全国対応電話相談受付中!0120-698-250メール相談はコチラから
社団法人設立が全国一律27,800円!KiND行政書士事務所:東京

社団法人を乗っ取られないために注意したい7つのポイント

営利や非営利の目的で事業を行う場合、株式会社や合同会社などの会社法人や、社団法人やNPO法人といった非営利法人の形態がとられます。各々の法人形態には様々な特徴があり、法人の設立上、事業や組織の運営上のほか、税制上などにおいて違いが見られ経営に影響することが少なくありません。

その違いの一つとして、法人の「乗っ取りリスク」が挙げられます。株式会社などでは、「敵対者に会社が乗っ取られた」といった話はよく聞きますが、社団法人においても乗っ取りという現象は珍しくないのです。

そこで今回の記事では、社団法人の特徴と社団法人が乗っ取られないための注意点を詳しく解説します。どのような手口で乗っ取られるのか、乗っ取りを防ぐのにどのような事を把握し、どんな対策を打つのが良いのかなどを知りたい方は、参考にしてみてください。

1 社団法人の特徴

社団法人の特徴

「社団法人」は、共通の目的を有する人が集まって設立される「非営利」の法人団体のことです。社団法人は民法に基づく許可制の公益法人でしたが、2008年の法改正により登記だけで設立が可能な「一般社団法人」と、公益認定が必要となる「公益社団法人」に区別されるようになりました。

上記の通り法改正前の社団法人には事業の公益性が必須であったため、現在の「公益社団法人」は以前の「社団法人」に近い存在と言えます。他方、登記だけで設立が可能となった「一般社団法人」は、協会や互助会などの任意団体が法人化を図るのに都合の良い形態になっているのです。

以下に社団法人(主に一般社団法人)の主要な特徴を挙げてみましょう。

1)「非営利」と「社員」

社団法人の特徴として、「非営利法人」の性質が第一に挙げられます。この「非営利」とは、「社員」へ利益(余剰金)を分配しないという意味です。

また、この「社員」とは株式会社等で使用される社員(従業員)のことではなく、社団法人の最高意思決定機関である「社員総会」で議決権を有する人(または法人)を指します。社団法人の「社員」は株式会社の「株主」にあたるような存在と言えるでしょう。

つまり、社団法人では、株式会社で実施される株主への配当というような利益分配が許されていません。そして、この「非営利」の特徴を守るのであれば、収益事業を行い「利益を社団法人の活動経費として使う(経費に充てる)」、「法人の役員(理事や監事)への報酬、職員への給料を支払う」ことも可能です。

なお、一般社団法人の社員は、自ら同法人の運営に必要な経費を負担することが出来ますが、株式会社の株主のような出資は求められないため、金銭等を支払う必要はありません。

社員は余剰利益の分配を受けることがないため、法律上の意味合いとしては、一般社団法人を支えていく支援者的な立場と言えます。なお、法人の残余財産については、社員総会の決議により社員に帰属させることは可能です。

2)一般社団法人の設立要件と機関

一般社団法人を設立する場合、「社員2名以上が集まって共同で定款を作成し、公証役場で認証を受けた後、法務局で登記する」という手続が必要となります。

一般社団法人で設置が必要な機関は「社員総会」と「理事」です。社員総会は社員で構成される一般社団法人の意思決定機関で、同法人の組織運営、管理などに関する事項について決議します。社員の議決権は原則1人1票ですが、定款への定めにより社員ごとに定めることも可能です。

(議決権の数)

法人法第48条1項
社員は、各1個の議決権を有する。ただし、定款で別段の定めをすることを妨げない。

理事は1名以上必要で、社員総会から社員の決議により選任されます。理事が2名以上いる場合は、原則としては各理事が法人の代表となりますが、理事の中から代表理事1名を決めることも可能です。

最小規模の一般社団法人の場合、機関構成は「社員総会」+「理事」となり、社員総会は社員2名と理事1名で構成できます。ただし、社員と理事とは兼任できるため、最小人数である2名により一般社団法人の設立が可能です。

その「理事」とは、「法人の業務を執行する人」のことで、一般社団法人からの委任により法人運営の「業務執行権」(重要事項を決定する権限)を有します。また、理事は「代表権限」もあるため、株式会社で例えると、「取締役」のような役割を果たす重要な存在なのです。

なお、その理事個人の権限の範囲は、同法人が理事会を設置しているか、していないかに依存します。たとえば、理事会設置の一般社団法人の理事は、代表理事と業務執行理事のみが法人の業務を執行することが可能です。

理事の選任については、理事は社員総会の普通決議によって選任されます。理事会非設置の一般社団法人の場合、各理事が代表理事になりますが、以下のいずれかの方法により、理事の中から代表理事を定めることも可能です。

  • ・定款
  • ・定款の定めによる理事の互選
  • ・社員総会の決議

理事会設置の法人は、理事会において理事会の中から代表理事を選びます。理事の解任は、社員総会の普通決議により行われます。理事の任期が満了前である時でも、法人の業務執行を担う人物として不適切であることが判明した場合には、理事を解任することが可能です。

普通決議を決定する条件は、「定款に別段の定めがある場合を除き、総社員の議決権の過半数を有する社員が出席し、出席した当該社員の議決権の過半数をもって行う」とされています。つまり、社団法人では総社員の過半数を確保できれば理事を解任できるわけです。

3)事業の特徴

一般社団法人の場合、公益性を目的とする事業に従事しなければならないという規則はなく、事業内容は原則、自由となっています。もちろん事業内容は法律や公序良俗に反しないことは当然です。

その事業目的を決定するのは社員になります。公益を目的とする事業やボランティア活動的な事業以外にも、一般的な会社組織のように販売業、製造業、請負業などの収益事業を営むことが可能です。また、公益性事業と収益事業の両方を一定割合ずつ行うこともできます。

なお、一般社団法人設立後に、公益認定を受けて公益社団法人となる場合は、法律で定められている「公益目的事業」に該当する事業目的に従事する必要があります。

1-1 社団法人になるメリット・デメリット

法人形態を選択するにあたり、その法人の特徴を把握しておくことは重要です。ここでは一般社団法人の設立でどのようなメリット・デメリットが生じ得るのかを簡単に説明しましょう。

1)一般社団法人の長所

以下のメリットが期待できます。

一般社団法人の長所

●設立手続は手間が少なく簡単

NPO法人や公益社団法人の場合、設立にあたり比較的厳しい条件をクリアする必要がありますが、一般社団法人は、法務局での登記手続だけで済むため手間が少なく簡単です(公証役場での定款認証は必要)。

株式会社と同様に1カ月以内で設立手続を完了できるため、スムーズに事業を始めることができます。また、資本金制度もないため、資本金の払込手続も不要であることから株式会社の設立手続よりも手間がかかりません。

ほかにもNPO法人の場合、設立するにあたり行政庁の認証が必要で、事業計画書や活動予算書などの必要書類が多くその作成・準備の負担は軽くありませんが、社団法人はそれに比べ負担が小さいです。また、NPO法人の設立には約半年ほど必要ですが、一般社団法人の1カ月程度というスピードは魅力です。

●小規模な組織での運営が可能

一般社団法人は、「社員」は2名以上必要ですが、理事は1名でもよく、社員と理事は兼任できるため、最低2名以上で設立が可能です。なお、監事の設置は任意です。

NPO法人の場合、設立にあたり最低でも10名以上必要で、理事は3名、監事も1名以上必要となります。NPO法人と比べると、一般社団法人がいかに設立しやすく小さな組織で事業を始められるかが理解できるはずです。

●設立のコストや資金が小さい

一般社団法人の設立の場合、資本金や財産の出資が法的に要求されることがないため、法的な設立上の費用は定款認証手数料や法務局での登録免許税の支払いに伴う約11万円という費用で済みます(行政書士等に申請を手伝ってもらう場合は別途費用が必要)。

一方、株式会社の場合は資本金、一般財団法人の場合は財産の出資が必要となります。株式会社は資本金を1円からにすることも可能ですが、信用面から100万円以上にするケースが多いです。

実際のところ、株式会社や一般財団法人の設立では、数百万円ほどの資金を準備するケースが多く見られるため、一般社団法人がいかに低コスト・低資金で事業を開始できるかが理解できるでしょう。なお、法人に資金がない場合は社員が事業に必要な費用を支払います。

●事業内容が自由

一般社団法人では、法令等に従う限り行う事業の内容に制限がありません。一方、NPO法人の場合は、法律で定められた20の分野の業種という制約があります。

一般社団法人は株式会社や合同会社と同様に収益事業も行うことが可能で、収益事業で得られた利益を、公益性の高い事業に利用することも可能です。

●収益事業以外は非課税

非営利型の要件を満足していれば、収益事業以外から得た所得は「非課税」扱という税法上の優遇が受けられます。これはNPO法人の税制と同じですが、収益事業を行う場合はその事業にだけに課税されるという仕組みです。

●法人名義での契約が可能

一般社団法人も他の法人と同様に法人名義で法律行為が実施できるようになります。つまり、株式会社や合同会社などのように、設立することで法人格を持つことができ、取引での契約、不動産契約、銀行口座の開設などの全ての場面で法人名義により契約を結べるようになります。

行政機関からの委託事業を行う場合、法人名義での契約が条件となることも多いため、個人事業主で公益性の高い事業などを行う場合に比べて社団法人のほうが有利です。

●任意団体よりも高い信用力

一般社団法人は、同じ事業を行っている法人格を持たない任意団体よりも信用力が高くみられ取引上で有利になり得ます。

その理由は、任意団体の代表者に万が一のことが生じると事業がストップしてしまう可能性が高いからです。一方、一般社団法人の場合は法人格を有しており、代表者に何かあっても事業が継続される可能性が高いことが挙げられます。

また、一般社団法人は法務局で登記されているため、任意団体等に比べ登記簿謄本から同法人の内容をなどが確認できる点も信用力を高めているのです。

以上のほかにも

  • ●基金や寄付金を集めやすい
  • ●入会資格を限定することが可能
  • ●監督官庁がない(報告義務がない)

などのメリットが挙げられます。

2)一般社団法人の短所

一方、主なデメリットは以下の通りです。

一般社団法人の短所

●「社員」への利益分配が不可能

一般社団法人では「社員」への利益分配ができません。株式会社では株主に配当金を分配することで出資を呼び込め、多様な人から資金を集めることが可能です。

一般社団法人の場合、そうした利益分配ができず出資を募るという行為がないため、株式会社のように市場から多額の資金を調達することができません。そのため、社団法人は規模の大きな事業を展開していくのが困難になりやすいです。

●任意団体等より作成書類が多い

任意団体などと比べ一般社団法人の場合は設立や存続のために多くの書類が必要になります(NPO法人等よりは少ない)。役員の登記での書類作成、毎年一回開催する社員総会に必要な資料や会計関係の書類などの作成が欠かせません。

なお、これらの書類は、株式会社や個人事業主などで必要となる書類およびその作成方法が異なるケースも多いため、その対応に手間が少なからずかかります。従って、社団法人になることで期待するメリットが小さい場合、任意団体等から社団法人化しても手間がかかるだけ、ということになりかねないのです。

●会計処理が煩雑

一般社団法人の場合、収益事業は課税対象で、公益性事業は非課税対象となるため、両方の事業を行うと会計処理を分けて処理・管理する必要があり事務に手間がかかります。

また、補助金収入は消費税不課税取引になるため、補助金事業にかかる経費支払額については、「課税仕入」として消費税を控除するという処理が必要になります。補助金が多い場合には以上のような面倒な処理が多くなるのです。

●役員の登記手続

一般社団法人の役員である理事や監事には、各々任期(理事は最長2年、監事は4年)があり、任期が切れた場合には毎回登記しなければなりません。なお、変更がなく同じ者が引き続き理事や監事を行う場合でも登記が必要です。従って、一定の手間と費用がかかる点には注意したほうがよいでしょう。

●上場は不可能

一般社団法人は株式市場で上場することができず、そこでの資金調達ができません。株式市場での上場は不特定の多数の人から返済不要の多くの資金を調達できるという点が事業の発展に有効ですが、一般社団法人はそれができないのです。

事業の拡大に多額の資金が必要な場合には株式会社の選択が優先されるでしょう。また、株式会社の場合、株式上場により保有株式を売却して大きなリターンを得るというチャンスが創業者などの株主にはありますが、社団法人にはそのような機会がありません。

2 社団法人の乗っ取り

社団法人の乗っ取り

ここでは組織の乗っ取りとはどのようなことか、社団法人ではその乗っ取りがどんな風に起こるのか、その乗っ取りにより法人はどうなるのか、といった点について説明しましょう。

2-1 組織の乗っ取りとは

事業組織の中で多く存在する株式会社では、いわゆる「会社の乗っ取り」は日常茶飯事とも言える出来事です。具体的には、以下のようなケースが「乗っ取り」にあたるでしょう。

  • ・会社のオーナーや主要株主が株式を相続する時に、団結した他の者たちから経営権を奪われる
  • ・会社の経営方針に満足しない外部の株主が自社の会社の支配権を奪う
  • ・主要株主の中で敵対者に株式を売却する者が現れ、その結果、敵対者が多数派となり自社の会社支配権を奪う
  • ・乗っ取りを企む者が自社の経営等に不満を持つ株主を味方につけ、多数派となり自社の会社支配権を奪う
  • ・実力のある役員や従業員が会社の顧客や事業ノウハウを抱え込み、会社の実質的な経営権を掌握して自社を支配する
  • ・自社が上場企業である場合、他者からの敵対的買収(自社の取締役会から買収の同意が得られない場合に株式公開買付け(TOB)によって株式を取得し支配権を獲得する方法)で経営権を奪われる
  • ・違法行為による乗っ取り(乗っ取りを企む者が、株主総会で自分が代表取締役に決議された等の議事録を偽造し、不正登記して会社を乗っ取る 等)

以上のように何らかの方法で会社を支配する権力を奪取することが「乗っ取り」です。こうした乗っ取りは株式会社だけでなく社団法人でも起こり得ます。

2-2 社団法人の乗っ取りとは

ここでは社団法人の乗っ取りの事例を取り上げて、その「乗っ取り」の内容を確認していきましょう。

●悪徳コンサルティング会社等による乗っ取り

資金不足で困窮する社団法人は多いですが、その対応のためにコンサルティング会社等へ相談する法人も少なくありません。しかし、相手が悪徳コンサルティング会社である場合、その法人の乗っ取りが画策されるケースが少なからず見られます。

たとえば、そのコンサルティング会社への相談をきっかけに、その会社から「経営改善のために有能な人材を派遣するから社員とするように」と持ち掛けられ、乗っ取り工作の始まるケースがよく見られるのです。

その後、「貴法人の事業や会計などの業務にはもっと有能な人材を加える必要がある」などと言い、また、コンサルティング会社から社員を増やすようにと要求されるようになります。

その結果、同法人の社員の過半数がコンサルティング会社の息のかかった人員となってしまい、社員総会における理事の改選で現理事長の退任が要求されてしまうのです。さらに、コンサルティング会社が推す人物が新理事長に選任され実質的な支配権が完全に掌握される、という事態に陥ってしまいます。

●役員同士の経営方針の違いから生じる乗っ取り

社団法人に対する乗っ取りは、外部の悪意を有する第三者の介入だけではなく、役員同士の法人の運営に対する考え方の違いから生じることも多いです。

たとえば、現理事長の法人運営に納得できない他の理事が結託し社員の過半数を味方につけて現理事長を追い出しにかかるようなケースが少なからず見られます。

社団法人の設立時からの社員が理事である場合、設立当初の事業目的が同じで事業内容について互いに同意していれば、設立から暫くの間は事業や組織の運営に関する考え方に大きな違いが生じることは少ないです。しかし、時間が経つうちに理事や社員の間で理事長の経営に異議を唱えるケースも増えてきます。

そうした場合、理事長がワンマンな態度で他の理事の意見を無視し続けると法人の乗っ取り工作が始められるという事態になりかねないのです。社員数が多い社団法人の場合、彼らを自分の味方に付けるような多数派工作を水面下でしておけば、社員総会で理事長を解任することは難しくありません。

●家族等の不和に伴う乗っ取り

家族で社団法人を運営しているケースは多いですが、家族に不和が生じた場合、現理事長と残りの家族との対立により乗っ取りが起こるとは珍しくないです。

たとえば、夫婦2人と子供3人が社員となっている社団法人で、現理事長の夫と理事の妻との間に離婚騒動が起きた場合などで、その法人の支配権が奪取されるというケースが見られることもあります。

具体的には、妻が社員である3人の子供のうち2人を味方につけて社員総会で原理事長を解任するといったケースです。なお、定款の内容によっては(定款に記載しておけば)新理事長には家族以外の人材を登用してもよく、妻等にとって都合のよい人物を選任することもできます。

●反社会勢力による医療法人社団の乗っ取り

暴力団と関係がある組織が医療法人社団を乗っ取るケースが少なくないです。たとえば、暴力団のような組織が先の悪徳コンサルティング会社や金融会社等を運営していて経営に困っている医療法人社団を標的とした乗っ取りが今まで多く見られました。

病院の資金不足などの経営状況の悪化を聞きつけた暴力団傘下の医療金融やブローカー等が融資話を持ち出し、経営の手助けのためと称してそこの従業員を病院の「社員」として送り込む、といった手口です。

よくある手口としては、診療報酬を担保に資金を融通して病院に接近する、配下の関係者を法人の事務業務の支援者として送り込む、法人の信用を得たところで配下の者を医療法人社団の社員とするように要請する、その配下の社員数が過半数を占めるまで増やし支配権を奪取する、といったやり方になります。

なお、医療法人社団とは、「複数の人(自然人)が集まり、現金、不動産、医療機器など一定の財産を拠出した団体が都道府県知事の認可を受け、登記することにより成立する医療法人の形態」の一つです(医療法人社団は出資持分のある形態です)。

2-3 乗っ取られた後の法人の状態

乗っ取られた社団法人がどのようになるのか、これまで働いていた職員がどのような影響を受けるのか、といった点を説明しましょう。

1)元からの理事による乗っ取り

現理事長が、以前から同法人に所属している他の理事に置き換えられるような乗っ取りの場合、既存事業が根本的に変わることは少なく、これまで従事している職員の就業への影響も少ないでしょう。

新理事長のもと、法人の経営方針が変わって業務のやり方に変化が生ずることが多少あるにしても抜本的に変わるケースは少なく、雇用や待遇が維持される可能性は低くありません。

もちろん経営状態が厳しく人員削減が必要場合はその限りではないですが、特段の理由がない限り故意に退職や処遇の変更が余儀なくされることは少ないはずです。

なお、新理事長が経営の改革派である場合、以前の体制よりも積極的な事業展開や業務改善などが期待でき、職員としては仕事にやりがいを多く感じられる可能性が高まります。

2)悪意のある第三者による乗っ取り

暴力団の傘下にあるような組織に法人が乗っ取られると、業務内容や職員の雇用等に大きな変化が生じる可能性が高いです。たとえば、医療法人社団に対する乗っ取りでは、法人の経営や業務で不正行為が行われ、元の職員は解雇されたり削減されたりすることになりかねません。

医療費が補助される生活保護者を集めて過剰診療する、健康保険で不正や架空の請求をする、以前からの職員を削減する、架空の看護師で不正請求するおよび給与を支払う、必要資材は関係のある業者から仕入れキックバックを受ける、病院の資産(設備、土地や建物等)を業務に関係なく売却する、といった手口で不正に利益を得る行為が実施される可能性が高いです。

医療法人社団の事業の場合、不正な方法で利益を得る手段がいくつも用意されパターン化されており、暴力団のターゲットになっているため、介入されないための対策が求められます。

3 社団法人が乗っ取られないための注意しておきたい7つのポイント

社団法人が乗っ取られないための注意しておきたい7つのポイント

ここでは社団法人が乗っ取られないための注意点を示し、その乗っ取られる原因と対策を説明していきましょう。

3-1 乗っ取られる原因の理解不足

社団法人が乗っ取られるという事態は、その状況を引き起こす原因が必ず存在するため、その原因を認識できれば乗っ取りを防ぐことも可能です。従って、乗っ取りを防止するには第一に原因を正しく理解する必要があり、それを前提として対応できる対策を策定し実施することが求められます。

なお、乗っ取られる原因には、直接的な原因とそれに影響する間接的な原因が存在します。これらの原因を的確に理解して、それらを解消するための合理的な対策を立て実施できるようにしましょう。

1)直接的な原因

法人が乗っ取られるという状態は、その法人を運営する実質的な支配力が奪われることです。具体的には法人の最高意思決定機関である社員総会での過半数の議決権が他者に掌握され、理事会での法人の重要事項を決定できる権限が奪われることを意味します。

乗っ取られる事例で確認したように、現在自分が一般社団法人の理事長として同法人を運営していても、敵対派閥の社員が社員総会での議決権の過半数を得ると、現理事としての再任が否決されることとなり、同法人の実質的な運営から除外されることになるのです。

つまり、法人が乗っ取られる直接的な原因は、社員の議決権の過半数を失うことにほかなりません。

たとえば、社員数が5人である一般社団法人の場合、3人の多数派を作れば、理事の選任や解任ができます。社員総会の議決権は各社員に1票だけであり、どれだけ多くの経費負担をしていても議決権の数は1人1票です(社団法人は資本金制がないため、資金がない場合は費用は社員が負担することになる)。

2)間接的な原因

「社員の議決権の過半数を失う」という直接的な原因(状況)を作り出す間接的な原因がいくつか存在します。具体的には、以下のような項目です。

  • ・社団法人の機関とその役割等の知識不足
  • ・社員の支持を得られない事業や組織の運営
  • ・乗っ取りに対するリスク意識の不足
  • ・乗っ取りに対する対応策の未整備

以上のような原因を把握し、それらを解消するための対策を講じることで社団法人の乗っ取りを防ぐことが可能となります。以降に具体的な原因のポイントを取り上げ、その対策の内容とともに説明しましょう。

3-2 社団法人の機関とその役割等に関する知識や認識の不足

社団法人の支配権を取られるという事態は、法人の組織・事業を支配・運営する理事(長)が社団法人の機関とその役割等について理解していないことから発生します。

法人にはどのような機関を設置するのか、その機関の役割が何であるのか、を十分に把握せず、またそうした機関の運営等に関する手続なども十分に理解していない理事が少なからず見られます。

たとえば、法人設立後に社員となる場合、定款にその定めを規定しておく必要がありますが(「社員の資格の得喪に関する規定」)、その点を理解していない理事が少なくありません。具体的には、悪意のある第三者などの口車に乗って知らない人物を簡単に社員にしてしまうケースが多いのです。

設立時の社員は共同で定款を作成するため、その社員が理事となって法人を運営していれば、社員や社員総会の役割などを理解しているはずですが、時間が経って忘れてしまうケースもあるでしょう。

また、設立時の社員がその定款作成等に直接かかわっていない(作成の支援を受ける等)ケースも多いため、その場合では当然その社員はその役割や議決権等の規則を十分に理解していないことが考えられるのです。

従って、対策としては、法人の経営権を掌握するためには「1-1」で説明したような社団法人の社員、設立要件や機関などの基本的な内容を第一に把握することです。経営権を維持するには、社員の入社などをどう規定すべきかといった内容を理解しておかねばなりません

3-3 社員や従業員等の支持を得られない事業や組織の運営

信頼のおける友人・知人や家族などが社員となっている場合でも、理事長が適切な事業や組織の運営を長期に渡ってできていなければ、彼らからの支持を失い、理事として再任されなくなるという事態が生じかねません。

たとえば、社員や従業員の意見に耳を傾けず、自身の判断で事業を広めたり、投資を多くしたりするような傲慢な運営を続けたりすると、やがて法人は収益事業で適正な利益が得られなくなることも多いです。

また、事業が適切でなければ、寄付金や補助金などを受けるのも難しくなり、一層事業運営が困難になってしまいます。こうした状況が続けば、信頼していた社員や家族であっても彼らの支持を失い、理事として再任されなくなることもあり得るのです。

従って、この原因での対策は社員からの支持を失わずに信頼され続けることになります。事業や組織の運営に関して、社員や従業員の意見も聞き、それを反映して収益の確保や事業の拡大などに活かすことが重要です。ワンマン、独断専行、といった他の社員等からの支持を得にくい経営スタイルには注意しましょう。

3-4 乗っ取りに対するリスク意識の低さ

社団法人の乗っ取りは、理事長等の乗っ取りに対するリスク意識の低さが招くこともあります。つまり、社団法人の現在の理事長等の経営層が同法人の乗っ取りをまったく想定せず、何も対策していないという危機意識の低さが第三者等の悪意を招くことになるのです。

理事長等が社団法人の設立要件のほか、社員や社員総会などの機関の役割を理解していても、「法人が乗っ取られることなどは起こらない」などと過信して、乗っ取り防止の対策を講じていないケースが見られます。

何の対策もとっていない法人はスキだけられであり、悪意のある者にとっては打ってつけのターゲットになり得るのです。

従って、この原因の対策としては、現在の経営層、特に実権を握っている理事長が「乗っ取りはいつでも起こり得る」という認識を持つことになります。そのためには自分の法人ではどのような乗っ取りが起こり得るのか、という点を把握しておくことが重要です。

たとえば、医療法人社団の場合、暴力団などの反社会的勢力に関係する病院ブローカー、医療金融やコンサルティング会社等が同法人をターゲットとしているケースが多く見られます。具体例を挙げると、関西では「新田グループ」「島田グループ」「安田グループ」の3グループが病院の乗っ取りで有名でした。

また、大手の医療法人がそのグループの規模を拡大するために中小の医療法人社団の吸収を画策するケースも少なくないです。既存の病院が有する病床数は貴重であるため、中小病院の取り込みは大手法人グループの拡大や利益の増大に有効であり、中小病院等はターゲットにされています。

その吸収の方法としては、銀行融資等が得られず経営難に陥っている中小法人に対して、大手法人が融資を行い、事務員等を社員として送り込み経営権を奪っていくというようなケースです。

従って、この原因の対策としては、社団法人であっても乗っ取られる可能性が十分にあることを認識し、第三者の悪意に曝されるのを防ぐことが重要です。安易に融資話に乗らない、経営改善に必要な人材を社員として受入れない、といった意識を持ち、狙われないために経営状況を改善し健全な状態にしていくなどの取組が求められます。

3-5 悪意に付け込まれる好ましくない事業運営

第三者の悪意に付け込まれるのは法人の経営状態が悪くそれがスキとなる点が大きいです。

たとえば、「借金が多く返済に困窮しており、新たな融資が得られない」「多額の設備投資をしたにもかかわらずその投資資金の回収の見込みが立たない」「非効率な業務方法を改善せず赤字に陥っている」などの状態は、法人経営者としての経営能力の低さの現れとして認識されかねません。

法人経営者が、経営知識や経験が少ない、組織を運営する能力が欠ける、金融機関等からの信頼が低い、といった状態にあるなら、悪意のある者にとっては騙しやすい相手と映り乗っ取りのターゲットにされてしまうのです。

従って、この対策としては、乗っ取りを企てる相手にスキを見せない経営を行うことになります。具体的には、適切な経営知識を身につけ事業や組織の運営の適正化を図ることです。

設備や建物などへの投資は適切な回収予測に基づき、資金繰りに影響のない範囲で行う、返済が困難となる借入を行わない、業務の改善やサービスの向上に常に努める、余剰となるような人員を増やさない、従業員への待遇に配慮したり、彼らの意見などを業務に取入れたりしてモチベーションを高める、といった方法を行い、法人運営を健全な状態にすることが求められます。

3-6 乗っ取り対策の未整備

法人の乗っ取りは社員の過半数の確保が可能かどうかで決まりますが、その社員についての規定を定款等で適切に定めていないことによって乗っ取りを容易にしているケースが少なくありません。

これまで確認してきた通り、「社員にする」規定に条件が付けられていない場合、外部の悪意のある者や敵対派閥などの関係者が簡単に社員として送り込まれる可能性が生じます。

まず、一般社団法人においては「社員の資格の得喪に関する規定」は、定款の絶対的記載事項とされており、必ず記載しなければなりません。たとえば、日本公証人連合会の定款記載例では以下の内容が例として示されています。

第2章

社員

(入社)

第5条 当法人の目的に賛同し、入社した者を社員とする。
2 社員となるには、当法人所定の様式による申込みをし、代表理事の承認を得るものとする。

(退社)

第7条 社員は、いつでも退社することができる。ただし、1か月以上前に当法人に対して予告をするものとする。

(除名)

第8条 当法人の社員が、当法人の名誉を毀損し、若しくは当法人の目的に反する行為をし、または社員としての義務に違反するなどの除名すべき正当な事由があるときは、一般社団法人および一般財団法人に関する法律(以下「一般法人法」という。)第49条第2項に定める社員総会の決議により、その社員を除名することができる。

(社員の資格喪失)

第9条 社員が次の各号のいずれかに該当する場合には、その資格を喪失する。

(1)退社したとき。
(2)死亡し、若しくは失踪宣告を受け、または解散したとき。
(3)○年以上会費を滞納したとき。
(4)除名されたとき。
(5)総社員の同意があったとき。

以上の内容が一般的に必要とされる社員に関する定款の記載内容ですが、各法人の方針に従った定めを記載することも可能です。たとえば、以下のような内容や資格の有無などの条件(資格要件)を規定することもできます。

  • ・業務遂行に専門資格が必要なる法人:「○○の資格を有する者」
  • ・同窓会等の法人:「○○大学の卒業生」
  • ・業界団体などの法人:「○○業を営んでいる者」

また、理事会がある法人では以下のように「理事会の承認」という条件を規定することも可能です。

「本法人の社員となろうとする者は、別に定める入社申込書を代表理事に提出し、理事会の承認を得るものとする。」

以上のように定款で社員の入社に関する制約を重めにして悪意のある者が簡単に社員になれないように規定しおき、実際に入社させないことが重要です。なお、家族や親族を社員にすることに関しても慎重に取り扱う必要があります。

事例のように離婚を機に夫人に法人を乗っ取られるというケースもありますが、複数の子供を社員にしておく場合、後に誰が法人を引き継ぐかで揉めるケースも少なくありません。

そのため事業承継する子供以外は社員にはしない、という方針を立て実行していくことが求められます。

3-7 社団法人という組織形態の安易な選択

社団法人の設立は手続が簡単で時間も短く済み、収益事業以外は非課税扱いになるといったメリットが得られるため、乗っ取りリスクの可能性を考慮せずに安易に選択すると、そのリスクが現実のものになりかねません。

事業を行うための組織は、社団法人以外にも株式会社や合同会社などがありますが、第三者などからの乗っ取りのリスクについては各々の特徴の違いにより生じることもあるため、組織を運営する者の状況や考えなどに応じて適切に組織形態を選択するのが望ましいです。

社団法人の場合、上場できないため株式公開している株式会社のように第三者から株式を買い集められて乗っ取られるという心配がありません。しかし、社団法人の場合、出資額の有無や量に関係なく、各社員が1人1票の議決権により社員総会の支配が決定される仕組みです。

そのため、社員としての自分がいくら最も多額の出資金(あるいは費用)を負担していても社員の過半数を味方につけられないと、同法人は支配できません。他方、株式会社の場合は発行株式の過半数を確保できれば、1人の株主が会社の経営権を掌握できます。

つまり、株式会社は社団法人と異なり株主の人数ではなく株式の保有数、結果的に出資額で会社を支配できるわけです。また、自社を株主譲渡制限会社にして、「取締役会や株主総会の許可を得なければ譲渡できない」と規定すれば、会社が望まない人物に自社の株式を保有させないようにすることができます。

もちろん様々な手口で株式会社の乗っ取りを図ってくるケースは見られますが、社団法人の「社員の1人に1票の議決権」という性質から生ずる乗っ取りリスクを考えると株式会社の選択は悪くないでしょう。

また、合同会社の選択も有効です。合同会社は経営に従事する者が出資して、その資金を元手に営利を目的として事業を運営する組織形態で、登記が必要になります。

つまり、合同会社は、お金を負担する人と、経営を行う人が同一であるという「所有と経営が一致」しており、外部の出資者が存在しない組織形態でもあり、会社の決定事項に関する広範囲の内容を自分たちで決定することが可能です。

たとえば、(出資者である)社員の議決権割合(会社の意思決定における権利の大きさ)や配当の受け取り割合などを出資額とは関係なく、定款で定めることができます。

株式会社の株主総会における外部の株主の承認を得るための時間やコストも合同会社では必要ないため、迅速な経営が可能で、上場できない点からも外部からの乗っ取りリスクも低いです。

その一方で、社員は全員有限責任が課され、出資額に応じた責任を負わねばなりません。また、株式会社のように金融市場や第三者からの資金調達は難しく、社団法人のように寄付金を集めるのも簡単ではないです。

加えて株式会社や合同会社では、社団法人における収益事業以外の非課税制度というような特典はありません。

以上のとおり、各々組織形態においては、乗っ取りリスクに対する耐性が異なり、考え方や状況により株式会社や合同会社のほうが社団法人よりも乗っ取りリスクが低くなる可能性があります。そのため法人設立の際には各組織形態の特徴(メリット・デメリット 等)を理解した上で選択することが重要です。

なお、一般社団法人からの株式会社や合同会社への移行はできないためその点も注意しておきましょう。

4 まとめ

社団法人を乗っ取られないために注意したい7つのポイント

社団法人の乗っ取りは、法人の最高意思決定機関である社員総会で議決権を有する者である「社員」の過半数が奪われることで直接的に生じます。

また、その過半数を奪われるという状態を生む原因として、現経営者が社団法人の機関等について理解していない、他の社員からの支持がない、放漫な経営をしている、乗っ取りリスクへの意識が低く防止対策を取っていないなどがあり、それらが悪意のある第三者や敵対者などにつけ入るスキを与えています。

これまで確認してきた社団法人や乗っ取りの特徴などを参考にこの機会に乗っ取り防止の対策を検討してみてください。

社団法人設立が全国一律27,800円!KiND行政書士事務所:東京