社団法人が押さえておきたいインボイス制度とは
令和5年10月1日より、商品・サービスの売買において売手が買手に対して発行する請求書・納品書に関して、適用税率や消費税額等の記載が追加されるインボイス制度が施行される予定ですが、事業者に様々な影響が及ぶ可能性があると注目されています。
インボイス制度は商品・サービスの売買の請求に関するルールの一つとなるため、一般の商取引を行う事業者のみならず社団法人においても無関係というわけにはいきません。
そこで今回は社団法人におけるインボイス制度の影響などについて解説することにしました。消費税の基本、インボイス制度の内容、一般企業及び社団法人のインボイス制度の影響や対応についての考え方、などを把握したい方は参考にしてみてください。
目次
1 消費税の特徴や仕組
消費税は、商品(製品)の販売やサービスの提供などに関する広範囲の取引に対して課税されるもので、消費者が負担し納税義務者である事業者が納付する税金です。
商品の販売やサービスの提供などの取引は、生産、流通などの各取引段階で生じるため、その都度消費税が課税されていくと二重三重に税金が課せられることになるため、それを防ぐ仕組が採用されている点(後述する「仕入額控除」)が消費税の大きな特徴となっています。
1)課税対象の取引
消費税の課税対象となる取引は、国内において事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡、資産の貸付け及び役務の提供、などです。従って、商品の販売や運送、広告など、対価を得て行う取引のほとんどが消費税の課税対象になります。
また、保税地域から引き取られる外国貨物、すなわち輸入品についても、原則として消費税がかかります。海外から輸入品を購入する場合、その購入時点では消費税は不課税ですが、国内製品との比較において価格面への影響が及ばないように、外国貨物の輸入に「消費税」が課税されています。
なお、輸入品を引き取る者が消費税の納税義務を負い、免税事業者、個人事業者ではない給与所得者や主婦であっても、輸入品を引き取る場合は納税義務者となります。
なお、非課税取引は、以下のような取引が対象です。
- ・土地の譲渡、貸付け(一時的なものを除く)
- ・有価証券、支払手段の譲渡
- ・利子、保証料、保険料
- ・特定の場所で行う郵便切手、印紙等の譲渡
- ・商品券、プリペイドカードなどの譲渡
- ・住民票、戸籍抄本等の行政手数料
- ・外国為替
- ・社会保険医療
- ・介護保険サービス・社会福祉事業
- ・お産費用
- ・埋葬料・火葬料
- ・一定の身体障害者用物品の譲渡・貸付け
- ・一定の学校の授業料、入学金、入学検定料、施設設備費 等
- ・教科用図書の譲渡
2)納税義務者(課税事業者)
その課税期間(個人事業者は暦年、法人は事業年度)の基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)での課税売上高が1,000万円超である事業者は、消費税の納税義務者(課税事業者)になります。
基準期間における課税売上高が1,000万円以下の場合でも、特定期間における課税売上高が1,000万円超となった場合、その課税期間においては課税事業者となるため注意が必要です。
その特定期間とは、個人事業者の場合はその年の前年の1月1日から6月30日までの期間、法人の場合は、原則として、その事業年度の前事業年度開始の日以後6カ月の期間を指します。
なお、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することも可能です。
3)免税事業者
基準期間の課税売上高及び特定期間の課税売上高等が1,000万円以下の事業者は免税事業者の対象となり(要申請)、その年(又は事業年度)は納税義務が免除されます。ただし、免税事業者に該当する場合でも課税事業者となることを選択することは可能です。
なお、その課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下でも特定期間(※)における課税売上高が1,000万円を超えた場合、その課税期間から課税事業者となります。ほかに、特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することも可能です。
インボイス制度が施行され場合でも免税事業者であることは可能ですが、後述する影響が生じ得る点に注意して判断する必要があります。
4)消費税率
消費税率は以下のように設定されています。
- ・標準税率10%(消費税率7.8%、地方消費税率2.2%)
- ・軽減税率8%(消費税率6.24%、地方消費税率1.76%)
消費税の軽減税率とは、消費税増税によって10%となった商品の一部を据え置き8%に留め置く制度のことで、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」の譲渡に適用されます。
なお、8%のうち消費税率(6.3%→6.24%)と地方消費税率(1.7%→1.76%)の割合が以前と異なるようになりました。
*軽減税率の適用対象は「消費税の軽減税率の適用対象」を参照ください。
5)簡易課税制度(消費税の簡易な計算方法)
簡易課税制度とは、中小事業者の納税事務負担を軽減するために、事業者の選択により、「課税期間の売上げに係る消費税額を基礎として仕入れに係る消費税額を算出することができる制度」のことです。
具体的には、この制度の適用者(課税事業者)は、その基準期間における課税売上高が5,000万円以下の課税期間について、売上げに係る消費税額に、事業区分に応じて定められた「みなし仕入率」を乗じて算出した金額を「仕入れに係る消費税額」として、売上げに係る消費税額から控除することになります。
従って、同制度による消費税額の計算式は以下の通りです。
消費税額=課税期間中の課税売上げに係る消費税額-(課税期間中の課税売上げに係る消費税額×みなし仕入率)
同制度が利用できる事業者等とは、納税地の所轄税務署長に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出した課税事業者で、その基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の者になります。
*基準期間の課税売上高が5,000万円超の場合、その課税期間については、簡易課税制度は適用されません。
簡易課税制度を適用するときの事業区分及びみなし仕入率は、下表の通りです。
事業区分 | みなし仕入率 |
---|---|
第1種事業 卸売業 | 90% |
第2種事業 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業) | 80% |
第3種事業 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業 | 70% |
第4種事業 第1・2・3・5・6種事業以外の事業 | 60% |
第5種事業 運輸通信業、金融業及び保険業、サービス業(飲食店業を除く) | 50% |
第6種事業 不動産業 | 40% |
なお、複数の事業を営んでいる場合、特殊なケースがある場合などは、それに応じた計算式が別途用意されています。
インボイス制度が施行された場合でも、この簡易課税制度を利用することは可能です。つまり、免税事業者がインボイス登録事業者になる場合、簡易課税制度の適用を選択するという検討も重要になります。
1-1 仕入税額控除とは
消費税の最大の特徴である「仕入額控除」は、事業者におけるインボイス登録の判断で重要となるため、事業者はその内容を理解しておかねばなりません。
1)仕入税額控除の概要
仕入税額控除とは、「課税事業者が消費税の納付額を計算する際に、売上にかかる消費税から、仕入れにかかる消費税を差し引くこと」を指します。
事業者が国内で商品・サービスの販売・提供などを行う際、その大部分において消費税が課税されます。消費税制は課税期間中に自社が売上げた時に預かった消費税(売上税額)と自社が仕入れた時に支払った消費税(仕入税額)の差額を納付するシステムになっており、この仕組みが「仕入税額控除」と呼ばれています。
なお、インボイス制度が施行された場合、仕入税額控除を受けるためには、一定の事項を記載した帳簿とインボイスの保存が必要です。
2)仕入税額控除の具体例
例として、材料を仕入れてX製品を製造し、小売業者T社にそれを販売するA社(製造業者)を取り上げ、仕入税額控除の仕組を説明しましょう。
A社(製造業)の事業の流れは以下の通りです。
- ・材料業者S社から材料を仕入価格7000円、消費税額700円の計7700で仕入れる
↓ - ・A社は仕入れた材料でX製品を製造し小売業者T社へ販売価格10000円、消費税額1000円で販売する
↓ - ・T社は消費者にX製品を販売価格13000円、消費税1300円で販売する
●A社が納付する消費税額の計算
A社が納付する消費税額は[課税売上の消費税額-課税仕入の消費税額]となることから、以下のように計算されます。
A社が仕入税額控除を行う場合の納付消費税額は、[1000円-700円=]300円となるわけです。A社の仕入にかかる消費税はS社に支払うため、売上で預かる(預かった)消費税額の1000円をそのまま納付すると2重の支払いが生じることになります。
このように累積していくと消費税額が過大になっていくことにもなるため、それを防止する仕組として仕入税額控除が導入されています。
1-2 消費税の課税事業者と免税事業者
消費税の免税事業者とは、消費税の納付義務を免除される事業者のことです。一方、消費税の納付義務を有する事業者は課税事業者と言います。
課税事業者の消費税の基本的な扱いとして、上記で示した仕入額控除を使用した方法が通常採用されています。一方、免税事業者も消費税を上乗せ請求することが可能です。
消費税法等において、免税事業者が消費税を請求することを禁ずる旨の記載はありません。また、免税事業者も消費税を上乗せして請求しなければ、仕入れ時に支払った消費税を自社で負担することになります。こうしたことから、免税事業者が消費税を請求することは問題がないとされています。
例えば、免税事業者である小売業者のG社が仕入価格1000円、消費税額100円(計1100円)で仕入れた商品をQ社に販売価格1500円、消費税額150円(計1650円)で販売することができます。
この場合、G社は仕入で100円の消費税を支払っていますが、販売の際の消費税150円について、全額を納付する必要がありません。仕入額控除を採用している場合は、150円-100円=50円の納付義務があるわけですが、免税事業者はその必要がなく、預かった消費税150円を収益として処理できます。
なお、免税事業者の消費税の処理は税込経理方式で行われ、取引上発生した消費税額は、収入に加えることになります。また、費用の支出や資産の取得は各々の価額に算入します。つまり、消費税の金額は気にせずに、その総額で処理(仕訳)することになります。
例えば、G社が免税事業者の場合は以下のように処理します。
●仕入
材料仕入 1100円/現金 1100円
●売上
現金 1650円/売上 1650円
2 インボイス制度の概要と取引での影響
売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝達する請求書・納品書が「インボイス(適格請求書)」です。この制度が社団法人を含む事業者にどう影響するのかについて見ていきましょう。
2-1 インボイスとは
商品・サービスの売買においては、消費税が発生するため売手は買手に消費税を含めた請求書(区分記載請求書*)や納品書を発行する形式が取られてきました。ところが、令和5年10月1日から、これらの請求書等に「(インボイス発行事業者の)登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が必要となるインボイス制度が施行されることになりました。
従来の区分記載請求書の記載内容は、「発行側の企業名や氏名」「取引年月日」「内訳」「金額」「宛名」「軽減税率対象商品の旨」「税率ごとに対価した額」の項目を含むものですが、インボイス制度では「上記の項目+登録番号+適用税率+税率ごとに区分した消費税額等」の記載が必要になります。
なお、顧客が不特定多数である小売業、飲食店業、タクシー業等の場合は、正規のインボイスに代えて、簡易インボイス(記載事項が簡略化された「適格簡易請求書」)を発行することが可能です。
また、インボイスは、請求書、納品書、領収書、レシート、など各種のタイプの名称にかかわりなく、必要事項が記載されていれば認められます。
インボイス発行事業者として登録できる者は、消費税の課税事業者に限られます。つまり、社団法人を含む法人や個人事業主、フリーランスなどの事業形態に関係なく、免税事業者は登録できません。
1)インボイス制度の概要
インボイス制度では、売手のインボイス発行事業者は、買手の取引相手(課税事業者)からインボイスの発行を求められた場合、発行する義務があります(また、交付したインボイスの写しの保存も必要)。
なお、売手がインボイスを発行するためにはインボイス発行事業者としての登録が必要です。
また、買手は仕入税額控除*の適用を受けるために、原則として、売手のインボイス発行事業者から交付を受けたインボイスを保存しておかねばなりません。
具体的には、買手は自身が作成した仕入明細書等のうち、一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたものを保存することによって、仕入税額控除の適用を受けることができるのです。
2)インボイス制度の開始時期と登録手続
インボイス制度は、令和5年10月1日からの開始が予定されています。この制度の開始に向けて令和3年10月から、「適格請求書発行事業者の登録申請」が開始されました。
令和5年10月1日からインボイス発行事業者として、インボイスを発行できるようにするためには、令和5年9月30日までに申請する必要があります(令和5年10月1日を登録開始日として登録される)。当初、令和5年3月31日までに登録申請書を提出する必要がありましたが、上記の期日に変更されました。
なお、インボイスを発行できる「適格請求書発行事業者」になるためには、所轄の税務署に登録申請書を提出しなければなりません(e-Taxシステムからの申請も可)。
この申請の際に、別途「消費税課税事業者選択届」を提出する必要はないですが、登録されれば免税事業者でも課税事業者になる点は注意しておきましょう。
現在のインボイス発行事業者の登録状況については、令和5年2月末現在で2,414,643件の登録です。登録申請書の処理期間(登録申請書を提出されてから登録通知までの期間)は、e-Tax提出の場合は約3週間、書面提出の場合が約2カ月かかっています。
自社がインボイスを発行できる状態となるのは、登録通知を受けた後になるため、こうした登録申請書の処理期間も考慮して申請時期を考えねばなりません。
3)インボイス制度がもたらす事業者への主な影響
インボイス制度が施行されることにより、社団法人を含む事業者には以下のような影響が及ぶ可能性が高いです。
(1)会計処理や請求書手続等の変更
インボイス発行(登録)事業者になる場合、自社の会計業務においてインボイスの発行に対応した消費税等の計算・処理が可能な会計ソフトやシステムを整備する必要性に迫られます。
例えば、これまで発行していた請求書、納品やレシート等に登録番号などの必要な記載項目を加えた、新たな様式への変更が必要です。もちろん、インボイス制度に対応できる会計処理や税務処理ができるシステムを整備しなくてはなりません。
システムの変更や導入に伴い一定の費用が必要となるほか、その対応が遅れれば、システムによる処理ができず会計・税務処理業務に支障をきたしたり、作業に大きな負担が生じたりする恐れがでてきます。
(2)インボイス発行事業者とならない場合の影響
インボイス発行事業者でない免税事業者が、BtoB(事業者対事業者)のビジネスにおいて顧客等に商品等を販売した場合、インボイスを発行できないため、そのことで顧客等の消費税額に影響が及び、今後の顧客等との取引に悪影響が及びかねません。
インボイス制度が施行されることにより、それに対応する消費税はインボイスによって処理されることになります。例えば、買手であるT社がインボイス登録事業者の場合、仕入額控除を行うために売手のS社にインボイスを求めることになるでしょう。
しかし、S社がインボイス登録事業者でない場合、消費税の処理が変わってしまいます。具体的にはT社はS社からインボイスがもらえないため、仕入税額控除を行うことができません。
つまり、T社が課税売上高に伴う消費税額から、差し引きたいS社からの仕入に伴う消費税額がゼロとなり、納付する消費税額が多くなって損することになるのです。
以上の消費税の仕入税額控除にかかる影響を具体例で示しましょう。
●売手のS社がインボイス発行事業者である場合の買手のT社の処理と結果
*消費税は10%で計算
・S社(売手側)
売上:11000円
消費税:1000円
消費税納付額:1000円
仕入額:7000円
消費税:700円
・T社(買手側)
売上:13000円
消費税:1300円
仕入額(S社から仕入):11000円
消費税:1000円
T社(買手側)の消費税納付額:1300円-1000円=300円
S社の顧客(買手)であるT社は、S社のインボイスにより「仕入税額控除」を行い、その結果、消費税納付額は300円になります。
●S社が免税事業者でインボイスを発行できない場合の買手のT社の処理と結果(影響)
・T社(買手側)
売上:13000円
消費税:1300円
仕入額:11000円(S社が免税事業者の場合は消費税込みの金額で請求される)
消費税:0円
S社がインボイス発行事業者でないことから、インボイスが取得できないため、T社は仕入税額控除が行えず仕入の消費税を差し引くことができません。従って、T社の消費税納付額は、1300円-0円=1300円 と多くなります。
このようにS社がインボイス登録事業者でない場合、買手であるT社にはこの損を補うのための動機が生じ、何らかの対応を取る可能性が高くなるのです。
例えば、S社に対して、「消費税分を差し引いた額で請求するように依頼する」(法的な問題が生じる可能性あり)、「インボイス登録事業者になるように依頼する」、「取引をやめる、縮小する」などの行動が予想されます。
このようにインボイス制度の施行により商品・サービスに関する事業者間の取引において影響が生じかねないのです。
4)インボイス制度の経過措置
インボイス制度による事業者への影響が大きいため、下記のような「免税事業者からの仕入れに係る経過措置」が設けられています。具体的な内容は、特定の期間についての免税事業者からの仕入れについて、各々一定の仕入税額控除が可能となる、というものです。
- ・令和5年10月1日から令和8年9月30日までは仕入税額相当額の80%
- ・令和8年10月1日から令和11年9月30日までは仕入税額相当額の50%
なお、この経過措置の適用を受ける場合、必要事項が記載された帳簿及び請求書等の保存が必要となります。
この経過措置により、上記期間において、買手は、売手が免税事業者の場合でも仕入税額相当額の一定割合の控除が可能となって仕入税額控除ができるため、損失を軽減することが可能です。そのため、買手が売手に対してインボイスの発行や値引き等についての圧力が緩和されることが期待されます。
2-2 社団法人にとってのインボイス制度
ここでは社団法人にとってのインボイス制度の影響度を概観しましょう。なお、ここでいう社団法人とは、公益法人、公益財団法人、一般社団法人と一般財団法人の4法人のことです。
これらの社団法人においては、公益目的事業以外に収益事業を行うことも可能であるため、商品・サービスの売買において消費税が発生した場合、法に基づき処理・納税しなくてはなりません。
しかし、上記で確認した通り、社団法人がインボイス登録事業者でない免税事業者のままである場合、一般の企業と同様に顧客等の取引先に影響を及ぼすことになります。例えば、その社団法人との取引でインボイスを受領できない買手の顧客等は仕入税額控除ができず、納付税額が多くなるはずです。
その結果、社団法人がインボイスを発行できない免税事業者のままであると、インボイスの登録要請や取引の停止などの圧力に晒されることになりかねません。
公益法人・公益財団法人においては、主要な収入が消費税の対象外取引の会費収入、国等からの補助金・助成金の収入、非課税の介護保険事業収入や障害福祉サービス事業収入、などであることが多いことから、基準期間の課税売上高が1,000万円以下である消費税の免税事業者となっているケースが多いです。
一方で、消費税の対象取引となる収益事業を行っている法人も少なくありません。前者はインボイスを要求される可能性は低いですが、後者は要求される可能性が十分にあります。そのため前者はインボイス制度の影響が小さく、後者は大きくなる可能性が高いです。
こうした影響度の違いは各々の社団法人の状況によって異なるため、登録事業者になる、ならない、などについては税理士等と相談して適切に判断することが求められます。
3 インボイス制度の影響と対応によるメリットとデメリット
事業者がインボイス制度にどう対応するかで、影響の受け方が異なることもあるため、その点から生じるメリットとデメリットを日本商工会議所の「中小企業・小規模事業者のためのインボイス制度対策[第2版]」をもとに説明しましょう。
また、業種による影響の受け方の違いについても紹介します。
3-1 免税事業者と課税事業者の各々の影響
両者の取る選択でインボイス制度による影響が以下のように異なってきます。
1)免税事業者が取る選択肢に伴うメリット・デメリット
免税事業者がインボイス制度で取り得る主な選択肢は、(1)「課税事業者になりインボイス登録事業者になる」か、(2)「免税事業者を継続する」かの2つです。両者についてのメリットとデメリットを説明しましょう。
(1)課税事業者になり、インボイス登録事業者にもなる場合
●メリット
・販売先(買手)は仕入税額控除が可能となるため、取引への影響が及ばない
自社が免税事業者から課税事業者及びインボイス登録事業者なれば、販売先にインボイスが発行できるため、販売先は仕入額控除が可能となり、消費税納付額で余分な負担をすることはありません。そのため今後の取引において消費税に関する影響が及ぶことはなく取引は維持されるでしょう。
●デメリット
・消費税の会計処理及び納税事務等の負担が増大する
免税事業者は、商品等の売買に関して、税抜金額と消費税額を合わせた税込金額で仕訳に起こす「税込経理方式」で会計処理するため、「消費税」そのものによる処理が必要ありません。また、免税事業者であることから受け取った消費税の申告は免除され納付しないです。
インボイス登録事業者になれば、課税事業者としての適正な会計処理及び申告手続等の業務が発生します。課税事業者の場合、税込経理方式と、消費税を別建てで仕訳を起こす「税抜経理方式」のどちらの処理も可能です。
ただし、課税事業者の場合、消費税の処理及び納税事務のために、「どの支出にいくらの消費税がかかっているのか」の把握が必要となることから、納税しなければならない消費税の金額を把握できる税抜経理方式が適しています。
従って、免税事業者が課税事業者になれば、会計処理を税抜経理方式に変更することとなるほか、インボイス制度の処理に対応できる会計ソフトやシステムが必要となるのです。
・消費税分を販売価格に転嫁できない場合は収益が減少する
免税事業者は消費税の納付が免除されるため、販売先に請求し受け取った消費税分は収益となりますが、インボイス登録事業者なれば消費税を納付する義務が生じて以前のように収益にできません。従って、その収益分を販売価格に転嫁できなければ収益が減少することになるわけです。
しかし、この消費税分は納付が免除されているものであって、販売先が補填する筋のものとも言えません。そのため販売先がその消費税分を販売価格に転嫁することを認める可能性は低いです。
その利益の減少により自社の事業継続に問題が生じかねない場合であっても、自社に代替が困難な独自性等がない限り、認めてもらうことは容易ではないでしょう。
(2)免税事業者のままでいる場合
インボイス登録事業者にならないで、免税事業者であり続ける場合のメリット・デメリットは以下の通りです。
●メリット
・消費税の申告及び納付が不要
免税事業者である場合、今まで通り消費税の会計処理は行わなくてよく(税込み方式でOK)、消費税の計算・申告・納付は必要ありません。従って、インボイス登録事業者になった場合の、そうした手続・作業や会計ソフト等の導入も不要です。
また、なった場合に生じ得る消費税納付分の収益の減少を被ることもありません。
●デメリット
・販売先からの取引の見直しの可能性
インボイスを発行できない免税事業者との取引では、買手は仕入税額控除ができないため、消費税の納税負担が増すことになることから自社との取引が見直される可能性が生じます。インボイスを発行することが不可である場合、消費税分の値引き要請や取引の停止などに直面する可能性は低くありません。
(3)インボイス登録事業者になるかどうかの判断
インボイス登録事業者になるかの判断は、どのような販売先(買手・顧客)を対象とするビジネスかでも異なります。例えば、販売先が一般消費者だけである場合、消費者には仕入税額控除は関係ないため、自社はインボイス登録事業者にならなくても影響しません。
もちろん販売先が将来、消費者から事業者へと変わっていくと、その際にインボイスが求められることになり、その取引で影響が生じる可能性は高いです。また、自社のビジネスが消費者相手だと思っている場合でも事業者が存在することがあり、インボイス制度の施行に伴いインボイスを求める可能性はあるでしょう。
なお、販売先が事業者の場合であっても、その企業が免税事業者や簡易課税制度を適用している場合、インボイスが求められる可能性は低いはずです。
このように現在の自社のビジネス、販売先の現在及び将来の状況などを踏まえ、影響が大きければインボイス登録事業者へ、少なければしばらくは免税事業者のままで、という選択が候補になり得るでしょう。
2)課税事業者が取る選択肢に伴うメリット・デメリット
課税事業者が取り得る選択肢は、(3)「インボイス登録事業者になる」か(4)「インボイス登録事業者にならない」の2つです。
(4)「インボイス登録事業者になる」
●メリット
・取引への影響が低い
課税事業者がインボイス登録事業者になればインボイスを発行できるようになるため、販売先(買手)は仕入税額控除が可能となります。従って、売手である自社との取引に影響が及ぶ可能性は低く、以前のように取引は継続するでしょう。
●デメリット
・登録申請等の手間がかかる
課税事業者でもインボイス登録をする際には一定の手続が必要です。なお、e-Tax等を利用すれば税務署に行く必要はないですが、それを利用するためには一定の手続や作業は行わねばなりません(e-Tax等にかかる手続等の難易度は人によって異なる)。
・請求書の様式を変更する必要がある
インボイスの発行に伴い、自社の請求書をそれに対応したものへ変更しなければならないケースもあるはずです。つまり、インボイスの処理・発行が可能な会計ソフト等を導入したり、使用したりする、などの新たな手間とコストがかかります。
・インボイスを保存する
インボイスを発行する場合、その写しを保存しておく必要があります。細かく見ると、「適格請求書発行事業者には、交付した適格請求書の写し及び提供した適格請求書に係る電磁的記録の保存義務がある」とされているのです。
従って、インボイス発行事業者には法律に基づいた保存義務があり、そのルールに従って保存しなければならない、という管理面での手間も生じます。
(5)「インボイス発行事業者にならない」
●メリット
・登録申請等の手間が発生しない
登録申請等に伴う手続・作業の手間が生じません。従って、税務署への申請やe-Tax等の利用を考えなくて済みます。
・従来からの請求書でよい
課税事業者としてこれまで使用してきた請求書をそのまま続けて利用することになるため、会計ソフト等を変更して対応するという手間とコストをかける必要がありません。
・インボイスを保存する手間が生じない
インボイスを発行しないため、その保存にかかる手間も発生しないです。
●デメリット
・取引に影響が及ぶ可能性が生じる
買手は、自社がインボイスを発行しないことから、仕入税額控除ができなくなり消費税の納税負担が増します。そのため、買手は自社との取引のあり方を変更する動機が生じるわけです。
(6)インボイス登録事業者になるかどうかの判断
インボイス登録事業者になるかの判断では、免税事業者と同様に自社及び販売先の状況などを考慮することが求められます。先の内容と次の「3-2」の内容などを踏まえた検討が重要です。
3-2 業種によるインボイス制度の影響
インボイス制度の施行による各業種への影響を確認していきましょう。
1)影響の大きい業種
インボイス制度が大きく影響しそうな業種としては、飲食業や雑貨店等の小売業、その他フリーランスや個人事業主、などです。飲食業については、仕入にかかる税率が軽減税率8%と標準税率の10%のものがあるため、その税務処理が複雑化しやすく対応が簡単とはいえません(システム的な対応を含めて)。
また、飲食業をはじめ、個人事業主などの免税事業者との取引の多い小売業(雑貨店等)、骨董品店、絵画店などは、その分の消費税の納税負担が重くなる可能性が高いです。
企業を取引先とする文房具店や書店等の個人事業主や、デザイナーやプログラマーなどのフリーランスは免税事業者となっている場合が多いですが、そのまま免税事業者でいると、今後の取引先との関係で変化が生じる可能性は小さくないでしょう。
2)影響の小さい或は関係ない業種
(1)個人が利用するサービス業等
消費者をお客とする事業者は影響が小さく、インボイス登録事業者になる必要性は低いです。消費者などの個人が自分のために利用する商品・サービスについては事業の経費として処理せず(仕入額控除もしない)、インボイスを要求しないため、登録事業者になる必要性は乏しいと言えるでしょう。
具体的には、以下のような個人相手の業種です。
- ネイルサロン・エステサロン・美容院・理髪店
- 学習塾
- 音楽教室や英会話教室 等
- 居住用住宅の賃貸オーナー
- 青果店や肉屋 等
- 医療機関
(2)特殊な技術やノウハウを有する者
個人事業主やフリーランスでもあっても、他の者が保有していないような優れた技術力をもち、代替する存在がない場合は、免税事業者などであっても取引に影響が出る可能性は低いです。
彼らとの取引が自社の事業継続に重要であると買手が判断している場合、仕入税控除ができないことは二の次になり、あまり問題視されないでしょう。また、そのことで値引き要請をする可能性も高くないです。
(3)取引相手が免税事業者や簡易課税事業者
買手の取引先が免税事業者の場合、その企業には消費税の納付義務がないことから、売手にインボイスを求めることはないため影響は生じないでしょう。
また、買手が簡易課税制度を適用している場合、その企業はインボイスを保存しなくても仕入税額控除が可能であることから、通常インボイスの発行を求めません。従って、彼らとの取引での影響は小さいと考えられます。
4 社団法人のインボイス制度への対応
これまで確認してきた消費税やインボイス制度の内容、その事業者への影響や対応などを踏まえて、社団法人が考えたいインボイス制度への基本的な対応をここで見ていきましょう。
具体的には、社団法人の事業収入の観点から「インボイス登録事業者になるか、ならないか」について判断のポイントや基本的な対応の取り方、などです。なお、各社団法人の状況は各々異なるため、その点を考慮した上で検討してください。
4-1 事業収入がある社団法人の対応
事業収入による課税売上高の大きさによって、基本的な対応が以下のように分かれます。
1)課税売上高が1000万円超の社団法人
これに該当する社団法人は基本的にインボイス登録事業者になるのが妥当でしょう。課税売上高が1000万円超の社団法人は消費税の納税義務を有する課税事業者であるため、インボイス登録・発行事業者になることに伴う「課税事業者になるという最大のデメリット(取引上の影響)」は生じません。元々課税事業者であるからこのデメリットは関係ないわけです。
インボイスの発行等に伴う会計ソフトなどの変更・導入等に関するデメリットは生じますが、販売先等での仕入額控除は今まで通り可能であるため、取引上の影響を心配する必要はありません。
2)課税売上高が1000万円以下の社団法人
免税事業者となり得る「課税売上高が1000万円以下の社団法人」の「インボイス登録事業者になる」と「インボイス登録事業者にならない」のどちらかを選択する場合の基本的な対応を見ていきます。この場合の判断のポイントは、「相手にインボイスを発行する必要があるかどうか」です。
つまり、発行の必要があれば「登録事業者になる」の選択が有効であり、なければ「登録事業者にならない」の選択が有効となります。
●「登録事業者になる」のケース
今後、課税事業者となって消費税を相手に請求していく場合は、登録事業者になるのが妥当です。登録事業者だけがインボイスを発行することが可能であるため、登録は絶対条件になります。
●「登録事業者にならない」のケース
・販売先が事業者であっても消費税を請求しない場合
相手に消費税を請求しないのであれば、インボイスを発行する必要がないため、登録事業者にならなくてもよいでしょう。
ただし、今まで消費税を請求して、支払いを受けていた免税事業者である場合、「消費税を一切請求しないようにする」ことは、免税に伴って収益化していた分の喪失に繋がる、ということを考慮しなければなりません。
・販売相手が消費者である場合
販売相手が消費者である場合、インボイスの発行は求められないため、取引上の影響はなく登録事業者にならなくてもよいでしょう。
3)販売先が簡易課税制度を適用しているケース
販売先が消費税の簡易課税制度を適用している場合、インボイスを保存しなくても仕入税額控除ができるので、インボイスの発行を求めることは通常ありません。そのため自社と販売先との取引への影響は生じにくいことから、自社がインボイス登録事業者になる必要はないでしょう
4-2 事業収入がない社団法人の対応
これに該当する法人は、インボイス登録事業者になる必要性が低いです。例えば、収入が寄付、補助金・助成金などである場合、その提供するサービス等については、相手に消費税を請求する収入とならないため、相手からインボイスを要求されることはないでしょう。
従って、この社団法人はインボイス登録事業者にならなくてもその事業に大きな影響が及ぶ可能性は低いです。
なお、寄付、補助金・助成金は対価として支払われる収入でなく、不課税であることから、仕入税額控除の対象とならず消費税還付の計算から除外されます。
また、[寄附・補助金や会費などの対価性のない収入(特定収入)]の[課税売上+免税売上+非課税売上+特定収入]に占める割合(特定収入割合)が5%超のる社団法人は、「特定収入に係る仕入れ等の消費税額」について、「仕入税額控除」から差し引く(マイナスする)特例計算が適用されます。
従って、寄附・補助金等・会費の流入の多い社団法人は消費税還付がない・少ないことも多いため、自社がそれに該当する場合はその点を踏まえて登録の是非を考えることも必要です。
5 まとめ
社団法人は非営利目的の事業のほか、事業収入を得る活動も可能であるため、消費税とは無縁でなく、株式会社などのようにインボイス制度の施行に伴う影響が生じ得ます。
そのため社団法人においても、インボイス登録事業者になる・ならない、の判断が必要です。この判断では、インボイス制度の内容、法人への影響(メリット・デメリット等)やその法人の状況(事業内容、取引先、収入の内容等)などについて丁寧な吟味が求められます。
同制度の施行開始が同年10月1日で、次第に近づいていくため、それまでに税務の専門家などと相談してインボイス制度への対応を検討してください。