老後に会社設立する方は必見!シニア起業・会社設立の手順を解説
シニア起業という言葉が最近新聞やニュースなどで使用される事が増えています。健康寿命が延びる一方で、50歳や60歳などのシニア層の会社での仕事環境は変化が大きい時期を迎えます。また公的年金の受給開始時期は引き上げられる方向にあります。つまり今後シニア層になる人も含めてシニア層は、長寿化する一方でそれに対応する仕事やお金に悩みが多い環境にあります。その悩みを解決するための一つの方法として、シニア起業という選択肢があります。今回はシニア起業の抑えるべきポイントや会社設立手順について解説します。
目次
定年退職前後の起業・会社設立する人が増えている背景
健康的にも経済的にも申し分なく長生きする事は、本人はもちろんその家族にとっても幸せな事です。『人生100年時代』という現代社会では長生きできる事は実現していますが、『健康的』『経済的』という点がまだ実現している、ないしは実現の道筋が見えている人はまだ多くないのではないのが現実です。
シニア起業はこの『健康的』でかつ『経済的』な老後を実現する選択肢の一つであるため、シニア起業が増加しています。
シニア起業の定義は55歳以上の人の起業とします。(経済産業省では55歳以上の年齢をシニアと定義)
日本の人口構成の変化からみるシニア世代への期待
将来の変化を考えるとき、人口構成の変化が与える影響は少なくありません。また人口構成は大きくぶれることなく、予想する事ができます。その意味で今後の日本の将来を考えるときには人口構成の変化をみるのは非常に有効です。
国立社会保障・人口問題研究所は『日本の将来推計人口』という報告を行っています。
『日本の将来推計人口』はこちらから確認できます。
〇総人口の推移
日本の総人口は国勢調査の出生中位推計*よれば、2015年の日本総人口1億2,709万人から2065年には8,808万人まで減少すると推計されています(表1-1-1『日本の総人口推移』)。推計年度の減少数から1年間の減少率を算出すると、人口減少の速度が少しずつ増加している事が分かります。
表1-1-1.日本の総人口推移
推計年度 | 日本の総人口 | 増減数 | 年間増減率 |
---|---|---|---|
2015年 | 1億2,709万人 | ― | ― |
2040年 | 1億1,092万人 | ▲1,617万人 | ▲0.51% |
2053年 | 9,924万人 | ▲1,168万人 | ▲0.81% |
2065年 | 8,808万人 | ▲1,116万人 | ▲0.94% |
*出生中位推計
過去の傾向から統計的に算出した出生率は高く見積もる高位と低めの低位の間として基準として使われるのは中位となります。その中位の出生率を使用した推計を出征中位推計といいます。
〇65歳以上(老年)の人口の推移
同様に65歳以上の人口推移は、2015年3,387万人から2065年3,381万人へ推移していくと推計されています(表1-1-2『日本の65歳以上の総人口推移』)。65歳以上の人口は日本の総人口の減少傾向に反して第2次ベビーブーム世代が老年になる2042年まで増加傾向にあり、その後減少傾向に転じていきます。
表1-1-2.日本の65歳以上の総人口推移
推計年度 | 日本の総人口 | 増減数 | 年間増減率 |
---|---|---|---|
2015年 | 3,387万人 | ― | ― |
2020年 | 3,618万人 | +231万人 | +1.36% |
2030年 | 3,716万人 | +98万人 | +0.27% |
2042年 | 3,945万人 | +229万人 | +0.51% |
2065年 | 3,381万人 | ▲564万人 | ▲0.62% |
〇日本の総人口に占める65歳以上の割合
少子化の影響を受ける日本の総人口が減少していく中で、寿命の長寿化の影響を受ける65歳以上の人口が増加していく事になり、その結果総人口に占める65歳以上の人口割合が増加していきます。2015年時点では26.7%の人口割合に対して、2065年時点では38.4%と1.4倍に増えています。
〇生産年齢人口の減少とそれを補う事を期待されるシニア世代
15歳から64歳の年齢層の人口を『生産年齢人口』と呼びます。生産年齢人口とは意思・能力に関わらは働くことができる年齢の人たちをいいます。経済産業省の『2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について』(平成30年9月)*によると、この総人口に占める生産年齢人口割合は1990年に70%のピークになりましたが、それ以降は減少を続け2015年には60%強まで減少します。さらに2050年には約52%まで減少する予想がなされています。
そんな生産年齢人口が減少する環境下で、それを補う労働力として期待されているのが65歳以上のシニア世代の労働力化になります。これが現在のシニア起業のサポートの強化や定年年齢の引き上げなどの社会的動きが活発になっている要因です。
*経済産業省『2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について』はこちらから確認できます。
シニア世代の健康的な働き方とは
〇50代後半からの給与・賃金のピークアウト
人生はお金が全てではありませんが、給与には会社からの評価やお客様からの評価が現れます。年齢別に給与を見ていくと男女ともに51歳から55歳が給与のピークで、50代後半からピークアウトが始まります(厚生労働省調べ『平成30年賃金構造基本統計調査』*より)。日本の社会の平均として20代で社会に出てからは給与・賃金は少しずつ上昇し続け、50代後半からは下がっていくという実態があります。
これは働き方が変わるというより、年齢によって見られ方が変わるという事です。生きている限り時間の経過とともに増えていく年齢は上がっていきます。その年齢によって役職定年や定年などが起こるというのは、実際に給与・賃金が下がり始める50代後半から60代前半の人たちにとって大きく現実的なストレスになります。
結婚の平均年齢がおおよそ30歳前後になるため、50代後半から60代前半の世帯がある人にはまだ子供がいる方は学費も持ち家がある方は住宅ローンも残っている方も多いです。そのためこの年代は会社の評価の壁にも、経済的な壁にも突き当たる年代といえ、ストレスフルな年代といえます。
*厚生労働省調べ『賃金構造基本統計調査』はこちらから確認できます。
〇ストレスに対応する健康的な働き方
ストレス自体は悪いものではなく、対応方法によっては自身の改善の糧になるものです。しかしストレスを抱えたままにして物事が改善しない状況が身心ともに不健康の元凶になります。ではそのストレスに対応して健康的に働くにはどうしたらよいか、という働き方における現実的な選択肢は以下5つになります。
- ①現在の会社でより高い評価を受けられる実績を上げる
- ②現在の評価を受けいれる(現在の会社で継続勤務)
- ③副業を持つ(現在の会社で継続勤務)
- ④転職する
- ⑤起業する
健康的に働き続ける場合の選ぶ軸が3つに絞っています。現在持っている『スキル価値』と『仕事幸福感』と『資産状況』です。ここでいう『スキル価値』とはスキルを持っている事で仕事の依頼を得られるか、あるいは雇用を続ける場合に昇給に影響を与えるものをいいます。『仕事幸福度』とは現在の収入や評価や仕事自体に対する幸せ度をいいます。『資産状況』とは現在の収入や資産運用を含めた自己資産の状況をいいます。
①現在の会社でより高い評価を受けられる実績を上げる
前提で次の役職が狙えるスキル価値を持っている人が選ぶ選択肢になります。ここで大事なのはピークアウトしたスキル価値になっていない事が重要です。実績を上げられるスキルがあり、現在の職場環境でより高い実績を上げる事ができるのであれば、それを継続する選択は賢明です。
②現在の評価を受け入れる(現在の会社で継続勤務)
現在の資産状況と幸福度が高く、スキル価値が現在の会社に継続して勤務する事を許容される程度にある場合に選択すべきです。スキル価値が許容されないレベルの場合や価値が落ち込んでしまう場合、会社での環境が悪化する=給与が大幅に下がる場合や転勤や部署移動がおこる事で資産状況ならびに幸福度が下がる可能性が高い点に注意が必要です。なお現在定年後に再雇用を希望すると、65歳までは雇用延長が企業に義務付けられています。
③副業を持つ(現在の会社で継続勤務)
現在の職場(社内環境)ではスキル価値がなくても、社外ではスキル価値がある事もあります。例えば大会社で身につけたがすでに陳腐化したスキル価値は、中小企業においてはまだ価値がある事はよくある事です。そのスキルに限定して、副業するという選択肢です。
現在の職場での収入の減少や幸福度の減少を、新たな副業の収入や刺激によりトータルで回復する事が可能です。ただし、副業はタイムマネジメントが難しい点には注意が必要です。たとえ好きなことを副職にしたとしても、結局幸福度の少ない本業に時間をとられた事で好きな副業にまで時間が回らないストレスが増える事や、副業に時間を費やしすぎて本業の評価を下げるパフォーマンスになるといった事もあり得ます。
④転職する
社外環境に明確なスキル価値があり、現在の職場での仕事幸福度が低い場合に選択すべきです。ここで明確なスキル価値と書いたのは、職場の協力体制や商品や会社名のバリューなど自分以外の力でスキル価値が高くなっていた場合は、転職により役に立たないスキル価値に変わってしまう可能性があります。社外環境でもスキル価値が継続できるという客観的な視点で見つめなおす事が必要です。また50代以降の転職自体が難しいうえに、転職できたとしても一般的には所得が減少する事が大半であるため、資産状況が転職を許容できる状況かの判断も必要です。
⑤起業する
転職同様で社外環境に明確なスキル価値があり、起業する事で仕事幸福度が高まり、資産状況も転職同様に許容できる範囲で高い場合に選択すべき選択肢です。収入が増加する可能性もありますが、転職以上に収入面が減少・不安定になるリスクがあります。またそれにより仕事幸福度も資産状況も悪化する可能性があります。起業する事がギャンブルにならないように、現在の資産状況に対して必要な収入を最低限得られる目算があるかどうかという点は客観的根拠がある事が望ましいです。
年金の受給開始時期の引き上げと年金生活
老後に向けてシニア世代でいくら収入が必要なのかを把握する事は非常に重要です。年齢を重ねれば重ねるほど、必要な資産形成が出来る時間が短くなるからです。そしてシニア世代の資産状況に大きな影響があるのが年金です。年金の仕組みといつからいくらの受給額があるのかを見ていきます。
〇年金の基礎知識
年金には公的年金(国民年金や厚生年金)と私的年金(企業年金や個人年金)があります。今回は資産状況の基礎に大きくかかわる公的年金を中心に説明をします。
公的年金には以下の2種類があります。
- ①国民年金…20歳以上の全国民が加入
- ②厚生年金…公務員や会社員が加入
公的年金加入者には自営業者や学生などは国民年金のみに加入している人と、会社員などの国民年金と厚生年金の2つに加入している人がいます。この構造を『2階建ての構造』といいます。被保険者(年金保険の加入者)は以下の3つに分かれます。
- >①第1号被保険者…自営業者や学生や無職の人などが該当し、国民保険のみに加入しています。納付は自分自身で実施します。
- ②第2号被保険者…雇用保険適用事業所で雇用されている人が該当し、国民年金と厚生年金に加入しています。納付は事業所が実施します。
- ③第3号被保険者…第2号被保険者に扶養される20~60歳未満の配偶者であり、かつ年間収入が130万円未満の人が該当し、国民保険のみに加入します。納付は第2号被保険者や扶養者の年金制度で一括負担されますので、保険料の納付は不要です。
〇年金の受給開始時期・平均受給金額
年金の受給開始時期の基本は2019年7月現在において65歳からになります。基本と書いたのは、60歳からの『繰り上げ受給』と66歳から70歳までの『繰り下げ受給』を利用し、受給時期をずらすことができるからです。なお65歳から開始した場合に比べ、繰り上げ受給をすると減額率が継続的に適用される為、毎年の受取額が減額される点に注意してください。繰り上げ受給は逆に年金額が増額されます。
平均受給金額については厚生労働省の『平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』で確認する事ができます。受給平均月額は厚生年金保険(第1号)で14万7千円、国民年金で平均月額5万6千円になります。
厚生労働省『厚生年金保険・国民年金事業の概要』サイトはこちらから確認できます。
〇年金生活
仕事をせずに年金のみで生活ができるのか、というのは誰もが気になる疑問です。生活できるかどうかは希望する生活レベルや公的年金に加え私的年金の有無によって異なってきます。仕事をリタイヤしないとしても、年金のみでの生活になったらどうなるのか、という事は今後の仕事の仕方に大きく影響してきます。
平均値をとった場合で説明します。2名以上の60歳~69歳の夫婦の平均月額消費支出が31万円に対して年金受給月額が21万3千円になるため、消費支出が年金収支を上回まわる結果になります(公益財団法人生命保険文化センター 『月々の生活費は平均していくらくらい?』)。実際にシニア起業等を検討する時には、生活費などの必ず必要な費用とローンや養育費などの終わる事が見えているものなどを分けるなどの自身の支出の棚卸を行い、将来受け取れる年金受給額との差異を把握しておく必要があります。
シニア起業の背景まとめ
ここまで説明してきたシニア起業の背景を以下の4つに集約できます。
- ①人口も生産労働人口も減少していく日本の中で、シニア世代は人口の増加が続きます。
- ②健康寿命が長くなったシニア世代の労働力の活用が社会的な課題になっています。
- ③会社員の給与のピークアウトは55歳代から始まるなどシニア世代への会社の評価が変化します。
- ④シニア世代は年金受給開始される事で、生活費など最低限稼ぐ必要がある金額が減少します。
日本の総人口が減少していく中でシニア世代はここから30年以上人口が多くなっていきます。その結果日本の総人口の中でシニア世代が占める割合が増加していき、3人に1人はシニア世代という時代が来ます。一方総人口の減少と少子高齢化のもう一つの側面として16歳から65歳の生産労働人口は1990年のピークから2050年には半減するまでになっていきます。そのため人口が多く健康寿命が延びた結果まだ働くことができるシニア世代の労働力の活用が必要となり、政府からの支援が手厚くなっています。
しかし一方で社会環境の変化に絶えず適応する必要のある企業で働く会社員の給与は55歳でピークアウトを迎え、シニア世代に入る前から働き方の変化を求められていきます。給与は減少するもののシニア世代には年金という新たな収入が得られる結果、年金以外で稼がなければいけない金額は多くは無くなります。その結果、社会貢献や自身のやりがいを求めて自分の働きたい環境で出来るシニア起業を選択するという事がシニア世代が増えていく背景になります。
シニア起業の現状とメリット・デメリット
シニア起業に関わらず起業には会社勤務と大きく違うリスクがあります。会社勤務では定められた労働をすれば基本的には給与を得る事ができます。一方起業の場合には、たとえ労働をしても所得が得られるわけではありません。利益を得て初めて自己の所得を得られることになります。そのため基本的には起業する場合は確実に所得・利益が得られる見込みが高い状況で起業すべきです。
シニア起業を日本社会の中の起業全体と比較しながらその現状とメリット・デメリットを見ていきます。さらにそこから起業すべき人や残念ながら思いとどめたほうが良い人の人物像を描いていきます。
中小企業の起業とシニア起業の現状
ここでは中小企業を中心とした日本における中小企業を中心とした起業全体の現状を説明します。
〇日本の開業率と廃業率
もともと11%以上のアメリアやイギリスなどと比較して、日本の開業率は3~4%と低位安定が続いている状況です。一方事業を辞める率を表す廃業率はアメリカやイギリスが9.5%前後で横ばいになっていて、日本は4~5%となっており1990年代と比較すると増加傾向にあります。
〇開業してから3年以内の廃業率はかなり高い。
若干古い資料ではありますが、中小企業庁の『中小企業白書2006年度版』に開業年次別の事業所の経過年数別生存率という数値があります。1年ごとに事業を継続している社数を生存率として算出しています。この生存率を使用してある年に法人と個人事業主がそれぞれ100社ずつ開始した場合の1年経過毎の生存数を表にしています。
表2-1-1.法人・個人事業主別生存数
開始 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 4年目 | 5年目 | |
法人 | 100社 | 80社 | 70社 | 63社 | 57社 | 53社 |
個人事業主 | 100社 | 63社 | 47社 | 38社 | 26社 | 21社 |
古いデータですが、廃業率が徐々に高くなっている日本の経済状況を考えると、現在においても生存率が良化していると可能性より悪化している可能性が高くなっているのではないでしょうか。開業すること自体は決して難しくありませんが、事業を継続させる事は非常に難しいという事が分かる数値です。
中小企業庁『中小企業白書2006年度版』はこちらから確認できます。
〇シニア起業の現状
シニア起業は起業全体の構成率で13%を占めており、前述のとおり今後の増加要素があります。数はともかく構成率でいえば若者が減ってシニア層が増えるため、ますますシニア起業が目立つ状況になっていきます。
シニア起業の方向性は大きく以下2つの方向性があります。
- ①職務経験や人脈が活かせる、前職からの同業種や同業務での起業
- ②前職とは無関係で、自分の特技や趣味などのやりたい事を重視した起業
なおどちらの方向性であっても事業規模を拡大していく事より、社会貢献や働き方ややりがいが重視される点には変わりはありません。
シニア起業のメリット
まずメリットとデメリットともに共通する事ですが、比較対象が2つあります。『他の年齢の起業』との比較と、『“脱サラ”のように今までの会社での働き方』との比較です。
〇他の年齢の起業と比較してのメリット
- ①経験が活用できまる
- ②自分の可能性が分かっている
- ③生活費のピークアウトが発生する
〇“脱サラ”のように今までの会社での働き方との比較してのメリット
- ④やりがいが生まれる
- ⑤自己責任で仕事に取り組める
- ⑥生活に合わせた仕事設計が可能
①経験が活用できる
シニア世代では22歳から仕事を始めたとしても、すでに30年以上の社会経験があります。この社会経験の有無は他の年齢と比較して間違いないメリットになります。また経験に関してやりがいを求めて起業したためその業種の知識が不足していたとしても、経理や営業といった業務知識はどの仕事でも必須です。またビジネスコミュニケーションやビジネスマナーなども会社経営をする上ではと共通な必要項目になります。
②自分の可能性が分かっている
自分のスキル価値が分かっている事はシニア年代のメリットです。若い起業家には大きな計画を立てられるとしても、計画がどのくらいの価値があり、実現可能性がどのくらいかもわからないという点があります。一方シニア世代は今までの仕事の経験から自身のスキル価値やそこから生まれるサービスの価値や販売手法が実経験を通じて把握できています。また年を重ねるごとに自分に出来る事と出来ない事を把握・整理が進みます。得意不得意もまた同じで、得意分野で勝負できるようになる事はメリットになります。
③生活費のピークアウトが発生する
公益財団法人生命保険文化センターが消費支出を年代別に出していますが、50歳~59歳が消費支出のピークとなり月間で平均35万8千円(40歳代比111.9%)になっていて、その後はピークアウトになり60歳~69歳は平均31万円(50歳代比86.6%)と大きく減少します。
表2-2-1 世帯主年代別の2名以上勤労者世帯の消費支出(消費支出の単位:千円)
年代 | 20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70代~ |
---|---|---|---|---|---|---|
消費支出 | 229.8 | 259.8 | 319.6 | 357.7 | 309.7 | 280.5 |
公益財団法人生命保険文化センター 『月々の生活費は平均していくらくらい?』
そのため、年金を受給開始の65歳から受け取った場合10万円前後の収入があれば生活費には困らない計算になる事は他の年代にはない大きなメリットです。
〇“脱サラ”のように今までの会社での働き方と比較してのメリット
④やりがいが生まれる
起業が持つ最も大きなメリットの一つが仕事にやりがいが生まれる事です。特にシニア世代は仕事に良い意味でも悪い意味でも仕事に慣れており、働き始めたころに持っていたやりがいや刺激が少なくなっている事が多いため、やりがいを求めての起業が多くなります。
⑤自己責任で仕事に取り組める
起業は全ての選択の責任は自分に結果として返ってきます。そのため、すべてに自己責任で取り組む事ができます。スペシャリストや分業化が進む会社組織と異なり、一人で営業から事務業務まで全てを1から決める醍醐味も起業のメリットです。
⑥生活に合わせた仕事設計が可能
日本全国の移動手段を全て入れた通勤時間平均は37分で、首都圏の平均通勤時間は59分になります。往復にすると平均1時間14分で、首都圏ならば約2時間にもなります。自宅を仕事場にするならばこの通勤時間を他の事に使えます。
また親や周囲の介護が必要になるのもシニア世代の避けて通れない課題になります。70代後半から約10%、80歳代女性なら約38%が要介護になります。介護をする事になった場合に時間の融通が利くことはメリットになります。
シニア起業のデメリット
引き続いてシニア起業のデメリットになりますが、メリット同様に2つの方向性から考察します。
〇他の年齢の起業との比較によるデメリット
- ①無理がきかない
- ②粘りと時間が限定的
- ③取り返しがききにくい失敗になりやすい
〇“脱サラ”のように今までの会社での働き方によるデメリット
- ④上司がいない
- ⑤収入が安定しない
- ⑥ストレスが大きい
①無理がきかない
『皇帝内径(コウテイダイケイ)』という中国最古の医学書の一つがありますが、そこに男性は8の倍数で女性は7の倍数の年齢になったときに身体の変化が表れるという考えがあります。実は7と8の倍数である56歳は男女ともに唯一重なる年齢です(表2-3-1黄帝内経による体の変化が表れる年齢)。それが経済産業省の定義するところのシニア世代の1年目にも該当します。56歳から始まるシニア起業において無理はききませんし、長い目で見て無理は禁物です。
表2‐3‐1 黄帝内経による身体の変化が表れる年齢
男性 | 8 | 16 | 24 | 32 | 40 | 48 | 56 | 64 | 72 | 80 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
女性 | 7 | 14 | 21 | 28 | 35 | 42 | 49 | 56 | 63 | 70 |
②粘りと時間が限定的
年を重ねるごとに新しいものに手を出すことは躊躇われますし、過去実施して上手く出来なかった事や苦手な事は出来ないままになりがちです。そのため、いくらやらない事を含めて自己責任になる起業をしたからといって、出来ない事が出来るようになるわけではありません。これが若い年代であればやった事がない事や1度や2度出来なくても出来るようになる粘りと時間があります。シニア世代にはこの粘りと時間が限定的になります。
③取り返しがききにくい失敗になりやすい
失敗はしても影響がない、あるいは影響があっても取り返しがきけばその失敗は恐れる必要はありません。若い世代の起業ではたとえ失敗しても取り返すだけの時間と機会がある事を前提に、失敗したら次は同じ失敗をしないという失敗に対してプラスマインドが生まれます。しかしシニア世代にはあまり次の機会も時間も残ってはいません。そのため失敗すると、それを挽回する事が難しくなります。順調に進んでいたサラリーマン時代を経てシニア起業をしたが、事業に失敗しそのままリタイヤするというのは寂しい花道になってしまいます。
〇“脱サラ”のように今までの会社での働き方によるデメリット
④上司がいない
部下の失態は上司の責任になるため、上司は部下の仕事が成功するように指示を行います。しかし起業すれば責任を負ってくれる上司も指示をしてくれる人はいません。経営者になるという事は大きな責任とプレッシャーがかかります。
⑤収入が安定しない
起業をして所得を得るには利益が必要です。売上を上げなければいけないし、売上を上げる為に必要な費用を売上以下に抑えなければいけません。費用が売上より多い状態が赤字といいます。しかも起業して単月の黒字化するまでに半年程度の期間が必要で、その間は赤字であり所得がない状況が続きます。しかもシニア起業に限っていえば半年たっても半分以下しか黒字化しない状況なので、安定という面でいえばサラリーマンのほうが断然に安定的と言えます。
⑥ストレスが大きい
極端な言い方かもしれませんが、会社員であるならば会社に出勤すれば給与を得る事ができます。一方で起業して事業が軌道にのるまでは売上を得るために様々な手段を講じる必要があります。そして売上を得たら利益を残すために費用をコントロールしていかなければいけません。つまり多くの事をいっぺんにかつ上手くやる必要がある上に、失敗したら自身でリカバリーをしなければいけないという状況です。起業して事業が回りだし、利益が出てくるまでの約半年から1年の間は多くのストレスがありますし、良くなればそれを維持するためのストレスがあります。
シニア起業をすべき人、すべきではない人
シニア起業のメリットとデメリットを踏まえ、シニア起業をすべき人とそうでない人を分けていきます。
◆シニア起業をすべき人
- 仕事を受注できるだけの需要があるスキル価値を持っている、あるいは作り出せる人
- 受注から納品までのコストコントロールができる人
- 浮き沈み自体やそのストレスがあっても目的を見失うことなく、持続的な事業意欲を失わない人
◆シニア起業をすべきではない人
- 現在の事業を行うのに適さないスキル価値しかない人。
- ストレスに弱い人。
シニア起業の会社設立のポイント
シニア起業の会社設立の手順を説明します。シニア起業は株式会社や合資会社などの有限責任になる会社を設立する事が多くなっています。個人事業主は会社設立をする手間と費用を省くことができますが、個人として資金調達や各契約を行わなければいけなくなるため、責任範囲が有限ではありません。挽回する機会と時間が限られているシニア起業では、責任範囲を限定しておくことを推奨します。
また会計でいえばシニア起業は事業が黒字化になるまでに時間がかかるため、青色申告を行えば9年間の赤字の繰り越しができる事は重要です。また会社設立時に資本金を1,000万円以下にすることで消費税が2年間免除されるなどの優遇を得る事ができます。
会社設立の手順
会社設立手順の必要実務は大きく下記7工程に分けられた流れに沿って実施する事をお勧めします。
◆会社設立前
- ①発起人と事業計画と資金の準備
- ②実印作成
- ③定款作成と認証
- ④出資金の払込み登記申請(会社設立完了)
◆会社設立後
- ⑤証明書の取得(登記事項証明書/印鑑証明書)
- ⑥税務署届出
- ⑦社会保険手続き
①発起人と事業計画と資金の準備
会社設立の手続きならびに責任を負う発起人を決定します。発起人は小規模事業者においては代表が実施します。
事業内容を決めて、商品やサービスとその市場分析に基づく戦略立案し、それらの戦略が実現できたときの損益計算書や貸借対照表を事業計画書として作成していきます。この事業計画ができて初めて具体的にいつまでにいくら必要なのかが分かるため、現実的な資金計画ができます。
出来上がった資金計画に対して実際の資金に不足がないかを確認します。あまり不足が大きい場合には事業計画をやり直す事も検討すべきです。不足が資金調達で賄える幅であれば、融資をうけるなど資金調達方法を探します。
②実印作成
会社の開設前後で以下の4つの印鑑が必要になります。まとめて用意する事を推奨します。
- 代表者印=会社実印…登記申請時に押印する代表者印鑑になります。
- 銀行印…法人口座を開設した際の押印する印鑑になります。
- 角印…日常業務で使用する印鑑でいわゆる社印です。
- ゴム印…多くは社名/住所/電話番号/代表者名が1セットになっており、郵送書面の差出人の記入の代わりなどに使用します。
- 法人設立届出書
- 青色申請の承認申告書
- 給与支払事務所等の開設届出書
- 源泉徴収納期の特例の承認に関する申請書
- 棚卸資産の評価方法の届出書*
- 減価償却資産の償却方法の届出書*
③定款作成と認証
定款には、会社名・事業内容・会社住所・資本金・株式譲渡制限の有無・事業年度・役員の任期などの期間設定などを記載する必要があります。
定款は法人別になった詳細な定款記載例が日本公証人連合会webサイトで確認する事が出来ます。
定款の作成が出来たら、管轄する公証役場で定款の認証手続きを行います。なお定款認証には発起人の実印と印鑑証明が必要です。さらに電子定款であれば不要ですが、紙の定款であれば4万円分の印紙が必要です。
④出資金の払込みと登記申請(会社設立完了)
定款認証後に定款に記載した資本金同額の金額の払込を発起人名で実施します。そして払込みを証明するための払込証明書を作成します。
次に登記申請を法務局で届出を行う準備をします。申請自体はオンラインかCD-Rなどの電磁的記憶媒体か申請書に直接記入の3パターンです。ただし、どの方法を選択しても法務局への別途書類の持参ないしは郵送が必要になります。
登記申請は取締役会を設置するか否かなどいくつかのパターンで添付書類は異なってきます。管轄する法務局へ確認を行う事が万全を期す最も良い方法です。管轄は法務局Webサイト『管轄のご案内』で確認する事が出来ます。
◆会社設立後
⑤証明書の取得(登記事項証明書/印鑑証明書)
両証明書ともにその後の手続きで必要になりますので、法務局窓口ないしは郵送かオンラインのいずれかの方法で取得します。
⑥税務署届出
税務署への届出書類は以下の書類になります。
*この二つは評価方法と償却方法を指定する場合に必要になります。
⑦社会保険手続き
厚生年金と健康保険の加入が必須で、常時勤務する従業員がいる場合で労災保険と雇用保険の加入する必要がある場合に実施します。
シニア起業の資金調達方法
シニア起業における資金調達は、若い年代の起業より会社での長い間の実績や経歴があれば、比較的調達が難しくないといえます。さらに起業前の勤めている会社でもできる事があります。経理部門に比較的近い場所にいる場合などは取引をしている金融機関の担当者と面識を持っておくだけでも話の進みは変わります。また務めている会社で独立支援制度などがあればぜひ活用を検討してください。
資金調達の必要性判断
事業を開始するのであれば資金は多いほうが良いです。ただし仮に事業が失敗しても老後の生活に影響が出ないだけの資産形成が出来ているなら、余剰の資金だけを使用して起業する事も検討すべきなのがシニア起業と他の年代の起業と違うところです。長年勤めてきた会社で蓄えた貯蓄と退職金を使い果たしても起業が成功しなかった、というのでは老後の経済状況が苦しくなるだけでなく、残りの人生を悔やみながら過ごすことになるかもしれません。資金調達には返済の必要がないものと返済の必要があるものがありますが、どちらにせよ人の資金を使う場合には仮に利益から返済が今すぐできる範囲かどうかという判断がシニア起業には求められます。
シニア起業で活用できる補助金
シニアだけではなく40歳以上の起業には『生涯現役企業支援助成金』があります。60歳を超えて起業した場合には最大200万円の助成金が出ます。55歳~59歳までなら最大150万円の助成金が出ます。
その他で新たに創業するものに対して創業費用の一部を補助する『創業補助金』や、『シニア向けの創業支援融資』などもあります。シニア向け創業支援融資であれば通常の創業支援融資では上限3,000万ですが、最大7,200万円(うち運転資金は4,800万円)まで上限があがります。
資金調達の選択肢
資金調達は以下の3つになります。
①日本政策金融公庫
シニア起業に関わらず創業融資制度があるため、創業者全体にとって代表的な選択肢になります。また無担保・無保証になり、代表者の連帯保証が不要な事も大きなメリットになります。
②自治体
都道府県や市区町村による創業融資があります。単に借りられるだけでなく、自治体によりますが利子補給制度や信用保証料の補給制度があります。ただし自己資金要件が2分の1と自己資金がない場合には融資を受けにくいという事があります。
③民間金融機関
信用金庫などの地域密着型の金融機関は融資スピードが速いなどのメリットがありますが、政策金融公庫や自治体に比較して審査が厳しく、連帯保証を求められるケースもあります。
まとめ
シニア起業は今後数が増えていく事は間違いなく、数が増えていく中で生産労働人口が減少していく日本の中ではより重要な役割を担っていく事となります。自身のやりがいや社会にとって働く価値が増えていくのがシニア起業です。一方で起業全般にいえることですが事業に失敗はつきものです。それに対して失敗を挽回する機会・時間が限られているシニア起業は慎重さが必要になります。必要な所得をえら得る目算がたってから実施する事を推奨します。万が一うまくいかない場合でも老後に必要になる資金は分けて管理し、生活に支障が出ない資産管理も求められます。