一般社団法人で定年制を設けることは可能?
法人には様々な種類がありますが、その中の一つに一般社団法人があります。一般社団法人は、同窓会や業界団体、学術団体などが法人格を持った場合に多い形態ですが、そこには理事などの役員をはじめ、一般の事務職員などが働いています。
一般社団法人も法人組織である以上、組織の若返りや新陳代謝が必要ですが、定年制を導入することはできるのでしょうか。また、定年制を導入できるとしたら、どのような点に注意することが必要なのでしょうか。
今回の記事では、一般社団法人における定年制の設け方やその際の注意点を解説しています。一般社団法人の運営に携わる方は、参考にしてみてください。
1 組織における定年制とは
はじめに、組織における定年制の基本を整理してみましょう。
1-1 定年制の意味
定年制は、労働者が一定の年齢に達した場合に、雇用関係を解消することを定めた制度のことです。この雇用関係の解消は、労働者の意思や能力、業務の必要度に関係なく、自動的・画一的に行われる特徴があります。
1-2 定年制の経緯
次に、わが国における定年制の経緯についてみてみましょう。日本で定年制が本格的に始まったのは、昭和の初期です。定年制を採用する企業はそれ以前から存在していましたが、社会的に大きな動きとなったのが昭和の初めです。この時代の定年年齢は55歳が主流でした。
今の時代の55歳はまだ若く十分に働くことができる年齢ですが、昭和の初期と現在とでは国民の平均寿命や健康寿命が大きく異なっており、当時の55歳は定年を迎えるに相応しい年齢とされていました。
また、その時代は出生数も多く、若い労働力も潤沢に供給される時代であったことから、55歳定年制を設けても産業界や企業が労働力不足に陥ることもありませんでした。
その後、戦後の高度経済成長期を経て1980年代に入ると、定年年齢が55歳から60歳に引き上げられました。ただし、この60歳定年制は強制ではなく、各企業に努力義務を課すものでした。そして、この頃からわが国全体に、少子高齢化が次第に浸透していくことになります。
進展する少子高齢化から労働力を確保するため、1990年には、定年後の再雇用を義務化する流れとなり、また、1998年には60歳定年が義務化されました。
2000年代に入ると、65歳までの雇用確保の要請が、努力義務から完全義務化へと進んでいきました。そして2006年の段階では、各企業は、継続雇用制度の導入、65歳定年制の導入、定年制の廃止の中からいずれかを選ぶこととされ、65歳定年制を採用する企業も現れてきました。
その後2013年に、希望する労働者に対しては、各企業に65歳までの継続雇用が義務として課され、現在に至っています。
わが国における定年制は、時代の要請に応じて制度変更が進んでいますが、それは次のような背景があるからです。
- ①日本の定年制は、終身雇用というわが国独自の雇用形態から必然的に生まれた制度である
- ②定年年齢の引き上げは、少子高齢化の進展による労働力不足を補う目的を持っているが、平均寿命・健康寿命の伸びによる元気な高齢者の増加がその流れを後押ししている
- ③定年年齢引き上げに伴い、年金の受給開始年齢が引き上げられていることから、老後の生活を維持するために、就労を希望する高齢者が増えている。
1-3 高年齢者雇用安定法の改正
それでは、定年制を巡る法規制はどのようになっているかをみてみましょう。高年齢者雇用安定法は、少子高齢化や人口減少が進展する中で、経済社会の活力を維持するため、働く意欲がある誰もが年齢にかかわりなく、その能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できるための環境整備を図る法律です。
高年齢者雇用安定法では、各企業に、
①60歳未満の定年禁止
②65歳までの雇用確保措置
を義務づけています。
①60歳未満の定年禁止
事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければならないと定められています。
②65歳までの雇用確保措置
定年を65歳未満と定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければならないと定められています。
・65歳までの定年引上げ
・定年制の廃止
・すべての希望者に対する65歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度など)の導入
さらに、この度、法律の改正(令和3年4月1日施行)により、
③70歳までの就業機会の確保措置
が加えられました。
これは、従来からの65歳までの雇用確保義務に加え、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、事業主に対し、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務を新しく設けたものです。
・70歳までの定年引上げ
・定年制の廃止
・70歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度など)の導入
・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
・70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
事業主が自ら実施する社会貢献事業、または、事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
このように、高年齢者雇用安定法では、以下の2段構えで、高年齢者の雇用確保および就業機会の確保対策が進められてきています。
①高年齢者の雇用確保対策
事業主に対し、以下の義務を課す
㋐60歳未満の定年禁止
㋑65歳までの雇用確保
定年を65歳未満と定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じること
・65歳までの定年引上げ
・定年制の廃止
・すべての希望者に対する65歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度など)の導入
②高年齢者の就業確保対策
事業主に対し、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務を課す
・70歳までの定年引上げ
・定年制の廃止
・70歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度など)の導入
・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
・70歳まで継続的に事業に従事できる制度の導入
1-4 定年制変革の背景
次に、定年制が変わってきている背景や原因についてみていきましょう。
①少子高齢化による労働力不足
65歳までの雇用確保の完全義務化、70歳までの就業機会の確保については、少子高齢化による労働力不足がその背景にあります。
近年では、少子高齢化の進展により、若年労働力が不足してきています。若年労働力の不足は、これまで主に、女性の社会参加や外国人労働力の活用などで補ってきた傾向がありますが、今後一層の不足が見込まれる労働力を充足するためには、高齢者層の現役引退を遅らせることにより、その労働力を活用することが非常に効果的です。
特に、肉体労働などの分野ではなく、これまでに長い期間にわたり蓄えた専門知識や技術・技能を生かせる分野において、高齢者層の労働力はその活用が期待されています。
近年における我が国の定年制度の変革は、このような少子高齢化による労働力の絶対的な不足を背景として、必然的に生まれてきたといえるでしょう。
②年金支給開始年齢との整合性
少子高齢化の急速な進展や経済低成長の長期化などから、将来的な年金財政は厳しい状況が想定されています。
このため、1994年の法改正により、老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は、2001年度から2013年度にかけて、60歳から65歳へ3年ごとに1歳ずつ引き上げられ、60歳からは報酬比例部分のみが支給されることとなりました(女性は5年遅れで実施)。
さらに、2000年の法改正により、老齢厚生年金の報酬比例部分についても、その支給開始年齢が、2013年度から2025年度にかけて、60歳から65歳へ3年ごとに1歳ずつ引き上げられていくこととされています(女性は5年遅れで実施)。
その結果、従来からわが国で普及していた60歳定年制がそのまま続けられるとすると、60歳で定年退職した後、65歳の年金受給開始年齢までの間、無収入の空白期間が生じることとなってしまいます。
したがって、従来からの60歳定年制を改め65歳までの雇用を確保することが、年金財政を維持しつつ高齢世帯の生活を守るためには避けて通ることができない道となります。
このように、年金支給開始年齢との兼ね合いが、65歳までの雇用確保の完全義務化に繋がったとする見方は否定できません。
③元気な高齢者の増加
少子高齢化の進展により、総国民数に占める高齢者の割合は増加しています。現在の65歳以上の高齢者は、戦前、戦中、戦後生まれの人が混在していますが、日本経済が大きく躍進し国民生活が豊かになっていく高度経済成長期を経験した年代です。その中には戦後教育を受けた世代も多く、国民の栄養状態の改善を背景に健康志向の価値観を持った世代といえます。
これらの経緯からもわかるように、現在の65歳以上の高齢者は昔の高齢者と異なり、気力、体力ともに元気な人の割合が増加しています。このことは、定年前後の50歳代後半から60歳代前半の人達も同様です。
元気な高齢者は、60歳で定年退職して隠居生活を送るという人生には満足しません。60~65歳以降も、気力と体力が続くうちは、社会参加して働きたいとの希望を持っている人が多いのです。
このように、元気な高齢者が増え、60~65歳以降も働きたいという社会的なニーズが、65歳までの雇用確保の完全義務化、70歳までの就業機会の確保の流れを後押ししています。
④高齢者を取り巻く将来不安
上でみてきたように、60歳を過ぎても元気な高齢者が増えており、そのことが定年制変革の流れにつながっています。しかし、同時に見落としてはいけない問題もあります。それは、老後の将来不安です。
日本人の平均寿命が延びていることから、国民の老後の人生は、一昔前と比べてより長い期間が想定されます。受給できる年金額には限度があり、豊かな老後生活を過ごすには決して十分な額とはいえません。必然的に貯金を切り崩しての老後生活を送る以外に選択肢はなく、そのことが長い老後生活の経済的な先行きを不安にさせています。
そのため、働けるうちは働いて生活費に充当しようと考える高齢者が増えており、その社会的な要請が、定年延長や継続雇用制度導入への原動力ともなっています。
1-5 定年制のメリット・デメリット
定年制には、様々なメリットがある反面、デメリットもあります。ここでは、定年制のメリットおよびデメリットについてみていきましょう。
【定年制のメリット】
定年制を設けるメリットは、以下の通りです。
- ①業務上の事故やミスを防止できる
- ②マンネリ化を防止できる
- ③優れた人材を登用できる
- ④若年層に昇進の機会を提供できる
- ⑤若返りを図り、組織を活性化できる
①業務上の事故やミスを防止できる
定年制を設けることは、業務上の事故やミスを防止することに繋がります。
人間は、歳をとるにつれて判断力や体力が衰えていきます。このため、業務の遂行過程で、トラブルや事故を誘発してしまう、判断や事務処理を誤ってしまうなどのトラブルが起きる可能性が高くなります。
例えば、建設現場で、加齢による体力的な衰えにより足がもつれて高所から転落してしまうなど、業務遂行において、判断力や体力の衰えは大きな事故やトラブルに発展しかねません。
このような業務上の事故やミスを未然に防ぐために、事前に、一定年齢に達したら業務の第一線から退くことを決めておくことが必要です。
②マンネリ化を防止できる
定年制を設けることで、業務遂行上のマンネリ化を防ぐことができます。組織というものは、業務を行う人の入れ替わりがあまりない場合は、新しい発想やアイデアなどが出てこなくなり、前例踏襲のマンネリズムに陥りやすい傾向があります。
例えば、定年制がなくいつまでも居ることができる組織があったとしたら、そこで働く人の顔ぶれはほぼ固定化してしまいます。このような組織で、いつまでたっても同じ人達が同じ業務を行い続けると、新しい発想に基づいた業務改善や新規業務の立ち上げなどもなくなっていき、前例踏襲のマンネリズムに陥ってしまいます。
定年制を設けることで組織の人材を入れ替え、新しい発想や考え方を持った人を導入することができます。
③優れた人材を登用できる
定年制は、組織に優れた人材を登用できる機会を与えてくれます。
定年制がない組織では、退職する人が極端に少ないため、いかに優れた能力や技術を持った人材がいても、採用することが難しくなります。定年退職する人がいて、はじめてその欠員に新規の人材を補充できるからです。
また、役職の上層部で定年退職する人がいないと、内部から優れた人材を登用することも難しくなります。
年制を設けることは、優れた人材を登用できる機会を組織に提供できるメリットといえるのです。
④若年層に昇進の機会を提供できる
定年制は、若年層に昇進の機会を提供してくれます。定年制がない組織では、上層部の人達が退職しないため、ポストに空きが生じ難くなります。そのため、若年層の社員や職員は、いつまでたっても昇進することができません。
定年制を設けることで、退職者のポストに空きが生じ、その席を有能な若い人達に振り向けることが可能となります。
⑤若返りを図り、組織を活性化できる
定年制は、組織の若返りを図り、活性化できるメリットがあります。
定年制により高齢者層が退職すると、人員補充のために若年層の新規採用や中堅層の中途採用が行われます。これにより、組織全体として、定期的に年齢層の若返りを図ることができます。また、若返りを図ることで、組織そのものを活性化できるメリットがあります。
仮に、定年制がないため人員の入れ替えがなく、いつまでも同じ顔ぶれの高齢者層が指導的ポストに居続けるとすると、斬新なアイデアや革新的なプランが出難くなり、前例踏襲や旧態依然とした経営が続くことにより、組織の思考や活動が硬直化してしまいます。
定年制により、定期的に組織の人員を入れ替えて外部の新鮮な人材を導入することで、組織の若返り・活性化を図ることができます。
【定年制のデメリット】
定年制には、様々なメリットがある反面、デメリットもあります。ここでは、定年制のメリットおよびデメリットについてみていきましょう。
①業務に熟知した人材を失ってしまう
定年制は、業務に熟知した人材を失ってしまうデメリットがあります。
一般的に、仕事は、学習を重ねながら実体験を積んで覚えるものです。したがって、その内容にもよりますが、業務に精通・熟知するには、一定の学習・経験期間が必要です。定年制は、長い期間をかけて業務に精通・熟知した人材を一律に退職させてしまうため、組織にとってマイナスの面を持っています。
②一貫性ある組織運営ができない
定年制により、一貫性ある組織運営ができない点は否定できません。組織は、一貫性ある組織運営によりその経営が安定します。組織の運営方針が、朝令暮改のようにコロコロと変わっていては、とても安定した組織運営はできません。
定年制によって、組織運営の意思決定に携わる上層部が退職し、新しい人が指導者となると、組織の運営方針が変わってくる可能性があります。その変わり方が、あまりに大き過ぎると、今までとのギャップによって、安定した組織運営が難しくなる場合もあります。
このように、一貫性ある組織運営の観点からは、定年制はデメリットとなります。
③個人の能力や体力が考慮されない
定年制は、個人の能力や体力が考慮されないデメリットがあります。人間の能力や体力には、個人差があります。組織で働く労働者には、能力や体力を常に高い水準で維持している人、反対に、若い頃から能力や体力に不安要素がある人など様々な人がいます。
高齢者に限っても、その中には、定年年齢を過ぎても若い人より仕事が正確かつ迅速にできる人、能力や体力が衰えて仕事を続けるのが難しい人など、著しい個人差があるのが社会の実態です。
定年制は、このような個人間の能力差や体力差を考慮せず、戸籍上の年齢で一律に退職年齢を決めてしまいます。組織に貢献できる貴重な能力を持った人材であっても、定年制により年齢のみを理由に退職させることは、社会にとって重要な戦力を失う大きなデメリットといえるでしょう。
2 一般社団法人とは
次に、一般社団法人とはどのような組織かについてみていきましょう。
2-1 法人の種類
法人は、以下のような種類があります。
①株式会社
②持分会社
持分会社には、合名会社、合資会社、合同会社などがあります。
③その他の会社
特例有限会社、外国会社などが該当します。
④一般法人
一般社団法人・一般財団法人などがあります。
⑤その他の法人
医療法人、社会福祉法人、学校法人、NPO法人、事業協同組合、農業協同組合、農事組合法人、管理組合法人、有限責任事業組合、投資事業有限責任組合などがあります。
一般社団法人は、上の法人の種類の中で「一般法人」の区分となります。
2-2 一般社団法人の意味
「社団」とは、同じ目的を持つ人が集まった団体のことです。この同じ目的を持って集まった任意団体である社団が、法律に基づき法人格を与えられると「一般社団法人」になります。
その根拠となる法律が、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」です。「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」では、一般社団法人の設立や社員にかかる規定のほか、社員総会や理事などの機関、会計、基金、定款変更、事業譲渡、解散などに関する定めがされています。
一般社団法人は、一定の目的を持つ2人以上が集まって法律上の要件を満たせば、法務局で登記することにより設立することができます。
一般社団法人の代表的なものをあげると、以下の通りです。
- ①同窓会
- ②業界団体
- ③学術団体
- ④職能団体
- ⑤自治会・町内会 など
同窓会や業界団体は、人が集まっただけであれば任意団体の同窓会や業界団体ですが、法人格を持つと一般社団法人の同窓会や業界団体になります。
一般社団法人の活動内容には、特に制限はかけられていません。事業の目的が公益目的でも公益目的以外でもどちらも認められており、自由な事業を行うことができます。また、事業目的が収益を上げることであっても、よしとされています。
一般社団法人は、他の種類の法人に比べると設立手続きが比較的簡単であるため、任意団体が法人化する場合に多く利用されています。
2-3 一般社団法人の要件
一般社団法人を設立するには、以下の要件を満たす必要があります。
①2名以上の社員が必要
一般社団法人では、設立発起人として2名以上の社員が必要です。
また、法人の運営者としても2名以上の社員が必要となります。一般社団法人の社員は、一般的な会社勤めでいう社員や従業員とは異なり、その法人の構成員として業務運営にかかる意思決定権を持つ人をいいます。
このことから、一般社団法人の社員は、株式会社の株主のような位置付けかと考えられがちですが、株式会社の株主のような出資義務はなく、利益や残余財産の分配を受けることもできません。
社員となる資格は限定されておらず、一般社団法人の定款で資格要件を定めます。
②1名以上の理事が必要
理事は、社員総会で社員の議決により選ばれますが、その人数は1名以上必要です。理事は、社員とともに一般社団法人の運営を行う役職です。なお、理事会を設置するためには、理事が3名以上、監事が1名以上必要となります。
③社員総会
一般社団法人には、法人の意思決定機関として社員総会を設置しなければなりません。社員総会は、一般社団法人の運営・管理などについて議決により決定する権限を持っています。定款の変更や法人の解散は、社員総会の議決により決定します。議決方法は、社員・理事の多数決によります。
法人の最高意思決定機関は社員総会ですが、理事会がある場合は、理事会が最高意思決定機関となります。
④剰余金・残余財産
一般社団法人は非営利法人とされ、その利益を社員に分配することが禁止されています。したがって、設立者や社員に剰余金、残余財産を受ける権利を与えないことが要件となります。
⑤事業報告の作成等
一般社団法人では、事業年度ごとの計算書類・事業報告等を作成することが必要です。書類は事務所に備え、閲覧等により社員・評議員・債権者に開示することとされています。
⑥貸借対照表
一般社団法人では、貸借対照表を作成し公告することが必要です。
2-4 一般財団法人との違い
一般社団法人は一般財団法人と似ていますが、以下の点が異なります。
- ①一般社団法人は、一定の目的のために集まった人によって運営される法人である
- ②一般財団法人は、一定の目的のために集められた財産を管理・運営する法人である
すなわち、一般社団法人は、「人の集まり」に対して法人格が与えられる組織であるのに対し、一般財団法人は、「財産の集まり」に対して法人格が与えられる組織である点が根本的な違いです。
3 一般社団法人におけるルールの定め方
次に、一般社団法人におけるルールの定め方についてみていきましょう。
3-1 定款
一般社団法人のルールを定める代表的なものは定款です。定款は、法人の目的や組織、活動内容、構成員などを定めた根本的な規則です。すなわち、定款には、一般社団法人の設立や存続に欠かすことができない最重要事項を定めることとされています。
一般社団法人の設立時には、法人設立の手続きを行う発起人が定款を作成し、発起人全員の了承を得た後に公証人の認証を受けます。
定款には、以下の3種類の記載事項があります。
①絶対的記載事項
必ず定款に記載しなければならない事項
②相対的記載事項
定款に定めておかないと有効とならない事項
③任意的記載事項
任意・自主的に定款に記載する事項
①絶対的記載事項
一般社団法人では、次の通り、定款に必ず記載しなければならない事項が決められています。
㋐目的
一般社団法人の事業目的については法律上の制限がなく、法律を侵さない範囲で自由に事業目的を設定することができます。
㋑名称
一般社団法人は、その名称に「一般社団法人」を使用することが義務付けられています。
なお、同一名称、同一所在地での登記はできないとされています。
㋒主たる事務所の所在地
定款に記載する主たる事務所の所在地は、市区町村までの記載でよいとされています。
市区町村までの記載とした場合は、定款作成後に、設立時の社員が番地を決定しておかなければなりません。
㋓設立時社員の氏名または名称および住所
定款には、設立時の社員の氏名・住所を記載しなければなりません。
なお、社員が法人の場合は、法人の名称、住所を記載します。
㋔社員の資格の得喪に関する規定
定款には、社員となるための資格や入退社手続き、退社事由などを定めておく必要があります。
㋕公告の方法
公告には、以下の方法がありますが、社員が公告方法を選んで定款に記載しておく必要があります。
・官報掲載
・日刊新聞紙掲載
・電子公告
・主たる事務所の公衆の見やすい場所(掲示板)に掲載
㋖事業年度
事業年度(決算月)は自由に決めることができますが、決定した事業年度を定款に記載する必要があります。一般社団法人は、この事業年度にかかる計算書類、事業報告、その他附属明細書を作成することになります。
②相対的記載事項
相対的記載事項は、その定めが記載されていなければ効力を生じない事項です。
- ㋐経費の負担に関する定め
- ㋑任意退社に関する定め
- ㋒社員総会の決議要件に関する定め
- ㋓理事の任期に関する定め
- ㋔理事の業務執行に関する定め
- ㋕理事会の招集手続きに関する定め
3-2 規則・規程
一般社団法人でルールを明文化しておくものとして、定款以外に規則・規程があります。法人における規則・規程は、社内規則・社内規定などとも呼ばれ、簡略化して内規ともいわれます。
規則・規程は、法人における業務の進め方や財務、服務などについて、あらかじめ社内的なルールを定めておくものです。規則・規程を作成するにあたっては、事前にその内容を所属職員に周知しておくことが大切ですが、必ずしも細部にわたって所属職員の同意・合意を得ておく必要はなく、法令や公序良俗に反しない範囲で、法人側の裁量で決めることができます。
規則・規程の具体的な例は、以下の通りです。
- ①法人理念、経営理念
- ②社訓
- ③就業規則
- ④理事会規則
- ⑤賃金規程、賞与規程
- ⑥退職金規程
- ⑦組織管理規則
- ⑧役職管理規則
- ⑨人事考課規程
- ⑩賞罰規程
- ⑪財務会計処理規則
- ⑫出張・旅費規程
- ⑬接待・交際費規程
- ⑭個人情報管理規程 など
規則・規程は、価値観や就業環境の変化などにより、常にその内容を見直してその時々の時代に適合するよう努めていく必要があります。
4 一般社団法人における定年制
次に、一般社団法人で定年制を設けることができるか、定年制を設ける場合はどのような手続きが必要かについてみていきましょう。
4-1 役員・職員の定年制は設けることができる
一般社団法人では、役員や職員の定年制を設けることは可能です。一般社団法人にかかわらず、株式会社を含めた法人全般では、営業の自由が保証されています。
法人の種類が違えばその根拠となる法律も異なり、制限される内容もそれぞれに違ってきます。しかし、それぞれの根拠法や全法人に適用される法令に抵触しない範囲内において、法人には営業の自由が認められており、法人は円滑な営業を進めるため、人事・労務・財務などの各面で独自の経営方策を講じることが認められています。
定年制は、役員や職員の退職時期を定めるもので、法人が事業活動を円滑に進めるための重要な経営・人事施策の一環といえます。現在、定年制を採用していない法人もありますが、多くの企業においては、業務上の事故やミスを未然に防ぎ組織の新陳代謝を進めるため、定年制を採用することは非常に重要な経営事項となっています。
このことから、一般社団法人においても、定年制は、法律に抵触せず公序良俗に反しない限り、組織が独自に設定することが可能です。
4-2 役員の定年制は定款で定める
定年制を定める場合は、誰もがあらかじめ知ることができるよう明文化しておく必要があります。そして、組織内での約束ごとを明文化しておくには、定款または規則で定めておく必要があります。
まず、理事をはじめとする役員の定年制については、定款で定めておく必要があります。
なぜなら、定款は、一般社団法人の最重要事項を定めておく規則だからです。
一般社団法人の定款には、絶対的記載事項として、「社員の資格の得喪に関する規定」を明文化しておく必要がありますが、これは、社員となるための資格や入退社手続き、退社事由などを定款に定めておくということです。
また、「理事の任期に関する定め」についても、記載しておかないと効力が生じない相対的記載事項として決められています。
このように、社員資格の得喪や理事の任期など、法人の最重要事項については、あらかじめ定款に定めておく必要があるのです。
役員に定年を設けることは、一定の年齢に達したら役員の資格を失うというルールを定めることです。したがって、役員の定年制を設けることは、「社員の資格の得喪」や「理事の任期に関する定め」と同様に一般社団法人の最重要事項と判断でき、定款への記載が必要と判断されます。
定款の内容を変更しようとすれば、一般社団法人の最高意思決定機関である社員総会の特別決議が必要です。定款に定めておけば、拘束力あるルールとして周知徹底することができます。
それでは、役員の定年を規則で定めてはいけないのでしょうか。役員の定年を規則で定めてはいけないという明確な決まりは特にありませんが、適切な処理方法とはいえません。例えば、ある一般社団法人で、「理事会規則で、理事の定年を70歳とする旨を定めた」場合に、どのようなことが想定されるでしょうか。
この例で、理事会規則で理事の定年が70歳とされているにもかかわらず、諸般の事情から72歳の人を新しい理事に推薦する旨を理事会で決定したとしたら、どうなるでしょうか。
この場合は、理事会規則の内容と理事会決議の結果が矛盾したものになります。
しかし、このようなケースでは、理事会規則を定めた古い理事会の決議より、新理事を推薦した新しい理事会の決議が優先されます。この時の理事会のメンバーは、理事の定年70歳という理事会規則を承知しながらも、70歳超の人材を新理事に推薦することについて、法人経営存続の観点から特段の事情を勘案し、理事会規則に従わなくてもやむを得ないと判断したとみることができます。
理事会規則は法人の内規でしかなく、法的拘束力がありません。したがって、上の例で、「新理事を推薦した理事会決議は理事会規則に反し無効である」と理事メンバーの1人が声を上げても、法的に理事会決議をひっくり返すことは難しいといえます。
以上のように、理事など役員の定年は、
㋐定款の絶対的記載事項、相対的記載事項と同等の重要事項であること
㋑理事会規則などの内規で定めても、法的拘束力がないこと
の理由から、定款で定めておくことが必要です。
また、上の例のように、法人の最重要事項である役員人事の決定に関し、後々無用な混乱が生じるのを避けるには、拘束力ある定款に定めておく方法が適切といえます。
4-3 職員の定年制は就業規則で定める
それでは、一般社団法人の事務職員など一般職員の定年については、どうでしょうか。一般職員の定年については、就業規則で定めることが必要です。役員に比べ、一般職員の定年は法人の最重要事項とはいえません。したがって、定款に定めても法人の運営上不都合はありませんが、定款ではなく規則で定める方が妥当な処理方法となります。
ただし、上で説明したように、規則は法人の内規でしかなく、法的な拘束力を持たないため、どのような規則であっても定めてあればよいという話ではありません。
規則であっても、後々、定年制を巡って法人と職員との間でトラブルが生じた場合に、法人、職員双方の利益を確実に守ってくれる規則でなければ意味がありません。そのような視点からみると、規則の中でも、就業規則で定めておくのが最善の方法です。
後で説明するように、定年制を設ける、または定年年齢の引き上げなどを行うと、労働基準法に基づいて就業規則を作成・変更し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
就業規則は、理事会規則などのような単なる内規とは異なり、そこに定めた内容は労働基準監督署の監視下に置かれ、就業規則を定めた法人およびそこで働く労働者ともに、その内容を遵守する義務を負います。特に定年制の新設や変更は、就業規則の作成・変更および労働基準監督署への届出義務が課される重要な就業の内容なのです。
さらに、就業規則は他の社内規則とは異なり、その内容は法人と労働者との合意に基づくものでなければなりません。他の内規は、法人と労働者との間に合意がなくても定めることができますが、就業規則は、就業に関するルールを法人・労働者間の契約として定めるものです。
このように、職員の定年制を就業規則に定めておけば、その決まりは法人およびそこで働く職員すべてが守る義務を負い、かつ法人・職員双方の利益をも守ってくれるのです。
5 定年制を設ける場合の注意点
次に、定年制を設ける場合に、どのような点に注意すればよいかについてみていきましょう。
5-1 60歳未満の定年は違法となる
高年齢者雇用安定法では、定年年齢を60歳未満とすることを禁止しています。このため、この規定に違反した定年制は、法律違反となります。
例えば、職員の定年年齢を55歳とする定年制を定款に定め、社員総会の決議を経て成立したとしても、その内容が法律に違反しており効力が生じません。
定年制を設ける場合は、法律に抵触していないかどうかについて注意が必要です。
5-2 定年制は設けなくてもよい
高年齢者雇用安定法では、65歳から70歳までの就業機会を確保するため、事業主に対し、以下のいずれかの措置を講ずる努力義務を課しています。
- ①70歳までの定年引上げ
- ②定年制の廃止
- ③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度など)の導入
- ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- ⑤70歳まで継続的に事業に従事できる制度の導入
上に示された措置のうち、事業主が「定年制の廃止」を選択すれば、その企業は法律の要請を遵守していることになります。
すなわち、定年制を設けずに、または定年制を廃止して、高齢者が希望する限り、いくつになっても働き続けられる労働環境を提供することは、法律の趣旨に沿った選択肢といえます。
5-3 60歳に達する労働者がいなくても、高年齢者雇用確保措置が必要
当面、60歳に達する労働者がいない企業であれば、高齢者の雇用確保について対策を講じなくてもよいのでしょうか。仮に、当面60歳に達する労働者がいない企業でも、高年齢者雇用安定法で義務付けられた以下の高年齢者雇用確保措置を講じる必要があります。
すなわち、高年齢者雇用安定法における高年齢者雇用確保措置は、
①60歳未満の定年禁止
事業主が定年を定める場合は、その定年年齢は60歳以上としなければならない
②65歳までの雇用確保措置
定年を65歳未満と定めている事業主は、以下のいずれかの措置を講じなければならない
・65歳までの定年引上げ
・定年制の廃止
・すべての希望者に対する65歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度など)の導入
高年齢者雇用確保措置は、すべての企業に対して一律に適用される義務であることから、当面60歳に達する労働者が生じない企業でも、法律で義務付けられた高年齢者雇用確保措置を講じておかなければならないのです。
5-4 65歳に達する労働者がいなくても、高年齢者就業確保措置が必要
それでは、当面、65歳に達する労働者がいない企業であれば、高齢者の就業確保について対策を講じなくてもよいのでしょうか。仮に、当面65歳に達する労働者がいない企業でも、高年齢者雇用安定法で努力義務とされる以下の高年齢者就業確保措置を講じる必要があります。
- ①70歳までの定年引上げ
- ②定年制の廃止
- ③70歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度など)の導入
- ④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- ⑤70歳まで継続的に事業に従事できる制度の導入
高年齢者就業確保措置は、すべての企業に対して一律に適用される努力義務であるため、当面65歳に達する労働者が生じない企業でも措置を講じておくことが求められているのです。
5-5 定年制を設けると、就業規則を行政官庁に届け出なければならない
定年制を設ける、または定年年齢の引き上げなどを行うと、就業規則を作成・変更し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
労働基準法第89条によると、常時 10 人以上の労働者を雇用する使用者は、法定の事項(同法第89条第1~10号)について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならないこととされています。これは、法定の事項について、変更した場合についても同様です。
定年制の新設、定年年齢の変更などの事項は、同法第89条第3号の「退職に関する事項」に該当することから、 就業規則を作成・変更し、所轄の労働基準監督署に届け出なければならないので、注意が必要です。
6 まとめ
一般社団法人は、円滑な事業を進めるため、他の法人と同じように人事・労務・財務などの各分野で独自の経営施策を講じることが認められており、その一環として定年制を設けることが可能です。
一般社団法人が定年制を設ける場合は、あらかじめその制度内容を明文化しておかなければなりませんが、役員の定年制と一般職員の定年制は、分けて考える必要があります。
すなわち、役員の定年制は、一般社団法人の経営にかかる最重要事項として定款で定めておくことが肝心です。その理由は、定款で定めておけば法的な拘束力を持ち、誰もが遵守しなければならない絶対的なルールとなるからです。
その内容を変更しようとすれば、定款変更の手続きとして社員総会の特別決議が必要となります。
一方、一般職員の定年制は、一般社団法人の経営にかかる最重要事項とはいえないことから、就業規則で定めておくのが適切な方法です。就業規則は、他の内規とは異なり、法人とそこで働く労働者間の契約を定めたものです。就業規則に定めた内容は、所轄の労働基準監督署に届けられ、法人と職員双方ともにその内容を遵守する義務を負うことになるのです。
定年制を設ける場合は、法令に違反しないよう、また法令の要請に沿うよう注意・努力する必要があります。特に、高年齢者雇用安定法では60歳未満の定年を禁じているため、それに反した制度設計はできません。また、高年齢者雇用安定法が義務としている「65歳までの雇用確保措置」に留意するとともに、同法が努力義務としている「70歳までの就業確保」の実現に努めることが求められます。
定年制の内容が、一般社団法人とそこで働く労働者双方の利益を守ってくれるよう、時代の要請を見極めながら、制度設計を行うことが重要でしょう。