会社設立後に入る社会保険の種類とは1人でも入る必要は?
会社設立後は、役員数・従業員数にかかわらず、社会保険への加入義務が生じます。健康保険・厚生年金保険の二種類を総称して、一般的に「社会保険」と呼びます。法人は、人数の大小にかかわらず(1人の法人であっても)、社会保険に加入する義務を持ちます。この記事では、社会保険の加入や仕組み、制度の説明や活用法などを説明するので、起業や会社設立を検討中の方は参考にしてみてください。
目次
1 社会保険の種類
まずは社会保険制度の全体を見ていきましょう。
1-1 健康保険と厚生年金保険
社会保険の制度は、大きく分けると、健康保険その他の保険制度(労働災害なども含む)など、健康・災害などのアクシデントへの備えと、厚生年金保険による、老後のお金への備えの二種類に大別されます。
1-2 健康保険の仕組み
健康保険は、働く人及びその家族が病気、けがをしたときに、必要な医療費の給付を医療機関に行ってくれる仕組みとなっています(労働災害の場合は、労働災害で処理するため、健康保険を利用してはいけません)。
令和元年の場合、健康保険に加入しており、医療機関の窓口で保険証を提示することで、窓口での負担額は3割となります。言い換えると、健康保険がなければ、全額負担となり、普段窓口で支払う額の約3.33倍を支払わないといけません。
健康保険のサポートはそれだけではありません。
出産の場合は、通常の病気による通院・入院とは給付の仕方が異なります。出産をしたときは、医療機関へ一時金を立て替え払いすることで、出産費用が無料、もしくは大幅に削減されます。また、加入者が死亡したときなどに、死亡時に一時金が支給されるケースもあります。
体調を崩すなど、いざというときに備え、国が一定部分を負担する、一時金などを支給するなど金銭面でのサポートをする役割を果たすのが、健康保険といえます。
1-3 厚生年金保険の仕組み
厚生年金保険を考える上では、年金は原則「二階建て」のシステムになっていることを踏まえておくことがあります。
まず、原則として国民の全員が、「国民年金」に加入することになっています。ここの部分が2階建ての1階です。しかし、国民年金は概ね月平均で5万5千円程度に過ぎません。今後も増える見込みは極めて低いと思われます。
ここに、2階部分として厚生年金が入ってきます。
厚生年金は、所得に応じて支払う金額、受け取る金額も異なってきますが、一般的に月15万円程度が平均といわれています。
このように、老後の生活の年金支給額は高くなる反面、毎月の厚生年金保険料の支払いも、収入に応じて大きくなります。
現在の厚生年金保険料は、18.3%で固定され、これを労使で折半して支払うことになります。働いている場合に給与から天引きされる金額は、標準報酬月額を基準にし、その9.15%です。経営者の立場の場合、会社の中から報酬を支払うため、標準報酬月額の18.3%がそのまま会社の実質的な負担となります。
標準報酬月額にはランクがあります。給与・実質的給与等を踏まえ、1等級(8万8千円)から31等級(62万円)までの31等級に等級をわけ、それに応じ負担額が変わります。平成29年9月分以降は、労使の全体負担額としては1等級16,104円~31等級113,460円までの幅があります。
経営者にとっては、自身の標準報酬月額の18.3%をそのまま厚生年金保険料として支払う形となるため、かなりの負担となります。
加えて、厚生年金保険の加入者を使用する事業主については、児童手当等子ども、子育て拠出金として、標準報酬月額及び標準報酬額に0.34%の拠出金率を乗じて得た額の総額を支払う義務があります。
このように、厚生年金に加入することによる支払というのは、経営上重い負担と言えます。
経営者・従業員にとって、将来の年金支払い見込額が増えるのはメリットです。一方で支払時の負担が大きい点はデメリットになります。
厚生年金の負担の大きさを踏まえつつ、会社設立業者・社会保険労務士などの専門家などとも相談した上で、会社を設立する人は、自身も含めた法人役員・社員の給料を設定することが望ましいでしょう。
1-4 その他社会保険制度について
健康保険制度・厚生年金保険制度が、社会保険制度の大きな2大柱と言えます。この他にも、雇用保険・労働者災害補償保険などの社会保険制度が存在します。
①雇用保険
雇用保険に加入するのは、役員(ただし、実質的に社員である執行役員は除く)ではなく、従業員のみです。そのため、代表者一人や、全員が役員の会社の場合は、雇用保険に加入する必要はありません。
雇用保険は、失業後、教育給付訓練を受けた際などに給付金が支給される仕組みとなっています。例え一人でも従業員(一定の条件を満たすパート・アルバイトも含む)を雇用する場合は、雇用保険への加入義務が生じます。
②労働者災害補償保険(労災保険)
原則、これも経営者と役員を除き、執行役員も含む正社員・契約社員・嘱託・アルバイト・パート・日雇など、大半の従業員(業務委託の場合は、原則として労災の適用除外だが、指揮命令系統・出退勤の管理など、実質的に労働者の立場であるかで判断される)が対象となります。
農林水産業で5人以下の個人事業などごく一部の例外はありますが、原則として全ての事業所が強制的に労働者災害保険に加入することになります。
労災保険の対象となる業務災害は、「労働者の仕事中の負傷・疾病・障がい・死亡事故」や「通勤・帰宅中の事故」などが、対象となります。(ただし、仕事中の私用行為による事故や大きく遠回りした際の事故は対象外、通勤からの帰宅ルートでの買い物中など、合理的な経路途中での事故は労災扱いとなるなど、労災が適用されるケースは異なります)
他にも、社内運動会での事故も労災になりますし、パワハラ・セクハラや加重労働を原因とする過労死・うつ病などの精神疾患も、因果関係が存在すると認められた場合は労災扱いとなります。
要約すると、労災の大前提としては、次の二つの条件を満たす必要があります。
- ○雇用者に雇われて、指揮命令系統下にある
- ○業務上、もしくは業務に起因し発生する(通勤時なども)
条件を満たす場合は、療養補償給付・休業補償給付・障害補償年金・障害補償一時金や遺族補償年金・遺族補償一時金・葬祭料・介護保障給付などが受給できます。
なお、時折「労災隠し」といい、社内で労働災害が発生したことを隠したことが問題となり、新聞などに掲載されることがあります。なぜ労災隠しが行われるのでしょうか。
労働災害発生時は労働基準監督署に届出をする際、事故の原因や会社側の法令違反、その他会社側に問題がなかったかを問われます。場合によっては行政指導や刑事告発にまで発展するケースもあります。
特に、建設業など許認可が関わる業界については、労働災害の発生により、行政指導や、業務停止、公共事業への入札禁止、その他業務受注に関するデメリットが生じる可能性もあります。
加えて、マスコミに公表されることによるイメージダウン・労災保険料の増額の恐れもあるため、「労災隠し」が起きることがあるのです。
しかし、労災隠しを行う、つまり会社側が報告義務を怠ることや隠蔽することは、刑事・民事において責任を問われることとなりますので、結果として傷口を広げることになります。ですので、労働災害が発生した場合は、適正に報告することが要されます。
2 加入に必要な書類
各種社会保険に加入する際は、各種機関に届出を行う必要があります。健康保険・厚生年金保険は一人社長も含め全事業者が必要、労働保険・雇用保険は人を使用する場合に必要となります。
各種必要な書類に関して見ていきましょう。
2-1 健康保険・厚生年金保険関係で必要な書類
健康保険と厚生年金保険に関し、法人は雇用の有無を問わず、全事業所が両方に加入する必要があります。
なお、会社設立代行業者が提携する社会保険労務士に依頼し、代行をしてくれるケースもありますので、会社設立代行業者や社会保険労務士に、社会保険関係に関する手続の代行を依頼するとスムースに手続が進みやすくなります。
また、社会保険労務士は、人の雇用などに関する助成金の手続に精通し、代行を行ってくれるケースも多いため、助成金のもらい忘れがないように、社会保険労務士に最初の時点から依頼するとスムースに行くことが望めます。
①健康保険・厚生年金保険新規適用届
健康保険・厚生年金保険新規適用届は、会社の設立時に提出します。
この書類を提出することで、役職員に社会保険が適用され、年金事務所としても、会社の基本的な情報が把握できます。
会社設立日から5日以内に、管轄の年金事務所に適用届及び必要書類を提出する必要があるため、早急な書類の準備が必要となります。
提出書類は下記の通りです。
- ・登記事項証明書(原本):発行後60日以内であること
- ・事業主が国、地方公共団体又は法人である場合、法人番号指定通知書等のコピー
なお、法人事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合、個人事業所の所在地が住民票の住所と異なる場合は、「賃貸借契約書のコピー」など事業所所在地の確認できるものを別途添付する必要があります。
また、「法人番号指定通知書のコピー」が添付できない場合、国税庁法人番号公表サイトで確認した法人情報(事業所名称、法人番号、所在地が掲載されているもの)の画面を印刷し、添付することにより、法人番号指定通知書のコピーが必要になります。
また、雇用状況など必要に応じて、他の書類を用意する必要があるケースもあるため、年金事務所に確認することをおすすめします。
②健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
この書類は、会社設立時及び新たに従業員を雇用した際、会社設立日・入社日から5日以内に管轄の年金事務所へ提出します。役員・従業員は当然社会保険への加入が必要です。また、パート・アルバイトなどの場合は、加入要件を満たす場合(1日や一週間の労働時間と1ヶ月の労働日数の両方が正社員の概ね4分の3以上)に提出する必要があります。
この手続も持参・郵送ででき、必要に応じて書類が必要になります。
③健康保険被扶養者(異動)届
役員・従業員に子供、専業主婦、親など被扶養者がいる場合は、「健康保険被扶養者(異動)届」を提出する必要があります。
被扶養者の範囲・条件は、以下の通りです。
- ・「直接の父母・配偶者(内縁も含む)、子。孫、弟・妹(同一世帯でなくても、離れて暮らしていても可)
- ・それ以外で、「同居する」三親等以内の親族、配偶者(内縁含む)の父母及び子、配偶者が亡くなった後における父母及び子
加えて、1年間の収入が130万円未満など条件がありますので、こちらも社会保険労務士・年金事務所に相談、確認する必要があります。
2-2 労働保険・雇用保険関係で必要な書類
①適用事業報告
従業員(アルバイト・パート・日雇いなどを含む)を初めて雇用した場合、「適用事業報告」を所轄の労働基準監督署に提出します。
あわせて、時間外労働や休日労働が発生する可能性がある(大半の場合、残業が想定されます)場合、いわゆる36(サブロク)協定書、「時間外・休日労働に関する協定書」も提出します。
この時間外・休日労働に関する協定書に関しては、労働契約など他の労働関係の契約書も含め、社会保険労務士に、自社の現状に応じて作成してもらうことが望ましいといえます。
会社設立代行会社に依頼している場合は、最初のうちに「人を雇う予定があるので、適用事業報告の準備もお願いする」旨を伝えておくとよいでしょう。
36協定書が大事な理由として、会社は原則、従業員に法定労働時間(通常1日8時間、週40時間)を超えて労働させることは原則としてできませんが、「時間外・休日労働に関する協定届」を労働基準監督署に提出しておくことで、その提出日以降は、協定の範囲内で時間外、休日労働をさせることが可能になるからです。
とはいえ、無制限に時間外労働をさせることができるわけではありません。時間外や休日労働をさせた場合は割増賃金も必要になってきます。
そして、2019年4月より本格的に始動した「働き方改革」が、中止企業にもどんどん適用されるようになっていきます。
5日間の有休取得の義務化・勤務間インターバルの規制などは既に中小企業にも適用されますし、2020年4月からは残業時間の罰則付き上限規制も中小企業に適用されます。
残業時間の上限規制としては、原則月45時間、1年360時間を超えた時間外労働をさせてはならないとしており、違反時には6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
ただし、役員は例外です。実際、経営者・役員の立場であれば、堅固な業務の仕組みを作り上げるまでは、昼夜や土日など言っている場合ではないでしょう。
もちろん、ずっと経営者・役員がハードワークで忙殺される状況は望ましいとは言えませんし、長時間をかけることが必要なモデルは、社員が増えるほど瓦解するおそれがあるので、どこかの時点で、「ハードワーク」「業務の仕組み化・長時間労働に頼らない仕組み作り」にシフトしていく必要があるでしょう。
いずれにせよ、経営者としては、残業代はできるだけ削減したいものです。その対策として、「固定残業制」を用いる中小企業も多いですが、大企業は既に、中小企業も2020年4月から、みなし残業時間は、月45時間が上限となります。
また、残業時間月60時間超の割増率引き上げが、大企業では施行済み、中小企業でも2023年4月1日から施行されます。
一般的には、月80時間~100時間の残業が過労死ライン(週5日勤務・月22日出勤の想定だと、1日平日3.6時間~4.5時間が毎日続く状況)とされており、特に発症前1ヶ月間に残業100時間超、もしくは発症前2~6ヶ月で一ヶ月当たり残業80時間超は、脳・心臓疾患での労災とされる基準を超えることとなります。
そのために、労働時間の厳格な管理が必要になるといえるでしょう。
時間外労働の上限規制としては、年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満(休日労働も含む)という制限が設けられ、これに違反した場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が代表者・管理職などに課せられるおそれがあります。
特に、働き方改革は現在注目のトピックスであるため、違反が生じ、社名の公表や刑事・民事の問題が生じた場合、社名や代表者名などがマスコミで報道され、著しいイメージダウンになる恐れもあります。
また、労働組合や、会社外のユニオンを通した労働者からの団体交渉や訴訟という事態が発生したり、労働基準監督署による行政指導が発生すると、企業のイメージダウンになります。
同時に、経営者や管理者が監督責任などあらゆる形で矢面に立たされ、仕事ではなく労働トラブルの火消しに労力をつぎ込まざるを得ない事態に発展することも考えられます。
労働基準監督署も、働き方改革の流れに沿い、今後監督員の増員を図り、労働基準法違反への取り締まりを強化することが大いに層手されます。
このような問題をあらかじめ生じさせないためにも、働き方改革をはじめとする、最新の労働トピックに詳しい社会保険労務士との情報交換は欠かせないといえましょう。
他にも、同一労働・同一賃金の原則の適用が大企業は2020年4月、中小企業は2021年4月から始まります。こちはら罰則こそないですが、ケースによっては損害賠償請求訴訟に発展するケースも想定されます。
また、高度プロフェッショナル制度や3ヶ月のフレックスタイム制の可能化などは、中小問わず既に2019年4月より開始しています。
このような働き方改革に伴う様々な制度にも対応できるよう、社会保険労務士と連携し、働き方改革に対応できる体制作りを行うことが非常に重要です。
②労働保険 保険関係成立届
労働保険は、労働者災害補償保険(いわゆる労災)と、雇用保険の二つをまとめて「労働保険」と言います。
従業員を雇用した日から10日以内に労働保険関係成立届を提出し、労働保険番号の発行を受け、労働保険料を概算、労働保険概算保険料申告書を提出し、労働保険料を支払う必要があります。
なお、労働保険の加入義務があるにもかかわらず、加入手続を取っていない場合は、行政により強制的に加入手続を取られ、遡っての保険料徴収及び追徴金の徴収が行われるケースもありますので、労働保険の加入漏れがないよう、会社設立代行業者・社会保険労務士などとの連携が重要です。
③労働保険概算保険料申告書
書類は、従業員を雇用した日から50日以内に労働基準監督署に提出する必要があります。
労働保険料は、従業員に支払う賃金額をベースとし、労災・雇用保険それぞれに、所定の料率をかけて計算します。
とはいえ、実際にどれだけの賃金を支払うかというのは、ケースにより異なります。
最初は年間の賃金見込額に基づき、概算で保険料を計算し、納付を行います。
その後、年度(4月1日から翌年3月31日)が終わってから、実際の賃金で算定した保険料とで生じた差額分を精算します。つまり、還付されるケースもあれば、追加で支払うケースもあるわけです。
清算手続は、6月1日から7月10日の間に、労働基準監督署へ「労働保険確定保険料申告書」を提出、同時に精算額、新年度の概算保険料を支払うことになります。
期間が約40日間と短いため、社会保険労務士に依頼するなど、専門家に任せた方が何かとスムースでしょう。
④雇用保険適用事業所設置届
雇用保険は、正社員だけでなく、アルバイトやパートであっても、雇用期間が31日以上で、週20時間以上働く場合は加入義務が生じます。
なお、学生(夜間部の場合は例外)を雇った場合は、雇用保険の加入義務はありません。
従業員雇用から10日以内に、管轄の公共職業安定所(ハローワーク)に提出する必要がありますが、届出の際、労働保険番号が必要になります。
そのため、「労働保険 保険関係届」を提出→労働保険番号の交付を受ける→その後公共職業安定所に手続、という流れになります。
添付書類として、登記事項証明書、労働保険 保険関係成立届の写し、事業所と本店が異なる場合は、事業所の賃貸借契約書の写しが原則必要であり、別途追加書類を求められる場合もあります。
加入手続が完了すると、公共職業安定所から「適用事業所台帳」が送られてきます。
この適用事業所台帳は、事業所番号などの重要な情報が記載されており、雇用保険の手続の際にも、適用事業所台帳の写しを添付することになりますので、大切に保管してください。
⑤雇用保険被保険者資格取得届
雇用保険に関しては、雇用保険適用事業所設置届を提出するだけでは、個々の従業員に雇用保険は適用されません。
必ず雇用保険適用事業所設置届を提出後、従業員ごとに、「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。(なお、雇用保険適用事業所設置届と同時に提出しても問題ないため、実務上は両方を同時に提出するケースが一般的です)
また、新規に従業を雇用したときは、従業員を雇った月の翌月10日までにハローワークに雇用保険被保険者資格取得届を提出する必要があります。
手続が完了すると、公共職業安定所から下記の書類が送られてきます。(切り取り線のついた一枚紙)
- ・雇用保険被保険者証
- ・雇用保険被保険者資格取得等確認通知書(事業者通知用)
- ・雇用保険被保険者資格喪失(氏名変更)届
雇用保険被保険者証は従業員に交付し、残りの2種類の書類については、会社で保管し、従業員退職時や結婚、改名などで姓・名の変更が生じた場合に使用します。
このように、人に関する書類の提出、手続も大きな負担となりますが、会社設立代行業者・社会保険労務士などとの連携で、スムースに手続をでき、社外にお願いできる手続は社外に出すことが望ましいでしょう。
3 一人会社の場合はどうなる?
ここまで、従業員・アルバイトなどを雇うことを基本に説明をしてきました。一人会社の場合は、従業員に関する手続こそありませんが、全ての会社に求められる、社会保険関係の手続は行う必要があります。
3-1 一人会社の場合でも必要な社会保険関係の手続
一人会社の場合は、労災保険、失業保険など、人を雇用する際の保険に加入する必要はありません。そのため、労働基準監督署とハローワーク(公共職業安定所)は、一人会社の時点では、お世話になることはありません。
また、業種によってはクラウドソーシング、業務委託(ただし、現場作業などで明確な指揮命令系統がある場合は、労災などの対象になる可能性がありますので、不安な場合は社会保険労務士に相談することをおすすめします)を活用することで、軌道に乗るまでは一人会社で行くという方法もあるでしょう。
ただし、年金事務所に対する以下の手続は一人会社でも必要になります。
- ・健康保険・厚生年金保険新規適用届
- ・健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得証(自身の物)
- ・健康保険被扶養者(異動)届(扶養する者がいる場合)
- ・国民年金第3号被保険者資格取得届(配偶者が専業主夫・専業主婦の場合)
手続として自分でもできるものではありますが、将来拡大し人を雇用することを考えると、最初のうちから社会保険労務士に依頼しておくことが望ましいといえます。
3-2 一人会社の場合は業務委託・クラウドソーシングなどを活用しよう
現代では、ITの発達により、リモートワークによる業務委託や、クラウドソーシングサービスを通した外部への委託が容易になりました。
特にITが主体の業態では、事務所を借り、固定した人を雇うという必要性が大きく薄れてきています。
なぜなら、これまでは人を雇わないといけなかったことが、様々なサービスが普及したため個人でもできるようになったからです。
オフィスに出かけるのではなく、自宅やコワーキングスペースでも仕事は可能ですし、カフェや公園など、電波さえ繋がれば、場所にとらわれず仕事ができます。
また、各種ビジネスツールも進歩しました。
Office365やG suiteのようにオンラインで共同編集ができるサービス、どのパソコンからアクセスしても同じメールボックスを確認できるGmail、個人でサイトを容易に作成できるWordpress、Slack、chatwork、Microsoft TEAMなどのビジネスコミュニケーションツール、Skype、Zoom等のテレビ会議システム、電話を代わりに受け、受電内容をビジネスチャットに送信してくれるサービス、FAXをメールで画像形式にして送信してくれる機能などもあります。
また、ここ数年、オンラインで仕事をアウトソースできるサービスも増加しました。オンラインアシスタントという形で、様々な調べ物、雑務などバックオフィス業務を外部のスタッフに依頼できるサービスも存在します。
会社設立代行業・税理士事務所(税理士法人)などでも、経理の代行や、Freee、マネーフォワード、やよいのクラウド会計などと連携し、自社での会計入力を省力化してくれたり、入力自体までまるごと依頼できるサービスを用意している会社もあります。
また、アポ電などを代行してくれる、営業代行サービスもあります。
このように、被コア業務や、現在の自社リソースだけではなかなか手が真罠来業務はできるだけアウトソーシングし、中核業務にリソースを集中、得意分野を深掘りしていくことが、特に起業当初は望ましいといえましょう。
また、社員を採用する際も、一度正式に雇用すると簡単には解雇できないので、当初は業務委託などの形で実力を試し、自社にマッチするとわかったら正規雇用に切り替えるなど、最初は特に、人を雇わない、アウトソースする経営にしていくことが無難でしょう。
人事の問題で注意したいのは、「人件費は毎月出ていく固定費」ということです。人を増やせば、給料だけでなく税金、社会保険料などが重くのしかかり、雇われている側も昇級を求めてきます。業務自体が毎月のように成長していけば問題はありませんが、近年ビジネスの寿命は、業種を限らずどんどん短期化していきます。
例えば、少し前に流行っていたタピオカを主体としたカフェで、店員を正社員で雇ったとします。しかし、秋冬は気温が下がるため、タピオカは売れにくくなり、ブームも沈静化します。
この場合、経営側もタピオカではなく、他の業態・商材に切り替える必要が出てきます。店員が業態の変化を素直に受け入れればいいですが、反対する従業員の処遇はどうすればいいでしょうか。
正社員にしてしまうと、解雇の四要件といって以下の4要件を満たさないと、解雇はできません。
1 人員整理の必要性
余った人員を解雇するだけの、相当の理由説明が必要
2 解雇回避の努力義務履行
他の業態開発や、他業態、他の業務地への移動提案など、なんとか回避しないで済むような努力をしたか、役員報酬の削減、新規採用の抑制、希望退職者の募集、配置転換等などの措置もとったか
3 被解雇者選定の合理性
人を解雇する上で、この人を解雇せざるを得ないという合理性があるか
4 手続の妥当性
解雇の手続が、一方的なものではなく、状況説明やできる限りのサポート、法律・各種規定にのっとり進められているかが重要です。
- ・人員整理をしないと経営に問題がある
- ・現在の業務に携わっている従業員には別のポストも用意した
- ・現在の事業は閉めるため、閉める事業の従事者は、違う業務に携わるか、会社都合で解雇するほかない
- ・そして1ヶ月前の通知など様々な手続において、従業員側が納得を得られる措置を行うなど、様々な点に配慮し、社会保険労務士のアドバイスも得ながら解雇の手続なり、配置転換の手続なりを行った
上記の解雇のプロセスに関し、特別な注意を払う必要があります。つまり、従業員を雇った場合は簡単には解雇できません。後から、従業員側から「不当解雇だ!」と訴えられるケースも想定されます。
とはいえ、前述の寒い時期のタピオカ店のように、無理して新メニューを作るなり、赤字を許容するなりして現状の事業を続けても、ブームが終焉したり、何らかの現状に対する解決策がなければ、赤字の垂れ流しになってしまいます。
このように、正社員の雇用は、雇うのは簡単だけれど、解雇するのは難しいのが現状です。そのため、人の雇用、特に正社員雇用に関しては、特に慎重になる必要があるのです。
4 社員を雇う場合の社会保険の手続き
社員を雇用する際の、手続に関しては、各種書類の部分でも案内しておりますが、もう一度復習しましょう。
4-1 社員を雇う場合に必要な社会保険の手続の復習
必要書類などは下記の通りです。
○健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
社員を雇う場合、入社日から5日以内に管轄の年金事務所に提出する必要があります。健康保険・厚生年金とも、社員の加入の意思を問わず、必ず加入することが要されます。
前述の通り、1日もしくは一週間の労働時間と1ヶ月の労働日数の両方が正社員の概ね4分の3以上のパート・アルバイトも適用対象となりますので、もし判断に迷う場合は労働基準監督署・社会保険労務士に確認するなどすることが大切です。
- ○健康保険被扶養者(異動届)
- ○国民年金第3号被保険者資格取得届
の書類も必要です。
注意点は、配偶者が専業主夫・専業主婦など国民年金第3号被保険者である場合の切り替え忘れです。
もともと別の仕事をしており、配偶者が既に国民年金第3号被保険者であった場合でも、会社設立で代表者・役員になった場合や、従業員になった場合は、改めて年金事務所に「国民年金3号被保険者資格取得届」を出さないといけません。
手続なしで自動的に切り替えてくれるわけではありませんので、国民年金での空白期間を生じさせないためにも、国民年金第3号被保険者資格取得届の提出忘れには気を付けましょう。
5 社会保険組合を設立する方法
社会保険組合については、健康保険組合・厚生年金基金の2種類に大別できます。厚生年金基金は、厚生年金に上乗せする、いわば年金の3階建ての3階に当たる部分でした。
しかし、現在の厚生年金基金については、社会情勢や、バブル崩壊、近年のゼロ金利政策の影響で運用環境が悪化し、現在存在する厚生年金基金は数えるほど(10以下)しかないと言われています。
そのため、多くの厚生年金基金は解散し、確定給付年金、確定拠出年期への移行を行っているため、年金の部分においては、実質社会保険組合の設立をする意味・必要性がないと言えます。
一方、健康保険組合については、企業もしくは業界単位で健保組合を設立することが可能です。
5-1 健保組合とけんぽれん(健康保険組合連合会)
健康保険組合の設立には、健康保険組合連合会(けんぽれん)を通して、健保組合を設立する必要があります。
健康保険組合を設立するメリットを列挙すると、以下の点が挙げられます。
- ①自主的に保険料率を設定できる
- ②従業員の保険料負担割合を折半より低くできる
- ③付加給付を実施することで、従業員や家族の窓口負担などを軽減できる
- ④企業の福利厚生を代行して人間ドックの助成や運動奨励事業といった疾病予防につながる保健事業などを任意に実施できる
- ⑤企業・業界の地位向上
健保組合を設立する条件としては、以下が必須条件となります。
- ・企業単独で設立する場合は、事業所で働いている被保険者が常時700人以上存在すること
- ・2以上の事業所または2以上の事業主が共同して設立する場合(総合健保組合)については、合計で被保険者が常時3000人以上であること
5-2 健康保険組合の設立に必要な手続とは
詳細な手続まで踏み込むと、非常に長くなるため、概要を挙げます。
- ①設立しようとしている事業所で働いている被保険者の2分の1以上の同意(事業所が2以上の場合、各事業所の2分の1以上の同意)を得る
- ②地方厚生局と相談して設立の作業を行う
- ③最終的に厚生労働大臣の認可を受ける
以上の3ステップが必要となります。このように端的に書くとシンプルに見えますが、実際は企業担当者・社会保険労務士と健康保険組合連合会が連携し、様々な手続を行うことが必要です。
また、保険料率に関しても、自由に設定できる反面、「設立しようとしている事業所の被保険者数や被扶養者数、医療費、年齢構成、標準報酬月額・標準賞与などを考慮して健保組合が設定できるが、将来にわたって安定的な運営が可能な水準」であることが認可を得る上で求められます。
設立の準備も非常に手間がかかります。
事業主・被保険者・健康保険組合連合会の緊密な連携、長期にわたって地方厚生局への提出資料やデータを作成し、関係者間の調整を図っていく体制づくり、社内や企業体連合による「健康保険組合設立準備委員会」などの構築など、さまざまな準備が必要となります。
5-3 どのような企業・業界が健保組合を設立しているか
さまざまな会社、業種が健保組合を設立していますが、具体的にはどのような健保組合が存在するのでしょうか。
・関東ITソフトウェア健康保険組合
関東のIT企業で組織される健康保険組合です。
直営検診センターや保養施設を持ち、特定健診・特定保健指導なども行っています。
・ソニー健康保険組合
ソニーグループの会社のみで構成される健康組合で、設立は1958年と非常に歴史があります。
・自動車振興会健康保険組合
自動車に関わる業種で構成される健康保険組合です。
この他にも、健康保険組合については、1,380近くの組合が存在します。
多くのケースが、大企業単独か、業種間の連合による健康保険組合ですので、新たに健康保険組合を設立するというより、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入することが望ましいでしょう。
協会けんぽは、もともと中小企業等で働く従業員やその家族が加入する健康保険(政府管掌健康保険)でした。
以前は社会保険庁が運営していましたが、平成20年10月1日、全国健康保険協会が設立され、協会運営という形に変更されました。
現状として、毎年健康保険の保険料支払いは増えており、国内第二位の規模であった人材派遣健康保険組合は解散、加入者は協会けんぽへの移行を余儀なくされることとなりました。
このように、健康保険組合を設立・運営することは、今後社会保障負担が増す中、なかなか必要性を見いだすのは厳しい、というのが現状といえます。
6 その他会社設立後に必要な届け出・手続一覧
会社設立を果たすためには、定款の作成や認証、設立登記など、専門知識を要する手続きを数多くこなす必要があります。費用も20万円程度かかり、起業家への負担はとても大きいです。そんな費用的にも労力的にもキツい手続きを全て終えてはじめて、会社設立を果たすことができます。
しかし会社設立を果たしたからといって、完全に手続きが終わったわけではありません。今後事業活動を進めて行くには、いくつか必要となる手続きがあります。具体的には、「税務署への届け出・手続き」と「地方自治体(都道府県や市区町村)への届け出・手続き」の2つが必要となります。
まずは税務署への届け出・手続きです。税務署とは、国税(所得税や法人税、消費税など)の業務を行う国の公的機関です。会社経営で利益を得ると、法人税や消費税といった税金がかかります。そこで会社設立を果たしたら、法人税や消費税を納税するための手続きが必要となるわけです。
なお届け出や手続きを行う場所は、設立した会社の本店所在地がある地域を管轄する税務署となります。該当する税務署については、国税庁のサイトで調べることができるので、会社設立に先立って知っておくと良いでしょう。
会社設立後に税務署に対して行う必要がある届け出・手続きは下記の8つです。必須のものとそうでないものがあるので、何種類の手続きを行う必要があるかは会社によって異なります。この章を参考に、ご自身の会社に必要となる手続きを把握しましょう。
6-1 法人設立届出書
法人が設立された旨を税務署に知らせるための書類です。そのため、会社設立後においてすべての企業が行うべき手続きとなります。
法人設立届出書は、納税する場所の税務署に対して、会社設立後から起算して二ヶ月以内に実施する必要があります。仮に提出期限が過ぎていても罰則はないものの、その後の納税などの面で不利益を被る恐れがあるので、期限を過ぎていることに気づいたらなるべく早めに提出を済ませましょう。なお法人設立届出書の提出にあたっては、「定款のコピー」や「会社設立時の貸借対照表」、「株主名簿」などの添付書類も必要となります。
肝心の法人設立届出書自体についてですが、主に下記の内容を記載します。
- ・法人名
- ・法人番号
- ・代表者氏名・住所
- ・日付
- ・税務署名
- ・本店所在地
- ・設立年月日
- ・事業年度
- ・資本金の額
- ・事業目的
- ・設立形態
- ・「給与支払事業所等の解説届出書」の提出有無
- ・関与している税理士に関する事項
法人設立届出書に記載すべき事項は多岐に渡ります。分からない部分があれば、最寄りの税理士にご相談するのも一つの選択肢になるでしょう。
6-2 青色申告の承認申請書
こちらの届出は法人税の申告時に青色申告を行うために必要となります。
確定申告の方法には「白色申告」と「青色申告」の二種類がありますが、青色申告の方が節税の効果が大きいです。青色申告を行うには申請手続きや複式簿記など面倒な手続きを要しますが、それらのデメリットを考慮しても得られるメリットは大きいです。あくまで提出は任意となりますが、節税のメリットを考慮すると基本的には出した方が良い書類と言えます。
なお青色申告の承認申請書の提出期限は、「会社設立から三ヶ月以内」もしくは「最初の事業年度末日」のいずれか早い方の日になります。法人設立届出書とは提出日が異なるので注意が必要です。
青色申告の承認申請書については、主に下記内容を記載します。
- ・法人名
- ・法人番号
- ・代表者氏名・住所
- ・税務署名
- ・納税地
- ・提出日
- ・資本金の額
- ・事業種目
- ・青色申告を開始しようとする期間
6-3 給与支払事務所等の開設届出書
従業員を雇用し、給与を支払う場合に必要となる手続きです。「従業員を雇用」と書いていますがこの従業員には社長も含まれるため、実質的には届出が必須となります。ただし例外的に、会社設立後しばらくの間無給で社長自身が労働するケースでは、給与の支払いが発生しないため、この届出を行わなくても良いとされます。
給与支払事務所等の開設届出書に関しては、会社設立後から起算して一ヶ月以内の届出が必要です。他の届出と比べて期限が短いので、会社設立前から準備しておくのがオススメです。
給与支払事務所等の開設届出書については、主に下記内容を記載します。
- ・提出年月日
- ・法人名
- ・法人の本店所在地
- ・代表者氏名
- ・給与支払事務所の開設日(会社設立日)
- ・給与支払いを開始する年月日
- ・従業員数
- ・提出内容及び理由
6-4 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
会社設立後に提出する届出として次にご紹介するのは「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」です。通常であれば、源泉徴収税は毎月10日までに納付する必要があります。しかし例外的に、従業員が10人未満の法人の場合は、「源泉徴収税の納期の特例」の適用を受けることで、源泉徴収税の納付を半年に一回とすることが可能です。この特例を受けるために必要なのがこの手続きです。
これまでご紹介した届け出や手続きとは違い、この届け出には期限がありません。ただし、原則提出日の翌日に支払う給与から、この特例が適用されることになります。したがって、次の月から特例を活用したい場合は、前月末までに届出を済ませる必要があるので注意です。
なお、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書に記載する内容は、主に下記のようになります。
- ・提出年月日
- ・法人名
- ・法人の本店所在地
- ・代表者氏名
- ・申請日から起算して前六ヶ月間の各月末の給与支払いを受ける者の人員及び支給金額
- ・給与支払事務所の所在地
6-5 減価償却資産の償却方法に関する届出書
次にご紹介する会社設立後の届出・手続きは、減価償却資産の償却方法に関する届出書です。こちらは、文字通り減価償却資産の償却方法に関して、定額法を選びたい場合に届け出る書類になります。
基本的には、この届出を行わない限りは定率法を適応する必要があります。しかしこの届出を行うことで、定額法によって減価償却費を計上できるようになるのです。なおこの手続きは、会社設立から一期目の確定申告の提出期限までとなります。
なお、減価償却資産の償却方法に関する届出書に記載する内容は、主に下記のようになります。
- ・提出年月日
- ・提出法人
- ・法人名
- ・納税地
- ・代表者氏名
- ・代表者住所
- ・連結子法人(ある場合)
- ・事業種目
- ・資産の種類
- ・設立年月日(新設法人の場合)
- ・採用したい償却方法
6-6 棚卸資産の評価方法に関する届出書
会社設立後は、減価償却の方法のみならず棚卸資産の評価方法も届出を行うことで自由に選択できます。なおこの手続きを行わないと、最終仕入原価法の適用となります。
自由に棚卸資産の評価方法を決めたい場合は、減価償却資産の届出と同様に、会社設立から一期目の確定申告の提出期限までに届出を行わなくてはいけません。
棚卸資産の評価方法に関する届出書の記載内容は、主に以下になります。
- ・提出年月日
- ・提出法人
- ・法人名
- ・納税地
- ・代表者氏名
- ・代表者住所
- ・連結子法人(ある場合)
- ・事業の種類
- ・資産区分
- ・採用したい評価方法
6-7 消費税に関する届出
会社設立後すぐには必要のない届け出ですが、念のため消費税に関する届け出についてもご説明しましょう。
基本的に消費税は、過去二期間の課税売上高を基準に課税の有無が決まります。しかし会社設立時においては、過去二期間の売り上げどころか事業運営の実態もないため、消費税の納税は原則免除されます。ただし例外的に、会社設立時点で資本金が1,000万円を超えているケースでは、設立当初から消費税の納税義務が発生するので注意しましょう。
会社設立後に売上高が1,000万円を超えた場合、その年度から数えて二つ先の年度から消費税の課税事業者となります。そうなった場合には、所轄の税務署に対して「消費税課税事業者提出届」を提出する必要があります。
消費税課税事業者提出届の記載内容は、主に以下になります。
- ・提出年月日
- ・提出法人
- ・法人名
- ・納税地
- ・代表者氏名
- ・代表者住所
- ・適用開始課税期間
- ・事業年度
- ・資本金
6-8 有価証券の一単位あたりの帳簿価額の算出方法に関する届出書
最後にご紹介する会社設立後の届け出は、有価証券の一単位あたりの帳簿価額の算出方法に関する届出書です。こちらは、有価証券(株式など)の単位あたり帳簿価額の算出方法を自由に選択したいケースで提出が必要となるものです。なお提出がなければ、移動平均法が適用となります。
有価証券の一単位あたりの帳簿価額の算出方法に関する届出書に関しては、有価証券を取得した日付が属している事業年度の確定申告の期限となる日までです。
有価証券の一単位あたりの帳簿価額の算出方法に関する届出書の記載内容は、主に以下になります。
- ・提出年月日
- ・提出法人
- ・法人名
- ・法人番号
- ・納税地
- ・代表者氏名
- ・代表者住所
- ・事業種目
- ・連結子法人に関する事項(子法人を持つ場合)
- ・希望する帳簿価額の算出方法
7 地方自治体(都道府県や市区町村)への届け出・手続き
会社設立後には、税務署のみならず地方自治体への届け出や手続きも必要です。都道府県や市区町村への届け出は、地方税の納税を目的に行います。地方税とは、市区町村や都道府県へ納める税金であり、会社においては法人住民税や固定資産税、法人事業税などが該当します。
都道府県や市区町村に届け出る書類は、各都道府県または市区町村によって内容が異なります。また、提出期限も場所によって若干異なります。一様に記載内容や提出期限を断言することはできないため、設立した会社がある地方自治体のホームページを参考にしたり、窓口で直接尋ねるなどして、提出内容や期限を確認しましょう。
たとえば東京都の23区に会社設立を行なった場合、「法人設立・設置届出書」と呼ばれる書類を、会社設立から15日以内に届け出る必要があります。
会社設立後の手続きをまとめると、税務署への届け出は、基本的に国税の納税を今後行なっていくために必要となるものです。主要な届け出には、「法人設立届出書」、「青色申告の承認申請書」、「給与支払事務所等の開設届出書」、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」、「減価償却資産の償却方法に関する届出書」、「棚卸資産の評価方法に関する届出書」、「消費税に関する届出」、「有価証券の一単位あたりの帳簿価額の算出方法に関する届出書」の八種類が存在します。
とくに「法人設立届出書」、「青色申告の承認申請書」、「給与支払事務所等の開設届出書」の三つは基本的には提出が必須となります。その他の届け出に関しては、都度ご自身の会社に必要かどうかを判断する形となります。
一方で都道府県や市区町村といった地方自治体への届け出については、地方税の納税を行う上で必要となる手続きです。ただし地方自治体への提出書類に関しては、地域ごとに名称や記載内容・形式、提出期限が異なります。したがって、ご自身の会社がある場所ごとに、必要な届出や手続きを調べなくてはいけません。
8 社会保険の必要性と今後
社会保険の役割は、社会の高齢化に伴い、非常に重要な役割を果たしています。しかし、年金と同じで、サービスを必要とする中高年層が増える一方、保険料を支払う現役世代の負担は年々上がり続けています。
そのため、各健康保険組合などでも、無駄な受診を控えたり、健康管理の大切さをアピールするなど、予防医療の啓発に力を入れています。
ですが、年金・保険とも現状では様々な意味で厳しい状態に置かれているといえます。
8-1 経営者は、社会保険に対しどのように関わるべきか?
経営者の立場として取り得る策は、できるだけ人が少なくても回るビジネスを構築するか、中核人材を役員、社員とし、それ以外の人材は一定時間以下のアルバイト・パートや業務委託、成果報酬などを通した外部のパートナー化など、「雇用をできるだけ少なくする」という方向に進むのが最適解となるでしょう。
一方、各種社会保険制度や雇用の周辺には、「助成金」など活用できる様々なメリットも存在します。
例えば、厚生労働省の「事業主の方のための雇用関係助成金」という項目を見てみましょう。
- ・休業、教育訓練や出向を通じて従業員の雇用を維持する、雇用調整助成金
- ・離職を余儀なくされる労働者の再就職支援を民間職業紹介事業者に委託等して行う労働移動支援助成金
- ・中途採用を拡大(中途採用率の向上又は45歳以上を初めて雇用)する中途採用等支援助成金
- ・東京圏から移住者を雇い入れる、中途採用等支援助成金(UIJターンコース)
- ・中高年齢者等(40歳以上)の方が自ら起業し、中高年齢者等を雇い入れる中途採用等支援助成金(生涯現役起業支援コース)
- ・高年齢者・障害者・母子家庭の母などの就職困難者を雇い入れる、特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
- ・65歳以上の高年齢者を雇い入れる、特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
など、他にも、
- ・東日本大震災における被災離職者等の雇い入れ
- ・発達障害者または難治性疾患患者の雇用
- ・学校等の既卒者、中退者が応募可能な新卒求人・募集を行い、新たに雇い入れ
- ・十分なキャリア形成がなされず、正規雇用に就くことが困難な者を雇い入れる(いわゆる氷河期世代救済)
- ・自治体からハローワークに就労支援の要請があった生活保護受給者等を雇い入れる
- ・安定就業を希望する未経験者を試行的に雇い入れる
- ・雇用情勢が特に厳しい地域で、事業所の設置整備をして従業員を雇い入れる
- ・雇用環境の整備関係等への助成
- ・仕事と家庭の両立支援関係等の助成
- ・人材開発関係の助成
など、数十種類の助成が存在します。他の助成金・補助金も含めると、莫大な種類の助成金・補助金があります。一般の経営者ではなかなか把握しにくいのが実情でしょう。
この点、会社設立代行業者・社会保険労務士の場合、様々な雇用などに関する助成金の制度に対して常にアンテナを張っているケースが多く、(ただし、助成金ありきになってしまっては本末転倒なので、その点は念頭に置いた方がよいでしょう)「この場合はこの助成金が活用できますよ」と提案してくれることも想定できます。
ただしこれも、普段から社会保険関係の手続を一任しているなど、雇用・人の動き、どのような人を雇ったか、雇おうとしているかなどの情報がないと、いく会社設立代行業者・社会保険労務士に知識があっても制度活用の提案はできません。
そのため、普段から社会保険労務士を通して様々な手続を行い、コミュニケーションを取ることで、社会保険労務士側も様々な提案をしてくれ、支払額以上のリターンを得られる可能性もあります。
このように、雇用。社会保険制度を活用する上では、会社という仕組みに通じた会社設立代行業者・社会保険労務士などとの密なコミュニケーションが非常に重要になります。
そのため、会社設立当初から、会社設立代行業者・社会保険労務士など会社・人事労務や社会保障のプロフェッショナルとつながりをつくっておくことが重要といえましょう。