一般法人(移行法人)の公益目的財産額の確定手続きについて
一般法人への移行認可を受けた特例民法法人は、移行登記後、3ヶ月以内に公益目的財産額等の確定手続きを行う必要があります。公益目的財産額とは、直近の事業年度における決算書類から算定された財産額のことを言います。この額をゼロにするのが公益目的支出計画であり、ゼロを超える法人が当手続きの対象となるわけです。対象の移行法人は、移行の登記をした日から公益目的支出計画を実施していくことになります。
本記事では公的目的財産額の確定手続きに必要な書類と、公益目的財産額の算定方法を詳細に見ていきます。
目次
一般法人への移行認可後の登記手続き
特例民法法人は、一般法人への認可を行政庁より受けたときは、「解散」「設立」の登記をする必要があります。
「解散」と「設立」を登記
主たる事務所の所在地では、「特例民法法人の解散登記」および「名称変更後の一般法人の設立登記」を2週間以内に行います。
また、従たる事務所の所在地では「特例民法法人の解散登記」および「名称変更後の一般法人の設立登記」を3週間以内に行います。(一般社団法人および一般財団法人、公益社団法人および公益財団法人の関係法律の整備等に関する法律106条、121条。以下整備法と略す)
期限 | 対象 | 内容 | |
---|---|---|---|
主たる事務所 | 2週間以内 | 特例民法法人 | 解散登記 |
名称の変更後の一般法人 | 設立の登記 | ||
従たる事務所 | 3週間以内 | 特例民法法人 | 解散登記 |
名称の変更後の一般法人 | 設立の登記 |
(参照:公益法人インフォメーション)
登記手続き後の注意事項
登記手続き後は、すみやかに行政庁と旧主務官庁にその旨を登記事項証明書とともに提出しなければなりません(整備法106条2項、121条)。
また、移行認可を受けた日から1ヶ月(30日間)を過ぎても登記手続きの報告をしなかった場合、行政庁より移行登記をすべき旨の催告とあらためて提出期限の指定を受けることになります。
さらにこれを無視すると行政庁から移行認可を取り消しの処分を受けることになります(同109条、131条)。
移行認可前後で必要となる計算書類
特例民法法人が移行認可を受ける場合には、移行の登記の前後で事業年度を分けた計算書類を用意しなければなりません(同法2条)。
必要となるのは、①特例民法法人としての計算書類、②その前の事業年度の計算書類、③一般法人としての計算書類です。
特例民法法人としての計算書類 | 移行登記の日の前日を末日とする、特例民法法人としての最終事業年度にかかる計算書類 |
その前の事業年度の計算書類 | ①の前の事業年度にかかる計算書類 |
一般法人としての計算書類 | 移行の登記の日を開始日とする一般法人としての計算書類 |
(参照:公益法人インフォメーション)
上記3つの計算書類を社員総会(一般財団法人なら評議員会)で承認を受ける必要があります。移行登記日と社員総会等の開催日を調整することにより一度で承認を受けることも可能です。
公益目的財産額等の確定手続き
公益目的支出計画を実施する移行法人(一般法人)は、移行を登記した日から当計画を実施していかなければなりません。行政庁に移行認可を申請したときに公益目的財産額がゼロを超える法人は、移行登記日の前日を算定日として、貸借対照表および付属明細書にもとづいて公益目的財産額を計算します。(整備法施行規則33条)なお、公益目的財産額等の確定手続きは移行の登記の日から3ヶ月以内に行う必要があります。
公益目的財産額の確定に関連する書類は、①表紙となるかがみ文書、②公益目的財産額(別紙1)、③公益目的支出計画等(別紙2)、④その他添付書類です。
1 | かがみ文書 |
---|---|
2 | 公益目的財産額記載の別紙 |
3 | 公益目的支出計画等記載の別紙 |
4 | その他添付する書類 |
(参照:公益法人インフォメーション)
かがみ文書(表紙)
表紙となるかがみ文書では、提出日(和暦)、提出先の行政庁(移行認可を受けた行政庁の名称)、提出法人の名称(代表者氏名と代表者印も)を記載します。なお、電子申請の場合は、代表者印は不要となります。また、代表者氏名が外国語の場合、カタカナで記載します。
表紙には公益目的財産額の確定にかかる必要書類の提出について、「一般社団法人および一般財団法人に関する法律および公益社団法人および公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律施行規則第33条1項の規定により、添付の別紙のとおり、公益目的財産額の確定に関して必要な書類を提出いたします」などと記載します。
別紙1:公益目的財産額
別紙1 | 公益目的財産額 |
---|---|
別紙A(1) | 時価評価資産の明細等 |
別紙A(2) | 時価評価資産以外の資産の明細 |
別紙A(3) | 引当金の明細 |
別紙A(4) | 基金等の明細 |
別紙B | 時価評価資産の時価の算定根拠等 |
(参照:公益法人インフォメーション)
時価評価資産の明細では、「土地又は土地の上に存する権利」「有価証券」「その他時価と帳簿価額との差額が著しく多額な資産」について記載する項目があります。
「土地又は土地の上に存する権利」では固定資産税評価額や不動産鑑定士が鑑定した価額、このほか公正妥当と認められる税法上の評価方法により算定されたものが時価となります。また、各資産の時価の算定根拠を明確にする書類として、固定資産税評価証明書や不動産鑑定評価書等のコピーを添付する必要があります。
番号 | 時価評価資産の名称 | 帳簿価額 | 時価 | 時価の算定方法 |
---|---|---|---|---|
イ1 | 土地(◯◯市△△町1-10) | □□円 | □□円 | 固定資産税評価額を使用 |
イ1 | ◯◯権(◯◯市△△町1-10) | □□円 | □□円 | 不動産鑑定評価額を使用 |
(参照:公益法人インフォメーション)
「有価証券」に関する記載では、1.売買目的有価証券、2.満期保有目的の債券、3.子会社株式及び関連会社株式のように保有目的別に銘柄を整理して記載します。この場合も、時価の算定根拠を明らかにする資料を添付するようにします。
「その他時価と帳簿価額との差額が著しく多額な資産」に関する記載では、土地や有価証券以外の美術品などを記載します。有名な作者による書や絵画、歴史的価値のある古美術品などを評価します。この場合も、時価の算定根拠を明らかにする資料を添付するようにします。
別紙A(2)の時価評価資産以外の資産の明細では、減価償却資産(建物、車両、什器・備品など)とその他時価と帳簿価額との差額が著しく多額でないと判断した資産(美術品など)を記載します。この際、法人がいかなる基準をもとに時価と帳簿価額との差額が著しく多額であると判断したかを説明する必要があります。減価償却資産では償却方法(定額法、定率法、生産高比例法など)も記載します。
別紙A(3)の引当金の明細では、負債として計上される賞与引当金、退職給付引当金、貸倒引当金などを「1.実施事業等にかかるもの」「2.それ以外のもの」に分けて記載します。記載項目は「引当金の名称」「帳簿価額」「目的」「事業番号」「計上額の算定根拠」です。「目的」では引当金の設定目的を簡潔にまとめて説明します。「計上額の算定根拠」では具体的な算定方法ほか、その根拠となる資料を別途添付するようにします。
別紙A(4)の基金の明細における基金とは、一般社団法人に拠出された金銭その他の財産であり、一般般社団法人は拠出者に対して返還義務を負います(一般社団法人および一般財団法人に関する法律第131条。以下一般法と略す)。記載項目は「基金の名称」「帳簿価額」「定款における基金募集に関する条項」と「その他支出または保全が義務付けられているものの明細」なります。
このうち、「その他支出または保全が義務付けられているものの明細」とは、貸借対照表の純資産の部に計上されているもので、将来の支出・不慮の支出に備えて設定することが要求されており、さらに合理的な算定根拠を示すことができるものとされています。
別紙Bの時価評価資産の時価の算定根拠等では、その算定根拠を具体的かつ詳細に記載します。時価評価資産以外の資産の時価の算定根拠等では、時価評価が困難なため帳簿価額を時価とした資産について、その旨を説明します。
別紙2:公益目的支出計画等
1 | 法人の名称 | |
---|---|---|
2 | 主たる事務所の所在場所 | |
3 | 公益目的財産額 | |
4 | 実施事業等の事業番号および内容 | 公益目的事業 |
継続事業 | ||
特定寄附 | ||
5 | 公益目的支出の見込額(平均の額) | |
6 | 実施事業収入の見込額(平均の額) | |
7 | 「公益目的支出の見込額」−「実施事業収入の見込額」の額 | |
8 | 公益目的財産残額がゼロとなる予定の事業年度の末日 | |
9 | 公益目的支出計画の実施期間 | |
10 | 「公益目的財産残額がゼロとなる予定の事業年度」までに合併する予定の有無 | |
11 | 時価評価資産の明細 |
(参照:公益法人インフォメーション)
なお、公益目的財産額は、別紙1により算定した額を記載します。また、5.「公益目的支出の見込額(平均の額)」、6.「実施事業収入の見込額(平均の額)」、7.「公益目的支出の見込額」−「実施事業収入の見込額」の額」、8.「公益目的財産残額がゼロとなる予定の事業年度の末日」、9.「公益目的支出計画の実施期間」の項目では、移行の登記の日の前日を算定日とする公益目的財産額をもとに改めて計算します。
その他添付書類
上記書類のほか、移行の登記の前日である算定日の貸借対照表とその附属明細書を添付します。認可申請時点の算定日は、申請日の属する事業年度の前事業年度の末日です。なお、前事業年度の末日から3ヶ月以内に申請する場合で同事業年度の末日に係るものを作成していないときは、前々事業年度の末日となります。
移行登記日から3ヶ月以内に提出
公的目的財産額の確定手続きに必要な書類をすべて用意したら、移行の登記をした日から3ヶ月以内に行政庁に提出します。
提出先の行政庁は、二つ以上の都道府県の区域内に事務所を設置する法人、二つ以上の都道府県の区域内にて事業を行う旨を、定款または定款変更の案を定めた法人、移行認可の際における旧主務官庁が中央省庁(または地方支分部局)である法人は内閣総理大臣、これ以外の法人はその事務所が所在する都道府県知事となります。
行政庁は提出された書類に記載された公益目的財産額を細かくチェックします。もし記載内容が不十分だったり不明確だったりする場合は、追加資料の提出を求めることがあります。何も問題がなければ、書類記載の金額を公益目的財産額とする旨を法人に通知することになります。