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日本と諸外国の起業数・会社設立数を比較 なぜ日本の起業意識は低い?

日本は先進国等に比べ起業数が少なく、日本人は起業意識が低いと言われることが少なくありません。確かに自分の身の回りを見渡しても起業する方は多いと言えないのが現実です。

今回は日本と諸外国の起業数やスタートアップ企業などを比較しながら日本人の起業意識の低さの状況を確認するとともにその原因を探っていきます。また、起業意識を高め起業数を増やすための方策や起業・会社設立で今後注目したい分野についても紹介します。起業や会社設立に興味のある方、起業家を応援したい方などはぜひ参考にしてください。

1 日本と諸外国の起業数等の現状と国際比較

日本と諸外国の起業数等の現状と国際比較

まず、日本と諸外国の起業数やスタートアップ企業などから起業の状況を確認していきましょう。

1-1 開業率の国際比較

日本の開業率は、国際的にみると欧米諸国と比べかなり低い水準にあります。

2017年度版中小企業白書の第2-1-7図(下図)では、欧米諸国と日本の開業率・廃業率の推移が示されています。日本の開業率・廃業率は、2001年から2015年まで開業率が5%前後、廃業率が4%前後です。

この値は欧米諸国と比較して全般的に非常に低い水準であるとともに、イギリスやフランスでの開業率が13%前後と非常に高く日本は10ポイント近くも離されていることが確認できます。

ただし、開業率・廃業率の計算方法、統計の取り方が各国で異なるため、単純なデータの比較はできないですが、数値だけを見ると日本の開業率が海外の先進国より劣っていると判断できるでしょう。

また、開業率だけでなく廃業率も欧米諸国より大きく劣っています。開業率が低いから廃業率も相対的に低くなりやすいとも言えますが、開廃業率が全般的に低い状態は産業全体の新陳代謝が活性化されていない状態であり、好ましい状態とは言えません。

なお、開業率及び廃業率は以下のように算出されています。

  • ・雇用保険事業年報による開業率=「当該年度に雇用関係が新規に成立した事業所数÷前年度末の適用事業所数」×100%
  • ・雇用保険事業年報による廃業業率=「当該年度に雇用関係が消滅した事業所数÷前年度末の適用事業所数」×100%

2017年度版中小企業白書の第2-1-7図

(引用:2017年度版中小企業白書の第2-1-7図

1-2 スタートアップ企業数の国際比較

世界のスタートアップ企業などの情報を提供しているWEBサイト「スタートアップランキング*」によると、日本は世界で21位です(2020年3月のサイト情報)。

スタートアップは「起業」や「新規事業の立ち上げ」などの意味で使用されることが多く、新しい技術やビジネスモデルで急激に市場開拓している企業などを指すケースが多いです。「スタートアップランキング」のスタートアップの定義では、ソフトやハードで最新の技術を持っていている創業10年以内の独立企業などを指しています。

このランキングを見ると、1位はアメリカの47,897社、2位がインドの7,408社、3位がイギリスの5,183社、4位がカナダの2,632社、5位がインドネシアの2,174社、6位がドイツ2,064社、7位がオーストラリアの1,527社、8位がフランスの1, 454社、9位がスペインの1,270社、10位がブラジルの1,107社です。

(引用:スタートアップランキング

順位を少し飛ばすと、20位が中国の571社で、続いて日本が556社の21位となっています。世界的に見れば日本は上位の方にあるとも言えますが、GDP世界3位の経済大国である日本としては納得できる順位とは言えないでしょう。

1-3 ユニコーン企業数の国際比較

文部科学省傘下の「科学技術・学術政策研究所(NISTEP)」が米国CB Insightsの調査をもとにユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上の未上場企業 2019年1月18日現在)の状況をまとめた情報を同研究所のサイトで提供しています

それによると、分類別・国別ユニコーン企業数(2010~2018年)では日本は1社と諸外国と比べ多いとは言えない状況です。

ユニコーン企業は、企業評価額が10億ドル以上の非上場企業で、設立10年以内のスタートアップなどを指します。たとえば、Facebook社やツイッター社も以前はユニコーン企業でした。

つまり、ユニコーン企業はスタートアップが急激に成長して膨大な事業規模を持つようになった高額の評価額を有する企業であり、起業家が目指すマイルストーンの1つと言えるでしょう。

下図はNISTEPが米国CB Insightsの調査を基に、ユニコーン企業とされる企業価値が10億ドル以上の未上場企業のデータ(2019年1月18日現在)を利用して作成されたものです。

「分類別・国別」のユニコーン企業数は、アメリカが151社で1位、次に中国が79社で2位、3位がイギリスで16社となっており、日本は1社でトップスリーより大きく引き離されています。つまり、日本の現状では、スタートアップが巨大企業になるのが難しいことを物語っているわけです。

分類別・国別ユニコーン企業数

(引用:5.4.3主要国における起業の状況

1-4 起業数の少なさや開業率の低さの影響

起業数の少なさや開業率の低さの影響

起業数や開業率の相対的な少なさ、スタートアップやユニコーン企業の少なさが自国の経済にどのような影響を及ぼすものなのかを簡単に説明します。

①開業率の低さによる影響

実質GDP成長率と開業率には正の相関関係が見られ、名目GDPと開業率においてはより強い正の相関関係が見られることから開業率が低いとGDP成長率に悪影響を及ぼしかねません。

2005年度の中小企業白書の第3部 「日本社会の活力と中小企業」の第3-3-37図と第3-3-38図で開業率とGDPとの関係が示されています。結論からすると、開業率とGDPとの間には正の相関関係が見られ、特に名目GDPにおいてはより強い傾向が見られるのです。

つまり、GDP成長率が高ければ開業率も高まるということであり、経済状況が良好で成長の勢いが強いほど起業者が多くなるということになります。従って、開業率から見れば開業率が高いほど、起業者がより多くなるほどGDP、経済に良い影響を与えることになるのです。

第3-3-37図 開業率と実質GDP成長率の関係
~開業率と実質GDP成長率には正の相関関係が見られる~

第3-3-37図 開業率と実質GDP成長率の関係

(引用:第3-3-37図 開業率と実質GDP成長率の関係

第3-3-38図 開業率と名目GDP成長率の関係
~開業率と名目GDP成長率にはより強い正の相関関係が見られる~

第3-3-38図 開業率と名目GDP成長率の関係

(引用:第3-3-38図 開業率と名目GDP成長率の関係

また、開業率が高ければ新規開業者が増加することになり雇用者も増加し、経済成長にプラスの影響を与えるでしょう。

②開廃業率の低さの影響

参入・進出する者が少なく退出する者も少ない産業は停滞している可能性が高いため、開廃業率の低さは産業や経済にとって良い状態とは言えません。

退出する者の理由も様々ことが考えられますが、最も多く考えられる理由は競争に敗れる、顧客の支持が得られない点が挙げられるでしょう。逆に生き残った者の理由では競争に勝った、顧客の支持を得た といったことになります。

開業して生き残るには競争に勝てるだけの技術や新規性などが必要であり、それが顧客からの支持を得る要因になっているケースが多いはずです。従って、そうした技術力や新規性を有する新規開業者が増加すれば、その産業は新たな成長や発展できるチャンスを得ることになります。

逆にそうした新規参入者が少なければその産業は発展できるチャンスが少なくなるのです。開廃業率が低い状態は産業の新陳代謝が低下している状態であり産業や経済にとっては好ましい状態ではありません。逆に開廃業率が高い状態は新陳代謝が活発であるため好ましい状態と言えるでしょう。

③スタートアップやユニコーン企業の少なさの影響

開業率が低い、新規開業者が少ないのであれば、新規性のあるビジネスや技術力を有するスタートアップ企業も少なくなり、結果的にユニコーン企業の誕生も少なくなってしまいます

ユニコーン企業の定義としては、創業から10年以内で企業評価額が10億ドル以上、未上場の技術力を有するスタートアップ企業などとされるケースが多いです。

つまり、ユニコーン企業は創業10年以内の比較的新しい企業であり、企業価値が1,000億円以上の成長段階にある企業であることから、そうしたユニコーン企業が多いほど自国の経済にはプラスになります。

そのユニコーン企業がアメリカでは約150社、中国では約80社となっていますが、日本ではたったの1社と寂しい状態です。経済成長率が鈍化している日本にとっては開業率を増大させ、有望なスタートアップ企業を増やし、ユニコーン企業へと育成していく取り組みが必要になっていると言えるでしょう。

2 日本の起業数と日本人の起業意識

日本の起業数と日本人の起業意識

ここでは日本での起業者数や起業数を確認し、それに関連する日本人の起業意識について確認していきます。

2-1 日本の起業者の現状

まず、日本の起業者の状況を調べてみましょう。

①起業の担い手の推移

2019年度版中小企業白書の附属統計資料 10表によると、個人企業と会社企業の開業企業数は、2009年~12年は154,998社(開業率1.4%)、12~14年が436,037社(開業率4.6%)、14~16年が263,531(開業率3.6%)となっており、直近では減少傾向が見られます。

なお、個人企業と会社企業を分けた場合の状況は下表の通りです。

会社企業 個人企業
2009年~12年 55,010社 99,988社
12~14年 228,084社 207,953社
14~16年 104,388社 159,143社

会社企業も個人企業も直近にかけては減少傾向であることは同じですが、会社企業の方がより減少率が高くなっていることが確認できます。つまり、起業する場合、会社設立よりも個人事業形態を好む、或いは何らかの理由で選択した言えるでしょう。

下図は2017年度版中小企業白書の第2-1-1図で、日本の起業を担っている起業希望者数、起業準備者数、起業家数の経年推移を表したものです。

この資料によると、起業希望者数、起業準備者数は1997年から減少傾向が鮮明であり、起業家数も2002年が38.3万人、2007年が34.6万人、2012年が30.6万人と少しずつ減少しています。

しかし、起業準備者数と起業家数の減少の程度は、起業希望者数の減少よりも比較的緩やかです。起業希望者に対する起業家の割合で見れば、1997年から2012年においては13.1%、18.6%、19.9%、20.2%と増加が見られます。つまり、起業したいと思った方が実際に起業する傾向は強まっているのです。

その結果、起業希望者数が減少する中で、ある程度の起業家の誕生が維持されています。

2017年度版中小企業白書の第2-1-1図

(引用:2017年度版中小企業白書の第2-1-1図

2-2 日本人の起業に対する意識と国際比較

2017年度版中小企業白書の第2-1-8図では「起業意識の国際比較」の内容が示されています。この資料は、起業意識と起業活動の国際比較を行うために、世界の主要国が参加する「Global Entrepreneurship Monitor(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)」(GEM)調査の結果を基に日本と欧米諸国の起業意識や起業活動の違い表したものです。

第2-1-8図の内容を見ると、「周囲に起業家がいる」、「起業するために必要な知識、能力、経験がある」などの項目のほか、すべての項目において、日本の回答の程度は欧米諸国に比べかなり低く、日本人の起業意識の水準が欧米諸国よりもかなり低いことが確認できます。

2017年度版中小企業白書の第2-1-8図

(引用:2017年度版中小企業白書の第2-1-8図

また、第2-1-9図では「起業無関心者の割合の推移」が確認できます。先の資料の調査で使用された起業意識の程度を測る項目には、「周囲に起業家がいる」、「周囲に起業に有利な機会がある」、「起業するために必要な知識、能力、経験がある」がありました。

この3つの項目に「該当しない」と回答した人を「起業無関心者」とした場合の、全体に占める起業無関心者の割合の推移が第2-1-9図で示されています。このデータを見れば、日本人の起業無関心者の割合が、欧米諸国と比較していかに高いレベルで推移しているかが分かるはずです。

2017年度版中小企業白書の第2-1-9図

(引用:2017年度版中小企業白書の第2-1-9図

2-3 起業意識と実際の起業との関係

起業意識の有無や強弱などによって実際の起業活動へどのように影響するのか、その関係について確認すると、日本の場合起業意識の高い人は実際に起業するケースが多いです。日本では起業に無関心な人の割合が高いですが、一度関心を持てば起業を実行するケースが多く見られます。

2017年度版中小企業白書の第2-1-10図では「起業意識と起業活動の関係」が示されています。この図は、全体及び起業に関心を持っている者(起業関心者)各々に占める、起業活動を行っている者(起業活動者)の割合について、国際比較した資料です。

全体に占める起業活動者の割合においては、日本は欧米諸国と比較して低いレベルにあることが確認できます。一方、起業関心者に占める起業活動者の割合を見ると、イギリス、ドイツ、フランスよりも高く、米国とほぼ同レベルであることが分かるはずです。

以上の内容から、日本人の起業意識の水準は、欧米諸国と比べて低いですが、他方、起業関心者については実際に起業活動を行うケースが高いということが分かります。そのため日本では起業無関心者に、起業に興味を持たせるような働きかけ、起業意識を抱かせる取り組みが起業の増加に必要であると言えるでしょう。

2017年度版中小企業白書の第2-1-10図

(引用:2017年度版中小企業白書の第2-1-10図

2-4 アムウェイによる起業意識調査

家庭日用品等を販売するがアムウェイが実施した起業意識調査(世界44カ国を対象)の「起業に関する意識 国際比較調査2015」の結果を日本法人の日本アムウェイ合同会社が発表しています。

その発表では、起業意識に対するグローバル調査と日本独自の調査の結果が公表されました。

1)グローバル調査の結果で見られる日本の特徴

グローバル調査の結果で見られる日本の特徴

・「起業がとても遠い存在となっている日本」

日本人の起業意識は、昨年に続いて調査対象国(44カ国)中、最下位です。起業への関心・意識が低いだけでなく、自分自身に起業の能力があると認める日本人が8%となっており、起業には高い能力が必要だと感じている日本人が多いことが確認できます。

・「年々低下する起業への姿勢」

昨年は75%と世界平均と同レベルの結果であり日本人が起業に対して積極的である姿勢が見られました。しかし、今年は63%と12%も低下し、日本人の起業に対する消極的な姿勢が強まっています。

また、「自分自身が起業することを想像できますか?」の質問に対して、世界平均(2015年)は43%であるのに対して、日本人は13%と大幅に少なく日本人の起業意識の低さが浮き彫りにされました。

・「社会環境と起業の関係」

自国の社会が起業に肯定的であるかの質問に対して、世界平均は50%の人が肯定的と回答する一方、日本人はわずか30%の人しか肯定的であると感じていません(昨年よりも10%減少)。

日本人は自国が「起業が評価される社会」とはあまり考えておらず、社会の起業に対するイメージの向上が起業の増加には必要と考えられます。

・「独立してビジネスを始める理由」

独立してビジネスを始める理由は、「雇用主からの独立」が世界やアジア平均では第1位(48%)です。一方、日本人の最大の理由は「自己実現」で、「雇用主からの独立」はわずか15%でした。

日本では2014年において「家庭、余暇、仕事のバランス」という独立の理由が26%でしたが、今年は6%減少し20%となり起業の重要な要素と見られなくなっています。

「雇用主からの独立」をあまり考えていないことは会社員としての安定した生活を重視する傾向がある(独立よりも重視している)と言えるでしょう。また、ワークライフバランスを多少犠牲にして安定した仕事に就くことを重んじる傾向が確認できます。

2)日本独自調査結果から認められる日本人における起業の特徴

日本独自調査結果から認められる日本人における起業の特徴

・「日本の起業家はスペシャリストではなく、オールラウンダー」

起業意識の高い集団の特徴には、1つのずば抜けた能力があるのではなく、色々な能力をバランスよく有している結果が現れています。

・「自身の抱えるメンタルブロックが、起業へのブレーキをかけている」

起業意識の低い集団ではその8割にメンタルブロック(見えない精神的な壁)があるという結果が確認できました。それに対し起業意識の高い集団のメンタルブロックが占める割合は1.5割という結果になっています。

⇒起業意識の低い集団では、失敗への恐れや新しいアイデアを生み出せない等の能力面が精神的な壁になり起業を阻害しかねません。

・「幸福度の高い起業志向群」

起業意識の高い集団は、低い集団に比べ3倍以上も「幸せである」と感じていることが分かりました。

⇒幸福度の定義は人によって異なりますが、自分が幸福と感じられる状態では精神・肉体が健全であり、生活も健全であることが推察されます。起業には様々な困難が生じることも多いため、自身が健全な状態でないと起業する決意を固めるのも容易ではないでしょう。

・「海外経験が、起業志向に大きく影響する」

海外留学や居住の経験を有する人はそれがない人に比べ、起業意識が10%以上も高いことが判明しています。

⇒海外の生活経験では、外国人とコミュニケーションをとる、異文化に対応する、日本人と違った価値観と向き合う、など新しいことに挑戦するといった経験が持ちやすくなります。そうした経験が起業に対する精神的な壁を取り除き、リスクをとる行動を促してくれるのでしょう。

3 日本人の起業意識が低い原因・理由

日本人の起業意識が低い原因・理由

日本人の起業を促進するためには、起業意識が低い原因・理由を明らかにしてそれらの要因に働きかけていく必要があります。

3-1 起業の目的・動機から見る起業意識

起業した人がどのような目的・動機で起業しているか確認し、起業意識の低い理由を探ってみましょう。

2011年度版中小企業白書の第3-1-31図を見ると「起業の動機・目的」の状況が確認できます。その動機の主要な項目は、「自己実現」「自分の裁量による労働」「社会貢献」「専門技術・知識等の利用」「アイデアの事業化」「大きな所得」などです。

動機・目的の傾向から判断すると、起業家には会社組織での勤務では実現しにくいことに挑戦する姿勢や挑戦する意欲の高さが感じられます。つまり、起業意識の低い人は、こうした項目に関心が薄いということであり、以下のような要因が起業意識を低下させている可能性があります。

・自己実現

自己実現に魅力やメリットなどを感じる機会が少ない、自己実現が評価されにくい環境にある

・自分の裁量による労働

自分の考え、技術や能力を活かして仕事をすることの達成感やメリットを実感することが少ない、自分の裁量による労働の成果が評価されない

・社会貢献

社会貢献することの意義を感じない、社会貢献することでの社会からの評価が小さい

・専門技術・知識等及びアイデアの利用

専門技術・知識等、アイデアを自分の事業として利用することの価値やメリットを思い描けない、その価値を自分で評価していない

・大きな所得

起業して大きな所得が得られるという可能性を確信できない、大きな所得が得られるイメージがわかない

以上のような状態は起業意識を低下させる原因となり起業の妨げになり得るため、社会として改善していく取り組みが求められます。

2011年度版中小企業白書の第3-1-31図

(引用:2011年度版中小企業白書の第3-1-31図

3-2 開業率が低い理由

開業率の低さは起業意識と関係するため*、ここではその内容を確認していきましょう。

*「起業意識が低い⇒起業活動をしない⇒起業が増えない⇒開業率が低い」と考えられるため

2014年度版中小企業白書の第3部第2章第3節「『起業大国』に向けて」において日本の開業率が低い理由が説明されています。下図の第3-2-36図は、起業に興味を持つ人に対して、日本の開業率が低い理由を聞いた結果です。

開業率が低い理由

理由は大きく3つに分けられており、その1つ目の理由は

「起業家を育成するための教育制度が十分ではない」
「大企業への就職等、安定的な雇用を求める意識が高い」
「起業を職業の選択肢として認識する機会が少ない」

など「起業意識」に関する要因と言えます。

2つ目の理由は

「起業した場合に、生活が不安定になることに不安を感じる」
「個人保証の問題等、起業に失敗した際のセーフティーネットが整備されていない」
「雇用の流動性が少なく、失敗した時の再就職が難しい」

といった「起業後の生活・収入の不安定化」に関する要因です。起業意識の観点で見ると、起業には「起業後の生活・収入の不安定化」というイメージがあるため、起業意識を弱めているとも言えるでしょう。

3つ目の理由は

「起業に要する金銭的コストが高い」
「起業にかかる手続きが煩雑」

などの「起業に伴うコストや手続」に関する要因でした。これも起業意識の観点から見ると、「起業に伴うコストや手続」での負担が重いというイメージがあるため、起業意識を弱めているものと考えられます。

従って、これらの3つの理由の分野に対する改善への取り組みが起業数の増加に繋がるはずです。

2011年度版中小企業白書の第3-2-36図

(引用:2011年度版中小企業白書の第3-2-36図

3-3 起業環境の状況

2017年度版中小企業白書の「コラム2-1-2」で「起業環境・起業支援施策の国際比較」が紹介されています。

コラム2-1-2①図「起業環境の国際比較」では起業環境について国際比較した場合の「起業のしやすさ世界順位」が示されており、日本は89位です。従って、日本社会は世界的に見れば起業に優しい環境とはとても言えません。

内容としては、「起業に要する手続き数」が多く、「起業にかかる日数」も長く、開業コストも他国以上に高い状態です。こうした現状では以下のように起業意識を低めることになりかねないでしょう。

「手続が多くて起業が面倒だ!」「起業にかかる日数が多くかかり、ビジネスチャンスに影響する!」「起業の費用が多くかかり、起業後の生活が不安だ!」

2017年度版中小企業白書の「コラム2-1-2」

(引用:2017年度版中小企業白書の「コラム2-1-2」

以上のように、単に日本の起業環境は海外と比較して芳しいものではないというだけでなく、起業を妨げている可能性もあると言えます。スタートアップ企業やユニコーン企業が少ない理由はこうした日本の起業環境の厳しさが一因になっていると考えてもおかしくないでしょう。

3-4 起業のきっかけから見える起業意識

起業意識がどのように芽生えるかを把握することは、起業意識の低さの原因を把握し意識を高めるために重要です。ここでは2014年度版中小企業白書の第3-2-13図「起業したきっかけ」からその点を考察していきます。

この図は「起業家に向けた第一歩として、起業に無関心な者が、どのようなきっかけで起業に興味を持った」かについてまとめた資料です。

図によると、全体としては「働き口(収入)を得る必要」が高く、次いで「周囲の起業家の影響」「現在の職場での先行き不安」「本やテレビ、インターネット等での影響」「退職」「時間的余裕」「資格の取得」などが多くなっています。

つまり、こうしたきっかけがあると起業意識が高まり実行されやすくなると言えるでしょう。逆にそれらのきっかけに触れないほど起業意識は低くなりやすいと言えるはずです。

たとえば、「働き口として起業は役立たない」と感じるようになれば起業意識は高くなるとは考えられません。また、「周囲では起業家と接する機会がない」という状態では起業に興味を持つ確率も高まらないでしょう。

また、本やメディアから起業に関する情報を入手する機会が少なければ、起業に興味を持つことも少なくなるはずです。

なお、女性の場合は、「時間的余裕(介護や子育て等が一段落)」や「家庭環境の変化(結婚・離婚、出産等)」などの家庭面に関する要因が多いため、女性の起業は、家庭とのバランスや両立が必要となっていることが確認できます。

従って、「起業が家庭とのバランスや両立を困難にする」といったイメージを持たれると、女性の起業は少なくなってしまうでしょう。そのため起業がワークライフバランスに有効というイメージを持ってもらう取り組みが必要です。

2014年度版中小企業白書の第3-2-13図

(引用:2014年度版中小企業白書の第3-2-13図

4 起業数を増加させるための方策

起業数を増加させるための方策

起業数・開業率の現状や起業意識の低い理由などをもとに行政や民間で起業を支援するための取り組みが行われています。ここではその方策について紹介しましょう。

4-1 起業意識の向上に向けた変革

日本人の起業意識は国際的に見ても低いため、この意識を高めることなくして起業数を増加させることは困難です。2014年度版中小企業白書ではこの点について、第3部第2章第3節の「『起業大国』に向けて」で「起業家教育」と「起業に対する社会的評価の改革」の必要性を説明しています。

①「起業家教育」

1)起業家教育が必要

起業に興味を持つ人に「日本の起業家教育は十分に行われているか」を質問した結果、不十分とする意見が60%以上になっており(第3-2-38図)、「今後、関係省庁と文部科学省が連携しつつ、起業家教育をより充実したものにしていく必要がある」と同白書は指摘しています。

2014年度版中小企業白書の第3-2-38図

(引用:2014年度版中小企業白書の第3-2-38図

2)初等教育から大学教育段階までに起業家教育の導入が必要

同白書では、「起業に関心を持ってもらうために、どのような教育を、どの時期に行えば良いか」について質問した結果を第3-2-39図で紹介しています。

その内容では、「初等教育段階から伝記や体験談、社会経験のような形で起業家と接点を持たせる」ことや、「中等、高等、大学教育段階で、インターンシップや簿記、金融、マーケティング等の実務的なことを教育する」ことが多く挙げられていました。なお、「起業家教育の必要はない」とする回答の割合は約1割と圧倒的に少ないです。

2014年度版中小企業白書の第3-2-39図

(引用:2014年度版中小企業白書の第3-2-39図

以上の結果から分かるように起業家と触れ合う時間を有することは、起業に興味を抱いてもらう、起業意識を高める上で重要と判断できます。

また、起業のステージごとに周囲にどのような起業家が存在したかを調べた結果が下図の第3-2-40図にまとめられています。

2014年度版中小企業白書の第3-2-40図

(引用:2014年度版中小企業白書の第3-2-40図

この資料によると、起業無関心層や潜在的起業希望者の場合、周囲に起業家がいないケースが多く、そのことが「起業」に興味や起業のリアリティを持てない一因となっていると推察されるのです。

若者が起業を意識したきっかけには、「周囲の起業家の影響」と答える人が多いことから(第3-2-13図)、小さい頃から起業家と接触することは、起業意識を高め柔軟な職業選択ができることに貢献するものと判断できます。

②「起業に対する社会的評価の改革」が必要

下図の第3-2-41図は、「起業に関する社会的評価を分析するために、起業のステージごとに周囲からどのような評価を受けたか調査を行った」結果の資料です。

初期起業準備者の段階で応援された割合は、配偶者からは約2割弱、両親からは約1割と低い状況ですが、起業の段階が上がり起業準備者や起業家になるに伴い周囲からの評価は向上することが確認できます。

2014年度版中小企業白書の第3-2-41図

(引用:2014年度版中小企業白書の第3-2-41図

こうした結果に対して、白書では「初期起業準備者において、周囲からの評価が低い理由として、起業家に対する社会的なイメージが一因と考えられる」と分析しているのです。

メディアなどの影響により、起業がハイリスク・ハイリターンという印象がもたれる傾向があり、「成功すればITベンチャー経営者のような資産家になれる」が、「失敗すると多額の借金を抱えて悲惨な人生を送ることになる」などの両極端な起業のイメージが世間に行き渡っているのではないかと考察しています。

起業の現実を見ると「最小限の費用で起業」「店舗を持たずに自宅で起業」というケースも多く、結果的に起業自体での満足感を味わい、家族との時間を増加させ、自己実現や社会貢献等を実現している「小さな起業家」の存在も少なくありません。

そのため、起業家を増やすために起業がハイリスク・ハイリターンになる可能性が高いというイメージだけでなく、「小さな起業」の成功も多いという点を広く社会に伝えていく必要があります。つまり、日本社会での起業家に対する社会的評価を変えていかねばなりません。

4-2 起業後の生活や収入の安定の実現

起業に興味を持った人が実際に起業に挑むようになるには、起業の不安要因である「起業後の生活・収入の不安定化」の解消が必要と考えられます。ここでそのための方策を2014年度版中小企業白書の内容から説明していきましょう。

①起業に対するセーフティーネットの準備

起業して失敗すると収入が少なくなりその後の生活が不安定になるという恐れが起業意識を低下させるため、起業数を増加させるにはこの点を改善していかねばなりません。また、起業希望者にとってはどのようなセーフティーネットがあるのか確認しておくべきでしょう。

1)個人保証の改善

日本の起業者に対するセーフティーネットを考えた場合、まず個人保証が起業での大きな問題になるでしょう。起業者は開業費用や事業の運転資金を借入れる場合に個人保証や担保を求められるケースが多いです。そして、もし事業に失敗したら収入が途絶えるだけでなく大きな借金を抱えその後の生活が困窮することになってしまいます。

こうした保証制度が存在することで、起業が阻害され経営者は積極的な事業展開や設備投資なども控えがちになるほか、失敗した場合での早期の事業再生等も阻むことにもなるのです。

このような状況を踏まえ、2014年2月から「経営者保証に関するガイドライン」*が適用され始めています。

*「金融機関等が個人保証の必要性を精緻に検証する」ことを含め保証債務の履行時での回収対象に関する指針が日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局とする研究会より示されました。

「経営者保証に関するガイドライン」のポイント

  1. 〔1〕法人と個人が明確に分離されている場合等に、経営者の個人保証を求めない
  2. 〔2〕多額の個人保証を行う場合でも、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円のほか、年齢等に応じて約100~360万円)を残すこと、「華美ではない」自宅に住み続けられること などを検討する
  3. 〔3〕保証債務の履行時に完済できない債務残額は原則として免除する

本ガイドラインの利用促進を図るために、経済産業省の指示のもと、(独)中小企業基盤整備機構(中小機構)や商工会議所等が経営者保証に関する問い合わせ・窓口相談に対応できる体制を整備しています。

具体的には、「ガイドラインの利用を希望する者に対し、経営者保証によらない融資促進のための体制整備や、保証債務の整理に向けた支援のため、中小機構が無料で専門家を派遣する制度」が創設されています。

また、金融庁では、監督指針及び金融検査マニュアル等の改正を行うほか、金融機関には「営業現場の第一線に至るまでの周知徹底や所要の態勢整備」を要請しているのです。

もし起業者が金融機関等での融資の交渉時に保証等が求められる場合、中小機構、全国銀行協会や商工会等になどに相談することも考えましょう。

2)小規模企業共済制度

国の小規模企業共済制度への加入は起業に失敗した場合の生活を支えるセーフティーネットになるため、起業に関心のある人へのPRが求められます。また、起業者は利用を検討するべきです。

小規模企業共済制度は、「小規模企業の個人事業者が年齢に関係なく事業を廃止した場合や会社等の役員が退任した場合等、それまで積み立ててきた掛金に応じた共済金を受け取れる共済制度」です。

また、その共済金は、事業から引退した後の生活資金や、新たな事業に挑戦するための資金としても利用できます。加えて「予定利率は年1%を保証」「共済金を受け取る権利は差押えの対象外」、「税制上のメリット」などの特典があります。

こうした小規模企業共済制度を多くの人に伝えておくことで起業での生活の不安定化といったイメージを払拭することに役立つはずです。

3)起業家の生活保障の仕組みの構築

起業後や事業の失敗時点では起業者の生活が厳しくなるため、失業給付などのような生活保障の仕組みも必要だと白書は言及しています。

フランスやドイツでは起業者の生活を一定程度保証するような仕組みが存在しますが、日本ではありません。こうした制度を整備することで起業者が独立後の厳しい時期を乗り越え起業の成功率を高めることに繋がる可能性があります。

また、起業の成功率を高めるとともに一定の保証という安心感が起業に対する抵抗感を和らげる効果も期待できるでしょう。なお、起業希望者などはこうした制度が導入されていないか定期的にチェックする必要があります。

②兼業・副業の促進

また、同白書では、起業後の生活や収入の不安定を緩和するためには「兼業・副業の促進」が有効と考えています。

一般的に起業する場合、現在の会社を退職して創業するケースが多いですが、事業に失敗すると職を失い生活の糧を失うことになりかねません。しかし、兼業や副業の形で起業すれば、事業に失敗してもそうした危機に直面することは回避できます。

また、会社勤めしながら事業を小さく始めて起業の状況を確認し市場への本格参入を検討するといった様子見も可能です。つまり、兼業・副業の期間を事業のお試し期間として有効に使うことができます。

日本の会社では、兼業・副業が認められるケースはまだ少ないですが、徐々に禁止が解除されるケースも増えています。実際、下図の第3-2-42図を見ると、兼業・副業が認められた場合、兼業・副業をしたいという人が半数近く存在しているのです。

国としては、起業後の生活や収入の不安定化のイメージを取り払うために、兼業・副業の導入を進めることも必要でしょう。起業希望者は自社の就業規則などを確認して兼業・副業を検討してみてください。

2014年度版中小企業白書の第3-2-42図

(引用:2014年度版中小企業白書の第3-2-42図

4-3 起業に優しい環境づくり

2014年度版中小企業白書では、「起業の準備段階で、起業に伴う費用や手続きの問題には多くの者が直面し、中にはこれらの課題が原因で起業を断念しそうになる者も存在する(第3-2-29図)」と指摘しています。コストや手続のなどの負担の軽減を通じた起業に優しい環境づくりも必要です。

①起業家を応援する社会の構築

同白書では、起業希望者から実際の起業家へと促していくためには、起業者にとって負担の重い「起業時及び起業後数か月~数年間の最も厳しい時期において、可能な限り費用負担を軽減する」ことが必要だと指摘しています。

たとえば、オフィスを借りる際の賃貸料、机やいす等の備品、PC・ソフトや
コピー等の事務機器関連などに加え、開業後の通信費やサーバー利用料などの毎月の固定費負担は決して軽くありません。これらの負担は先の起業時等での生活の不安定化に繋がることもあるでしょう。

そのためこうした負担を軽減する取り組みが求められますが、行政だけでなく日本社会としての取り組みも必要です。つまり、社会全体で起業家を応援する仕組みを作ることも起業の増加には不可欠と考えられます。

たとえば、一般社団法人ベンチャーサポートネットワークが行っている取り組みです。日本マイクロソフト株式会社、株式会社サイボウズなどの企業や業界のトップリーダーが「サポート会員」となって、起業や経営に必要なリソースを起業者に無償や割引で提供し起業初期での負担を軽減しています。

この取り組みにより起業者には初期負担の軽減、サポーターには社会貢献と将来顧客の獲得といったwin-winのメリットが得られるでしょう。起業を検討している方などはこうした起業者支援の制度を探し活用できるように努めるべきです。

②起業に対するインセンティブの提供

起業への意識を高めるためには、起業に対するインセンティブを提供するといった仕組みも重要です。同白書ではフランスの個人事業者制度の意義が解説されています。

この制度では付加価値税(TVA)の徴収免除のほか、条件により所得税・社会保障費の免除(3年間)も受けられるというメリットがあるのです。2009年1月に施行され、2009年、2010年は起業数が倍増しており制度導入で一定の効果があったと認められています。

日本でも国や自治体などで様々な支援制度がありますが、フランスの制度ほど起業へのインセンティブとなるような制度があるとは言えません。本気で起業数を増加させたいならこうした思い切ったインセンティブを感じさせる施策の実施も必要なはずです。

③起業の相談体制の拡充

起業においては、会社設立、事業での許認可や各種契約等で多くの手続が発生するため、その負担を軽くするための相談体制の拡充・充実が求められます。

1)相談しやすい環境や体制の構築

2014年度版中小企業白書の第3-2-43図では、「起業に関して相談する際に抵抗感を感じるか」についてのアンケート調査の結果が示されています。その内容では、約3割の者が相談に抵抗を感じると回答しており、とりわけ若者や女性での割合が高くなっている点は看過できないところです。

2014年度版中小企業白書の第3-2-43図

(引用:2014年度版中小企業白書の第3-2-43図

起業、事業の開始手続や経営などに関する知識や経験が少ないと思われる若者や女性がその相談をできない場合起業を躊躇させる原因になることもあるでしょう。そのため気軽に起業の相談ができる環境を拡充するとともにそのことを広く社会に伝えることも必要になります。

下図の第3-2-45図では、「起業に関する相談相手」を確認した結果がまとめられていますが、最も多いのが「家族・親戚」で、次いで「起業仲間や起業した先輩起業家」「友人・知人」といった相手でした。

身内という相談しやすい相手に頼る傾向が見られますが、実際に起業した人の話を聞きたいという方も多くおられます。

そのため行政を含めた社会が、起業希望者等に気軽に起業経験者から話が聞ける機会や相談に乗ってもらえる機会を増やしていくことが有効になるでしょう。気軽に参加できる創業スクールや創業のための交流会などの開催を行政や民間を問わず幅広く提供していくことが重要です。

2014年度版中小企業白書の第3-2-45図

(引用:2014年度版中小企業白書の第3-2-45図

実際、行政や民間などで創業塾や交流会が多く開催されているため、起業に興味のある方はぜひ参加してみてください。

5 起業・会社設立の際に知っておきたいこと

起業・会社設立の際に知っておきたいこと

起業・会社設立の際の重要事項の一つに事業分野の選択がありますが、今後注目の事業分野をご存知でしょうか。起業・会社設立を成功させるためには、人脈や実績などの自分の強みを活かすことが不可欠ですが、事業分野の選択も重要な要素の一つです。

なお、今後注目したい分野を紹介する前に、分野の選択と同じくらい重要な、起業・会社設立の際に抑えておきたい、知っておきたいポイントを説明します。そのポイントの一つは、「起業」と「会社設立」は必ずしもイコールではない、ということです。

起業する手段には会社設立の他にも「個人事業主」になる、という選択肢があります。個人事業主とは、会社に属さずに営利活動を個人単位で営む人、ということです。

個人事業主には、会社に属することで生じる、あるいは会社設立によって生じる種々の制約や規則を伴わない自由な活動をできる、というメリットがあります。また、会社の場合は赤字であっても一定の税金を納める必要がありますが、個人事業主が赤字となった場合には税金(所得税)を納める必要はありません

ただし会社には、個人事業主に比べて資金調達面で有利であることや、会社であるという信用面から取引が成立しやすい、というメリットがあります。個人事業主と会社設立ではどちらが良いとは一概にいえず、事業規模や事業内容によって、よりメリットの大きい方を選択することが得策です。

そして、起業・会社設立の事前のもう一つの重要ポイントは、個人事業主であっても会社設立であっても継続して利益を生み出すことは難しい、と心得ておくべきことです。

自分の力を試す、あるいは独立して自分のアイデアを具現化するということは、会社員にはない魅力や可能性を秘めていますが、リターンもリスクも大きい覚悟の要る道です。

起業・会社設立をして成功する可能性を高めるためには、人脈を築き、スキルを高め、経験を積み、そしてより今後需要のあると思われる注目度の高い事業分野を選択することが重要となります。

6 起業・会社設立の今後注目したい分野7選

起業・会社設立の今後注目したい分野7選

それでは、この記事のテーマでもある、今後注目したい分野を7つ紹介します。前半3つにて、培ったスキルや積み上げた経験を活かすことを観点とした分野を、後半4つでは、具体的な業界や業種ごとの注目分野を見ていきましょう。

起業・会社設立の今後注目したい分野7選

6-1 クラウドアウトソーシング

インターネットは、世界に点在するサーバーを拠点として世界中のスマートフォン(スマホ)やパソコンなどを繋げる、今や世界中に広がるネットワークに成長しました。そして、新たな価値観やアイデアは今もインターネット上に産み出され続けています。

そのインターネットの新たな価値観の一つは「クラウド」です。クラウドとは、インターネット上に存在するシステムを、スマホやパソコンなどの各端末でインターネットを介して使用できる仕組みです。そのスマホやパソコンにシステムがインストールされている必要はありません。

また、インターネットは情報共有、情報伝達の場でもあり、その情報には「仕事」も含まれます。インターネットによって求人活動や求職活動を行うことができ、そしてクラウドによって仕事を行うことができるということです。

そしてインターネットには、場所を選ばず、かつ必ずしも同じ時間に作業しなくても良いという、現実世界よりも遥かに大きい利点があります。以上のようなインターネットの利点を生かした、仕事を依頼したい人と仕事をしたい人とを結びつけるものに「クラウドアウトソーシング」という分野があります。

例えばクラウドアウトソーシングには、仕事を依頼したい側と仕事をしたい側とを結びつける「クラウドワークス」や「ランサーズ」といったサイトがあります。これらのサイトでは、受注した仕事をクオリティの高い仕上がりとすることで評価が高まり、次の仕事を受注しやすい仕組みとなっています。

他には、自分のスキルや実績を商品のように掲示して求職活動を行うサイトとして「ココナラ」や、製作した手芸品やアクセサリーを販売することに特化した「minne」や「Creema」といったサイトがあります。

個人事業主であっても会社であっても、自分(自社)の強みを活かして仕事の受注、そして仕事の発注を行えるクラウドアウトソーシングは、今後ますます需要と注目度を集める分野です。実績を早く、多く作っておくことで、現実世界と同様に活躍の場が広がることでしょう。

6-2 自宅や地元での教室・講座開設

前項では仕事の場をインターネット上に求めましたが、仕事によっては現実世界を舞台にする方が良い場合があります。

例えば、英語圏に住んでいたり留学していたりするなどして英語を話すことができる場合は、自宅を英会話教室にするという選択です。楽器を演奏することが可能な場合も同様に、自宅の一室を教室にする、あるいは生徒の家に赴いてレッスンを行う、ということを選択肢とすることができます。

最近では、パソコンやスマホなどのデジタル機器の使い方講座に大きい需要があります。興味はあるもののなかなか一歩を踏み出せない高齢者にとっては、近場でそのような講座を受けられることは魅力的なことでしょう。

何より、高齢者は話し相手を欲しがっています。通信教材よりも、顔を突き合わせてお喋りもできる環境の方に魅力を感じ、安心感を抱くというものです。

高齢者には地域のネットワークがありますので、口コミや人伝で更にお客さんを紹介してもらえる可能性があります。また、通信講座やインターネットよりも、膝を突き合わせられる関係の方が長続きしやすいものです。

6-3 副業や複業

個人事業主の場合には副業という選択肢があります。個人事業主に本業があってはいけない、ということはありません。個人の事業活動は副業によって行う、という考えです。

副業は政府主導による推進・解禁の働きかけもあり、近年では注目度を高め、着実に市民権を得つつあります。多様な生き方を求める現代社会において、副業という分野が今後ますます注目を集める分野となることは確実です。

また、副業の場合はまず本業があるということになりますので、メインの収入を得る先がありリスクが少ない、といえます。

そのため、副業にはスキルアップしたい分野や、経験を積みたい、また本当に興味があり好きな業界の仕事を選ぶことができます。副業によって自己表現や自己実現をできることで、活力が高まり、本業の方にも好影響を及ぼすことが期待できます。

また、副業でスキルや経験を高め、人脈を作ることによって、その先にその分野での独り立ちという道も拓けてきます。その時に改めて会社を設立することを検討しても良いですし、また自分のスキルが高まった際には「複業」という分野を選択することもできます。

複業とは、副業のように仕事を本業と副業という関係で分けずに、どの仕事も本業として取り組む、という形態です。そのため、それなりのスキルや時間が必要となりますが、実績がある複業家には仕事が続々と舞い込むことになります。

6-4 自分撮り(セルフィー)サービス

さて、ここまでは働き方の形態としての分野の紹介でした。ここからは具体的な業種・業界の、今後の注目分野を4つ紹介します。多額の資金を要するように思える分野にも、アイデア次第では低額で参入できる可能性があるものです。

まず1つ目は、現在世界中で大流行中の「自分撮り」(セルフィー)分野です。自分撮りとは、スマートフォンやタブレットによって、今いる場所を背景に自分自身、あるいは仲間たちと一緒に写真を撮る行為です。

日本国内でもいたる所で見かけるほどに広まったこの自分撮りですが、ビジネス分野としても今後一層の発展を見込まれます。

自分撮りのビジネス分野の一つは「自撮り機器」です。既に自撮り機器の代表的なものに「スタビライザー」という、手ブレ防止機能付きの自撮り棒が様々な会社から開発・販売されていますが、今後も同機器には様々な機能追加によって発展する余地があるといえます。

他の自分撮りビジネス分野には、スマホやタブレットの自分撮りした写真に特殊効果を付けたり、画像を加工したりする機能を備える「自撮り用アプリ」があります。

自撮り用アプリも、既に市場には様々な機能を持つものが流通していますが、今後もアイデア次第ではまだまだ成長の可能性秘めているといえるでしょう。

6-5 妊娠関連・赤ちゃん向けテクノロジー

現在出回っているスマホやスマートウォッチ、タブレットなどのテクノロジー機器は、どれもある一定年齢以上の人を対象とした商品です。血圧計などの健康器具も同様に、ある一定年齢以上の人か、または病気療養中などの人を対象としています。

それらの商品には赤ちゃんや、そして赤ちゃんを宿す妊婦をターゲットとしたものは少ないか、ほとんどないのが現状です。いいかえると、赤ちゃんや妊婦向けのテクノロジー機器は今後発展の可能性がある、ということです。

赤ちゃんや妊婦には、健常の状態であっても、より注意深く日々の健康状態をチェックする必要があります。
そこで望まれる商品が、赤ちゃんや妊婦向けの血圧計や体温計などの健康器具です。

肌に優しく、仰々しいメカ感を出しておらず、優しくて温かみがあり、装着しやすく付けていても負担にならないデザインのものは、赤ちゃんを持つ母親や妊婦に訴えるものが大きいでしょう。

また、健康管理アプリも望まれる商品です。複雑だったり専門的だったりといった操作や理解を要せずに日々の健康を管理できるアプリには、多くの母親からの需要を見込めます。先の健康管理機器と連動するのであれば、より一層訴求効果がありそうです。

赤ちゃんは言葉を話すことができませんので、授乳やオムツ交換の間隔を管理する商品があれば、赤ちゃんやお母さんお父さんの精神を安定させることが期待できます。また、女性の産前産後の不安定に陥りがちな精神状況をサポートする商品も望まれるところです。

そして、妊活のサポート商品もまだまだ未開拓の分野です。妊娠しやすい時期や体調などを管理・記録をすることができる機器やアプリを、多くの妊活中の夫婦が希望を込めてその到着を待っています。

6-6 ニッチな分野のアパレル

アパレル業界は過去ユニクロの一強体制といえる状態でしたが、その体制が近年おびやかされる事態が起こっています。「しまむら」や「ワークマン」の台等です。

しまむらは、デフレを背景にユニクロよりも低価格帯の商品に注力して売上や店舗を増やしてきました。近年では業績は下降気味ですが、ユニクロの一強体制に一石を投じた存在といえます。

そして、現在のアパレル業界に旋風を巻き起こしているのがワークマンです。ワークマンは、従来よりもカジュアルな、普段着としても通用するような作業着を扱うワークマンプラスというブランド・店舗を立ち上げ、快進撃を続けています。

ワークマンプラスでは、カジュアル層にアピールするために開発された新商品ばかりではなく、従来の商品の中からよりカジュアル層にアピールできるように選別したものを主力商品としています。元々が作業服ですので、従来の洋服よりも高機能で柔軟性に富んでいることが特徴です。

更にワークマンでは、「ワークマン女子」という女性向けコンセプトが功を奏しています。多様化が進んで現場の世界にも女性が進出している社会を背景に、抜群の宣伝効果を上げて事業の裾野を広げています。

アウトドア趣味の女性に訴えるところも大きく、作業着といえどもオシャレをしたい、オシャレを楽しみたい、というニーズをワークマンは捉えたといえるでしょう。

アパレルは決してなくならない分野です。既にあらゆる分野の商品が開発され尽くしたように思えるアパレル業界でも、ニーズの掘り起こしやアピール方法によって、今後注目を集める分野は出てくるでしょう。

6-7 空き家・空きビルの活用

高齢化社会に伴って空き家、空きビルは増加しており、特に地方では深刻な社会問題となっています。しかし、空き家・空きビルは不動産や投資用途としてだけではない、活用方法によっては化ける可能性を秘めている資源です。

活用方法の一例は宿泊施設です。空き家が古民家然とした建物であれば、趣はそのままに破損部分を修繕することによって、特に外国人にアピール力の高い民泊となり得ます。また、その装いを活かして、喫茶店とするのも良いでしょう。

空きビルに関しては、会議室や臨時事務所としての活用方法、そして旧来からの一フロアあるいは一部屋に一事業所という形態ではない、一フロアに複数の事業所が共同使用するような活用方法があります。

駅前一等地の空きビルであれば、地域の名物や観光スポットを観光客にアピールできるような企画を発信するための、地域一帯プロジェクトの拠点としての活用も考えられます。

所有権や老朽化といった問題点に対しては自治体との協力が不可欠ですが、官民協力して解決策を見出すことで、地域振興の一貫ともなり得る魅力的な分野です。

以上、今後の起業・会社設立における注目分野を7つ見てきました。新しい価値観、アイデアによって、昔からある資源も化ける可能性を秘めています。日頃から、ヒットするアイデアがないか日常を注視することも、起業・会社設立をして成功するために不可欠な視点です。

7 まとめ

日本では欧米諸国などに比べ起業者数が少なく開業率も低い水準を維持している状態です。これらの理由として日本人の起業意識が影響していると考えられますが、起業意識も他国と比べ低いと言わざるを得えません。

起業意識が低い理由は様々ですが、行政等ではその解消に向けた施策やサポートを提供していくことが今後も求められます。起業希望者の方などは、起業数を劇的に増加させるような魅力的な施策が打ち出されないかを定期的に確認するようにしてください。

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