一般社団法人の設立に必要な最低人数は?
法人の種類は複数あります。営利法人の株式会社や合同会社、非営利法人の一般社団法人や特定非営利活動法人などです。これらの法人を設立する時には、一定の人数を集めなければなりません。また、集めなければいけない人数は法人によって異なるため、注意が必要です。
今回の記事では、一般社団法人の設立に必要な最低人数と、その役割と責任などを解説するので、参考にしてみてください。
目次
1 一般社団法人設立の最低人数
一般社団法人の設立には、最低2名以上の人(法人も可)がいなければなりません。この、一般社団法人設立に関わる社員は設立時社員と言います。
一般社団法人の構成によって設立時社員の最低人数は異なってきます。構成によって、一般社団法人の設立には最低2名〜最大5名が最低人数となります。
1−1 一般社団法人の場合
一般社団法人には、複数の構成があります。その中で、最もシンプルな構成は社員で構成する『社員総会』と『理事』を設置する構成です。設立時の一般社団法人では、社員が2名以上、理事が1名以上いることが必要です。
⚫︎社員総会と理事
社員総会は、一般社団法人における重要事項などを決定する意思決定機関になります。社員総会を構成するのはすべての社員になります。社員は原則1人1つの議決権を保有します。
株式会社の機関に置き換えると『社員総会』が『株主総会』、『社員』が『株主』の役割に相当します。
理事は、法人組織を代表して、定められた事務処理を実行する機関になります。法人の代表として指定された理事を『代表理事』と言います。株式会社の機関に置き換えると『理事』が『取締役』、『代表理事』が『代表取締役』の役割に相当します。
社員と理事は兼任することができるため、設立時社員は理事を兼ねることができます。社員が理事を兼ねることで一般社団法人の設立人数を2名にできます。
⚫︎一般社団法人の機関構成
一般社団法人の意思決定や業務執行などのための機関として社員総会や理事の設置は必須の機関になります。その他にも、理事会・監事・会計監査人を設置することができます。設置は、定款に定めることで可能です。
一般社団法人には、監督官庁がありません。そのため、法人の規模に応じて機関のパターンを決定できます。
<一般社団法人の機関 5パターン>
- ①社員総会+理事
- ②社員総会+理事+監事
- ③社員総会+理事+監事+会計監査人
- ④社員総会+理事+理事会+監事
- ⑤社員総会+理事+理事会+監事+会計監査人
小規模な一般社団法人の多くは、①もしくは②のパターンの機関が一般的です。一方で、将来的に公益社団法人に移行することを目指す場合や事業規模が大きな一般社団法人は、理事会や監事や会計監査人を設置していくことになります。
必要人数で言うと、上記①のパターンで3名設立時の人数が必要です。
また、最大となるのは⑤のパターンになり、理事3名(うち2名は社員と兼任が可能)と監事と会計監査人を各1名の合計5名が必要人数になります。
⚫︎監事/会計監査人/理事会
一般社団法人の監事は、法人の業務執行をする理事の職務執行に対する監査を行う役割を担います。理事の不正行為やその恐れがある場合に報告をする義務があります。
監事を設置することは任意になるため、法人の規模やガバナンス強化の必要性などから判断します。一方で、理事会の設置を行う法人においては、監事の設置は必須です。また、会計監査人を設置する場合も同様に必須となります。
監事を設置する場合には、最低1名の監事が必要です。監事は理事と同様の法人の役員の立場です。監事は、理事や使用人と兼任ができません。
会計監査人は、法人の会計に関する書類についての監査をする役割を担います。会計監査人は、その職務の執行を通じて理事の職務執行における不正行為やその恐れなどがある場合には監事に報告する義務があります。
会計監査人の設置することは任意になります。ただし、大規模一般社団法人に該当する場合は会計監査人が必須になります。会計監査人も1名以上が必要になります。
大規模一般社団法人とは、最終事業年度における貸借対照表の負債の部に計上された金額合計が200億円以上の一般社団法人を言います。
理事会は全理事で構成され、以下の職務を担います。
- ①業務執行の決定
- ②理事の職務執行の監督
- ③代表理事の選定及と解職
理事会の設置は、任意になります。理事会を設置していない法人では、一般社団法人に関する全ての事項を社員総会で決議します。
理事会を設置した法人では、法律規定事項と定款に定められた事項以外は理事会で決議します。理事会を設置した法人の社員総会では、法律規定事項と定款に定められた事項を決議することになります。
理事会を設置する場合には、理事が3名以上必要になります。
1−2 普通法人型と非営利型の違い
一般社団法人には、普通型と非営利型の2つの種類があります。前述した一般社団法人は普通型一般社団法人になります。
前述の通り、普通法人型一般社団法人の設立時の最低人数は2名になります。しかし、同じ一般社団法人でも非営利型一般社団法人の必要最低人数が異なってきます。
⚫︎非営利型一般社団法人とは
普通型と非営利型の違いは、法人税法上の法人区分の違いにあります。
一般社団法人の所得は収益事業からの所得とそれ以外の所得に分けることができます。この収益事業以外からの所得について、非営利型法人の場合には法人税の課税対象外となります。
そのため、同じ収益がある場合には法人税の納税が不要な非営利型法人の方が手元に残る金額は多くなります。
しかし、当然どんな法人でも非営利型法人になれるわけではありません。非営利法人であることが認められるのは、以下の2点のうちのどちらかに該当する法人でなければなりません。
- ①非営利性が徹底されている
- ②共益的活動を目的としている
この2点にはそれぞれ認められるための要件が定められており、この要件に合致していることを税務当局が判断した場合には法人税の課税対象外の所得が認められることになります。
⚫︎非営利型一般社団法人は理事が3名以上必要
非営利型一般社団法人には、『親族制限』の要件があります。そのため、理事は最低でも3人以上必要になります。
親族制限は、親族関係にある理事の数が理事全体の1/3以下であることを求める制限です。公益性を求める非営利型で求められる制限になります。
非営利型一般社団法人の親族制限は理事が対象になります。親族制限の要件を充足するためには、自身と親族以外の理事が2名の合計3名理事がいることが前提になります。
理事に本人とその親族が就任しようとする場合には、最低7人の親族以外の理事が必要になります。
非営利型一般社団法人では理事における親族制限以外に機関についての要件はありません。理事会や監事や会計監査人の設置は、任意になります。
なお、親族制限はNPO法人にも制限があります。NPO法人においては、理事のみでなく監事についても親族制限があります。
1−3 その他の法人との違い
法人には、営利法人と非営利法人があります。一般社団法人も非営利法人に含まれます。非営利法人には、一般社団法人の他に一般財団法人やNPO法人(特定非営利活動法人)、公益社団法人や公益財団法人、学校法人などがあります。
法人を設立しようとする場合には、目的にあった法人の種類を選択します。一般社団法人の設立する際に比較対象となる一般財団法人とNPO法人における設立時の最低人数を比較します。
⚫︎一般財団法人との比較
一般財団法人は、定められた基準の財産があることを設立の要件として設立される非営利団体法人になります。
定められた基準の資金は、300万円以上となります。財産ありきで法人が存在するため、設立から2期連続で純資産額が300万円を下回ると強制的に法人が解散となります。
一般財団法人の機関は一般社団法人と異なり、機関の構成は以下の2パターンになります。
- ①評議員+評議員会+理事+理事会+監事
- ②評議員+評議員会+理事+理事会+監事+会計監査人
会計監査人が必要になるのは、一般社団法人と同様に大規模(資産200億円以上)一般財団法人に該当すると会計監査人は必須になります。それ以外の一般財団法人においては、会計監査人は任意になります。
一般社団法人の場合には任意だった理事会と監事の設置は、一般財団法人においては必須となります。
また、一般社団法人では最低限設置しなければならない社員と理事について兼任ができました。そのため、最低2名での設立が可能でした。しかし、一般財団法人においては役職の兼任が認められていません。
結果、一般財団法人の最低人数は評議員3名と理事3名と監事1名の合計7人が設立に必要な最低人数になります。
一般社団法人の最高意思決定機関は社員総会で、社員総会に出席や議決権の行使をするのは社員でした。しかし、一般財団法人において社員はおりません。
一般財団法人においても法人における業務執行を行うのは理事になり、その財団法人の在り方や業務執行における重要事項を適切におこわれているのかを評価するのが評議員になります。
評議員は、運営方針に沿わない違反行為を行った一般財団法人の役職者を解任できます。評議員は財団法人において必須の設置機関であり、3人以上必要になり、理事や監事との兼任ができません。
一般社団法人における社員総会に代わるのが、一般財団法人では評議員会になります。評議員会では評議員が議決権を行使して、理事や監事の選任や解任などの決議を行います。決議には普通決議と特別決議がある点なども社員総会と同様になります。
⚫︎NPO法人との比較
NPO法人とは、営利を目的としない社会貢献を実施する組織・団体になります。正式には、特定非営利活動法人となります。事業活動を通じて、広く社会の問題解決や公益性を向上させている法人にあります。
一般社団法人と異なり、NPO法人の機関構成は以下の1つのパターンのみになります。
・社員+理事+理事会+監事
社員の最低人数は10名で、理事は3人、漢字は1名以上が必要になります。社員は10名と多いですが、理事と監事との兼任が可能です。そのため、設立時の最低人数は10名になります。
一般社団法人は2名が設立時の最低人数になるので、NPO法人ではその5倍が最低人数になります。
NPO法人にも親族制限があります。理事と監事は、その配偶者や3親等内の親族が役員(理事と監事)の1/3を超えることは禁止されています。10名の中で、2人の親族を役員にする場合、残り7人(本人を除く)を親族以外で集める必要があります。
⚫︎株式会社との比較
法人においてもっとも数が多い種類は、営利法人の株式会社になります。株式会社は、投資家からの出資などによって資金を調達して事業を行う営利事業を行う法人になります。
株式会社が必要とする機関構成は複数のパターンがありますが、会社設立において最低人数で実施しようとすると「株主」と「取締役」の2つの機関を設置する形があります。
株主と取締役の両方の役員ともに、最低1人いれば設立ができます。また、株主と取締役は兼任することができるため、最低1人いれば株式会社を設立することができます。
2 一般社団法人の設立時に必要な機関
一般社団法人を設立する際に必要となる人数は、その機関の設置方法によって異なります。機関によっては兼任ができない場合や複数名の役員が必要になるなどします。
会社設立をすること自体は目的ではなく、手段です。会社を設立して、その後には法人や事業の運営が必要になります。そのため、設立と設立後に求められる役割を理解して必要な人材や人数を配置することも重要になります。
一般社団法人において設置が必要となる社員と理事の役割を説明します。
2−1 社員
一般社団法人の社員は、株式会社の社員とは大きくその役割が異なります。株式会社の社員とは会社と雇用契約を結び、労働の対価として給与を得る人になります。株式会社などでは、社員とは会社員や従業員とも呼びます。
一般社団法人ではいわゆる会社員を「職員」「従業員」と呼んで、社員とは区別しています。一般社団法人の社員は、前述の通り一般社団法人における最高意思決定機関である社員総会へ議案の提出や、議決権を行使する存在になります。
⚫︎一般社団法人の社員とは
一般社団法人の社員は、株式会社でいう株主に近い存在です。株式会社では株主総会が最高意思決定機関になり、株主が議決権を持って株式総会に出席します。
一般社団法人の社員と株式会社の株主の大きな違いは、利益の分配や報酬です。株式会社の株主は、法人が事業などで得た利益を分配する配当を受けることができます。つまり、株式会社の株主は配当という形で報酬を受け取れます。
一方で、非営利法人は利益の分配ができません。そのため、たとえ非営利法人である一般社団法人では事業によって利益が出ている状況であっても社員へ配当などはできません。つまり、一般社団法人の社員は自身が社員を務める一般社団法人から報酬を受け取ることができません。
⚫︎社員は会費を支払う
株式会社の株主は、出資という形で法人に財産を提供します。その代わりに、株式を取得して法人を所有する形になります。そのため、議決権を得て、法人の最高意思決定に参加できます。
一般社団法人の社員は、会費という形で財産を提供します。会費の支払い方は、定款で定めることができます。会費を支払った人が会員となり、会員に社員の地位を与えることができます。
会員も「正会員」「一般会員」「賛助会員」と会員種別を作成できます。その上で、「正社員」を一般社団法人の社員とすることが一般的になっています。
一般会員は、一般社団法人が提供するサービスを利用することを目的とする個人や団体が対象となるのが一般的です。同じく、賛助会員はその一般社団法人自体やその事業を賛助(賛成して支援)することを目的とする個人や団体が対象となるのが一般的です。
⚫︎社員になることへの制限
また、会費を支払いすれば誰でも議決権を持つ社員になれてしまうと、法人の運営に支障が発生するケースが考えられます。
株式会社では、株式を取得したのちに株主として取締役の辞任や事業のあり方の変更などを要求するなどして法人の運営が変わるきっかけになります。
もちろん、株主の発言が結果的にその法人の在り方を改善するケースも複数あります。しかし、株主がもつ議決権によって事業運営に支障が発生するケースもあります。
株式会社の制度では、出資した金額によって所有する株式数が変わってきます。株式に応じて議決権が変わってくるため、株式を多く所有する株主の議決権も多くなる仕組みになっています。
一方で、一般社団法人は1人の社員に1つずつの議決権が原則です。定款で別途定めることはできますが、誰でもどんどん社員になれる仕組みであると事業運営に支障が発生するケースが想定されます。
社員が多くなると、それだけ社員総会の開催における準備や運営が煩雑になるのは事実です。そのため、多くの一般社団法人では社員になることへの制限を設けています。
また、議決権を制限せずに、社員になる人間を理事の承認を必要とするなどして入会を制限できます。具体的な方法としては、定款に入会の条件を理事会における承認を受けることと記すことで制限できます。
2−2 理事
一般社団法人の理事は、社員総会の普通決議によって選任します。そのため、理事を選ぶのは社員になります。社員総会の決議を経ずに理事が選任されても、その選任に有効ではありません。
社員総会の普通決議によって決議ができるため、議決権を有する社員の半数が出席する社員総会において、出席社員の過半数の同意を持って決定できます。
2人の社員がいる場合には、2名共に出席する社員会議で、2名の同意が必要になります。
社員には任期がありませんが、理事には2年の任期があります。2年後に再任することは可能ですが、再任の際にも選任時と同じように社員総会の普通決議が必要になります。
社員は理事を兼任することができます。また、理事は役員報酬などの形で報酬を受け取ることができます。前述のように、社員は報酬を受け取ることができないため、理事を兼任して報酬を受け取るケースが多くあります。
⚫︎代表理事とは
一般社団法人の理事が複数いる場合には、その代表権を有する理事を設置することが一般的です。その代表権を有する理事を代表理事と呼びます。
代表理事は、法人を代表して業務執行を行います。法人の目的を実現するための事業活動全般について実施することが業務になります。
対外的に代表理事が行なった契約行為は、法人が実施した契約行為とみなすことができます。理事だけでは、その法人を代表する権限はありません。代表理事は、理事会の設置をしている一般社団法人では理事会が指定します。また、理事会を設置していない法人においては、社員総会の決議もしくは理事の互選で選定します。
理事会が設置されている一般社団法人で代表の指定がされていない代表理事は、その権限を有しません。また、理事会を設置しておらず代表理事を指定しない場合には、理事全員が代表権を持つことになります。しかし、一般的には複数の理事がいる場合には代表理事を指定しています。
⚫︎理事の役割と人数
理事の役割は、法人の業務執行を行うという点で代表理事と同じになります。株式会社における取締役と似た業務を行います。
理事の権限には、業務執行権限があります。業務執行とは、その法人の経営やその他の事務処理を意味します。理事の権限範囲は、一般社団法人が理事会を設置しているかどうかによって異なってきます。
理事会を設置していない一般社団法人の理事には、業務執行権限が付与されていることが一般的です。2名以上の理事がいる場合は、その過半数を持って業務執行を決めます。
理事会を設置している場合には、業務執行の決定と業務執行を分離します。業務執行の決定は理事会が担い、業務執行は代表理事と業務執行理事*が実施します。
理事会が設置されている一般社団法人の理事で、代表理事と業務執行理事以外の理事は理事会への議題の提出や決議に参加することはできますが、業務執行権限を持ちません。
理事は、最低1人もしくは2人が必要になります。理事を最低人数の1人にしたい場合には、定款にその旨を定めておくことで対応が可能です。一方で、上限はありません。理事会を設置している場合には3人以上が必要になります。
理事には以下の3つの欠格事由があります。欠格事由に該当する人間は理事になることができません。
<理事の欠格事由>
- ①法人
- ②一般法人法と関連する法律について違反による刑に処され執行などを終えてから2年を経過していない者
- ③上記以外の法律に違反によって禁錮以上の刑に処せられ、執行などを受けなくなるまでの者(執行猶予中を除く)
これらの欠格事由に該当していなければ、外国人や未成年者**も理事になることができます。また、一般社団法人の社員ではない者も理事になれます。
*業務執行理事とは、代表理事以外の理事で、理事会の決議を経て業務の執行を行う理事として選任された理事を言います。代表理事と業務執行理事は法人の実務上の業務を行いますが、それ以外の理事は法人の仕事を実際に行うことがない理事になります。
**未成年者が理事に就任するためには、法定代理人の同意が必要になります。
2−3 法人設立後の必要人数
一般社団法人の設立には、最低1名の理事と2名の社員が必要となります。しかし、設立後については最低理事と社員の1名ずついることで法人を維持することができます。
⚫︎社員の退社
一般社団法人の社員は社員でなく退社や退会をすることができます。退社の方法は大きく2つあります。
- ①任意退社
- ②法定退社
任意退社は、退社する社員自らの意思によって社員の資格を失うことを言います。任意退社は、やむを得ない事由であれば原則いつでも退社できます。一方で、多くの場合には定款によって6ヶ月前の申出が必要や事業年度終了時を退社時期とするといった制限を設けることもできます。
法的退社は、退社する社員の意思以外の理由によって社員の資格を失うことを言います。「定款で定めた事由の発生」「総社員の同意」「死亡または解散」「除名」などが該当します。
総社員の同意については、退社する対象の社員以外の社員の同意によるもので、社員総会の決議とは異なります。
正当な理由に基づき社員総会の特別決議によって社員を辞めさせる場合には除名になります。除名は特別決議になるので、議決権をもつ社員の過半数が出席する社員総会で、総社員の議決権の3分の2以上を持って決議になります。
そのため、総社員の同意は社員総会を経る必要はありませんが、社員全員の同意が必要という点でハードルが高くなります。一方で、社員の退職に疑義はあるものの議決権の3分の2以上の賛同を得られる場合には社員総会の特別決議によって社員の除名を行うことになります。
定款で定めた事由の発生は、社員になるための資格を失った場合などが該当します。たとえば、社員になるために医師の資格が必要であったが、何らかの理由で医師の資格を喪失した場合には、社員を退社しなければならなくなります。
また会費の滞納規定なども一般的です。会費制度によって定期的に社員に会費を徴収する一般社団法人において会員が会費を支払いしない場合には社員の資格を失うこととする規定が会費の滞納規定になります。
社員である人物の死亡などは法定退社に含まれます。
⚫︎社員がいなくなると解散しなければいけない
上記のように、社員の退社は普段から発生しうる事象です。前述のように、一般社団法人の設立後には社員が1名いれば一般社団法人は維持できます。ただし、社員が不在になると一般社団法人は解散しなければなりません。
特に、社員が不慮の事故などで亡くなってしまう可能性はゼロではありません。その場合に、社員が1名しかいない一般社団法人は解散することになります。
株主の地位は株主が死亡すると、その立場が親族などに相続されるため不在になるのではなく交代になります。一方で、社員の地位は相続の対象にはなりません。そのため、社員をしていた人が亡くなると、社員が一人いなくなってしまいます。
任意退社と法定退社の方法にかかわらず1名しかいない社員が退社したら、社員がいなくなります。社員が不在になった時点で一般社団法人は解散となります。
突然法人が解散してしまう事態は、そこで勤務している従業員はもちろん、サービスの利用者や取引先にも大きな影響があります。
そのため、社員が多すぎるのも社員総会の開催などが煩雑になるなど影響が出ますが、社員が1名など少ない人数での法人運営も注意が必要です。
設立時には社員が2名いる状態でスタートしているので、欠員が出たら補充するようにしておいた方が組織の存続のためと言えます。
⚫︎理事の辞任
理事も社員同様に辞めることができます。理事については、設立後にも1名以上いれば良いため、不在になるリスクがあります。ただし、理事が不在となっても業務執行や決定に支障が出るものの一般社団法人が消滅することはありません。
仮に、唯一の理事である代表理事が辞任した場合や不慮の事故などで死亡した際、緊急的に社員総会にて新しい理事を選任します。選任後には、法務局での役員登記を行えば良いことになります。
なお、理事の選任をするためには社員総会の招集が必要になります。通常、理事の選任を含めて社員総会の招集を行うのは、理事の役割です。しかし、理事が不在の状況下では通常のやり方で社員総会の招集ができません。
理事が不在の状況になった際でも、社員全員の同意があれば社員総会の開催ができます。社員全員の同意があることが前提ですが、招集を飛ばして社員総会を開催できます。
通常、理事が1名しかいない一般社団法人ではその規模も大きくないため、社員の人数も多くないので全員の同意を取ること自体はそれほど困難ではない場合が多くあります。
また、理事が不在の状況で新しい理事の選任という議題であれば、拒否する理由は考えにくいです。
これらのことから、理事も複数名いた方が安心ではあるものの、社員間で事前に理事が不在になった場合の対処方法を検討しておけば、社員1名の状態よりは法人の存続に対するリスクは少ないと言えます。
ただし、理事は実務上の業務執行や決定をする役割を担うため、実務レベルで1名だけの理事で替えが聞かない状態にしておくのは事業が停止するリスクがあります。
例えば、代表理事1名のみの理事が、事業全体や組織運営を把握している状況で、その理事が突然不在となったら事業運営や組織運営に支障をきたす事態になるのが想定されます。
そのため、事業や組織運営に支障が出ないように、理事を複数名でお互いに状況ややっていることを把握できている状態を作っておくことは大きなリスクヘッジにつながります。
3 設立時社員
一般社団法人を設立する時の社員を設立時社員と言います。設立時社員は、その名称が表す通りですが一般社団法人の設立を行う社員になります。以下では、設立時社員と設立時社員が実施することとその責任について見ていきましょう。
3−1 設立時社員とは
一般社団法人は、社員が集まることで設立される法人になります。そのため、社員がいない状況では消滅してしまいます。一般社団法人の設立時には、社員が集まるという点からも2名以上の社員が必要になります。
⚫︎設立時社員が2名必要な根拠
一般社団法人や一般財団法人の設立や組織や運営や管理について定めた法律が『一般社団法人及び一般財団法人に関する法律』で、略して一般社団・財団法人法などと呼びます。
一般社団・財団法人法の10条には一般社団法人の設立に際して、社員になろうとする者が、共同して定款を作成し、その全員が署名もしくは記名押印をしなければならないとなっています。
共同して定款を作成するということが必要であるため、設立時の社員は2名以上とされています。
一方で、株式会社や合資会社などはその法人設立に関する業務を行う人を発起人と呼びますが、発起人に人数の制限がありません。そのため、2名以上などが必要といったことはありません。株式会社などの発起人は1名でも設立できます。
⚫︎設立時の社員になる
一般社団法人の社員は2名必要ですが、法人を設立しようとする人はいるので、残すところの1名を探して設立時社員となることを説得・説明することが必要です。
一般社団法人の社員になるために、法律上で特別な条件は定められてはいません。前述の欠格要件に該当していないことは必要ですが、法律上の制限は欠格要件のみになります。
設立後に社員になるには、定款に定められた規定に従う必要があります。多くの一般社団法人では入社申込書を記載の上、代表理事や理事会に提出して理事会の承認を受ける必要があります。
しかし、設立時社員は定款に「社員の氏名または名称及び住所」を記載することで社員になることができます。なお、設立時社員は法人がなることもできます。
3−2 設立時社員が行うこと
一般社団法人の設立時社員が行うことは、一般社団法人の設立に関わる事務手続きです。また、設立時社員は一般社団法人を設立したのちには、設立された一般社団法人の社員にスライドしていきます。
一般社団法人の設立時社員がやらなければならいことを理解することで、仮に設立時社員を探す場合や依頼をする場合に有効です。
<設立時社員が実施しなければいけないこと>
- ①一般社団法人の設立を発起
- ②定款原案を共同にて作成
- ③定款の認証を受ける
- ④一般社団法人の設立登記の申請をする
- ⑤定められた準備を実施
これらの法人設立の事務処理は株式会社の設立の事務処理と大きく異なりません。
⚫︎一般社団法人の設立を発起
一般社団法人の設立を開始することを発起といいます。株式会社では法人の設立の作業をする人を発起人と呼びますが、一般社団法人では設立時社員と呼びます。このタイミングで、設立時社員を2名以上集めて法人化することを決定します。
なお、一般社団法人の設立時には、株式会社のような資本金制度はありません。また、一般財団法人と異なり、財産の拠出も必要ありません。
つまり、一般社団法人は株式会社なら1円以上、一般財団法人では300万円以上の財産があることが設立の条件になりますが、一般社団法人では1円すら財産は不要で設立できます。
⚫︎一般社団法人の基金制度
設立に必要な財産はゼロ円でも良いとしても、実際に法人を設立して法人運営や事業運営などをする上でまとまった活動資金が必要なのは一般社団法人も他の法人も同様です。
この活動資金を集めるために一般社団法人が利用できる手段が、基金制度です。
基金制度は、社員や社員以外の第三者から活動資金や基礎財産を集める制度を言います。基金が出資と大きく異なるのは、定められが要件を合意した上での、返還義務を法人側が負う点です。
また、資本金の増減は登記事項になっているため、法人の履歴事項証明書に記載をしなければなりません。一方で、基金の増減は同じ基礎財産ではあるものの登記事項ではありません。そのため、法務局への登記の必要がなく、基金の募集などの手続きを実施しても法人の内部で完結できます。
基金の募集は、定款に基金に関する定めを記載しておく必要があります。定款に記載がない場合には、基金の記載を定款に追加(特別決議)してから実施しなければなりません。
また、基金制度を採用すると、途中で廃止することができません。その点にも注意が必要です。
基金制度を活用する上では、募集事項の決定をして基金の引き受け手を募集するために通知をしていきます。引き受け手が見つかった、基金の申込を受けて払込や給付を受けます。
基金の返金の要件は、この募集事項に記載しておきます。基金の返金は一定の条件の中で実施しなければなりません。一定の条件とは、事業年度の貸借対照表の純資産額が基金などの合計額に対する超過額を上限にして基金の返還ができることになっています。
基金の返還には貸金ではないので利息をつけて返還はできません。また、上記超過額を上限に返還ができるだけで、必ず返還しなければ行けないというわけではありません。
実際に、一般社団法人の解散時点において基金の返還を行うと定めている一般社団法人もあります。
⚫︎定款を共同にて作成
定款の作成を2名以上の社員と実施します。定款は、一般社団法人にとってもその法人が従わなければならない原則や規則になります。
一般社団法人の定款も、株式会社などの定款同様に絶対に記載しなければ定款として成立しない「絶対的記載事項」があります。絶対的記載事項が欠落した定款は、その定款自体が認められません。
また、一般社団・財団法人法によって定款に定めが無い場合にはその効力が生じない「相対的記載事項」と定めること自体が一般社団・財団法人法の法律に違反しないものであれば自由に定めることができる「任意的記載事項」があります。
定款の絶対的記載事項は必ず記載しなければならないため、あまり議論の余地はありませんが、相対的記載事項の内容などについてはその後の法人の在り方や運営に大きく影響が出ることがあります。
定款の原案を作成する際には、他の一般社団法人の定款を手本にすることや作成したことがある人間や専門家にアドバイスなどをもらうことが重要です。
定款自体の変更は、その内容が軽微であっても、社員総会の特別決議が必要です。そのため、簡単に修正ができない上に、定められている内容には必ず従わなければならないということに注意が必要です。
⚫︎定款の認証を受ける
定款は作成をしただけでは、その効力はありません。定款がその効力を発揮するためには、公証人の定款認証が必要です。
定款は、法務局で登記をする法人設立の次のステップでも必要書類となっています。この時に、公証人の認証を受けていない場合には登記ができません。
定款を作成したら、公証役場で定款認証を実施します。公証役場へは設立時社員全員で出向くことが原則です。ただし、設立時社員が多すぎて全員が揃って公証役場に集まることが難しい場合には、設立時社員の代表者に手続きの委任ができます。
また、行政書士や司法書士などの第三者に委託もできます。定款の作成についてアドバイスを求めた専門家がいる場合には定款の認証を含めて手伝ってくれる専門家が便利です。
定款の認証にはスムーズにいっても1週間程度かかります。定款の内容に疑義が出た場合や前述のように絶対的記載事項が抜けている場合にはやり直しになります。
公証人とのやりとりを含めて、専門知識を持った人間の力を借りた方が、やり直しの指摘事項を適切に把握できるなどメリットが大きくなります。
⚫︎一般社団法人の設立登記の申請をする
定款の認証が受けられた後には、法務局で一般社団法人の設立登記申請を行います。
設立登記の手続きは、社員ではなく理事が実施することになっています。理事が複数いる場合には代表する理事が実施します。また、定款認証の手続き同様に代理人への委任も可能です。
法務局へ書類提出を実施した時点で、登記申請が行われたことになります。そのため、登記申請日が一般社団法人の成立した日になります。登記申請を実施すれば、その日から一般社団法人は法律上法人として人格を得て事業活動の実施ができます。
提出書類に不備がないことを前提に、1週間程度で法務局の登記手続きが完了します。登記手続きが完了すると、登記事項証明書や印鑑証明書を取得できます。
法人が登記していることを証明する登記事項証明書も、その法人の実印を証明する印鑑証明書は行政への提出書類や法人間の取引など多くの機会で活用します。
この時点で法人の設立は完了し、設立時社員は社員に自動的に移行します。そのため、以上までが設立時社員の対応すべき事項になります。
⚫︎定められた準備を実施
法人の登記が完了した後に実施するのは、以下の事務処理になります。
- ・法人口座の開設手続き
- ・法人設立届出手続き
- ・社会保険の加入手続き
- ・労働保険手続き
法人口座の開設手続きは、金融機関で実施します。取引銀行をどこにするのかは完全な任意ですので、今後の取引における利便性などで選択します。
法人設立届出手続きは、税務署と都道府県税事務所と市区町村役場などへ法人を開設したことを届け出します。
社会保険と労働保険の手続きは、年金事務所や労働基準監督所やハローワークなどで実施します。労働保険は従業員を雇う場合にのみ必要となります。
これらの手続きには、登記事項証明書や印鑑証明書が必要です。そのため、申請内容を整理して登記時に必要枚数を取得しておきます。
3−3 設立時社員の責任
一般社団法人の設立時社員は、その法人の設立をすることを目的として活動をします。そのため、法人設立に関わる幾つかの責任を負うことになります。
設立時社員が足りない状況下なので、どなたかになってもらうことをお願いするときにこの責任範囲を明確にしておくことで安心やのちのちの不必要なトラブルに発展するのを防ぐことができます。
お願いして設立時社員になってもらった人が、一般社団法人の設立がうまく進まなかったことで損害賠償を受ける可能性があります。設立を発起したタイミングからは、滞りなく一般社団法人の設立をしなければなりません。
⚫︎任務懈怠(けたい)に基づく賠償責任
一般社団法人の設立における設立時社員の任務を怠ると、その怠ったことによって発生する損害を賠償する責任が生じます。
どのような場合に任務を怠ったと判断されるかは、例えば法令に違反する行為を行った場合などが該当します。また、他の設立時社員が法令違反をしていることについて監視を怠ったと判断できる場合なども任務懈怠責任を問われる場合があります。
そのため、設立時社員になって「我関せず」という態度で何もしていなかったという理由で、監視責任を問われる場合もあります。設立時社員になるなら、その責務を全うするよう行動が必要です。
なお、一般社団法人が設立ができなかった場合には、それまでの設立のために支払いした費用は連帯して負担することになっています。
⚫︎第3者への損害賠償責任
設立時社員の職務の実施において、悪意や重大な過失によって第3者へ損害が発生した際には損害を賠償する責任が生じます。
お願いしてなってもらった設立時社員に損害賠償責任を負わせることが難しいという場合には、損害賠償責任を免除することもできます。
免除の方法は、すべての設立時社員の同意によって実施できます。そのため、お願いした社員とお願いされた(免除を受ける)社員の2名しかいない場合には、お願いした社員が免除に同意すれば成立します。
4 まとめ
一般社団法人の設立について、最低必要な機関と人数やその役割について解説しました。一般社団法人の設立は、株式会社の設立と異なり、最低でも2人で設立をしなければならない点が最初のハードルになる場合もあるので、慎重に検討してみてください。