全国対応電話相談受付中!0120-698-250メール相談はコチラから
社団法人設立が全国一律27,800円!KiND行政書士事務所:東京

子会社を設立するメリット・デメリットとは

新規事業の取り組み、事業部門の分社化、M&Aによる会社取得といった様々な目的や経営手段の一つとして子会社が活用されています。節税効果や経営の意思決定の迅速化などメリットが多いと言われる子会社ですが、近年、不祥事も散見され、親会社の企業価値に影響を与える場面も見られます。今回は、この子会社の設立に係るメリットとデメリットを整理し、運営上の留意すべき事項を明らかにするとともに、子会社の設立手順、会社設立時の事業計画書の書き方についても触れています。子会社の設立を検討されている場合は、是非ご一読ください。

1 子会社とは

子会社とは

子会社について知るためには、対義語である親会社とともに用語の定義を確認する必要があります。最初に、この記事のテーマに関係する用語の定義を明らかにしたうえで、子会社の実態や設立手順等の解説を進めていきます。

1-1 法令による用語の定義

「子会社」、「子会社等」、そして、これらの対義語である「親会社」及び「親会社等」について、会社法における用語の定義をもとに以下の通り整理しました。なお、理解を深めるために、旧商法における定義と対照する形としました。

(表1)用語の定義(会社法の条項は「法第〇条第〇項〇号」、旧商法の条項は、「旧商第〇条第〇項」)

用語 会社法の定義 旧商法の定義
子会社 会社がその株主の議決権の過半数を有する株式会社その他当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。(法第2条第3号) (旧商第211条の2第1項)
子会社による親会社株式の取得
(旧文体の為主旨を掲載)
他の株式会社の発行済み株式の総数の過半数に当たる株式又は他の有限会社の資本の過半に当たる出資口数を有する会社(以下親会社と称する。)の株式は、次の場合を除き、その株式会社又は有限会社(以下子会社と称す。)が取得することはできない。
(例外要件)
①合併または他の会社の営業全部の譲受けに因るとき
②会社の権利の実行に当たり、その目的と達するために必要なとき
子会社等 イ.子会社
ロ.会社以外の者がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。(同条第3号の2)
親会社 株式会社を子会社とする会社その他の当該株式会社を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。(同条第4号)
親会社等 イ.親会社
ロ.株式会社の経営を支配しているもの(法人であるものを除く。)として法務省令で定めるもの。(同条第4号の2)

このように、旧商法における親会社・子会社の定義は、会社が有する他の会社の議決権の割合を基準(過半数)としていましたが、会社法においては、「議決権の過半数」に加え「経営を支配する」という要件を付加している点に特徴があります。

旧商法と会社法の違い

また、条項にある「法務省令で定めるもの」については、「会社法施行規則(法務省令)」に次のような規定が設けられ、「経営の支配」について説明しています。

(表2)《会社法施行規則第3条(子会社及び親会社)》

(第1項~第3項)
第1項及び第2項において、法第3条第3号でいう「経営を支配している法人」とは、「他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配している場合のその法人」と規定し、経営の支配が成立する要件を、「財務及び事業の方針の決定」であると明記しています。その上で、「財務及び事業の方針の決定を支配している場合」について、次の項目をあげています。

1 他の会社等の議決権の総数に対する自己の計算において所有している議決権の数の割合が100分の50を超えている場合。(この場合の他の会社等には、「民事再生法」、「会社更生法」、「破産法」の各手続開始の決定を受けた会社並びにこれらの会社に準ずる会社等は含まれません。)

2 他の会社等の議決権の総数に対する自己の計算において所有している議決権の数の割合が100分の40以上である場合(1を除く)で、次に掲げるいずれかの要件に該当する場合。

(1)他の会社等の議決権の総数に対する自己所有等議決権数(次の①~③の合計数)の割合が100分の50を超えていること。

  1. ①自己の計算において所有している議決権
  2. ②自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があり、自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者が有する議決権
  3. ③自己の意思と同一の内容の議決権を行使することに同意している者が所有している議決権

(2)他の会社等の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の総数に対する次に掲げる者の数の割合が100分の50を超えていること(なお、「次に掲げる者」とは、当該他の会社の財務及び事業の方針の決定に影響を与えることができる者に限ります)。

  1. ①自己の役員
  2. ②自己の業務を執行する社員
  3. ③自己の使用人
  4. ④①~③であった者

(3)自己が他の会社等の重要な財務及び事業の方針の決定を支配する契約等が存在すること。

(4)他の会社等の資金調達額(貸借対照表の負債の部に記載されているものに限る。)の総額に対する自己が行う融資(債務保証及び担保提供を含む)の額の割合が100分の50を超えていること。

(5)その他自己が他の会社等の財務及び事業の方針の決定を支配していることが推測される事実が存在すること。

3 他の会社等の議決権の総数に対する自己の割合が100分の50を超えている場合(自己の計算において議決権を所有していない場合を含み、1及び2に掲げる場合を除く。)であって、上記(2)~(5)に掲げるいずれかの要件に該当する場合。

1-2 会計ルールに基づく子会社の判断基準

子会社の設立を検討している場合は、設立後の財務諸表作成も念頭におかなければなりませんので、会計ルールについても整理しておきます。子会社や関連会社を持つ企業は、その子会社等を連結先として連結財務諸表を作成しなければなりませんが、連結先として重要性がないと判断される子会社については、企業会計原則における「重要性の原則」を適用して連結の対象から外すことも可能であるため、最初に、連結の範囲を決定しなければなりません。

このための基準となるのが、企業会計基準委員会が公表している、「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針(企業会計基準適用指針第22号)」であり、この中で、親会社と子会社の定義及び子会社の判定基準を、以下のように示しています。

(表3)会計ルール上の親会社・子会社の定義

会社区分 定義
親会社 他の企業の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(意思決定機関としての株主総会や取締役会等)を支配している企業。※会社法施行規則でいう「経営を支配している法人」に該当。
子会社 ・上記親会社の定義に記載された「他の企業」。
・孫会社も、会計上は親会社の子会社となります。

(表4)会計ルール上の子会社判定基準

議決権割合 経営支配の判断基準
50%超(過半数) 他の企業の議決権の過半数を自己の計算において所有している場合(実質支配)
40%~50% 他の企業の議決権の40%から50%を自己の計算において所有し、かつ、(表2)会社法施行規則の2-(1)~(4)の条件に該当している場合。
0%~40%未満 他の企業の議決権の40%未満を自己の計算において所有し、かつ、緊密者((表2)の(1)-②)と合わせると他の企業の議決権の過半数を所有し、会社法施行規則(表2)の2-(2)~(4)の条件に該当する場合。

このように実質的に他の企業を支配しているか否かが子会社の判定基準となりますが、支配が一時的であると認められる企業や、これ以外の企業で、連結先とすることで利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがある場合は、連結の範囲には含めないこととされます。

また、資産や売上高の状況等を勘案して、連結の範囲から除外したとしても、その企業集団の財政状態や経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に「重要性の乏しい」子会社は、連結の範囲に含めないことができます

この重要性の判断基準は、質的重要性と量的重要性で構成され、以下のように整理されています。

(表5)重要性の判断基準

質的重要性のある会社
  1. ①連結財務諸表提出会社の中・長期経営戦略上の重要な子会社
  2. ②連結財務諸表提出会社の一業務部門の業務の全部又は重要な一部を実質的に担っていると考えられる子会社。
  3. ③セグメント情報の開示に重要な影響を与える子会社
  4. ④多額な含み損失や発生の可能性の高い重要な偶発事象を有している子会社
量的重要性のある会社 (1)量的重要性の判断は、次の4項目に与える影響で判断します。

  1. ①資産基準
  2. ②売上高基準
  3. ③利益基準
  4. ④利益剰余金基準

(2)支配が一時的な会社及び連結の範囲に含めることが利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがある会社で、連結の範囲に含めていない会社は、量的基準の算式には含めません(監査・保証実務委員会報告第52号「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用に係る監査上の取扱い」より。
※ 量的基準に係る計算式については省略します。

このような位置づけの下、会計ルールに基づく決算等の実務面では、「子会社」と「関連会社」を区分する取り扱いルールがあります。(表3)と(表4)をベースとして、20%以上の議決権を有している会社、若しくは出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、財務、営業、事業の方針決定に重要な影響を与える会社を「関連会社」と位置付けています。

「子会社」と「関連会社」の区分

なお、20%というのはあくまでも目安であり、たとえこれより低い議決権の所有であっても、会社法施行規則に定められた「経営を支配」しているという実態にあれば「関連会社」となります。ちなみに、他の会社の株式を100%保有する場合は、「完全子会社」という表現が使われます。

2 子会社設立のメリット・デメリット

子会社設立のメリット・デメリット

用語の定義で見えてきたように、「子会社」や「関連会社」という位置づけのもと、企業は積極的にグループ化を進めてきましたが、なんのために子会社や関連会社を設立若しくは支配権を獲得する動きに及ぶのでしょうか。なにがしかのメリットがなければ、あえて決算手続やガバナンスの面で煩雑さが増すグループ化を推進することはないでしょう。

ここからは、子会社を設立するメリットとデメリットについて考察します。一般的に考えられるメリットとデメリットを整理すると、以下の事項が挙げられます。

(表6)子会社を設立するメリット・デメリット

メリット デメリット
  1. ①節税メリットが生まれる。
  2. ②経営管理上のリスク分散ができる。
  3. ③意思決定の効率化
  1. ①設立コストとオペレーションコストが増加する。
  2. ②レピュテーション・リスクの増大。
  3. ②会計や税務に係るリスク。

2-1 メリットの内容

(表6)で挙げた各メリットの内容を見ていきましょう。

子会社設立のメリット

2-1-1 節税メリット

法人税率は、組織形態によって異なりますが、株式会社や合同会社は下記のとおりとなっています。

(表7-1)法人税率

会社の規模
課税所得
資本金が1億円以下
(中小法人)
資本金1億円超
(大法人)
所得が年800万円以下の部分 19.0% 23.2%
所得金額が年800万円超の部分 23.2%
(注)中小法人と大法人については、法人税法上の区分で記載しています。
〇中小法人とは、普通法人のうち各事業年度終了時における資本金または出資金の額が1億円以下
であるもの、または資本若しくは出資を有しないものを言います。
〇大法人は、中小法人以外の法人という位置づけです。

このように、資本金の額が1億円を境にして税率が異なります。資本金1億円以下の会社の場合、所得額が800万以下の部分に対する税率が低いため、法人税額全体で見ると、資本金1億円超の会社よりも少なくなります。以下、簡単な試算例を掲載しました。

(表7-2)法人税額の比較・計算例

会社の規模
課税所得
(中小法人)
資本金額:8,000万円
所得金額:3,000万円
(大法人)
資本金額:2億円
所得金額:3,000万円
(1)
所得金額が年800万円以下の部分
800万円×19.0%=152万円 3,000万円×23.2%=696万円
(2)
所得金額が年800万円超の部分
(3,000万円-800万円)×23.2%=510万円
法人税額計(1)+(2) 662万円 696万円

(表7-2)の例では、課税所得額が同じでも、資本金の額が違うだけで中小法人のほうが大法人より税額は34万円安くなります。仮に、この表の中小法人が課税所得1,000万円規模の事業部門を、資本金500万円で子会社を設立して切り離した場合の税額を計算すると以下の通りとなります。

会社の規模
課税所得
(親会社)
資本金額:8,000万円
所得金額:2,000万円
(子会社)
資本金額:500万円
所得金額:1,000万円
(1)
所得金額が年800万円以下の部分
(2,000万円-800万円)×23.2%=276万円 (1,000万円-800万円)×23.2%=46万円
法人税額計(1)+(2) 428万円 198万円

課税所得の合計が子会社設立前と同額として計算すると、法人税額は合計626万円となり、36万円の節税となります。地方税については、たとえ収支が赤字でも課される均等割が子会社分増加しますが、利益が出ていれば、全体での節税効果が見込まれます。この例は、既存の事業部門を子会社化したものですが、新規事業を始めるにあたり、本体で取り組む場合と子会社を設立して取り組む場合の比較でも同様の考え方ができます。

法人税以外では最も大きな税目である消費税については、新設法人には課税業者を判定する基準期間がないため、2年間は消費税の免税事業者となるとの指摘が一部でありますが、資本金が1,000万円以上の会社や、資本金が1,000万円未満であっても、「特定新規設立法人」(注1)については、基準期間のない第1期、第2期についても消費税の免税事業者とはならず、消費税の申告義務が生じます。したがって子会社の場合は、親会社の規模によっては免税事業者とはなれない場合があるため留意が必要です。

(注1)特定新規設立法人
特定新規設立法人とは、2014年4月1日以後に設立した新規設立法人(その事業年度の基準期間がない法人で、その事業年度開始の日における資本金の額又は出資の金額が1,000万円未満の法人)のうち、次の①、②のいずれにも該当する法人を言います。

①その基準期間がない事業年度開始の日において、他の者により当該新規設立法人の株式等の50%超を直接または間接に保有される場合など、他の者により当該新規設立法人が支配される一定の場合(特定要件)に該当すること。
②上記①の特定要件に該当するかどうかの判定の基礎となった他の者、及び、当該他の者と一定の特殊な関係にある法人のうちいずれかの者(判定対象者)の当該新規設立法人の当該事業年度の基準期間に相当する期間(基準期間相当期間)における課税売上高が5億円を超えていること。

(以上、国税庁タックスアンサー№6531より引用)

※この判定において注意が必要なのは、「他の者」とは、新設法人の株式等の50%超を直接又は間接に保有する法人等がこれに該当し、「特殊な関係にある法人」とは「他の者」と「100%支配関係(完全支配関係)にある他の法人等」として規定されていることです。「他の者」又は「他の者に完全に支配されている法人」のどちらかの課税売上高が、基準期間相当期間内に5億円を超えている場合、新設法人は免税事業者とはなれないということになります。

以上が、法人税の税率に関わる節税関係ですが、課税所得を減少させる節税事項もあります。代表的なものが「交際費の損金算入」枠と「少額減価償却資産の損金算入の特例」枠の増加です。

まず、交際費は、冗費を抑制して法人の内部留保を高め財務体質の強化を図るという政策的側面から原則として損金不算入です。これが、時限立法である租税特別措置法によって、法人の規模に応じて損金に算入できる特例が設けられており、現行制度も2020年3月31日まで期限が延長されて適用されています。

現行の交際費の損金算入限度額の特例は、法人の資本金等の額によって次のとおりとなっています。

《2014年4月1日以後に開始する事業年度から適用》
①期末資本金(又は出資金)の額が1億円以下の法人(中小法人)
次のうち有利な処理を選択できます(ただし、適用年度は2020年3月31日まで)
・飲食費(社内接待分を除く)の50%を損金算入
・800万円以下の交際費全額を損金算入
②期末資本金(又は出資金)の額が1億円超の法人
・飲食費(社内接待分を除く)の50%を損金算入

子会社が資本金1億円以下の中小法人の場合は、①の限度内で交際費の損金算入が可能となります。ただし、資本金5億円以上の大会社の100%子会社は、たとえ資本金が1億円以下であっても大会社の扱いになりますので留意が必要です。

次に、少額減価償却資産についてですが、企業が取得した減価償却資産は、原則として取得年度の一括費用処理はできませんが、一定の要件のもとで当該年度での損金算入の特例が認められ、課税所得を減少させることができます。その内容は以下の通りです。

①一括償却資産の特例

減価償却資産は、資産ごとに税法で定められた耐用年数に応じて減価償却しなければなりませんが、使用可能期間が1年未満又は取得価額が10万円未満の減価償却資産は、その全額を一括して損金算入が認められます。このほか、取得価額が20万円未満の減価償却資産を取得した場合、事業年度ごとに一括して3年間で均等償却することが認められるという特例措置があります。

②少額減価償却資産の特例

減価償却資産で、取得価額が30万円未満のものは、対象となる資産の取得価額の合計額が300万円に達するまでの分は、固定資産に計上せず、全額を費用(損金)処理することができます。

子会社においても単独でこれらの制度を利用できますので、グループとしての節税効果が期待できます。なお、②は租税特別措置法による時限措置としての特例であり、現行制度は2020年3月31日までとなっています。

このほか、役員や従業員に対して退職金を支払って子会社に転籍させることで、親会社の損金として算入することや、設立した子会社が赤字の場合に「連結納税制度」を採用してグループ内損益を通算し、税額を減少させるという手段を採る場合もありますが、経営の健全性を高めるという観点から、積極的に行うような手段とは言えません。あくまでも、そのような事態になったときの手段として知っておけば良いでしょう。

2-1-2 経営管理上のリスク分散

経営管理上、複数の事業を会社ごとに分けることで、各事業で想定される様々なリスクを分散して対応できるというメリットがあります。規制法令の異なる事業を複数抱えているような場合や、許認可事業に取り組む際に、リーガルチェック等の専門性を高めるなど、特定の要件を備えなければならないような場合にも、子会社の設立が適していると考えられます。

2-1-3 意思決定の効率化

事業分野ごとに子会社を設立すると、本体の会社よりも経営の意思決定のスピードが向上する効果もあります。会社の規模が拡大するにしたがって社内機構が大きくなると、意思決定に至るプロセスが硬直化して競争で後れをとるような場面もでてきます。一定規模の事業については、子会社を設立して意思決定プロセスを簡略化したほうが、従業員のモチベーションが高まり、競争力やサービスの質の向上につながります

2-2 デメリットの詳細と対処法

メリットがあれば、当然デメリットもあります。メリットの裏返しのような課題もあれば、組織を細分化することで顕在化する問題もあります。ここからは、これらデメリットについて取り上げてみます。

子会社設立のデメリット

2-2-1 設立コストとオペレーションコストの増加

会社設立には、そのための手続きや費用が必要となり、それだけ人手と時間もかかることになります。設立の手順については後述しますが、定款の作成、公証人による認証、登記手続きといった事務手続きや費用がかかります。しかし、この一時的な事務手続きや支出よりも、管理面の負荷という意味では、会社成立後の組織運営にかかるコストと手間のほうが圧倒的に大きいと言えます。

会計ルールへの対応、税務調査や労働問題への対処など、親会社と同様の管理体制が必要となります。会計ルールの関係では、連結子会社として「連結法」若しくは「持分法」という会計処理の方法によって連結財務諸表を作成しなければなりません。

連結財務諸表とは、支配従属の関係にある複数の企業集団を一つの組織とみなし、親会社がこのグループの財務や経営成績及びキャッシュ・フローの状況を総合的に報告するというものです。この連結財務諸表を作成するプロセスは、連結決算若しくは連結会計と呼ばれています。子会社に対しては「連結法」、関連会社に対しては「持分法」が用いられ、「持分法」のほうが簡便的な手法となります。

最終的には、どちらの方法によっても、子会社の貸借対照表と損益計算書の主要な項目に対する親会社の持分が反映されることになりますが、親会社が連結財務諸表を作成するからといって、子会社が決算手続等を省略できるわけではありません。
親会社及び子会社ともに単体の決算に基づく財務諸表を作成し、配当を決定し、税金を算出して納税を行わなければなりません。なお、税金に関しては、連結納税制度を選択する場合は、異なる手続きとなります。

このように、親会社・子会社ともに、決算手続から個別及び連結財務諸表の作成、法人税申告書の作成と納税という一連の事務手続きが煩雑となるため、人件費負担と事務リスクが増加することになります。

2-2-2 レピュテーション・リスクの増大

子会社を保有する手段は、事業部門の分社化による設立、M&Aによる他社の子会社化、事業の多角化による新設等が考えられますが、いずれにしても会社法で言うところの「企業集団」として事業活動を行うという事実が重要な意味を持つことになります。

たとえば、子会社に不祥事が発生すると、親会社への影響も避けがたいものであり、その企業集団全体に対する信用度が低下し、否定的な評価が高まることで企業ブランドを棄損することにつながります(レピュテーション・リスク)。

そして、この不祥事というのは、犯罪行為にとどまらず、職場における多様なハラスメントなど、広くコンプライアンス問題として認識しなければなりません。このため、子会社においてもコンプライアンス担当を含むリスク管理部門の整備が必要となりますが、子会社は、事業の成果が重視される実働部門であることが多いこと、また、人的・財政的な余裕がないことなどから、リスク管理への認識が薄く、体制が整備されないまま時が経過し、不祥事に至るというケースが多く見られます。

このように体制不備を放置することは、将来にわたってその企業集団のレピュテーション・リスクを増大させることにほかなりません。本来、子会社の体制整備は、子会社設立時に親会社の責任として取り組むべき重要事項であり、会社設立後も一定の監視・監督が求められるところです。

近年、子会社による不祥事が散見される中、親会社及び子会社の内部統制システムに関しては、法第362条第4項第6号において、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を取締役会の権限として規定しています。

この、「業務の適正を確保するためにする法務省令で定める体制の整備」が、リスク管理を含めた内部統制システムの整備を指しており、法務省令(会社法施行規則)第100条において、その体制整備の内容が明記されています。会社法施行規則は2015年に改正されましたが、この改正で、企業集団の内部統制システムの整備は親会社の責任で行うことが明文化されています。これは、子会社管理において極めて重要な事項ですので、その内容を以下に整理して記載します。

《企業集団の内部統制システム上整備すべき事項》:会社法施行規則第100条第1項第5号

  1. ①子会社取締役、執行役、使用人(以下、「取締役等」という。)から親会社への報告体制
  2. ②子会社の損失危険管理体制
  3. ③子会社の取締役等の職務執行の効率性確保
  4. ④子会社の取締役等の法令・定款遵守体制

これらの中で、特に注意すべき事項は、①の子会社取締役等から親会社への報告体制だと言えます。子会社が、事件・事故等の発生やその恐れを把握した時点で遅滞なく報告していれば、対外的に知られる前に、未然防止又は損害の拡大を防ぐことができたという事例が多いと言われているからです。

この報告制度の実効性を高めるためには、報告制度に対する子会社における意識付けや環境整備とともに、親会社における報告の受入環境整備も重要な要件となります。実質的には、いわゆる「内部通報制度」となることから、通報を受ける親会社の担当者の意識付けや、通報を受けてからの手続きの明確化をはじめ、通報者の保護措置(不利益待遇の排除)について関係者に周知徹底するなど、高いレベルでの仕組み作りが求められます。

また、2015年の改正会社法施行規則において、子会社から親会社への報告体制につき、内部統制システム充実の観点から、子会社の取締役等や監査役から親会社の監査役への報告が新たに規定されたことも注目すべき事項であると言えます(会社法施行規則第100条第3項第4号-ロ)。

親会社の監査役は、監査役設置会社の子会社に対して、「事業の報告を求め」、又は「業務及び財産の状況の調査」をすることができます(法第381条第3項)。これは、親会社の事業部門が子会社に対して影響力を行使し、不正行為を行なった場合等に備えた措置といえます。一方で、親会社の監査役による子会社の調査権等は、親会社の取締役の職務執行監査の一環という位置づけであり、子会社の不祥事を直接監査する役割が求められているわけではないことに留意が必要です。

が求められるということを、子会社の設立を検討する場合には十分に認識しておく必要があります。このように、子会社の設立によって新たなリスクが生じることになり、そのリスク管理のための体制整備

2-2-3 会計や税務に係るリスク

不祥事発生リスクに含まれる部分もありますが、子会社設立によって顕在化するもう一つのデメリットとして、会計と税務に関するリスクが考えられます。節税メリットがある分、その事務手続きの間違いや恣意的な処理が税務調査において判明し、修正申告による延滞税や加算税などの発生、更正又は決定の対象になるなどの懸念が生じます

所得金額や税額の計算で仮装や隠ぺいが発覚するようなことになれば、重加算税が課されることになります。重加算税は犯罪とまでは言わないものの、不正な申告納税に対する制裁措置であり、行政罰の一種と言われているため、事後も一定期間は課税庁に注目されることになります。

このように、子会社を設立することによって得られるメリットとデメリットは併存しており、ちょっとした手続きを疎かにすると、メリットが消えるだけではなく、デメリットが表に出てマイナスの効果となる危険性をはらんでいることを認識しなければなりません。メリットを最大限享受するためには、デメリットとなる要素を適切に管理する必要があるということです。

3 子会社を設立する手順

子会社を設立する手順

子会社を設立する際、親会社が100%出資して設立する場合と、他の出資者も含めて共同出資とするケースが考えられますが、どちらの場合でも、出資者を発起人として設立登記を行うことに変わりはありません。また、手続き自体は、新設会社の設立と同様です。

3-1 子会社の設立費用と準備するもの

子会社設立に必要なもの

まず、子会社設立に要する費用について確認しておきましょう。株式会社とするか合同会社とするかで必要な額が変わってきます。この二つの形態を対比して確認してみましょう。

(表8-1)子会社設立に要する費用概算

項目 株式会社 合同会社 備考
定款認証印紙代 0円 0円 電子定款使用で例示(無料)
公証人による定款認証費用 50,000円 0円 合同会社は認証不要
登録免許税 150,000円 60,000円 いずれも最低額で記載。

※登録免許税については、株式会社も合同会社も基本的には、資本金の0.7%が必要ですが、計算した額がそれぞれの最低額に達しない場合は、最低額となります。また、定款認証印紙代については、いずれの場合も電子定款を利用すると費用がかかりません。紙の定款とした場合は、株式会社・合同会社ともに4万円が必要となります。

設立手続きを司法書士などに依頼する場合は、別途費用が必要となります。司法書士等によって、サービスの構成が異なると所要金額も変わりますので、個別に確認することになります。一般的には7~10万円程度と幅があります。

(表8-2)設立時に必要なもの

項目
発起人全員の実印と印鑑証明書
・親会社の実印(代表社員)と印鑑証明書
・その他出資者の実印と印鑑証明書(親会社の100%出資の場合は、不要)
・親会社の定款の写し
・親会社の登記簿謄本
・子会社取締役の印
・身分証明書(本人確認用)

3-2 子会社設立スケジュール

子会社設立スケジュール

子会社の設立スケジュールを確認しておきましょう。合同会社は、公証人による定款の認証を必要としないなど、株式会社に比べ手続きが簡略化されています。

(表9)会社設立スケジュールの概要

  株式会社 合同会社
定款記載事項の決定及び定款作成(法第26条第1項)電子定款の根拠は同条第2項 定款記載事項を決定し定款を作成する(法第575条)電子定款の根拠は同条第2項
代表者実印、銀行印等必要な印鑑類を準備 代表者実印、銀行印等必要な印鑑類を準備
公証人による定款の認証(法第30条第1項) *定款の公証人認証は不要
設立時発行株式決定と出資金払込(法第32条及び第34条第2項) 出資の履行(定款の作成後、設立登記までに全額を払い込む)(法第578条)
出資履行後速やかに設立時取締役選任(法第38条) 法人が業務を執行する社員である場合、当該法人は、「職執を行う者を選任」しなければならない(法第598条)
設立時取締役が、設立手続が定款に適合しているか否かを調査(法第46条)
設立登記申請 設立登記申請
設立登記完了で会社成立(法第49条) 設立登記完了で会社成立(法第579条)

なお、定款作成前に、「商号」を決めることになりますが、同一住所に同じ商号の会社がないか確認するなど、所定のルール(注2)に従って決めなければなりませんので注意が必要です。

(注2)商号決定に係るルール
会社法に定められた商号に関する規定のほか、商業登記法第27条で、「同一の住所に同一の商号を認めない」旨の規定があります。このほか、不正競争防止法によって商号の使用について規制されており、整理すると以下のような内容となります。

1.商号には、「株式会社」、「合同会社」という会社法で定められた会社の態様ごとの文字を付けなければなりません。

2.使用できる「文字」と「記号」
文字:①漢字、②ひらがな、③カタカナ、④ローマ字、⑤アラビア数字
記号:①「&」、②「,」、③「-」、④「.」、⑤「・」、⑥「‘」

3.禁止される名称(商号の末尾に会社の一部の部署を表すような文字をつけてはいけません。
①支店、②支社、③出張所、④事業部、⑤不動産部、⑥出版部、⑦「販売部」
このほか、業種によって使用しなければならない名称があり、これらの業種と関係のない者は、その名称等を使用することが禁じられています。銀行、保険会社、信用金庫、農業協同組合、漁業協同組合等です。

3-3 定款作成の要点

定款の記載事項には、記載しなければ定款そのものが無効となる「絶対的記載事項」、記載しなければその効力を生じない「相対的記載事項」、任意に記載することができる「任意的記載事項」があります。株式会社と合同会社の記載事項を対照形式で整理すると下記のようになります。

(表10)会社形態別定款記載事項

株式会社 合同会社
(絶対的記載事項)

  1. ①目的
  2. ②商号
  3. ③本店の所在地
  4. ④設立に際して出資すべき額(又はその下限額・・・下限制限はない)
  5. ⑤発起人の氏名・名称及び住所
(絶対的記載事項)

  1. ①目的
  2. ②商号
  3. ③本店の所在地
  4. ④社員の氏名又は名称及び住所
  5. ⑤社員の全部が有限責任社員であること
  6. ⑥社委員の出資の目的及びその価額又は評価の標準
(相対的記載事項)

  1. ①設立に際して発行する株式の種類、数およびその割り当てに関する事項
  2. ②会社が発行する株式の総数
  3. ③設立時の取締役等
  4. ④法第28条に規定された事項(変態設立事項)
    〇現物出資(金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、その財産及び価額並びに割り当てる設立時発行株式の数。会社が種類株式発行会社である場合は、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。)
    〇財産引受(会社の成立後に譲り受けることを約した財産と価額ならびに譲渡人の氏名または名称)
    〇発起人の報酬(会社の設立によって発起人が受け取る報酬その他の利益及びその発起人の氏名又は名称)
    〇設立費用(会社が負担する設立費用。ただし、定款の認証手数料その他会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令を定める者を除く)
  5. ⑤株式の内容
  6. ⑥株券の発行
  7. ⑦取締役会を設置しない株式譲渡制限会社における総会の招集期間のさらなる短縮
  8. ⑧取締役の任期伸長
  9. ⑨監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定すること
  10. ⑩公告の方法を官報と違うものにするとき
  11. ⑪株主権行使の基準日を特定の日に設定するとき
(相対的記載事項)

  1. ①業務執行社員が、その持分の全部または一部を他人に譲渡することにつき定める、法定外の「別段の定め」
  2. ②業務執行社員でない社員の持分譲渡につき定める、法定外の「別段の定め」
  3. ③業務執行社員でない社員の持分譲渡に伴い定款の変更が生じるときの処理につき定める、法定外の「別段の定め」
  4. ④社員は全員業務執行権を有するという法定事項と「異なる別段の定め」をするときの、その「別段の定め」
  5. ⑤業務を執行する社員が二人以上ある場合の業務執行について定める、法定事項と「異なる別段の定め」
  6. ⑥業務を執行する社員を定款で定めた場合で、その執行社員が二人以上あるときの業務の決定について定める、法定事項と「異なる別段の定め」
  7. ⑦業務執行社員を定款で定めた場合でも、支配人の選・解任は社員の過半数をもって決定するという法定事項と「異なる別段の定め」
  8. ⑧業務執行社員を定款で定めた場合、その執行社員は正当な事由がなければ辞任することができないとする法定事項と「異なる別段の定め」
  9. ⑨業務執行社員を定款で定めた場合、その執行社員は正当な事由がある場合に限り他の社員の一致により解任できるとする法定事項と「異なる別段の定め」
  10. ⑩業務執行社員を定款で定めた場合、各社員は業務を執行する権利を有しないときでも、業務・財産状況の調査権を有するという法定事項と「異なる別段の定め」
  11. ⑪業務執行社員は、合同会社又は他の社員の請求があるときは、いつでも職務執行の状況を報告し、職務終了後は遅滞なくその経過と結果を報告しなければならないとの法定事項と「異なる別段の定め」
  12. ⑫民法を準用する旨を法で定められた事項(内容は省略)について、「これと異なる別段の定め」をするときの、その「別段の定め」
  13. ⑬業務執行社員の競業禁止規定の内容につき、「これと異なる別段の定め」をするときの、その「別段の定め」
  14. ⑭業務執行社員の利益相反取引に関する規定の内容につき、「これと異なる別段の定め」をするときの、その「別段の定め」
  15. ⑮業務執行社員の互選で代表社員を定める場合の定め
  16. ⑯合同会社の存続期間を定めなかった場合における各社員の退社要件を法定事項と「異なる別段の定め」とするときの、その「別段の定め」
  17. ⑰退社理由の定め
  18. ⑱法定退社事由のうち、破産開始決定、解散(合併・破産以外)、後見開始の審判を受けたことによっては退社しないという定め
  19. ⑲社員が死亡した場合または合併により会社が消滅した場合は、その社員の相続人その他一般承継人がその持分を承継することの定め
  20. ⑳社員は、会社の営業時間内はいつでも計算書類の閲覧等を請求できるという法定事項と「異なる別段の定め」
  21. ㉑利益の配当を請求する方法その他の利益配当に関する事項の定め
  22. ㉒損益分配の割合についての定め
  23. ㉓出資の払戻しを請求する方法及びその他出資の払戻しに関する事項についての定め
  24. ㉔公告の方法に関する定め
  25. ㉕定款の変更は、総社員の同意が原則という法定事項と「異なる別段の定め」
  26. ㉖会社の存続期間の定め
  27. ㉗解散の事由の定め
  28. ㉘清算人の解任にかかる法定外事項の定め
  29. ㉙清算人が2人以上いる場合の清算会社の業務に関する法定外の定め
  30. ㉚定款の定めに基づく清算人の互選によって代表清算人を定めるときの互選規程
  31. ㉛残余財産の分配の割合に関する定め
  32. ㉜清算会社の帳簿資料を保存する者の定め
(任意的記載事項)

  1. ①事業年度、決算期
  2. ②役付取締役の名称・役割
  3. ③議決権の代理行使を株主に限定するとき
(任意的記載事項)

  1. ①事業年度
  2. ②社員総会を置く定め
  3. ③社員総会を置く場合の招集手続等

合同会社の場合は、定款で自由に決められる事項が多いことも大きな特徴の一つです。法定事項であっても、定款で異なる定めをできる項目が非常に多いことからも、合同会社の定款自治の高さが際立っています。これが、経営の自由度の高さにつながり、合同会社の人気の高さにつながっていると考えられます。

4 事業計画書とは

事業計画書とは

起業家にとって、会社設立時の悩ましい問題の一つとして事業計画の作成をあげることができます。定款の作成や設立登記などの事務手続きは、法定の定型事項が多いため、専門家への相談などで円滑に進めることができる領域です。しかし、事業計画は、起業家が描く夢を、全てのステークホルダーが趣旨と内容を理解し、その夢の実現に賛同してくれるものでなければなりません。

実績のある企業の場合、新規事業創設による挑戦的目標設定や、不祥事発生等を受けての抜本的な組織改革など、対外的なアピールが必要でない限り、事業計画の作成は「惰性的作業」に陥ることが間々あります。起業にあたり、初めて事業計画書を作成するときの重要な点を、実績ある企業がエアポケットに入ってしまう要素も参考にしながら考察します。

4-1 長期計画を意識すること

事業計画の作成が惰性的になるのは、当初定めた「ミッション」及び「ビジョン」(注1)が有名無実化した証ともいえます。事業計画は通常、「長期計画」、「中期計画」、「単年度計画」という体系によって構成されます。単年度の事業計画は、中期計画達成のプロセスを明確にすることで実現性を高めるものであり、中期計画は企業の存在意義ともいえるミッションとビジョンを定めた長期計画を実現するための戦略として重要な位置づけにあります。

惰性的になるのはこの中期計画であり、ミッションとビジョンがいつのまにか「利益至上主義」にすり替わってしまうことが原因です。利益至上主義が企業内に蔓延すると、普段は表に出なくとも、些細なことをきっかけに不祥事やハラスメント問題として表面化することは、近年の企業不祥事を見てば明らかです。その上、事後の対応を誤れば容赦なく社会から拒絶され、市場からの退場を余儀なくされるのです。

(注1)ミッションとビジョン
ミッションは、企業経営における基本的な価値観・精神・信念など行動の基準となるもので、全社で共有すべき価値観と言えます。ビジョンは、ミッションを実現するための行動指針という位置づけです。

4-2 現代の企業経営に求められるもの

現代の企業経営に求められるのは、「事業を通して社会に貢献できる」、「ステークホルダーがともに繁栄できる」、「ブラックではない」組織づくりとその運営です。起業にあたり、これら三つの要素は、事業計画から決して外すことのできない骨格であることを認識しなければなりません。

現代の企業経営に求められるもの

この3つの要素は、コンプライアンスやCSRを柱とした経営思想として、起業時に種をまき、役員と従業員がともに育んでいくべき永遠のテーマと言えます。利益の追求を悪とするのではありません。事業を拡大し、利益を上げ、株主に配当し、仕入先を潤わせ、消費者と社会に満足を提供することで、更なる事業の発展につなげるという好循環を創る出すための基盤なのです。

その循環の中で、利益は事業拡大のための再投資に回り、会社の規模が拡大することで雇用の増大と税金の納付を通して地域に貢献することにつながっていきます。起業時の事業計画は、この循環を創り出すための仕組みを内外に示すとともに、その裏付けとなる損益計画は実現可能性の高いものとしなければなりません。

5 事業計画書の書き方

事業計画書の書き方

冒頭に述べたように、全てのステークホルダーから賛同が得られる事業計画とするためには、金融機関や投資家の厳しい目から見ても、実現可能性が高いと判断できる内容でなければなりません。そして、事業計画の実現可能性を高めるためには、計画の体系化が必要です。

5-1 事業計画の体系と書き方

㈱東京商工リサーチが発表した「2018年・業歴30年以上の『老舗企業』倒産調査」には、業歴10年未満の新興企業の倒産件数も掲載されており、2018年は1,745件(総倒産件数に対する構成比24.8%)で、前年対比0.3ポイント上昇しています。2006年の会社法施行を機に、国が積極的に起業支援策を講じる中、早期倒産要因として、起業家の計画に対する認識の甘さが指摘されています。

このような実態に鑑み、事業計画は長期的視野と明確な根拠をもって作成しなければなりません。長期的視野とは、少なくとも10年後の「会社が到達すべき姿」を描き、そのための戦略(中期計画)と戦術(単年度計画)を策定することで、実現可能性を高めることができます。ここからは、長期、中期、単年度という計画の体系を踏まえ、各計画の作成要領を示します。まず、長期計画について、記載事項の例を下記に示します。

(表1)長期計画の記載事項の例

《会社のプロフィール》

  1. 1.商号
  2. 2.代表取締役(合同会社の場合は代表社員)
  3. 3.本社所在地
  4. 4.設立年月日
  5. 5.資本金(合同会社の場合は出資金)
  6. 6.主な株主(合同会社の場合は出資者)
  7. 7.電話番号、ホームページ等
  8. 8.会社概要(例)
    取り扱う事業の内容、提携・連携先、関係の深い企業等
  9. 9.代表のプロフィール
    経歴、起業に至る背景等

《ミッションとビジョン》

  1. 1.ミッション
    当社は、事業活動を通して社会に貢献する会社であり続けます。
  2. 2.ビジョン
    ・事業の普及を通して、農薬や食品添加物に頼らない食生活を実現します。
    ・自社の成長とともに地域経済の活性化を目指します。
    ・5年後に〇県内の小・中学校給食への当社食材採用率を50%、10年後に80%を実現します。
    ・お客様の満足度を高めるために、従業員の業務能力向上とあわせ、職場環境の最適化を目指します。
    【記載要領】
    現代の企業経営の在り方として、「自社の特質を活かし、社会の課題に取り組む」という姿勢を鮮明にすることが重要です。ここでは、農薬と食品添加物を使用しない商品の供給を主業とする会社として、食の安全・安心に取り組むことを表明しており、自社が供給する食材の安全性と、それが社会に果たす役割を内外にアピールしています。また、従業員の職場環境の最適化というワードを使って、近年の働き方改革につながる一連の社会問題に取り組む姿勢もにじませています。
  3. 3.ミッションとしての数値目標
    ・売上高50億円(設立5年後:30億円、10年後:50億円)を達成します。
    ・従業員数150人(設立5年後:100人、10年後150人)を達成します。
    創業時従業員数:50名
    ※ 売上高などの数値目標は、会社の成長によって、納税や雇用の拡大を通じて社会に還元する利益が増加することをアピールすることになります。

5-2 中期計画と単年度計画の書き方

次に、ビジョンを実現する中期計画と単年度計画の書き方です。中期計画は、損益計画を含め、通常3か年を対象期間として作成しますので、創業期は第1次計画となります。各項目につき、裏付けとなるデータ等も含め、他者に説明することを前提に作成します。

(表2)中期計画の記載事項の例

テーマ 内容
計画本編 ①中期経営方針と数値目標 創業から3か年の経営方針とビジョン(長期計画で表明した内容)、売上・売上総利益・経常利益・当期純利益の項目で経営目標を設定します。
②事業コンセプト 「誰に」・「何を」・「どのような価値を」提供するのかを明確します。
③損益計画 後掲
④資金計画 本表⑨の資料をもとに作成(今回は様式等省略)
付属資料 ⑤事業環境と背景 政治、経済、社会情勢に関する認識を示すとともに事業に与える影響を整理し、起業の妥当性を示します。
⑥持続可能な競争優位性 SWOT分析(表3)を使い、強み、弱み、機会、脅威の4つの要因分析の結果と、その組み合わせで自社の競争優位性を導き出します。
⑦市場及び事業環境の分析 取り扱い事業に係る現状と将来見込みを示すとともに、主な競業先数社の商品・価格・素材・市場シェア・販売戦略等のリサーチ結果を整理し、事業への影響と自社の立ち位置を示します。
⑧事業の成功要因
(後掲・表4)
事業コンセプト、持続可能な競争優位性等をもとに事業の成功要因を整理し、ステークホルダーを納得させるためのロジックを構築します。
⑨売上及び損益計画・資金計画の根拠 3か年の取引先別の月別売上及び粗利益計画、売掛金の回収サイト及び仕入先への支払いサイトを取引先別に示し、月次で資金繰りの根拠も示します(様式例は省略)。
⑩社内機構 会社の機関、事業活動を担う組織機構(事業本部・部・課・係などの職制)図を作成します。
⑪人員計画 会社設立時から第1次中期計画最終年度までの採用計画を示します。

(表3)SWOT(スウォット)分析表 -下表の各要因の頭文字をとった呼称です-

内部要因
(技術、人材、ノウハウ、商品の質等)
強み(Strength) 弱み(Weakness)
競争相手に対して自社が持つ強み
(他社にはない模倣困難性の高い技術・特許等)
競争相手に比して劣る部分(弱み)
(業界での知名度の低さや、商品の優劣等)
内部要因
(技術、人材、ノウハウ、商品の質等)
機会(Opportunity) 脅威(Threat)
自社の目標達成に貢献する要素
(ビジネスチャンス)
(少子化高齢化、取扱事業の適時性等)
目標達成の障害となる要素
(ビジネスリスク)
(大手企業の参入、人材の確保が困難等)

この分析をもとに、各要因の最も実現可能性の高い組み合わせをもって事業方針や損益計画を作成することになりますので、十分な情報量と精緻な分析が必要です。

(表4)事業の成功要因記載例

当社の事業が成功する要因
コンセプト 〇〇県内の学校給食へ無農薬且つ食品添加物ゼロの食材供給を実現。
他社にはない強み 取扱う食材のうち、農産物の無農薬率は90%の達成が見込まれ、3年後には100%達成が確実。加工食品においては、無添加食品率80%を確実に確保でき、これを3年以内に100%にするための調達網を整備済み。
戦略の独自性 無農薬・無添加食材の供給にあたり、ターゲットを小・中学校の給食に絞り込んでいる。他企業の追随も想定されるが、トレーサビリティー(栽培履歴)から供給に至るサプライチェーン全体に模倣困難性の高い独自の管理システムを構築済み。
強みを維持する仕組み 農産物の調達農家に関し、トレーサビリティー体制及び無農薬栽培体系が既に確立しており、今後3年間で条件具備農家は倍増し、生産供給能力は創業初年度の3倍に達する予定。加工食品の調達メーカーについても参加意思を示す企業が想定を上回り、流通網を含めサプライチェーン全体が有効に機能するシステム構築も終えている。

5-3 中期及び単年度損益計画の書き方

表2の⑨の要領で作成した根拠資料に基づき、下記のような損益計画書を作成します。

(表5)中期3か年損益計画記載例 (単位:万円)

項  目 第1年度 第2年度 第3年度
売上高 180,000 220,000 250,000
売上総利益① 36,000 44,000 55,000
事業管理費②
(明細後掲)
35,000 40,000 45,000
事業利益
③=①-②
1,000 4,000 10,000
事業外損益④
経常利益
⑤=③-④
1,000 4,000 10,000
特別損益⑥
税引前当期利益
⑦=⑤-⑥
1,000 4,000 10,000
法人税等
(注2)⑧
300 1,200 3,000
当期純利益
⑨=⑦-⑧
700 2,800 7,000
常勤役員・従業員数⑩ 52人 60人 80人

(注2)法人税は、実効税率を30%として計算しています。

(表6)表5の一般管理費の内訳

《単位:千円》

項 目 第1年度 第2年度 第3年度
人件費 役員報酬
従業員給与
福利厚生費
4,000
20,000
3,500
4,500
25,000
4,000
5,000
28,000
4,500
27,500 33,500 37,500
業務費 交際費
その他業務費
500
1,500
600
1,700
700
2,000
2,000 2,300 2,700
租税公課 計 1,500 1,500 1,700
施設費 減価償却費
その他施設費
3,000
1,000
1,700
1,000
2,000
1,100
4,000 2,700 3,100
事業管理費 合計 35,000 40,000 45,000

(表7)固定費(一般管理費)計画策定ポイント

重要項目 計画のポイント
人件費 人件費は損益に最も影響を与える費目であると同時に、優秀な人材を確保するための戦略的なツールでもあります。人手不足が深刻な折、2年目以降の昇給や賞与の支給基準を含め、競業先との待遇差が生じないよう注意が必要です。法定福利費は、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険等の保険料率の変動に注意です。
施設費 設備投資計画を作成し、減価償却費や施設・設備に係る管理費用を見積もります。減価償却費は、損益計算への影響が大きい費目の一つですが、現金流出がないため、毎年の減価償却費が資金繰りに直接影響することはありません。税務上の優遇措置等も活用しながら投資のタイミングと金額を決定すると良いでしょう。
業務費 宣伝広告費、研究費、市場対策費、教育研修費、会議費、交際費、印刷・消耗品費等が該当します。交際費は、資本金の額によって、税務上の損金として認められる額が異なりますので要注意です。
税金 消費税負担、固定資産税、不動産取得税、印紙税、配当・利子源泉所得税等が対象となります。

事業計画書作成の要点はつかめたでしょうか。金融機関や投資家からの事業資金調達を念頭に置いた計画とし、各種の分析を行い、自らの事業や作ろうとする会社の特性を洗い直すことで、新たな発見も期待できます。計画段階で「足りない」部分は何か、どのような仕組みが適しているのかなど、補強要点を把握して盤石な事業計画の作成につなげることができます。

6 まとめ

いかがでしょうか。子会社設立によるメリットとデメリットについて解説してきました。子会社設立によるメリットを享受するためには、法令とその他のルールを守ることはもとより、管理すべき組織が増えることで、新たなリスクを抱えるという点にも留意しなければなりません。実効性の高いリスクコントロールを可能にするための体制整備が求められます。今回の記事では、とりわけこのような点を中心に解説しました。子会社設立を企図する企業にとって、ご参考になれば幸いです。

社団法人設立が全国一律27,800円!KiND行政書士事務所:東京