に、解散時の残余財産が特定の個人又は団体に帰属する旨の定めがないこと。(例外あり) |
6 | 特定の個人又は団体に、これまでに特別の利益供与がないこと。 |
7 | 理事・その親族等である理事の合計数が、理事の総数の3分の1以下であること。(理事が親族主体で構成されていないこと) |
上記のように、非営利という面が徹底されているかがポイントとなります。
2-4 平成30年税制改正の相続スキームに対する影響
平成30年の税制改正に置いては、一般社団法人に関する相続税・贈与税の見直しがありました。これまで、一般社団法人を利用することによる相続対策が行われてきました。
ご存じの通り、相続税というのは資産が大きければ大きいほど、高くなります。
平成27年1月1日以後、令和2年10月月現在の相続税税率(参考:国税庁HPより)
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
(基礎控除として3,000万円+法定相続人の数×600万円)
実は、制度上の盲点として、一般社団法人には、株式会社のような持分という概念がないのです。よって、表向きは法律上誰かの所有になることがありません。
ですので、一般社団法人の財産は、相続財産とならず、相続税が課されることもありませんでした。これまでも、租税回避防止の規定はありましたが、平成30年の税制改正では、相続税対策という抜け穴を作らないよう、一定の要件を充たす同族経営の一般社団法人を「特定一般社団法人等」とし定義しました。
一定の要件を充たす同族経営の一般社団法人を「特定一般社団法人等」とし、また、特定一般社団法人の役員が死亡した場合に、当該一般社団法人自身に相続税が課税されるようにもなりました。
ちなみに、特定一般社団法人とみなされる条件として、以下の条件が付きます。
- ・相続開始の直前における同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超えること。
- ・相続開始前5年以内において、同族役員数の総役員数に占める割合が2分の1を超える期間の合計が3年以上であること
また、相続人の体調が悪くなったから、一般社団法人を作って財産を逃がそうという方法は、以前に比べ制限が付いたと言えます。
これまで、贈与税が課税されないケースでも下記の4要件に一つでも該当しないものがあれば、課税対象になることは明確化されました。
- 1 定款や規則で、役員等のうち親族が占める割合を1/3以下にする定めがあること
- 2 役員等やその親族に対して特別な利益を与えないこと
- 3 一般社団法人が解散した際に、残余財産が国や地方公共団体、公益財産法人、公益社団法人等に帰属する定めがあること
- 4 法令違反、帳簿書類の隠蔽・仮装、その他公益に反する事実がないこと
以上の全てに合致しないと、課税対象になるのです。
そして、一般社団法人は株式会社と異なり、配当金という形で剰余金の分配はできません。相続対策等、オーナーは役員に就任して報酬を受け取る方式、また一般社団法人解散時に、社員総会の決議で社員へ残余財産を分配する決議を行うことで、一般社団法人に移転させた財産を取り戻すことで、そのまま財産をオーナーに配分することは可能です。
それでも、何も対策をせず相続税をそのまま納めると、相当な税負担になることは明らかです。
公益社団法人化していると、剰余金や残余財産の分配をする事はできませんが、一般社団法人であれば、最後の時点で取り戻すことは可能です。
この一般社団法人を活用した相続対策の節税スキームについては、「あくまで法律に沿っている以上は、節税」であって、是非を言える物ではありません。
ただし、一般社団法人を活用した相続対策のスキームを活用する際には、税理士など税務に精通した専門家に相談し、自己責任で行うようにして下さい。
2-5 一般社団法人解散時の税務上の取り扱いは
一般社団法人を解散させる際の税務上の取り扱いについても触れます。一般社団法人は資本金、資本積立金が存在しないため、のこった財産の分配は、全額が利益積立金の取崩しという形となります。
個人として残余財産を受け取る側としては、無償による財産の一時所得として所得税の課税対象になります。
一時所得は2分の1課税として計算されます。
具体的には、その所得金額の2分の1に相当する金額を、給与所得などの他の所得の金額と合計して総所得金額を求めた後、納める税額を計算します。ケースバイケースですが、いわゆる株式の配当所得(20.315%)よりも税負担は軽くなる場合もあります。なお、法人が一般社団法人解散時の分配を受ける場合は、受贈益として益金算入されることとなります。
このように、一般社団法人は、表向きの税制優遇措置は少ないです。ただ、いわゆる富裕層が相続税などの税金対策を行う上での、一つのツールとしても使われてきたという側面はあると言えます。
2-6 公益法人等に係る消費税の課税体系は
法人税等については、公益法人等であれば、所得の範囲内で一定の特例的取り扱いが認められていました。
一方、消費税の課税体系を見ると、納税義務の判定(売上1,000万円を超えると課税業者となり翌々年度に課税)や課税範囲は株式会社等と同様の扱いです。
ただ、社団法人は補助金・助成金が多い、特に公益法人の場合は補助金・助成金に加え寄付金も多い特性があり、計算方法に関して特別な調整計算を求めているものもあります。
まず一般論として、消費税の課税対象となる国内取引は下記の通りです。
- ・国内において行う者(国内取引であること)
- ・事業者が、「事業」として行う物であること
- ・何らかの対価を得て行う物であること
- ・資産の譲渡・貸し付け・役務の提供が存在すること
寄付金や、補助金、通常会費等に関しては、消費税が課税されないことになります。
他にも、非課税取引として、下記の取引は、非課税取引となります。
- ・土地の譲渡及び貸付(一時利用などは除く)
- ・有価証券。それに類する物及び支払い手段の譲渡(収集用・販売用は除く)
- ・郵便切手類。印紙及び証紙の譲渡
- ・利子を対価とする貸付金や特定資産の貸し付け及び保険料を対価とする役務の提供
- ・国、地方公共団体等が法令に基づき徴収する手数料等に関わる役務の提供・外国為替業務にかかる役務の提要
- ・公的な医療保障制度に係る療養、医療、施設療養、またはこれらに類する資産の譲渡
- ・介護保険法の規定に基づく、居宅・医療・施設医療またはこれらに類する資産の譲渡
- ・医師、助産師その他量医療に関する施設の解説者による、助産にかかる資産の譲渡
- ・墓地・埋葬等に関する法律に規定する埋葬・火葬にかかる埋葬料・火葬に関する役務の提供
- ・身体障害者の使用に供する特殊な正常、構造または機能を有する物品の譲渡・貸付等
- ・学校、専修学校、各種学校の授業料、入学金、施設設備費
- ・教科用図書の譲渡
- ・住宅の貸付
以上が非課税取引となります。なお、補助金・助成金は例外措置がない限り、原則全て課税対象となります。輸入取引の場合は、保税地域から引き取られる外国貨物が課税対象となります(事業者だけでなく、消費者に当たる個人も)。
このように、公益社団法人・一般社団法人も、多くの部分で消費税の課税対象となる取引があると言うことは承知しておいた方がいいです。
一般社団法人・NPO法人など公的な活動をする法人であれば、消費税は関係ないと誤解される場合もありますが、一般社団法人・NPO法人問わず支払い対象になります。
2-7 公益法人化すべき?
一般の人には、公益社団法人と一般社団法人の違いを見分けるのは難しいでしょう。例えば、名刺に「一般社団法人」と書いてあれば、あまり社団法人の制度に詳しくない、もしくは昔のイメージを継続して持っている人であれば、「公的な活動をしているのか」という印象を持つ人はいます。
しかし、制度の内容を多少知っている人の場合、公益社団法人と一般社団法人の信用力や対外的に見た公益性の印象について、明確な差をつけている場合もあります。公益社団法人認定を得るには、それだけ「公益」にかなう条件が充足されている必要があり、簡単に認定を得られるものではないからです。
また、公益認定を得たからと言って安心はありません。事業を公益認定基準に適合させるよう、事業を運営していく必要性があり、情報開示の義務もあります。万が一、公益認定を取り消された場合は、外部から見て「あの団体は大丈夫か」と疑いをかけられる可能性もあります。
また、公益目的取得財産残額にあたる一定の資産を他の公益団体に寄付しなければならないという事も出てきます。
ただ、社会の信用を得る・公益性の高い事業を行っていく、という観点では、公益認定を取得することは意義があると言えます。
一般社団法人を設立する際の「組織が目指す根本」が、公全体を向いた物か、それとも組織の構成員を向いた物かで、公益認定を得るか、一般社団法人のままで行くかを検討することも一つの考えです。
あくまで、一般社団法人の会員の事を主体に考えるのではあれば、公益社団法人認定を得る必要はありませんし、それも一つの組織としての選択肢と言えます。
ただ、社団法人という組織形態を取った以上は、「組織として存続する、継続するための利益は出しつつも、社会や公益にも寄与する活動を行っていくこと」は、一つの重要なキーポイントであるかとは思います。
国が行う制度に関しては、何らかの制度趣旨が存在し、制度趣旨を超越した仕組みの利用が広がると、平成30年度の税制改正のように、「抜け道封じ」が行われます。もちろん、存在する制度の活用法が、適法の範囲内であれば、批判することはできませんが、国・政府の行う施策には、政治家・官僚が徹底的に考えた、制度を行う「理由・大義」というのが存在します。
理由・大義の根本から外れた制度の活用法ばかりが進んでしまっては、国・政府も相応の対策を打ちますし、やはりこの一般社団法人制度も、本来の制度趣旨、「大なり小なり公の役に立つ、関係者や周囲、社会に寄与する」というところに立ち返った運用が行われる必要があると言えます。
3 まとめ
今回の記事では、一般社団法人の制度や公益社団法人制度を踏まえ、NPO法人とも比較することを踏まえ、税制優遇、各種制度、税制の問題、一般社団法人を用いた節税スキームの規制などをご紹介しました。
一般社団法人は、(わかる人は誰でも設立でき,公益財団法人とは相当異なりがあることは知っていますが)あまり制度を認知していない一般の人には、公的な側面があるという言う印象を与えがちです。
一般社団法人は、営利企業とNPOの中間であり、利益は出すけれども、公的な活動も行うという団体です。
最後は設立する人自身が自分の考えでどの法人形態を選ぶかを考えることになりますが、「公的な側面を今後持たせたい」「社団法人というイメージに沿う真っ当な社会貢献業務を行いたい」という場合であれば、一般社団法人の設立は一つの選択肢と言えます。