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日本政策金融公庫で融資を受けるための決算書

100%政府出資の政府系金融機関である日本政策金融公庫(以下 特に必要のある場合を除き公庫と称します)からの融資は、経営基盤が盤石でないことが多い中小事業者にとって強い味方です。とはいえ、返済の必要のない補助金・助成金と違い、あくまで融資を行う以上、さまざまな判断材料を総合的に踏まえた上で公庫は融資の可否を判断します。
ここでは公庫の概要、融資を受けるまでの流れについて説明した後、法人事業者に対する融資審査で最も重視する決算書について融資を受けやすい決算書とはどのようなものかについて詳細に解説していきます。

日本政策金融公庫とは

日本政策金融公庫は正式名称を株式会社日本政策金融公庫といい、株式会社日本政策金融公庫法に基づき設立された政府系の金融機関です。

概要

所管は財務省となっている特殊会社で、公共性の高い事業を行うために設立されており営利を追求することを目的とはしていません。株式会社と名乗っていますがこれは将来民営化する可能性があることと、通常の会社と同じ会計原則に準拠するためです。実際の株主は政府のみとなっており100%政府出資となっています。
営利を追求する民間金融機関を補うことを主な目的としており、創業融資・災害融資など民間では慎重にならざるを得ない分野への融資を行っています。

 

沿革

2008年10月1日にそれまで存在していた特殊法人である国民生活金融公庫(通称”国金“)、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫、国際協力銀行の業務を引き継ぐ形で設立されました(後の2012年4月1日に国際協力銀行は再分離しています)。
3事業部制をとっており従来国民生活金融公庫が取り扱っていた業務は国民生活事業部が、中小企業金融公庫が取り扱っていた業務は中小企業事業部が、農林漁業金融公庫が取り扱っていた業務は農林水産事業部が引き継いで業務を行っています。

 

公庫の資金調達方法

公庫は融資を行う原資となる資金を財政融資資金借入金、政府保証債、財投機関債、政府出資金(詳細な説明は今回省略します)等のさまざまな方法で調達しています。巷でいわれているような「国民から集めた税金を直接貸している」わけではありません。

 

公庫の取扱業務

決算を行う法人をともに対象とする国民生活事業、中小企業事業についての違いについては後の「1-5 事業資金における国民生活事業と中小企業事業の違い」で詳しく説明します。

①国民生活事業においては国民一般向け業務として小口の事業資金融資(個人・法人とも)や創業支援・地域活性化支援および国の教育ローン、恩給・共済年金担保融資を行っています。

②中小企業事業においては中小企業者向け業務として中小企業への長期事業資金の融資、イノベーション支援・海外展開支援・再生支援を行っています。民間金融機関等が中小企業への融資を証券化することも支援しています。信用保証協会が行う債務保証についての保険の引き受け等も行っていますが、中小企業には直接関係しない業務です。

③農林水産事業においては農林水産事業者向け業務として農林水産事業者向け融資、食品産業向け融資や両業者向けコンサルティングなどの経営支援サービスを行っています。

事業資金融資における国民生活事業と中小企業事業の違い

公庫の事業資金の融資対象は小規模事業者や創業企業および中小企業です。中小企業においては資本金の額または出資の総額により対象となるかが日本政策金融公庫法により規定されています。

製造業、建設業、運輸業などでは資本金3億円以下または従業員300人以下、卸売業では資本金1億円以下または従業員100人以下、小売業では資本金5千万円以下または従業員50人以下、サービス業では資本金5千万円以下または従業員100人以下が対象です(一部の風俗営業、公序良俗に反するものなど一部対象とならない業種があります)。

公庫には事業資金融資を取り扱う事業が、農林水産事業者向けを除くと国民生活事業と中小企業事業の二つ存在します。融資先の規模によっては両方の事業から融資を受けているケースもあります。

①国民生活事業

国民生活事業の融資先は88万先で1先当たりの平均融資額は698万円と小口融資が主体です。融資先の約9割が従業者数9人以下で約半数が個人企業です。また、無担保融資が8割を占めています。創業時の企業を対象とする点も特徴的です。
※平成30年8月1日現在の日本政策金融公庫のホームページより引用

従って比較的小規模な個人事業主、社員数が十数人以下の法人が主な融資先と言え、融資額は数十万~多くても数千万といったところです。

②中小企業事業の融資先は4万4千先で1先当たりの平均融資額は9,700万円となっています。融資先の平均従業員数は73人で約93%が資本金1,000万円以上となっています。無担保での融資割合は以前少なかったのですが徐々にその割合は上昇し、平成29年度では金額比で無担保融資が41.4%を占めるまでになっています。
※平成30年3月31日現在。平成30年8月1日現在の日本政策金融公庫のホームページより引用

従って、社員数十人~数百人といった中堅企業が主な融資先と言え、融資額は数千万円~数億円といったところです。

日本政策金融公庫国民生活事業の主な融資制度について

公庫における融資制度は取扱事業により異なります。ここでは中小事業者にとって最も馴染みのある国民生活事業における融資制度の主なものを説明します。

普通貸付

もっともポピュラーな融資制度で一般的な運転資金や設備資金に適用されます。

融資限度額は4,800万円ですが、特別な要件に該当すれば特定設備資金とされ7,200万円までとなっています。
融資期間は運転資金7年以内(据置期間1年以内)、設備資金10年以内(据置期間2年以内)、特定設備資金20年以内(据置期間2年以内)です。
※据置期間とは利息のみの支払い期間のことをいいます。
利率は資金の使い道、返済期間や担保の有無により異なります。

セーフティーネット貸付

経営環境変化対応資金のことで社会的、経済的環境の変化等の外的要因により一時的に売上の減少等業況が悪化しているものの、中長期的にはその業況が回復し発展することが見込まれる方を対象としています。適用にはさまざまな要件があるので融資申込手続きの中で担当者と相談していけばいいでしょう。

融資限度額は4,800万円ですが、更に取引金融機関の破綻で資金繰りが困難となっている場合は別枠で4,000万円、取引企業などの倒産により経営が困難となっている場合は別枠で3,000万円が設定されます。
融資期間は運転資金8年以内(据置期間3年以内)、設備資金15年以内(据置期間3年以内)となっており①の普通貸付よりやや長期まで認められています。
利率は普通貸付同様資金の使い道、返済期間や担保の有無により異なります。

新企業育成貸付

新規開業資金、女性若者/シニア起業化支援資金、再挑戦支援資金などの総称で、新たに事業を始める方や事業開始後概ね7年に内の方を対象としています。公庫融資の一番の特色と言ってもいいでしょう。

融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。
融資期間は運転資金7年以内(据置期間2年以内)、設備資金20年以内(据置期間2年以内)で特に設備資金が長期間設定できるのが特徴的です。
利率は地域の認定創業スクールによる支援を受け創業する場合やUターン等により地方で新たに事業を開始する場合などさまざまな要件を満たした場合に特別利率が適用されます。これも適用にはさまざまな要件があるので融資審査手続きの中で担当者と相談していけばいいでしょう。

企業活力強化資金

合理化等のための設備投資資金を主体に情報化投資(IT資金)、地域活性化促進やソーシャルビジネス(NPO法人が行う事業またはNPO法人以外で保育サービス、介護サービスまたは社会的課題の解決を目的とする事業)支援資金、働き方改革推進支援資金など政府の政策を反映した幅広い分野をカバーする融資制度です。

融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。
融資期間は運転資金7年以内(据置期間2年以内)、設備資金20年以内(据置期間2年以内)で特に設備資金が長期間設定できるのが特徴です。
利率は特にさまざまな条件により千差万別です。担当者が該当する要件を聞きながら適用してくれます。

小規模事業者経営改善資金(マル経融資)

商工会議所、商工会または都道府県商工会連合会の実施する経営指導を受けている方であって、商工会議所等の長の推薦を受けた方が利用できる無担保無保証人で利用できる融資制度です。

融資限度額は2,000万円です。
融資期間は運転資金7年以内(据置期間1年以内)、設備資金20年以内(据置期間2年以内)、従業員数5人以下の場合では据置期間は3年以内となります。
利率は事業資金融資最も低い特別な利率が適用され、特に有利な制度です。

災害貸付、震災等特別貸付(東日本大震災復興特別支援貸付、平成28年熊本地震特別貸付等を含む)

災害により被害を受けた事業者を対象とする融資制度で、政策金融として高く評価されている融資制度です。

融資限度額は普通貸付等の各融資制度に災害ごとに定められた金額が上乗せされます。
融資期間は災害貸付では各融資制度の返済期間と同じですが、震災等特別貸付においては被害の程度により運転資金で最長8年~15年(据置期間5年以内)、設備資金で最長15年~20年以内(据置期間5年以内)と特に有利な制度が設定されています。
利率も災害貸付は基準利率ですが、震災等特別貸付においては被害の程度により基準利率より引き下げられた特に有利な利率が設定されています。

融資を受けるまでの手続きの流れ

融資を受けるまでの手続きの流れについて順を追って説明します。

融資相談・申し込み

公庫から融資を受けるためには、まず事業内容・資金使途について対象となるかの相談を受けたほうが無難です。いろいろと資料を準備した挙句、そもそも公庫の融資対象とならないことが分かっては時間も手間も無駄になるからです。

融資の相談は簡単なものなら電話で受け付けてくれます。全国各地にある支店でも受け付けてくれますし、全国どこからでも利用できる“事業資金相談ダイヤル”でも受け付けてくれます。

一般的な融資相談で公庫の融資対象となることを押さえたら、次は支店宛に相談・申し込みへと進みます。どの支店に行けばいいかは原則として①事業所を管轄する支店、②事業者・代表者の自宅を管轄する支店となります。交通の便等などの事情があれば要望を聞いてくれる時もありますので、電話での相談時に聞いてみるといいでしょう。その支店がどこを管轄しているかは公庫のホームページに記載されています。

公庫担当者が商工会議所や商工会等に出向いて行う「一日公庫」などの出張相談会でも融資相談・申し込みが可能です。担当の経営指導員さんに聞いてみれば日程・場所等を教えてくれるでしょう。

支店の融資相談係を訪れて融資資格、資金使途、条件等を具体的に説明し、問題なければ融資申込書に各種書類を添えて申し込みとなります。

 

融資担当者との面談

融資相談を終え正式に申込書を提出すれば、数日から一週間以内で融資担当者から面談通知が届きます。面談日時やその際に必要な書類がその通知に記載されているので、その書類を持って申し込んだ支店に行くことになります。面談時間は概ね1時間前後です。

 

実地調査

初めての申し込みの時や新規開業の時にはほぼ必ず、取引継続時でも場合によっては事業所や開業予定地を審査担当者が調査します。予告して調査するときもあれば、無予告で行う時もあります。

 

融資可否の決定

担当者において調査が終われば稟議書が役席に回付され、さまざまな材料を総合的に判断し公庫として融資可否が決定されます。融資が決まれば融資実行に必要な書類(借用証書等)が郵送されます。不可の際は概ね担当より連絡がありますが、正式に文書で届くこともあります。

融資実行のための手続き

融資が決定されればその融資実行のため必要な書類が郵送されます。担保設定を条件として融資が決定した場合はこの段階で担保を設定します。必要な書類、必要な条件が整えばそれから数日程度で融資が実行されます。

必要な書類

各段階で必要な書類は概ね以下の通りです。資金使途や利用する貸付制度により増える場合もあります。

 

融資相談時・申し込み時に必要な書類

以下の書類のうち一部は公庫のホームページからダウンロードできるものもありますが、支店独自で作成されたものがあるケースもあります。また後述する面談時に必要とした書類をこの時点で求められるケースもあります。支店での相談時に確認するといいでしょう。

①個人の場合

申込書、申告済確定申告書(2年分 開業前は不要、開業後2期経過していない場合は申告済のもの)、見積書(設備資金の場合)、創業計画書および月別収支計画書(新規開業の場合)、設備投資計画書(該当する場合)、資金繰り表(該当する場合) 等

②法人の場合

申込書、法人登記履歴事項全部証明書(法人登記簿謄本)、決算申告書(2期分 事業開始後2期経過していない場合は申告済のもの)、試算表(決算期から半年以上経過している場合)、見積書(設備資金の場合)、創業計画書および月別収支計画書(新規開業の場合)、企業概要書(初めて申し込む場合)、設備投資計画書(該当する場合)、資金繰り表(該当する場合) 等

 

面談時に必要な書類

面談時に必要な書類は基本的に審査担当者からの通知に記載されているもの全てです。
初回申し込みや新規開業かどうかで変わりますが、主要なものは以下の通りです。
ないものは不要です。

①個人の場合

預金口座通帳、定期預金・貯金証書、株券等有価証券を所有していることが分かるもの、賃貸借契約書(店舗や事務所および自宅が賃貸物件の場合)、営業許可証(許認可業種の場合)、公共料金領収書(6カ月分)、事業税・市民税・消費税領収書、源泉徴収税納付書、固定資産税通知書・領収書、売上帳・仕入帳、経費帳、出納帳、総勘定元帳・仕訳帳、領収書綴り、手形帳、借入金支払明細書

②法人の場合

預金口座通帳(当座勘定照合表を含む)、定期預金・貯金証書、株券等有価証券を所有していることが分かるもの、賃貸借契約書(店舗や事務所および自宅が賃貸物件の場合)、営業許可証(許認可業種の場合)、公共料金領収書(6カ月分)、法人税・事業税・法人市民税・消費税領収書、源泉徴収税納付書、固定資産税通知書・領収書、売上帳・仕入帳、経費帳、出納帳、総勘定元帳・仕訳帳、領収書綴り、手形帳、借入金支払明細書、関連企業の決算申告書

融資決定後、融資実行までに必要な書類

融資実行までに必要な書類は、無担保か担保設定が条件かで大きく変わります。

①無担保時

借用証書(公庫から郵送)、印鑑証明書(借主分、連帯保証人が要る場合はその分も)、収入印紙(金額は融資金額により決定、借用証書に貼付し割り印をします)、団体信用保険加入申込書(住宅ローンの団信保険の事業資金版、申し込みは任意)

②担保設定時

以上に加え、抵当権あるいは根抵当権設定契約証書、印鑑証明書(設定契約証書に記載のある者分)~公庫から送られてくる設定契約証書を基に担保設定登記を行い(司法書士に委任するのが一般的、知り合いがいなければ公庫支店から紹介してもらえます)、完了し公庫へ書類を提出すれば融資実行となります。

融資を受けやすい決算書のポイント

融資審査において申告書・決算書を担当者はチェックするわけですが、どのような決算書であれば融資を受けやすいと言えるのでしょうか。決算書を構成する損益計算書(P/L)、貸借対照表(B/S)、その他に分けて解説します。

損益計算書上のポイント

損益決算書とはその事業年度における収益と費用(売上や経費等)を表しているもので、一定の期間内で儲けが出たか損失が生じたかを示しています。ポイントは以下の通りです。

①売上高

売上げは年間比較でどのように推移しているかがまずポイントになります。大きく変動していればその理由は何か説明できるか、またその理由は一時的なものかが重要になってきます。
今年だけ売上げが大きくてもその理由が一時的なものであれば、昨年の売上で今後を推測すべきとなります。一方今年だけ売上が小さくてもその理由がしっかり説明でき、今後は回復すると十分推測できれば大きく問題となりません。
そういう観点からすれば売上が少しずつ増えていることが融資を受けやすいと言えそうですが、当然ながら経費等の費用がそれ以上に増えていれば問題ありとなりますので、そうは問屋が卸しません。

②売上原価

売上原価は利益を大きく左右しますが、ここでは適正に在庫等が管理されているか、売上原価が不自然に操作されていないかがポイントになります。
売上が下がっているのに利益率が不自然に上昇しているような時は毎月の棚卸で適正に在庫が把握されているか、毎月でなくても決算時の棚卸しがどのようにされているか、原価の内容が急に変化していないか、元帳はどのように処理されているか等をチェックします。
不自然な利益操作は概ねここが矛盾しています。

③販売費および一般管理費

一般的に販管費と呼ばれるもので、事業を運営するためにかかった費用のことです。ここでのポイントは役員報酬や給料手当、接待交際費です。その他金額が大きいものは当然数年分比較してチェックすることは言うまでもありません。

役員報酬は営業利益(本業でいくら儲けたかを示すもの)と比較して妥当か、計上はしているが未払のままとなっていないかなどをチェックします。役員報酬が少なすぎるのも問題視します。それで役員が生活できるのか、別収入がなければ利益対策に過少計上しているのではないかとなるわけです。

接待交際費が過大でないかもチェックします。役員個人の生活費を付け込むことで税務当局の指摘を受け大幅に決算内容が変わる恐れはないか、適正に接待交際費を管理しているかもチェックします。

④雑収入、支払利息

雑収入があった場合、一時的なものなのか当面見込めるものなのかも確認します。一時的なものであれば、今後を推測する上で念のため差し引いて判断したりします。

支払利息は特に重要なポイントです。借入金残高との比率が金融機関の通常貸出金利に比べて高くないか(高い金利で借入していないか)をチェックします。高い金利で借り入れざるを得ないほど資金繰りに困っていないか、となるわけです。ここは本当に重要です。

⑤特別利益、特別損失

固定資産売却益・売却損や災害損失などの本業以外の収益費用項目です。雑収入同様に一時的なものかそうでないか、今後も続くのかをチェックします。

 

貸借対照表上のポイント

貸借対照表とは事業体のある一定時点における資産、負債、純資産(資産から負債を引いた残りのことで以前は資本や自己資本と言っていました)の状態を表しているものです。
ここでのポイントは以下の通りです。

①現金預金

月間や年間でどのように推移しているか、大きく残高を減らしていないか、その理由は妥当なものかがポイントです。売上に波があり回収にも波があれば大きく上下することは問題ありませんが、不自然に支出が続き残高が減少していれば何か問題を抱えているのではないかと推測します。

②受取手形、支払手形

売掛金、買掛金(未払金)との比率がポイントです。金融機関では特に重視する項目です。通常の営業活動で発生した手形以外の手形(融通手形と称される、資金調達や資金貸付のために発行された手形)が混入していないかをチェックします。通常の目的以外で手形を使うことはリスクが高いからです。設備投資のための設備手形は問題ありません。

③売掛金、未収入金、貸付金

長期化しているものはないか、資産性の無いものを計上していないかがポイントです。大口の焦げ付きを放置しているケースなどが考えられます。資産として考えられないものが計上されているのであれば、その分を資産から差し引いて財務内容を考える必要があるからです。

④商品・製品、仕掛品、貯蔵品

損益計算書上のポイントでも説明しましたが、しっかりと期末で棚卸しがされているか、棚卸し明細が正確に作成されているか等で利益率の操作が行われていないかをチェックします。損益計算書上でおかしなものは貸借対照表でもおかしくなります。

⑤仮払金

一時的に使用するべき勘定科目がいつまでも貸借対照表に記載されていることが問題とされます。消せるものは消した方が要らぬ疑いを掛けられずに済みます。

⑥固定資産全般

減価償却漏れはないか、資産性の無いものの計上が続いていないか(とくに“のれん”と呼ばれる営業権に多く見られます)がポイントです。有価証券で多く見られるゴルフ会員権は取得時より大きく値下がりしている他、そもそも運営会社が破綻しているケースもあります。そのような場合も計上されているほどの資産性は認められないことになりますから、実態に応じて判断することになります。

⑦借入金、未払金、未払費用

不明朗なものはないか、金利が特に高いところはないかがポイントになります。借入とすべきものを未払金勘定で処理しているケースもあります。
役員からの借入は実質的に役員からの出資と考える場合もありますが、返済義務を負うことから必ずしもそう考えないこともあります。
借入金総額が月商の5倍を超えてくると慎重になってきます。一概には言えませんが、一般的に言われる通り10倍を超えてくるとかなり慎重にならざるを得なくなります。

⑧仮受金

「⑤仮払金」と同様です。消せるものは消してください。

⑨純資産

ここがマイナスであるということは負債過多(債務超過)ということです。見かけ上はマイナスでも実態がプラスであれば問題ありませんが、見かけは上プラスですが実態がマイナス(このケースの方が遥かに多いです)であれば融資にも慎重にならざるを得ません。
代表者個人の資産状況で補って判断することもあります。

 

その他のポイント

以上決算書上のポイントを解説してきましたが、それ以外に大事な点が一つあります。それは決算書自体の信ぴょう性です。決算書自体が適正に作成されていないケースも数多くあります。うっかりミスや無知によるものから、確信犯的なものまでさまざまです。そもそも決算書が適正に作成されていなければ、その先の決算書上のポイントをいくら押さえても意味をなしません。しっかりとした知識をもって決算申告を行うか自信がなければ専門家の助けを得ることが、税務上の問題を起こさないだけでなく融資判断においてもデメリットを減らすことになります。

最後に

日本政策金融公庫における事業資金融資審査での調査項目は非常に多岐にわたります。財務諸表から売掛帳などの帳簿、税金の領収書や公共料金の支払い振りにまでおよびます。それは民間金融機関では積極的になれない融資を手掛けてきたこれまでのノウハウが蓄積されてきた結果です。何とかプラスにできるところはないかと取り組んできた結果です。
本稿で得た事前知識を活用頂き修正できる点は修正した上で、それでも残る問題点は問題点としてありのままで公庫に相談されたらいいと思います。どうしても無理なものもありますが、公庫の担当者、ひいては役席を含めた公庫全体として一生懸命考えてくれるはずです。本稿が資金調達に苦しむ方々の助けになることを切に願います。

社団法人設立が全国一律27,800円!KiND行政書士事務所:東京