一般社団法人の会費制度とは? 導入する際のポイントや注意点を詳細解説
一般社団法人では、会費制度を設けている団体が多く存在します。今後一般社団法人を設立することを検討している人や、現在一般社団法人を運営しているが、会費制度を導入し、運営を円滑にしたいと考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで当記事では、一般社団法人において、会費制度を導入する上でのポイント・注意点について、詳しく解説していきます。
目次
1 そもそも一般社団法人とは?
まず、そもそも一般社団法人とはなにか、一般社団法人と公益社団法人との違いはどのような点があるかについて解説します。公益法人制度の仕組みを知ることで、一般社団法人、一般社団法人の会費制度のポイントが理解しやすくなります。
1-1 旧社団法人の課題
公益法人制度改革以前の2007年頃までは、「社団法人」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。
2008年末から新しい公益法人制度の運用が開始され、現在は「社団法人」という名称の組織は改編、「公益社団法人」と「一般社団法人」の2つに分かれています。
公益社団法人は、名前からわかるとおり、公の利益のために活動する側面が強い組織です。組織の活動の公益性故に、税制の優遇など、各種支援措置が一般社団法人よりも手厚くなっています。
公益法人として認可されるためには、後ほど述べますが、厳しい条件をクリアする必要があり、認定後も、毎年報告を行う必要があります。
著名な公益社団法人としては、下記の団体が挙げられます。
- ・公益社団法人 経済同友会
- ・公益社団法人 国民健康保険中央会
- ・公益社団法人 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
- ・多くの地域のシルバー人材センター
- ・公益社団法人 全国法人会総連合
- ・公益社団法人 日本医師会
- ・公益社団法人 東京都医師会
- ・公益社団法人日本看護協会
一方、著名な一般社団法人としては、下記の団体が挙げられます。
- ・一般社団法人 日本経済団体連合会
- ・一般社団法人 日本フランチャイズチェーン協会
- ・一般社団法人 日本フードサービス協会
- ・一般社団法人 日本損害保険協会
- ・一般社団法人 新経済連盟
- ・一般社団法人 日本音楽事業者協会
- ・一般社団法人 全国建設業協会
このように、著名な団体、著名な法人の集団であっても、必ずしも全てが公益社団法人であるとは限りません。むしろ、意外な団体が一般社団法人であるというケースも存在します。
新しい公益法人制度が平成20年に開設される前は、社団法人・財団法人の設立には公益性が必要とされました。民間では補えない部分を、公益法人・財団法人という形で補完していたからです。
しかし、昔の民法に基づく社団法人の仕組みは、公益に資することを前提とした上で、営利を目的としない(利益を出してはいけないというわけではない)、管轄官庁の厳格な審査を経た許可が必要など、非常に設立のハードルが高いという課題が存在しました。加えて、毎年の主務官庁への報告など、手続も煩雑でした。
そもそも、公益法人制度は明治29年(1896年)に施行された、相当歴史のある制度でした。
旧民法第34条の仕組みが、時代が変わってもずっと続いていたのです。公益法人制度改革が行われた当時は「100年に一度の大改革」と言われました。
明治から大正・昭和・平成と社会情勢・経済が移り変わる中で、社団法人・財団法人の問題点が顕在化しました。前述の設立の難しさや報告の煩雑さに加え、主務官庁制度の存在による、複数の官庁に関わる事業に対する制約、また許可権限が絡む天下り問題などが顕在化し、国民の批判を受けることとなりました。
さらに、公益法人は税制上の優遇措置を受けていますが、公益法人制度改革までは情報公開の義務がありませんでした。それ故に、公益法人の財務状況は、一種のブラックボックスと化していました。
株式会社でも、1年に一度、官報などで決算公告義務があり(ちなみに、合同会社・合資会社・合名会社、いゆわる持分会社は決算公告の義務がありません)、NPO法人でも運営情報の公開が行われる中、公益法人は、決算公告の義務がないという状況でした。そのため、後ほど述べる不祥事が、なかなか顕在化しませんでした。
そもそも「公益性」をどのような基準で決めるのか?という問題もあります。過去の社団法人・財団法人のケースでは、主務官庁の裁量で公益性の有無が定められ、許可されるかどうかは主務官庁のさじ加減次第でした。いくら第三者の目から見て公益性があるように見えても、主務官庁が「公益性が認められない」と判断すれば、社団法人・財団法人の法人格を取得する事ができませんでした。
加えて、一度社団法人・財団法人として法人格を取得すると、時間が経過し、活動に公益性がなくなっても、公益法人としてあり続けることができてしまうという制度の瑕疵もありました。
入り口こそ厳しいものの、一度社団法人の法人格を取得すれば、公益法人として存在しつつけることができるという状況が、結果として後で大きな問題を生じさせました。
どのような組織でも、年月が経つと、制度疲労やガバナンスの問題、組織の私物化など、長期運営による慣れに伴う、様々な緩みが現れる可能性があります。ですが、社団法人・財団法人の仕組みそのものがクローズドなため、問題があっても表沙汰になりにくい、自浄作用が効かないという問題が長年残っていました。
また、旧民法では、社団法人・財団法人の運営に関して、規定を最小限にすることにより、社団法人・財団法人の自己管理としていました。しかし、年月の経過などにより、自己管理であるのをいいことに、役員などが法人をほしいままに運営し、私腹を肥やすという問題が一部で顕在化しました。
ある財団法人で発生した、親子にわたる協会の極端な私物化問題を受け、さすがに公益法人制度そのものを根本的に見直す必要があるのではないかという世論が広がりました。各所での検討を経て、法人の自治については、明確に法律で定め、厳格化すべきという方向性が出され、結果公益法人制度改革に至ることとなりました。
公益法人制度改革では、主務官庁制・許可主義を廃止し、法人の設立と公益性の判断を分離することで、主務官庁との癒着を防ぐように制度設計がされています。
また、公益社団法人・公益財団法人の認定取消や、同族経営を防ぐ、親族3分の1以下の規定など、公益認定取消、私物化防止、利益誘導阻止などの措置も取られるようになり、組織の放漫経営や身内優先経営ができない仕組み作りもされました。
財団法人の私物化問題は、制度改革の大きな原因であったことは否めませんが、それ以外にも旧来の公益法人が公益社団法人・公益財団法人と、一般社団法人・一般財団法人に改編された背景には、明治の公益法人制度が時代にそぐわないということがあったと言えます。
1-2 公益社団法人と一般社団法人の違い
公益法人制度の様々な課題を受けて、これまで「社団法人」「財団法人」だった公益法人は、「公益社団法人」、「一般社団法人」、「公益財団法人」「一般財団法人」の四種類に分類されることになりました。
シンプルに言うと社団法人は、「個人・法人の集まり」、財団法人は「財産(+管理する人)の集まり」と言えます。
財団法人は財産の集まり、という点から、設立時の財産の最低拠出額が存在します。一般財団法人の場合、設立時には最低300万円を拠出する必要があります。2期連続で純資産の額が300万円未満となった場合は、当該翌事業年度に関する定時評議員会の終結の時に解散することとなります。
今回扱うテーマは、「一般社団法人」ですので、「一般社団法人」と「公益社団法人」の違いについて詳しく解説します。
一般社団法人と公益社団法人の違いをシンプルに言うと、下記のように定義できます。
- ・一般社団法人は比較的簡単に設立できるが、信用度は公益社団法人に劣る。税制優遇は基本的にない(例外あり)
- ・公益社団法人は、公益性に関して行政庁の厳格な判断があり、設立は難しい。その分信用度が高く、税制優遇を受けられる、ただし毎年報告義務があり、問題がある場合は公益認定を取り消されるケースがあるということが言えます。
現在の公益社団法人格を取得するには、一般社団法人からスタートして、下記の条件を満たした上で、民間有識者からなる第三者委員会審査を経て、行政庁(内閣府、都道府県)から公益認定を受けることとなります。
ポイントは、これまでの管轄官庁に対する直接の許可申請だったのが、第三者委員会→内閣府・都道府県と、窓口がガラリと変わったことです。これにより、公益法人が、管轄官庁の顔色をうかがいながら許可申請をするということは、基本的にはなくなりました。
満たすべき条件は厳格です。
- ・公益目的事業比率が50%以上
- ・収支相償(公益目的事業に係る収入が、その実施に要する適正な費用を償う額を超えないこと)であると見込まれる
- ・遊休財産額が一定額以下
- ・事業を行う「技術的能力」がある
- ・相互に密接な関係にある理事・監事が総数の3分の1を超えないこと等
- 例としては、
- ・その理事の配偶者
- ・その理事の三親等以内の親族
- ・その理事と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁関係)
- ・その理事の使用人(理事から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
- ・上記の者と生計を一にする者の配偶者または三親等以内の親族
なお、公益認定をされていない一般社団法人に関しては、原則株式会社・合同会社などと同様、税法上の「普通法人」として課税されます。
ただし、一般社団法人・一般財団法人で、非営利性が徹底された法人や、共益活動を目的とする法人の場合は、会費収入等、収益事業に当たらない部分に関しては非課税となります。
この「非営利性が徹底された」、「共益的活動を目的」という要件を満たすための条件は細かいです。法人税法施行例3条1項および法人税法施行例3条2項の、下記の要件を満たす必要があります。
非営利性が徹底された法人の要件
- 1 定款に剰余金の配分を行わない旨の定めがあること
- 2 定款に解散時の残余財産が、公益法人等一定の公益的な団体に帰属する旨の定めがあること(具体的には国、地方公共団体、公益社団法人、公益財団法人、学校法人、社会福祉法人等)
- 3 1または2の要件にある定款の定めに違反した行為を行ったことがないこと
- 4 理事およびその親族等である理事の合計数が理事の総数の3分の1以下であること
(同族運営による私物化の防止。具体的には、理事およびその配偶者または3親等以内の親族その他の当該理事と特殊の関係のある者である理事の合計数が理事の総数の3分の1以下であること。)
該当者は下記の通り。
- ・その理事の配偶者
- ・その理事の三親等以内の親族
- ・その理事と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁関係)
- ・その理事の使用人(理事から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
- ・上記の者と生計を一にする者の配偶者または三親等以内の親族
共益的活動を目的とする法人の要件(共益法人と呼ばれる。業界団体・親睦会・同窓会などが該当)
1 会員に共通する利益を図る活動を行うことを主たる目的としていること
2 定款に、会員が負担すべき金銭の額(会費)の定めまたはこの額を社員総会で定める旨の定めがあること
3 主たる事業として収益事業を行っていないこと(あくまで一部収益事業を行う分には問題はない)
4 定款に特定の個人または団体に対し、剰余金の分配を受ける権利を与える旨の定めがないこと
5 定款に解散時の残余財産が特定の個人または団体(一定の公益的な団体を除く)に帰属する旨の定めがないこと
6 特定の個人または団体に特別の利益を与えたことがないこと
具体的な行為を列挙すると、下記のような行為は全て、特定の個人または団体に特別の利益を与える行為になります。
- ・法人が、特定の個人または団体に対し、その所有する土地、建物その他の資産を無償または通常よりも低い賃貸料で貸し付けていること
- ・法人が、特定の個人または団体に対し、無利息または通常よりも低い利率で金銭を貸し付けていること
- ・法人が、特定の個人または団体に対し、その所有する資産を無償または通常よりも低い対価で 譲渡していること
- ・法人が、特定の個人または団体から通常よりも高い賃借料により土地、建物その他の資産を 賃借していることまたは通常よりも高い利率により金銭を借り受けていること
- ・法人が、特定の個人または団体の所有する資産を通常よりも高い対価で譲り受けていることまたは法人の事業の用に供すると認められない資産を取得していること
- ・法人が、特定の個人または団体に対し、過大な給与等を支給していないこと
上記に挙げた行為は、常に行わないよう意識する必要があります。万一上記の行為を行い、税務署等から「特定の個人や団体に利益を与えている」として認定された場合は、組織上は公益法人であっても、税務上は普通法人扱いとなり、認定日以後は全所得課税に移行されます。
加えて、「特別な利益を与える事」の対象は、収益事業に限定される物ではありません。収益事業以外の事業において行われる経済的利益の供与または金銭その他の資産交付も含みます。
もし税務調査等の事実認定により、違反が判明した場合は、課税体系がガラリと変わるため、運営(特に実務面)に大きな影響が生じるおそれがあります。
普通法人に税務上該当することとなった場合は、手続が非常に大変です。
届出書を2カ月以内に所轄税務署長に提出したり、青色申告の承認申請書を再提出(該当する事となった日から3カ月を経過した日か事業年度終了の日のいずれか早い日)までに提出する必要があります。
加えて、収益事業を行っていない公益法人等であった場合は、普通法人に該当することとなった日から2カ月以内に、税務署へ届出書・該当時の貸借対照表を提出する必要があります。
このように、組織・事務・税金・信用失墜等様々な点でマイナスがあるため、コンプライアンス面では相当慎重に注意する必要があります。
7 理事およびその親族等である理事の合計数が理事の総数の3分の1以下であること
非営利性の部分と同じく、適用範囲は下記の通り。
- ・その理事の配偶者
- ・その理事の三親等以内の親族
- ・その理事と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(内縁関係)
- ・その理事の使用人(理事から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの
- ・上記の者と生計を一にする者の配偶者または三親等以内の親族
このように、非営利性の徹底と公益的活動の要件のハードルというが高いということがわかります。
1-3 社団法人の公益と一般、どちらが良いか
社団法人に関しては、法人設立の際、公益社団法人と一般社団法人のどちらがいいかという疑問はよく出てきます。
公益社団法人のメリットは、「信頼性の圧倒的な高さ(一般社団法人が基本的に誰でも設立できるようになったため、監督官庁の審査・公益性の審査が厳しい公益社団法人の価値が上昇している)」「公益社団法人に対する税制の優遇」があります。
一方デメリットとしては、「所轄行政庁による厳しい監督」「公益認定基準の遵守義務」「公益認定取消処分の際には、公益目的取得財産の残額を他の公益法人に贈与しなければならない」という点があります。
当然、私物化されることのないよう、制度でしっかりと様々な制約がかけられているため、致し方ないことといえます。ただ、組織の柔軟な改編が一般社団法人よりは難しいということは否めません。(トップダウンの判断・行動ではなく、組織全体の意識を合わせた判断・行動が要される)
一般社団法人のメリットは、「設立の簡単さ」「公益性と営利性を両立しつつ、NPO法人のような業種の縛りや毎年の報告義務がない」「一般社団法人という響きから、通常の株式会社より公益性(があるように見える)」「法人の運営に自由度がある」「資格ビジネスや家元ビジネス、協会ビジネスに向いている」「単独・もしくは身内だけでの運営が出来る」などの点があります。
一方で、「組織運営が公益社団法人よりは容易だが、株式会社等通常の法人に比べると手間がかかる」「税制優遇が限定される」などのデメリットもあります。
近年は、一般財団法人を隠れ蓑にして、反社会的行為を行う団体も存在すると言われています。一般社団法人は、制度上容易に設立できるようになったとは言え、多くの人にとって「社団法人」というのは民間企業と違い、「より信頼性が高い」というイメージを持ちがちです。
その点を逆手に取る人間もいます。社団法人の過去の信用あるイメージを悪用し、詐欺まがいや問題のある行為を行う団体、民間企業の問題のある商品・商法に、一般社団法人を使ってお墨付きを与えるなどの行為が一部で問題視されています。一般社団法人も以前に比べ玉石混交となっている面は否めません。
ふるさと納税返礼品で産地偽装を行った一般社団法人、介護サービスを手がけるが、支払い遅延が生じている一般社団法人、持続化給付金の事業を受けたが、実態の存在が結局不明確だった一般社団法人、資産運用や節税セミナーを、「一般社団法人」の名称で行うことで信頼させ、詐欺まがいの商品を販売する業者に誘導する一般社団法人など、枚挙に暇がありません。
以前のNPO・休眠宗教法人の悪用のように「よいイメージを逆手に取り、悪用する」ものが一般社団法人をハコとして使っているケースも出始めています。
また2018年ごろまでは、一般社団法人に株主が存在しないという点を利用し、相続税対策のスキームとして一般社団法人が設立されることもありました。(現在は、税制改正され、抜け穴が塞がれている)
1-4 会費制度の概要
一般社団法人における、会費制度の概要を解説します。
多くの公益社団法人・一般社団法人は、運営の中核になり、意志決定を担う「社員」と、資金面を中心に協力し、重要な意志決定の時に投票で意思表示をする各種「会員」で構成されています。
公益社団法人・一般社団法人を問わず、社団法人の社員(会員)は、「定款に定めがあれば」経費を支払う義務があります。言い換えると、定款(他規約等)で定めがなければ、社員であるからといって、必ずしも会費を支払う義務がないことも言えます。
法人が誰を会員として定め(正会員・準会員など)、会費を徴収するか、徴収するとしたらいくら徴収するかという金額の決定は、社団法人の役員等、社員たち自身が決めます。
ちなみに、一般社団法人では、社員が支払う経費・会費の額に応じて社員の議決権に差を設定することができますが、公益社団法人では、経費・会費の額に応じて差を設けることは認められていません。1人(1組織)1票という形になります。
参考までに、一般社団法人には関連のない事項ですが、公益社団法人が会費等を徴収するにあたり、使途を定めずに集めている場合は、半分(もしくは定めた金額)が、公益目的事業財産になります。
1-5 一般社団法人の会費にかかる課税
一般社団法人の会費にかかる課税に関しては少し複雑です。まず、会費にかかる可能性のある税金としては、法人税と消費税があります。(消費税は、団体の売り上げが1,000万円以上の場合に、翌々年度からかかる)
原則としては、法人税に関しては、営利型の場合は課税対象、非営利型の場合は非課税となります。しかし、非営利型の事業であっても、会費収入が収益事業に属する所得と判断されると課税対象になります。
この線引きは、自己判断せずに、専門家である税理士や税務署の判断を仰ぐことが大切です。何をもって「収益事業に属する所得と判断するか」は一概に定義しにくいところがあるからです。
これは収益事業であろうと見なされそうな一例として、「エステサロンの技能検定を運営する一般社団法人」のケースで考えます。
年会費等を支払った会員のみが、エステサロンの技能取得を名乗れる、講習やオンラインセミナーを受講することができる、一般社団法人のホームページに認定エステとして掲載される、というような会費を支払う側に明確なメリットがある場合は、収益事業と見なされる可能性が高いです。
また、一般社団法人に会員として加入すると、提携する会社のサービスが無料・もしくは割引で受けられる(一方で、一般社団法人が提携する会社からキックバックを受け取る)というケースも、高い確率で収益事業と見なされると思われます。
税法上定められた収益事業というのが34種類存在します。
- 1 物品販売業
- 2 不動産販売業
- 3 金銭貸付業
- 4 物品貸付業
- 5 不動産貸付業
- 6 製造業
- 7 通信業
- 8 運送業
- 9 倉庫業
- 10 請負業
- 11 印刷業
- 12 出版業
- 13 写真業
- 14 席貸し業(「継続して」席貸しを行う必要があり、一時的なものは収益事業に当たらない可能性も)
- 15 旅館業
- 16 料理店業その他の飲食店業
- 17 周旋業(あっせんぎょう)
- 18 代理業
- 19 仲立業(保険仲立人・宅建業者等)
- 20 問屋業
- 21 鉱業
- 22 土石採取業
- 23 浴場業
- 24 理容業
- 25 美容業
- 26 興行業(映画、演劇、演芸、舞踊、舞踏、音楽、スポーツ、サーカスなど見世物等)
- 27 遊技所業(野球場、テニスコート、ゴルフ場、射撃場、釣り堀、碁会所等)
- 28 遊覧所業(展望台、パノラマ、遊園地、庭園、動植物園、海中公園等)
- 29 医療保健業
- 30 技芸教授業
- 31 駐車場業
- 32 信用保証業
- 33 無体財産権の提供等を行う事業
- 34 労働者派遣業
34業種に当てはまる行為、つまり大半の取引行為は、商行為として扱われます。
上記の収益事業でなく、かつ非営利型の一般法人であれば、法人税としては非課税になりますが、先ほども述べたとおり、消費税は対価性のあるものに対し課税されるため、税務署により消費税が課税対象か判断されますので、「非営利型の一般法人であるため、税金は全てかからない」というものではなく、「非営利型の一般法人は、非営利の部分に関しての法人税はかからないが、消費税は売上規模によりかかる必要がある」ということに気をつける必要があります。
この点の線引きは、繰り返しになりますが、税理士・税務署の判断を受け、尊重することが重要です。役員や、経理担当者の判断ではなく、専門家や徴税機関の見解を踏まえ判断することが欠かせません。
(参考:国税庁:一般社団法人と一般財団法人と法人税)
ちなみに、一般社団法人は理事一人で設立する事も可能です。ただし、非営利型法人の要件には当てはまらない(親族要件に合致しない)ため、全所得が課税となります。
1-6 一般社団法人で会費制度を用いるケース
一般社団法人で会費制度を導入するケースは多種多様です。意外と増えてきているのが、大学など学校の同窓会の一般社団法人化です。
一般社団法人を設立している大学同窓会には、下記のような大学があります。
- ・一般社団法人 津田塾大学同窓会
- ・一般社団法人 東京農工大学同窓会
- ・一般社団法人 獨協大学同窓会
- ・一般社団法人 芦屋大学・短期大学同窓会
- ・一般社団法人 芝蘭会(京都大学医学部OB/OG)
- ・一般社団法人 桃山学院大学同窓会
- ・一般社団法人 東京都立大学同窓会
- ・一般社団法人 目黒会(電気通信大学同窓会)
- ・一般社団法人 プール学院同窓会
この他にも多数の大学等、学習機関の同窓会が、一般社団法人として活動しています。
同窓会の活動は様々でしょうが、多くの場合は年会費の支払いがあり、加えて各地での同窓会等があります。大半のケースは非営利と見なされ、収益事業として扱われることは考えにくいと言えます。
ただし、これもケース・バイ・ケースです。年会費等は通常、収益事業と見なされる要素は極めて少ないですが、念のため確認しておくことが必要です。
1-7 一般社団法人における会費の傾向は
一般社団法人の会費については、法人を対象にした一般社団法人と、個人を対象にした一般社団法人で異なります。
当然ながら、個人を対象にした一般社団法人の会費は安価な傾向が強いです。会費は年間数千円から高くても数万円です。学生など一定の条件で無料という社団法人もあります。一方、法人を対象にした会費は高価な傾向があります。年会費が数万~百万以上になる一般社団法人も存在します。
例えば一般社団法人日本資金決済業協会の場合は、会員の種別や前年度の発行額により年会費168万円~18万円と大きな差があります。
法人向けの場合、性質上専門的な集まりになり、運営費用もかかる上に、法人の負担力が大きいため、会費が高額となるケースが多いです。個人向けの場合は大半の一般社団法人が、個人で加入しても負担感の少ない年間数千円程度(個人事業に関わる場合は数万円程度も)に設定されている傾向です。
1-8 社団法人の区分が変更された場合の税務上の扱い
社団法人が、組織変更された場合(もしくは、税務署の判断で税務上の扱いが変更されたケース)を検討します。
一般社団法人→公益社団法人となったり、一般社団法人→一般社団法人(非営利型)へ法人の区分変更が生じた場合は、「定款で定めた事業年度開始の日からその該当することとなった日の前日までの期間」と「該当することとなった日から定款で定めた事業年度終了の日までの期間」をそれぞれ別個に、一つの事業年度とすることとされています。
具体例は、下記の通りです。
公益社団法人→非営利型法人:公益認定取消の日
公益社団法人→非営利型法人以外の普通法人:公益認定の取消の日
非営利型法人→公益社団法人:公益認定を受けた日
非営利型法人→非営利型法人以外の普通法人→非営利型法人の要件に該当しなくなった日
非営利型法人以外の法人(普通法人)→公益社団法人:公益認定を受けた日
非営利型法人以外の法人(普通法人)→非営利型法人:非営利型法人の要件の全てに該当することとなった日
非営利型法人以外の法人が公益社団法人・公益財団法人または非営利型法人に該当することとなる場合には、その「該当することとなる日の前日」にその普通法人が解散したものとみなし、その該当することとなった日にその公益法人等が設立されたものとみなして、一定の法人税に関する法令の規定等を適用することとなります。
該当することとなる日の前日、というのは官公庁の言い回しによくある独自の表現ですが、具体的な事例を検討します。
例えば、事業年度の開始を5月1日とする一般社団法人Aが公益認定を令和3年6月9日に受けた場合は、会計期間はどのようになるでしょうか。
5月1日~6月8日までの期間を、一般社団法人としての一つの事業年度として会計を行い、6月9日~令和4年4月30日までの期間を公益社団法人としての一つの事業年度として会計を行うこととなります。
そのため、1年に2パターンの会計を行うこととなり、会計・決算は非常にややこしくなってしまいます。
また、公益社団法人・公益財団法人または非営利型法人が非営利型法人以外の法人に該当することとなった場合(税務署の判断で税務上非営利型法人以外の法人にする扱いになった場合)、過去の収益事業以外の事業から生じた所得金額の累積額または欠損金額の累積額を益金の額または損金の額に算入することとなります。
加えて、全所得課税扱いになった場合は、過去に受けた優遇税制分の取り戻し課税も行われることとなり、税負担が生じるおそれがあるので、会計の負担も相当な物になりますので、この点も注意する必要があります。
1-9 会費制度と定款・各種規定
会員制度・会費制度に関しては、会員制度の規定を定款に記し、会員区分・会費規定をともに定款で定めるという運用方法もありますが、後ほど述べるとおり、定款変更は非常に手間がかかります。
そのため、会員制度の規定は定款に記載するとして、各種社会状況により、会費の設定を柔軟にできるように「会員区分は定款で定め、会費規定等細かな部分は、別途規定として定める」という方式がより柔軟・簡便に対応できます。
一般社団法人が定款を変更するのは、ハードルが高い「特別決議」を社員総会で通す必要があります。
具体的には、社員総会決議にて、総社員の半数以上が議決権を行使(出席・委任投票)し、かつその中で議決権の3分の2(定款で3分の2を上回る議決権を定めた場合はその割合)以上の決議をもって行う、つまり大半の会員が賛成している状態でないと、社員総会決議は可決できません。
そのため、社員総会の招集・決議を行うまでの手間もかかりますし、議決権行使者のうち3分の2を上回るという条件も、ハードルが高いです。ですので、定款変更が必要な部分は最小限にとどめ、別途規定等で定めることが可能な会費や会費返還等の部分は、規定で定めることが望ましいです。
2 一般社団法人の会費制度導入
ここまで一般社団法人の制度概要全般を説明しました。では、実際に会費制度を一般社団法人に導入する際には、どのようなポイントを抑え、どのような点に注意していくべきでしょうか。
2-1 会費制度導入のポイント
これから一般社団法人を設立する事と、現在の一般社団法人に会費制度を導入するのとでは、負担が大きく異なります。これからの場合は負担が少ないですが、既存の一般社団法人に会費制度を導入するのは大変です。
一般社団法人をこれから設立する場合は、一般社団法人側にとって有利な内容を整備しておけます。
定款に会費制度の存在や、退会時の会費返還の有無を規定しておくことが重要です。ただ、この内容については、代表理事やスタッフだけで考えたり、ネットで探すよりも、一般社団法人の制度概要全般に通じた専門家に依頼する事が望ましいと言えます。
要点として抑えておくべきポイントは、下記の3点です。
- 1 定款に入会金や会費の存在を記載
- 2 定款に資格喪失・退会時、会費等の返還を行わないことを記載
- 3 具体的な入会金や会費、その他は定款と異なる規約で整備
会費制度を導入するには、定款に会費制度の存在を記載することが前提になります。しかし、これまででも触れたように、具体的な入会金や会費まで定款で定めてしまうと、変更の度に定款を変更する必要があります。そうすると、司法書士の登記手続費用、法務局への定款変登記手続と収入印紙の納付が必要となり、時間とコストがかかってしまいます。
また、社団法人として組織活動を行う上では、多くの人が参加すればするほど、意見の食い違いや組織対立、内紛が生じる可能性が生じてきます。組織トラブルの内容によっては、加入者の中途退会、脱退処分、除名処分などが生じる可能性があります。
ここで、定款において入会金や諸費用・一度納入した会費は返還しないという旨の記載をしておくことが重要です。脱退した(させられた)側は、当然ながら一般社団法人に対して悪印象を持っている可能性もあります。相手の考え方によっては、入会金・諸費用・納入会費の日割り額の返還などを求められる可能性があります。
規定を明確に作っておけば、「加入時に規定を定め、合意してもらっている」という一言ですむ可能性が高くなります。しかし規定が定まっていない場合や、規定が不明確な場合、特に除名など敵対的脱退処分の場合に、相手方から各種会費の返還などを迫られるケースに対抗する必要があります。
最初から規定しておけば、不要な争いをせずに済むので、紛争の目を摘めるように定款や規定を整備しておくことが重要です。
また、入会金・会費他個別具体的な内容は、別途規約を整備し、定款変更を伴わない手続で変更できるようにしておくことも大切です。様々な事業により、会員規約や入会費・年会費・会員特典などの変更の必要性が生じた場合に手間を減らすことができます。
なお、自分が組織に加入する立場で考えてみればわかることではありますが、入会金や会費制度を導入する上では、納得感のある価格設定と価値の提供が重要です。
組織の運営内容や必要資金、加入者のメリットに応じた入会金や会費でないと、会員の納得を得ることは難しいと言えます。
社団法人の活動にかかるお金が足りませんので、年会費を上げさせてくださいという内容では、運営の経営能力も疑問視されますし、活動そのものに魅力がないという印象を持たれかねません。
特に、途中から会費制度を導入する場合は、少ない金額でも反対する人が出る可能性があります。たとえ年間数百円、数千円の会費であっても、お金を出すものに無条件で反対する人も、いないとは限りません。
また、お金を出すこと自体はやぶさかではないという会員でも、活動に意義を感じなければ反対する(もしくは黙って退会する)と言うこともあり得るのです。
そのため、会費制度の導入の際は、会員や会員になる予定の人たちの話をよく聞く必要があります。良識ある人であれば、支出額に対する納得感があれば、きちんと受け入れてくれる可能性が高いです。
ただ会費を納めて欲しいということだけではなく、「一般社団法人の運営を健全に行うために、これだけの費用が必要で、これだけの会費を負担能力に応じ出してもらう」「今後、会費増に見合うだけの活動をしていく」という合理的な説明があれば、相手も受け入れやすいと言えます。
そして、重要なのが、先ほども述べた一般社団法人の設立・運営に詳しい専門家への相談および定款等、各種書類の作成・整備依頼です。
主に税理士・司法書士・行政書士(行政書士の場合、登記を行う司法書士との連携が要される)が相談先となりますが、できるだけ一般社団法人の様々な事例に通じている専門家に依頼する事が望ましいです。
やはり途中からいろいろと手直しをするのは負担が大きいので、一般社団法人設立の時点から専門家に依頼し、一般社団法人としての方向性も伝えた上で、定款や各種規定作り、手続等を行っていくことで、結果として後のトラブルを減らすことができます。
2-2 会費制度導入の注意点
これまでの説明と重複する点もありますが、会費制度を導入する際には、会費について法人税の控除が受けられる「非営利型一般社団法人」の検討もお勧めします。
ただし、非営利型一般法人の形態をとることで制限も生じますので、会費の法人税控除に関して必要性を感じられない、もしくは代表理事1名の組織であり、そもそも非営利型一般社団法人の条件に合致しない場合は、通常の一般社団法人で問題ありません。
年会費・入会費については、繰り返しになりますが「客観的に見て納得感があるか」、第三者に聞いてみて、入る価値があると思ってもらえるものであるかがポイントになります。
年会費・入会費がかかり、活動にボランティアの手伝いをする必要があるというような、お金以外の負担がある場合はなおさらです。
当然みんな人間ですので、個人として入る価値があるか、法人として加入する価値があるかについては、冷静に検討すると推測できます。
その上で、「会員が加入意義を感じられる活動・サービスの提供」や「会員が会費の使い方に関して納得できるような情報公開」が必要になります。
具体的な情報公開としては、全会員への決算報告、資金をどのような方面に活用したかの説明など、明確な説明が重要です。
当然、十分な活動をしていないのに、役員報酬や諸経費だけは高いという状態であれば、多くの会員は離れていくことが考えられます。一方で、会の活動が、会員や社会の為になっているというものであれば、会員も納得感を持ってくれると言えます。
やはり、お金をいただくからには何らかの意義なり価値提供は必要です。それが物質的なものであるか、人とのつながりであるか、社会貢献であるか、ビジネスにプラスになるものであるかなど、意義・価値提供の仕方は様々です。ただ、何らかの意義・価値提供は必要であると言うことは、繰り返しお伝えしたい要素です。
3 まとめ
以上、ここまで一般社団法人等、社団法人制度の解説、公益法人制度改革の解説を踏まえ、一般社団法人に会費制度を導入する方法、導入する際のポイントや注意点をお伝えしました。
会費制度の導入では、なによりも会費以上の価値提供と、会員に対する「会員として会費を払ってでも加入してよかった」と実感してもらうことが重要です。
得られるものは変わらないのに、会費は高くなる、もしくは会費を新規で支払うことになるという状況では、組織を脱退する人が出始める可能性もあります。
改めて、自分自身が外野の立場だったら、本当に入りたいと思うか、社会のためになるか、会員のためになるなど、どこかにバリューを提供できているかという目線は重要と言えます。