社団法人は何て呼べばいい? 弊社、貴社等は間違い?
様々な事業を行う法人組織のタイプはいくつもありますが、一般的によく見聞きする「株式会社」など営利目的で活動する組織がその大多数を占めます。その一方で、非営利目的で主に活動する組織も少なからず存在していますが、その代表的な形態の1つが「社団法人」です。
社団法人は収益事業を行うことも可能ですが、主に社会貢献性の高い事業を行う組織も多く、その活動の姿は行政やその公的機関等に近いため、昨今では就職・転職先の候補として求職者等に注目されつつあります。
今回はこの社団法人を取上げ、その主な特徴などを説明するとともに、就職やビジネス等にかかわる社団法人の略称、敬称や表記方法を紹介することにしました。
社団法人の設立に興味のある方、就職や転職を考えている方、社団法人と取引している方、などは、ぜひ参考にしてみてください。
目次
1 社団法人とは
最初に社団法人とはどのような法人組織であるかについて、その主な特徴を説明します。また、「社団法人」と「財団法人」、「一般法人」と「公益法人」の違いなど、社団法人の種類や内容を示していきましょう。
1-1 法律上の社団法人の種類と概要
ここでは社団法人の基本的な特徴とタイプを確認していきます。
現在において法律上では「社団法人」という名称そのもので存在する組織はありません。かつての改正前民法や特別法において「社団法人」という名称の組織が存在していましたが、2000年から2008年にかけて実施された公益法人制度改革の中で法的にその名称の組織は消滅しました。
2008年まで実施されていた公益法人(社団法人と財団法人)制度と中間法人制度が統合され、新たに「一般法人(一般社団法人と一般財団法人)」と「公益法人(公益社団法人と公益財団法人)」の制度が創設されたのです。
その結果、現在では法人格を有する「社団法人」そのものの名称で法人を設立することができなくなりました。その代わりに法人格を有して設立できるようになったのが、「一般社団法人」「一般財団法人」「公益社団法人」「公益財団法人」で、事業の目的や内容によりそのタイプを選ぶことになります。
ただし、こうした背景から、これらの4つの形態が一般的には「社団法人」と見なされるケースが多いです。また、「社団法人」としては一般社団法人と公益法人が、「財団法人」としては一般財団法人と公益財団法人が認識されることもあります。
なお、一般法人については「一般社団法人および一般財団法人に関する法律」により、公益法人については「公益社団法人および公益財団法人の認定等に関する法律」により規定されています。
1-2 一般社団法人・一般財団法人の内容とその違い
まず、一般社団法人と一般財団法人の特徴や両者の違いなどについて見ていきましょう。
1)一般社団法人とは
一般社団法人は「一般社団法人および一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)」に基づいて設立される社団法人です。一般社団法人は、法律に定められた要件を満足できれば主務官庁の許可を必要とせず登記のみで設立できます。
旧社団法人の時代では公益性が必要とされ主務官庁の許可が不可欠であったため簡単に設立できなかったですが、一般社団法人の場合は公益性の有無にかかわらず要件を満たせば法務局への登記で設立できるのです。
なお、一般社団法人の設立要件は、以下の3分野に関して設けられています。
設立手続に関する要件
機関(役員・人)に関する要件
運営その他に関する要件
一般社団法人は、剰余金の分配を目的としない「非営利法人」です。しかし、これは一般社団法人が収益を目的とした事業活動をしないということではなく、同法人が得た利益をその関係者(オーナー的な存在の「社員」(株式会社の株主のような出資者等のことで「従業員」のことでない)に分配しないことを意味します。
たとえば、株式会社の場合、稼いだ利益(剰余金)は株主に配当金として渡しますが、一般社団法人はそうした剰余金の分配をしないということです。つまり、一般社団法人は組織を維持するため、活動を継続するため利益を獲得しますが、「社員」に利益を分配しません。
これが一般社団法人に要求されている「非営利性」です。もちろん一般社団法人においてもその役員や従業員には報酬や給与が支払われており、その点は株式会社などと同じになります。
一般社団法人の目的や事業の種類については、法律的には特段の制限はなく、他の法律や公序良俗に反しなければ、好きな事業を実施することが可能です。一般社団法人の場合、公益を目的とする事業やボランティア活動的な事業だけを行っていると思われる方もいますが、それら以外の収益事業を行っているケースは少なくありません。
なお、一般社団法人は目的を持った人の集合体として位置づけられています。たとえば、地域の振興・発展、医療福祉分野のサービス提供、学術研究の推進・発展、業界団体の会員への福利厚生の提供や資格認定の支援、同窓会や自治会の運営、といった目的で集まった人の団体として活動しているのです。
2)一般財団法人
一般財団法人も非営利法人ですが、一定の財産(寄付も含む)に対して法人格が与えられた団体として位置づけられます。一般社団法人が「人」が集まって目的の事業を行うための法人として見なされていますが、一般財団法人は、お金や土地などの「財産」を主に管理・運営する目的で設立される法人のことです。
なお、一般財団法人の場合、設立人が価額として300万円以上の財産を拠出し、その財産を事業の目的のために運用することが法人を設立する上での条件となっています。一般財団法人の特徴を端的に表現すると、目的を実現するために「財産」を活用する、そのために資金面に重点を置くという運営形態であると言えるでしょう。
この点が人の「活動」を運営の基本とする一般社団法人との大きさ違いになります。なお、事業内容や団体の公益性については一般社団法人と同様で、その有無は問われません。一般財団法人も法律や公序良俗に反しない限り事業内容を自由に選択できます。
なお、一般財団法人の設立には、理事3人、監事1人、評議員3人以上が必要となり、計7人以上の人を要することになります。一方、一般社団法人の場合、設立に当たり2人以上の社員となっており設立が容易です。
1-3 公益法人の概要および一般法人との違い
ここでは公益法人の内容を確認していきましょう。
①公益法人の主な特徴
公益法人とは公益の増進を推進することを目的として、その設立理念に基づき活動する民間の法人として位置づけられています。
一般社団・財団法人のうち、民間有識者で構成される第三者委員会によって公益性の審査(公益目的事業等に関して)を通過して、内閣府または都道府県から公益認定を受ければ、公益法人として認められるのです。
公益法人は、一般法人と同様に「社団法人」と「財団法人」の2つがあり、前者が志ある人の集合体である「公益社団法人」、後者が財産の集合体である「公益財団法人」になります。
なお、一般法人は登記のみで設立が可能ですが、一般法人が公益法人になるには、「公益社団および公益財団法人の認定等に関する法律」に規定された基準を満足し、行政庁の認定を得ることが必要です。
簡単に言うと、一般法人と公益法人の違いは「公益性」の認定を受けているか否かにあり、受けているのが公益法人になります。公益法人の認定で求められる基準は公益性ですが、具体的には公益に役立つ活動をしているかという「公益性」と、公益目的事業を行う能力・体制があるかという「ガバナンス」の2つです。
なお、公益目的事業は、「認定法」に定められた、学術、技芸、慈善その他の公益に関する23種類の事業で、不特定多数の者の利益の増進に寄与するもの、とされています。従って、公益法人は一般法人に比べ事業内容が公益性の視点から厳格に限定される存在なのです。
公益目的23事業の例:
- ・学術および科学技術の振興を目的とする事業
- ・文化および芸術の振興を目的とする事業
- ・高齢者の福祉の増進を目的とする事業
- ・地域社会の健全な発展を目的とする事業
- ・公衆衛生の向上を目的とする事業
公益法人は、事業のうち公益目的事業比率が50%以上であること(公益法人の活動全体における公益目的事業活動の割合がその費用額において50%以上であること)が要求されますが、公序良俗等に反しない限り、公益目的事業以外の事業も行えます。
もちろん、その他の事業によって公益目的事業の遂行に支障を及ぼことがあってはなりません。また、公益法人も剰余金といった特別の利益を社員や理事などの法人の関係者、株式会社等へを分配してはならないことになっています。なお、ガバナンスに関する基準については以下の通りです。
・経理的基礎・技術的能力を有すること
⇒各業務に関して、他の法人に「丸投げ」することは認められません。
・相互に密接な関係にある理事・監事が3分の1を超えないこと
⇒理事および監事のうち、親族等、相互に密接な関係にある者の合計数は3分の1を超えてはならないことになっています。
・公益目的事業財産の管理について定款に定めていること
⇒公益目的事業を実施するために必要な特定財産がある場合は、その管理について、必要な事項を定款で定めなければなりません。
以上のような基準以外にも欠格事由に該当すれば認定が受けられなくなります。
②公益法人の主なメリット
公益法人の大きな特徴としては一般法人以上に税制上の優遇措置が受けられる点です。国税庁によると、公益法人制度における社団法人・財団法人に対する法人税の取扱いの概要は下表のようになっており、公益社団法人・公益財団法人の公益目的事業から生じた所得は課税対象になりません。
課税所得の範囲
公益社団法人 公益財団法人 |
公益認定を受けていない一般社団法人・一般財団法人 | ||
---|---|---|---|
非営利型法人 | 非営利型法人以外の法人 | ||
法人税法上の法人区分 | 公益法人等 | 普通法人 | |
課税所得の範囲 | 収益事業から生じた所得が課税対象 | 全ての所得が課税対象 |
ほかにも公益法人に対する個人や法人が行う寄付等の優遇、利子・配当等にかかる源泉所得税の非課税、事業税、法人住民税、固定資産税等の一定の優遇措置、があります。
もう1つのメリットは補助金や寄付金が受けられやすい点です。公益性のある事業を行っていることや、行政出身者が理事等になっている公益法人が多いことなどから補助金や寄付金が多く集まる傾向が見られます。
事業活動による収益が少なくても補助金・寄付金で法人運営が維持しやすくなるという利点がある一方、それらに依存する運営は安定を欠くこともあり、補助金の多さは非難の的になりかねません。
2 社団法人の略称・敬称・表記方法
ここでは社団法人の略称、敬称や表記方法などを説明していきます。
2-1 社団法人の敬称
企業との取引や就職等に際して、企業側へは「貴社」や「御社」といった敬称がよく使われますが、社団法人についてどのような敬称が使用されるかを確認していきましょう。
たとえば、一般社団法人を対象とする場合、一般的には「貴法人」「貴○○」が使用されるケースが多いです。対象の一般社団法人が「一般社団法人 ○○協会」という名称なら「貴法人」や「貴協会」、「一般社団法人 □□委員会」なら「貴委員会」がよく使用されています。
なお、宛名書きなど書く場合は「貴協会」、会話で呼ぶ場合は「○○協会様」「御協会」に使い分けられることが多いです。また、一般社団法人の理事長などの役員の宛名については、「貴職」がよく用いられます。
2-2 社団法人の略称や表記方
ここでは社団法人(財団法人含む)の略称(略語)とその表記方法について紹介しましょう。
①社団法人の略称
たとえば、株式会社の場合、「株式会社○○建設工業」という名称なら「(株)○○建設工業」というように株式会社の4文字を省略して「(株)」とするケースが一般的です。ほかにも有限会社の場合は「(有)」、合同会社は「(同)」、特定非営利活動法人は「(特非)」などの略称が通常使用されています。
社団法人も同じように略称が使用されますが、一般社団法人ならその表記は通常「(一社)」が使われます。たとえば、「一般社団法人○○中小企業支援協会」という正式な名称の場合は「(一社)○○中小企業支援協会」と表記されるのです。
一般社団法人以外の社団法人と財団法人にも略称があり、漢字の略語では以下のように表記されています。
・社団法人:(社)
一般社団法人:(一社)
公益社団法人:(公社)
・財団法人:(財)
一般財団法人:(一財)
公益財団法人:(公財)
②金融機関での略称
以上のような略称が行政機関や金融機関で定められているケースが多いです。なお、金融機関では振込などにおける記載はカタカナで表記されますが、その場合の略称は下表のような表記が使用されています。
足利銀行の法人略語の表記例
法人の種類 | 略語 | ||
---|---|---|---|
頭部 | 途中 | 末尾 | |
財団法人 | ザイ) | ― | ― |
一般財団法人 | ザイ) | ― | ― |
公益財団法人 | ザイ) | ― | ― |
社団法人 | シヤ) | ― | ― |
一般社団法人 | シヤ) | ― | ― |
公益社団法人 | シヤ) | ― | ― |
なお、こうした表記方法は各金融機関で定められているため、個別の金融機関の略称を知りたい場合は、その機関のホームページを確認するか、直接電話等で確認する必要があります。
③社団法人の英語での表記および略称
社団法人の名称は英語では以下のように表現されています。
一般社団法人:General Incorporated Association
一般財団法人:General Incorporated Foundation
公益社団法人:Public Interest Incorporated Associations
公益財団法人:Public Interest Incorporated Foundation
たとえば、「一般社団法人○○」という名称の場合、英語では「General Incorporated Association ○○」と表記されるケースが多いです。具体例を挙げると、「一般社団法人 ジャパンプロモーション」の場合は、「General Incorporated Association JAPAN PROMOTION」と表記されています。
また、単に「Association」として表している法人も少なくありません。特に「一般社団法人○○協会」というような名称の場合、「協会」の英語表記が「Association」であるため、その部分に着目した表記が多く見られます。
たとえば、「一般社団法人日本暗号資産取引業協会」の場合は、「Japan Virtual and Crypto assets Exchange Association」と表記されているのです。なお、このような英語表記に関する規定(制度)はないため、ほかにも「Japanese Society for~」(独立行政法人なども使用)で表記されるケースもよく見られます。
たとえば、「一般社団法人 日本薬剤疫学会」は「Japanese Society for Pharmacoepidemiology」と表記されています。
また、英語での略称も特に規定がないため、各法人の判断で適当に使用されるケースが多いです。たとえば、「一般社団法人日本暗号資産取引業協会」の「Japan Virtual and Crypto assets Exchange Association」の場合は「JVCEA」です。主要な単語の頭文字を取って示すケースが多く見られます。
「一般社団法人 日本薬剤疫学会」の「Japanese Society for Pharmacoepidemiology」の場合は「JSPE」です。
社団法人の役職の英語表記については以下のような内容が多く見られます。
理事・役員:Board Member、Director
会長・代表理事:President、Representative Director
会長代理:President-Elect
副会長:Vice President
専務理事:Executive Director
2-3 一般社団法人の名称に関する法律
一般社団法人の名称については、「一般社団法人および一般財団法人に関する法律」の第1章総則第二節において「名称」(5条)、「一般社団法人または一般財団法人と誤認させる名称等の使用の禁止」(6・7条)、「自己の名称の使用を他人に許諾した一般社団法人または一般財団法人の責任」(8条)の定めがあります。
従って、一般社団法人の設立時にその名称を決める場合、上記の規定に基づいて検討しなければなりません。また、他の別法人等が設立時に一般社団法人に関連する名称を付ける場合は上記の規定が影響します。
①5条
5条の一般社団法人の名称に関する規定内容は以下の通りです。
第1項:「一般社団法人または一般財団法人は、その種類に従い、その名称中に一般社団法人または一般財団法人という文字を用いなければならない。」
⇒一般社団法人である場合、必ず「一般社団法人」をその名称の中に加えなければなりません。たとえば、「○○支援協会」の場合にはその名称の前に一般社団法人をつけ「一般社団法人○○支援協会」にします。
第2項:「一般社団法人は、その名称中に、一般財団法人であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。」
⇒一般社団法人であるのに、名称に「財団」という文字を使用するなど、一般財団法人と勘違いされるような名称にしてはいけません。
第3項:「一般財団法人は、その名称中に、一般社団法人であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。」
⇒一般財団法人も同様にその名称の中に「社団」というような文字を使用してはならず、一般社団法人と誤認されない名称とする必要があります。
②6条と7条
第6条:「一般社団法人または一般財団法人でない者は、その名称または商号中に、一般社団法人または一般財団法人であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。」
⇒一般社団法人または一般財団法人でない事業者等は、その名称または商号中に、一般社団法人または一般財団法人であると勘違いされやすい文字を使用してはいけません。「一般社団」や「一般財団」などの文字を使わないのが賢明です。
第7七条
第1項:「何人も、不正の目的をもって、他の一般社団法人または一般財団法人であると誤認されるおそれのある名称または商号を使用してはならない。」
⇒また、誰でも不正目的で、他の一般社団法人または一般財団法人であると誤認される可能性の高い名称または商号を使用することが禁じられています。
第2項:「前項の規定に違反する名称または商号の使用によって事業にかかる利益を侵害され、または侵害されるおそれがある一般社団法人または一般財団法人は、その利益を侵害する者または侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止または予防を請求することができる。」
⇒第1項の規定に違反する名称や商号が使用されることによって、事業に不利益が生じるか、生じる可能性がある一般社団法人または一般財団法人は、その利益を侵害する者等に侵害の停止や予防を求めることが可能です。
③8条
第8条:「自己の名称を使用して事業または営業を行うことを他人に許諾した一般社団法人または一般財団法人は、当該一般社団法人または一般財団法人が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
⇒一般法人は自身の事業等について実施することを他者に許諾することはできます。その場合、その許諾した他者と取引する者が、当該一般法人がその事業を実施する者と誤認して取引した場合、その取引で発生した債務については当該一般法人と許諾した他者とが連帯して債務の弁済を負う責任があります。
一般法人が事業を他者に許諾する場合、その他者が当該事業に関して行う取引に関して無関係では済まされない点に注意しておかねばなりません。
3 社団法人の設立、就職・転職や取引に関する重要ポイント
社団法人等を設立する場合、就職・転職する場合、取引する場合などにおいて理解しておきたい点を説明しましょう。
3-1 社団法人の設立で認識しておきたい点
社団法人等を設立・運営するにあたり事前に把握しておきたい点を紹介します。
①社団法人の設立に関するメリット
一般社団法人等が株式会社などと比べ以下のようなメリットがあるため、そうした利点を活かせるかどうかを事前に検討し設立を考えましょう。
1)一般社団法人なら設立は容易
現在の一般社団法人なら要件を満たせば都道府県等からの認可は必要なく、法務局への登記手続だけで設立できます。
つまり、一般社団法人は許認可制の対象でないため、株式会社などと同様に迅速な法人設立が可能です。加えて資本金に関する規定もないため(資本金なしの設立も可能)、資本金の払込みなどの一連の作業もなく、株式会社などと比べてより簡素な設立手続で済みあまり手間がかかりません。
同じ非営利組織のNPO法人は認証制の対象で、設立する際には行政庁の認証を得る必要があり、一般社団法人以上に設立に手間・時間がかかります。
また、設立時の機関設計や役員構成なども一般社団法人は他の法人に比べ簡素です。設立時に必要となる社員(社員総会の議決権を持つ人)が2名、理事1名ですが、理事と社員は兼任が可能であるため、最低2名存在すれば、一般社団法人は設立できます。
つまり、小規模な非営利組織を設立できるという利点が一般社団法人にあるわけです。たとえば、NPO法人の場合は、設立時において理事3名、監事1名を必ず設置しなければならず、 社員10名以上が必要になります。設立にかかる時間もNPO法人は数カ月以上かかるケースが多いですが、一般社団法人は2~3週間程度です。
2)事業内容の自由度が大きい
一般法人は、公益法人やNPO法人(20分野)のように事業分野が特定されないため、株式会社等と同様に目的や事業内容にかかる制約がなく、公益事業(公益目的事業)や共益事業(研修事業など法人の会員を対象とする事業)のほかに収益事業も行うことが可能です。
また、事業活動に関して自由な事業展開が可能で、行政に活動報告をする義務もありません。
3)税の優遇
一般法人の場合、収益事業以外は非課税になります。一般法人は非営利型の要件を満すことで、収益事業から得た所得以外については「非課税」扱いとなる税法上の優遇措置が受けられるのです。
一般社団法人は税法上、「非営利型」と「非営利型法人以外」の2種類に分けられ、「余剰金の分配を行わないことを定款に定めている」「主たる事業として収益事業を行っていない」などの要件を満たせば「非営利型」に分類されます。
非営利型の場合、物品販売業や不動産販売業など特定の34の収益事業以外の事業で生じた利益は非課税扱いです。たとえば、医療や福祉などの事業はこの34事業に入らないため、これらの事業を行う場合一般社団法人として設立すれば、この税制上の優遇が受けられます。
なお、一般社団法人として行う予定の事業について、この税制上の優遇措置が受けられそうか事前に税務署へ確認した方がよいでしょう。
4)社会的信用
法人格を有する社団法人は定款を作成し登記手続を行うことから、第3者が登記謄本により当該法人を確認できるため、その分任意団体や個人事業主以上に信用度が高いです。
また、事業の継続性の点では、任意団体等の代表者に万が一の事態が到来すれば、その組織は事業を継続することが困難とり、取引相手はその取引を断念せざるを得なくなります。しかし、社団法人等の場合は代表者に何がっても事業の継続は可能であり、任意団体等のようなリスクがありません。
加えて公益性のある事業など社会貢献に資する事業を行っているイメージが社団法人は抱かれやすいため、社会的な信用を得やすいです。
5)法人として法律行為が可能
社団法人は法人格を有するため法人名義で法律行為を行え、権利義務の主体になれます。具体的には、一般法人等の名義で事務所を借りる、契約をする、金融機関に同法人名義の口座を開設する、自動車などを購入する、といった法律行為が可能です。
個人事業主や任意団体の場合、権利義務の主体はその任意団体等の代表者などの個人になり、団体名での契約が結べないケースも珍しくありません。また、権利義務の主体のない任意団体等では、団体の財産は個人の財産と峻別し難いため、財産の流用や私物化等の問題が発生しやすく信用が劣ると見られているのです。
6)取引上で有利
民間のみならず、国や地方自治体など公的機関との取引および契約する場合、任意団体等よりも社団法人のほうが有利になり得ます。一般企業においても実態が把握しにくい団体等との直接的な取引には慎重になる可能性が小さくありません。
また、行政機関においても外部の事業者等との取引を行う場合、任意団体等では参入が困難なケースも見られるため、法人格を有する社団法人が有利になります。
7)寄付金や基金による運営
一般社団法人は資本金の拠出が不要で資本金や財産なしで設立できますが、運営には資金が必要であり社員の提供にも限界があります。そのため一般社団法人には活動資金を調達する方法として、「基金制度」が設けられているのです。
基金は、社員や社員以外の第三者から集めた法人の活動資金や財産のことで、法人の定款に基金の規定を設けることで運営することができます。なお、基金は株式会社の「出資」に該当しないため、株式会社の株主ように法人の運営に直接的な影響を受ける可能性は低いです。
つまり、一般社団法人にとっての基金は、株式会社の株式発行よりも手続が簡単で運営上の影響も少ない資金調達の手段になり得ます。ただし、基金は一定の要件のもとに返済義務を負わねばなりません。
もちろん基金を設けるかどうかは一般社団法人の判断で決定されますが、ほかにも会員から会費を徴収して運営する会員制度を設けるケースも多いです。
その場合、会員制による会員からの入会金や会費を法人活動の原資となりますが、会員のための「共益的活動」(研修等)の提供が当該法人に求められます。
また、寄付金も社団法人にとっては重要な活動資金となりますが、一般の民間事業者(株式会社等)よりも集めやすいと言われています。社団法人の種類によって寄付金の取扱が異なりますが、寄付者が個人である場合公益法人への寄付には所得税の申告時に寄付金控除が適用されます。
②一般社団法人に適した事業
一般社団法人は非営利法人で利益追求を目的としない会員制の組織等、共通する理念や目的に向けて集合した団体等であるため、以下のような事業が向いていると言えるでしょう。なお、公益法人は公益目的事業が限定されている点に注意が必要です。
事業分野としては以下のような領域が挙げれます。
●学術・芸術分野
学術研究や文化・芸術の振興(音楽や絵画等の振興)
●地域振興分野
地域の発展や街づくりのための活動
●観光分野
観光業の振興、観光名所の知名度向上の活動、地域の特産品の宣伝・広報
●医療・介護・福祉分野
障がい者の自立支援、介護支援、高齢者の健康維持・増進・生きがいづくり支援、医療学会の発展、心のケア・悩み相談
●教育分野
学習支援、資格認定事業
●スポーツ分野
スポーツ振興、
●環境保護
環境保全活動
その他、動物愛護、防災・防犯関連、など社会課題を解決するのに役立つ事業が適していますが、同窓会や自治会など営利活動とは無縁の活動(事業)を行う組織も一般社団法人として設立されるケースも多いです。
3-2 社団法人へ就職・転職する場合のポイント
社団法人へ就職・転職する場合に考慮しておきたい重要点を説明しましょう。
①一般社団法人の仕事内容や種類
一般社団法人の仕事内容は対象事業の内容などで異なってきますが、職種としては事務職が中心です。製造業関連の一般社団法人も少なくないですが、その法人が製造を直接担当するというよりはその分野の製造技術の発展や産業振興のために活動するといった形態が多く見られます。
特定分野の専門事業を担う法人の場合は、その分野の専門スキルなどが要求されるケースも多いです。たとえば、介護・福祉関係の法人の場合、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、看護師、リハビリ職などのスキルや資格を有する専門職種等がよく見られます。
こうした専門スキルを必要とする事業を除けば、一般社団法人の主な仕事は、事業やプロジェクトなどを運営・管理する仕事が多いです。事業を推進するために会員や業界関係者などをコーディネート・調整するといったケースも多く見られます。
たとえば、事業に必要なスキル等の資源を外部から調達して事業が完遂できるようにコーディネートする、といった仕事(運営・管理)などです。また、一般社団法人の会員に対する研修等や資格認定の事業などの場合は、会員や参加者を募りサービスを提供するための調整などもあります。
もちろん一般社団法人の場合でも管理業務は存在するため、経理・会計業務や総務業務は通常必要となっているほか、法人のタイプや規模によっては経営企画などの経営戦略を担う管理業務も少なくないです。
②一般社団法人の雇用形態
一般社団法人の雇用形態は、株式会社などとあまり変わりありません。具体的な形態としては、「正職員」「契約職員」「派遣職員」「パートアルバイト」などになります。一般社団法人の場合、従業員は「社員」とは呼ばず、「職員」とするケースが多いです。
従って、株式会社の正社員にあたる正職員は、その一般社団法人の事業の業務を遂行する中心人材ですが、規模の小さな法人の場合は複数の業務を兼務するケースが多く見られます。
また、一般社団法人でも総合職や専門職の職群制度を採用しているケースも多いです。専門職の場合特定スキルや資格を有する者が対象となり、そのスキルを活かした業務に従事することになります。総合職でも同等のスキル等が求められることは多いですが、仕事としては事務や管理業務などを担当・兼務するケースがよく見られます。
③一般社団法人等の給与水準
社団法人の給与水準は、一般の民間企業と同様に規模や業界・業種等に応じて様々です。一般的に規模の大きい社団法人の給与のほうが高い傾向が見られますが、設立を支援している背後の業界などの違いにより異なってきます。
なお、求人広告では以下のような年収例が確認できます。
・中小企業向け福祉厚生サービス事業の一般財団法人の年収例
⇒35歳 約660万円
仕事内容:福利厚生やケガの補償に関するサービスの企業への提案営業
・フリースクールを運営する一般社団法人の年収例
⇒管理職・49歳・入所3年目 700万円
支援スタッフ・35歳・入所3年目 440万円
支援スタッフ・22歳・入所1年目 300万円
仕事内容:フリースクール運営のスタッフ
・政策の研究や提言を行うシンクタンクの公益財団法人の年収例
⇒30代後半(月給38万円) 600万円(賞与・残業代を含む)
仕事内容:世界の大学に向けた奨学金の運用・管理・企画営業
④社団法人に就職する・勤務する場合のメリット
社団法人の規模や、一般法人と公益法人といった違いがあるため、各法人により差がありますが、一般的に就職・勤務する上で以下のようなメリットが期待できます。
1)ノルマなどの成果に対する要求が低い
一般企業の中には業務成果の達成が重視され、仕事にノルマが課されるケースが多いですが、社団法人の場合は相対的にノルマなどの要求が低いです。
もちろん一般社団法人の中にも事業の成果を重視する法人はありますが、社会課題の解決、業界の発展、地域の振興、住民・会員の心身の健康増進や福利厚生の提供、などが業務である場合、業務に過度なノルマなどが課されることはありません。
2)やりがいを感じやすい
社団法人が公益性のある仕事を行い、社会に貢献する事業に携わる組織である場合、その業務を担う職員は社会貢献に役立つ仕事に従事することになります。社会貢献を重視する方ならこうした社団法人での仕事はやりがいがあると感じやすいはずです。
もちろん会員向けサービスの提供を主要な業務とする一般社団法人などでは直接的な社会貢献に従事しているとは限りません。しかし、その会員の団体等(たとえば、特定の学術研究等)が社会に貢献する仕事をしていれば、その法人は彼らをサポートすることで間接的に社会貢献していることになります。
3)ワークライフバランスを形成しやすい
これも社団法人により異なりますが、一般の企業と比べると社団法人の場合は残業が少なく休日も確保しやすいため、ワークライフバランスを形成し維持しやすいです。
特に事業の運営・管理や調整、会員向け研修や福利厚生サービスの提供、などの業務では仕事量があまり多くならない傾向があるため、極端な残業も発生しにくく仕事の後の時間を有効に活用しやすくなります。
一般の企業では、仕事に追われてプライベートの時間が脅かされるといったケースも少なくないですが、社団法人の場合はその可能性が低いです。
4)経営や雇用・処遇が安定しているケースも少なくない
小規模な一般社団法人などの場合、その財政基盤は決して良好と言えないケースも多いですが、経営・財政基盤が安定していて雇用や処遇の条件が一般の民間企業等と比べて見劣りしない法人も少なくありません。
たとえば、自動車工業会などの業界団体が会員となっている法人などは会員数が多く経営基盤が安定しています。また、学術分野の学会関係の法人も会員数が多いほか関係各所からの寄付も多く良好な財政状況を維持する法人も少なくありません。
ほかにも地方公務員等の組合が会員となっている法人や行政との繋がりのある公益法人などはさらに経営が安定しており、雇用条件や処遇条件などは公務員や公的機関の水準に近いケースも見られます。
⑤社団法人の求人募集・採用面接等での注意点
社団法人に就職・転職する場合に名称、略称や表記方法などで注意しておきたい点を説明しましょう。
1)求人票での確認
求人募集している組織が社団法人であるかどうかを確認することが不可欠です。たとえば、「○○工業会サポートセンター」「○○中小企業支援協会」といった名称の組織の場合、一般社団法人などとして設立されているケースも多いですが、実際はただの任意団体ということもあります。
求人票などでは株式会社は「(株)」、一般社団法人は「(一社)」と略語が使われることも多いですが、こうした略語があるか、社団法人の略語であるか、を確認しておくことが重要です。
先に示した通り、法律では社団法人と誤認させるような表記や、社団法人でない者がそれを名乗ることは許されないですが、多少勘違いしやすい表記もあり得るため注意しましょう。
2)履歴書と面接での敬称等の扱い
前に触れましたが、社団法人の敬称に関しては、話し言葉と書き言葉では扱いが異なってきます。履歴書の提出や面接などのフォーマルな場面では、相手の団体名に対しては敬称で示す必要があり、以下のように取扱うのが賢明です。
面接などの会話においては、話し言葉として使用されることの多い「御○○」が優先される傾向があります。株式会社を対象とする場合は「御社」となりますが、社団法人の場合は「御○○」という使い方になります。
たとえば、「御法人」や「御財団」という敬称になりますが、具体的な名称の一部を対象とするケースも多いです。具体的には「一般社団法人○○支援機構」の場合は「御機構」、「一般社団法人○○振興協会」の場合は「御協会」といった呼称になります。
なお、「貴社」などの「貴○○」が会話で使われるケースもよく見かけられますが、貴社には「記者」「帰社」「汽車」などの同音異義語があるため、会話では「御○○」を使用するのが良いとされているのです。
面接などでこうした細かな点を気にする面接官や審査担当者などがいないとも限らないため不利になるのを避けるには、使い分けを心掛けた方がよいでしょう。
なお、履歴書など文字にする場合は「貴○○」を使用するのが一般的です。文字の場合、貴社のように同音異義語が出てくるケースでも文字であるため、誤解される可能性が低く一般的に「貴」が使用されています。
使い方としては、「貴法人」「貴団体」「貴協会」「貴センター」といった形態です。「一般社団法人○○支援協会」といった名称の場合、「貴法人」を使っても「貴協会」と記しても問題ありません。
就職等の履歴書だけでなく、取引における連絡書や契約書やメールなどにおいても相手に失礼とならないようにできるだけ正確に使い分けるようにしましょう。
4 まとめ
現在、法的に「社団法人」そのものの名称で存在する組織は存在しませんが、一般的に「一般社団法人」「一般財団法人」「公益社団法人」「公益財団法人」が社団法人として見られることも多いです(社団法人と財団法人とに分けて認識されることも多い)。
これらの社団法人は、株式会社などの会社組織ではないため、特定の略称、敬称や表記方法が使用されることも多いため注意しておく必要があります。特に就職での応募・面接やビジネス上の取引等において、文章と会話で敬称等を使い分けることが重要です。
ビジネスを円滑に進めめ、就職で不利にならないためにも、社団法人の特徴や略称・敬称などを扱えるようになることが大切です。