一般社団法人の解散後に残余財産が残った場合はどうする?
一般社団法人は非営利法人会社に該当し、解散する時に残った資産を分配できません。一般社団法人が解散して清算すべき資産が残った場合、株式会社などとは異なる処理が必要になります。今回の記事では、一般社団法人が解散したのちの清算と残余財産の処理についての概要と具体的手続きなどを解説するので、参考にしてみてください。
目次
1 解散と清算
法人には起業する法人もあれば、廃業する法人もあります。2021年1月から12月までの廃業や休業や解散した企業は4万4,377社になります。前年比10.7%減少であり、コロナ禍で過去最高だった2020年から1割以上減少した結果となりました。
この現象は、政府や自治体などによって実現したゼロゼロ融資などの資金繰りの支援をおこなった結果、2021年の倒産件数は57年ぶりの低水準となっていました。上記の状況を鑑みると、資金繰りの支援に支えられて廃業などの解散企業が少なく抑えられた可能性があります。
しかし、帝国データバンクの記事(『休廃業・解散企業は前年から1割減の4.4万件、廃業前決算「黒字」が大幅減【2021年】』)によれば、2021年の休廃業した事業者の数は、2020年と2018年に次ぐ3番目の高水準となっています。
2022年以降は、ゼロゼロ融資の新規受付の停止など政府などが進めていたコロナ禍対策の資金繰り支援も出口を探している状況です。ゼロゼロ融資の新規受付が終了した2022年4月以降前年同月比での倒産件数の増加など、企業の苦しい経営状態が浮き彫りになっています。
そのため、今後再び休廃業・解散を選ぶ企業が増えていくことが予想されています。
1-1 解散とは
法人の解散は、法人が持っている法人格を消滅させる法的手続きになります。解散をしたからといって会社がなくなるわけではありません。解散したら、法人の債権や債務を整理する清算手続きが必要です。
解散からの手続きは、法律に則って実施していきます。手続きには、最低2ヶ月以上の期間が必要になります。解散する時点で、収益を生む事業活動は終了しているため、解散後はスムーズに手続きを実施して、手間も時間もかけないようにすることが求められます。
●会社が解散を選択する理由
法人が解散を選択する理由はさまざまです。
- ・事業活動をしていない
- ・業績の悪化によって収益がない
- ・後継者がいない など
●事業活動をしていない
事業活動をしておらず、今後も活動を再開する予定がない場合、解散を選ぶケースが多くなります。
一方、今後活動を再開する可能性がある場合には休眠を選択します。事業活動する予定のない法人を解散や休眠させない状態で維持しておくと、法人住民税などの納税義務が残ります。また、確定申告や許認可に関わる手続きを継続する必要があります。
●業績の悪化によって収益がない
事業を継続しているものの利益が出ない法人も解散を選ぶ場合があります。一般社団法人を含めて、事業をする上では収益=売上がないとサービスを継続するための原価などの費用や、事務所家賃や人件費などの費用も支払いできません。
費用を支払いできないと、事業が維持できなくなります。そのため、事業を維持する上ではそれに見合う収益が必要になります。
収益がないということは、商品やサービスを必要とするお客様がいないということになります。お客様がいない以上、事業を継続する意義も無くなってしまいます。
●後継者がいない
現在の少子高齢化社会において、後継者問題は企業存続の上で重要な課題になります。一般社団法人においては、社員が一人もいなくなったタイミングで解散となります。
収益や利益が上げられていても、経営者が高齢になり事業を継続できなくなるタイミングが必ず来ます。このタイミングで法人の後継者がいれば、法人を継続できます。しかし、後継者がいなければ解散以外の選択肢がなくなります。
●法人が解散するための条件
法人を解散させようとする時には、解散事由が必要になります。解散事由は、以下の7つが会社法で定められています。
- ①社員総会決議で決定する
- ②定款に記載されている存続期間が満了する
- ③定款に記載されている解散事由が発生する
- ④合併などにより法人が消滅する
- ⑤破産手続きの開始が決定する
- ⑥裁判所によって解散を命令される
- ⑦休眠会社がみなし解散となる
●社員総会の決議で決定する
社員総会で、解散の決議をおこなった場合に解散を行います。非営利法人では最高意思決定期間が社員総会になり、株式会社では最高意思決定期間である株主総会で決議されます。
●定款に記載されている存続期間が満了する
定款に法人の存続期間を記載している場合があります。
記載例:当法人は、○年○月までを存続期間とする
このような存続期間を定めている場合で、かつその定款を変更しない場合には解散事由になります。
●定款に記載されている解散事由が発生する
同じく、定款に法人の解散事由が記載されている場合があります。
記載例:当法人は、○○の目的を達する場合には解散する
定款に定める解散事由は法人が達するべき目的の場合や存続価値の最低限を定めている場合などもあります。
●合併などにより法人が消滅する
知名度は高くありませんが、社団法人同士の合併は可能です。過去には、『日本建設業団体連合会』と『日本土木工業協会』と『建築業協会』の3つの団体が合併して、『日本建設業連合会』ができた事例などが有名です。
●破産手続きの開始が決定する
支払いしなければいけない負債の返済ができなくなって、企業が事業の継続ができなくなると破産などの債務整理を実施します。破産には、法的倒産と銀行取引停止などの私的倒産があります。
会社を再建しながら倒産する民事再生法は株式会社のみが適用になり、一般社団法人は適用できない点には注意が必要です。
●裁判所によって解散を命令される
一般社団法人が裁判所の解散命令を受ける場合は以下のような場合が該当します。
- ・一般社団法人の設立目的が、不法であると判断されるとき
- ・一般社団法人が正当な理由なく、成立から1年以内に事業開始をしない、あるいは1年以上事業を休止するとき
- ・業務執行理事に刑罰法令に触れる行為などがあり、法務大臣による書面警告を受理した後に継続的もしくは反復した違反行為があったとき
●休眠会社がみなし解散となる
一般社団法人の看做し解散は、最後の登記から5年経過した法人が該当します。最後の登記から5年経過した時点で『休眠一般法人』となって、法務局の権限によって「みなし解散登記」が行われます。
1-2 清算とは
解散と必ずセットで実施されるのが、清算になります。解散と清算は、法人の人格を消滅させるためのそれぞれのプロセスになります。
解散は会社の事業活動を終了させることを意味し、清算はその会社の財産を整理して債権債務を清算することを意味します。また、一般社団法人の清算処理は解散を決議した社員総会で選任された清算人が実施します。
●清算人
清算人は、解散した法人についての残務処理をする人になります。残務処理には以下のような事項があります。
- ・解散までに終了できなかった業務(現務の結了)
- ・法人名義の資産や財産などの処分
- ・債権の取り立ておよび債務の支払い
- ・法務局への申請手続き
- ・税務署などへの解散届出 など
清算人は、解散する社員がスライドして清算人に就任することが一般的です。しかし、必ずしも社員が清算人にならなければいけないというわけではありません。
清算人になる場合は、以下の3つのプロセスで決定されます。
- ①解散する法人の定款で定めがある場合
- ②解散を決議した社員総会の清算人選任決議があり、選任された本人の承諾がある場合
- ③裁判所が選任する場合*
清算人になることができない人についての定めはあります。以下に該当する場合には、清算人になることができません。
- ①法人
- ②成年被後見人もしくは被保佐人
- ③会社法、証券取引法、破産法などの法律によってに刑が課され、その執行の終了日(又は執行を受けなくなった日)から2年が経過していない者
- ④上記の一定の法律以外の罪で禁固以上の刑が課され、その執行の終了するまでの者(又はその執行を受けなくなるまで、執行猶予期間中ではない者)
清算人は複数人がなることもでき、一人もしくは複数でなければならないといった決まりはありません。複数の清算人がいる場合には、代表清算人を選任します。
清算人には、報酬が出ます。報酬額は定款や社員総会で決定します。また、裁判所が選任した清算人は、裁判所が報酬を決定します。
*設立が無効と判決が出た場合などが該当します。
清算人は、社員総会の決議によって解任できます。ただし、裁判所が選任した清算人は社員総会の決議によって解任できずに、一般社団法人の社員による解任の申し出を裁判所が認めた場合に解任できます。
●清算の種類
清算には、『通常清算』と『特別清算』があります。解散した法人の資産が負債を上回っている『資産超過』の状態で実施する清算が通常清算になります。逆に、負債が資産を上回っている『債務超過』の状態で実施する清算が特別清算になります。
一般的な法人の清算は、通常清算の流れを取ります。(通常清算の流れについては、次章で解説します。)
●特別清算
特別清算手続きは、清算中の法人における清算の遂行に支障をきたす事業がある、もしくは債務超過の疑いのある際に、裁判所が監督する元において実施される清算手続になります。
特別清算は、裁判所が選任した清算人が裁判所の監督下にて手続きをすることになります。
なお、特別清算は株式会社しか利用できません。
1-3 一般社団法人の解散の流れ
具体的に一般社団法人が解散する場合には、どのような流れになるのかとそれぞれどのくらいの時間が必要なのかを押さえます。
なお、一般社団法人が解散する時に最も多い解散の方法は『社員総会の決議』によって解散を決めるパターンになります。そのため、ここでの説明は社員総会の決議を前提に説明します。
<解散からの流れ>
- STEP1 社員総会での解散決議
- STEP2 解散と清算人選任の登記申請
- STEP3 財産目録と貸借対照表の作成
- STEP4 債権者保護手続
- STEP5 残余財産の処分
- STEP6 社員総会での決算報告書承認
- STEP7 清算結了の登記申請
この7つのステップを順々に実施していくことで法人格が消滅、つまり一般社団法人が無くなります。
●社員総会での解散決議
一般社団法人における重要な意思決定は社員総会で決議します。社員総会は、社員の出席が必要になります。
一般社団法人の社員は、株式会社でいう株主と同じように、社員総会に参加して議決権を行使することができる人物を言います。
解散の決議は、特別決議になります。特別決議は、総社員の半数以上が出席して、総社員の議決権の2/3以上の賛成が必要になります。
法人の解散を議論する場合には、できるだけ全社員の同意を得ておくことが望まれます。特別決議自体は2/3以上の賛成で充分ですが、解散する上では全員の協力のもとスムーズな手続きや分担して処理が進められます。
社員決議で一般社団法人の解散する決議と同時に、清算人の選定も決議します。一般的に、清算人に選定されるのは代表理事ですが、社員総会決議によって第3者が清算人になることもできます。解散前には、一般社団法人を代表するのは代表理事ですが、解散後の一般社団法人の代表は清算人へと変わります。
●解散と清算人選任の登記申請
社員総会で解散を決議した日から2週間以内に、『解散』と『清算人選任』登記申請をしなければなりません。解散の登記申請は、清算人が法人の本店住所を管轄する法務局で実施します。
解散登記の申請に必要な書類などは以下の通りです。
- ・解散を決議した社員総会の議事録
- ・清算人を選任した社員総会の議事録
- ・清算人及び代表清算人の就任承諾書
- ・定款
- ・登記免許税*の39,000円
*解散の登記免許税は30,000円、清算人選任登記は9,000円になります。
解散決議から解散登記を2週間以上の期間が空いてしまった場合には、法人住民税などの納付義務が課されて、法人税などの確定申告が必要になります。
また、実際には解散を意思決定しているにもかかわらず登記上では今まで通り法人が存続し続けている状況です。法人登記の書類を悪用される可能性もあるため、解散の決議を実施したら早急に解散登記を実施するようにします。
少なくても、解散を決議するタイミングでは法務局へ登記する日付をスケジューリングしておくなどの準備は必要です。
解散登記が完了した後には、各公的機関へ解散届出の手続きを行います。各公的機関とは以下の機関になります。
- ・税務署
- ・県税事務所/市税事務所
- ・年金事務局
- ・ハローワーク
- ・労働基準監督署など
各公的機関で必要な手続きについては、事前に各機関に相談しておくことを推奨します。また、相談の時に解散登記後どの程度までに届出が必要なのかを確認するとともに予約などができる場合には届出日時を確定していくと良いです。
●財産目録と賃借対照表の作成
清算人は、清算人に就任した後には遅滞なく清算する法人の財産状況を調査しなければなりません。そして、清算人は調査した財産状況をもとに財産目録と貸借対照表を作成します。
財産目録とは、定められた時点における法人の保有する土地や建物や現金などの資産と未払金や借入金などの負債について、区分と種類で分けた一覧になります。財産目録を見ることで、その法人の財産状況が明確になります。
記載方法は、『区分・種別』『数量』『金額』『備考』に分けられて記載されます。
通常では貸借対照表を保管する目的で作成される書類になり、期末時点に一般社団法人が所有する資産状況を財産目録として作成します。
財産目録は、貸借対照表と比較してより細かい情報を記載しています。具体的には、同じ現金についての記載であっても貸借対照表では『現金○○円』と記載され、財産目録では『○○銀行○○支店○○円』と記載されます。
貸借対照表は、バランスシートとも呼ばれます。法人が調達した資産をどのように活用したのかを示す表です。法人の財務状況を表している点では財産目録と同じ目的を持つ表とも言えます。
貸借対照表も、財産目録と同様に原則期末時点における資産状況を貸借対照表として作成します。貸借対照表は、財務三表の1つで決算書として毎期作成されて、その企業の状況を知ることができる資料になります。
調達した資産は、負債と純資産に区分されます。活用されたものは資産に分けられます。この『負債』と『純資産』と『資産』の3つに分けられて、表の右側に記載された資産と左側の負債と純資産の2つの合計が資産と必ず一致するようになっています。
清算人が作成する財産目録と貸借対照表は、解散した日の財産状況をもとに作成することを義務付けられています(会社法492条1項)。
●債権者保護手続
解散をする一般社団法人が行う債権者保護手続きは、解散しようとする自社に対して解散する事実を伝えると共に異議の申し出を一定期間受ける旨を伝える手続きと言えます。
法人を解散することは、債権者にとっては請求すべき対象が消滅してしまう可能性があり不利益を被る可能性があります。債権者の請求権などの利益を保護するために実施するのが債権者保護手続きです。
債権者保護手続は、『官報公告』と『個別の催告』によって実施します。官報公告は、解散の内容や一定期間(1ヶ月以上)は異議を述べる機会がある旨などを記載します。個別の催告も記載すべき事項は同じです。
債権者保護の手続きで注意しなければいけないのは、公告や催告を実施してから1ヶ月以上の期間は債権者に異議を述べる期間を確保しなければいけない点です。
債権者が異議を述べる期間を1ヶ月以上確保せずに済ませると債権者保護手続きが不十分とみなされる可能性があります。
債権者が異議を申し出してきた場合でかつ債権者を害するおそれがある場合には、解散しようとする法人は以下のいずれかの対応を必要になります。
- ①支払い
- ②債権額に応じた担保提供
- ③信託銀行などに債権額相当の財産を信託
債権者保護手続きを行なったことを証明する書面は登記申請時に証明書類として提出を求められる場合があります。債権者保護手続きが認められない場合には登記が完了しないことが想定されます。
なお、債権者保護手続きに関わらず、債権は請求する権利があり、債務は弁済する義務があります。そのため、債権は入金されるように請求や回収を行い、債務は返済していきます。
●基金の返還
一般社団法人は、株式会社のように資本金の仕組みがないため、出資を受けることができません。一般社団法人が資金を調達するために、基金制度があります。
基金制度を活用して、一般社団法人は企業や個人から金銭や財産を受け取ることができます。基金には寄付金と異なり、返還義務があります。基金には利息をつけることができません。そのため、拠出した金額そのままが返還されます。
返還義務があるものの、基金は貸借対照表上の『純資産額』が基金総額を超過している場合に限られています。また、その限度額も純資産額から基金総額を超えている金額を上限とされています。
基金の返還時期は、定款に定められていることが一般的で、解散時に返還することが多くなっています。
●残余財産の処分
株式会社と一般社団法人で最も大きく異なってくるのが、残余財産についての処分方法になります。残余財産は、債権を回収して債務を返済して、さらに基金を返還した後に残る財産を言います。
残余財産がある場合には処分をするのですが、その処分の優先順位は法律で定められています(法人法第239条)。法律で定められている優先順位は以下の通りです。
<法人法第239条 残余財産の優先順位>
- ①残余財産の処分方法が定款で定められている場合、定めに従う
- ②定款に定めがない場合、社員総会の決議で定める
- ③定款に定めがなく社員総会決議で定まらない場合、国へ贈与
残余財産の手続きについての詳細は後述します。
●社員総会での決算報告書承認と確定申告
確定申告をする前段として、清算処理が終了したタイミングで決算報告を作成して、決算報告を社員総会で承認を受けます。
法人が解散・清算する年度の税務申告は、3つあります。
- ①解散事業年度確定申告書
- ②清算事業年度確定申告
- ③残余財産確定事業年度確定申告書
解散事業年度確定申告書
法人を解散した日の翌月から2ヶ月以内に実施する確定申告になります。解散事業年度(解散をする日を含む年度で、事業年度開始日から解散をする日までの期間)に対して、法人税・消費税・法人住民税・事業税の確定申告を実施します。
清算事業年度確定申告
事業年度が終了した月から2ヶ月以内に実施する確定申告になります。清算手続きが事業年度をまたぐ場合に必要となる確定申告になりますので、解散した日と清算が結了した日が同じ事業年度の場合には実施の必要はありません。逆に、解散した日から清算が結了するまで複数の事業年度が経過する場合には、事業年度が終わる毎に清算中に発生する所得を申告しなければなりません。
残余財産確定事業年度確定申告書
残余財産額が確定した日から1ヶ月以内に実施する確定申告になります。残余財産は、債権者保護の観点からその分配をするのは資産処理の最後になります。残余財産を処理しようとするタイミングでは債権の取り立てや資産の処分や債務の弁済を完了しておく必要があります。
●清算結了の登記申請
決算報告が承認された日から2週間以内に、主たる事務所を管轄する法務局で清算結了の登記を行います。
清算結了の手続きが全て終了して、法人格が消滅しますが、清算人の最後の仕事はまだ続きます。清算人は清算結了の登記から10年間は、清算した法人帳簿と事業と清算に関する重要書類を保管しなければなりません。
清算法人の重要書類は、裁判所の許可を得た者が資料閲覧ができることになっています。
●解散から清算結了までにかかる費用
解散から清算結了までに必要な費用は、前述の「解散」と「清算人選任」の登記料計39,000円以外にも発生します。官報公告費用は、桁数によって異なりますがおよそ30,000円前後かかります。
会社の解散は、専門家に依頼できます。依頼する専門家によって、費用は変わってきます。弁護士へ債権者や債務者との交渉を依頼すると、数十万円前後の費用がかかります(交渉相手が複数で債権額や債務額が高額の場合には、費用が高くなります)。司法書士に登記手続きを依頼すると、10万円前後の費用がかかります。税理士に税務申告を依頼すると、やはり10万円前後の費用がかかります。
また、前述の通り清算人に報酬を発生させることができます。
2 残余財産
残余財産は、法人が解散・清算した後に残った財産です。
一般社団法人の残余財産をどのように処理できるかは、一般社団法人の種類によって変わります。一般社団法人の種類は、『普通型』と『非営利型』があります。法人の種類や一般社団法人の種類によって、残余財産の処分の仕方は制約を受けることを前提に、法人設立の際に法人の種類や一般社団法人の種類を選択する必要があります。
2-1 残余財産とは
一般社団法人の残余財産は、法人の解散・清算を実施する場合、清算人によって資産を現金化して、支払いすべき債務を支払い、基金の返還を実施した後に残る資産です。
残余財産の処理は、一般社団法人の種類で異なるのは前述の通りですが、株式会社の残余財産の分配も一般社団法人とは異なります。
●株式会社の残余財産の分配
株式会社では、残余財産の分配は清算人によって株主に分配されます。分配の仕方は、会社法の「株主平等の原則」に従って、全ての株主に保有する株式数に応じて均等に分配されます。
ただし、種類株式を発行することで均等に分配しないことも選択できます。種類株式には、残余財産の優先的な分配を受ける種類株式や、分配されない種類株式などがあります。
種類株式を発行するためには、定款に定めることが必要です。
種類株式などによって分配の方法は異なってきますが、株式会社では残余財産は株主に分配されます。一方で、一般社団法人では単純に社員へ分配されるわけではない点が大きな相違点になります。
2-2 普通型一般社団法人での処理
一般社団法人は税法上の観点から普通型と非営利型に分かれますが、ここでは普通型の一般社団法人の残余財産処理について解説します。
●普通型一般社団法人とは
法人の種類には『営利法人』と『非営利法人』があります。法人の種類における非営利法人と『非営利型一般社団法人』では、異なる意味になります。
非営利法人とは「NPO法人」や「一般社団法人」などが代表的な法人である、営利を目的としない法人になります。
営利を目的としないため、法人を構成員する社員へ余剰利益の分配ができません。余剰利益は、次の事業年度へ繰越しする、もしくは法人設立の目的を実現させるために利用しなければなりません。
普通型一般社団法人は、税法上の法人区分によって非営利型一般社団法人ではない一般社団法人になります。普通型一般社団法人は、事業活動を実施する法人になり、収益全てに営利法人と同様に全て課税対象となります。
普通型一般社団法人は、『非営利性が徹底されていない*』もしくは『共益的活動を目的としていない*』一般社団法人になります。
*詳細は後述します。
●普通型一般社団法人の残余財産の帰属
普通型一般社団法人の残余財産の処理は、定款の定めが最優先になります。定款に定めがない場合には社員総会の決議で定めることになり、それでも決定しない場合には国庫に帰属することになります。
定款の定め方は、以下の通りになります。
(残余財産の帰属) 第○条 清算によって有する残余財産については、埼玉県に贈与することとする。 |
(残余財産の帰属) 第○条 清算によって有する残余財産の帰属については、社員総会の決議にて決定するものとする。 |
●残余財産を社員に帰属する
残余財産を社員に帰属することは可能です。残余財産を社員に帰属するためには、社員総会決議にて決定します。
残余財産を社員に帰属することを定款に定めることはできません。法人法人第12条2項で、社員に剰余金または残余財産を分配する権利を社員に与えることを定款に定めたとしてもその効力は有効ではないことが規定されています。
ただし、残余財産を社員に帰属させる社員総会で決議できるのは普通型一般社団法人のみになり、非営利型一般社団法人ではできません。
2-3 非営利型一般社団法人での処理
非営利型一般社団法人は、税法上の法人区分になります。
非営利型一般社団法人には、2つのタイプに分けられます。
- ①非営利性が徹底された法人
- ②共益的活動を目的とする法人
●非営利性が徹底された法人とは
非営利性の徹底は、以下の4つの要件全てに該当している法人になります。
- ・定款に剰余金の分配を実施しないことが定められている
- ・定款に残余財産を国や地方公共団体や公益的な団体への贈与をすることが定められている
- ・理事の総数に対して、理事とその親族が務める理事の合計が1/3以下である
- ・剰余金や残余財産について定款の定めに反しない、また上記3つの要件に該当する期間中について特定の個人や団体への特別な利益を提供しない
●共益的活動を目的とする法人とは
共益的活動を目的とする法人は、以下の5つの要件全てに該当している法人になります。
- ・会員に対しての共通利益を図る活動を法人の目的とする
- ・定款などに会費の定めがある
- ・主たる事業が収益事業ではない
- ・定款に特定の個人や団体に剰余金の分配を実施することが定められてい
- ・定款に残余財産を特定の個人や団体に帰属させることの定められていない
- ・理事の総数に対して、理事とその親族が務める理事の合計が1/3以下である
●『異動届出書』の提出
『非営利性の徹底』もしくは『共益的活動を目的とする法人』のどちらかの要件全てに該当する一般社団法人は、税法上の公益法人などである非営利型一般社団法人となります。
非営利型一般社団法人になった後には、本店住所を管轄する税務署へ『異動届出書』を提出しなければいけません。
また、非営利型一般社団法人は要件の1つでも該当しない事項が発生すると、普通型一般社団法人になります。この時も税務署に異動届出書を提出しなければいけません。
●非営利型一般社団法人の利点
税務署に異動届出書を提出した非営利型一般社団法人は、法人税法上「公益法人等」となることができます。公益法人になると、収益事業からの所得だけが課税対象となります。つまり、収益事業以外の事業からの収益は課税対象ではなくなります。
●非営利型一般社団法人の残余財産の帰属
非営利型一般社団法人の残余財産は以下のうちどちらかに帰属する旨が定款に定められているため、定款に従って分配します。
<非営利型一般社団法人の残余財産帰属先>
- ・国や地方公共団体
- ・公益社団法人、公益財団法人
- ・学校法人
- ・社会福祉法人
- ・更生保護法人
- ・独立行政法人
- ・国立大学法人、大学共同利用機関法人
- ・地方独立行政法人
- ・特殊法人(株式会社を除く)
- ・認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)等
- ・類似の事業を目的とした一般社団法人や一般財団法人
普通型一般社団法人でできた社員総会決議で帰属先を決定することは、すでに定款に残余財産の帰属について定款に定められているためできません。
社員を帰属先に定める定款は無効となるため、非営利型一般社団法人では残余財産を社員に帰属させることができません。
3 公益社団法人への移行
一般社団法人は、公益社団法人に移行する場合があります。公益社団法人に移行することで、税制上の優遇措置を得ることができます。また、設立が比較的簡単な一般社団法人と比較して、認定を受けなければなれない公益社団法人は信用が高くなります。
一方で、公益性が求められる公益社団法人は、残余財産の処分の仕方も一般社団法人とは異なってきます。
3-1 公益社団法人とは
公益社団法人は、公益事業を主な目的として活動する法人になります。公益とは、不特定かつ多数の者の利益を意味します。広く社会やそこで生活する人々が利益を得ることを目的に活動する法人が公益社団法人になります。
公益社団法人は「株式会社」や「一般社団法人」のような法人格になります。そのため、法人名称は「公益社団法人○○」といった名称になります。
●公益社団法人のいきなりの設立はできません
公益社団法人を設立することはできません。まずは、一般社団法人を設立します。設立した一般社団法人が公益認定申請を実施し、内閣総理大臣や都道府県知事の行政庁の認定を受ける必要があります。
認定を受けるためには、公益目的事業を実施しなければなりません。公益目的事業は認定法第2条第4項によって23事業が定められています。「学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号*に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」と定義されています。
*別表は、Webサイト『e-GOV法令検索』で確認できます。
●公益社団法人になるメリット
公益社団法人になるためには、前述の通り『公益性』が認められなければなりません。そして、公益性を認められるのは簡単ではありません。
法人名称が似ている一般社団法人との差を知っている方も少ないかもしれませんが、実際には一般社団法人を設立すること自体は簡単です。
しかし、公益社団法人に移行するのは簡単ではありません。そのため、公益社団法人になっている法人の社会的信用は非常に高くなります。
また、非営利型一般社団法人と同様に税制の優遇措置が受けられます。
●公益社団法人の税制優遇内容
公益目的事業に対して法人税が非課税になります。収益事業(34種類)については、法人税30%*が発生します。この点は非営利型一般社団法人と同じ税制の優遇措置になります。
公益社団法人のみが受けられる税制優遇措置が『みなし寄付金制度』になります。みなし寄付金制度とは、収益事業に属する資産から、公益目的事業のために使用した金額を寄付金とみなす制度になります。
みなし寄付金制度を活用すると、同じ公益社団法人の内部でお金を収益事業から公益目的事業に動かす行為が寄附と見なされて、所得を圧縮できる制度です。
*所得金額が800万円以下の場合には、法人税率が22%になります。この点も非営利型一般社団法人と同じ税制の優遇措置になります。
●公益認定基準をクリアするためには
公益認定を受けるためには行政庁による定款などの書類審査を通過した後に、公益認定等委員会での「公益認定基準を満たしているか」の審議を通過しなければなりません。
この公益認定基準は大きく3つの基準で判断されます。
<公益認定基準の3基準>
- ①公益性ー公益に資する活動を実施しているか
- ②ガバナンスー公益目的事業を実施するために必要な能力と体制が整っているか
●公益性
公益性の判断では、以下の5つのポイントがあります。
- ・公益目的事業*を行うことが主たる目的となっているか
- ・特別の者に特別な利益を与えていないか
- ・収支相償**が見込まれるか
- ・遊休財産額***が一定額を超過しない見込みか
- ・その他、規則に反していないか
*公益目的事業の比率が50%以上であることが求められます。
**公益目的事業の収入が事業を実施する上で適正な費用を償う額の中で納まっていることが求められます。
***遊休財産額とは、具体的な使途が決まっていない財産を言います。この遊休財産額が公益目的事業費1年分以内に収まっていることが求められます。
●ガバナンス
ガバナンスが求められるのは、公益法人が安定的かつ継続的な公益目的事業が実施できるだけの『経理的基礎』と『技術的能力』になります。
公益の増進に寄与するために求められるため、親族などの関わりが深い理事や監事が理事と監事の総数に対して⅓以下でなければなりません。
財産の利用についても、私的な利用がないように公益認定が取り消しになった場合には公益目的事業の残額と解散した場合には残余財産を、それぞれを公益目的団体などに贈与するよう定款に定めていることなどが求められます。
●公益社団法人への移行手続き
公益認定を受けるためには、認定申請書類の提出を内閣総理大臣または都道府県知事に実施しなければなりません。必要となる主な申請書類などは以下になります。
<主な申請書類>
- ・名称と公益目的事業の種類と内容などが記載された申請書
- ・定款など
- ・事業計画書、収支計画書、財産目録、貸借対照表などの財務書類
- ・役員報酬などの支払基準 など
申請が通ると、公益認定委員会から認定書が交付されます。一方で、認定が認められない場合もあります。認定されない場合も、通知がされます。不認定の場合には、必要な事項を対応するなどして再申請を実施することも可能です。また、一般社団法人のままでいることもできます。
認定が決定した法人は、2週間以内に主たる事務所の所在地を管轄する登記所と3週間以内に従たる事務所の所在地を管轄する登記所へ法人の名称などを変更するための移行の登記を実施しなければなりません。
移行の登記を実施すると、その日から公益社団法人となります。
3-2 公益社団法人の残余財産の帰属
公益社団法人は前述の通り、非営利型一般社団法人と同じく税制の優遇措置を受けることができます。そのため、規制などもあります。その規制の1つが残余財産の帰属になります。
公益社団法人が残余財産を処分しなければいけなくなるタイミングは、他の法人同様で法人の解散後の清算の流れになります。債権の取り立てと債務の支払いが完了して、残余財産が確定していきます。
●公益法人における残余財産の処分
公益法人における残余財産の処分のやり方は、以下の3つの方法になります。
<公益法人の残余財産の処分方法>
- ①定款もしくは寄附行為に権利の帰属すべき対象が定められている場合(民法第72条第1項)
- ②定款もしくは寄付行為に権利の既存すべき対象が定めれていない場合で、その対象を指定する方法を定めていなかった場合(民法第72条第2項)
- ③上記2つの方法で処分できない場合(民法第72条第3項)
●定款もしくは寄附行為に権利の帰属すべき対象が定められている場合
定めがある場合には、定めに従って帰属することになります。
ただし、公益法人は公益事業を営む法人が前提になりますので、定款や寄附行為で権利の帰属すべき者として特定の個人を権利の帰属すべき者と指定すべきではないとされています。
●定款もしくは寄付行為に権利の既存すべき対象が定めれていない場合で、その対象を指定する方法を定めていなかった場合
この場合は、清算する公益法人の目的に類似する目的に対して処分できます。実際に処分する際には主務官庁の許可を得た後に、公益社団法人での社員総会の決議が必要です。
残余財産を処分するために主務官庁への許可を得る上で、公益社団法人は残余財産処分申請書(県公益法人規則第17条第1項)と以下の添付書類を都道府県知事に提出する必要があります。
<残余財産処分申請 添付書類>
- ①残余財産を帰属させる予定の者の氏名と住所と略歴が記載された書面
(帰属させる予定の者が法人などの場合、代表者の氏名と住所も併せて記載します。)
- ②残余財産の種類と総額が記載された書面
- ③民法第72条第2項の『ただし書』または『定款』、『寄附行為』に定める手続を実施したことを証明する書類
●上記2つの方法で処分できない場合
上記2つの方法で処分できない残余財産は国庫に帰属することになります。
4 まとめ
今回の記事では、法人が解散する際に発生する残余財産について解説しました。一般社団法人の残余財産を処分する方法は、株主に分配する株式会社での残余処分に比較すると、手間も多くなります。
残余財産は、株式会社と一般社団法人では扱いが異なるように、同じ一般社団法人でも普通型一般社団法人と非営利型一般社団法人でも異なってきます。どの法人も多くは解散する機会があります。その時に、残余財産について思わぬ後悔にならないように法人設立時には考慮しておく必要があります。
特に、定款を作成する際には残余財産についてどのように定めておくかでその後の処理が大きく変わってきますので、慎重な対応が必要です。