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消費増税の対応は十分か?新会社設立や経営への消費税改正の影響と対策

2019年10月1日より消費税が改正・増税され消費者並びに企業には少なからぬ影響が及ぶことになりました。この増税後の環境において起業し会社を設立していこうとする方にも様々な影響が生じるでしょう。事業内容によっては税務・会計上の負担増といった点だけでなく販売業務の複雑化によるコストの増大や売上の減少などの問題が生じる可能性も低くありません。そこで、今回は消費増税による会社設立や企業経営への影響や対策などについて説明します。消費税の制度変更の内容のほか、その変更・税率アップによる企業への影響、企業にとってのメリット・デメリット、増税の悪影響への対策などを解説する予定です。これから起業する予定だが消費増税の影響が不安でどうしようか迷っている方などは是非この記事を参考にしてください。

目次

1 企業や起業家に対する消費増税の影響

企業や起業家に対する消費増税の影響

2019年10月より実施された消費増税により企業やこれから会社設立を考えている方などにどのような影響が生じるのか説明していきましょう。

1-1 税務や会計などの業務での負担増やトラブル

消費税率の変更により税務や会計の面で企業には少なからぬ業務負担やトラブルなどが生じる可能性があります。

・軽減税率制度に伴う業務の混乱

A 経理業務

飲食料品など特定の品目は消費税を8%に軽減するという軽減税率制度が適用されることから企業の扱い品目には8%と10%の消費税が混在することになり、業務に混乱が生じる恐れがあります

複数の消費税率が生じる事業においては、販売や仕入の各々で標準税率と軽減税率ごとに分けて記録・処理しなければならず、請求書やレシートなども各税率に応じた発行及び保存が必要です。

また、品目によっては消費税率が8%のままとなるものであってもその内訳、すなわち消費税率と地方消費税率の割合が6.3%・1.7%の関係から6.24%・1.76%の関係へ変わるため注意が必要です。

なお、売上又は仕入を税率ごとに区分することが困難な中小事業者には売上税額又は仕入税額の計算の特例が設けられています。この特例を利用すれば、売上の一定割合を軽減税率の対象売上として売上税額が計算できるため、消費税の計算の負担が軽減されるでしょう。

他にはリース契約も注意しておくべきです。リース契約は税務上、「資産の譲渡」が行われたものと認識されるため、リースが開始された日の税率が適用されます。そのためリースの開始日が2019年9月30日以前になっている場合、消費税率改正後の10月になっても税率は8%が適用されるのです。

リース契約の税率適用基準

リースのサービスを提供する側はこの点を認識しておかないと顧客に誤った請求をすることになり、リースを受ける側は余分な消費税を支払うことになるため両者ともに注意しておかねばなりません。

このように複数税率の存在によって経理処理は複雑になり負担が増加するとともに担当者が混乱して業務の生産性が低下する恐れがあるのです。

1-2 販売業務での混乱やミスの増加

複数税率の存在は販売業務にも負担と混乱を招く恐れがあります。今回の増税で軽減税率が対象となる品目は食品表示法で規定される食品と新聞ですが、これらの中でも対象外となるものが存在し複雑です。

たとえば、食品は酒類、外食やケータリングなどが対象外になり、新聞では週2回以上の定期購読以外で買うものは対象外になります。このように販売する物によって、販売する形態によって税率が変わってくるため注意が必要です。

特に販売業務で混乱しやすいのは、飲食料品の店内飲食と持ち帰りの見極めになるでしょう。店内で飲食できるスペースを有する場合、顧客に持ち帰りか店内飲食かを確認して精算する必要があり手間もかかります。

顧客に確認できたとしてもそれを清算時に正しく処理しないと顧客に迷惑をかけたり自社が損したりすることになりかねません。

1-3 消費の低迷による業績の落ち込み

消費増税により消費者には購入に際しての金銭的な負担が増大するため、当然消費行動の抑制が懸念されます。

株式会社博報堂のシンクタンク博報堂生活総合研究所では、次月の消費動向を予想する「来月の消費予報」を発表しています。20歳から69歳の男女1,500人を対象として、彼らの「来月の消費意欲」を点数化するなどにより消費の先行きについての調査が実施されているのです。

この調査では、「消費意欲が最高に高まった状態を100点とすると、来月の消費意欲は何点か」といった質問がありますが、10月の消費意欲指数は41.9点で前月比-7.8ポイント、前年比では-4.6ポイントと大きく低下しました。この指数の結果は歴代ワースト3位にあたるもので、いかに消費増税の影響が大きいかが窺えます

また、消費意欲指数の理由の点では、「増税があるので消費意欲が高まらない、控えたい」という点が前月から増大しています(2019年9月が34件だったが、 2019年10月は530件へ)。一方、「ポイント還元や軽減税率を利用したい」という回答は23件と少ないことから消費の落ち込みが予想されるのです。

さらに秋期ならではの季節要因である「季節の変わり目の買い物をしたい」「旅行の予定がある」などの消費意欲に関しても、2018年10月が132件 のところ2019年10月 は59件と前年同月を大きく下回っています

消費意欲の調査結果

以上の内容から10月の消費については落ち込む可能性が高いと推察されますが、11月以降での影響も不安視されるところです。

1-4 キャッシュレス・ポイント還元事業の影響

①キャッシュレス・ポイント還元事業への対応で売上の落ち込みをカバー

国は消費増税による消費の落ち込みを防ぐ対策として「キャッシュレス・ポイント還元事業」を推進しており、関係する企業においてはこの制度の活用が求められます。

キャッシュレス・消費者還元事業とは、「2019年10月1日の消費税率引上げに伴い、需要平準化対策として、キャッシュレス対応による生産性向上や消費者の利便性向上の観点も含め、消費税率引上げ後の一定期間に限り、中小・小規模事業者によるキャッシュレス手段を使ったポイント還元等を支援する事業」のことです。

この事業によって消費者は、2019年10月1日から2020年6月末まで、対象店舗で、登録されたキャッシュレス決済で支払うと最大5%のポイント還元が受けられます。つまり、消費者にとっては増税される分以上の還元もあるため、消費の落ち込みを防ぐ効果が期待できるわけです。

しかし、企業がこの制度に対応できる体制にしておかない場合、消費者にそのメリットを提供することができず、顧客を失う恐れが生じてしまいます。つまり、この制度は企業にとって消費の落ち込みを食い止め業績を維持する手段になり得ますが、対応しなければ増税の影響をそのまま受け業績の低下を招く危険性があるのです。

②キャッシュレス対応の手数料負担増

上記のキャッシュレス・ポイント還元事業に対応することで消費の落ち込みを防ぐことも可能ですが、それに参加する中小企業等にはキャッシュレス決済での手数料負担が生じます。

消費者にとってはキャッシュレスで支払いができてポイントももらえるため、便利でお得なサービスとなるわけですが、キャッシュレス決済にはそのサービスを提供する事業者へ手数料が発生するのです。

1回の顧客の支払いに3%(上記事業に参加の場合は軽減される)といった手数料が生じることになるわけですが、それを販売価格に上乗せすることは困難であるため、そのコストは製品・サービスを提供する中小企業が負担せざるを得ません。

厳しい利益を確保しながら経営する中小企業にとっては負担の大きい手数料として経営を圧迫しかねないため、販売量の増加やコストダウンなどに取り組む必要があります。

1-5 中小企業にとっての消費増税特有の影響

経営資源が脆弱な中小企業の場合、消費増税の影響は大企業より大きくなる可能性があります。その代表的な影響は、増税前の駆け込み需要の反動が増税直後から生じやすくなる点です。

どの企業においても増税前に需要を先取りする形で販売量が伸びるため、増税後の販売量は減少しやすくなるでしょう。しかし、大手企業はその資本力や経営資源の豊かさを背景に大々的なプロモーション活動を行い販売量の減少を抑えることも可能です。

一方、経営資源が限られる中小企業の場合は、大企業のようなプロモーション活動などを実施するのは困難であり、需要の落ち込みをカバーするのは容易ではありません

また、大手企業をはじめ増税による価格上昇を抑えるために価格の据え置きなど実質的な値下げを実施する企業も少なからず見られるでしょうが、コスト競争力の弱い中小企業にはその対応は困難です。

他には大企業に自社の製品・サービスを納入する中小企業等において、納入先から増税分の値引きを要求される可能性も決して低くありません。いわゆる「買いたたき」は「価格転嫁を拒否する業者を取り締まる特別措置法」によって制限を受けますが、それでも値引き圧力は少なからず生じるでしょう。

値引きを拒否すれば仕事を失いかねない中小企業等にとっては増税分を肩代わりする事態に陥る可能性が決して小さくないのです。

2 消費税制度の改正内容と消費の下支え策

消費税制度の改正内容と消費の下支え策

今回の消費税の改正では軽減税率が導入されることから単に税率の変更に留まらず、請求書や領収書など経理処理の方法・記載の仕方などにおいて大幅な変更が余儀なくされることとなりました。

ここではこうした消費増税の制度変更の内容と落ち込みそうな消費を下支えする国の施策について説明していきます。

2-1 2019年10月からの消費増税の中身

①消費税率の変更と軽減税率の内容

国税庁がホームページで提供している資料等によると、軽減税率8%の適用を受ける対象品目は飲食料品と新聞の一部です。

軽減税率が対象となる飲食料品は、食品表示法に規定する食品(酒類を除く)であり、一定の一体資産も含まれます。なお、外食やケータリング等は、軽減税率の対象品目には該当しません医薬品や医薬部外品、水道水などは、食品表示法に規定する「食品」に該当しないため、標準税率の10%の対象となります。

このように軽減税率に該当する飲食料品の中には簡単に判別しにくいものもあるため、迷う場合は国税庁等の資料で確認したり税理士等に相談したりするようにしましょう。

軽減税率の対象飲食品の範囲

(引用:よくわかる消費税軽減税率制度

また、対象となる新聞は、「一定の題号を用い、政治、経済、社会、文化等に関する一般社会的事実を掲載する週2回以上発行されるもので、定期購読契約に基づくもの」とされています。つまり、駅の売店などで購入する日刊紙などは対象外です。

軽減税率8%と標準税率10%になる商品が存在することになるため、企業では各々に区分した経理処理が必要になります。万が一まだ準備ができていない会社や会社設立前の起業家の方などは早急に対応できるよう進めなければなりません。

対応せず放置しておくと後日の修正処理の作業が膨大になり大きな業務負担になりかねないため早急に準備を進めましょう。

・(準備ができていない)課税事業者の場合の必要な対応

対象者:
A 軽減税率対象品目の売上・仕入(経費)の両方がある課税事業者
例) 飲食料品を取り扱う小売・卸売業(スーパーマーケット、青果店等)、飲食業(レストラン等)
⇒対応は下記1)、2)や3)の内容を確認して行う
B 軽減税率対象品目の仕入(経費)のみある課税事業者
例) 会議費や交際費として飲食料品を購入する場合等
⇒対応は下記2)や3)の内容を確認して行う

対応

  1. 1)複数税率に対応した請求書等(区分記載請求書等)の交付が必要です。
    ※ 必要に応じて複数税率に対応したレジ等を導入・改修する必要がある
  2. 2)売上や仕入を税率ごとに区分した経理(区分経理)が求められます。
  3. 3)区分経理に基づき、申告時に税額計算しなければなりません。

・(準備ができていない)免税事業者の場合の必要な対応

対象者:
課税事業者に飲食料品等を販売する免税事業者
対応
課税事業者から区分記載請求書等の交付を求められる場合があり、その対応が必要です。
なお、課税事業者が免税事業者から仕入する場合に仕入税額控除を行うためには区分記載請求書等の保存が必要です。

②消費税率及び地方消費税率の変更(引上げ)の内訳

今回の改正により消費税率は下記のように変更されます。

改正前 改正後・通常 改正後・軽減税率
消 費 税 率 6.3% 7.8% 6.24%
地方消費税率 1.7%(消費税額の17/63) 2.2%(消費税額の22/78) 1.76%(消費税額の22/78)
トータル 8% 10% 8%

上表の通り、改正後の軽減税率は改正前と同じ8%ですが、地方消費税率等の割合が異なっているため注意しておくべきです。

2019 年10 月1日前後の消費税率等の適用について
「2019年施行日の前日までに締結した契約に基づき行われる資産の譲渡等及び課税仕入等であっても、2019 年施行日以後に行われるものは、経過措置が適用されるものを除き、当該資産の譲渡等及び課税仕入等について、新税率が適用される」こととなります。

③消費税の経過措置

消費税改正の2019年施行日以後に「事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入であっても、経過措置が適用されるものについては、旧税率(8%)が適用」されます。

消費税が変更されることになっても、既存の取引の枠組み(契約の締結と実際の引き渡し、消費時期のズレ等)において変更が難しいケースも少なくありません。そのため国は、「原則を厳格に適用することが明らかに困難と認められる取引」について経過措置を取るようにし、その場合に旧税率8%が適用されるようにしたのです。

国税庁が定めている「経過措置」の要件は様々ですが、適用されれば10月以降の一定期間は税率8%が適用されます。国税庁の「消費税率等に関する経過措置」の案内よると経過措置に該当する例は以下の通りです。その場合旧税率が適用されます。

A 旅客運賃等

「2019年施行日以後に行う旅客運送の対価や映画・演劇を催す場所、競馬場、競輪場、美術館、遊園地等への入場料金等のうち、2014年施行日(2014年4月1日)から2019年施行日の前日までの間に領収しているもの」について旧税率が適用されます。

B 電気料金等

「継続供給契約に基づき、2019年施行日前から継続して供給している電気、ガス、水道、電話、灯油に係る料金等で、2019年施行日から同年10月31日までの間に料金の支払を受ける権利が確定するもの」

C 請負工事等

「2014年指定日(2013年10月1日)から2019年指定日(2019年4月1日)の前日までに締結した工事(製造を含む)に係る請負契約(一定要件に該当する測量、設計及びソフトウェアの開発等に係る請負契約を含む)に基づき、2019年施行日以後に課税資産の譲渡等を行う場合における、当該課税資産の譲渡等」

D 資産の貸付け

「2014年指定日から2019年指定日の前日までの間に締結した資産の貸付けに係る契約に基づき、2019年施行日前から同日以後引き続き貸付けを行っている場合(一定の要件に該当するものに限る)における、2019年施行日以後に行う当該資産の貸付け」

E 指定役務の提供

「2014年指定日か2019年指定日の前日までの間に締結した役務の提供に係る契約で当該契約の性質上役務の提供の時期をあらかじめ定めることができないもので、当該役務の提供に先立って対価の全部又は一部が分割で支払われる契約(割賦販売法に規定する前払式特定取引に係る契約のうち、指定役務の提供※に係るものをいう)に基づき、2019年施行日以後に当該役務の提供を行う場合において、当該役務の内容が一定の要件に該当する役務の提供」

※「指定役務の提供」とは、冠婚葬祭のための施設の提供その他の便益の提供に 係る役務の提供をいう

上記のほかにも「予約販売に係る書籍等」「特定新聞」「通信販売」「有料老人ホーム」「特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)に規定する再商品化等」「リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例を受ける場合における税率等に関する経過措置」が定められています。

なお、経過措置の各規定により、旧税率(8%)が適用される2019年施行日以後に事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れについては、必ず経過措置を適用しなければなりません。たとえば、電気料金等の税率等に関する経過措置の適用を受ける電気料金は、新税率10%で仕入税額控除を行えないことになっています。

2-2 キャッシュレス・ポイント還元事業

キャッシュレス・ポイント還元事業(キャッシュレス・消費者還元事業)は、増税後の需要の平準化対策と、キャッシュレス対応による中小企業等の生産性向上策として消費税率引上げ後の9か月間行う国の支援策です。

本施策により、消費税の引き上げに伴う消費の落ち込みの回避、消費者におけるャッシュレス決済化による買物時の利便性向上及びポイントの獲得、事業者の生産性の向上 などが期待されます。

第1章で説明したとおり、消費者だけでなく事業者にとっても本施策は大きな影響が及ぶため、経営者としては可能な対応を進めて行くべきです。

①消費者

キャッシュレス決済とは、「お札や小銭などの現金を使用せずにお金を払うこと」を意味し、そのキャッシュレス決済手段としては、「クレジットカード」「デビットカード」「電子マネー(プリペイド)」「スマート フォン決済」などが利用できます。

キャッシュレス・ポイント還元事業は、「2019年10月1日から2020年6月末まで、対象店舗において、登録されたキャッシュレス決済で支払いをすると、最大で5%のポイント還元を受けられる事業」のことです。

ポイント還元の対象となる店舗は登録されており、下記のマークが表示されている店舗に限られます。

キャッシュレスマーク

(引用:一般社団法人キャッシュレス推進協議会

当該事業の対象店舗では、店頭に上記のポスターが張られており、地図アプリホームページからも検索が可能です。 また、店舗等の還元率(5%か2%)や、対象決済手段もチェックできます。

なお、5%の還元率が対象となる主な店舗は、中小・小規模の店舗で街の八百屋、電気屋、衣料店、理容・美容店などです。

2%の還元率が対象となる主な店舗は、フランチャイズチェーン店舗、ガソリンスタンドなどになります。

また、アマゾンなどのECサイトに出店している上記の店舗もポイント還元の対象となります。

還元率が対象となる店舗

上記ホームページではスマホ等で利用できる「ポイント還元の公式アプリ」が配信されおり利用すると便利です。

②中小・小規模事業者

キャッシュレス・ポイント還元事業は、「消費税率引上げ後の消費喚起とキャッシュレス推進の観点から、10月1日からオリンピック・パラリンピック直前の2020年6月末までの9か月間実施される中小・小規模事業者向けの支援制度」としても位置付けられています。

当該事業で謳っている中小・小規模事業者にとってのメリットは以下の通りです。

  1. 1)消費者還元による集客力が向上
  2. 2)今なら端末導入に関して端末本体と設置費用などの負担なし(無料)
  3. 3)実質的な決済手数料が約2%台

当該施策の対象事業者は、中小・小規模店舗でありキャッシュレス化するに当たり、A 決済手数料補助(※)、B 端末補助(中小店の実質負担ゼロ)など支援が用意されているのです。また、C キャッシュレスで支払った消費者へのポイント還元の原資も国が負担することになっています。

※期間後の決済手数料水準を含め、決済事業者の提供プランが一覧化されている。中小・小規模店舗が、各決済事業者のプランを比較検討することも可能。

ポイント還元の支援内容は下表の通りです。

加盟店手数料 決済端末 ポイント還元
中小・小規模事業者 実質2.7%以下
(期間後の手数料は開示)
負担ゼロ
(1/3を決済事業者、残り2/3を国が補助)
5%
フランチャイズ店、ガソリンスタンド等 × × 2%

当該事業の制度の仕組みは、

  • ・当該事業の対象となり得る中小店舗等がキャッシュレス決済事業者を選択・契約し同事業者に当該事業に参加を申し込む⇒
  • ・キャッシュレス決済事業者は社内審査の後その申請店舗等について当該事業の登録申請を行う」⇒
  • ・登録後にキャッシュレス決済事業者は中小店舗等に端末などの決済手段や手数料補助の提供を行う
  • ・登録後消費者の利用に応じて中小店舗等が同事業者に手数料を支払う

といった内容になります。なお、店舗で買物をした消費者へのポイント還元はキャッシュレス決済事業者からになります。

以上の内容の通り、当該事業へ参加したい中小店舗等は、本事業の対象となり得るかを確認し、選択した決済事業者経由で参加を申込みます(登録申請してもらう)。登録完了後はその店舗に送られるてくるポスターやステッカーなどを店頭に掲示し、決済システム等が整備されれば準備は完了となるのです。

この加盟店登録は2020年4月末まで申請できるため、また参加していない店舗は急いで登録申請を進めましょう。登録後はその店舗情報(店舗名、住所、電話番号、還元率、対象決済手段等)について当該事業のホームページや地図アプリで確認できます。

対象となる中小・小規模事業者の主な条件は下図の通りです。

対象となる中小・小規模事業者の主な条件

上記を満たしていても、確定している(申告済みの)直近過去3年分の各年又は各事業年度の課税所得の年平均額が15億円を超える中小・小規模事業者は補助の対象外(租税特別措置法で本年4月から同様の措置が適用)。

(引用:キャッシュレス・消費者還元事業(中小・小規模事業者向け説明資料)

3 消費増税による企業のメリット・デメリット、有利・不利に分かれる業種

消費増税による企業のメリット・デメリット、有利・不利に分かれる業種

消費増税の企業への影響について、そのメリット・デメリットの内容や、業種による損得の違いなどを説明します。

3-1 消費増税による企業のメリット・デメリット

①メリット

・消費増税前の駆け込み需要

既に消費増税が開始されていますが、いくつかの業者では増税前の駆け込み需要を取り込めたはずです。実際の効果は増税前の8月、9月の業績で確認することになりますが、前年同期と比べ多少なりとも良い結果になったのではないでしょうか。

・販売単価の値上げ

業種や各企業の状況にもよりますが、人件費や物流費などの上昇があっても値上げを見送っていた企業でも今回の増税を機に販売単価を値上げするケースが予想されます。

しばらく続いてきた比較的良好な景気動向の中でもデフレ環境に慣れ親しんできた消費者に値上げを告げるのは容易ではないです。しかし、消費増税という値上げ要因があると、それ便乗した値上げがしやすくなるケースもあるでしょう。

簡単ではないですが、増税を上手く利用できれば収益の改善に繋がるかもしれません(失敗すると大きな痛手になり得る)。

・キャッシュレス化による生産性の向上とポイント還元による顧客の囲い込み

キャッシュレス・ポイント還元事業の登録加盟店になった場合、キャッシュレス決済に必要な機器等を無償で導入できるため、店舗での会計業務の効率化が期待できます。また、人手不足や従業員の業務負担も軽減されるでしょう。

加えて決済端末の導入で顧客には店の買物等でポイントを付与できるため、顧客にとっての自店の利用価値が向上できるはずです。また、キャッシュレス決済事業者への決済手数料は補助があるため通常よりも低い手数料になります。

さらに将来的にキャッシュレス決済により得た顧客データをメニューの開発や効果的なプロモーション活動などに活用し顧客の囲い込みを図ることも可能になっていくでしょう。

・軽減税率対象の商品等は売上増も期待できる

軽減税率対象の商品等の消費税率は旧来の8%のままで、加えてキャッシュレス決済によるポイント還元があります。これらの消費環境は消費者にとっては有利であり、ケースによっては増税前以上の売上増も期待できるはずです。

大幅な売上増は難しいですが、キャッシュレス・ポイント還元事業の期間においては当該事業自体がプロモーション活動になるため、業績を伸ばせるチャンスになり得るでしょう。登録店舗等では「この9か月間のポイント還元を使わないと損しますよ!」といった消費者へのアピールが重要です。

②デメリット

・駆け込み需要の反動による売上の落ち込み

消費税が5%から8%へ引き上げられ際、その増税後の需要の落ち込みが顕著に現れました。今回の増税でも前回ほどではないにしろ一定の反動が予想され、多少売上が落ち込むものと予想されています。

・軽減税率対象以外の商品等の売上の落ち込み

軽減税率対象以外の商品等では値上りの印象に伴う消費者の購入に対する抵抗感が強まるため、しばらくの間買い控えによる売上の落ち込みが懸念されます。

・免税事業における利益の減少

免税事業者、医療・介護サービス業や不動産賃貸業など売上に消費税がかからない事業の場合、増税により利益が減少する可能性があります。

消費税率8% 消費税率10%
売上(税抜き) 1000万円 1000万円
売上にかかる消費税 0円 0円
仕入経費(税抜き) 600万円 600万円
仕入経費の消費税額 8万円 60万円
利益 352万円 340万円

上表の通り10%への増税後の利益は増税前より12万円少ない340万円に減少してしまうのです。

なお、輸出企業も売上に消費税をかけることができないため、上記と同様に利益が減少します。ただし、輸出される商品の仕入等にかかった消費税は還付が受けられるため増税前後での利益額に変わりはありません(「輸出取引の免税」)。

デメリットと言える点は、仕入等で生じる消費税額がアップして一時的にキャッシュフローを悪化させる点です。支払消費税額が増え支払いが先行するため、特に資金繰りが厳しい状況などではキャッシュフローの状況を注視しなければなりません。

3-2 消費増税がプラス・マイナスに働く業種

ここで消費増税がどの業種でプラスに働き、マイナスに働くかを確認していきましょう。会社設立を考えている場合などは業種による有利・不利の点を確認しておくべきです。

消費増税がプラス・マイナスに働く業種

①プラスに働く業種

あまり多くはないですが、下記のような業種では増税がプラスに働く可能性があります。

A 商品やサービスが税制の変更や外部環境の変化によって需要が増大しやすい業種

文房具・事務用品等の製造販売、事務機器・精算機器等の製造販売、税理士や経営コンサルティング、情報システム・ソフト販売関連などの業種

B キャッシュレス決済ポイント還元事業により需要増が見込まれる業種

キャッシュレス決済事業者(カード会社等)、決済機器等の販売関連業種

C 自宅消費等に関連する業種

素材、中食、持ち帰り弁当、ラーメン・ピザの宅配等の販売関連業種

②マイナスに働く業種

下記のような業種では増税がマイナスに働く可能性があります。

D 全般的にマイナスの影響が出る可能性の高い業種

株式会社帝国データバンクが2019年7月に公表している「消費税率引き上げに対する企業の意識調査(2019 年)」で、「消費税率引き上げにより『マイナスの影響がある』割合~業界・従業員別~」の結果が示されています。

この結果では、小売業がダントツでトップ、次いで農林水産業、不動産業、卸売業、金融業、建設業などと続いています。従業員別では50人以下の中小・小規模企業が多いです。

消費税率引き上げによる企業活動への影響

消費税率引き上げにより「マイナスの影響がある」割合

消費税率引き上げにより「マイナスの影響がある」割合

E 増税後に駆け込み需要の反動が予想される業種

上記の帝国データバンクの調査によると、「既に駆け込み需要がある」業種としては、建設業がトップ、次いで不動産業、金融業が となっています。これらの業種や上記Dの業種ではマイナスの影響が強まるかもしれません。

F その他マイナスの影響が予想される業種

生活関連サービス業、娯楽業、運輸業・郵便業のほか、テレビ等の家電や乗用車など耐久消費財の製造販売業

4 消費増税後の企業の取るべき対応

消費増税後の企業の取るべき対応

消費増税により企業には様々な影響が生じるため、業務の変更や追加などの対応が求められます。ここではそうした対応の内容について説明していきましょう。

4-1 消費税率の改正に伴う業務の変更と実施

今回の消費税の改正では税率が2%アップするほか、消費税率・地方消費税率の割合の変更や軽減税率の導入もあるため、企業の業務には前回の変更時以上に大きな負担が生じる恐れがあります。

①適正な会計処理の実施

消費増税後に会社設立する場合には、今回の改正に対応した経理業務を行う必要がありますが、特に以下のような点は注意しておきましょう。

  • ・商材の価格設定(値付け)する場合、軽減税率の適用の有無・税率を確認の上実施する
  • ・仕入商材の税率の適否を確認の上処理する
  • ・請求書等における税率の不記載の商材について仕入先に問い合わせる
  • ・10%と8%の各税率で会計処理・記録を行う(各税率に分けた請求書・領収書の発行等も含む)
  • ・顧客からの自社商材等の税率に関する質問に対応する
  • ・納税の際、各消費税率に分けた計算で申告する
  • ・経過措置を受けるものやリース契約などを適正に処理する(リース契約などは契約書の内容を再確認する)

軽減税率が導入されましたが、これに該当する商材か否かの判断に迷うケースも少なくないと考えられます。その場合に確認せずに適当に処理してしまうと後日の訂正処理の業務負担が重くなるほか、顧客に迷惑をかけることになりかねないため随時確認した処置が不可欠です。

不明な点は税理士等の税務の専門家、国税庁の「消費税の軽減税率制度に関するQ&A」や日本商工会議所の「中小企業のための消費税軽減税率対策2018」などで確認しましょう。

②経理業務等の適正化・効率化

これから会社設立する企業を含め、今回の消費税改正の影響により経理業務などに混乱が生じる恐れがあるため、各企業では業務の適正化が求められます。たとえば、以下の点などに注意が必要です。

  • ・既存の取り扱う商材については10%と8%の各税率で分類しておく(リスト化して確認の時間や手間を少なくする)
  • ・会計処理を行う情報システム(ソフトやアウトプットデータ等を含む)が適正であるか税理士等などからチェックを受ける
  • ・新たな仕入商材や販売商材が生じる場合、正しい税率を確認する(必ず確認してリストに追加の上処理するという作業をルール化する)

*上記国税庁の資料などをもとに軽減税率に該当する商材を判別できる資料を作成しておきましょう。

なお、軽減税率に該当しないケースとしては、下記のモノが挙げ有れます。

生きている牛の販売、観賞用の熱帯魚、ペットフード、人の飲食に供されない「種もみ」、栽培用の植物や種、人の飲用以外の用途で販売される「水」、ドライアイス、廃棄用で譲渡される食品、酒税法に規定される酒類、飲食料品の譲渡に要する送料、コーヒー豆の焙煎等の加工、レストラン・屋台・セルフサービスの飲食店・社員食堂等が提供する料理(外食・役務の提供)など)

  • ・テイクアウト等及び店内飲食の両方で飲食料品を提供する飲食店等や、イートインスペースのある小売店等の事業者等は顧客の混乱を避けるために適正な価格表示に努める

*テイクアウト等及び店内飲食の両方の税込価格による表示方法
事業者の判断により、テイクアウト等及び店内飲食の両方で税込価格を表示することは可能です。なお、両方の税込価格に加えて税抜価格又は消費税額を併記した表示にすることもできます。

(具体例)外食事業者のメニュー表示

*中小企業庁「消費税の軽減税率制度の実施に伴う価格表示について」より

  • ・領収書や請求書などの入力作業を含む経理業務の負担が増大する場合には税理士等の外部の専門事業者を利用する(逆に現在専門事業者に委託していてコスト増になる場合、一部など社内での経理処理を検討する)
  • ・消費税改正直後の請求金額の変化に注意し、正確な金額で処理する(定額制の通信費や事務所等の家賃などは一定額で継続して請求されてきているため、改正後に請求金額の変化を見落して今までの価格で処理しないように注意する)

4-2 消費の落ち込みへの対応

増税によりある程度の消費の落ち込みが予想されることから各企業では当然その対応が求められます。ここではその対応について説明しましょう。

①キャッシュレス決済ポイント還元事業への対応

9カ月間という限られた期間ですが、本事業により消費者は最大5%のポイント還元が受けられるため、消費増税の影響は小さく抑えられる可能性があります。つまり、商品等を消費者に提供する事業者はこの事業に参加することで増税による消費の落ち込みを緩和できるのです。

これから会社設立し事業を開始する場合はもちろん、既に事業を行っている場合でも本事業に参加していなければ直ぐに申請することを検討しましょう。

また、キャッシュレス化に対応していくことで様々なメリットが得られますが、特に業務の効率化とプロモーション活動での利用が期待できます。

商品等の決済の際に現金の受取、お釣りの手渡しなどの作業がなくなりレジ業務の時間短縮が図れるため、店舗等でのオペレーションを見直しより効率的な業務を再構築するべきです。

また、キャッシュレス決済事業者からの協力を得られれば利用者情報を品揃え・価格設定・配送のほか従業員の配置・シフトなどに活用できるでしょう。このようにキャッシュレス化への対応を図ることでデータに基づく合理的な経営が可能になります。

②需要を引き出す取り組み

消費増税の消費におけるマイナスの雰囲気を払拭していくためには、消費者を購買へと惹きつける取組が重要になるはずです。

増税の暗い雰囲気を吹き飛ばしていくには、これまで以上に消費者を魅了する商品やサービスの提供とともにイベントなどのプロモーション活動も検討しなければなりません。

斬新な色・形状のデザインの採用、軽さ・柔軟さ・感触(肌ざわり等)・冷感性・保温性などの機能性の付加、耐熱性・耐薬品性・耐圧性・耐水性などの機能強化などの面からこれまでに見られない商品・サービスを開発し提供することが重要になります。

また、企画化された量産品やサービスを一律に提供する形態から顧客一人一人に提供するカスタマイズ形態の導入も検討するべきです。キャッシュレス化等で個人の属性や購買データを入手できる環境になれば、各顧客に応じた商品・サービスの提供は容易になります。また、キャンペーンなど各種のイベント情報や個別商品の案内なども顧客ごとに行っていくべきです。

4-3 節税するための手立て

消費増税は基本的に企業の直接的な負担にはならないですが、ケースによっては負担が増すこともあります。ここでは消費増税による税金の負担を軽減する、節税するための方法を紹介しましょう。

①会社設立で消費税の免除が可能

消費税には、「その課税期間に係る基準期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は、納税の義務が免除される」という特例があり、基準期間のない新設会社は消費税が免除されるのです。

ただし、適用される条件として、設立時の資本金は1,000万円未満になります(詳細は後述)。この場合設立2期目まで消費税は納税しなくて済みます。個人事業者で消費税の課税事業者であっても会社を設立した場合は上記の適用が受けられるのです。

しかし、会社設立後の最初の6カ月で売上高もしくは給与等の支払合計額が1,000万円を超えた場合、翌期からは免除されず支払うことになります。

なお、夫婦や兄弟などで異なった事業をしている会社を分割して、別会社を作る場合に別会社の売上高が1,000万円以下、資本金1,000万円未満であれば、消費税の免除特例が受けられるでしょう。

ただし、別会社にする目的や理由(独自性など)が明確かつ合理的でない場合などでは納税の逃れとみなされペナルティーが科せられかねないため慎重に行わねばなりません。

②設備投資による消費税の還付

会社設立時などで多額の設備投資を行う場合、支払消費税額が受取消費税額を上回りその差額の還付を受けられるケースがあります。

たとえば、売上高が500万円、仕入・経費額300万円、設備機械等が700万円の場合、消費税額は下記のようになるのです。

受取消費税額=500万円×10%=50万円
支払消費税額=(300万円+700万円)×10%=100万円
差額の消費税額=▲50万円

つまり、50万円の還付が受けられます。ただし、これには条件として課税事業者であることと「原則課税方式」を選択していることが必要です(「簡易課税方式」を選択している場合は不可)。

会社設立後からの売上高や設備投資額の大きさを考慮して課税事業者の選択を検討するようにしましょう(課税事業者を選択する場合には「消費税課税事業者選択届出書」の提出が必要)。

なお、赤字が継続する場合や売上消費税がかからない輸出業の場合も同様の還付が起こり得ます。

③外注化や人材派遣の活用で消費税の節税が可能

人件費は消費税の課税対象ではないため、従業員を人材派遣に切り替える、特定の部門をなくして外注化する、などの場合派遣や外注の事業者へ支払う消費税が発生します。

その結果、支払消費税額が多くなり納める消費税額が減少することになるのです。会社設立後の売上の少ない時期などでは人材採用を控えて業務の外注化や派遣社員を活用することで上記のメリットが得られることもあるでしょう。

5 資本金とは

資本金とは

資本金とは、会社を運営するために株主が出資する金銭を意味します。資本金は事業で必要な仕入れや設備購入、新規事業の立ち上げなど、会社を運営する上で必要な費用に使われます。

株主自ら出資するお金であるため、会社には資本金の返済義務や利息の支払い義務はありません。銀行や公的機関などから借りたお金とは違い返済する必要がないため、どれだけ資本金を保有していても資金繰りは悪化しません。

6 資本金を決定する上で最低限知っておくべきポイント

資本金を決定する上で最低限知っておくべきポイント

次に、資本金の額を決定する上で最低限知っておくべきポイントを3つご紹介します。ここでご紹介する最低限のポイントを知っておけば、後ほど紹介する資本金の決め方を理解しやすくなるでしょう。

資本金の額決定で知っておくべき3つのポイント

6-1 資本金は後から変更することも可能

会社設立時に決める資本金ですが、最初決めた資本金の額は後から変更することができます。資本金を増やす行為は「増資」、資本金を減らす行為は「減資」とそれぞれ呼ばれ、資本金の額を変更するには原則株主総会による承認を得る必要があります

なお資本金を増やすには、基本的には新しい株式を発行して、既存株主や新しい株主に購入してもらう必要があります。ただし増資を行うと、一株あたりの価値が薄まって、既存株主にとって不利益となる場合があります。増資を行う際には、既存株主の利益に十分配慮することが求められます。

加えて、増資よって経営陣の権限が弱くなる可能性がある点にも注意が必要です。くわしくは後述しますが、株式会社では持っている株式の割合によって行使できる権限が大きくなります。そのため、増資によって経営陣の持つ株式の割合が低下すると、重要な意思決定を行う権限を失う可能性が出てきます。

資本金の額は変更できるものの、上記のようにデメリットも存在します。会社設立時に資本金を決定する際には、今後しばらくは金額を変更しない前提で具体的な金額を決めると良いでしょう。

6-2 資本金は1円からでも株式会社を設立できる

一昔前までは、会社設立に際して資本金の下限が設定されていました。この制度により。株式会社は1,000万円、有限会社は300万円の資本金を準備しないと設立できない決まりでした。そのため、ある程度の資金力を持つ人物でないと、会社設立することはできませんでした。

しかし2006年に旧商法や旧有限会社法が統合されて会社法が施行された際に、この最低資本金制度が廃止されました。これにより現在は、資本金は1円からでも会社設立できるようになりました。十分な資金力がない人でも会社設立できるようになったため、以前と比べると起業のハードルははるかに下がったと言えるでしょう。

6-3 資本金は企業の規模を表す側面もある

資本金を決定する上で忘れてはいけないのが、資本金には企業の規模を表す側面がある点です。会社法の施行により1円から会社設立できるようになったものの、従来からの傾向として資本金が多い会社ほど事業の規模が大きいというイメージを持たれる傾向があります。

先ほどお伝えしたように、資本金は事業に必要な原材料や設備を購入したり、新規事業の立ち上げに用います。そのため、資本金が多いほど大規模なスケールで事業を行えることを意味します。近年はインターネットビジネスの普及などにともない、少ない資本金でも大きなビジネスを行いやすくなりました。とはいえ、従来からのイメージで業種に関係なく資本金が少ないと事業規模の小さい会社だとみなされる場合があります。

資本金の額を気にしない人の方が大多数とはいえ、場合によっては資本金の額が少ないことを理由に、会社設立後あらゆる場面で不利益を被る可能性があります。

会社設立する際には、資本金の額で信用度が変わる可能性がある点を頭の片隅に入れておくことをオススメします

7 会社設立時の資本金の決め方

会社設立時の資本金の決め方

ではいよいよ、本題の「会社設立時の資本金の決め方」の説明をしていきます。事前に断っておきますが、会社設立時の資本金の決め方に正解はありません。経営者自身の考え方や会社の状況、事業内容などにより最適な決め方を見つけることが大切です。

今回は数ある決め方の中でも、とくにオススメの5つをお伝えします。

7-1 会社設立後に必要な初期投資と運転資金を考慮する

もっともオススメなのは、会社設立後に必要な初期投資と運転資金を考慮した上で資本金を決める方法です。初期投資とは、事業を行う上で必要な設備や機械などを購入する費用です。一方で運転資金とは、商品の原材料を仕入れてから売り上げを得るまでの間に必要な資金を賄うお金を意味します。

商品を作って販売するにせよ仕入れて販売するにせよ、仕入れや製造を行ってから収益を得るまでには一定のタイムラグが発生します。収益を得るまでに資金が尽きてしまうと、それ以上事業を継続することができなくなります。

ですので、収益を得るまでの期間に必要な費用は資本金で補填しなくてはいけません。どのくらいの資本金が必要かは業種や事業規模によってまちまちですが、2ヶ月から半年ほどの運転資金を賄えるだけの金額を用意するのが無難です。

一定期間の運転資金に加えて、事業を始める上で必要な初期投資についても資本金でまかなえるようにしましょう。初期投資とある程度の運転資金を確保しておけば、会社設立後に資金繰りが苦しくなるリスクを低減できます。

7-2 税務面の負担から資本金の額を決める

二つ目にオススメする資本金の決め方は、税務面の負担から決める方法です。というのも、資本金の額が一定以上になると税金の負担が重くなるからです。

ご存知の方も多いでしょうが、会社設立後から数えて2期目までは原則消費税の納税を行う必要がありません。ただし資本金の額が1,000万円以上の会社を設立すると、最初から消費税の納税義務が課せられてしまいます。また消費税のみならず、法人地方税の均等割に関しても、資本金が1,000万円を超えると納税負担が重くなります。

会社設立してからしばらくは、十分な収益を得られないケースが大半です。十分な収益を得られないにも関わらず税金の負担が重いと、資金繰りが苦しくなるおそれがあります。少しでも資金面での負担を軽減したい方は、資本金を1,000万円未満に設定するのがオススメです。

7-3 許認可取得を踏まえて資本金の額を決定する

許認可が必要な業種で会社設立する場合には、許認可取得を踏まえて資本金の金額を決めなくてはいけません

なぜなら、一定以上の資本金がないと許認可を取得できない業種があるためです。たとえば有料職業紹介事業や建設業(一般)の許認可を得るためには、資本金が500万円以上必要になります。

資本金の要件を満たさなければ、その事業を行うことができません。会社設立した上で許認可の取得を要する事業を行いたい場合には、あらかじめ資本金の要件を確認しましょう。資本金の要件が定められている場合には、その要件を満たすように資本金の額を設定する必要があります。

7-4 融資の条件面を考慮して資本金を決める

会社経営をスムーズに進めるためには、自己資金のみならず他人資本も積極的に活用する必要があります。他人資本の調達先としては、知人や取引先、銀行、国の公的機関などさまざまです。

とくに国の公的機関から融資を受ける場合には、資本金の額に関する要件が設定されていることもあります。たとえば無担保・無保証で利用できる「新創業融資制度」では、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要になります。

明確に資本金の要件が設定されていなくても、資本金の金額は融資の実行可否の判断に影響を与えます。先ほどお伝えしたように、資本金の額が少ないと会社が倒産する可能性が高くなります。つまりお金を貸し出す側からすると返済してもらえないリスクが高いので、融資を断る可能性が高くなります。

資金調達を有利に進めたい方には、最低でも100万円以上の資本金を確保しておくことをオススメです。

7-5 信用面の観点から資本金を決める

最後にオススメする資本金の決め方は、信用面の観点から金額を決める方法です。この記事でも度々お伝えしていますが、資本金の金額は企業の体力を表すので、多いほど信用力が高くなります

信用力は資金調達のタイミングのみならず、取引先との商談や提携などの場面にも影響する可能性があります。あまりにも資本金が少なすぎると、取引や商談で不利になるかもしれません。とくに社歴の長い大手企業の場合、一定以上の資本金を持っていない相手とはまともに交渉しないケースもあります。

信用力はさまざまな場面に影響を及ぼすので、一定金額以上の資本金は確保しておいた方が良いでしょう。

8 複数人で会社設立する際の注意点

複数人で会社設立する際の注意点

会社設立を検討している方の中には、同僚や知人などと共同で会社を設立・運営したいと考えている人もいるでしょう。ただし複数人で会社設立する場合には、いくつか注意すべき点があります。

8-1 株式会社では持ち株比率が非常に重要

複数人で会社設立する際の注意点を理解するには、株式会社の持株比率について知っておく必要があります。なぜなら株式会社では、基本的に持ち株比率によって行使できる権限や事業売却時の取り分が変わってくるからです。

会社設立のタイミングでは、各出資者の出資金額によって持ち株比率が決まります。たとえば資本金全体の7割の額を出資すれば、その時点の持ち株比率は70%となります。

持ち株比率を考慮せずに共同出資してしまうと、意思決定やM&A(事業売却)の際に思わぬ不利益をこうむる場合があるので注意しなくてはいけません。

8-2 株式が分散すると意思決定に支障が出る可能性がある

一つ目の注意点は、株式分散によって意思決定に支障が出る可能性がある点です。

株式会社では、持っている株式の割合が多いほど行使できる権限も大きなものになります。過半数や3分の2もの割合を持っていれば、ほぼ経営権をその人物一人で行使できるようになります。

ただし共同出資により持ち株比率が分散してしまうと、重要な意思決定に支障が出る場合があります。たとえば3人が3.3割ずつ共同出資してしまうと、代表の出資者(経営者)1人で意思決定を行えなくなります。また3人の中で考え方が異なると、誰かの意思が反映されない場合がでてきます。

8-3 共同出資の額次第ではM&Aの時にトラブルに発展するおそれも

二つ目の注意点は、事業売却を行った時にトラブルに発展する可能性がある点です。

事業売却の際には、出資した金額(持ち株比率)によって得られる利益が変わります。たとえば売却代金が1億円で持ち株比率が10%の場合は、1,000万円の利益を得られます。

つまり最初の出資額で変わってしまうため、「共同出資者の中で一番働いたにもかかわらず、出資割合が少ないためにほとんど利益を得られない」といった事態になる可能性があるのです。

事業売却を視野に入れている場合は、会社設立時の持株比率に十分注意してください。会社設立時の資本金は、さまざまな観点から決めることができます。自社の状況や業種などを踏まえて、最適な資本金の決め方を活用してみてください。

9 まとめ

2019年10月からの消費増税が開始され、既存の会社経営者だけでなくこれから会社設立を検討している起業家にも少なからぬ影響が及ぶはずです。全般的な消費の落ち込みが予想されますが、業種によっては増税が有利にも不利にも働くため事業を新たに起こす場合はその影響度を考慮した創業が欠かせません。

また、事業を推進していく上で増税の影響を緩和したり、有利にしたりするためには、積極的な対応が求められます。その方法としては、国のキャッシュレス・ポイント還元事業への参加、顧客データを活用した各種業務の見直し・プロモーション活動の実施・新しい商品・サービスの開発などです。

もちろん消費税改正により税務・経理業務での混乱や業務負担の増大が予想されるため、改正内容を的確に把握して適正な処理が遂行できる体制に整備しなければなりません。

また、消費増税は支払消費税額の増大をもたらしキャッシュフローを悪化させる要因になるため、節税の手立てを考えることも重要です。

このように消費増税は企業の経営や創業での環境を悪化させるため、特に会社設立前後の企業においてはその影響を十分に分析し対応を検討するようにしてください。

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