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【社団か財団か】医療法人は設立すべき!?医療法人の基本とメリットデメリットを解説

平成30年12月31日現在における日本で届出している医師は327,210人で、歯科医師を含めると432,118人です(厚生労働省『平成30(2018)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』)。

一方、医療法人の数は同じ時点である平成30年現在では53,944社です(厚生労働省『種類別医療法人数の年次推移』より)。また、一人医師医療法人は44,847社になります。一人医師医療法人が増加していることが分かります。日本全体の法人数は医療法人などを含めて2,747,492社になるので、医療法人は法人全体の約2%に該当します(国税庁『国税庁統計年報平成30年度版』より)。

医師として独立開業をする場合には、その経営を個人か法人のどちらで行っていくかの検討をすることになります。また、個人として経営を進めている中で法人格になる『なりあがり』を検討する機会もあるかもしれません。

今回の記事では、日々の健康や生活を支えるために治療や医療などを行う法人である『医療法人』について、医療法人の特徴や法人化するメリットとデメリットについて詳しく解説していきます。

1 医療法人

医師とは、ケガや病気を患っている人の健康を回復させるための診察・治療などを行う人を言います。医師には、病院などの医療施設に勤める『勤務医』と、自ら開業した医療施設で働く『開業医』や、大学病院などを代表とする研究機関で研究を主とする『研究医』などがいます。

医療法人

なお、医療施設とは、大きく『病院』と『一般診療所』と『歯科診療所』に分けられます。それぞれの定義は以下になります*。

病院 医師や歯科医師が医療業務を行う場所で、かつ20人以上の患者が入院する施設があるもの
一般診療所 医師や歯科医師が医療業務を行う場所(ただし歯科医業のみは除外)で、かつ患者の入院施設がないもしくは19人以下の患者が入院する施設をもつもの
歯科診療所 歯科医師が歯科医業を行う場所で、かつ20人以上の患者が入院する施設があるもので、かつ患者の入院施設がないもしくは19人以下の患者が入院する施設をもつもの

*参照|厚生労働省『用語の解説』より

●医療施設数

病院の総数は8,372施設あり、その中で最も多い病院が医療法人(5,764施設)になり、それに次ぐのが公的医療機関(1,207施設)になります。また、一般診療所の総数は102,200施設になり、その中で最も多いのは病院と同じく医療法人(42,822施設)になります。一方で、一般診療所においては個人も41,444施設となっており、ほぼ医療法人と同数となっています。一方で、歯科診療所は全体が68,647施設の中で、『個人』の比率が78.2%と突出しています。歯科診療所における医療法人数は14,327施設で全体の20.9%に該当します。

医療施設の数は病院・一般診療所・歯科診療所共に横ばいもしくは減少傾向にあります。しかしその中で数が横ばいないしは増加傾向にあるのが、医療法人になります*。

医療施設には基本的には、主体が国や公的医療機関や社会保険関係団体などもあります。しかし、全体の医療施設17万9千あるなかで、最もその割合が多いのが個人(構成比53.4%)であり、個人に続いて多い施設が医療法人(構成率35.1%)になります。医療法人は病院と一般診療所では最も構成率が高いですが、歯科診療所では個人より約4万施設少ないことが特徴です。

*参照|厚生労働省『平成30年度医療施設調査』より

1-1 医療法人とは

医療法人とは

医療法人とは、医師などが常時勤務する医療施設や介護老人保健施設を開設することを目的とする法人を言います。医療法人は、医療法の規定に準じて設立されます。医療法人設立の申請ができるのは、医師もしくは歯科医師になります。

令和2年現在で、医療法人の数は55,674社となり、前年比1.6%の増加をしています。医療法人の数は長期間増加傾向を継続しています。

≪図1:医療法人数の10年推移≫

年代 昭和45年 昭和55年 平成2年 平成12年 平成22年 令和2年
医療法人社数 2,423 3,296 14,312 32,708 45,989 55,674

参照|厚生労働省WEBサイト掲載の統計データ『医療法人数の推移令和(2年3月31日現在)』より

●医療法人の認可基準

医療法人になるには、認可を受けることが必要です。認可を受ける基準は大きく『人的基準』と『財産的基準』に分けることができます。

人的基準

  • ・一般社団法人の構成員としての社員*が原則として3名以上必要となります。また、この社員から理事を選任します。社員は、18歳以上の自然人であることが必要です。
  • ・理事長を含めて3名以上の理事が必要です。理事長には医師か歯科医師でなければならず、他の医療法人との兼務していないことが必要です。理事には、その医療法人が運営する医療機関の管理者が含まれることが必要です。
  • ・監事は1名以上必要です。監事には、その医療法人の理事や職員はなれません。また、理事の親族や出資社員、顧問の弁護士や税理士などもなれません。

*医療法人など社団法人における社員とは、一般的な社員=株式会社などの営利法人で雇用されて働く労働者ではありません。社団法人の最高意思決定機関である社員総会での議案提出や議決権を持っている人を言います。

財産的基準

  • ・拠出(出資)財産の確定が必要です。個人で経営していた診療所や病院で活用していた機器や設備などの資産は法人化された医療法人で継承が必要です。
  • ・運転資金が必要です。必要とされる運転資金の金額は、医療機関として年間支出予算の2ヶ月分になります。また、その運転資金は現金や預貯金などの流動資産であることが求められます。
  • ・医療機関施設の確保は、安定した医療提供を行うために必須になります。そのため、医療機関を開業するために必要な建物と土地について原則法人所有もしくは確実性が担保できる長期賃貸借契約が必要です。
  • ・個人の診療所や病院の開設を目的として実施した金融機関などからの借入や医療機器や設備に対するリースなどの債務は、法人に継承することが必要です。なお、債務の継承のためには債権者の同意が必要です。一方で、同じ負債であっても診療所の運転資金や消耗品などの購入費用は負債として承継できないので注意が必要です。

●医療法人の設立の流れ

医療法人の設立は、通常の事業を行おうとする株式会社の設立などと比較すると事前の手続きが異なり、多くなります。医療法人の設立登記を行う前には、『医療法人設立許可』を受けることが求められます。大まかな医療法人設立の流れは以下になります。

医療法人設立の流れ

≪概要:医療法人設立の流れ≫
・設立総会の開催
・予備審査
・本申請
・医療審議会の諮問と答弁
・認可書の交付
・設立登記

医療法人設立には許認可が必要で、申請は法人を設立しようとする主たる事務所の住所を管轄する各都道府県(医療整備課など)と保健所で行います。医療法人設立の許認可を得るプロセスは、大きく“予備審査”と“本申請”と“医療審議会”の3つのステップに分けられます。

なお、医療法人設立の許認可は年に数回の決められたスケジュールに則って実施しています。つまり、時期を逃すと医療法人を設立したいタイミングに間に合わない事象が発生します。そのため、医療法人を設立したい場合には、管轄する都道府県のHPなどを確認して、許認可の手続き内容とタイミングや時期を確認して計画を立てることが必要です。

①予備審査

予備審査では、設立許可申請書での審査と面談を行います。予備申請は仮申請と言われることもあります。予備審査で提出する設立許可申請書には捺印が不要な点に留意が必要です。書類審査ではその内容が適正に記載されているか、医療法人設立許可のための必要条件を満たしていることや法人名称に重複がないかなどの確認が行われます。

面談では、医療法人の設立代表者または設立者の面談が必須となります。委任状を有する行政書士であれば設立代表者や設立者の同席がなくても面談が可能の場合もあります。面談の方法は通常対面になりますが、現在新型コロナウィルス感染症の影響などで電話やメールでの対応となる場合もあります。

予備審査の留意事項としては、開業実績が現在地で1年などの規定期間を満たない場合には予備審査ができない場合があります。予備審査の注意事項もあわせて、HPないしは電話やメールでの問い合わせを行うことが必要です。

②本申請

予備審査で提出した設立許可申請書とそれに基づいて確認・協議された内容を修正して申請書を提出します。この提出時点で、申請書に捺印を実施します。

本申請にも受付期間があります。この受付期間を過ぎると半年後の次回申請受付期間まで本申請ができません。必ず、受付期間を事前に確認して間に合うように事前準備とスケジュールを組むようにします。

本申請では、各都道府県が必要とする提出部数を用意します。具体例としては、東京都に本申請する場合には、正本と副本の2部が必要となります。事前に必要部数の確認が必要です。

③医療審議会

医療審議会とは、医療法第72条に基づいて各都道府県知事の諮問に応じて医療の提供体制の確保に関する重要事項の調査・審議を実施することを目的に設置された付属機関になります。

この医療審議会の委員は30人以内で組織されます。医師や歯科医師や薬剤師や学識経験を持つなどの専門知識を有する者と医療を受ける側の者の中で各都道府県知事が任命する者で構成されています。議事は、出席する委員の過半数の同意をもって決定し、可否が同数の場合のみ会長が決定します。

医療審議会の開催は年2回になります。定期的に実施する回と不定期に実施する回がある場合がありますが、基本的には期末に開催されることが多くなっています。医療審議会での可決がないと医療法人設立の許可が得られないため、医療審議会のスケジュールの確認も必須となります。

医療審議会では、医療法人の設立や解散や合弁の許可のほかに、社会医療法人の認定や地域医療支援病院の承認とあわせて、医療法人の業務停止命令や病院の開設・増床などに係る勧告や不許可などの決定を行います。

医療審議会で答申を受けた後に、許可書が交付されます。許可書を受け取ったら、主たる事務所がある地域を管轄する法務局で登記申請を行うことができます。なお、医療法人の設立登記が完了した際には、設立登記完了届を管轄する保健所に提出することが必要になります。この設立登記完了届の提出をもって一連の医療法人の設立手続きが完了します。

1-2 医療法とは

医療法とは

医療を業として実施していく中で、その基礎となる法律が医療法になります。医療法は、医療を受ける者の利益保護と、良質かつ適切な医療を効率的に生協する体制確保を維持することで国民の健康保持に寄与することを目的に制定されています。

医療法は、医療を受ける者が適切な選択と安全な医療サービスを受けられるために、医療提供施設の機能分担や業務連携の推進を行っています。なお、医療提供体制を定める法律には、医療法の他にも『医師法』や『歯科医師法』などがあります。

●医療法の改正

医療法は1948年(昭和23年)に制定されており、2021年現在ではすでに73年の歴史を持っている法律になります。医療法は時代のニーズに合わせて変化するために、制定以降計7回の大きな改正を行っています。

≪医療法改正時期とその内容≫

施行時期 主たる施行内容
第1次改正/1986年(昭和61年) 病床数の総量規制が開始されました。そのため、医療圏毎に必要病床数が制限・許可制となりました。
・地域医療計画の策定
・2次医療圏単位による必要病床数の制限を設定
(病床総量規制)など
第2次改正/1993年(平成5年) 診療報酬の包括支払制度が開始され、病床機能を類型化されました。
・特定機能病院および療養型病床群の制度化
・看護と介護の定義明確化による医療類型化と在宅医療推進など
第3次改正/1998年(平成10年) 病院信仰から地域の病院重視へシフトし、他の医療機関との連携が開始されました。また、患者が病状や治療について十分な理解をすることを目的としたインフォームドコンセントが法制化されました。
・「地域医療支援病院」制度の制度化
・インフォームドコンセントの法制化など
第4次改正/2001年(平成13年) 一般病床と療養病床の区分し、届出の義務化を主とする施設要件の変更が行われました。
・病床の区分化(一般病床と療養病床)
・医療計画制度見直し
・入院医療の適正化
・臨床研究の必修化など
第5次改正/2007年(平成19年) 地域や診療科によって発生する意思不足問題への対応が必要とされ、法人制度改革の推進が行われました。
・患者に対する医療情報の提供推進
・医療機能を分化することによる、地域医療における連携体制の構築
・有床診療所に対する規制の見直し
第6次改正/2014年(平成26年) 地域包括ケアシステム*の構築に向けた医療の体制の改善が開始されました。
・在宅医療を推進
・医療スタッフ確保と医療機関における勤務環境の改善
・病床機能報告制度と地域医療構想を策定
・医療事故調査制度創設など
第7次改正/2015年(平成27年) 第6次改正に引き続き、知識包括ケアシステムの構想実現に向けた改正を主に行われました。
・地域連携推進法人制度開始
・医療法人制度の改革

*地域ケアシステムとは、団塊世代が75歳以上となる2025年までに構築を目指している、高齢者が住み慣れた地域での生活が継続できるように『住まい』『医療』『介護』『予防』『生活支援』が一体的に提供できる体制・システムになります。

なお、医療法は上記の改正以外でも継続的に改正が行われています。2020年(令和2年)においては、診療報酬改定などが改訂・施行されています。

●医療法人制度の見直し

第5次医療法改正に含まれる医療法人制度改革において、医療法人の在り方が大きく変わりました。医療法人制度改革では、非営利性と公益性を徹底することによる国民の信頼を確保することと、効率的でかつ透明な医業経営の実現による医療の安定的な提供を行うことを目指しました。そのために必要とされる5つの基本方針が定められています。

≪医療法人制度改革の5つの基本方針≫

非営利性の徹底 適切な経営資源を投入すること
公益性の確率 地域住民が望む医療を提供すること
効率性の向上 効率的な経営管理体制を構築すること
透明性の確保 住民からの信頼を獲得すること
安定した医業経営の実現 住民が支える医療サービスを実現させること

医療法人制度改革で、社会医療法人が創設され、それに伴って特別医療法人が廃止されました。また、出資額限度法人の名称が『拠出金制度の医療法人』へと変更となりました。

この医療法人制度改革によって、旧医療法には明記されていなかった医療法人の基本原則が明記されました。『医療法人は、自主的にその運営基盤の強化を図るとともに、その提供する医療の質の向上およびその運営の透明性の確保を図り、その地域における医療の重要な担い手としての役割を積極的に果たすよう務めなければならない。』(医療法第40条の2)

また、指定管理者として公的施設を運営することができることになりました。これまでは公の施設である公立病院や診療所や老人福祉施設などを運営することができるのは指定管理者だけでした。また、医療法人が指定管理者になることができませんでした。しかし、2007年の改正によって、医療法人が指定管理者になることができるようになって、公的施設の運営が可能となりました。

加えて、付帯業務として有料老人ホームの経営が可能となりました。これは、療養病床の数を38万床から13万床まで減少させようとする中で、減少する病床の転換選択肢の一つになりました。

2 医療法人の類型

医療法人の類型は一つではありません。営利法人の類型に株式会社や合資会社があるように、医療法人にも複数の類型があります。なお、医療法人は非営利法人に含まれます。

医療法人の類型は、基本的な区分として“財団”か“社団”に分かれます。これらの分けられた医療法人を『社団たる医療法人(以下は「社団医療法人」)』と『財団たる医療法人(以下は「財団医療法人」)』と呼びます。前述の『医療法人数の推移(令和2年3月31日現在)』をみると、財団の占める割合は0.7%と非常に少数となっています。

≪医療法人の大分別≫

医療法人総数 財団たる医療法人 社団たる医療法人
55,674 370(0.7%) 55,304(99.3%)

()は全体構成比になります。

さらに、社団医療法人は出資持分の有無で区分されます。また、社団医療法人にも財団医療法人にも共通して、租税特別措置法を根拠としている『特定医療法人』と、医療法を根拠としている『社会医療法人』という特別な類型があります。これらを整理すると以下のような医療法人の類型となります。

≪医療法人の類型≫

大分類 持分分類 類型
財団 特定医療法人(税法)
社会医療法人(医療法)
特別医療法人(5年間存続医療法経過措置)
一般の財団医療法人
社団 持分なし 特定医療法人(税法)
社会医療法人(医療法)
特別医療法人(5年間存続医療法経過措置)
一般の持分なし社団医療法人 一般持分なし社団(基金無し)
基金拠出型法人
持分あり 出資額限度法人 経過措置型医療法人
一般の持分あり社団医療法人

2-1 財団医療法人

財団医療法人

財団医療法人は、個人または法人の寄附や拠出した基本財産を法人格の基盤にして設立される医療法人を言います。株式会社等の出資と異なるのは、寄附や拠出を行った個人や法人が財団法人を所有することはありません。つまり、寄附や拠出によっても持分は認められていません。そのため、財団医療法人を解散させる場合には、その財産は国や地方公共団体などに帰属させることになります。

また、一般的な財団法人と同様に資産に対して法人格が成立します。そのため、その資産の維持と運用が主たる事業活動になります。そのため、法人設立には300万円以上の財産を持っている事や設立後に2期連続して純資産が300万円を下回った場合にはその財団法人や財団医療法人は解散することが義務付けられています。

●財団医療法人の種類

財団医療法人は、前述のとおり3つの種類があります。『特定医療法人』は租税特別措置法を根拠として、『社会医療法人』は医療法を根拠とする特別な類型になります。この2つの類型以外が『一般の財団医療法人』に該当します。また、5年間存続措置期間が終了した平成24年3月31日をもって廃止となった『特別医療法人』という類型もありました。

●特定医療法人

特定医療法人とは、租税特別措置法第67条の2第1項に規定されている法人です。特定医療法人には、大区分の財団と社団のどちらの医療法人でもなることができます。ただし、特定医療法人になるためには、国税庁長官の承認が必要になります。承認のためには以下の2つの事項に合致していることが必要です。
・事業内容が医療の普及や向上、社会福祉への貢献など公益の増進に著しい寄与
・公的な運営

具体的な承認要件は、定められた以下の施設要件と収入基準と運営基準に合致しなければなりません。なお、詳細は厚生労働省ホームページ『特定医療法人制度について』で確認できます。

施設要件 以下の①ならびに②~④のうち1つの要件に合致すること
①差額ベッドが全てのベッドの30%以下であること
②40床以上*を有する
③緊急告示病院である
④緊急医療所である旨を告示していて、かつ15床以上を有する
収入基準 ①社会保険診療報酬が全収入に対して8割を超える
②自費患者への請求金額が、社会保険診療報酬と同一基準で算出される
③医療診療収入が、医師や看護師などの給与や経費(医療提供に直接的に必要)などの合計額の150%以内の範囲であること
④役職員一人の年間給与総額が3,600万円を超えないこと
運営基準 ①理事や監事や評議員や他の役員などに占める親族の割合が3分の1以下となっていること
②社員や理事や監事、評議員へ特別な利益を提供しないこと
③解散時における残余財産が、国や地方公共団体または他の医療法人に帰属することが定款や寄附行為に定められていること など

*皮膚泌尿器科、眼科、整形外科、耳鼻咽喉科、歯科の診療を行う病院の場合には、30床以上となります。

特定医療法人になることで、法人税の軽減税率の適用など税制優遇を受けることができます。特定医療法人になることで以下のように軽減税率の適用を受けることができます。

≪適用税率比較≫

通常の医療法人 23.2%
特定医療法人 19.0%

なお、軽減税率の適用を受けるためには、給与報酬における上限の設定や同族支配の禁止、毎事業年度を管轄する税務署へ報告する義務が発生します。

●社会医療法人

社会医療法人は、第5次医療法改正で新設された比較的新しい類型です。社会医療法人には、財団と社団のどちらの医療法人でもなることができます。しかし、社会医療法人になるには医療法第42条の2第1号各号の要件に該当する法人として都道府県知事の認定を受けることが必要です。

社会医療法人に認定されるための要件は、大きく『緊急医療等の事業に関する要件』と『公的な法人運営に関する要件』があります。それぞれの主な要件は以下になります。

緊急医療等の事業に関する要件
・指定された医療機関(救急・災害・へき地・周産期・小児救急)として医療連帯体制を担う医療計画に記載されていること
・各医療機関として指定された実績を有していることなど
公的な法人運営に関する要件
・役員などに同族性の排除がなされていること
・持分なしの医療法人であること
・社会保険診療による収入の合計が、収入全体の8割を超えていることなど

要件の詳細など社会医療法人については厚生労働省HP『社会医療法人の認定について』で確認できます。

社会医療法人になることで、特定医療法人同様に税制優遇を受けることができます。具体的には、本業の病院や診療所や介護老人保健施設の所得に対する法人税が非課税になります。また、直接救急医療等確保事業に供する資産に対する固定資産税や都市計画税も非課税になるなどがあります。

2-2 社団医療法人

社団医療法人

社団医療法人は、病院や診療所を開設することを目的とする人が集まって設立された医療法人になります。社団医療法人は、複数の人による現金や不動産などの資産の出資によって設立されます。社団医療法人では、構成員となる社員とあわせて医療法に定められた理事会や理事や監事などが置かれます。

●出資持分

社団医療法人では、その出資者がその出資額によって財産権を所有することができます。財産権を行使することで、払い戻し請求や残余財産分配請求を行うことができます。財産権は定款に反することがない限り、譲渡することも可能です。

社団医療法人の定款で、出資持分について定めの有無で『出資持分のある医療法人』『出資持分のない医療法人』と区別されます。なお、平成19年に実施された第5次医療法改正によって『出資持分のある医療法人』の新設はできなくなっています。

既存の出資持分のある医療法人は、出資持分のない社団医療法人や基金拠出型法人などその他の社団医療法人に移行するか経過措置型医療法人として現状維持を続けることができます。経過措置型医療法人となっている持分あり社団法人は令和2年の段階で38,721社と持分が無い社団法人16,583社よりも2倍以上多い状況*となっています。

*参照|厚生労働省WEBサイト掲載の統計データ『医療法人数の推移令和(2年3月31日現在)』より

●社団医療法人の種類

社団医療法人には、前述のとおり7つの種類があります。財団法人と同じように『特定医療法人』と『社会医療法人』があることに加えて、出資持分のない『基金拠出型法人』とそれ以外の『一般持分なし社団医療法人』とがあります。また、現在は経過措置型医療法人となっている『出資額限度法人』とそれ以外の『一般の持分あり社団医療法人』があります。

これらのうちで、社団医療法人特有の医療法人について解説します。

●基金拠出型法人

基金拠出型法人とは、法人として事業を行うために必要となる資金を調達する方法を基金制度の採用を定款で定めている法人を言います。資金を出す人は基金の拠出者になり、拠出した医療法人に対して劣後債権に似た権利を持つことができます。

基金拠出型法人は第5次医療法改正時に新たに開始された類型になります。同時に持分ありの社団医療法人の新設ができなくなったため、基金拠出型法人が新たな受け皿として基金制度を活用した医療法人を開設することが一般的になっています。

なお、基金拠出型法人になると、税制優遇を受けることができる社会医療法人や特定医療法人になることができません。そのため、基金拠出型法人が社会医療法人や特定医療法人に移行しようとする場合には、拠出者へ基金を変換した上で基金に関する定めについて定款から削除することが求められます。

●一般持分なし社団

社団医療法人の中で、持分に関する規定がその定款に定められておらず、実際に持分が存在していない持分なし医療法人の中で基金拠出型法人以外を言います。

2-3 一人医師医療法人

一人医師医療法人

一人医師医療法人とは、常勤する医師または歯科医師が一人もしくは二人である診療所を経営する小規模医療法人を言います。昭和60年の第1次医療法改正において、経営と家計とを分けて診療所の経営を安定化させ、経営基盤を合理化かつ近代化させることを目的として一人医師医療法人制度が開始されています。

この制度の基本は、従来の医療法人と同じ制度になります。そのため、一人医師医療法人を設立する時には知事の許可が必要になります。また、新しい診療所の開設をすることを目的に一人医師医療法人を設立する場合、もしくは医療機関の経営を2年未満の実績しかない状況で一人医師医療法人を設立するためには2ヶ月以上の運転資金があることなどが求められます。

●一人医師医療法人の数

昭和61年に179社から始まった一人医師医療法人はその後にその数を増加させ続け、2020年3月末時点では46,251社まで増加しています。小規模な診療所を経営する医師や歯科医師が増えていることが分かります。

3 医療法人化

個人で経営していた診療所を法人化しようとする、ないしは検討する医師や歯科医師は非常に多くいます。一般的な個人事業主が株式会社になる“法人なり”と同様に、医療法人になるとメリットとデメリットがあるからです。

どの法人にもメリットとデメリットはあてはまるものの、経営や利益状況や医療機関の運営状況などによってその影響は異なってきます。そのため、事前に一般的なメリットとデメリットを把握したうえで、現在の診療所の経営状況などと照らし合わせて具体的でかつ実際の数値を活用して検討することが必要です。

3-1 医療法人設立のメリット

一人医師医療法人

医療法人設立のメリットは、大きく以下の4つになります。

医療法人設立のメリット

  1. ①節税ができる
  2. ②社会的信頼の強化
  3. ③事業領域の拡大
  4. ④事業譲渡が簡易に

①節税ができる

法人化することで得られる節税効果は複数あります。個人で始めた事業が順調に利益を上げ始めた時に法人化を検討するきっかけの多くの場合が、節税効果と言っても過言ではありません。

・所得税の負担を下げることができます。

個人の収入に対して所得税は超過累進税率が適用されます。一方で、法人の所得には2段階の法人税が適用されます。具体的な税率の比較が下記になります。

[超過累進税率]

課税所得金額 税率 控除額
~195万円 5% 0円
~330万円 10% 97,500円
~695万円 20% 427,500円
~900万円 23% 636,000円
~1,800万円 33% 1,536,000円
~4,000万円 40% 2,796,000円
4,000万円~ 45% 4,796,000円

[法人税]資本金が1億円以下の医療法人*

課税所得金額 税率
~800万円 15%
800万円~ 23.2%

*資本金が1億円超の医療法人の場合には、一律23.2%になります。

つまり、課税所得が900万円を超えた場合には個人事業主33%に対して医療法人では23.2%になります。この時点で、すでに10%の差ができることになります。さらに、課税所得が2,000万円になると、個人の税率が40%に上がるのに対して医療法人は23.2%のままとなり、その差はさらに広がることになります。これらのことから、事業が順調に回りだして所得が大きくなってくるにつれて、医療法人になることで節税幅が広がることになります。

・家族が役員の場合でも、役員報酬の支払いが可能となります。

医院長と医院長夫人など家族が医療法人から給与や報酬を受け取ることは所得の分散化に繋がります。そのため、全てを医院長の所得として受け取る場合と比較して、節税効果が生まれやすくなります。また、老後資金として必要な退職金の支払いが損金として計上できます。個人事業主の場合には、医院長と生計を共にしている親族への退職金は認められていません。

・保険料の損金処理ができる

個人事業主では認められていませんが、医療法人では生命保険料が全額損金処理できます。

②社会的信頼の強化

法人化することで、社会的信頼を得ることができます。医療法人の許可を得ることは、長期的に医療提供をすることが前提になっています。事業継続を前提とする医療法人は、金融機関からの資金調達にプラスの影響をもたらします。

医療設備や機器の充実をさせるためには、資金調達が重要となります。資金調達を行おうとする際には、医療法人化しておくことで調達できる幅が広がります。この幅が広がることで調達コストを抑える効果も期待できます。また、法人化しておくことで個人として資金調達をする必要がない点も法人化のメリットと言えます。

また、社会的信頼は人の採用にも影響します。少子高齢化の中での経営で困難さが増しているのが人材の長期的確保です。人材を確保する為には、採用に成功することが必須です。良い人材は、競合他社もおなじく人材の確保を継続的に行っています。そのため、採用条件とその採用条件を履行し続ける社会的信頼がおける医療法人が選ばれることになります。

③事業領域の拡大

医療法人になれば、分院を設立することができます。そのため、1つの医療法人で複数の医療施設を設立・運営することができます。多店舗展開をすることは、コストが増えるマイナス面もありますが、お客様からの信頼を増やす効果や商圏を拡大して患者を増やし収入を増やすことが期待できます。また、診療所や病院のみではなく、高齢化が進む日本でニーズが高い老人保健施設の経営ができるため、事業の幅を広げることができます。

④事業譲渡が簡易に

現在の少子高齢化の日本の環境下でクローズアップされているものの一つが、事業譲渡です。経営者がリタイヤを考える時に、事業を親族や譲り受けることを希望する人に譲渡する場合に、個人事業のままでは簡単にはいきません。しかし、医療法人にしておくことで事業譲渡を実施することができます。

●医療法人の事業譲渡

医療法人の事業譲渡とは、その経営をしている診療所や病院などを承継することを言います。医療法人の事業譲渡を定めた法律はありません。しかし、通常の株式会社などで行われる事業譲渡の方法である合併や会社分割などのやりかたではなく、決定された範囲で医療法人の財産が移転することになります。

そのため、医療法人の事業譲渡では、その事業譲渡契約に譲渡対象となる財産や権利義務などを確定させます。注意しなければならないのは債務や従業員など相手からの引継ぎ同意が必要なものもあります。

事業譲渡を行う際には、社団医療法人では理事会決議と社員総会決議が必要です。また、財団医療法人では評議会員の意見聴取と理事会決議が必要です。また、医療法人の定款には設立する診療所などの名称や場所を記載しています。そのため、診療所を事業譲渡する場合にはその定款から診療所の情報を削除することが必要です。

行政への届出も必要になります。診療所を事業譲渡した後、保健所への廃止届と厚生局への保険医療機関の廃止届を提出しなければなりません。

3-2 医療法人設立のデメリット

医療法人設立のデメリット

医療法人を設立することで生じるデメリットもあります。これらもメリットと同様に状況に応じてその影響に大小があります。具体的に検証し、メリットとのバランスを確認します。

医療法人設立のデメリット

デメリット

  1. ①事務手続きが煩雑になり増加する
  2. ②交際費の損金算入に限度が設けられる
  3. ③事業展開の自由度を失う
  4. ④配当ができない

①事務手続きが煩雑になり増加する

医療法人を設立することも、維持することにも事務手続きが必須になります。前述のとおり、医療法人を設立するためには、医療法人設立の許可を得ることと設立の手続きの両方を行うことが必須です。

個人事業主として診療所を開設しようとする場合、診療所を開設した日から10日以内に診療所開設届を管轄する保健所に提出して実査に合格することで基本的に開設を行うことができます。構造設備などに基準があるため事前相談なども行いますが、医療法人設立の手間と比較すると手間は少なくなります。

また、設立の後にも毎年主務官庁への事業報告書ならびに監事監査報告書の作成が義務となっています。また、作成だけではなく毎年会計年度の終了から3ヶ月以内に監事による監査をうけて理事会と社員総会*の承認を得た事業報告書などを各都道府県知事に提出することが必要です。(医療法第52条第1項)
*財団の場合には、理事会若しくは評議員会となります。

②交際費の損金算入に限度が設けられる

医療法人になると、個人と法人の家計の収支が明確に分かれます。逆に言うと、個人事業主の場合には個人と事業の収支を明確に分けることが難しくなります。そのため、交際費などが経費としておとすることが簡単なのは個人事業主と言えます。

また、医療法人となると社会保険の加入が義務となります。従業員などを採用しようとすると、社会保険などの加入をしないと採用が思うようにいかないという実情があります。しかし、個人で診療所をやっている場合などは社会保険に加入しないという選択をする医師もいます。

③事業展開の自由度を失う

個人で診療所を開いている場合には、事業の自由度が高いと言えます。医療法人としてできる事業は『本来業務』と『附帯業務』と『収益業務』と『付随業務』に限られています。

本来業務とは、病院や診療所や介護老人保健施設を言います。付帯業務とは本来業務の業務・経営に支障がないことを前提に、定款や寄附行為の定める範囲でできる業務を言います。

同様に、本来業務に支障がなく得た収益を本来業務に充てることを目的として行うことができる厚生労働大臣指定の業務が収益業務になります。最後に、病院などの業務の一部として付随して実施する業務を付随業務と言います。

このように医療法人の業務範囲は厳格に規定されています。一方で、診療所を個人事業主として経営する場合には、収益事業を自身の収入源とすることもできます。例えば、医療とまったく関連性のない飲食店と診療所を同時に経営することも個人事業主であれば可能ということになります。

④配当ができない

医療法人は、収益を自由に取り扱うことができません。一般的な法人である株式会社の場合には、利益を配当することができます。しかし、医療法人は利益や剰余金を配当することができません。(医療法第54条)

これは医療法人には公共性が必要とされていることに由来します。一方で、個人事業主にはこのような制限はありません。収入があれば、その収入を自由に活用することができます。

4 まとめ

今回は医療法人について理解を深めていただくために、医療法とその改正の歴史、医療法人の類型、医療法人になるメリットとデメリットなどを中心にまとめました。診療所や病院など医療サービスを提供する医療機関は、人々が健康な生活をおくるためには無くてはならないものです。また、新型コロナ禍の現在は診療所や病院が経験のない状況で人々の健康のために従事しており、いまほど医療や診療所や病院の必要性を実感できる時期はなかったとも言えます。

医療法人は、医療サービスを長期間提供し続けることが求められます。そのため、医療法人とは税制面などで優遇策も多い反面、大きな責任が伴う法人ということができます。医療法人の設立する際は、メリットとデメリットを正確に理解したうえで、実際の経営や運営状況と照らし合せて検討することが大切です。

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