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会社設立時からでも活用できる「クラウドサービスの利用と導入の進め方」

現代のビジネスでは情報を制することが成功に直結し得るため、業務のIT化が益々重要になってきました。他方、企業が高度なITシステムを自身の資源で導入し運用するのは負担が大きく容易ではありません。そうした中、企業のIT化に貢献するクラウドサービス導入の動きが強まってきました。

今回はクラウドサービスを取り上げ、その特徴、企業が導入する背景、導入のメリット・デメリット、活用事例のほか、クラウドサービスを導入する際の進め方およびそのポイントなどを解説していきます。

クラウドサービス導入の重要点を知りたい方、クラウドサービスの活用で業務の効率化やイノベーションに取り組みたい方は、参考にしてみてください。

1 クラウドサービスの概要

クラウドサービスの概要

「クラウド」とは、「クラウドコンピューティング(Cloud Computing)」を略した用語です。具体的には、データやアプリケーション等のコンピューター資源をネットワーク経由で使用する仕組みを指します。

また、大規模データセンターにおいて仮想化等の技術を使用してコンピューターの機能(後述する「IaaS」「PaaS」や「SaaS」等)を準備し、それをインターネット経由で柔軟に利用する仕組みが「クラウド」である、と言えるでしょう。

現代では、スマートフォンや携帯電話を使用して、日常的にメールの受送信やゲームを普通に行っていますが、これらのアプリケーションは、スマートフォンや携帯電話上だけで動作しているわけではありません。

ネットワークで繋がっているデータセンターのサーバーやストレージ、各種のソフトウェアなどが連携した仕組みにより、その電子メールやゲームなどの「サービス」が提供されているのです。

つまり、ネットワークに繋がったPC・スマートフォン、携帯電話などにサービスを提供しているコンピューター環境(インターネットに接続することで様々なコンピューターやアプリケーションが使える環境)が「クラウド」と言えます。

「クラウドサービス」とは、クラウドコンピューティングに基づいて、サービスとして実現(提供)されるIT機能のことです。つまり、「クラウドコンピューティングによるサービス」が「クラウドサービス」で、それを提供する事業者は「クラウド事業者」と呼ばれています。

クラウドサービスのタイプは、構成要素で大別すると、以下の3種類です。

クラウドサービスのタイプ

1-1 IaaS(Infrastructure as a Service)

IaaSは、コンピューター、ストレージ、ネットワークなどのハードウェアが担う機能を提供するサービス(ハード基盤機能の提供)のことです。この機能の実現に重要な役割を果たしているのが、物理的なコンピューター機器を疑似的に分割や統合するなどの「仮想化」の技術になります。

仮想化技術により、ユーザーの要求に対し、利用するコンピューター資源を自動的に増減することが可能となり、運用の自動化や効率化に役立っています。なお、IaaSは主にデベロッパー向けに仮想マシンを提供するクラウドサービスとして使用されるケースが多いです。

1-2 PaaS(Platform as a Service)

PaaSは、アプリケーション(ソフトウェア)を開発したり実行したりするためのツール(サーバーソフトウェア)やプラットフォーム(環境)を提供するサービスのことで、プログラミング環境やデータベースなどの機能をネットワーク経由で利用できるようにします。

昨今のPaaSでは、データ分析やAI(人工知能)などの最新技術が組み込まれ、新ビジネスの開発、人手不足の問題を解決するための自動化の開発などに活用されているのです。

1-3 SaaS(Software as a Service)

SaaSは、エンドユーザー向けにアプリケーションが有する機能をネットワーク経由で提供するサービスのことで、業種/業務別アプリケーションから、SNS(Social Networking Service)やメールのようなコミュニケーションツールなどまで多様なタイプがあります。

現代では各種の多数のクラウドサービスがクラウド事業者から提供されるようになりました。そのため企業等は自社のニーズに適したサービスを選択し、それを活用して業務改善を推進するといった利用が可能になっているのです。

利用料金は一般的に利用時間や利用量に比例する形態が多く、月額固定方式や年額制のケースもあります。利用しやすい料金体系が多くなっており、実際に一度使用してみて、そのクラウドサービスの適否を評価して本採用するといった利用方法も多いです。

クラウド事業者の中には、試用期間の設定、少人数利用に対する無償サービスの提供、機能限定版の無料提供などを行っているケースも見られます。業務アプリケーションは実際の利用で判断する必要もあるため、試用の機会が得られるようにクラウド事業者に相談することが重要です。

では、クラウドサービスが利用される代表的な用途を紹介しましょう。

●電子メール

この電子メールサービスは「クラウドメール」と呼ばれ、メールサーバーをクラウド環境において、Web上で送受信を行うメールシステムのことです。代表的なクラウドメールとしては、「Gmail」や「Yahoo!メール」が挙げられます。

クラウドメールの場合、自社でメールサーバーを保有しない形態であるため、機器の費用やメールソフトの費用を軽減することが可能です。また、サービスの管理・運用は事業者が行うため、自社のシステム管理負担は大幅に軽減されます。

スパムフィルタリングやウイルスチェックなどのセキュリティ対策もクラウド事業者側で実施するケースが多いため、その場合自社での対策負担は小さくなるわけです。また、高度なセキュリティ対策が提供されるケースも少なくありません。

クラウドメールのメールボックスの容量は大きく、通常の電子メールシステムのような容量不足を心配する可能性は小さくなるでしょう。また、クラウドメールの場合、インターネットに繋がる環境なら、世界中どこからでも、メールの閲覧や送信が可能になり仕事の機動性も向上します。

通常の電子メールシステムでは、どのPCでもメールが利用できるわけではありません。たとえば、メールの送受信のための特殊な設定をしたメールクライアントソフトをインストールしたPCを使用しないと、メール自体の利用ができないことが多いです。クラウドメールならこうした制約を受けません。

●経営管理アプリケーション

財務会計、税務計算、給与計算、人事管理、顧客管理といった経営管理のためのアプリケーションがクラウドサービスとして提供されています。

専用のサーバーや端末が不要で、ソフトウェアのインストールやアップデートも必要ないため、それらに要する初期投資や維持管理の負担もありません。ウェブブラウザから簡単な設定で利用することができ、使用可能な端末や場所が増加するため、業務効率の向上に繋がります。

これまで自社でITシステムの導入に伴う資金やその管理運用の負担から、各種の業務のIT化ができなかった中小企業等でも、クラウドサービスの利用によりIT化が容易になってきたのです。

●事務処理系ソフトウェア

オフィスアプリケーションやデスクトップアプリケーションなどと呼ばれる事務処理系ソフトウェアの機能を提供するクラウドサービスがあります。

たとえば、電子メール、ワードプロセッサ、表計算などの一般的な事務処理アプリケーションのほか、グループウェア、営業管理ツールのような社内における情報共有や連絡調整を自動化するアプリケーション等を会社のPCにインストールしなくても、それらの機能だけをクラウドサービスとして利用できます。

それらを利用すれば、個別のPCにアプリケーションをインストールしたり、情報共有のためのサーバーを設置したりするといった手間やコストが不要になり、ライセンス料を節約することも可能です。

アップデートやセキュリティパッチの適用といった行為も、専門知識・技能を有するクラウド事業者で実施されるため、不安も少なく手軽にそれらのアプリケーションが利用できます。

また、クラウドサービスの事務処理ソフトで作成したファイルをクラウド上で保存すれば、複数の担当者や部署の間で共有でき、共同作業も容易に実施できるようになるでしょう。

*ファイルサーバー等を提供するクラウドサービスもあります。

1-4 クラウドサービスの利用状況

株式会社社長のきもちは、従業員数300人以下の中小企業経営者を対象とした「「経営におけるクラウドサービスの課題」に関する調査を実施し、以下のような結果を公表しています。

●「現在社内で利用しているクラウドサービスを教えてください(複数回答可)

結果は、「Webメール(46.5%)」が最多で、次いで「クラウドサービスは利用していない(32.0%)」「会計システム・経理システム(20.9%)」「オンラインストレージ・ファイル共有サービス(20.6%)」「Web会議システム(16.9%)」「給与計算システム(12.5%)」という内容でした。

「クラウドサービスは利用していない」という企業が少なくないものの、半数近くの企業が「Webメール」を利用しており、「会計システム・経理システム」「オンラインストレージ・ファイル共有サービス」の利用は2割を超えており、様々なクラウドサービスの利用が進んできているのがわかります。

その他の項目は、以下の通りです。

  • 「営業・顧客管理システム(11.7%)」
  • 「ビジネスチャット(10.4%)」
  • 「ネットワークセキュリティ・ウイルス対策システム(9.8%)」
  • 「勤怠管理システム(8.3%)」
  • 「文書管理システム(7.4%)」
  • 「在庫・生産管理システム(6.9%)」
  • 「eラーニングシステム(4.8%)」
  • 「安否確認システム(3.8%)」
  • 「プロジェクト管理システム(3.6%)」

●「クラウドサービスを利用している理由を教えてください」

結果は、「簡単に導入できるため(54.1%)」の回答が最多で、次いで「運用が楽なため(37.8%)」「コストが削減できるため(29.5%)」「自社に必要な機能だけを選択できるため(20.9%)」「リモートワークに対応できるため(15.0%)」「従量課金で使えるため(12.0%)」と続いています。

クラウドサービスを利用すれば、導入や運用におけるIT人材の確保の負担が軽減されIT化の導入が楽になる、という点が最大の理由と言えそうです。また、導入や運用にかかるコスト負担の軽減や必要なだけ利用できるといった利便性も評価されています。

加えてリモートワークへの対応は、今後も導入の理由になる可能性が高いです。

1-5 クラウドサービスが注目される背景

クラウドサービスが注目される背景としては、以下のような点が挙げられます。

1)ITの進化と情報を必要とするビジネスの進展

科学技術の発展に伴い情報通信技術分野も著しい速度で進化を続けており、情報収集・分析、販売促進や商品開発、などのマーケティング活動のほか、設計、生産、購買、会計や物流など企業活動全般でIT化が進んでいます。

消費者や顧客等の行動やニーズなどの情報、企業が活動した結果などがデータとして収集・分析され業務に反映されるようになっており、データの質・量・スピードがビジネスでの成否を分けるようになってきたのです。

つまり、ビジネスにおいて適切なIT化を進めることが企業の成長に繋がるため、企業はIT投資を行い適切に運用することが求められています。しかし、経営環境に適したIT化を実施するためには多額の資金と人材を確保する必要がありますが、資源に余裕のない中小企業等には負担が大きいです。

クラウドサービスは、こうした現在のビジネス環境が要求する高度なIT化への対応と、ITの投資・運用での負担軽減を実現するものとして期待されています。

2)業務環境および労働環境の変化

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、その防止の観点から企業での業務および労働の環境が大きく変化してきました。人と人との接触を極力回避するために、リモートワークの導入が増加するなど企業での業務の仕方や働き方が変化してきたのです。

従来のオンプレミス運用(情報システム等の資源を自社で保有し運用する形態)では、社内システムにアクセスして業務を行うために会社へ出社する必要があります。しかし、クラウドサービスを利用すれば、場所を問わずに業務を遂行することが可能です。

クラウドサービスでは、インターネット回線から社内ネットワークへアクセスできるため、インターネットが利用できる場所ならどこでも仕事ができるようになります。なお、データへのアクセス権限の制限など情報漏えいや不正アクセスに対するセキュリティ対策を行うことも可能です。

3)ビジネスの変化

ITの発展は社会に大きな変化をもたらし、人々の生活を変え消費者ニーズの多様化を加速させてきました。特にWEBサイトやSNSによる消費者の購買行動への影響が大きく、これらの情報に対応したビジネスシステムの構築が重要になっています。

日々変化し、新たなニーズが誕生する現代においては、それに対応できる柔軟なビジネスシステムが必要であり、それに対応するための情報システムの構築・運用が不可欠となっているのです。

しかし、従来のオンプレミスの運用では、資金や人材などの面で柔軟な対応が困難であるため、そうした面を補うものとしてクラウドサービスの利用が広がっています。

2 クラウドサービス導入のメリット・デメリット

クラウドサービス導入のメリット・デメリット

企業がクラウドサービスを導入する場合のプラス効果とマイナス効果を確認しましょう。

2-1 クラウドサービス導入のプラス面

平成30年度版 情報通信白書」第1部第3節(2)「クラウドサービスの効果と課題」から「企業がクラウドサービスを利用して得られる効果」を説明します。

クラウドサービス導入のメリット

1)システム構築の迅速さ・拡張の容易さ

具体的な内容は以下の通りです。

  • ・ハードウェアを調達する必要がなくなる
  • ・利用容量に応じて自動的にリソースが割り当てられて課金する仕組みである

⇒以上の特徴からクラウド上のサービス利用は資金の負担が軽く、システムの構築や容量を拡張する際の迅速性や拡張性に優れており、機能を充実させやすいというメリットがあります。

2)初期費用・運用費用の削減

クラウドサービスの導入により、自社で情報システムを所有しないで済み、初期費用や減価償却コストを削減することが可能です。また、システムの保守運用はクラウド事業者に委ねられるため、それらに関する費用も削減できるといったメリットが得られます。

3)可用性の向上

クラウドサービスでは、セキュリティ対策やシステムの冗長化・バックアップについてはクラウド事業者が行うため、自社サーバーだけで運用する場合に比較して可用性が向上する、という効果が得られます。

なお、可用性(Availability)は、機器やパーツの故障・災害・アクシデントといった障害でシステムを停止させることなく稼働し続ける能力・度合い、その指標のことです。

つまり、可用性が高いとは、めったな障害ではシステムが停止しないという信頼性の高いシステムを意味します。クラウドサービスを利用することで可用性の高いシステムを業務で活用することが可能になるのです。

4)利便性の向上

クラウドサービスは、インターネット環境であれば場所や利用する端末に関係なく業務システムを利用できるようにするため、従業員にとっては「業務システムの利便性が向上する」ことに繋がります。

社外で主に勤務する営業担当者や工事作業担当者などが事務所以外の場所で事務作業ができるほか、事務職全般でのリモートワークの推進にもこの効果が役立つのです。

2-2 クラウドサービス導入のマイナス面

クラウドサービスのデメリットについて簡単に説明しましょう。

クラウドサービス導入のデメリット

1)カスタマイズに制限あり

クラウド環境については、クラウド事業者が提供するプランや契約内容の制約を受けることになるため、ユーザーが希望するようなカスタマイズが実現できるとは限りません。

クラウドサービスでは、ハードウェアベンダーや機種に対する細かい指定、ネットワークのチューニング(効率化・遅延の抑制等)、などを強く要望することは難しく、オンプレミス運用に比べ劣る可能性が高いです。つまり、自社が希望する最適なシステムの構築や運用ができないケースが少なくないのです。

2)クラウド事業者への依存リスク

クラウド環境を単一のクラウド事業者に委ねると、他サービス・他システムへの乗換えが困難になり、システムにおける柔軟性が喪失する恐れが生じます。また、クラウド事業側で大規模なシステム障害が発生した場合、その影響はユーザーに及ぶことになるのです。

たとえば、クラウド事業者のサーバーでトラブルが発生して停止したら、その間のサービス提供は受けられなくなります。自社が保有する情報システムで障害が発生するように、クラウド事業者においても故障・障害というリスクがゼロになるわけではありません。

3)セキュリティ強度のコントロールが困難

クラウド環境のセキュリティ強度は、クラウド事業者に依存します。つまり、情報システムのセキュリティ対策はクラウド事業者任せになり、ユーザーは委ねることになってしまうのです。

ただし、現代のクラウドサービスはセキュリティ強度が格段に向上しており、自社でシステムを構えてセキュリティ対策をするよりも安全度を高めつつ、費用・手間を抑えることも不可能ではありません。

3 クラウドサービスの活用事例

クラウドサービスの活用事例

ここではクラウドサービスがどのように利用されているかを紹介しましょう。

3-1 「攻めのICT投資」の状況

平成30年度版 情報通信白書」第1部第3節(3)「クラウドサービスの導入事例」では、クラウドサービスを「攻めのICT投資」として利用した事例が説明されており、今後の導入の参考になるはずです。

1)中小企業における導入

中小企業で「攻め」のICT投資として実施されたクラウドサービスの導入は、3つの段階を経て進められています。

第1段階は社内業務の効率化です。中小企業では、情報を紙で管理するケースや、PCを利用しもエクセルの利用に留まっているケースが多く見られます。

しかし、クラウドサービスを導入することで、書類作成時間が削減する、エクセルに入力していた情報(予約情報等)を顧客にウェブ上で入力してもらえる、などが実現されて業務効率の向上が期待できるようになるのです。

第2段階は社内の見える化です。クラウドサービスの導入により、紙や表計算ソフトで個人的に管理されていた情報がクラウド上で集約されるようになり、情報の見える化が進みます。

この段階になると、以前では把握できなかった業務の無駄を見つけ改善し効率化を進めることができるのです。たとえば、飲食店においては、予約状況と食材在庫状況が正確にわかれば無駄のない準備が可能になります。

さらに顧客情報や自社のリソースの稼働状況を分析してより付加価値の高いサービスを提供する、といったことも可能になるのです。

第3段階はビジネスモデルの変革になります。たとえば、クラウド上に構築したソリューションを同業者に提供して新たな収益とすることができ、本業とは別の新たな事業展開へと発展させることが可能です。

図表3-3-2-8 中小企業におけるクラウドサービスの利用の段階

中小企業におけるクラウドサービスの利用の段階

2)スタートアップにおける導入

スタートアップは資金や社員などの経営資源が脆弱であるため、自社で情報インフラを構築し事業化に足る可用性を確保することは容易ではありません。

さらに、一般的にスタートアップは競合が少ない市場を志向するケースが多く、開業後には直ぐに顧客へ商品・サービスを提供することになるため、サービスイン(顧客に向けて新しいサービスを開始すること)までの時間を短縮する必要があります。

また、サービスインの後も顧客の数に応じてリソースや機能を柔軟に拡張していくことが求められます。こうした状況に対応するため、スタートアップでは最初からクラウドサービスを利用して事業を展開する事例が多いです。

3)大企業の新規事業立ち上げにおける導入

大企業では既に社内システムが導入されているケースが多いですが、その社内システムをそのまま新規事業の立ち上げに利用できるとは限りません。その理由として、3つの点が挙げられます。

1点目は、既存システムの改修コストです。既に存在する社内システムは自社の既存業務のために構築されているため、新規事業の立ち上げには新たな機能等の追加に迫られます。

その一方で、顧客情報等、既存システムのデータを利用することから既存システムとの連携は必要です。こうした場合、現在の社内システムへの影響等を評価した上で改修を行う必要があるため、コストや時間がかかります。

2点目は新規事業の性質です。今後、AI・IoTを利活用した新規事業の増大が予想されますが、新規事業のスケールについての事前判断が容易でないため、既存システムの拡張では対応できない可能性が低くありません。

3点目は既存事業と新規事業のスピード感の差です。スタートアップの場合と同様、新規事業では競合がない(あるいは少ない)市場を志向するため、迅速なサービスインが求められます。

実際に新規事業においてクラウドを導入した例では、オンプレミスで構築するよりも2カ月以上早いサービスインの事例があるのです。

3-2 クラウドサービスの導入事例

ここでは企業の具体的なクラウドサービスの活用事例を紹介しましょう。

1)お金をかけない身の丈DX

出展:全国中小企業クラウド実践大賞の「2021年度大会レポート(関東・甲信越大会)」

吉田運送株式会社

引用:「吉田運送株式会社」公式HP

●会社概要

  • 会社名:吉田運送株式会社
  • 所在地:茨城県坂東市半谷224-15
  • 従業員数:70名
  • 事業内容:一般貨物運送事業、コンテナラウンドユース事業、コンテナデポ運営、コンテナ販売

●企業の経営課題

同社はコンテナラウンドユース(内陸コンテナターミナルを活用した空いたコンテナの往復・継続利用)事業に取り組んで、物流業界における輸送コストの削減やCO2排出量の削減などに貢献しています。

しかし、この事業では、船会社との連絡に関して主にFAXが利用され、陸送会社とのやり取りも含めてスピードや正確さに問題のある業務が行われていました。

こうした状況を改善するために、同社は無料クラウドサービスの活用によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に取り組まれたのです。

●導入したクラウドサービスの内容と事業への活用内容

・船会社との連絡事項は、FAXからGoogleスプレッドシートを利用した業務フローに変更

同社は、Googleスプレッドシートで情報共有できるように業務フローを変更しました。運送依頼者である荷主や、ラウンドユースで陸送を担当する運送会社との連絡について、Googleフォームが利用されたのです。

Googleフォームという簡単な入力フォームの提供により、ほとんどの協力会社で無理なく利用されるようになり、迅速正確なやり取りが可能になっています。

・物流情報のGoogleマイマップ利用

積荷場所、目的地、荷物の内容などのデータを蓄積し、Googleマイマップでの可視化が実施されました。大手の船会社でも対応できていなかった、大陸でのコンテナの動きの見える化が実現されたのです。

・管理ドライバーの手間を最小化したオペレーションの徹底

ドライバーとの伝票のやり取りは、コンテナに貼り付けられた伝票をドライバーがスマホで撮影し、Googleドライブにアップするという方法がとられました。

その写真データを同社のオペレーターがOCR変換で読み込み、Google翻訳も利用しつつ、データベースに入力します。この業務フローでドライバーの手間を軽減し、データの正確な取り扱いが可能になっています。

●クラウドサービス導入の効果

・労働時間の削減

事務と現場のスタッフ間の業務におけるクラウド化で、現場と行き来する実伝票の受渡し時間が1日・1名当たり0.5時間削減され、1年で132時間の削減が可能となりました。

その結果、全体の業務効率化による労働時間の短縮は1年間で792時間の削減に至ります。

・コンテナ搬出入の時間の削減

クラウド化による港湾事業者との連携によりコンテナ搬出入の時間(車両数10台分)については、1年あたり2640時間の削減が可能です。

・波及効果

この同社の業務効率化の影響は関係会社等にもおよびます。関係各社も業務効率の向上に繋がり、それによる港の混雑緩和や残業の削減のほか、働き方改革に直接的に貢献しているのです。また、港の混雑緩和やCO2の削減にも有効な取組として評価されています。

●クラウドサービス導入におけるポイント

同社では、上記システムの導入にあたり、経営者が企業向けGoogleサービス活用講座で一年間学習しています。この学習を元に、経営者と幹部クラスとで活用法について検討が重ねられ、実施へと進んでいきました。

経営者が導入するクラウドサービスの内容に関する知識を得て理解し、それを社内で共有し活用できるように取組んだ点が成功の源になっています。また、考案したシステムを従業員や関係会社で確認しつつ進めた点は、サービス導入の効果に繋がっているはずです。

2)クラウド・DXで変化する弔いの形と成熟産業の社内システム

出展:全国中小企業クラウド実践大賞の「2021年度大会レポート(関東・甲信越大会)」

株式会社つばさ公益社

引用:「株式会社つばさ公益社」公式HP

●会社概要

●企業の経営課題

「葬式は不透明で高い」というイメージを払拭するために、同社は経営課題として「低価格を無理なく継続できる経営」を掲げられています。

地域には老舗のガリバー企業が多く存在し、小規模な企業が生き残っていくには、低価格を無理なく継続できる必要があるとして、「誰にでも使いやすく」「働く環境をより良く」「多拠点で離れて働く」の3つを条件にクラウド活用を推進されました。

葬祭業は電話・FAXによる業務が主体で紙や手書きの多い職場であるため、クラウド活用によりこの業務を効率化することで課題の解決が図られたのです。

●導入したクラウドサービスの内容と事業への活用内容

・クラウド活用の条件

(1)誰にでも使いやすく

同社では22歳から69歳までの幅広い年齢層の人が働いており、シンプルで迷わないユーザー体験が可能なシステムが検討されました。

(2)働く環境をより良く

葬儀社は24時間体制で働くことが多く、結果的にブラックになりやすい業態であるため、同社は週休3日制への移行を決め、この環境づくりに貢献するクラウド活用を検討されたのです。

(3)他拠点で離れて働く

同社には5つの拠点があり、多拠点で働く形態では多くの課題を抱えることになるため、それを解決するための、スマホで完結するオペレーションが必要と考え、そのためのクラウド活用が進められました。そのスマホ完結オペレーションの主な内容は以下の通りです。

  • ・顧客管理・業務管理ポータルシステムではTrelloが中心となった仕組みを考案
  • ・葬祭業界では、お客情報とリンクしている各々の発注やその履歴の情報は、まだFAXがメインで使われているのが現状。しかし、同社は電子FAXと業務管理ポータルを連携し、スマホ一つで簡単に発注できたり、他の担当者が行った発注履歴を検索できたり、アップデートを確認できるよう取り組む
  • ・並行して、メール発注にも対応できるようにし、またGoogleWorkspace(グループウェアとして利用可能な組織向けのオンライン・アプリケーションセット)を利用して、多種多様な情報をスマホネイティブ環境で利用できるようする
  • ・出退勤、モバイルレジ、見積もりの請求管理や発行はSquareやfreeeを使用して管理し、モバイルで完結できる仕組みで運用
  • ・日報管理についてはNotionを利用し、社内情報やマニュアルはConnectやSlackなどを利用
  • ・電話は、クラウドPBX(電話交換機を、インターネット上に用意したサービス)を利用。電話がかかってきた時に、相手の名前や着信履歴を確認できるCTI機能が働くため、お客のニーズに沿った電話対応が可能となる

・店舗の無人化

カメラやセンサー類を利用した店舗の無人化に向けたクラウド型の遠隔接客を進める

●クラウドサービス導入の効果

同社はクラウド化推進により、従来に比べて固定費を43%削減し、人材育成期間を4分の1へ削減することに成功しました。スマホ1台で店舗管理が可能となり管理コストが従来の1/10以下に改善されたのです。

また、週休3日制を定着させ、有休消化率は100%の達成となっています。加えて全社の30%以上のスタッフが自由出勤を実施しており、テレワークによる会社以外の場所での働き方が実現されました。

●クラウドサービス導入におけるポイント

経営課題の解決のためにクラウドの利用や条件を明確にして導入を進めた点が成功に繋がっています。

クラウドサービス導入を含めたIT化やそのための投資を行う場合、それらが自社の経営課題を解決する上でどう活用でき、どのような効果をもたらすか、という点を明確にすることが重要です。

3)業務改革のためのペーパーレス化

出展:全国中小企業クラウド実践大賞の「2021年度大会レポート(近畿・中国・四国大会)」

ヒロボー株式会社

引用:「ヒロボー株式会社」公式HP

●会社概要

  • 会社名:ヒロボー株式会社
  • 所在地:広島県府中市桜が丘三丁目3番地1
  • 従業員数:92人
  • 事業内容:ラジコン・RCヘリコプター、ホビー製品、産業用無人ヘリコプター、UAV、ロボット設備、樹脂成形品の製造・販売

●企業の経営課題

同社では、サーバーの老朽化に伴う更新の必要性に迫られていましたが、その更新費用は高額な上、維持・メンテのための専門スタッフを確保しなければないという問題がありました。

その一方で、従来の情報システムでは、情報の全てが紙に印刷・回覧され、確認や承認の後でファイリングするという非効率な業務フローが行われており、これまでの業務を続けることは、大きな時間と経費のロスになる、と認識されていたのです。

そのため、サーバーの老朽化への対応として、情報をクラウド上に格納することからはじめ、業務改善に向けたペーパーレス化を進めることが検討されました。

●導入したクラウドサービスの内容と事業への活用内容

・環境づくり

2019年に、社長自ら「完全ペーパーレス化を実施する」と号令を発し、幹部社員にiPadが配布されています。これと並行して、社内サーバーやパソコン内のデータが、Dropbox(クラウドストレージ)へ移行され始めました。

次に従業員全員にスマホ補助金が支給されています。モバイルを使えることが業務等での情報伝達で必要となるため、スマホ導入を促し使用方法を教え合う雰囲気づくりにも取り組まれました。

・データの活用

データを活用するシステムは、Kintone(業務アプリ構築クラウドサービス)を導入し、同社でアプリを作るようにされています。同社の松坂社長が、自らアプリを作成するほか、従業員への指導を行い、従業員全員で日常業務のアプリ化に取り組んだのです。

アプリの一例としては、

  • ・情報の共有化に役立っている「日報」
  • ・劇的な業務時間短縮(決済までの時間短縮に有効)を実現した「ワークフロー申請アプリ」
  • ・今まで紙で運用していた給与明細や労務データなど社員の個人情報をスマホから確認・編集できる「My Dataアプリ」

などの便利なアプリが次々と誕生し、現在では80以上のアプリが稼働しています。

アプリ以外でも、メールの情報共有やE-Gov電子申請など、ペーパーレス化やシステム化が進展しています。

●クラウドサービス導入の効果

同社では社内サーバーからDropboxへデータを移行し、時間や場所に制限されない情報共有が実現されました。その情報共有にもクラウドサービスが利用され、データの活用により業務改革へと繋げられています。なお、ペーパーレス化という点では、現在32%の減少を実現されました。

●クラウドサービス導入におけるポイント

・自社の状況にあったIT化の推進

同社はIT化を進めるにあたり、書類によって進められる業務フローの問題を認識したとともに自社のIT化の程度(ITの活用度合いや社員の情報リテラシの程度等)を把握し、その状況にあったレベルのIT化から始め、成果を得ています。

自社の状況にあったIT化やクラウドサービスの活用から進めて行き、次のレベルへと発展させることが重要です。

・従業員の理解を得た導入

新たな情報システムを活用した業務フローを導入していく場合、情報端末などの操作に疎い社員の理解と協力がその成功のカギになります。iPadの配布やスマホ補助金の支給といった施策のほか、スマホなどの機器の使い方を社員同士で教え合うといった状況を作り出すことも会社の重要な役割になるでしょう。

4)街のパン屋さんの働き方改革・DX対応

出展:全国中小企業クラウド実践大賞の「2021年度大会レポート(吸収・沖縄大会)

いまいパン合同会社

引用:「いまいパン合同会社」公式HP

●会社概要

  • 会社名:いまいパン合同会社
  • 所在地:沖縄県那覇市真地12-4
  • 従業員数:28名
  • 事業内容:パン・ケーキ・焼き菓子の製造販売

●企業の経営課題

製パン業界では薄利多売のビジネスモデルが多く、原料費や人件費などの固定費の増大が利益の悪化に直結する構造で、同社も同じ状況でした。そのため同社では、利益率の高い商品開発、内部効率化と商品の値上げなどの対策が必要な状況となっていたのです。

また、本土から人気のパン屋が沖縄に進出したり、大手コンビニとお客を奪い合いあったりなど、業界での競争は厳しく、認知度の向上が必要でした。労働面に目を向けると、長時間労働が常態化しており、採用難・定着率向上が課題となっています。

こうした課題を踏まえ、同社は以下のような目標を立てられました。

  1. (1)利益率の高い商品開発
  2. (2)いまいパンの認知度向上
  3. (3)内部効率化と値上げ検討
  4. (4)働き方改革の推進

(3)については、クラウドシステム活用して進めることを決定されてたのです。

●導入したクラウドサービスの内容と事業への活用内容

同社は原材料や人件費など固定費の急増により、売上がアップしても利益が出せない構造に陥っており、値上げ検討のためには、各商品の売上状況を確認できる必要がありました。

そこで支援機関に相談し、解決策として財務会計・給与管理・売上管理・勤怠管理のクラウドシステムの導入を進めることになったのです。

具体的なシステムとしては、売上管理が「エアレジ」、コミュニケーション管理(事務所と税理士との連携)は「LINE」や「Chatwork」、勤怠管理は「KING OF TIME」、給与管理は「MFクラウド」、財務会計は「MFクラウド」となっています。

●クラウドサービス導入の効果

クラウドシステムを含むIT化の推進により、同社では以下のような効果が得られています。

・エアレジ

代表が自宅にいても売上や仕入の検討が可能になる(売上管理)

釣銭の状況確認がいつでもどこでも可能になる(釣銭確認)

売上データで商品ごとの売れ筋・死に筋商品が把握でき、廃盤商品や値上商品の選定に活用できる(商品管理)

商品別売上データのABC分析(売上高・在庫等の指標を大きい順でランク付けし、優先度を決める等の分析手法)で、来店客の購入傾向が把握でき、新商品開発のヒントにできる(新商品開発)

・勤怠管理

タイムカードを廃止し、iPad入力から直接給与管理へ

・給与管理

税理士に依頼し直接財務会計へ

・財務会計

銀行口座連動や自動仕分けなどをクラウド処理

以上のようにクラウド化を含む業務のIT化で業務効率の向上と戦略的な課題の解決に向けた取組が進められ、結果として以下のような効果が得られています。

  • ・残業時間が平均2時間以上削減
  • ・特に社長と店長の残業が大幅に減少
  • ・業務の見える化で、スタッフ意識が向上
  • ・容易になった在庫確認で、機会ロスが減少

●クラウドサービス導入におけるポイント

・経営課題の把握と解決ためのクラウドサービス導入

自社が抱える経営課題に対して、どのような方法で解決できるのか、その際にクラウドサービスの何が利用できるのか、を理解し選べることが重要です。

同社の場合では、売上管理、勤怠管理、給与管理や財務会計管理などにおいて課題があり、それらの解決手段として有効なクラウドサービスが導入されました。

こうした適切なサービスの導入・活用は、そのサービスの存在と内容を理解しておく必要があり、利用者側がその情報を入手・学習しておくことが求められます。利用者がそれらの情報の入手・理解に不安のある場合、経営支援機関等に相談して適切な対応方法などを把握することが重要です。

4 クラウドサービスを導入する際の進め方およびその重要点

クラウドサービスを導入する際の進め方およびその重要点

既存の会社や会社設立後間もない会社などがクラウドサービスを導入する際の進め方やそのポイントなどについて説明しましょう。

4-1 クラウドサービス導入の基本的な流れ

以下の5つのステップが導入の基本的な流れです。

第1段階:クラウドサービス導入の目的や用途の明確化

最初にクラウドサービスを導入する目的・用途・要件などを明らかにしておかねばなりません。たとえば、「6W2H」のフレームワークなどを利用してその内容を明確にすると効果的です。

具体的には、What(何を)、Who(誰が)、Whom(誰に)、When(いつ)、Where(どこで)、Why(なぜ)、How(どうやって)、How much(いくらで)の項目で検討することになります。

特にサービス導入前のシステムや業務等であるWhat、理由となるWhy、そして、具体的に導入するサービスとなるHowの内容は重要です。

たとえば、「リモートワークの対応のために(Why)、オンプレミス型の社内ファイルサーバー(What)の利用からクラウドストレージサービスの利用へ移行する(How)」といった検討になります。

第2段階:クラウドサービスの対象の選定

上記1の内容をもとに、自社に最も適したサービスを検討します。様々な評価が必要となることも多いため、情報分野の専門家やクラウド事業者などに相談して選定することが重要です。

たとえば、オンプレミス型の社内ファイルサーバーをクラウドストレージサービスへと移行する場合、ネットワーク負荷やファイル共有の容易さ、など多くの検討項目があるため、丁寧に検討しましょう。

第3段階:社内運用ルールやセキュリティポリシーの設定

クラウドサービスの利用は、自社のデータを他社に預けて利用することになるため、自社システムでの運用ルールやセキュリティ対策などが通用しないケースもあります。

そのためクラウド事業者のシステムを利用する上での社内運用ルールやセキュリティポリシーの設定が必要となることに注意しましょう。

第4段階:クラウドサービスの利用開始

クラウドサービスを導入して利用する場合、従来の業務やシステムに何らかの影響が出る恐れが生じます。そのため実際に利用する前にサービスの内容や運用に伴う影響など社員が認識しておくことが重要です。事前に勉強会や研修会などを開き、運用や業務に支障が出ないように事前の対策を進めましょう。

また、実際に運用し出してからはクラウドサービスの運用管理担当者などがスタッフの支援をするような体制を整備することも必要です。

第5段階:改善を伴う運用

クラウドサービスなどは実際に運用してみないと、効果が正確に掴みにくい上にサービスに慣れるまでに一定の時間がかかることもあります。そのため、最初は上手くいかなくても取り扱いなどを改善して行けば成果が出ることも多いです。

運用内容を修正したり、クラウドサービスのプランを変更したりしながら、効果が得られるように取扱を改善していくことが重要になります。

4-2 クラウドサービス導入の理由や目的の明確化

クラウドサービスの導入では、それを必要とする理由や目的がその企業にあるかどうかが第一に重要です。サービスを利用することで企業の抱える課題を解決したり、目的・目標を達成できたりできることがあるかが、導入の判断にならなくてはなりません。

そのため導入にあたっては、独立行政法人情報処理推進機構の「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」で示しているような下記の課題等がないかチェックしましょう。

●業務効率

  • ・ITで行う業務の効率を上げて間接コストを圧縮したい
  • ・社内でバラバラに保有されている情報を集約して有効活用したい
  • ・管理業務や間接業務のIT化率を上げて業務効率を改善したい
  • ・社外からでも、電子メールやスケジューラーなどを使いたい

●ITの負担

  • ・ITの運用や維持管理のコスト(人手や手間)を削減したい
  • ・自社で運用しているサーバーの運用負担を軽くしたい
  • ・専門要員を雇わずに最新のITを活用したい
  • ・手間をかけずに情報セキュリティを維持・向上したい
  • ・最新の機能を持つソフトウェアを使いたいが、更新するのが面倒だ
  • ・バックアップの作業負担やコストを軽減したい

●ITを活用したビジネス

  • ・ITを活かした新規サービスビジネスを迅速かつ安価に開始したい
  • ・ITをベースに今展開している事業を、少ない投資で充実・拡大したい
  • ・経営管理や業務処理をIT化したい
  • ・受発注処理、顧客管理、商談管理等にITを導入したい(サプライチェーン管理、顧客管理システム、営業支援システム等)
  • ・連携する企業間で情報共有を図り、新しい付加価値やサービスを開拓したい

以上のような項目の中から特に経営課題として優先度の高いものについて、それを解決するサービスとして導入を検討するとよいでしょう。

4-3 クラウドサービス導入時の確認事項

クラウドサービスの導入では、業務への有効度や既存業務および既存システムへの影響度の確認が重要です。先の「中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き」では、以下のような確認事項が重視されています。

1)クラウドサービスの利用範囲についての確認項目

利用範囲に関する項目は4つです。

(1)利用範囲の明確化

この確認は、「クラウドサービスでどの業務、どの情報を扱うかを検討し、業務の切り分けや運用ルールの設定を行いましたか?」の問いを明らかにします。

社内のどの業務、どの範囲をクラウドサービスに移行するか、を最初に検討します。どの業務でどんな負荷・負担が発生しているかを整理し、(2)項で確認する、「どのサービスがどの程度のコストで利用できるか」を踏まえてクラウドサービスに移行する業務範囲と、取扱情報の種類・範囲を決めるのです。

(2)サービスの種類とコスト

この確認は、「業務に合うクラウドサービスを選定し、コストについて確認しましたか?」の点を明らかにします。

利用可能なクラウドサービスの種類や内容が多種多様であるため、対象とするサービスの内容や特徴を調べて、自社の業務に適したサービスを選択することが重要です。

もちろんサービスの導入と運用に関するコストを試算してどの程度のメリットが得られるか、などの確認も必要になります。

(3)扱う情報の重要度

この確認は、「クラウドサービスで取扱う情報の管理レベルについて確認しましたか?」についての回答です。

プライバシーや企業秘密に関する情報をクラウドサービスで取り扱う場合には適切な管理が求められます。情報の性質や重要度を考慮して、それらの情報をクラウドで取り扱ってよいか、問題が生じないか、などを分析しましょう。

(4)ポリシーやルールとの整合性

この確認は、「セキュリティ上のルールとクラウドサービスの活用の間に矛盾や不一致が生じませんか?」の内容を明らかにすることです。

会社のセキュリティポリシーや規則で、社外に情報を置くことを禁止する、外部委託に関する制限がある、などの場合、クラウド利用が困難になりかねません。

そうした環境で、それらを変更してでもクラウドを利用する価値がある場合には、それらの情報をクラウド事業者が取り扱えるようにルール変更することが必要です。

2)クラウドサービスの利用準備についての確認項目

(5)利用管理担当者

この確認は、「クラウドサービスの特性を理解した利用管理担当者を社内に確保しましたか?」の問いを明らかにします。

クラウドサービスにかかる業務を行う利用管理担当者として、1人は確保しましょう(兼務でもOK)。クラウドサービスの利用管理担当者は、IT管理責任者の指示と監督のもとで、クラウドを利用する場合での各種設定を行います。

具体的には、「ユーザーアーカウントの登録や抹消の処理」「クラウドサービスの利用マニュアルの整備や利用方法の指導」「利用者に対するヘルプデスク」などの業務です。

(6)ユーザー管理

この確認は、「クラウドサービスのユーザーについて適切に管理できますか?」について明らかにします。

クラウドサービスを利用する場合適切なユーザー管理が求められ、業務のためにクラウドを利用する社員等について、その権限等を定めて管理することが必要です。

(7)パスワード

この確認は、「パスワードの適切な設定・管理は実施できますか?」の問いを明らかにします。

サービス利用者のパスワードについては、他人に把握されにくいものを設定する、定期的に変更する、なりすましによる悪用を防止する、パスワードの忘れや復元への対応が取れる、などの管理が必要です。

(8)データの複製

この確認は、「サービス停止等に備えて、重要情報を手元に確保して必要なときに使えるための備えはありますか?」の内容を明らかにします。

クラウドに格納している重要データの複製を定期的に取るとこが必要です。万が一、クラウドサービス上のデータが消失した場合でも事業の継続・再開が可能となるように、クラウド外にデータの複製を作ることが求められます。

たとえば、自社内のサーバーへの保存、DVDにコピーして倉庫等で保管、などの方法です。

3)クラウドサービスの提供条件についての確認項目

(9)事業者の信頼性

この確認は、「クラウドサービスを提供する事業者は信頼できる事業者ですか?」の問いを明らかにします。

クラウドサービスが事業者により長期に渡って安定して提供され得るかを確認することが重要です。事業者に対する評価は、株式公開の有無、経営状況、業務年数、利用者数(利用実績)、利用者の評価、事故の実績、事故対応、セキュリティ対策等、などで判断されます。

(10)サービスの信頼性

この確認は、「サービスの稼働率、障害発生頻度、障害時の回復目標時間などのサービスレベルは示されていますか?」の内容を明らかにすることです。

クラウドサービスは、メンテナンスや障害のために停止することがあるため、クラウド事業者のサービスレベルアグリーメントなどから以下のような点を確認しておきましょう。

  • ・予告して停止する場合の予告のリードタイム
  • ・突然の障害等に関するクラウド事業者からの連絡方法
  • ・稼働率保証の内容および稼働率保証値が示されている場合の根拠
  • ・クラウドの運転状況やトラブルの状況などの常時提供の有無

(11)セキュリティ対策

この確認は、「クラウドサービスにおけるセキュリティ対策が具体的に公開されていますか?」を明らかにすることです。

クラウド事業者の年次報告書やセキュリティに関するホワイトペーパー(レポート)などで、以下のセキュリティ対策に関する項目が説明されているか確認しましょう。

  • ・システムに関するセキュリティ対策項目
  • ・データ管理に関するセキュリティ対策項目
  • ・ネットワークと通信に関するセキュリティ対策項目
  • ・データセンターに関するセキュリティ対策項目
  • ・データセンターの運用に関するセキュリティ管理項目

(12)利用者サポート

この確認は、「サービスの使い方がわからないときの支援(ヘルプデスクやFAQ)は提供されていますか?」の問いに対する回答になります。

ユーザー支援策として、質問集(FAQ)、動画等を用いた取扱説明、ヘルプデスク等があり、こうした支援策が充実して安心できるか確認しましょう。たとえば、以下のような点は重要です。

  • ・連絡方法・連絡先(電話、メール、その他の手段の有無)
  • ・受付時間(自社が利用しやすいか、業務時間外の連絡が可能か等)
  • ・料金(問い合わせへの料金の発生 等)

(13)利用終了時のデータの確保

この確認は、「サービスの利用が終了したときの、データの取扱条件について確認しましょう。」という内容になります。

サービスの利用を何らかの理由で終了する場合、クラウドに保存していたデータを自社内のシステムに戻したり、他のサービス事業者に移動したりすることが必要になるため、以下の確認が必要です。

  • ・データが必要なタイミングで返却されるか
  • ・データ返却時のデータのフォーマットは、他のシステムとの互換性が確保されているか
  • ・データの返却後に、クラウドのシステム上に残るデータが確実に消去され、第三者による再利用や悪用が起こらないよう対策されているか

(14)契約条件の確認

最後は、「一般的契約条件の各項目について確認しましょう。」という内容になります。一般的契約条件の各項目は以下の通りです。

  • ・利用価格の体系や適用条件
  • ・価格の変更に関する規定
  • ・サービスの変更に関する規定
  • ・守秘義務
  • ・損害賠償規定(ベンダ側の原因でデータが失われた場合やサービス障害の波及損害に対する賠償規定の有無やその程度の確認)
  • ・契約の満期終了と更新に関する規定
  • ・契約の解除に関する規定
  • ・契約の終了・解除に伴う処理等の規定

5 まとめ

クラウドサービス導入方法

クラウドサービスの利用により企業には多くのメリットが得られます。既存の会社では、業務効率の改善やイノベーションの実現等に役立ち、新設会社では脆弱な経営資源を補い高度な業務システムの運用が可能となるのです。

しかし、クラウド化を単に進めるだけでは効果は得られません。導入するにあたっての理由や目的を明確にし、それを解決・達成するためのサービスを選び適切に運用することが重要です。

その導入方法を適切に理解し実施していけば、経営上の様々なメリットが得られるようになるため、この機会にクラウドサービスの導入を考えてみてください。

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