決算対策に保険は有効か?経営者や従業員を支える保険の活用方法とは
個人の暮らしの万が一に備えるため生命保険や損害保険などに加入する方は多いですが、企業ではあまり保険を活用されていないケースも多いのではないでしょうか。何のために保険が必要なのか、保険料が高い割に事業には役に立たないのでは?と考えている経営者の方もいるはずです。
しかし、企業が利用する企業保険は決算対策のほか事業保障、退職金準備や事業承継などの目的のために少なからず利用されています。
今回は決算対策や決算後に実施しておきたい保険の活用方法や注意点を説明します。決算にあたり有効な保険の内容・タイプ、決算後の企業の状態や今後の経営に活かせる保険の利用法、企業が保険を利用する上での注意点などを紹介していきましょう。
目次
保険を経営に活用する意義
ここでは何故、企業(法人)保険を経営に活用する意義があるのかについて説明します。
決算(対策)と保険の活用
決算対策を行う際や決算後などに保険を活用することで節税、将来の万が一の備えや資金準備などが実現しやすくなるため、企業保険の利用は経営上有効な経営手段の1つになり得ます。
一般的に企業が実施する決算対策では、以下のような目的で実施されるケースが多いです。
- 金融機関からの評価を高めるために必要な業績・財政状況にする
- 節税等により次期以降の事業活動や納税のための資金を確保する
- 次期以降の事業活動や成長のための準備を行う
金融機関からの評価を高めるためには良好な業績の決算を実現することが重要になります。しかし、経営環境の悪化などにより業績がダウンし赤字決算などになれば金融機関の評価は下がってしまうでしょう。そのような場合に以前から加入していた保険を解約して利益が確保できれば、評価の低下は回避できるのです。
また、大幅な黒字決算となる場合、利益額が多くなるほど税金支出が増えてしまいます。税金支出の増加は現金支出の増大を意味しますが、多額の利益計上も同時期での現金の増加に直結せず遅れた回収になることも少なくありません。
そのため利益計上が多くても手元の現金が少なく税金や仕入の支払いなどで必要となる現金が不足するケースはよく見られます。こうした状況を回避するには計上する利益額をある程度減少させる必要があるわけですが、その手段として保険の利用が有効です。
ほかにも将来の事業活動や退職金に必要な資金を準備する手段としても企業保険は役立ちます。
決算時や決算後に次期以降の中長期の事業計画などを立案もしくは検討する際に事業展開に必要な設備投資などの資金準備が課題となりますが、その手段に企業保険が利用できるのです。
保険料を損金にできる貯蓄性のある保険に加入して目標時期に保険を解約すれば、毎年の節税とともに返戻金により目的の資金需要に備えることができます。
これら以外にも事業承継や経営者の引退後の生活保障などに保険は活用できるため、決算時や決算後などに企業保険を導入し利用していくことは大きな意義があるのです。
具体的な企業保険の用途・メリット
ここでは企業が企業保険を活用する具体的な用途やメリットを紹介しましょう。
①節税対策
企業が加入・利用できる保険は様々ですが、その支払保険料の全部または一部を損金算入できるタイプも多くあるため、利用することで利益額を減少させ法人税等の支出を少なくできるのです。
今期の業績が予想以上に伸びた、決算セールで特売品以外の通常品が大量に売れたなどで予想外に利益が増加した場合、期末ぎりぎりの加入でもその年度の損金処理が可能な保険も多くあります。
また、期末に加入した保険だと損金算入できる保険料はわずかなものになると思われがちですが、保険のタイプによっては1回の支払で年払いできる保険もあるのです。そうした保険なら予想外の黒字でも利益額を大きく圧縮できるでしょう。
ただし、貯蓄性のないタイプや解約返戻金が少ないタイプなどもあるため節税できるからといって安易に加入することは避けるべきです。
なお、解約返戻金は益金であり解約時には税金が増加することになるため、上記の節税も利益を繰り延べしただけになってしまいます。そのため返戻金を受け取る時期には何らか損金処理が必要であり、その方法として役員等の退職金の支給などの支出が欠かせません。
②事業保障
企業経営の中心である経営者が病気や怪我で経営から離脱してしまうと、収益面や信用面の低下から資金繰りに支障が生じることもありますが、企業保険でそれがカバーできます。
革新性のある技術を有する、人脈を多く持ち販路を広げる、金融機関からの信用が高い、というような経営者が万が一の状態になると、取引先や金融機関などは取引や融資で慎重になることも珍しくありません。
取引先等の態度が変わると取引が減少したり、融資が縮小したりして、企業の信金繰りが徐々に悪化していき、資金不足に陥ることもあるわけです。そうした場合に保険に加入しておけば、保険金や解約返戻金で入院・療養費や事業の資金不足を補うことができます。
③退職金や事業資金の資金準備
企業保険を上手く活用できれば、保険料を損金処理しつつ将来の役員の退職金や設備投資などの資金需要に対応できる効果的の資金作りも可能です。
将来の特定時期に生じる多額の資金を準備するには、定期預金などを利用すると確実ですが、低金利であるため効果的とは言えません。しかし、保険を上手く活用すれば、毎年の節税効果や解約返戻金等で支払保険料以上の資金を得ることもできます。
たとえば、養老保険などで年間の支払保険料100万円、保険期間30年、満期保険金3,050万円に加入した場合で、その1/2が損金算入できるとします。
このケースでは年間保険料100万円×1/2が損金と処理されるため、50万円×法人税率等(仮に30%)分だけ節税でき、毎年15万円だけ税金支出が低減されるわけです。
30年間この節税が継続できれば15万円×30年=450万円がトータルで削減できることとなり、3,000万円の支払保険料は実質的に2,550万円に減少できます。そのため満期保険金3,050万円-2,550万円=500万円も得したことになるのです。
一方、金利0.02%の積立預金で月8.31万円を30年間積み立て、3千万円を貯める場合利息は9万円ほどにしかなりません。
資金需要の発生と満期保険料を受け取るタイミングがずれて効果が減少するといったリスクもありますが、利用の仕方次第では保険が有効な資金作りの手段となるでしょう。
④赤字による資金繰り悪化への準備
事業の不調や売上債権の貸倒などで度々赤字決算となれば金融機関からの融資が止まり資金繰りに困窮することもありますが、企業保険がその危機を救ってくれます。
貯蓄性のある保険を利用すれば、節税を行いつつ赤字等による資金繰りの悪化に備えた迅速な資金調達も可能となるのです。また、契約者貸付が可能なタイプの保険を利用すれば解約せずに必要資金を確保することもできます。
ただし、解約時期によっては解約返戻金の額がかなり少ない保険のタイプもあるため、保険の選定を誤ると大きな損失を被ることになるため注意しなければなりません。
⑤事業承継や相続の対策
現経営者が自分の子供や親族に事業を継がせていく場合、後継者が安定した経営が可能となるだけの事業資産や自社株式の移転が必要となりますが、その移転に伴う資金準備が不可欠です。その資金を用意するための手段として保険が役立ちます。
また、現経営者が土地などの自社の資産や株式の大部分を保有したまま他界してしまうと多額の相続税が発生しその納税資金を相続者は準備しなければなりません。
後継者以外の相続人がその企業の株式を相続すると、後継者の経営権が不安定となるため、後継者は他の者から株式を買取る必要性が生じます。つまり、株式の買い取りのための資金も用意しなければならないのです。
こうした相続対策にかかる資金の準備にも保険が有効な手段となります。企業保険を利用すれば保険料を損金処理した節税で効果的な資金準備ができるとともに、利益の圧縮が図れるため自社株式の評価が下がり株式の移転や相続がしやすくなります。
つまり、保険の活用により節税しながら必要な資金を必要な時期に確保できるとともに事業承継や相続の準備が計画的に進められるのです。
⑥福利厚生
死亡退職金、弔慰金や退職金などの福利厚生を充実させるためには、それらに備える資金の準備が不可欠ですがそれに保険が活用できます。
企業を安定・成長させるためには従業員のモチベーションアップが重要ですが、従業員からはその貢献意欲に繋がるインセンティブが求められます。インセンティブの中身は様々ですが、企業の福利厚生制度もその1つとして重要です。
事業中の事故による怪我や死亡などに対する補償がない、退職金が十分にもらえない場合、従業員のモチベーションが下がる恐れがあります。そうならないためには彼らが安心して事業に従事できる福利厚生制度を整備し、実施できる資金を確保していくことが必要です。
たとえば、節税効果のある保険の福利厚生プランの中には、従業員の在職期間中の死亡では死亡退職金を遺族が受け取れ、従業員が定年退職した場合には退職金として受給できるタイプもあります。
このように保険を活用することで従業員の万が一に備えられ彼らに安心感を与えることができるのです。
⑦リスク対策
企業が事業を長期に継続させていくためには様々なトラブルやリスクに遭遇した場合の備えが不可欠であり、その準備に保険が活用できます。
長期に渡る企業の事業活動では、様々なトラブルが生じて賠償責任が問われたり、自然災害や地政学的リスクなどに遭遇したりして事業の継続が困難になる可能性はゼロではありません。
たとえば、事業活動中の事故、業務の結果による事故、自社施設等に起因する事故、自社製造物等の他者(他者の財産)への損害などに伴って賠償責任が発生します。
また、台風による川の氾濫で自社工場が被害を受けその生産活動がストップしてしまうといったリスクが現実になることもあるわけです。
こうした賠償責任などの様々なリスクを乗り越えていくには資金の確保が不可欠であり、その役割を保険が担ってくれます。企業がリスク対策を行う場合、適切なリスク回避の手段を講じるとともに、遭遇した場合の影響度を軽減できる手段を講じる必要があり、それに保険が重要な役割を果たしてくれるわけです。
企業保険の種類と内容
ここでは保険を有効活用するための前提として保険の種類と各々の特徴を説明していきましょう。
企業保険の種類
企業保険を大別すると生命保険と損害保険に分けられます。
①生命保険
生命保険は人を対象としたリスクに備えるための保険であり、主に死亡リスクへの生命保険と病気・ケガへの備えとしての医療保険に分けられます。
企業保険で利用される生命保険の主なタイプは以下の4タイプです。
- 事業保障への備え(経営者等の死亡・長期離脱によるリスク対策など)
- 経営者の退職金準備(経営者の退職後の生活の備えなど)
- 事業承継や相続の準備(事業承継や相続に伴う資金への備え)
- 従業員の福利厚生の実現(従業員等への死亡退職金や弔慰金等への備え)
②損害保険
損害保険は、企業の財産、賠償責任、運送、事業遂行等で生じるリスクに備えるための保険で、大別すると以下のようなタイプに分かれます。
- 自社所有の財産が被害を被った場合の損害補償
- 他者に対する損害に伴う賠償責任の補償
前者は火災保険、自動車保険や機械保険のほか企業財産を包括的に補償するタイプなどです。なお、これらのタイプの中にはトラブル発生による休業中の利益の損失等を補償するものもあります。
後者は施設賠償責任保険、生産物賠償責任保険、個人情報漏洩保険などになります。
企業保険の特徴
ここでは企業保険として利用できる生命保険と損害保険の代表的な保険の特徴を確認していきましょう。
①生命保険
生命保険には、長期平準定期保険、逓増定期保険、養老保険、医療保険やがん保険 などがあります。
A 長期平準定期保険
長期平準定期保険とは、事前に設定された保障期間中において毎年・毎月等の保険料や死亡保険金が一定の生命保険です。
税務上の定義では長期平準定期保険は、保険期間満了時での被保険者の年齢が70歳超で、かつ保険加入時の被保険者の年齢に保険期間の2倍の数を足した数が105を超える保険を指します(逓増定期保険に該当するものを除く)。
長期平準定期保険の特徴は、保険金額と保険料が一定額である点と名称の通り保険期間が長い点です。たとえば、保険期間については「95歳満了」や「100歳満了」といった極めて長期期間の保険も少なくありません。
つまり、実質的には終身保障を提供する終身保険ともいえる定期保険であり、経営者などの重要な役割を果たしている人材などを対象として利用される保険なのです。
ほかには満期保険金はないものの長期間に渡り解約返戻金を高い返戻率で受け取れるタイプもあります。保険会社によっては支払保険料以上の返戻金額が受け取れるタイプも提供されており、利用すれば役員の退職金準備などが効果的に進められるでしょう。
なお、長期平準定期保険は税務の観点から下表のような経理処理が必要です。保険期間の前半6割期間では保険料の半分が損金計上できるため、これを活かした節税の実現が重要になります。
年齢及び期間 | 保険期間の開始時からの6割相当期間の経理処理 | 残り4割相当期間の経理処理 |
---|---|---|
保険期間満了時の被保険者の年齢が70歳超かつ(保険加入時の年齢+保険期間の2倍)が105超 | 保険料のうち 1/2は損金算入 1/2は資産計上 |
この期間の支払保険料は全額が損金算入。 また、6割期間中の資産計上分を残り4割期間の経過に応じて均等に取崩し損金算入できる |
長期平準定期保険の欠点は、解約返戻金の返戻率が高い水準になるまでに20〜30年といった期間が必要になる点といえるでしょう。もし高い返戻率に達するまでに解約をした場合は損失を被る可能性が低くありません。
ただし、契約者貸付が可能なタイプもあるため、一時的な資金ニーズなら解約せずに対応することも可能です。
B 逓増定期保険
逓増定期保険とは契約後からの一定期間を経て保険金額が逓増していくタイプの生命保険です。保険金額の増加と伴に保険料も増加していくため、長期に渡る節税効果の増大に加え将来受取可能な解約返戻金の額も増加するという特徴があります。
保険期間が前期期間と後期期間などに分かれ、各期間について設定された増減率に従って基準保険金額が増加されていきます。保険金額は最大5倍まで増加し、5倍に達した後はその状態で保険期間の満了まで維持されるのです。
保険期間が終了すればその時点からの保障はなくなりますが、一般的に満期保険金はついていません。ただし、保険期間中は解約返戻金が払い戻される仕組みになっているため、解約によって支払った保険料の7割~9割といった返戻金が受け取れるでしょう。
なお、逓増の仕方・率や解約返戻金の額・返戻率などは各保険会社の商品によって異なるため、自社の目的に合った保険を選ぶことが重要です。
また、逓増定期保険は税務の観点から3つのタイプに分けられます。
区分 | 年齢及び期間 | 保険期間の開始時からの6割相当期間の経理処理 | 残り4割相当期間の経理処理 |
---|---|---|---|
Ⅰ | 保険期間満了時の被保険者の年齢が45歳超(ⅡとⅢに該当する者を除く) | 保険料のうち 1/2は損金算入 1/2は資産計上 |
この期間の支払保険料は全額が損金算入。 また、6割期間中の資産計上分を4割期間の経過に応じて均等に取崩し損金算入できる |
Ⅱ | 保険期間満了時の年齢が70歳超かつ(加入時年齢+保険期間の2倍)が95歳超(Ⅲに該当する者を除く) | 保険料のうち 1/3は損金算入 2/3は資産計上 |
|
Ⅲ | 保険期間満了時の年齢が80歳超かつ(加入時年齢+保険期間の2倍)が120歳超 | 保険料のうち 1/4は損金算入 3/4は資産計上 |
*国税庁HP:「法人が支払う長期平準定期保険等の保険料の取扱いについて」の内容をもとに作成
従って、各保険会社の逓増定期保険は上記の表のように年齢・期間に応じて3タイプ用意されているのが一般的で、保険料の経理処理の仕方も3通りに分かれるのです。
前半6割期間の損金算入できる割合はⅠ>Ⅱ>Ⅲとなることから早い時期に損金処理したい場合などにはⅠが最適ということになります。節税効果をどう得るかという点を考慮することも将来の目標資金の確保に影響するため丁寧な検討が必要です。
C 養老保険
養老保険は満期保険金がつく貯蓄性の高い保険で、保険期間中での死亡及び保険期間満了までの生存のどちらでも同額の保険金額が受け取れます。
保険期間満了時に受け取れる保険金額は支払った保険料の総額と近いケースも多く貯蓄目的の利用も多い保険商品と言えるでしょう。また、積立型の保険であるため解約も可能ですが、支払った保険料よりは少なくなります。
養老保険の保険期間は、5年、10年、15年から30年満期や55歳、65歳満期などがあり、契約時の年齢で利用できる保険期間が決まってしまいます。
養老保険の利用としては、役員や従業員の死亡退職金、弔慰金、定年時の退職金の準備など福利厚生の一環として活用されるケースが多いです。
なお、養老保険の死亡金受取人と満期保険金受取人を誰にするかで支払保険料の経理処理が変わってくるため注意しておかねばなりません。
役員または従業員を被保険者、満期保険金受取人を法人、死亡保険金受取人を被保険者の遺族とする場合、支払保険料の1/2が損金算入できます。従って、節税効果を得ながら将来の退職金準備等が効果的に進められるわけです。
加えて一時的な資金ニーズの発生については契約者貸付が利用できるため、保険を解約せずに済ませることもできます。
D 医療保険
この医療保険は、法人が保険契約者となって経営者や従業員を被保険者とするもので、「終身医療保険」と「定期医療保険」に分けられます。
医療保険は病気や怪我をした場合に所定の給付金が受取人に支給されるものですが、通常この商品は満期保険金が支給されない掛け捨てタイプです。ただし、長期で加入する終身医療保険の場合解約返戻金が支払われるタイプもあります。
この保険の保障は、病気等でどのような医療サービスを受けるかで設定されるもので、たとえば「入院の場合1日1万円」「○○手術の場合1回20万円」といった内容になるのです。
終身医療保険は保障が生涯継続して保険料が変化しないタイプになります。一方、定期医療保険は保障期間が短期間で継続には更新が必要となるタイプであり、更新時に保険料がアップするのが一般的です。
保険料についてはどちらのタイプも全額損金算入が可能であるため、節税効果を享受しながら会社の発展に必要な人材の万が一に備えられるというメリットがあります。
*終身タイプの医療保険の場合、各年度の損金算入対象保険料と前払保険料に分けて計算する必要性が生じます。
一般的には経営者・役員等には終身タイプ、従業員には定期タイプという使い方が多いです。終身タイプを経営者に利用すれば退職後の万が一に備えられ退職金の代用としても活用できます。また、定期タイプを従業員に利用すれば在職中の万が一に備えられ企業としての福利厚生の充実が図れるでしょう。
なお、法人契約の医療保険において企業が給付金を受け取る場合、それは税務上雑収入となり課税されます。その給付金を役員や従業員に見舞金として支給する場合、その支出は損金扱いとなり雑収入との相殺が可能です。
しかし、その相殺可能な範囲は社会通念上認められる範囲となり超える部分は課税されます。社会通念上の範囲が5万円から10万円といった金額になるケースで50万円の見舞金を支給すれば、超えた部分は受取人の給与として課税されるため注意しなければなりません。
また、見舞金を支給する場合は、税務対策上社内で慶弔見舞金規定を整えておく必要があります。
②損害保険
法人が加入する代表的な損害保険には、自動車保険、企業財産保険(火災保険等)、動産(総合)保険、賠償責任保険(製造物責任保険、個人情報漏洩保険等)などがあります。
①自動車保険
法人で加入する自動車保険は、契約者=法人、被保険者=法人、運転者=従業員とする場合、運転者を特定の個人に限定しないため保険料が個人契約よりも割高になるのが1つの特徴です。なお、所有の車が10台以上で契約できる「フリート契約」を利用すれば保険料は割安になります(*割引を少数台車から適用している保険会社もある)。
ただし、法人契約の場合の自動車保険には個人契約にない特約が多く設定されるケースが少なくありません。たとえば、積載事業用動産特約がつけば契約対象の車に積んだ荷物が事故で被害を被った場合に補償が受けられます。
ほかにも法人借用自動車危険補償特約がつけば業務の際に他社の車を借りて事故を起こした場合に対物賠償保険や対人賠償保険等の補償が受けられるのです。今ではロードサービスがついている保険も少なくありません。
なお、自動車保険は通常掛け捨てタイプの保険となっており、補償は事故を起こした際の相手側への対人・対物賠償や、契約者側への賠償などですが、個人契約よりはやや低いでしょう。
そのほかの長所としては、節税効果がある、運転する社員が変わっても契約内容の変更が不要である、などが挙げられます。
欠点では、1台の事故により契約車両全体の保険料がアップする、代理店契約が多く割高である、などです。
②企業財産(包括)保険
企業財産保険とは、リスクの発生により企業の財産が受ける直接的な損害、利益の損失及び営業の継続に必要な費用などの間接的な損害を含めて補償しくれる損害保険です。
財産の損害をカバーする保険には火災保険や地震保険などがありますが、リスクの内容によって対応できる保険とできない保険があります。保険の選択や管理の観点から考えると別々の保険にバラバラで契約するよりは多くのリスクに対応できる企業財産包括保険の利用が有効となり得るでしょう。
また、複数種の保険に加入するより企業財産包括保険1本に絞ることにより補償の漏れの防止、管理の手間の軽減に加え保険料の低減も期待できます。
企業財産保険の補償範囲は、「企業財産の損害」と、「事業の休業による利益の損失等」です。企業が所有する建物等の財産には、自社ビル・事務所、工場、店舗、倉庫、社宅、その他施設などで、それらの備品や商品等も補償の対象になります。
リスクの発生に伴う休業で利益等が得られなくなった場合は、「経常費補償」や「仮店舗費用補償」などが受けられます。
これら以外にも、盗難に関する「業務用通貨等盗難補償特約」や借りた事務所等での損害に関する「借家人賠償責任補償特約」などさまざまな特約が用意されているのです。
③動産(総合)保険
自動車、船舶、航空機や組立中の機械・設備など以外の動産にかかる損害を主に補償するのが動産保険で、特定の動産を対象としない損害保険です。
主な対象は、企業や商店等が所有または使用している営業用什器や備品(事務機器、光学機器、医療機器、商業用機械等)、商品・在庫品、現金・小切手、展示品 などになります。
補償の受給では動産の使用、保管、運送や展示を行っている際の事故が対象で、損害の原因・事故内容は保険会社や特約の内容で異なりますが以下のものなどが対象となるでしょう。
- 火災(もらい火からの火災等)、落雷、破裂や爆発
- 風災、雪災、雹災
- 水濡れ
- 盗難
- 運送用具の衝突や転覆等での損害
- 電気的及び機械的事故を含む偶然な事故
また、保険会社の各商品では様々な補償が用意されており、事故発生の際の臨時費用、取り壊し・後片付け・清掃の費用、消火器等の損害防止にかかる費用などが補償されるケースもあります。
動産総合保険は、モノの製造から販売に至るサプライチェーンでの活動で起こり得るリスクに幅広く対応できる商品です。そのため1企業でサプライチェーン全体の大部分の機能を有する場合にはこの動産総合保険は特に有効なリスク対策になるでしょう。
④損害賠償責任保険
事業活動中などで他者の身体や所有物に損害を与えた場合の補償に備える保険が損害賠償責任保険です。
企業が事業活動を遂行する上では、他社及びその従業員、取引関係者、消費者などに様々な形で損害を与える可能性があります。たとえば、以下のようなケースです。
- 業務上のミスやトラブルで他者に損害を与える
- 所有及び管理している設備等の故障や欠陥による事故で他者に損害を与える
- 商品や仕事の欠陥により他者に損害を与える
- 顧客や取引先からの預かりものを紛失或は破損させるなどの損害を与える
ミスや事故などを発生させないことが最も重要ですが、完全に防止することは困難なため、万が一に発生した場合の損害への備えは不可欠であり、その役割を損害賠償責任保険が担ってくれます。
上記の通り損害を与える対象は様々であるため、損害賠償責任保険の種類は豊富です。
雇用慣行賠償責任保険、施設賠償責任保険、請負業者賠償責任保険、生産物賠償責任保険、個人情報漏洩責任保険、環境汚染賠償責任保険、役員向け賠償責任保険 など多様な保険が提供されています。
なお、個別の賠償責任保険を必要に応じて契約するという方法が少なからず利用されていますが、多様な損害賠償に対応できる総合賠償責任保険を利用すると便利です。
保険会社によって総合賠償責任保険で補償される内容・対象は異なりますが、広範囲の損害をできるだけ少ない保険で対応した場合などにはこの保険の利用価値は高いでしょう。
ただし、自社の事業内容や状況に対して総合賠償責任保険で対応できるか、個別の賠償責任保険のほうが現実的な補償に対応できるのでは? といった検討の上で導入を進めるべきです。
企業保険の活用方法
ここでは企業保険をどのような経営課題で利用できるかという具体的な活用場面を想定した活用方法を紹介していきましょう。
決算時などでの節税対策
今期だけや今期から数年間特別な節税対策を実施したい場合にも企業保険の活用は有効です。
年度末に向けて通常では起こりにくい注文に対応し予想外の利益を計上することも時々発生しますが、その場合納税負担も多くなるため特別な節税対策が必要になります。
その手段として年払いの支払保険料が利用できる生命保険等に加入すれば多額の保険料が損金処理できるため、イレギュラーな利益を圧縮して税負担の軽減が図れます。
節税対策には、逓増定期保険や長期平準定期保険など多様な保険の利用が可能です。
たとえば逓増定期保険は、保険料が損金算入できる、解約返戻金の返戻率の水準が高くそのピークが5~10年と比較的早い、年払保険料が高い、といった特徴があります。そのためこの保険を利用すれば大きな節税効果が得られるほか、役員退職金の準備などにも有効です。
契約年齢・保障期間にもよりますが、前半期においては支払保険料のうち1/2が損金算入できるため、期末ぎりぎりで加入しても年払いなら高い節税効果が実現できるでしょう。
以下の条件のような逓増定期保険に加入すると、下表のような解約返戻金及び返戻率になります。
被保険者:男性50歳
保険期間・保険料払込期間:72歳満了・22年間
第1保険期間:7年間
基本保険金額:1億4千万円
年払保険料:1,600万円
契約者・保険金受取人:法人
被保険者:役員・従業員
被保険者の年齢 | 解約返戻金(万円) | 返戻率(%) |
---|---|---|
51歳 | 1,006.4 | 62.9 |
52歳 | 2,585.6 | 80.8 |
53歳 | 4,180.8 | 87.1 |
54歳 | 5,792 | 90.5 |
55歳 | 7,424 | 92.8 |
56歳 | 9,072 | 94.5 |
57歳 | 10,740.8 | 95.9 |
この保険では年間1,600万円の保険料のうち半分が損金算入できるため、高い節税効果が得られます。また、解約返戻率が7年目で最高水準に達するため、比較的早い時期に多額の資金を準備できる点も大きな特徴です。
ただし、8年目からは徐々に返戻率が下がり22年目では0%、つまり解約返戻金が0円になるため注意しなければなりません。
なお、こうした保険の特徴は各保険会社、各保険商品で異なるためその内容をしっかり把握しておく必要があります。
将来の退職金や事業資金の準備
将来における経営者等の退職金や設備等での事業資金を準備する手段としても企業保険は有効です。
今後20年先や30年先といった将来での資金需要に対応するためには貯蓄性の高い保険の利用が有効ですが、その保険として逓増定期保険、長期平準定期保険、全額損金定期保険や養老保険などが役立つでしょう。
保険の選定のポイントは資金がいつ、いくら必要になるかを明確にした上契約者の年齢、支払保険料額や節税効果など考慮して選ぶ必要があります。ただし、必要となる時期が明確に定めにくい場合は解約返戻金率の水準の高い期間が長いタイプの保険の検討が不可欠です。
たとえば、長期平準定期保険などの中には契約年数3年から40年まで返戻率が80%以上、4年から25年まで85%以上となる保険もあります。
被保険者:男性40歳
保険期間・保険料払込期間:100歳満了
保険金額:1億円
年払保険料:236万円
契約者・保険金受取人:法人
被保険者:役員・従業員
保険料の経理処理は、前半6割期間では118万円が定期保険料として損金処理、残り118万円が前払保険料として資産計上となります。従って、前半期では毎年118万円×税率分の節税が可能です。
この商品は契約年数10年目で返戻率が最高の88.6%、15年目で88%、20年目で87.1%といった水準であるため、将来の資金需要の時期が多少ブレても大きな損失が回避できます。
事業保障
経営者が病気、怪我や事故などで経営から離脱することになれば、収益の維持や資金繰りが困難になり資金の確保が必要になる恐れもありますが、その確保の手段として保険が役立ちます。
経営者が万が一の危機に直面した場合、借入金の返済、当面の運転資金や人件費等の確保が経営の維持には不可欠ですが、それらにかかる支出分を見越して保険でカバーできるようにすれば安心です。
事業保障に備える保険も多くありますが、平準定期保険、逓増定期保険や長期平準定期保険等の障害保障に手厚いタイプや低解約返戻金型、収入保障保険などが適しているでしょう。
定期保険は保険期間が短くなるほど保険料が安くなります。また、保険期間満了年齢が70歳以下または契約年齢+保険期間×2≦105の場合、保険料は全額損金となるため節税効果も高いです。
被保険者の契約年齢:男性45歳
保険期間・保険料払込期間:10年
死亡保険金額:1億円
月払保険料:3.1万円(年37.2万円)
契約者・保険金受取人:法人
被保険者:役員・従業員
上記の定期保険に加入した場合、年37.2万円の保険料は全額「定期保険料」として損金処理が可能です。なお、上記の年齢・保険期間の条件に該当しない場合の長期平準定期保険では、一定期間の保険料の1/2は前払保険料として資産計上することになるため節税効果が低くなります。
なお、必要資金の確保を検討する際には下記の式を参考すれば、どのくらいの保障額を設定すればよいかという目安がつくはずです。
・事業保障に必要な資金=〔人件費及び固定費用(月額)+借入金の返済額(月額)〕×キャッシュフローが安定するまでの月数+左記期間に生じる高額な一括返済金(借入や買入債務等)
福利厚生
従業員が安心して業務に従事するため、企業への貢献意欲を高めるためには自社の福利厚生を充実させることも重要ですが、その役割を保険が果たしくれます。
保険で対応できる具体的な福利厚生のメニューとしては、退職金、死亡弔慰金、入院・手術給付金などの資金準備で、保険によりそれらの支出に備えられるわけです。利用できる保険は様々ですが、養老保険、定期保険や医療保険などが適しているでしょう。
たとえば、養老保険(無配当型)なら従業員の勤続期間中を保険期間として、被保険者がその期間に死亡・高度障害の状態に至る場合は死亡保険金や高度障害保険金が受け取れ、無事に満期を迎えた場合は満期保険金が受け取れます。
つまり、従業員が業務中等で万が一の状態に陥った場合、死亡保険金等は死亡弔慰金や入院・手術給付金等に充てることができ、定年退職を迎えた場合はその退職金として利用できるわけです。
なお、養老保険の解約返戻金の契約年数に対する返戻率は保険会社によって異なりますが、一般的には契約期間の経過に応じて返戻率が高くなります。
保険料は保険期間を通じて一定ですが、保険期間が長いほうが安くなるでしょう。また、養老保険の福利厚生プランの場合、保険料の1/2は福利厚生費、残りは保険料積立金として資産計上します。
被保険者及び契約年齢:従業員男子7人、女子3人、年齢40歳
保険期間・保険料払込期間:60歳満期・60歳まで
保険金額:500万円/人
年払保険料:276万円(10人分)
契約者:法人
被保険者:従業員
死亡保険金の受取人:従業員の遺族
満期保険金の受取人:法人
上記の養老保険に加入すれば、年払保険料のうち半分の138万円が損金計上できるため、高い節税効果も期待できます。満期保険金の500万円は従業員の退職金として利用できるでしょう。
事業承継・相続対策
法定相続人に自社の事業を引き継がせたい場合などでは資金的な問題が発生しやすいため、保険の利用が役立ちます。
上記のような事業承継・相続にあたっては以下のような問題が懸念されます。
A 後継者が株式を相続する或は生前贈与を受ける場合、相続税や贈与税の納税資金が必要となる。
B 株式以外の相続財産がない場合、他の相続人から経営権の確保に不可欠な株式を買い取ることとなるためその資金が必要となる。
C 経営権の移譲後金融機関等からの融資が困難となった場合、資金繰りの悪化に備える資金が必要となる。
上記のように事業承継では多額の資金が必要となりやすいですが、自社の株式の評価によってその金額が大きく影響されます。つまり、株式の評価が高くなれば必要資金は増大、低く評価されれば必要資金は少なくて済むわけです。
株式の評価、すなわち企業価値の評価はその獲得する利益額に影響されるため、利益を少なくすることが自社株式の評価の低下に繋がります。
費用を増大させれば利益が圧縮され自社株式の評価が下がることになるため、保険料の損金算入が有効となるわけです。
代表的な保険の利用法は、生命保険で役員退職金の準備を行うようにして支払保険料で毎年の利益を低減させる、多額の満期保険金や解約返戻金を退職金として経営者に支給し利益を圧縮させる、などになります。そして、自社株式の評価が下がったところで後継者へ株式をシフトするのです。
利用する保険は、上記ABCの状況に合わせて最適なものを選ぶことになりますが、ケースによっては複数の保険を利用するのも良いでしょう。保険のタイプとしては、定期保険、逓増定期保険、長期平準定期保険や終身保険などになります。
企業保険を活用する上での注意点
保険は決算対策のみならず決算後の経営に不可欠な資金を準備するための手段として有効ですが、利用方法を誤ると期待した効果が得られないどころか損失や経営リスクを招きかねないため注意が必要です。
企業保険と利用目的とのマッチング
法人が利用できる保険の数は多く中には利用目的に合致しないタイプもあるため、選定は慎重に行う必要があります。
保険はみんな同じような特徴で利用する効果に大きな違いはないだろうと安易に利用すると目的が達成できず、さらに大きな損失を被ることになりかねません。
たとえば、利益が大幅に増え今後もこの状態が持続しそうな場合に節税効果の低い保険に加入しても満足できる節税はできないでしょう。
逆に2~3年ほど利益が通常より多くなる場合に保険料が高く解約返戻金のピークまで長期間かかるような保険に加入すれば、利益が通常程度に戻る時期において保険料がキャッシュフローを悪化させかねません。また、解約する場合に返戻金が少なくなり保険料の回収が不十分となれば、大きな損失を出すこともあるのです。
こうした保険のデメリットを回避しメリットを享受するためには、自社の目的に最も適した保険を選び利用することが欠かせません。
企業保険の特徴を生かした利用の徹底
貯蓄性のある保険を利用すれば将来の資金需要の準備が図れますが、利用の仕方を誤るとやはり効果は得られず損失を被ることになりかねません。
逓増定期保険や長期平準定期保険などで将来の必要資金を確保する場合、解約返戻金を受け取るタイミングが重要になります。たとえば、20年後に大金が必要となる場合、解約返戻金の返戻金率のピークが20年後の前後に来るような保険の選定が不可欠です。
たとえば、20年後に返戻金のピークが必要となるのに15年後でピークを迎え、20年後では返戻金率が大幅に下がるような保険に加入すれば大きな損失となるでしょう。
さらに将来の時期が不安定な場合、15年後~25年後といった前後の長い期間で返戻金率の水準が高い保険の選定が求められます。
また、予定通りの年数後に解約して返戻金を受け取っても退職金や事業資金として支出しなければ返戻金は益金となって大きな税負担が強いられることになります。
加えて役員に退職金を支給する場合に社内規定がなく不適切な額を支給すれば、損金算入が認められなくなることもあるため、社内規定も整備しなくてはなりません。
このように保険のメリットを享受するためには保険の利点・特徴を活かせるための利用方法を適切に実施する必要があります。
十分な時間をとった企業保険の検討
企業保険は種類も多くさまざまな特徴を有するものであるため、加入にあたっては1~2カ月といった時間をとってじっくり検討すべきです。
決算対策で急な節税手段を講じる場合1カ月といった時間がとれない恐れもありますが、そうでない場合は可能な限り時間を確保して検討しましょう。
保険の検討は決算後の新年度になってから直ぐに始めるほうが適しています。新年度になってから業績計画の策定の中で保険がどのように利用できるかを考え、計画の達成のために効果的な保険の活用を考えるべきです。
また、保険によっては月払いの利用が原則となっているものもあり決算月の加入では節税効果が低くなります。
保険による最大限のメリットを得て自社の目的を達成するためには、保険の検討に必要な時間を確保し、できるだけ年度の初めから行えるようにしましょう。