お金がなくても会社設立は可能?お金をかけずに起業する方法を紹介
起業・会社設立という夢をかなえるためには、いくつもの課題を一つ一つ潰していくことが必要ですが、中でもお金の問題は、起業家にとって最も高く悩ましいハードルと言えます。事業の種類や規模によって必要な資金の額は異なりますが、この記事では、このような点を踏まえ、会社設立に要する費用と多様な調達手段について解説します。
目次
1 会社の種類と必要な資金の概要
㈱東京商工リサーチの調査によれば、2018年に全国で新しく設立された法人は12万8,610社となり、2009年以降では初めて前年を下回ったとはいえ、会社法施行(2006年5月)を機に、新設法人の数は増え続けていることがわかります。
その一方で、同社が行った企業の倒産調査では、2018年における業歴10年未満の新興企業の倒産件数が1,745件に上り、過去15年間で最多の件数となりました。起業と会社設立が増加する一方で、早期の倒産も増加している実態が見えます。
また、経済産業省による2011年の中小企業白書によれば、中小企業の生存率というデータが示されています。これによれば、起業後5年で14%、10年で30%の会社が消滅し、20年後には半減しているということです。また、同白書によれば、「起業時の課題」という質問に対し、起業家は、最大の課題として「資金調達」をあげており、起業時の資金確保がいかに重要かを実感することができます。
1-1 会社の種類と設立費用
このように、会社の設立においては、資金調達の重要性が際立ちます。これは、会社法施行によって資本金の下限額基準がなくなり、簡単に会社を設立できるようになったことの裏腹の事情として把握しておく必要があります。換言すれば、会社設立時から運転資金を含めた資金手当てにおいては、資本金が重要な役割を担うということを認識しておくべきだということです。
株式会社の資本金の額を見ると、会社法施行前は、1,000万円という最低額規制がありましたが、会社法施行後は、この下限額基準廃止によって、極端に言えば備忘価格である1円でも会社設立が可能となったため、会社設立のハードルは下がるというよりほとんどなくなり、それこそ、猫も杓子も容易に起業し会社を設立できるようになったのです。
前出の各種調査をみれば、これがそのまま新設会社の資金調達の脆弱さにつながっていることは明らかです。㈱東京商工リサーチは、下記のとおり2017年度と2018年度における資本金別の新設法人数の推移を公表しており、資本金が少額化している傾向を読み取ることができます。
(表1)資本金別新設法人
資本金 | 2018年度 | 2017年度 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
社数 | 構成比 | 前年比 | 社数 | 構成比 | 前年比 | |
1億円以上 | 506 | 0.39% | ▲13.2% | 583 | 0.44% | ▲3.95% |
5千万円以上 | 658 | 0.51% | ▲0.15% | 659 | 0.50% | ▲10.34% |
1千万円以上 | 5,746 | 4.47% | 0.41% | 5,722 | 4.33% | ▲2.91% |
500万円以上 | 23,592 | 18.34% | ▲7.72% | 25,566 | 19.33% | ▲0.30% |
100万円以上 | 57,409 | 44.64% | ▲1.71% | 58,409 | 44.15% | 2.97% |
100万円未満 | 29,419 | 22.87% | 1.47% | 28,992 | 21.92% | 10.16% |
その他 | 11,280 | 8.77% | ▲8.73% | 12,360 | 9.34% | 2.25% |
合計 | 128,610 | 100% | ▲2.78% | 132,291 | 100% | 3.34% |
(2018年東京リサーチ調査より)
この表のデータから、1千万円未満の資本金で新設された法人数は、11万420社(うち500万円未満の少額資本金による新設法人は86,828社、100万円未満は29,419社)に及ぶことがわかります。新設法人数全体の85.8%を占めていることから、調査時期は異なりますが、前出の中小企業白書で示された、「起業時及び起業後の最大の課題は資金調達である」ことと符合します。
また、中小企業庁が調査会社に依頼して行った「起業・創業の実態に関する調査(2016年11月)」からは、この資金調達方法の実態を知ることができます。
(表2)高成長型企業が成長段階ごとに利用した資金調達方法
第1位 | 第2位 | 第3位 | 第4位 | 第5位 | |
---|---|---|---|---|---|
創業期に利用した資金調達方法 | 経営者本人の自己資金76.0% | 民間金融機関からの借入39.2% | 家族・親族・友人・知人等からの借入33.6% | 政府系金融機関からの借入28.8% | 公的補助金・助成金の活用14.4% |
成長初期に利用した資金調達方法 | 民間金融機関からの借入71.4% | 経営者本人の自己資金45.4% | 政府系金融機関からの借入43.7% | 公的補助金・助成金の活用23.5% | 家族・親族・友人・知人等からの借入20.2% |
安定・拡大期に利用した資金調達方法 | 民間金融機関からの借入73.1% | 政府系金融機関からの借入45.2% | 経営者本人の自己資金36.5% | 公的補助金・助成金の活用19.2% | 家族・親族・友人・知人等からの借入13.5% |
《高成長型企業とは》 高成長型企業とは、中小企業庁が中小規模企業のライフサイクルを調査・分析するために類型化した「起業後の成長タイプ」のうちの一つであり、この類型化による各型の定義は以下のとおりです。 -起業後の成長タイプによる類型(起業後5年以上10年以内)- (1)高成長型 |
「起業・創業の実態に関する調査(2016年11月、中小企業庁委託事業:三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱」)より。
(表2)の創業期の資金調達を見ると、経営者本人の自己資金が最も多くを占め、会社としての実績のない創業期に民間金融機関や政府系金融機関からの融資を受けることが困難であることをうかがい知ることができます。
会社の安定・拡大期に向かうにつれ、民間金融機関等からの融資も受けられるようになり、その資金が更なる成長のエネルギーとなるため、好循環軌道に乗ることが期待できますが、創業時から初期段階においては、自己資金をいかに持ち込むことができるかが会社の命運を握ることになります。
1-2 会社運営にかかる資金
会社設立において必要となる資金はどの程度なのか、資金需要のもととなる各種費用を見積もることで想定してみます。資金需要は、「設立費用」と設立後の「会社運営費用」があり、後者はさらに「設備資金」と「運転資金」に分けることができます。
設立費用として見積もらなければならないものの中で、設立登記に直接関わる費用としては以下のものを挙げることができます。
(表3-1)会社設立費用
会社設立登記関係の費用 | 会社運営に至るまでに必要な費用 |
---|---|
(士業等への事務委託費等) |
|
設立登記をするには定款の作成が必要ですが、その他の規程類についても、会社の機関を円滑に機能させるために必要なツールとなりますので、定款作成と並行して作成しておくのが賢明です。このため、このような規程類の整備や、会社運営に必要な諸費用についても、計画段階で想定しておく必要があります。会社運営上必要と考えられる費用は次のとおりです。
(表3-2)会社運営費用(資金)
設備資金 | 運転資金 |
---|---|
|
|
以上のような費用の発生が見込まれますが、まず、会社設立登記にかかる費用についてみてみましょう。会社種類別の主な設立費用は、ざっと見積もってつぎのとおりとなります。
(表4-1)法人形態別の主な設立費用の比較(印鑑証明書代等軽微なものを除く)
会社区分
費用項目 |
株式会社 | 合同会社 | 一般社団法人 一般財団法人 |
合名会社合資会社 | NPO法人 | |
---|---|---|---|---|---|---|
(1)登録免許税 | 150,000円 | 60,000円 | 60,000円 | 60,000円 | 0円 | |
(2)定款印紙代 | 40,000円 | 40,000円 | 40,000円 | 0円 | ||
(3)定款認証手数料 | 50,000円 | 0円 | 50,000円 | 0円 | 0円 | |
(4)定款謄本手数料 | 2,000円 | 0円 | 2,000円 | 0円 | 0円 | |
合計 | (1)~(4)の合計 | 242,000円 | 100,000円 | 112,000円 | 100,000円 | 0円 |
(2)が不要の場合 | 202,000円 | 60,000円 | 112,000円 | 60,000円 | 0円 | |
《表中の費用項目について》 (2)定款認証印紙代は、電子定款を利用すれば不要ですが、紙の定款の場合は、印紙税法が適用されるため、定款の印紙税課税対象である株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、相互会社は、ともに4万円の印紙税が必要となります。 一方、電子定款利用についても、印紙税がかからないと言うだけで、費用が全く発生しないわけではありません。自分で電子定款を作成する場合は、PC及びカードリーダーといった機器やソフト(Adobe AcrobatのStandard)の購入が必要となります。また、電子定款には電子証明書が必要となりますが、取得費用は、利用する電子証明書発行機関によって異なりますので、事前に調べておくことで、費用の抑制が可能です。 (3)公証人による定款認証が必要となる法人は、株式会社、一般社団法人、一般財団法人、特定目的会社、相互会社、弁護士法人、監査法人等で、持分会社(合名・合資・合同会社)は対象外です。 (4)定款の謄本ですが、会社の設立登記の際に添付しなければなりません。会社設立時の定款は「原始定款」と呼ばれるもので、公証人が20年間保管することになっています。このため、会社設立登記の際は、公証人に定款の謄本を発行してもらうことになり手数慮が必要となります。その手数料額は、公証人手数料令において1枚250円と定められていますので、一般的な定款で概算すると2,000円程度となります。 ※この表では、全て起業家自らが手続きを行うことを前提にした金額を示しており、この条件下では、合同会社等の持分会社の設立費用が最も安いと言えます。一方、専門家に委託した場合は、委託先によって30,000円~70,000円程度の手数料が必要となりますが、前述の新たな機器の購入や電子証明書の取得などの費用、また、自ら手続きをする手間がかかりませんので、サービス内容と手数料次第では、専門家に委託するという方法も検討しておく価値はあると考えられます。 |
(表4-2)表3-1に記載した法人設立から開業までに必要となる主な費用(設立費用以外)
開業までに必要な費用 | 金額 |
---|---|
1)新設会社の土地、建物等の賃貸借契約にかかる敷金・礼金等 | 賃貸オフィス等で事業を開始する場合の費用としては、会社の規模や業種に左右されるため一概には言えませんが、200~500万円程度は見積もる必要があります。これが、事業の種類や規模によって、土地・建物を取得しなければならない場合には、多額の資金が必要となります。 |
2)内装の改装等 | |
3)営業開始の為の広告宣伝費 | |
4)OA機器等消耗品費等の費用 | |
5)電気・ガス・水道料等事務所のインフラにかかる契約費用等 |
次に、(表3-2)で示した会社運営にかかる資金、いわゆるランニングコストあるいは運転資金ともいわれるものですが、毎月発生する事務所や店舗の賃料、水道光熱費、商品や原材料の仕入れ資金、広告宣伝にかかる費用、従業員を雇用すれば自身の役員報酬のほかに人件費や、スキル向上へ向けた教育費用など、様々な費用が発生することになります。事業の規模に応じた費用となりますので、会社の実態に応じて、事業計画策定時に見積もることが必要です。
1-3 資金調達の実態
日本政策金融公庫の「2019年度新規開業実態調査」における開業費用を見ると、「500万円未満」の割合が40.1%で最も高く、次いで「500万円~1,000万円未満」が27.8%となっています。また、「開業費用」の平均値は1,055万円で、1991年の調査開始時以来最も少ない金額となっています。
これに対する開業時の「資金調達額」は平均1,237万円で、これが、会社設立費用及び開業費用に当面の運転資金を加えたおおよその目安となる金額といえます。調達先としては、「金融機関等からの借入れ」が平均847万円(平均調達額に占める割合は68.4%)、「自己資金」が平均262万円(同21.2%)であり、この合計でほぼ90%を占めます。
1-4 お金をかけずに起業
クラウドソーシングのようにパソコン1台で始めることができる事業や、士業など独占的資格をもって行う事業は、設立した会社を一人もしくは数人程度で運営できるケースが多く、自宅のオフィス化やシェアオフィスの活用など、極力運営資金を抑制することが可能です。
また、シェアオフィスは安いコストでワークスペースを確保することが可能であることに加え、副次的な効果として人的交流の拡大が見込めますので、事業を軌道に乗せたあとの規模拡大や新規事業への進出のための人脈作りにも利用できるというメリットがあります。
しかし、このようなケース以外では、やはり一定程度の創業資金が必要となります。事業規模に対して手持ちの資金が少ない、または、全くない場合などは、どこかから資金を調達しなければなりません。この資金調達の方法について、次項で解説します。
2 資金調達手段
資金調達手段には、国や自治体の補助金や助成金制度、金融機関融資、クラウドファンディングや起業支援ファンドによる出資などが考えられます。取り組む事業の種類や規模に応じて、これらの制度を有効に活用すれば、手持ちの自己資金が少なくても開業から当面の会社運営の資金を賄うことができます。
2-1 補助金・助成金の活用
ここでは、2種類の補助金と助成金制度をご紹介します。補助金と助成金の違いですが、いずれも返済の必要のないお金という意味では同じですが、交付要件を含め制度の性格が異なります。補助金は、チャレンジする事業に対して交付する性質のもので、事前に計画書を提出し、審査を受けて補助事業として採択されることが必要で、採択後も事業の実施報告が求められます。
助成金は、結果に対して交付される性格のものであり、要件となる実績を確認して支払われる点で補助金と異なります。これらは自らの事業の可能性を広げると言う意味では非常に有益な制度といえます。以下、2つの制度について解説します。
2-1-1 東京都の「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」
東京都が、都内の商店街での開業を支援することを目的に毎年予算措置を講じている制度です。2020年度は、新型コロナウイルスの感染防止のため事業説明会が中止されましたが、交付決定までのスケジュール等は公表されています。
(表5-1)東京都若手・女性リーダー応援プログラム助成事業の概要
助成対象者 | 都内商店街で開業予定であり、実店舗を持たない女性または2021年3月31日時点で39歳以下の男性 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
助成内容 | 経費区分 | 助成率 | 助成限度額 | 助成対象期間 | |||||||
事業所整備費 | 店舗新装・改装工事費 | 3/4以内 | 400万円 | 交付決定日から開業日の翌々月(最長1年間) | |||||||
設備・備品購入費(税込10万円以上) | |||||||||||
宣伝広告費(上限150万円) | |||||||||||
実務研修受講費 | 2/3以内 | 6万円 | |||||||||
店舗賃借料(新たに借りる場合) | 3/4以内 | 1年目:180万円(15万円/月額)2年目:144万円(12万円/月額) | 交付決定日から2年間 | ||||||||
最大助成限度額 | 730万円 | ||||||||||
申請時の主な注意点 |
※ 就業経験等により、研修受講が万除される場合があります。また、実務研修は、交付決定日から開業までの助成対象期間内に受講する場合、助成対象経費として申請することができます。 |
||||||||||
交付決定までのスケジュール | 申請エントリー提出 | 審査~交付決定 | |||||||||
エントリー期間 | 提出期間(持参) | 書類審査 | 面接審査 | 交付決定日 | |||||||
第1回 | 4/10(金)~4/30(木) | 5/11(月)~5/15(金) | 6月上旬 | 7月上旬 | 8/1(予定) | ||||||
第2回 | 9/16(水)~10/5(月) | 10/12(月)~10/16(金) | 11月上旬 | 12月上旬 | 1/1(予定) | ||||||
経営知識習得にかかる研修例 | 主催者 | 研修 | |||||||||
(公財)東京都中小企業振興公社 | TOKYO起業塾、女性起業ゼミ、ほか | ||||||||||
東京都内商工会議所、東京都商工会連合会等 | 創業塾、創業ゼミナール、ほか | ||||||||||
区市町村、金融機関(銀行・信用金庫等) | 上記に類する創業・起業支援セミナー、特定創業支援事業等 | ||||||||||
交付対象業種 | 業種 | 具体例 | |||||||||
卸売業・小売業 | ・各種商品小売業、・織物衣類等小売業、・飲食料品小売業、・機械器具小売業、・その他の小売業 | ||||||||||
不動産業・物品賃貸業 | ・不動産取引業、・不動産賃貸業、・不動産管理業、・物品賃貸業 | ||||||||||
学術研究・専門・技術サービス業 | ・写真業 | ||||||||||
宿泊業・飲食サービス業 | ・宿泊業、飲食店、・持ち帰り飲食サービス業、・配達飲食サービス業 | ||||||||||
生活関連サービス業・娯楽業 | ・洗濯業、・理容業、・美容業、・浴場業 | ||||||||||
教育・学習支援業 | ・その他の教育、学習支援業 | ||||||||||
医療・福祉 | ・療術業 | ||||||||||
その他サービス業 | ・機械等修理業 |
(公財)東京都中小企業振興公社作成のパンフレットを参考に作成
2-1-2 小規模事業者持続化補助金
この補助事業は、経済産業省の所管で、日本商工会議所が補助金事務局として管理している制度です。
(表5-2) 小規模事業者持続化補助金の事業概要
項目 | 内容 | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
事業目的 | 小規模事業者等が取り組む販路開拓等の取り組みの経費の一部を補助することにより、地域の雇用や産業を支える小規模事業者等の生産性向上と持続的発展を図ること。 | ||||||||||
補助対象者 | 次の(1)から(5)に掲げる全ての要件を満たす日本国内に所在する小規模事業者等(単独または複数の小規模事業者等)であること。(1)小規模事業者であること
小規模事業者支援法では、業種ごとに従業員数で小規模事業者か否かを判断しています。なお、業種については、国内の標準的な産業分類ではなく、実際の事業の内容と実態から判断するため、現在の事業もしくは今後予定している業態によって業種が判断されることになります。補助対象は次のとおりです。
(注2)特定非営利活動法人 (注3)常時使用する従業員の定義 (2)商工会の管轄地域内で事業を営んでいること |
||||||||||
補助対象事業 |
次の(1)から(3)に掲げる全ての要件を満たす事業であることが求められます(複数事業者による共同申請の場合は、(4)の要件も満たす必要があります)。 |
||||||||||
補助対象経費 |
(1)対象経費としての要件 (4)電子商取引等 |
||||||||||
補助率等 |
補助率は、補助対象経費の3分の2以内で、補助金の上限額は次の通りです。 |
||||||||||
申請手続き | 各年度の公募要領に基づき、申請受付日、第1回から第4回(通常は年4回)の受付締め切り日が公表されます。手続きの詳細は日本商工会議所のホームページで確認して下さい。 |
(都道府県商工会連合会・全国商工会連合会の「小規模事業者持続化補助金公募要領」をもとに作成)
2-2 創業融資の利用
次に「金融機関融資」についてみてみます。銀行などの民間金融機関の融資審査は、返済する能力にウエイトが置かれますので、実績のない新設の会社は、事業計画や担保、連帯保証人の状況等以外に判断材料とするものがありません。このため、民間金融機関から事業資金の融資を受けることは、非常に難しいのが現実です。
しかしながら、国が国内産業力強化と雇用創出を目的として、起業家を育成する政策を推進していることから、政府系金融機関である日本政策金融公庫が、創業にかかる融資を積極的に行っています。また、一般的な融資は無理でも、自治体と信用保証協会及び銀行が連携した「制度融資」も用意されていますので、創業資金はこれら公的な融資制度を利用することが可能です。以下、これらの中から日本政策金融公庫の二つの資金を紹介します。
2-2-1 日本政策金融公庫の創業融資制度
日本政策金融公庫は、国民生活金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業金融公庫、国際協力銀行を統合して2008年10月に発足した財務省所管の政府系金融機関です。基本的には、国民・農林・中小企業の旧3公庫の業務を引き継いでおり、一般的な事業者から農林漁業者まで幅広く資金対応を行っています。以下、このうちの2種類について解説します。
(表6-1)新規開業資金
内容 | ||
---|---|---|
ご利用いただける方(注4) | 「雇用の創出を伴う事業を始める方」、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」または「民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方」等の一定の要件に該当する方(事業開始後概ね7年以内の方を含む)。なお、本資金の貸付金残高が1,000万円以内(今回の融資分も含みます。)の方については、本要件を満たすものとします。 | |
資金使途 | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする資金 | |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) | |
ご返済期間 | 設備資金 | 20年以内<うち据置期間2年以内> |
運転資金 | 7年以内<うち据置期間2年以内> | |
利率※特利関係の金利は公庫のホームページでご確認下さい。 |
【基準金利】2.16~2.35% |
|
保証人・担保 | 個別案件ごとに相談 | |
融資条件等 | 利率1)に該当する方は、融資後、次の事項を約束いただくことを条件に特別利率での融資となります。「地域おこし活動体として活動した地域において、活動終了後1年以内に新規開業すること」 | |
その他 | 特別利率等詳細は、日本政策金融公庫HPでご確認下さい。 |
(日本政策金融公庫HPに掲載された制度概要から一部引用)
(注4)利用できる方
1.現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方で、次のいずれかに該当する方
(1)現在お勤めの企業に継続して6年以上お勤めの方
(2)現在お勤めの企業と同じ業種に通算して6年以上お勤めの方
2.大学等で修得した技能等と密接に関連した職種に継続して2年以上お勤めの方で、その職種と密接に関連した業種の事業を始める方
3.技術やサービス等に工夫を加え多様なニーズに対応する事業を始める方
4.雇用の創出を伴う事業を始める方
5.産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方
6.地域創業促進支援事業または潜在的創業者掘り起こし事業の認定創業スクールによる支援を受けて事業を始める方
7.公庫が参加する地域の創業支援ネットワークから支援を受けて事業を始める方
8.民間金融機関と公庫による協調融資を受けて事業を始める方
9.前1~8までの要件に該当せず事業を始める方であって、新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力が十分あると公庫が認めた方で、1,000万円を限度として本資金を利用する方
10.1~9のいずれかを満たして事業を始めた方で事業開始後おおむね7年以内の方
(表6-2) 新創業融資制度
項目 | 内容 |
---|---|
ご利用いただける方 |
次の1~3全ての要件に該当する方 |
資金の使い道 | 事業開始時または事業開始後に必要となる事業資金 |
融資限度額 | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
ご返済期間 | 各種融資制度で定めるご返済期間以内 |
利 率 | 基準金利:2.26~2.65(平成31年2月14日現在)※詳細は、公庫のホームページでご確認下さい。 |
担保・保証人 | 原則不要※原則、無担保無保証の融資制度であり、代表者個人には責任が及ばないものとなっております。法人のお客様がご希望される場合は、代表者(注6)が連帯保証人となることも可能です。その場合は利率が0.1%低減されます。 |
(日本政策金融公庫HPに掲載された制度概要を参考に作成)
(注5) 新規開業資金の(注4)と同様です。
(注6) 実質的な経営者である方や共同経営者である方を含みます。
(表6-3) 新規開業資金と新創業融資の違いと共通要件
項 目 | 新規開業資金 | 新創業融資 |
---|---|---|
利用対象者 |
|
|
資金使途 | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする資金 | 事業開始時または事業開始後に必要となる事業資金 |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) | 3,000万円(うち運転資金1,500万円) |
担保・保証人 | 要 | 不要 |
《新規開業資金と新創業融資の違い》 |
2-3 クラウドファンディングの活用
ここまでの補助金や融資制度に加え、近年注目を集めている「クラウドファンディング」の活用も視野に入れると会社設立にかかる資金調達の幅が広がります。クラウドファンディングは、個人や企業、その他の機関がインターネットを介してプロジェクトの内容を公開し、「寄附」、「購入」、「貸付」、「投資」といった形態で資金を調達する仕組みです。
日本では、2011年に起きた東日本大震災を契機としてクラウドファンディングの動きが見え始め、2017年度の市場規模は1,700億円を超え、現在も拡大傾向にあります。クラウドファンディングには次の通り5つの類型があり、資金の需要者の実状にあわせた利用が行われています。
(表7-1) クラウドファンディングの類型と内容
類型 | 内容 |
---|---|
寄附型 | 社会貢献的なプロジェクトに対して寄附金を募る形態です。資金調達側は、主に自然災害等の被災地支援や途上国支援等の社会問題に取り組んでいる「NGO」や「NPO」が主体です。プロジェクト当たりの資金調達規模は、数万円から数億円に上るものまで幅があり、目標金額に達したか否かを問わず、寄附金は資金調達者に交付されます。当然、資金を提供した人に対するリターンはありません。 |
購入型 | 資金提供者が、「財」や「サービス」のリターンを前提として資金を提供する形態です。資金調達側は、寄附型と同様の団体や、音楽・映像・ゲーム制作等の芸術・エンターテインメント関係を含めた多様な事業体が見られます。プロジェクト当たりの資金調達額は数万円から数千万円程度であり、プロジェクト方式は、「All or Nothing(成功時報酬型)」と「All in(実施確約報酬型)」の二つがあります。All or Nothing方式は、目標金額に到達した場合のみ資金が供給(調達)されます。一方のAll in方式は、目標金額に到達しない場合でも資金が供給されるという特徴があります。 |
貸付型 | 資金提供者と資金調達者をインターネットで仲介するサービスで、「クラウドトレンディング」とも呼ばれています。金融機関等のコストが軽減される分、預金に比べて資金提供者にとっては、リターンは多くなりますが、調達者の倒産による貸倒リスクを負わなければならないという難点もあります。 |
ファンド型 | 仲介業者が第二種金融取引業または第二種少額電子募集取扱業の登録をし、商法の「匿名組合契約」を利用した集団投資スキームの媒介を行う仕組みです。資金調達者が匿名組合の営業者となり、資金提供者が匿名組合員として事業ファンドへの投資を行います。調達者は、この出資金をプロジェクトに必要な運転資金や設備投資に回し、契約時に定めた内容で、事業で得られた収益に応じて分配金を資金提供者に一定期間支払うことになります。 |
株式型 | 株式型は、非上場会社が新たに発行する株式を、インターネットを通じて公募し、資金調達するという仕組みです。リターンは、株価の上昇や配当によることになります。 |
上記の中でも、購入型のAll or Nothing方式は1円でも目標金額に届かないとファンドが成立しないため、資金の調達者にとっては厳しい仕組みといえます。ただ、この方式の大きな特徴は、仲介業者によるプロジェクトの審査にとどまらず、資金の提供者によるプロジェクトの審査を実施するため、失敗する可能性の高いプロジェクトの事前排除機能があります。
このような仕組みから、資金調達者は、プロジェクトの内容を何度も見直したり、プレゼン資料を書き換えたりして真剣に取り組みますし、クラウドファンディングの運営会社もプロジェクトが成立しないと手数料が入らないため資金調達者を支援し、資金提供者も目標額に達しないと自らのリターンが得られないため、目標額達成へ向けてテコ入れをするといった協同関係が構築されることになります。このため、日本の購入型クラウドファンディングのほとんどが、All or Nothing方式と言われています。
東京都は、クラウドファンディングを活用した資金調達を支援しており、クラウドファンディングの取り扱い事業者をホームページ上で紹介していますので、参考までに概要を掲載しておきます。
(表7-2) 東京都の取扱クラウドファンディング事業者
サイト名 | A-port | 地域×グランドファンディングFAAVO(ファーボ) | GREEN FUNDING | Makuake |
---|---|---|---|---|
会社名 | ㈱朝日新聞社 | ㈱CAMPFIRE | ㈱ワンモア | ㈱マクアケ |
取扱類型 | 購入型・寄附型 | 購入型・寄附型 | 購入型 | 購入型 |
成立方式 | All or NothingAll in | All or NothingAll in | All or Nothing | All or NothingAll in |
なお、都のホームページでは、目標額を達成した支援対象プロジェクトを紹介していますので一度ご覧になってみると参考になると思います。
3 まとめ
会社法が施行されて資本金額の最低基準額がなくなったため、会社の設立自体はしやすくなりました。しかし、取り組む事業によっては、事前に十分な資金を準備しなければならないケースも多いでしょう。手持ちの自己資金が脆弱でも、事業のコンセプトや将来の成長性、また、創業後の早い時期の事業の成功可能性が高い場合は、クラウドファンディングを活用するのも有益でしょう。このような点も含め、設立しようとしている会社の青写真とともに、資金の調達について、この記事で紹介した多様な手段を参考に検討してみてください。